お待たせしました!言い訳させてもらうと職場で風邪が流行り、休み返上。しかも新人さんが来てその指導やらなんやら……この時期は忙しいです
リハーサルを終え、いよいよ明日、ドットは基礎テストに挑む事となる。その為、明日に備えジンとドットはナンジャモとのバトルの最終チェックを行っていた。
「では、最終確認だ。ハラバリーが使える技と今までに配信で見せて来た戦法は全て覚えたな?」
「うん。大丈夫」
「よし……一応、確認なんだが、今からでもポケモンを変えるつもりはないか?クワッスで挑むとなると、どうしても相性は不利で厳しいバトルになるぞ」
「分かってる……だけど、どうしてもナンジャモ姉さんにはクワッスで挑みたいんだ」
リコ、そしてロイもまた相性が不利なのは承知の上で相棒のポケモンで基礎テスト受けた。ドットも彼らと同じ様に相棒のクワッスで挑みたいらしい。
(まぁ、カヌチャンは実戦に出すには早いし、ルガルガンを出しても必ずしも勝てる保証はないか……)
ハラバリーは電気タイプだが、地面タイプ対策に『みずでっぽう』や『みずのはどう』なども覚えている事は既に過去のバトル映像から分かっている。タイプ不一致のサブウエポンではあるが、効果抜群の技が来るという意味ではクワッスでもルガルガンでも変わらないのだ。
「……分かった。その件については、もう何も言わない。では、次にクワッスの戦法については?」
「スピードではハラバリーよりもクワッスの方が上。だから、それを最大限に活かし、そこに事前に用意した戦略を組み込んで臨機応変にバトルを行う」
「問題なさそうだな……」
頭の中で戦略を立て、それを実践する。それこそが、ドットの得意とするバトルスタイルだ。それに加え、ジンとの特訓で土壇場でのアドリブ力もそれなりに鍛える事に成功している。
「今日はもう休んで明日に備えろ。間違っても徹夜なんてするなよ?」
「分かってるよ……ねぇ、ジン」
「ん?」
「明日の基礎テスト……近くで見守ってくれる?」
「最初からそのつもりだ。リコやロイと一緒に応援させてもらうよ」
「……ありがとう」
髪型のせいもあってか、その表情までは分からなかったが僅かに耳が赤く染まっている様子が窺える。ドットの照れくさそうな仕草を見たジンは微笑ましそうな表情をすると、そのまま軽く手を振り、部屋を出て自室へと戻って行った。
***
翌日、久々にマードックの用意した食事を食べたジン達は、基礎テストの手付きの為に、ハッコウジムへと向かおうと準備をしていた。
「本当に応援に行かなくていいのか?」
いよいよ出発しようとした、正にその時、マードックが自分も応援に行きたいと言い出したのだ。まぁ、そこまではいつもの事であり、ドットも半ば予想していた様で仕方なくではあるが、マードックの同伴も受け入れようとしていた。
だが……
「絶対!嫌だ!」
それはマードックの姿を見た事で強い拒否へと変わってしまう。マードックは応援の為に頭にハチマキを巻き、更には片手にはペンライト、反対の手にはドットとクワッスの顔が書かれたお手製の団扇を持っていた。まるでアイドルのライブに向かうかの様な格好である。
「それに、これは何?」
マードックの横ではオリオとランドウが、ドットとクワッスの絵が描かれた横断幕を持っている。ジンもポケモンリーグや様々な大会に出て応援団を見て来たが、ここまで気合が入っているのは久々に見た気がした。
「これ一晩で作ったのか?中々、頑張ったな」
「あぁ!こいつでドットを全力で応援しようと思ってな!」
「う~~~~絶対に駄目ぇぇっ!」
このままマードックに来られては、基礎テストに悪影響の可能性が高い。そう考えたジンは、気合の入り過ぎたマードックをフリード達の協力の下、なんとかその場に押しとどめ、結局、予定通り4人でハッコウジムへと向かって歩み始める。
「あんな大袈裟な格好……冗談じゃないよ」
「マードック、ドットの事が心配だったんだよ」
「それは分かるけどさ……」
「マードックのあの性格は、多分、この先も変わらないだろうな。慣れた方が楽だと思うぞ?」
「い、嫌だなぁ……」
