ポケットモンスター 新たなる冒険   作:malco

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ポケモンの放送がないと寂しいな……


リコVSカエデ

 

 テーブルシティを朝一番に出発したジン達はテラスタルの基礎テストを受ける為、テーブルシティから最も近いセルクルタウンへと向かっていた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……まだつかないのか……」

「運動不足だよ。体力をもっとつけないと!」

「い、嫌だぁ……」

 

(やれやれ……)

 

 以前にも思った事ではあったが、やはりドットのスタミナ不足は深刻な課題だ。暫くは徒歩での旅が続く為、自然とスタミナは付いてくるだろうが、それとは別にスタミナ強化の特訓は必須となるだろう。同盟を結んだとは言え、エクスプローラーズ以外にもポケモンハンターや凶暴なポケモンに襲われる可能性は常にあるのだ。そんな時にスタミナ不足でやられましたでは、笑い話にもならない。

 

「あっ!」

「……見えて来たな」

 

 先頭を進んでいたジンとリコの視線の先にはオリーブ畑に囲まれた活気のある町が見えて来た。スマホロトムで調べた事前情報とも地図の場所とも一致している所から見て、あれが目的であるセルクルタウンで間違いないだろう。

 

「あれがセルクルタウン……」

 

 今回、初のジムリーダーとの試験を受けるリコは少し緊張した面持ちをしている。だが、緊張とは裏腹にどこかジムリーダーとのバトルを楽しみにしている様にも見受けられた。

 

(……大丈夫そうだな)

 

 少しだけならアドバイスしてもいいとジンは考えていたが、リコの様子からその様な物は不要だと判断した。昨夜のテラスタル及びジンのポケモン達とのテラスタルバトルにより、様々な戦術を身に着けさせた事で大きく自信をつける事に成功したのだろう。

 

「よしっ!行こう!」

「まだ遠いなぁ……」

 

 居ても立っても居られなくなり、リコはその場からセルクルタウンへと向かって走り出した。ジン達もその後に続いたのだが、最も体力のないドットなどは文句を言いながら渋々と言った様子である。

 

「凄い……虫ポケモンがたくさんいる!」

 

 走り出して数分、セルクルタウンに到着し町の中を進んで行くと、畑仕事を手伝うヘラクロスや子供と一緒に遊ぶタマンチュラなど多くの虫ポケモンの存在が確認する事ができた。

 

「この町のジムリーダーは虫タイプの使い手だから居心地がいいのかも」

「いや、逆だと思うぞ」

「逆って?」

「ここは元々、虫タイプにとって居心地のいい環境が整ってるんだ。だからこそ、虫タイプの使い手であるジムリーダーのカエデさんは……いや、トップであるオモダカさんはここにカエデさんを配置したのかもな」

 

 如何にジムリーダーとは言え、自分のエキスパートタイプのポケモンの住みやすい様に環境を変えることは簡単ではない。ならば元々、用意されていた環境に最適のジムリーダーを配置したと考える方が自然である。あの色々と計算高いオモダカならば、それ位の事は考えていても不思議ではないだろう。

 

「まぁ、それはともかくだ。どうする?このままジムに向かうか?それとも少し休憩してからにするか?」

「え?休んでいいの?」

「あぁ、ずっと歩き続けだからな。ジム戦前に休憩がてら何か軽く食べておくのもありだと思うぞ」

「さんせーい!僕、お腹すいちゃったよ~」

「あはは……それじゃ、どこかお店探そうか?」

「もう調べてある。案内するから、ついて来てくれ」

 

 ジンはスマホロトムを操作し、この町の地図を表示すると先頭に立ち、どこかウキウキしたような様子でリコ達を目的の店へと案内していく。そのまま暫く、ジンに従いついて行くと一軒の店が見えて来た。

 

「パティスリー『ムクロジ』……ここってケーキ屋さん?」

「あぁ、この町じゃ有名な店だ。本当はジム戦の後にでも来ようかと思っていたんだが、丁度よかったからな」

「ジンって結構、甘い物好きだよね」

「まぁな。それに初めて訪れた場所で名物料理を食べるのは旅の醍醐味なんだよ……アチゲータが待ちきれないみたいだし早く買ってやるか」

 

