ポケットモンスター 新たなる冒険   作:malco

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アニメ新シーズン始まりましたね。ロイはかっこよくなってるし、リコは可愛くなってる。しかもOPも良くて最高の始まりだと思いました!


ロイVSコルサ

 

「ここがボウルタウンか……」

 

 リコのテラスタル研修の基礎テストを無事に終えたジン達は、次にロイの基礎テストが行われるボウルタウンへとやって来た。ジン・リコ・ロイの3人は一度訪れた事のある町なのだが、その様子は以前とは少し違う。

 

「うん……でも、何かやってるね?」

「あぁ、祭りの準備かもな」

 

 町では人間と一緒に様々なポケモン達が作業を行っていた。見た限りでもドーブルが壁にペイントを塗り、ハッサムが布を自慢の鋏で器用に布を切り裂くなど、それぞれが己の長所を最大限に活かしている。忙しそうではあるが、彼らの表情はどこか楽しそうだ。祭りは準備の間が一番楽しい、などと言う言葉もあるが、彼らの様子を見るとそれも満更、はずれていないのかもしれない。

 

「ゆっくり、ゆっくりですよ~」

 

 町の中を散策していると、『ようこそ芸術祭へ』と書かれた看板を掲げる作業を手伝っている見覚えのある人物が確認できた。

 

「あの人は確か……」

「ハッサク先生!」

 

 ジンは直接的な面識はなかったが、その人物はオレンジアカデミーで美術を担当し、更にはパルデア四天王の1人であるハッサクだ。その傍らには、彼のポケモンと思われる深緑色をした丸っこい体をした、りくザメポケモンのフカマルの姿もあった。

 

「ん?やぁ、あなた方ですか」

「ハッサクさん、これって、お祭りか何かの準備ですか?」

「えぇ、このボウルタウンでは毎年、この時期に素晴らしい芸術の祭典が行われるのです。小生も美術教師として、こうしてお手伝いに伺ったのです」

「そうでしたか……ん?」

 

 ハッサクから芸術祭の説明を受けていると、町の中央で1人の男性が作品にかぶせられていた布を引っ張った。

 

「これは……」

「すげぇ……」

 

 布の下から現れたのは、黒いレックウザに睨みつけられているキマワリの彫刻だった。ジンもドットも芸術に詳しい方ではないが、素人の目から見ても目の前にある彫刻からは、作った者の確かな力量と情熱を感じさせる。ハッサクによるとこの作品はこの祭りのシンボルらしいのだが、そう言われて素直に納得させるだけの完成度である。

 

「ハッサクさん!僕、基礎テストを受けに来たんです。コルサさんの居場所は分かりますか?」

「おや、そうでした。それでは、小生がご案内致しましょう」

 

 そうして、ハッサクに案内されジン達はコルサの下へと向かう。辿り着いたのは、以前、ロイがコルサとバトルしたバトルコートだった。

 

「コルさん」

「ん?……おぉっ!ハッさん!」

「作品の進み具合は如何ですかな?」

「うむ。実にアヴァンギャルドな仕上がりになりそうだ……ん?貴様たちは?」

 

 2人は互いの事をあだ名で呼びながら、とてもフレンドリーに会話をしている。そんな中、コルサはジン達の存在にようやく気付いた様だ。

 

「こんにちは!」

「お久しぶりです……所で、お二人はご友人なんですか?」

「えぇ、よーく存じておりますよ」

「あぁ、ハッさんは私が作品の方向性に悩んでいる時に色々と親身になって導いてくれた人生の師と呼んでも過言ではない存在。彼のお陰で私は今の作風を確立できたのだ」

「リコ?それにジン君じゃないか!」

 

 コルサとハッサクの予想すらしていなかった意外な関係性にジン達は素直に驚く。だが、それだけで終わらず、この場に更に知り合いが来ていた様でジン達に話しかけて来る。

 

「お父さん!?」

 

 そこに現れたのは、リコの父親である絵本作家のアレックスだ。 

 

「アレックスさん?どうしてここに?」

「アレックスさんの絵本からは芸術センスが溢れ出ている。その片鱗をお借りしたく、ここに招待したのだ」

 