「はははっ…………ん?」
ハッコウジムに向けて進んでいると、突然、ジンが何かに気付いた様でその場で止まり、後ろを振り向き建物の間の物陰へと視線を送った。
(……意外と暇なんだな)
僅かに感じた視線と覚えのある気配、この状況でジン達を監視している人物たちなど限られている。直ぐにその者達の正体に気付いたジンは呆れた様子で小さな溜息を吐く。
「ジン?どうしたの?」
「……いや、何でもない。今、行くよ」
今、この状況で監視されている事を伝えても出来る事はない。それどころかドットに余計なプレッシャーを与えるだけと判断したジンは、ポーカーフェイスのまま視線を戻す。そのまま少しだけ前に進んでいたリコ達に追いつこうと駆け足で向かうのだった。
「……気付かれたか?」
ジン達がその場から離れていくと、先程、ジンが見つめていた物陰から2人の人物が恐る恐る顔を出した。その人物たちは、エクスプローラーズのオニキスとサンゴの両名だ。
「多分ね。流石、ジン君って感じ?」
「全く……恐ろしい少年だ。もう少し、距離を取りながら監視を続けるぞ」
「鬼だる~ジン君がいるんだから、もっとお話出来ると思ったのに……こんな事なら、名物のチュロスでも食べに行けばよかった~」
「後にしろ。少しでもテラパゴスの情報を集める為だ」
同盟を結んだ手前、敵対行動は取ることが出来ない。その為、現在はこの様な形で監視しテラパゴスの情報を集める事しか彼らには出来ないのだ。
無論、欲しい情報が手に入るかは分からない。だが、テラパゴスの情報はなくともドットの基礎テストを見る事は出来る。敵勢力の一角であるドットの戦力を知る事は決して無駄な事ではない。そう考えたからこそ、真面目なオニキスは率先してジン達の監視を行っている様だ。
「おや?そこにいるのはオニギリさんとサンドウィッチさんですか?」
「く、クラベル校長!?」
そんな2人の背後からオレンジアカデミーの校長であるクラベルが姿を現した。
「お二人の研修はこの街ではなかった筈ですが?」
「いえっ……その……」
この研修の事を知り尽くしているクラベルの当然の疑問に、オニキスは上手い言い訳が浮かばずに答えを窮してしまう。だが、オニキス達の前方にジン達の背中を見たクラベルは合点がいったのか納得した様子を見せながら話し始めた。
「……成程。お友達の様子を見に来たのですね?」
「はぁっ?」
「分かりますよ。リコさん、ロイさん、ドットさんの成長は目覚ましい物ですからね。ジンさんの指導もあるのでしょうが、彼ら全員が強くなろうと懸命に努力している証です。そんな彼らのテストの見学に来たのでしょう?」
「え?えぇ、まぁ……」
テストの見学も目的の1つであった為、嘘ではない。主目的は別であるが、いい勘違いだと思ったオニキスはそれに合わせる事にした様だ。
「素晴らしい。勉強熱心な生徒を持てて私は嬉しいですよ。では、一緒に拝見しましょう。確かテストの時間は……おや?」
これ以上、話を続ければ厄介な事になる。そう感じた両名はクラベルが胸ポケットにしまってあるスマホロトムを取り出そうとした一瞬の隙を突き、オニキスとサンゴは密やかに脱出した。犯罪組織のエージェントという事もあってか、この手の行動には一切の迷いを感じさせないのは流石というべきである。
***
ハッコウジムに到着すると、ドットは基礎テストの手続きをする為に1人で中へと入って行った。その間、ジン達はジムの外で待機している。暫く待っていると手続きを終えたドットがジムから出て来た。
「手続き終わったよ」
「お疲れ様」
「バトルの場所は中央広場だって」
「前に俺とナンジャモさんがバトルした場所だな」
そう、その場所は以前、ハッコウシティを訪れた際にジンとナンジャモがフルバトルを行った場所だ。どうやら、あそこはナンジャモにとって最も戦い慣れたフィールドの様である。
「皆さん、ここにいましたか」
「クラベル先生?」
ドットがジムから出て来ると、その場にオレンジアカデミー校長のクラベルが現れ、ジン達に話しかけて来る。なぜ、ここにと問いかけるとクラベルは時間の許す限りテラスタル研修を受けている生徒達の様子を見て回っているのだと言う事を説明した。