 いつの間にかジン達よりも前に出ていたアチゲータは店の前でショーケースに張り付きケーキを見ながら涎を垂らしている。このままでは店の迷惑になると考えたジン達はそれぞれケーキを注文すると店の横にある階段を上がりテラスにあるテーブルへと座っていく。

 

「お待たせいたしました。ごゆっくりどうぞ!」

 

 それから数分程、待っていると店員が全員分のケーキを持って現れた。因みにそのケーキだが、チョコレート風味のケーキの上に飴細工で金色の蜘蛛の巣を形作り更にその蜘蛛の巣にタマンチュラを模した小さなチョコレートが乗っている。繊細な造りであり、職人が丁寧に作ったというのが外観からも伝わって来た。

 

「これが……」

「ムクロジ名物の……」

「『タマンチュ・ラ・トルテ』……」

「ジム戦前の景気づけだ。さっそく食べるぞ」

 

 ジン達はそれぞれ自分の前に出ていたチョコレートケーキに手を伸ばし口へと運んでいく。すると口に入れた瞬間、ケーキは淡雪の様に舌の上で忽ちはらりとほどけ出した。程よく甘くそれでいてほろ苦く、深い味わいが口全体へと広がっていく。

 

「これは……美味いな」

「うん!すっごく美味しいっ!」

「しっかりとした甘みの奥に、わずかなビター……知らない味だ」

 

 ジンだけではなく、その場にいた全員からも『タマンチュ・ラ・トルテ』は好評の様だ。ジン達だけでなく彼らのポケモンもそれぞれ自分好みの味のケーキを美味しそうに食べている。一口食べるごとに笑顔になる彼らの様子から見てこの店のケーキの味は本物なのだろう。

 

「パゴパ~!」

「え?テラパゴス、もう全部食べちゃったの?」

 

 余程、美味しかったのか誰よりも先にテラパゴスがケーキを完食してしまった。その様子を見たリコは半分ほど食べた自分の食べかけのケーキを全てテラパゴスの皿に移してしまう。

 

「いいのか?」

「……うん。テラパゴスももっと食べたそうだしね」

「リコは優しいよな……じゃあ、俺の分、一緒に食べるか?」

 

 リコ達と違い、ゆっくりと噛みしめる様に食べていたジンの『タマンチュ・ラ・トルテ』はまだかなり残っている。ジンとリコで分け合うには十分な量だ。

 

「い、いいよ!それはジンの分なんだから」

「遠慮するなよ。ほれ、あーん」

 

 ジンは自分の使っていたフォークにケーキを一口分、刺すとそのままリコの口に目掛けてゆっくりと近づけていく。

 

「も、もう!ロイやドットもいるのに恥ずかしいよ!」

「今更、何言ってんのさ……」

「本当だよ。2人がいちゃつくのなんて僕達はもう見慣れてるっての。口移し位しないともう驚かないぞ」

「く、口移し!?」

「お前らな……流石に俺だって時と場合を考えるぞ。こんな場所でそんな事はやらないさ」

「そ、そうだよ!人前でなんて絶対にしないから!」

「状況が整ってたらやるのかよ……本当にこのバカップルは……」

 

 リコの反応から見てまだその経験はないようである。しかし、その手の行動にジンが踏み切るのは時間の問題なのだろう。

 

「お客様方、当店自慢の『タマンチュ・ラ・トルテ』、ご満足頂けましたかな?……なんてな!」

 

 リコを揶揄いつつ、『タマンチュ・ラ・トルテ』を食べ終わった頃、1人の店員がジン達に近づいてきた。褐色の肌に筋肉質な巨漢の男性、その人物はジン達も良く知る人物だ。

 

「マードック!?」

「なんでここに!?」

「皆、元気そうだな。おっ!ドット、その服よく似合ってるな!」

「う、うっさいな!選んでくれたモリーのセンスがいいんだよ……って、そんな事より何でここにいるんだよ!」

「マードック、船にいる筈じゃないの?」

「前にも言ったろ?船の修理はオリオに任せて俺はその間に資金稼ぎだ。今は、このムクロジでアルバイト中って訳さ」

 