 アレックスは経験豊富でかなりの売り上げを出している絵本作家だ。コルサの言う様に彼の力を借りれば、この芸術祭は確実により良い物になるのだろう。

 

「研修は上手く行ってるかい?」

「えぇ、リコは先日、無事に基礎テストを合格しましたよ」

「そりゃ、良かった!」

「お父さん、紹介するね。こっちはドットとクワッス」

「は、初めまして……」

「クワッス!」

「ふふっ……初めまして。リコから話は聞いてるよ」

 

 リコから紹介を受けたドットは、アレックスに挨拶するが、人見知りが発動している。そんなドットを見たアレックスは、嘗てのリコの姿を思い出した様で微かに笑顔を浮かべている。

 

「これはこれは……アレックスさんがリコ君のお父様だったのですか」

「コルサさん!僕、バトルをする為にここに来たんです!」

 

 話が長くなりそうだと思ったのか、ロイは話しを遮り自分の要件をコルサに伝えた。早くテラスタル研修を受け、自分の力を試したくて仕方ない様だ。

 

「ふむ……テラスタル研修の件は聞いている。貴様があれから、どれだけ成長したのかは大いに興味がある」

「だったら!」

「だが、残念ながら今は時間がない。今夜のセレモニーまでに、この新作を完成させねばならんのだ。題して『あかつきのキマワリ』!」

「『あかつきのキマワリ』?」

「そう、希望を求めて立ち上がる心を表現した……なので研修はセレモニー終了後とさせてもらおう。それまでは貴様らもこの町でアートな風に存分に触れるといい」

「そんなの待てないよ!僕達、早く強くなって黒いレックウザに挑戦したいんだ!だから……」

「ロイ!気持ちは分かるが諦めろ」

「で、でも……」

「お前とのバトルの為だけに、コルサさんの予定を狂わせる訳には行かないだろ。それともセレモニーまでに作品が完成しなかった時、責任が取れるのか?」

「そ、それは……」

 

 ジンの問いかけにロイは答えられなくなってしまう。ロイとのバトルの影響で作品が完成しなければ、コルサの芸術家としての名声は地に落ちる。芸術家だけでなくジムリーダーとしてこの町に拠点を置くコルサにとってそれは致命的だ。そうなった時の責任など誰にも取れる筈がない。

 

 それに祭りの準備をする為にジム戦を休むというのはジンからすれば、かなりまともな理由だ。ホウエンにいる格闘系サーファーのジムリーダーなどは、いい波が来ているからなどという理由でジムを臨時休業する。それに比べれば、全然マシである。

 

「だったら、私と勝負しよう?」

 

 ジンの説得を受け、渋々、身を引こうとするロイに再び、聞き覚えのある人物の声が聞こえてくる。

 

「ネモ!?」

「通り掛かったら、声が聞こえたんだ。アカデミーではお預けになったけど、今日こそは!」

 

 偶然、この町を訪れていたネモは先程までのコルサとの会話を聞いていた様で、オレンジアカデミーでは生徒会長の仕事があり、行う事の出来なかったロイとのバトルを所望しているらしい。

 

「う~ん……」

 

 だが、バトルを申し込まれた当のロイはあまり乗り気ではない様だ。

 

「ロイ?」

「ネモとのバトルは個人的には大歓迎なんだけど、今はちょっと……」

「な、なんでっ!?」

「……だって、今日は朝からジンとバトルしてアチゲータ達のコンディションを万全な状態にしてるから、コルサさん以外とのバトルは避けたいんだもん」

 

 そう、ロイはこの町に着く前に近くにある岩場でジンとの模擬戦を行ったばかりなのだ。ダメージや体力に気を配り、コンディションが最高の状態になる様に調節しここに来ている。今、ここでネモとバトルすれば最悪、戦闘不能状態に陥り、今日中にコルサとバトルする事すら出来ないかもしれない。そこまでのリスクを負う事はなるべく避けたいのだ。

 

「……じゃあ、ジン!私と……」

「駄目だ」

「最後まで言ってないのに!?」

「……オモダカさんから連絡来てるだろう?」

「うぐっ……」

 

