お待たせしました。
リコに続きロイも無事、基礎テストに合格し、ジン達は最後にドットの基礎テストを受ける為にハッコウシティを目指し旅を続けていた。
「♪テッテッテラスタル~♪キラキラ輝くテラスタル~」
ハッコウシティへと向かう道の途中、ご機嫌な様子でロイとアチゲータは歌を歌っている。どうやら、基礎テストに合格し肩の荷が下りた様だ。
「お気楽だな……」
「だ、大丈夫!私だって合格できたし、ドットなら合格できるって!」
「ははっ……気ぃ遣いすぎだよ」
「だが、事実だと思うぞ」
「……そうかな?」
「あぁ、お前は今日この日の為の準備をかかさなかった。もっと自信を持っていい」
ドットはデータと知識を武器にバトルをするトレーナーだ。しかも、幸いな事に相手のナンジャモは自身のチャンネルでジム戦の生配信を何度もしており、パルデアのジムリーダーの中で最もデータの収集がしやすい相手でもある。
その為、データは十分に集め終え、ジンと共に何度もシミュレーションを重ね既に何パターンもの戦法を頭に叩き込んであるのだ。ナンジャモとのバトル経験のあるジンから見ても勝算は十分にある。
「大丈夫。お前は合格できるさ」
「うん……大丈夫。ちゃんと分かってる」
「ならいい」
以前までと違いドットの表情には確かな自信と余裕が感じられる。やはり、ドットの場合は配信と同じく事前にどれだけきちんと準備をするのかが最も重要な要素の様だ。
「ぐるみんの新着動画!?」
そんな中、リコのスマホロトムから通知音が鳴り確認すると、ぐるみんの動画が表示される。
「予約配信してるんだ。テラスタル研修の前に撮りためしておいたから」
「まぁ、研修中じゃ機材もないし動画撮影するのは難しいだろうな」
「えっと……ねぇ、ドット……例えばなんだけど外でロケする配信なんてのはないのかなぁ……なんて」
「……そう言えば配信はいつも部屋の中からだったな」
ブレイブアサギ号にいた頃から、配信内容の関係でどうしても外に出る必要がある際には、ジン達を向かわせていた。今までに投稿された動画を思い出してみると、今更の様な気もするが外に出たくないという強い意志を感じさせる。
「ぐるみんはロケしないから」
「そ、そっか……」
ぐるみんの中の人であるドットの言葉を受け、1人落ち込むガチファンの構図である。リコの余りの落ち込み様を見て、流石に少し気の毒に思えたのかドットは慌てた様子でフォローに入る。
「で、でも……いつかはしてみてもいいかな?」
「本当に!?」
「いつかはね……」
少し恥ずかしそうにしながらもドットは自分の意見を伝え、リコにも笑顔が戻って来る。そんな2人の様子を見ていたジンはニヤニヤした顔つきであった。以前に比べれば、かなり向上したが未だに感情表現が下手なドットが初めての同性の友達であるリコと仲良くしている場面は、何度見ても面白い様である。
「皆!見えて来たよ!」
先頭を歩いていたロイが指さした先には、ジン達の目的地であるハッコウシティがあった。以前にも訪れた街だが、パルデアでも有数の都会であり、レストランからブティック関連まで様々な施設を確認する事が出来る。
「確か、フリード達はこの街にいるんだよね?」
「あぁ、ここのドックでブレイブアサギ号を修理しているって連絡が来ていたな……こっちも着いた事を報告しておくか」
ジンはスマホロトムを操作し、ライジングボルテッカーズアプリを起動させメンバー全員にハッコウシティに着いたというメッセージを送る。
「さてと……どうする?ジムに向かうか?」
「いや、ナンジャモ姐さんは忙しいから直ぐには難しいと思う。取り合えず、メッセージだけ送っておくよ」
「そうか……それじゃ、少し観光でもするか」
前回、この街に来た時はスピネルやナンジャモとのバトルで街をゆっくり見ていく余裕がなかった。ナンジャモやフリード達から連絡が来るまでの間、自由行動を取るのも悪くないだろう。