 船の修繕費だけでなく食糧、医療品など今後、様々な必要経費がこの先ライジングボルテッカーズに襲い掛かって来る。その時に備えて少しでも資金を稼いでおくのは正しい判断と言えるだろう。

 

「いや~ムクロジの洋菓子はどれも大人気で毎日、大忙しなんだが店長がいい人でな。賄いでスタッフに特性ケーキを振る舞ってくれるんだ」

「……なんだか楽しそうだな?」

「あぁ!なんたってここの店長はパルデアでも最高のパティシエで「ちょっと!どうなってんのさ!」……なんだ?」

 

 マードックがこの店と店長の素晴らしさについて語っていると、テラスよりも下、店のある方から何やらクレームを叫んでいる声が響いてきた。

 

(この声は……まさか……)

 

 ジンの脳内で嘗て『海のディグダまん』を購入した時の事がフラッシュバックする。聞き覚えのある声、そして有名スイーツ店、これらの状況から見て下でクレームを入れている人物が誰なのかは直ぐに見当がついてしまった。

 

「行ってみよう!」

「…………」

「ジン?行くよ!」

「……あぁ、そうだな」

 

 面倒ごとに巻き込まれる予感がしたので、ここに残ろうと考えたのだが、リコ達に促され渋々、彼らと一緒に下の階へと降りて行く。下に降りるとそこには既に人だかりが出来ており、その間を抜けながら店に到着するとそこにはジンの予想通りの人物、サンゴがヒメグマを連れた店員にクレームを付けていた。

 

(ん?あの人は……)

 

 サンゴがいた事は予想の範囲内だったのだが、予想外なのはその対応をしていた人物である。昨夜、事前に簡単に情報収集をしていた為、ジンは知っていたのだが、その人物はこの『ムクロジ』の店長であり、リコの基礎テストを担当するこのセルクルタウンジムリーダーのカエデであった。

 

「鬼だるぅ。限定ケーキが食べたくて、わざわざやって来たんですけどぉ?」

「あら~困りましたね。そう言われてももう売り切れでして」

「そんな事知らねぇよ!今すぐ作ればいいだろ!こっちは客なんだぞっ!」

「あらあら困ったわ……」

「今すぐ新しいの作れよ!作れ作れ!」

 

 見ていて清々しいまでのカスタマーハラスメントである。終いには、困るカエデなどお構いなしに作れ作れと連呼する始末だ。今から一から作るとなると、かなりの時間待たされることになるのだが、恐らくそんな所までは頭が回っていないのだろう。

 

「ねぇ?もうやめなよ!」

「店員さんも困ってるよ!」

「あぁん?何だぁ?……って、なんだ。リコか……」

「あっ……サン……ドウィッチ?なんでここに?」

「そんなの決まってんじゃん。パルデアに来たんだから『タマンチュ・ラ・トルテ』を食べに……待てよ。リコがいるって事は……あはっ♡ジン君いた~」

 

 ジンの存在に気付くとサンゴは、先程までの不機嫌なクレーマーモードから一転し、目をハートにさせた。もうケーキの事など忘れてしまっている様で今は、ジンしか彼女の目には映っていないらしい。

 

「ジンく~~ん♡」

「させない!」

「ぶぎゃっ!?」

 

 サンゴはジンに向かって飛びついたが、その瞬間にリコがその間に腕を差し込む。サンゴの顔面にリコの拳が見事に命中してしまい、サンゴはその場に仰向けに倒れてしまった。

 

「~~~~~~~~~何すんだよっ!?鬼ムカつくんですけど!」

「今、ジンに抱き着こうとしたでしょう!何度も何度もさせないんだからっ!」

「やろうってのか!?上等じゃん。このサンドウィッチちゃんが相手してやんよ!」

「望む所です!」

 

 ヒートアップし傍にいたニャローテとオニゴーリも今すぐにでもバトルに移行しそうな雰囲気を醸し出す。ジンは軽くため息をつくと、2人の真横まで移動すると『からてチョップ』をそれぞれの頭に叩き下ろした。