 実を言うとジンとネモには数日前にオモダカから連絡が届いていたのだ。その内容だが、ジンとネモのフルバトルを行う場を提供したいという内容だった。具体的な日時はテラスタル研修終了後、研修生達がオレンジアカデミーに集まったタイミングで小さな大会を行う予定らしく、そこのメインイベントとしてジンとネモにバトルしてもらいたいとの事だ。

 

「バトルはもう暫くお預けだな。ちゃんと相手してやるから、その時まで待っていてくれ」

「う~……分かったよ」

「……ネモ君、残念でしたな。どうでしょう?皆さん、ここは気分を変えて芸術に挑戦してみませんか?」

 

 ネモはロイとジン、両方からバトルを拒まれてしまい落ち込んでしまう。そんな彼女を見かねたハッサクは空気を変えようとジン達を今回の芸術祭に招待してくる。

 

「それはいいですね。お父さんもリコ達の作品を見て見たいな」

「この芸術祭は誰でも自由に自分の作品を出品できるのです。今年のテーマは『ポケモンと一緒』、ポケモンと共に協力し作品を作るというのがルールなのですよ」

「ポケモンと一緒に……面白そう!」

「まぁ、天気も悪くなってきたし雨宿りのついでに参加してもいいかな……」

「コルサさんとはまだバトルできないし……じゃあ、僕も参加しようかな」

「それじゃ、俺も含めて全員参加だな。ネモはどうする?」

「勿論、参加するよ。元々、その為に来たんだしね!」

 

 そう、ネモは元々、この芸術祭に参加する為にこの町に来ていたのだ。しかし、偶然、居合わせたジンやロイを見つけた為、本来の目的を忘れてしまっていたらしい。今更ではあるが、彼女もジンに負けず劣らずのバトルジャンキーの様だ。

 

「では、ネモ君。皆さんの案内を任せましたよ」

 

 

 

***

 

 

 

 ジン達はネモに案内され、この町のジムへとやって来た。ジムの中には多くの画用紙、ペンキ、木材、鉄、粘土などが揃えられており、多くの人やポケモンが作業を行っている。

 

「芸術祭中は、ポケモンジムが作業場として開放されてるんだ。材料と道具は、どれでも好きな物だけ使っていいんだよ」

「凄い……」

 

 ジムの内部を見たリコは思わずそう呟くが、それはジンも同感だ。流石は芸術の町と呼ばれるだけの事はある。作業場を見ただけで、この芸術祭に町中の人達が、どれだけ本気で挑んでいるのかが伝わってくる程だ。

 

「じゃあ、私達も自分の作品作りに戻るね」

 

 説明を終えたネモは、自分の作品を作りにその場を離れ、ジン達も一旦、ばらけると材料を見ながら、それぞれ自分の作品作りのイメージに入って行く。

 

(さて……どうするかな?)

 

 ポケモンバトルや荒事、悪だくみであれば、ジンの脳は活発に動くのだが、芸術という初めてのジャンルだ。その為か、あまりこれというアイディアが思いつかず、少々、苦戦気味な様子である。

 

「ジン。ちょっといい?」

「ん?どうした?」

「ライボルトに用があるんだけど、ちょっと出してくれない?」

「?……あぁ、いいぞ」

 

 ドットに頼まれ、ジンはモンスターボールからライボルトを出した。ドットは片膝をつき、ライボルトに視線を合わせると、早速、あるお願いをし始める。

 

「頼みがあるんだ。僕の作品に協力してくれない?」

「ライ?」

 

 ライボルトはジンの顔を見て、どうするべきか?と問いかけて来る。それに対し、ジンは首を縦に振る事で肯定の意を示した。

 

「ライボッ!」

「ありがとう。じゃあ、借りていくよ」

 

 ジンから許可が出たライボルトを連れ、ドットは再び、自分の作業場へと戻っていく。未だにアイディアすら出ていないジンと違い、ドットはどうやら順調に作業が進んでいる様だ。

 

「……これは、ちょっとまずいな」

 