「賛成!僕、お腹すいたから何か食べてくるよ!」
「じゃあ、僕は配信で使えそうな物が売ってないか見て来る」
自由行動が決定するとロイはレストラン、ドットはジャンクショップを探しに行動を開始してしまい、その場にはジンとリコだけが残される。
「2人共、行っちゃったね……」
「……まぁ、偶にはいいさ。俺達もデートでもしてみるか?」
「デート!?行く!行きます!」
テラスタル研修が始まってから常にロイ達と行動していた為、こうして2人きりで行動するのは、かなり久し振りだ。デートと言う単語を聞き、その事を実感したリコは急にテンションが上がり始めたのか、緊張しながらも興奮した様子で返事をしてくる。普段のリコならば赤面する程に距離も近い。
「はははっ……それじゃあ、早速なんだが、どこか行きたい所はあるか?悪いが、あんまりこの街に詳しくないんだ」
普段であればジンは事前に次に行く街の事を調べるのだが、今回はナンジャモのデータ収集と作戦会議に時間が取られてしまい、ハッコウシティの名物まで調べる余裕がなかったのである。
「それなら、私、行ってみたいお店が幾つかあるんだけど……いいかな?」
「勿論だ。自分はノープランの癖に相手の提案に難癖をつける程、俺は狭量ではないよ」
「ありがとう!じゃあ、行こう!」
リコはジンの腕に自分の腕を絡めると、目的の店を目指して歩き始める。普段であれば、リコはこうして人前で腕を組む様な事は、恥ずかしがってしないのだが、久々のデートで浮き立つ余りに気にした様子は見られない。以前のセルクルタウンでのサンゴとのやり取りに、嫉妬していた反動でもあるのだろうと、ジンは内心で察していた。
(……参ったな)
それに対し、ジンは少々、困り気味である。勿論、腕を組んだ事にではない。今更、その程度で照れる程、ジンも初心ではない。しかし、ジンは嘗てこの街でジムリーダーであるナンジャモを相手にフルバトルをした為、この街ではちょっとした有名人なのだ。
パルデアでは珍しい『メガシンカ』、更に『エナジーチャージ』という従来では有り得ないバトルは観客達の記憶に強く根付いていた様で、すれ違う人々が時折、自分達を見る度に好奇の目を向けてきているのである。勿論、そんな視線など無視すればいいのだが、今回はジンだけでなくリコも当事者なのだ。
「……リコ?」
「ん~?」
「……いや、やっぱり何でもない」
ジンは普通に歩こうと提案しようとも考えたのだが、リコの嬉しそうな笑顔を見てその考えを改める。当のリコはジンとのデートの嬉しさが優先して周りからの視線に気づいてすらいなかった。それならば、わざわざ教えてデートをつまらない物に変えてしまうのも無粋である。
「着いたよ!」
リコに合わせるがままに辿り着いたのは、洋服、帽子、靴など様々なブティック関連の店が並列している場所だった。
「ここの洋服屋さん凄く有名だから一度、来てみたかったの」
「そうなのか?」
「うん……ジンには退屈かな?」
ジン達が来た店は女性専門の店なので、この店では、ジンが買いたい物など殆ど存在しない。確かに退屈に感じる事もあるだろう。それこそ、リコに似合うかどうかを意見する程度が精々である。
「いや、構わないよ。さっきも言っただろう?今日はリコの行きたい場所に行くって決めたんだからな」
その後、ジン達は店に入店し壁やマネキンに飾られていた服を眺める。有名な店というだけあり、様々な服が飾られている。女性ものの服には詳しくないジンから見ても中々の品揃えだ。
「あっ……」
そんな中、リコはマネキンが着ている薄黄色のワンピースを見つけると目が止まった。その僅かな変化に気づいたジンは、軽く微笑むと近くにいた店員を呼びつける。
「すみません。このワンピース、彼女に試着させてもらってもいいですか?」
「じ、ジン!?」
「はーい!少々お待ちください」