 

「「~~~~~~~っ」」

「お前らな……研修中は研修生同士のバトルは禁止なの忘れたのか?それに昨日した同盟もある。研修中のバトルはなしだ」

「う~~……」

「で、でも~……」

 

 リコはともかくサンゴの方はまだ少し納得のいっていない様子だ。付き合いはまだ短いが、彼女の性格上、なにかしら自分にとっていい事が起こらない限り完全に納得しない事はジンも理解している。

 

「……はぁ。仕方ないな。申し訳ないんですが、取り置きしてもらっていた『タマンチュ・ラ・トルテ』を彼女に渡してもらえますか?」

「あら?よろしいですか~?」

「えっ?ちょっと待った!はぁ?まだ残ってたの!?」

「あぁ、俺の持ち帰り用に1つだけな」

 

 本来であれば夕食後にでもデザート感覚で食べるつもりだったのだが、少々、惜しくはあったがこうなった以上はトラブル回避の為に差し出すのも仕方がない。『タマンチュ・ラ・トルテ』を持ち帰り用の箱に詰めてもらい、そのままサンゴに手渡した。

 

「独占して悪かったな。『タマンチュ・ラ・トルテ』はプレゼントするから、今日はこの辺で引き上げてくれ」

「えへへ~仕方ないな~……リコ!同盟の件もあるし、何よりジン君の頼みだから今回は見逃してやんよ。サンドウィッチちゃんはこれからジン君からの初めてのプレゼントをゆっくり堪能するんだ~♡」

「~~~~っ……」

 

 サンゴの挑発も込めた様な言い方をしながら、『タマンチュ・ラ・トルテ』が入った箱を手にするとスキップでもしそうな程にご機嫌な様子でその場から離れていく。その姿をリコはとても複雑そうな顔をしながら見送った。勿論、状況を考えればサンゴに『タマンチュ・ラ・トルテ』を渡したのは、この場を収める為にはベストな選択だと理解はしている。だが、サンゴからの挑発やジンが彼女にプレゼントを贈ったという事実は、何となく気に入らない様子だ。

 

「ごめんなさいね~ご迷惑をお掛けしちゃいました」

「お気になさらず……それよりも失礼ですが、ジムリーダーのカエデさんで間違いないでしょうか?」

「……えっ!?カエデさん!?」

 

 まさか目の前にいた人物が目的の人物のカエデだとは思っていなかったのか、リコは不機嫌そうな態度から一変し驚愕した様子を見せる。

 

「その通り!この人が『ムクロジ』の店長にしてジムリーダーの……」

「カエデです。皆さん、セルクルタウンへようこそ」

「は、初めまして!リコって言います!」

「ロイです」

「……ドット」

「ジンと申します。此方のケーキを堪能させて頂きました。とても美味しかったですよ」

「うふふ。ありがとうございます。お話は伺っていますよ。リコさん、早速、バトルを始めましょうか?」

「はい!よろしくお願いします!」

「あらあら?自信満々ですね……それじゃあ、早速、バトルフィールドに移動しましょうか?」

 

 カエデに案内され、ジン達は先程までいたテラスの更に上、ちょうど『ムクロジ』の店の真上に作られたバトルフィールドへとやって来た。カエデとリコはそれぞれトレーナーゾーンに入り、ジン達はフィールドの外からこのバトルの観戦を行う。

 

「ご存じだとは思いますが、一応、ルールを確認します。バトルは1VS1、ですが勝敗よりも大切なのはテラスタルを如何に上手く扱えているのかです。結果に関わらずバトルの内容によっては、合格を与える可能性もありますので頑張ってくださいね」

「はい、よろしくお願いします!」

「それでは、リコさん。私のあま~いバトルでおもてなししますね」

 

 気合の入ったリコとは対照的にカエデはどこまでもマイペースだ。だが、そこにリコとカエデのトレーナーとして踏んできた場数の違いを感じさせる。

 