 ドットがあの調子なのだ。恐らく、リコやロイも既に作業を進めているだろう。現状、自分だけが置いてけぼりされてしまっている。その事実にジンは、今更ながら危機感を覚え始めた。

 

「…………」

 

 しかし、だからといって急にアイディアが浮かぶ筈もなく時間だけが過ぎていく。頭を抱えどうするべきか必死に考えるが何も思い浮かばない様だ。煮詰まって来たジンは一旦、椅子から立ち上がると外の空気を吸おうと窓を開けに歩き始める。

 

「……雨か」

 

 中にいた為、気付かなかったが外ではいつの間にか雨が降っていたらしい。然程、強くはなく一時間もすれば終わるであろう小さな雨雲だが、まるで何時までも作業に入らない自分を嘲笑っているかの様にジンには感じられた。

 

「雨……そうか。その手があったか」

 

 だが、偶然にもその雨が、ジンに作品を生み出す為のアイディアへと繋がった。何をすべきか、それが決まったジンは早速、アイディアを纏め、必要となるポケモンをボールから出すと準備へと取り掛かった。

 

 

 

***

 

 

 

 作品作りを始めてから、数時間程が経った。既に先程まで降っていた雨は止んでおり、町中の至る所に作品が置かれ、多くの人々で賑わっている。そんな中、ジン達はネモと合流し、一緒に作り上げた作品を見て回っていた。

 

「わぁっ!」

「どう?パーモットが戦う姿を彫ってみたの」

 

 ネモは木の板を彫り、パーモットがバトルする姿を表現していた。両掌から出る電撃など細かい所まで表現されており、中々に完成度が高い。

 

「うん!凄くかっこいいよ!」

「えへへ。ねぇ、皆のも見せて!」

 

 次に訪れたのは、リコの作品が展示されている場所だ。そこには、一枚の絵がスタンドに立っている。画用紙の中心にはオリーヴァ、そしてそれを彩るかの様に様々な色合いのスタンプが押されている。

 

「うわぁっ!カラフル!」

「ニャローテ達と一緒に描いてみたの。タイトルは《満開のオリーヴァ》」

 

 六英雄のオリーヴァと言うモデルがリコの脳内にはあったのだろう。それに加え、アレックス譲りの絵の上手さも相まって、目を引き付ける作品となっていた。

 

「上手く描けたじゃないか!」

「この大胆な色使い、実にアヴァンギャルド!」

 

 リコの作品を見て、アレックスとコルサは素直に称賛の言葉を贈った。本職である2人からの誉め言葉を受け、リコとニャローテはハイタッチし喜びを分かち合っている。

 

「《ハンマー観覧車》だ」

 

 次にドットの作品を見に行くと、そこには色を塗ったハンマーをゴンドラに見立てた小さな観覧車が存在した。その周囲にはクワッスとライボルトが待機しており、ドットの指示を待っている。

 

「クワッス!『みずでっぽう』!ライボルトは『スパーク』だ!」

 

 クワッスが『みずでっぽう』を優しく放つと、観覧車は回転を始める。更にドットが作成した機材に向かってライボルトが『スパーク』で電撃を送るとゴンドラがピカピカと光を灯し始めた。

 

「ライトアップされた!」

「お見事ですね!」

 

 然程、時間があった訳でもないというのに、この短時間でここまでの作品を仕上げるのは見事と言うしかない。ドットの知識がなければここまでの物は作れなかっただろう。

 

「僕とホゲータの作品はこれ!」

 

 続いて、ロイの作品は、色を付けた粘土で作り上げた実寸大のリザードンだ。とてもリアルに作られており、作品から迫力が伝わってくる。

 

「この作品のタイトルは?」

「《強くなりたい》……憧れのリザードンみたいになりたいっていうアチゲータの憧れと僕の今の気持ちを込めたんだ。そして、最後に仕上げの『かえんほうしゃ』!」

「アチゲッ!」

 

 アチゲータは空中に調節した弱い炎を放つ。炎は空中で分散し、リザードンの目、口、両掌、尻尾の先端についているキャンドルに着き、より本物に近い形のリザードンへと姿を変えていく。

 