店員は見事な営業スマイルを浮かべるとジンが指定したワンピースを手に取り、試着室に向かっていく。
「も、もう!私、まだ何も言ってないのに……」
「でも、その服、気に入ったんだろう?」
「…………うん」
「だったら、着てみろよ。店員さんも待ってるぞ?」
「じゃ、じゃあ、ちょっと待っててね」
リコはそう言い残すと試着室へと向かっていく。それからその場で待つこと、数分、試着室のカーテンが開き中から薄黄色のワンピースを纏ったリコが頬を赤く染め、照れくさそうな表情をしながら現れた。
「ど、どうかな?」
「…………」
「ジン?」
「───あぁ、よく似合ってる。思わず目を奪われて言葉が出なかったよ」
「それは流石に褒めすぎだよ……ジンのバカ」
ジンとリコが甘いオーラを出していると、それを近くで見ていた店員は軽く咳払いをし自分が見ていることをアピールしてくる。
「……失礼しました。こちら、買取でお願いします」
「はい!お買い上げありがとうございます。レジの方までお越しください」
「待って!お金なら私が……」
「いいから、リコは今のうちにタグを外してもらってこい」
「で、でも……」
「偶には彼氏らしい事しないとな……俺の顔を立てると思って頼むよ」
「……ずるいよ。そんな言い方されたら、断れないじゃん」
リコの承諾を得たジンは財布から紙幣を数枚取り出し会計を済ませる。そのまま2人で店の外に出ようとするが、その瞬間、リコはある商品が目に止まり、その場で足を止める。
「リコ?」
「……ジン、ちょっと外で待っててくれる?」
「ん?どうかしたのか?欲しいものがあるなら……」
「いいから、外で待ってて。あと……外に出たらジュカインもボールから出してあげてね」
リコに背中を押され、ジンは店の外に出されてしまう。理由はよく分かっていなかったが、取り合えず、店の外のベンチに腰掛けるとリコの指示に従い、ジュカインをモンスターボールから出した。
「ジュカ?」
「……取り合えず、リコが出てくるまで一緒に待っていてくれ」
ジュカインが不思議そうな顔をで見つめてくるが、状況を理解していないのはジンも同じだ。その為、明確な説明ができないままジンとジュカインはその場でリコが店から出てくるのを待つのだった。
「お待たせ!」
「ニャン!」
暫くすると先程、購入したワンピースを着たリコ、そして左耳にピン付きの帽子を被ったニャローテがジン達の前に現れる。
「ジン、ジュカイン見て見て!お揃い!」
「ニャオ!ニャァオ!」
リコとニャローテはポーズを取りながら髪留めと帽子に着いたピンを見せつけてくる。互いに大好きなトレーナーとポケモンがお揃いのコーデをした為か、2人はとてもご機嫌な様子である。
「ニャオ?ニャアッ?」
ニャローテはジュカインに近づくと、頬を赤く染め何か言いたげな様子で見上げている。ジュカインは暫く無言で見つめ返すと少しだけ照れくさそうに視線を逸らしながら、ニャローテの頭に手を置き、ゆっくりと撫で始めた。
(ジュカインを出せって言ったのは、この為か……)
ポケモンたちの言葉は理解できないが、ジュカインとニャローテの様子を見るに両者の仲は割と悪くないのは伝わってくる。リコも同じ様に見えたらしく胸の前で両手で小さくガッツポーズを取っていた。
(……興味深いな)
少なくともジュカインはニャオハの頃は、妹の様にしか見ていなかった筈だ。しかし、ニャローテに進化してからというものの彼女が積極的という事もあってか、ジュカインの態度が以前よりも大きく変化している様にジンには見えた。
(……取り合えず、マーニャさんに恨まれずには済みそうだな)
ニャローテの母親の様な存在である猫ポケモン専門ブリーダーのマーニャ、以前、彼女からジュカインとニャローテの仲を取り持つように頼まれてたのだが、ジンが何かをせずとも両者は勝手にくっつきそうな雰囲気を発している。その事実にジンは少しだけ安堵するのだった。