「あま~いバトル?」

「手加減してくれるのかな?」

「カエデさんを甘く見るなよ?彼女の甘さにはビターが香る」

「……まぁ、見ていればいずれ分かるだろうさ」

「……それもそうだな。所で、リコはニャローテで行くの?虫タイプで来られたら不利になるけど」

「あぁ、今回はニャローテで挑みたいんだと」

 

 無論、使用ポケモンについては昨日の段階で話し合っている。ジンとしても相性が不利なニャローテやミブリムではなくイッカネズミで挑む事を勧めたのだが、初めてのテラスタル研修は相棒のニャローテと共に受けたいと本人が決めていたのだ。

 

(虫タイプに有効な技は仕込んであるし、後は相手次第か。お手並み拝見だな……)

 

「クマちゃん。いってらっしゃい」

 

 リコを含め全員が注目する中、カエデがフィールドに出したのは、額の黄色い三日月模様が特徴のクマの様な姿をしたこぐまポケモンのヒメグマだ。

 

「ノーマルタイプ?」

「ジン……どう思う?」

「……そうだな。能力値で言えば然程、強敵じゃない。見た所、レベルもそこまで差はない様に見える。絶望的な相手じゃないが、ジムリーダーのポケモンだ。ロイ、その厄介さはお前なら分かるよな?」

「うん……リコ!油断せずにね!」

 

 正直、ロイの目にはヒメグマは然程、強敵には見えない。だが、コルサとカブ、2人のジムリーダーと戦った経験のロイからすれば、ジムリーダーを相手に油断などすればその瞬間に負けてしまうと言うことが身にしみているのだ。

 

「テラスタルとは、即ち羽化。ポケモンの持つ大きな力を引き出してくれるんです。リコさん、貴女はそのパワーを上手く使えるかしら?テラスタル研修!バトルスタート!」

「行くよニャローテ!『でんこうせっか』!」

 

 バトル開始と同時にニャローテは、先手を取るべくバトルフィールドを『でんこうせっか』で駆けだした。

 

「クマちゃん『あまえる』」

「ヒメメメ~」

「ニャニャッ!?」

 

 迫りくるニャローテに対して、ヒメグマは可愛らしいつぶらな瞳で見つめる。そんなヒメグマを見たニャローテは、急ブレーキをかけ急停止するとヒメグマの頭にコツンと叩いた。

 

「えぇっ!?」

「めっちゃ手加減……」

「うふふふ。私のヒメグマちゃんは、とっても甘え上手なんです。だけど……『きりさく』!」

「ヒンメ!」

 

 途端にあくどい顔つきに変わったヒメグマは、両腕の爪を鋭く尖らせるとニャローテに向かって斬りかかる。

 

「ニャッ!?」

「ビターな所もあったりして~」

「ニャローテ!一旦、距離を取って!」

 

 接近戦が封じられたのならば、遠距離からの攻撃に切り替えようと判断したリコは、ニャローテにヒメグマから距離を取る様に指示を出す。しかし、それはカエデにとっても予想の範囲内の行動だ。

 

「ニャローテ!『マジカルリーフ』!」

「クマちゃん。羽ばたいて~」

「ニャロ!ニャッ?」

 

 ニャローテが『マジカルリーフ』を撃ち出そうとするとヒメグマから、『あまいかおり』が伝わって来た。その香りの影響を受け、ニャローテはその場でフラフラと体を揺らし始め技が途切れてしまう。

 

「ニャローテ!?」

「『あまいかおり』、とっても幸せな気持ちになりますね。クマちゃん、『きりさく』!」

 

 ニャローテがふらついている隙を逃さず、一気に接近したヒメグマは再び、爪を尖らせ斬りかかった。ニャローテは避ける事も出来ず、切り裂かれ尻餅をついてしまう。

 

「あのヒメグマ、一筋縄じゃ行かないぞ」

「そうらしいな……」

 

 接近戦で挑めば『あまえる』で攻撃の手を緩められ、遠距離戦で挑めば『あまいかおり』で集中力を奪われる。そうして出来た隙を『きりさく』で仕留めに掛かる。

 

(これがカエデさんの甘いバトル……)

 

「中々、理にかなったバトルだな……」

 