「なんと素晴らしい!」

「力強さが伝わって来るよ!」

「あぁ、本物のリザードンみたいだ」

 

 全員からの称賛と拍手を受け、ロイとアチゲータは大満足の様で抱きしめあって喜びを分かち合う。そして、次に最後、ジンの作品が置かれているスペースへ全員で見に来たのだが……

 

「ジン?作品はどこ?」

 

 少しだけ広く場所が開いているだけでそこには何も置かれていなかったのだ。まさか、何も作っていないのでは?そんな不安感が全員が抱き始めると、ジンは不敵に笑いながらモンスターボールを取り出す。

 

「まぁ、見ていてくれ。俺の作品は今、この場で作り出す」

 

 モンスターボールを宙に投げると、そこからミロカロスが現れ開いていたスペースへと収まった。それと同時にミロカロスは『しんぴのまもり』を発動し、自身の身体全体を緑色のオーラで覆っていく。ただでさえ美しいミロカロスはそのオーラの煌めきも相俟って、より一層に美しさを際立たせていた。

 

「続いて空中に向かって連続で『みずでっぽう』!」

 

 ミロカロスは『しんぴのまもり』を纏ったまま、空中に向かって『みずでっぽう』を放つ。空高く放たれた流水は、ミロカロスと同様に緑色のオーラを纏っており、まるでオーロラの如く煌めいた。

 

「『れいとうビーム』!」

 

 それだけでは終わらず、ミロカロスは撃ち上げた水に向かって、今度は『れいとうビーム』を放つ。『れいとうビーム』が命中し、全ての水が凍り付くとそのまま重力に従いミロカロスに向かって落下し始める。

 

「『うずしお』!」

 

 大量の氷が降り注ぐ中、ミロカロスは自らを覆う様に『うずしお』を生み出す。『みずでっぽう』と同じ様に『しんぴのまもり』の影響でこの『うずしお』もまた緑色に輝いている。

 

「決めるぞ!ミロカロス!連続で『みずでっぽう』!」

 

 ミロカロスはタイミングを見計らい『うずしお』に向かって、『みずでっぽう』を放った。『うずしお』の回転を利用し、『みずでっぽう』の軌道を曲げながら空中から落ちて来る氷全てを正確無比に狙撃していく。その正確すぎる狙撃に観客達が驚いたのも束の間、瞬く間に全ての氷は砕け散り、緑色の雪の様な形状へと変わって『うずしお』を解除したミロカロスに降り注ぎ始めた。

 

「綺麗……」

「これは……なんと幻想的な……」

 

 夕焼けの空に緑色の雪、それらがミロカロスの美しさを際立たせる。普段では決して見れない光景を見た者達は、その光景に見惚れながらも思わず、その様に呟いてしまう。今までに見た事のない不思議な幻想的な光景、リコ達だけではない。偶然、近くにいた人々も例外なくその光景に目を奪われていた。

 

「アヴァンギャルド……形を残し後の世まで語り継がれる作品だけが芸術ではない。これは、正に儚く散りゆく一瞬の美だ……あぁ……私は固定概念に囚われ過ぎていたのかもしれん。この様な芸術も存在したとは……」

 

 ジンは窓の外で降っていた雨から、この作品をイメージした。無論、即興でするには難易度が高かったのだが、ポケモンコンテストの本場であるホウエン出身である事が幸いした。嘗て旅の途中で見たコンテストでのパフォーマンスの数々がジンにヒントを与えてくれたのだ。

 

 ジンの学習能力の高さもあるが、それ以上にとあるコンテスト会場にて、チルタリスを連れたコーディネーターのパフォーマンスが印象的だった事もあり、その動きを事細かに覚えていた事も大きな要因と言えるのだろう。

 

「皆さん、これで俺達の作品は終了となります。ご観覧いただきありがとうございました」

 

 技が消え去った事で漸く全員、意識を取り戻した始めジンとミロカロスの大きな拍手を送り始める。ジンは軽く頭下げるとミロカロスを回収し、興奮冷めやらぬ観客達から離れ、落ち着いて話が出来る場所、バトルコートへと向かうのだった。

 

 

 

***

 

 

 