『ロトロトロト!』
「……ん?」
突如、ジンのスマホロトムに着信が入った。着信ボタンをタップすると、画面にフリードの顔が映り出す。
『よぉっ!ジン、リコ!久しぶりだな』
「フリード!」
「久しぶり!」
『さっき、メッセージ見たぞ。ハッコウシティに来てるなら、ドックに来いよ。全員分の部屋もあるし、ここにいる間は泊っていけるぞ?』
ハッコウシティで宿を取るとどうしても高額になってしまう為、今夜も街の外のビーチ辺りで野宿するつもりだったので、これはとても有難い申し出である。
「それは助かるよ。この事、ロイ達は?」
『2人には既に連絡してある。2人共、こっちに来るってよ』
「そうか……じゃあ、俺達もそっちに向かうよ」
『おう!じゃあ、今、ドックまでの地図を送るからな。待ってるぞ!』
そう告げるとフリードは通話を切ってしまう。ジンはスマホロトムをポケットにしまうとリコに申し訳なさそうな視線を向けた。
「悪いな。デートはここまでみたいだ」
「ううん。気にしないで、私も皆に会いたかったから」
リコは既にジンと一緒に過ごし、更には服までプレゼントしてもらった事で既に大いに満足していた。その為、本人の言う様に暫しの間、分かれていた仲間達と再会する方を優先したいと考えた様である。
***
「どもども~生ぐるみん氏、ジン氏~お久しブリリアント物語!」
ジン達は別行動していたロイ、ドットと合流し、フリード達が寝泊まりしているドックの宿舎を訪ねた。しかし、そこにはフリード達だけはなく、この街のジムリーダーであるナンジャモまでもがソファーで寛いでいたのだ。
「ナンジャモ姐さん!こんな所でなにしてるんだよ!」
「なにしてるもなにも、このドックを紹介したのは、この僕、ナンジャモなんだけどな~」
「まっ、そう言う訳だ」
船を修理する場所だけではなく、安く寝泊まりする場所までも紹介してもらったのだ。これでは拒む事など出来そうにもない。ナンジャモの寛いでいる様子から見てもここに来るのは、これが初めてではないのだろう。
「だからって、実家じゃないんだから……」
「固い事は言いっこなしなし。顔出し配信者にとって、のんびり寛げる場所は貴重なんだよ~」
「まぁ、いいじゃないか。それよりも4人共、『タマンチュ・ラ・トルテ』でも食って、ゆっくりして行け!」
どこからともなく、『ムクロジ』から買って来た『タマンチュ・ラ・トルテ』をお盆の上に乗せたマードックが現れた。それにより、話は一旦、中断され、ジン達はそれぞれ『タマンチュ・ラ・トルテ』を食べ始める。
「……そう言えば、モリーはどうしたんだ?」
オリオは船の修理中、ランドウはいつも通り釣り、そしてフリードとマードックはここにいる。しかし、モリーだけは一向にその姿を見せていなかった。
「あぁ、モリーか。なんか、ジン達がここに向かってるって言ったら、急にポケモン達の健康診断をするって言いだしてな。裏口から慌てて出て行ったぞ」
「そうか……」
ジンは個人的にモリーに話があったのだ。全員が集まれば、研修の報告や船の状況の確認など話す事が多くなり、2人きりで話す時間はなかなか取れなくなる。そうなる前にモリーと話したいと考えたジンは半分程、残っていた『タマンチュ・ラ・トルテ』を急いで食べると、ソファーから立ち上がった。
「モリーと話して来るよ。皆は、ゆっくり食べていてくれ」
「はーい!」
「行ってらっしゃーい!」
皆、ケーキを食べるのに夢中でジンの動向にそれ程、気にしていない様子である。ジンも特に気にする事無く、裏口から外に出て数分程、道なりに歩いて行くと見覚えのある人物とポケモン達が視界に入って来た。
「モリー」
「っっっっ!?」
ジンが話しかけるとモリーは肩を大きく震わせると『しんそく』の如き早さで動き出し、ノズパスの後ろへと体を隠した。