 『あまえる』、『あまいかおり』の本来の使用方法とは違うやり方で使い、しかも的確にバトルに利用している。これには見事と賞賛する他なかった。

 

「リコ……もうテラスタルを使った方がいいんじゃ……」

「いや、まだ早い。何かしら隙を作ってからじゃないと、ただの的にされる可能性が高い」

「で、でも……」

「大丈夫だ。今のリコはこの程度では揺らがない」

 

 心配そうに呟くドットだが、ジンは自分が鍛え上げたリコがこの程度で終わる筈がない。そう確信していた。

 

「そろそろ仕上げかしら?クマちゃん『あまいかおり』で満たして~」

「ヒメメメメメッ!」

 

 ヒメグマは両手を広げて『あまりかおり』を広く展開しながら、ニャローテに近づいてくる。このままでは先程の様に『あまりかおり』で集中力を奪われてしまうだろう。

 

「だったら……ニャローテ!『マジカルリーフ』を地面に向かって放って!」

 

 ニャローテは迫りくる『あまいかおり』に対して、『マジカルリーフ』を地面に向かって放つ。『マジカルリーフ』によって生じた大量の葉を盾の様に広げると『あまいかおり』を遮る事に成功した。

 

「お見事です。でも、そんなのクマちゃんの『きりさく』で……」

「ニャローテ!『ふいうち』!」

 

 ヒメグマが爪を尖らせ、『マジカルリーフ』を切り裂こうとした瞬間、『マジカルリーフ』の盾の奥からニャローテは蕾をヨーヨーの様に振り回しヒメグマの顔面に命中させた。

 

「今だ……」

 

 ニャローテの『ふいうち』によって作り出した、このバトルで出来た初めての隙、それをリコは見逃したりはしない。テラスタルオーブを取り出し、エネルギーを一気に集中させていく。

 

「ニャローテ!満開に輝いて!」

 

 エネルギーを満タンにまで貯めると、テラスタルオーブをニャローテの頭上に投げつける。無数の結晶が現れ、ニャローテを包み込み、次の瞬間、結晶の中から体を宝石の様に輝かせ、頭上の王冠に複数の花のテラスタルジュエルを生やした姿となって現れた。

 

「ニャァァァァァッ!」

「『マジカルリーフ』いっぱい!」

 

 ニャローテは再び、『マジカルリーフ』を撃ち出した。草テラスタルになった事により、威力が大きく上昇しており、咄嗟に『きりさく』で対応しようとしたヒメグマを遥か後方へと吹き飛ばした。

 

「やった!」

「ヒメ~……」

「あらあら……」

 

 リコ達は確実にヒメグマを追い込んでいる。しかし、その代償としてリコは切り札であるテラスタルを先に使ってしまった。ここからカエデに逆転される可能性は1つだけ残っている。

 

「……どうやら、お砂糖が多すぎた様ですね。蛹を破り強く大きく育ちましょう~」

 

(来る……)

 

 カエデはテラスタルオーブを取り出すとエネルギーを集中させ、そのままヒメグマの頭上に投げつける。体が宝石の様に輝き、頭上の王冠には触角と小さな翅を生やした姿となって現れた。

 

「あっちもテラスタルした!」

「しかも、よりにもよって虫タイプのテラスタル!?リコ、まずいぞ……」

「落ち着け。確かに相性は不利だが、相手が虫タイプでも戦い様は幾らでもある」

 

 その為の準備は事前に済ませてある。後は、リコがそれを上手く扱えるのか。その一点にのみこのバトルの勝敗は掛かっているのだ。

 

「ニャローテ!『マジカルリーフ』!」

 

 リコは勝負を着けようと再び、『マジカルリーフ』を指示する。テラスタルジュエルが輝きを増し強力な大量の葉がヒメグマに襲い掛かる。

 

「ヒメ~メメメメメ!」

 

 だが、相性が悪くなった為か、先程と比べ通りが悪い。多少のダメージはある様だが、ヒメグマはその場に踏み止まり『マジカルリーフ』を耐えきってしまった。

 

「クマちゃん!『れんぞくぎり』!」

 