「凄かった……」

「うん。あんなの見た事ないよ……」

「……何時まで言ってるんだ?」

 

 バトルフィールドに到着するとコルサは何やら準備があるから待っていて欲しいと言い残し姿を消してしまった。その間、ジン達は話をしながら時間を潰しているのだが、リコ達の話題は先程のジンとミロカロスの作品についてばかりだ。

 

「だって、本当に凄かったんだもん!」

「小生も同意見ですぞ。あのようなパフォーマンスはポケモンコンテストのマスタークラスでもお目に掛かれないのでは?」

「それは流石に褒め過ぎですよ。地方のコンテストなら通用するかもしれませんが、マスタークラスでは残念ながら力不足ですね」

 

 純粋な力比べならばジンにも勝ち目はある。しかし、コンテストバトルとは力だけでは駄目だ。効率よく倒すのではなくどれだけ美しく見せるのかが重要になる。無論、やろうと思えばある程度はこなせるだろうがそれでも本職には及ばない。

 

「待たせたな!」

 

 ジン達が雑談をしていると、どこからかコルサの声が響いてきた。ジン達は声が聞こえた視線を向けると、なんとコルサはバトルコートに隣接している風車の羽に立っていたのだ。それだけに留まらず、コルサは「とう!」と掛け声を上げると、そのままジャンプしバトルコートに降り立ってくる。

 

(準備ってこれの事か……)

 

 登場の為だけに、あんな高い所まで登るとは、何とも目立ちたがり屋なジムリーダーである。目立つという意味では、ルネシティの「水のイリュージョニスト」と似ているのかもしれないと、ジンは思った。

 

「芸術の扉を開く準備は出来ているな?行くぞ!ウソッキー!」

 

 コルサはモンスターボールからウソッキーをフィールドに出した。アチゲータとの相性は悪いが、コルサのウソッキーはテラスタルする事で草タイプになる。その状況をどう変えるのかが勝負を決める鍵となるだろう。

 

「これよりテラスタル研修基礎テストを行う。バトルスタート!」

「アチゲータ!『じだんだ』!」

 

 コルサのバトルの開始の合図と共に、アチゲータは効果抜群の『じだんだ』を発動させようとその場で足踏みをし始める。だが、コルサはロイとのバトルの経験から『じだんだ』の事を知っている。効果抜群の技が来るのを黙って見ている程、彼は甘くはない。

 

「やはり、その技か!ウソッキー!『くさわけ』!」

 

 ウソッキーは軽快な足取りでその場を駆けだすと、『じだんだ』を発動する前のアチゲータに拳を叩き込んだ。効果はいま一つな上にタイプも不一致な技である為、然程のダメージはないが技の発動を止めるには十分だった。

 

「だったら!アチゲータ!『ハイパーボイス』だ!」

 

 『くさわけ』で素早さを上げたウソッキーには簡単に攻撃は当てられない。ならば、範囲の広い技で対応するしかない。アチゲータは大きく口を開くと腹の底から声を出し、とてつもなく大きな振動を発生させた。

 

「新技か……ならば『ストーンエッジ』で防げ!」

 

 それに対して、ウソッキーは地面に拳を叩きつけ複数の岩の柱をアチゲータとの間に発生させた。これを盾とし、『ハイパーボイス』を防ぎ切ろうという魂胆である。

 

 だが……

 

「なにっ!?」

 

 アチゲータの『ハイパーボイス』は全ての岩の盾を勢いよく粉砕し、そのままウソッキーまで届いてしまったのだ。ジンが最終進化に備え重点的に鍛えさせた結果、コルサさえも予想していない程の発声量と威力となっていたのだ。そんな音量の前に岩の盾だけでは不十分だった様である。

 

「う、ウソッ!?」

 

 あまりの音量に耐え切れなくなったウソッキーは思わず目を瞑り、その場で片膝を突いて座り込んでしまう。これを攻め時と考えたロイは更なる指示をアチゲータに出し始めた。

 

「今だっ!『じだんだ』!」

 