「じ、ジン……久しぶり」
「……なんで隠れてるんだ?」
「………………別に何でもないから」
「……まぁ、いいか。少し話があるんだけど、いいかな?」
「ぽ、ポケモン達の健康診断があるから、後でね!」
モリーはそう言うと、ジンに背中を向け再び、ポケモン達の健康診断を開始し始める。話があると言っても急ぎの用という訳ではない。その為、ジンは健康診断が終わるまでの間、黙って後ろからモリーの仕事を眺める事にした。
「……やはり、いい腕をしているな」
モリーはポケモン達1体1体の特徴を正確に把握し、適切な処置を迅速にこなしている。これだけの技術は並大抵の努力では決して身に着くものではない。
「な、なに?急に?」
「別に急ではないよ。モリーのポケモンドクターとしての腕前は以前から評価していたが、久しぶりに見て改めてそう感じたんだ」
ジンはホウエンを含めこのパルデアでもポケモンドクターには何人も会って来た。だが、こうして目の前で見るとその中の誰よりもモリーの腕がいいのは間違いないと断言できる。だからこそ、ジンはモリーにあるお願いをする為に話をしに来たのだ。
「モリー、実は……パルデアリーグのトップであるオモダカさんから四天王にならないかって誘いを受けているんだ」
「四天王に!?……いや、あんたなら……あり得そう」
「話を聞いた当初は悩んだが、俺は結構、前向きにこの話を検討している」
勿論、故郷であるホウエン地方でポケモンリーグに参加したい気持ちはジンにもある。師匠と再戦したいという気持ちも残っていたが、それでもチャンピオンまで最短ルートで進めるという魅力とそこまでして自分の事を必要としてくれている事には素直に感謝をしていたのだ。
「四天王になれば、恐らくその1年後には、俺はこのパルデア地方でチャンピオンになっていると思う。そうなった暁には……俺のポケモン達の専属のドクターになって欲しい」
「はぁっ!?」
ジンの話というのは、詰まる所、モリーをスカウトする事にあった。流石にこの展開は、予想していなかったのかモリーは勢いよく振り返り、ここに来て初めてジンの顔を正面から見る事となった。
「っ!?」
しかし、それも一瞬の事だった。モリーは顔を赤く染め、慌てた様子でジンから目を逸らしてしまう。
「さ、誘ってくれるのは嬉しいけど、私は……」
モリーは嘗てはポケモンセンターに勤めていた。しかし、そこに通えるとは限らない野生のポケモン達も傷ついている事を知った為にポケモンセンターを辞めた過去を持っている。ジンの専属となれば、ポケモンセンターを辞めた意味が殆どなくなってしまう。
「今は答えは出さなくていい。四天王の件は一年間、保留にして貰ってるしな……だけど、俺は本気だ。テラスタル研修が始まってからというもの、モリーが傍に居てくれた事が、どれだけ有難い事なのかを改めて実感しているんだよ」
旅をしている最中、リコ達のトレーニングや作戦会議、食事の準備、移動時間などを含めると自分のポケモン達をトレーニングし、ケアまでする時間は殆ど存在しない。特にケアに関しては手を抜くことが出来ない為、それなりの時間を有するのだ。
「情けない話だが、研修が始まって以来、モリーがいてくれればって感じる場面が何度もあった。そして、今の技術を見て確信に変わったよ。モリー、出来る事なら、この先もずっと俺の傍にいて欲しい」
「~~~~~~っ!?」
ジンはモリーのポケモンドクターとしての腕を評価し傍にいて欲しいと言っている。そこに邪な感情などないのは分かっているのだが、言葉の1つ1つがモリーの心を大きく揺れ動かした。
「勿論、強制はしない。大事なのはモリーの意思だからな。だけど、俺は本気でモリーが欲しいと思っている。その事は分かって欲しい」
「わ、分かった!分かったからそこまでっ!本気で考えてみるから!」