「ドットさん、基礎テスト頑張ってくださいね」
「あっ……はい!」
「皆さん、大変、頑張っている様で私も誇らしいです。ところで、ここまでの旅は如何ですか?」
「はい!僕はボウルタウンで……」
ロイはここまでの旅での出来事を語り出そうとする。だが、その瞬間、ジンが肩に手を伸ばし話を強制的に止めに入った。
「クラベル先生、その話は歩きながらでいいでしょうか?もうすぐドットの基礎テストの時間なので」
研修開始前の挨拶から見て、クラベル校長の話はかなり長い事が推測できる。下手をしたらドットの基礎テストに間に合わなくなる可能性があると判断し、中央広場まで共に向かう事を提案した。
「おっと!申し訳ありません……では、話は歩きながらにしましょうか?」
「えぇ、喜んで」
その後、基礎テストが行われる中央広場までクラベルと共に向かったのだが、旅の報告は直ぐに終わり、その後は何故か話が逸れて健康の為に必要な要素についての話が始まり、ジン・リコ・ロイの3人はやや疲れ始めてしまう。
(いい人なんだが、少し話が長すぎるな……ドットを先に行かせて正解だったか)
ドットは既にトレーナーゾーンで待機している為、この場にはいない。下手に残すと集中力に影響を及ぼす可能性があると判断した為だ。本音を言えば、自分もアドバイザーという形でついて行けばよかったと思う程である。
「……その為、きちんと睡眠を取る事がポケモントレーナーにとって大事な事ですね」
「そうですね……おっ!」
「ん?おや、始まりそうですね」
語り続けるクラベルの話の要点を記憶しながらも、適当に相槌を打っているとバトルフィールドにナンジャモとハラバリー、そして大量のズピカ達が現れた。ズピカ達はフィールドを囲うと頭の電気を発光させ、それに合わせてバトルフィールドの外側に取り付けられたライトが光り始める。
「あなたの目玉をエレキネット!何もんなんじゃ?ナンジャモです!おはこんハロチャオ~!」
「「「「おはこんハロチャオ~~~!」」」」
その場にいた観客達、そして配信を見ていた多くの視聴者がお約束の挨拶のコメントを送り始めた。どうやら、バトルフィールド近くのビルのモニターを貸し切っているようで、ナンジャモの姿と共に視聴者のコメントがそこに表示されていく。
「ドンナモンジャTVの時間だぞーーー!今日は、皆さん、お待ちかねの生配信だ!」
ナンジャモが挨拶と共に、改めて生配信の事を伝えると再び、観客達から盛大な歓声が上がる。
「これから何が始まるって?それは……テラスタル研修の基礎テストだ!そして、ハッコウシティのジムリーダーであるこの僕に挑むのは……」
ナンジャモが勿体ぶるかのようにためを作ると、反対のトレーナーゾーンに向かってライトが点き始め、大勢の観客や視聴者の前にドットとクワッスの姿が露わになる。
「泣くカヌチャンも黙るドット氏だ!」
ドットの登場と同時に観客たちは再び、歓声を上げた。その歓声の大きさにドットは一瞬、怯みそうになるが、観客達の中にジン達の姿が見えると安心した様子を見せ、クワッスと共に一歩前に踏み出し始める。
(大丈夫。ジンと一緒に立てた作戦通りにバトルすればきっと勝てる……)
「待ちきれない?では、早速、基礎テストはっじめるよ~!バトりスタート!」
審判がいない為、ナンジャモの合図と共にバトルが始まった。先手必勝とばかりに、ナンジャモは相棒のハラバリーに攻撃を指示し始める。
「お先に失礼!ハラバリー!『スパーク』だ!」
「やっぱり、そう来たか!クワッス!『アクアジェット』!」
体を上下に動かし電撃を貯めるハラバリーに向かって、クワッスは体に水を纏わせると勢いよく突き進み、ハラバリーの大きなお腹の中央に突撃する。
「ハラッ!?」
電撃を貯めている無防備な状態に攻撃を受けたハラバリーは、防御を取ることが出来ず、そのまま数メートル後方へと押し飛ばされる。
(データ通りだ……)