 アチゲータはその場で足踏みをし、地面を隆起させるとそこから岩の破片をウソッキー目掛けて弾き飛ばす。『ハイパーボイス』のダメージが残っていたウソッキーは避ける事は出来ず、岩の破片をもろに喰らってしまい、後方へと吹き飛ばされた。

 

「アチゲータ!『ニトロチャージ』!」

 

 アチゲータは更に追い打ちを掛けようと、『ニトロチャージ』で体に炎を纏い猛スピードでウソッキーに向かって突き進んで行く。

 

「躱せない……ならば、前進あるのみ!活路を切り開け『もろはのずつき』だ!」

 

 ダメージを負い、避ける力がないならば活路は前にしかない。そう判断し、ウソッキーは命を懸け渾身の頭突きを以て迫って来るアチゲータを迎え撃った。

 

「アチゲェッ!?」

 

 互いに渾身の力を込めた技と技のぶつかり合い。勢いはアチゲータにあったが、技の威力と相性の2点を上回ったウソッキーには敵わず、押し合いに負け、かなりのダメージを負ってしまった。

 

「ウソッ!?」

 

 しかし、ウソッキーもまた『もろはのずつき』の代償で反動ダメージを受けている。双方のダメージ量はほぼ互角だ。勝負はまだ分からない。

 

「成長したな。以前にはなかった技の数々、称賛に値するぞ」

「コルサさん……やっぱり、初めてバトルした時は手を抜いてたんだ?」

「当然だ。あの時は、貴様の全力を引き出す事にのみ念頭を置いていた。だが、今回は、勝ちに行かせてもらう!」

 

 そう言うとコルサはテラスタルオーブを取り出し、エネルギーの充填を開始し始める。

 

「行くぞ!《嘘から出た実パート2》!」

 

 テラスタルオーブは、ウソッキーの真上で輝くと無数の結晶となってその身を包み込んで行く。結晶は瞬く間に弾け飛び、そこから現れたウソッキーは体が宝石の様に輝き頭上の王冠には巨大な複数の花が咲き誇った姿となり現れた。

 

「テラスタルが来た……」

 

 しかし、これによりウソッキーは岩タイプから草タイプへと変わった。地面タイプの技は先程よりも喰らわないだろうが、その代償としてアチゲータの最も得意とする炎技は大ダメージとなってしまう。メリットもあるがそれ以上にデメリットも多く、ここで勝負を仕掛ける気であるのは明白であった。

 

「ここだアチゲータ!輝け夢の結晶!」

 

 コルサの思惑は当然、ロイも気が付いた。だからこそ、それに対応しようと考え、テラスタルオーブを取り出しエネルギーを集中させるとアチゲータの頭上に投げつける。その結果、アチゲータは体を結晶化させ、更に頭上には5本の蠟燭を立てるキャンドルスタンド状の王冠を被る姿となって現れる。

 

「スピードを上げ一気に倒す。ウソッキー!『くさわけ』!」

 

 ウソッキーは力を解放し、テラスタルジュエルの輝きを強めると軽快なステップを踏みながら猛スピードでアチゲータへと突き進む。

 

「アチゲータ!仰向けに倒れて!『カウンターシールド』!」

 

 アチゲータはロイの指示に従い、その場に仰向けになるとそのまま体を回転させ、『かえんほうしゃ』を放ち始めた。その炎はまるでアチゲータを守る盾の様になり、ウソッキーを迎え撃つ。

 

「あれって!?」

「前にジンがロイとバトルした時に使ってた技だ!」

 

 そう、あれは以前、アチゲータ達が進化する切っ掛けとなったバトルでジンが使用していた技だ。ロイは以前のバトルで『カウンターシールド』の便利さを知った時から秘かに練習を重ねていた。実戦で試したことはない為、不安もあったが、それをこの本番の勝負所で使う覚悟を決めた様だ。

 

「っ!?ウソッキー止まれ!」

 

 コルサは慌てて止まる様に指示を出すが、『くさわけ』で猛スピードで駆け出していたウソッキーは止まり切る事が出来ず、『かえんほうしゃ』の炎に包まれてしまう。

 

「ウソォッ!?」

 