これ以上、ジンから言葉を掛けられれば、なし崩し的に了承させられる。そんな気がしたのかモリーは羞恥心で顔を赤く染め上げると慌てた様子で話を終わらせた。
「そうか!あぁ、勿論それでいい。一度だけいいから本気で考えてくれ。それで駄目なら、きっぱり諦めるよ」
「…………な、なんでこんな事に」
モリーは弱弱しく呟くが、声が余りにも小さい。その為か、申し出を本気で考えてくれると言われテンションが上がっていたジンにはその声は聞こえなかった様だ。
「さてと……それじゃあ、そろそろ戻ろうか?」
「わ、私はまだ健康診断が残ってるから……」
「いや、ノズパスの今の検査で全部、終わりだろう?一緒に戻ろうか?」
「…………はい」
ドクターとしての腕はモリーの方が上だが、知識面でジンの事を騙す事は出来ない。そう諦めたモリーは激しく動く心臓を必死になだめながら、ジンの横を歩き皆の所へと戻っていくのだった。
***
ジン達が裏口から宿舎に戻ると中には既に誰も居なかった。ケーキを食べた皿などもそのままであり、奇妙に感じたジン達は、一旦、宿舎の外へと出る。
「ん?」
外に出て辺りを見回し、散策するとリコ達はすぐに見つかった。しかし、そこには、リコ達だけだなく、でんきおたまポケモンのズピカが大量におり、彼らは円を作るように広がると頭の電気を発電させる。
「ハーラ!ハラハラッ!」
そして円の中心にはナンジャモのハラバリーがおり、臍の部分にある発電器官『へそダイナモ』で、大電力を発電させた。
「……これは?」
「ジン!それにモリーもやっと来た!久しぶりだね!」
「あぁ、リコ……久しぶり」
悪い事は何もしていない筈なのに不思議と罪悪感を感じたモリーはリコから若干、目を逸らしてしまう。
「?」
「リコ、これは何の騒ぎだ?」
「あ、これはね……」
モリーの態度を不思議に思ったリコだが、特に深追いはせずに、来たばかりのジン達に今の状況を説明し始めた。
リコの説明会をざっくり纏めると、今度のドットの基礎テストはナンジャモの『ドンナモンジャTV』で生配信するらしく、今からそのリハーサルを行うとの事だ。
「それでか……」
照明を担当するズピカに撮影を担当するスマホロトムが何台も空中に浮き、ドットとナンジャモの周囲に待機している。正にこれから、そのリハーサルが始まる様だ。
「リハといっても、本番と同じようにバトルをしてもらうよ〜!でもでも、リハで僕がバトりをする訳にいかないから、対戦相手は、特別参加の助っ人を用意したからね~!そんな訳でどぞどぞ~!」
「どうも!助っ人のロイです!」
ナンジャモの代役にしてリハーサルの相手は、ロイだ。その横には相棒のアチゲータもおり、2人共、この状況を前にテンションが上がっているらしい。
「今回はリハだから、バトりは適当な所で切り上げていいけど手は抜いちゃ駄目だぞ~特に生ぐるみん氏!リハは配信しないけど、テラスタル研修の時は、全世界の皆の者の目玉が、生ぐるみん氏に注目するから気合い入れてね!」
「うっ……」
全世界、注目、といった言葉を聞いた瞬間、ドットの様子が変わっていく。予想していた事ではあるが、仲間以外の人やカメラの前での初めてのバトルに緊張を隠せない様だ。
(まずいな……)
ドットは、緊張のしすぎで、相手はおろか自分のポケモンのクワッスすらまともに見れていない。このままでは、とてもバトルを成立させる事は難しい。
「すいません。少し待ってください」
「およよ?どうしたのジン氏?」
「えぇ、ちょっとだけ、ドットにアドバイスをと思いましてね……ドット!ちょっと来てくれ!」
「う、うん……」
ジンは、ドットを呼びつけると他の者達から距離を取らせ会話を聞かれない様にする。
「……緊張してるのか?」
「そ、そんな事は……あるかも」
「ははっ!素直だな……大丈夫だ。ドット、お前は強くなった。ロイにだって決して負けてはいない」
「……そうかな?」