 爪を黄色く尖らせたヒメグマは、『マジカルリーフ』を連続で切り裂きながら前進しニャローテの目の前にまで一気に迫っていく。効果抜群の虫タイプの技、これを受ければ如何にニャローテと言えども倒される可能性は大いにある。

 

 だが、こういう状況になった時の対策はジンの指導の下、何度もこなしている。むざむざ喰らったりする様なへまをするリコ達ではない。

 

「『アクロバット』!」

 

 ヒメグマの爪がニャローテを切り裂こうとした瞬間、ギリギリのタイミングで体を屈める事で回避するとそのまま飛び上がり強く握った拳をヒメグマに叩き込み、空中へと飛ばした。ニャローテはその勢いを利用し後方へバク転をし距離を取る。

 

「ニャローテ!次で決めるよ!」

 

 このバトルに於いて奥の手として残していた『アクロバット』でダメージは十分に与えた。後は、最後の一撃を繰り出す。それで決着は着くと考えたリコは最後の勝負に打って出る。

 

「『テラバースト』!」

 

 ニャローテの頭上のテラスタルジュエルが砕け、緑色の光線が口から放たれた。先程の『マジカルリーフ』とはスピード、威力共に比べるべくもない。ダメージが蓄積したヒメグマにこの技を避ける事は出来なかった。

 

「ヒ、ヒメェェェェッ!?」

 

 緑色の光線がヒメグマに命中し、悲痛な叫び声が響き渡る。数秒後、エネルギーが底を突き、緑色の光線が消え去るとその場には、目を回して仰向けにフィールドに横たわるヒメグマの姿があった。

 

「あらあら~……負けちゃいましたね」

「や、やった!ニャローテ!」

 

 カエデが自分の敗北を宣言するとリコは自分達が勝利した事を理解し、その場を駆けだすとニャローテに抱き着いた。

 

「虫タイプに効果抜群の『アクロバット』、そして『テラバースト』まで使えるなんて驚いちゃいました。完敗です……リコさん、パートナーと息ぴったり心を込めた見事バトルでした。テラスタルも完璧なタイミングで文句のつけようがありません。よって……合格です」

 

 カエデはスマホロトムを操作し始める。するとリコのスマホロトムが動き出し、画面に基礎テスト合格のスタンプが映し出された。

 

「ありがとうございました!カエデさん、私、これからも頑張ります!」

「ふふっ……貴女とニャローテがどんな風に育つのか楽しみですね~」

 

 バトルを終え、合格を言い渡されたのを確認するとジン達はフィールドに入り、リコに近づいて行く。

 

「リコ、おめでとう!」

「カエデさん相手に大したもんだ!」

「あぁ、いいバトルだったよ。特訓の成果がちゃんと出ていたな」

「皆……ありがとう!」

「基礎テストはこれでお終いです。ティータイムにしましょう!」

「合格祝いだ。パルデア1のスイーツをたんまり食べていけ!」

「やったぁ!」

 

 その後、カエデとマードック、彼らが作ったケーキが次々にジン達のテーブルへと運ばれて来た。1つ1つが『タマンチュ・ラ・トルテ』に見劣りしない程の美しさと上品な味わいだ。

 

(上手く行ったか……)

 

 笑顔でケーキを食べるリコとニャローテを見ながらジンは、安堵のため息を漏らす。特訓の甲斐もあり、リコの基礎テストは見事に合格した。彼らの力は今や、ジムリーダーと正面から戦い合える程に成長していたのだ。

 

 次に目指す先はボウルタウン。嘗て一度、訪れた町で今度はロイが再び、コルサに挑む事になる。手加減されたとはいえ、一度は勝利した相手だ。今のロイならば戦い方次第で本当の意味で勝つ事も不可能ではない。今からでは、出来る事は少ないが、リコ達が全員でこのテラスタル研修を合格できる様に全力を尽くそう。ジンはそう誓うのだった。

 





リコ完全勝利の上での基礎テスト合格です!

サトシの頃から見ている自分としては、負けても合格と言うのは納得できなかったのでこういう形にしてみました。

☆9
しらたキングさん

☆10
仮面大佐さん

高評価ありがとうございます

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