 『かえんほうしゃ』を喰らったウソッキーはそのまま後方へと吹き飛ばされ、仰向けに倒れた。まだ戦闘不能にまで陥ってはいないが、既に限界ギリギリの所まで追い込まれている。

 

「アチゲータ!ここで決めるよ!」

「アチゲェッ!」

 

 この隙を逃さず、次で終わらせる。そう決めたロイとアチゲータは、残りの力を全て攻撃に回す事を決意する。アチゲータは『カウンターシールド』を解除し、立ち上がると最後の技の準備に入った。

 

「『テラバースト』!」

 

 アチゲータの頭上のテラスタルジュエルが砕け散り、口から『かえんほうしゃ』さえも超える威力の激しい炎を発射する。フィールドを包み込む程の炎を前に逃げ場はなく、ウソッキーは炎に包み込まれた。

 

「ウソッ!?ウソーッ!?」

 

 強大な炎を前、既にかなりのダメージを負っていたウソッキーには、この炎を耐えきる事は出来ず悲痛な叫び声と共にテラスタルは解除され、フィールド上に目を回しながら倒れ込んで行く。

 

「……貴様の勝ちだ」

 

 コルサは目を瞑り、少しだけ悔しそうな表情をする。しかし、直ぐに目を開きロイとアチゲータを真っすぐに見つめ、彼らの勝利を宣言した。

 

「やったぁぁぁっ!」

「アチゲェッ!」

 

 ロイとアチゲータは、フィールド上で抱きしめ合いながら勝利の喜びを分かち合っている。そんな中、コルサはウソッキーをモンスターボールに回収するとスマホロトムを取り出した。

 

「見事なバトルだった。以前、バトルした時よりも遥かに成長しているのが伝わって来たぞ」

「はいっ!でも、僕達はもっともっと強くなります。いつか黒いレックウザに勝てるようになるまで!」

「ふっ……全てを見て、感じて、想像する。そんな芸術家にこそテラスタルは相応しい。貴様に基礎テスト合格を言い渡そう!」

 

 コルサはスマホロトムを操作し始める。するとロイのスマホロトムに反応があり、画面に基礎テスト合格のスタンプが映し出された。

 

「ありがとうございます!見てアチゲータ!合格だって!」

 

 基礎テスト合格が言い渡されたのを確認するとバトルをフィールド外から見学していたジン達がロイに近づいて行く。

 

「ロイ!合格おめでとう!」

「ありがとう!」

「これで、リコに続いてロイも合格か。次は……」

「……分かってる。次は僕の番だ。うん……絶対に合格して見せる」

 

 次に基礎テストを受けるドットはまだどこか緊張している様子だ。その姿に僅かに不安に感じる所はあったが、今、この場で指摘しても解決はしない。ハッコウシティに着くまでの間に出来る限りのサポートをする様に決意すると、突如、ぐぅぅという音が響き渡った。

 

「バトルしたら、お腹減っちゃった……」

「アチゲェ~……」

 

 その音の正体はロイとアチゲータだ。彼らのマイペースな普段通りの姿を見て緊張し始めていたドットにも自然と笑顔が戻り始める。

 

「ふふっ……」

「向こうに屋台がたくさん出ているよ」

「じゃあ、皆で行こう?」

「芸術祭は幕を開けたばかりだ。心から楽しむがいい、思春期共!」

 

 こうして、ロイの基礎テストは無事終了した。その後、ジン達は屋台を回り、町中に展示されている作品などを見ながら芸術祭を楽しんで行く。

 

 次に目指すのは、ドットの基礎テストが行われるハッコウシティだ。ドットにとっては、初めての大舞台でのバトルである。不安は多いが、間違いなくドットの成長に大きく繋がるバトルとなるだろう。その為にも出来る限り、準備は万全にしバトルに挑ませる必要がある。そう考えたジンは芸術祭を終え、テントを用意するとドットと共にナンジャモの対策を練るのだった。

 





次回はハッコウシティ、ドットをメインに書く必要があるのですが、実を言うとそれ以上にモリーにジンと再会させて、慌てさせる事の方が楽しみなんですよねw

☆9
純心太さん、ekusi-doさん

高評価ありがとうございます

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