「あぁ、何度でも言うぞ。もっと自信を持て。いつも通りバトルすれば、勝機は十分にある」
見ず知らずの相手ならばともかく、今回の相手は性格もバトルスタイルも知り尽くしたロイだ。冷静に対処すれば、決して勝てない相手ではない。
「万が一、あっさり負ける様な事になったら、その時は半分は俺のせいにしていいぞ?」
「えぇっ!?」
「お前のコーチを引き受けたんだ。当然、責任の半分……いや、この際、全部俺の責任って事にしてもいいかもな?」
「それじゃあ、いくら何でも僕が無責任すぎるだろ!?」
「はははっ!」
「笑うなっ!?」
ジンの冗談を真に受けた様で、ドットは大声を出し始める。しかし、その姿からは先程までの緊張はいつの間にか消え去り、肩の力も抜けている様にジンには見えた。
「それ位、気楽な気持ちで挑んでいいって事だ。頑張って来い!」
もう送り出して問題ない。そう感じたジンはドットの背中に手を当て力強く押し出した。
「わっ!とっとと!」
運動音痴の為、ドットは途中でバランスを崩しそうになるが、何とか転ぶ事なく先程まで立っていた場所まで移動する。その瞬間、再びズピカやスマホロトムが動き出したが、先程までの緊張が襲ってくる事はなかった。
(不思議だ……ジンの言葉からは、力が貰える)
ジン、リコやロイと同じくドットにとって初めての友人だ。歳は近い筈なのに自分よりも大人びていて、バトルや交友関係で困っている時には、必ず助け、導いてくれる存在でもある。
(そう言えば、外に出る切欠を作ったのもジンだったな……)
インチキシルエットクイズで敗北し無理やり、ピクニックや海に連れ出された事は、今でもよく覚えている。意地悪な所に怒りも覚えたが、それが切欠となりクワッスをゲットし、リコ達とも友達になれた。
(……お兄ちゃんって、あんな感じなのかも)
ちょっと意地悪だが、お節介焼きで何があっても助けてくれる。ドットの想像する兄のイメージとジンがぴっとりと重なり合った。
(基礎テストに合格したら、褒めてくれるかな……)
よく頑張ったと言いながら、自分の頭を撫でてくれるジン。そんな光景が脳内に流れると、ドットは顔を赤くしながら、頭をぶるぶると横に振っていく。
「ぼ、僕は、なに考えてるんだ……」
「生ぐるみん氏?どしたの?」
「な、何でもないよっ!?は、早く始めよう!」
「……にしし!よく分かんないけど、さっきよりもいい表情してるね!ロイ氏、準備はいい?」
「勿論!いつでも大丈夫!」
「ではでは、バトりスタート!」
ナンジャモの合図と共にクワッスとアチゲータは同時にその場を駆け出した。
「『ニトロチャージ』!」
「『アクアジェット』!」
それぞれが炎と水を纏い、正面からぶつかり合う。その結果、炎が掻き消され、水が蒸発する音が港に響き渡る。相性はクワッスが有利だが、進化している分、アチゲータの方が威力は強くほぼ互角の状態である。
(行ける!)
ジンが、声を掛けてくれなければ、もっと一方的にやられていたかもしれない。しかし、今は、頭は冴えており、視界も良好、精神的な乱れもなく冷静さを保てている自覚があった。
「行こう!クワッス!」
「クワッ~ス!」
自分には、一緒に戦ってくれる相棒のクワッスが、そして……口に出す事はないが、ここまで導いてくれた兄の様な存在であるジンが見守ってくれている。その事実が、ドットの心をとても強くし、新しいステージへと押し上げてくれた。
それから、暫くクワッスとアチゲータはバトルを続け、程良いタイミングでナンジャモがリハーサル終了を告げる。バトル終了後のドットの表情はとても晴れやかであり、翌日の基礎テスト本番でも期待できるとその場にいた全ての者達は感じていた。
リコとのデート、モリーとの再会まではプロット通りだったのに、なんでドットまでこんな事に……まぁ、私としては書いてて楽しいのでいいんですがw