事前に行われた作戦会議では、ドットからのアイデアに対して、ジンは的確なアドバイスを述べてそのアイデアを補強する形となり、あくまでもドットの自主性を重んじるスタンスに徹していた。そんな作戦会議が功を奏して、ジンとドットはナンジャモがハラバリーを出す場合、7割以上の確率で初手は『スパーク』が来ると予想していた。この数字はジンの指導の下、ドットが割り出したものだ。何度も計算したデータを信じてはいたが、こうして予想通りの技が来ると改めてジンの分析力の高さがよく分かる。
ドットにとっても驚愕であったのは、ジンは相手のポケモンのステータスや技構成を把握するだけで、相手の戦術のパターンや行動のタイミングを事細かく割り出した事であった。恐るべきは、ナンジャモとハラバリーの信頼関係すらも含めた上で、ポケモンがステータス以上の能力を発揮する事さえも考慮していたところである。
「あちゃ~先手を取られたか~ドット氏やるね~……でも、お陰でハラバリーに力が貯まったよ」
ハラバリーの特性『でんきにかえる』、これによりハラバリーは攻撃を受けると『じゅうでん』と同じ状態になり電気タイプの技の威力が一度だけ倍にする事が出来るのだ。確かに厄介な特性ではあるが、ここまではドットの予想の範囲内である。
「クワッス!距離を取って!」
「させないよ!『ほうでん』!」
距離を取ろうとするクワッスに向けてハラバリーは体の全身から青紫色の電撃を撃ち出した。まるで半円を描くかの様にバトルフィールド全体に広がってゆく。如何にスピードがあろうとこの技を回避する事は出来そうにない。
「クワッス!『まもる』!」
しかし、電撃が直撃しそうになった瞬間、クワッスは両腕を前に突き出し、緑色のオーラで体全体を包み込み、電撃から身を守る事に成功する。
「なんと!?」
この技は、以前までは使う事が出来なかった技だ。しかし、使えた方がバトルの幅が大きく広がるとジンから勧められ、厳しい指導の末に覚えたのである。素早さだけでなく時には足を止め、緩急を付けろとアドバイスされていたが、実際にこうして窮地を乗り越える事に成功した事から見ても、あの言葉に嘘はなかったとドットは痛感する。
「今だ!『みずでっぽう』!」
『ほうでん』で電気を出し尽くし、隙だらけになっていたハラバリーにクワッスの『みずでっぽう』が直撃する。水の勢いに負けハラバリーはその場に仰向けに倒されてしまった。
「むむむ~本当にやるねドット氏。今のでダメージ受けちゃったし……ちょっと回復させちゃおう!『なまける』!」
ハラバリーはそのままフィールド上で横たわる。するとハラバリーの体についていた傷が少しずつではあるが、治り始めていく。
「あの技って……」
「『なまける』、一定時間、行動が出来なくなり代わりに体力を回復させる技だ」
連続で攻撃を受けたハラバリーに対して、素早さと『まもる』を活用したクワッスは未だにノーダメージだ。この『なまける』で体力を回復させ、勝負を五分の状態に戻すつもりなのだろう。
「クワッス!」
ダメージを負った際、体力の回復を図り『なまける』を使用するのは想定の範囲内だ。しかし、クワッスが普段から使用する『みずでっぽう』や『アクアジェット』では残念ながら、『なまける』の回復力には叶わない。攻撃してもそれを上回る勢いで回復されるのは目に見えている。
「だったら……一気に勝負を着けるぞ!」
ドットはポケットからテラスタルオーブを取り出し、突き出すと一気にテラスタルエネルギーを集中させる。
「映えてバズって輝いちゃえ!」
エネルギーが蓄積し満タンになったテラスタルオーブをクワッスの頭上へと投げつける。クワッスの頭上にてエネルギーは解放され、足元から無数の結晶が現れクワッスを包み込んで行く。やがて結晶が砕け散るとそこには体中を結晶化させ、頭上に噴水の様な王冠を被ったクワッスの姿があった。
「ここでテラスタル!?」
「ぬぁんと!?このタイミングでテラスタルとは~嘘でしょう!?」
「回復する前に一気に仕留める!『テラバースト』!」
テラスタルジュエルが砕け散り、空から4つの大きな水弾が現れフィールドの中央で横になっているハラバリーに向けて次々に降り注ぎ始める。しかし、『なまける』を使用しその場から動く事の出来ないハラバリーにはこの技を避ける事は出来ない。
「ハラバリー!?」
「よしっ!」
ナンジャモは自分のキャラも忘れてハラバリーの身を案じる。そんなナンジャモとは対照的にドットは小さくではあるが、ガッツポーズを取り喜んでいた。
「ドット!油断するな。勝負はまだ終わっていない!」
「……えっ?」
自分の勝利を確信していたドットに向かってジンは観客席から大声を出し注意する。しかし、完全にスイッチが切れて油断しきっていたドットは、ジンの声に速やかに反応する事が出来なかった。
「ハラァ…ハラァ……ハラバリィ!」
「う、嘘だろ……」
ハラバリーはかなりのダメージを受けてはいたが、まだギリギリ戦闘可能な状態だ。クワッスがテラスタルしている間もハラバリーは『なまける』で体力を回復させていた。その時の僅かな回復が『テラバースト』に耐えるだけの体力を残したのだろう。
「勝機あり~僕も本気出しちゃうぞ!出でよ!ひらめき豆電球!ナンジャモの底力見せちゃるぞ!」
ナンジャモはテラスタルオーブを取り出し、一気にエネルギーを充填させると傷ついたハラバリーの頭上へと投げた。テラスタルオーブが開き、無数の結晶が地面からハラバリーを包み込んで行く。結晶が砕け散り、そこには電気テラスタルしたハラバリーが姿を見せる。
「やっちゃってハラバリー!『ほうでん』!」
ハラバリーはテラスタルに加え、ここまでに受けた攻撃を特性の『でんきにかえる』により、電気の威力を限界にまで上げ『ほうでん』を撃ち出した。今回の『ほうでん』は最初に繰り出した物の比ではない。
「く、クワッス!『まもる』!」
「ク、クワァ……」
「クワッス!?」
クワッスは『まもる』を発動しようとするが、上手く発動することが出来ない。覚えたてであるという事もあるが、それ以上に『テラバースト』が思っていた以上に体への負担が大きい為だ。如何に特訓を重ねようともニャローテやアチゲータと違い、進化前のクワッスではどうしても限界がある。
「ハッラァァァァァッ!」
ハラバリーの叫び声と共に電撃がクワッスに襲い掛かる。効果抜群の上に通常では考えられない威力の電で気を前にし、ドットクワッスは一瞬の内に敗北さえも覚悟した。
「あっ……えっ?」
「ありゃりゃ?」
『ほうでん』の威力が余りにも強すぎた様で中央エリアのバトルフィールド周辺で停電が発生してしまい、配信までも止まってしまったらしい。この状況にナンジャモとドットだけではなく、観客達も動揺を隠せない様だ。
(……今の内に体勢を立て直さないと)
クワッスが戦闘不能にならなかったのは完全に運が良かったからだ。周りの機材が『ほうでん』の電気を一部吸収してくれた為、ギリギリの所で持ち堪える事に成功したと言っても過言ではない。先程まではクワッスが完全に有利だったが、今の一撃で勝負は五分五分の状態にまで戻されてしまった。
(こんな状況は想定外だ。だけど……なんだかすっごい楽しい!)
ジンと行ったバトルのシミュレーションでも停電なんていう事態は想定していなかった。自分の油断によって生まれた状況であり、反省すべき点は多々ある。だが、それを加味してもこの状況がドットには堪らなく楽しかった。
(ジンが言ってたな……全てが想定通りじゃ面白くない。相手が自分の予想よりも上を行った時、どうやってそれを乗り越えるのか考える。それが最高に楽しいんだって……こういう事だったんだ)
仲間達以外との初めての1VS1の真剣バトル、あと少しで負けるかもしれないというのに高揚感は高まるばかりである。
「……次で決めよう。クワッス!」
「クワッス!」
作戦を脳内で速やかに立て終えたドットとクワッスは、最後の攻撃を行おうと準備し始める。しかし、ドット達の動きに気付いたナンジャモ達も同様に迎え撃つ準備へと入っていた。
「『アクアジェット』で突っ込め!」
「『スパーク』で迎え撃って!」
水を纏ったクワッスと電気を纏ったハラバリーの両者はほぼ同時にその場を駆けだし、突撃していく。
(……どうするつもりだ?)
観客の多くがこれが最後の攻撃だと思い、固唾を飲んで見守っているが、ジンはこの状況に僅かな違和感を覚えた。ロイであれば、最後にこの選択もあったかもしれない。しかし、今、フィールドにいるのはドットだ。最後の最後に相性の悪い相手に対して何の策もない正面からのぶつかり合いをするとは思えなかったのだ。
「今だ!」
ハラバリーと衝突しようとした瞬間、クワッスは『アクアジェット』を解除しその場に蹲る。元から小さな体は蹲った事で更に小さくなり、ハラバリーはその真上を通過してしまう。完全に攻撃にのみ意識を向けていたハラバリーはクワッスの咄嗟の行動に対応する事が出来ない。
「これで決める!クワッス!『アクアブレイク』!」
クワッスはハラバリーが通過した瞬間に立ち上がると、自身の両足にのみ水を纏わせ始めた。それに合わせるかの様にテラスタルジュエルが輝き始め、水飛沫がフィールドに広がってゆく。
「クワァァァァッ!」
クワッスは軽快なリズムのステップを踏みながら、その場を駆け出した。そのままハラバリーに接近し、体全体を回転させ勢いを付けるとハラバリーの背中に強力な蹴りを炸裂させる。
「は、ハラ~……」
『アクアブレイク』を喰らったハラバリーはバトルフィールドの壁を背に座り込み、テラスタルも解除されてしまう。それと同時に停電していた筈の周囲一帯に電気が戻り始めた。配信も再開されたのだが、その時に画面に映し出されたのは目を回し完全に戦闘不能状態になってしまったハラバリーの姿だ。
「あちゃ~……ここまでか~」
ナンジャモは両腕を上げ、降参のポーズを取る。審判の合図など必要ない、勝者がどちらなのかは誰が見ても明らかだ。
「やった……クワッス!」
「クワッス!」
勝利を喜び、ドットはクワッスに駆け寄っていく。ドットの手がクワッスに触れようとした瞬間、クワッスの体が突如、光り始め思わず手を引っ込めてしまった。
「クワッス!?」
「おりょりょ?これは~……皆の者、進化が始まったぞ~!これぞ生配信の奇跡!スクショタイムだ~!」
ドットも既に何度か見た事のある光景だ。クワッスを包み込んでいた光は徐々に形を変えていき、完全に一つの形に固定されると光は収まっていく。
「ウェル!」
クワッスはウェルカモへと進化した。特徴的だった頭髪は後頭部で纏められており、全体的にバレエダンサーを彷彿とさせる姿となっている。
「凄いよ!ウェルカモおめでとう!」
「ウェ~ル!」
仲間達が進化する中、ただ1体進化できずにいた事はドットだけでなくウェルカモも気にしていた事だ。それがこのバトルに勝利したタイミングで起こったのだ。嬉しさも倍増している様である。
「ドット氏!喜んでる所に悪いんだけど、基礎テストの結果を発表させてもらうよ~」
「は、はい!」
「でも、その前に~ドット氏、バトりどうだった?」
「それは……最高に楽しかった」
「だよね!不利になってもハプニングが起きてもドット氏はドット氏らしく、バトりを楽しんだ。それがドット氏の映えなのだー!」
「その通り!楽しむ事は、ポケモントレーナーにとって……いや、トレーナーに限らず楽しむって事は、とっても大事な事!だよね~皆の者?」
ナンジャモの呼びかけに応じる様に観客達の歓声や配信を見ていた人々からコメントが送られてくる。それを見たドットは自分でも気づかない内に自然と笑顔を浮かべていた。
「いいねが止まらないよ~幸せ~……ドット氏、見事なバトル!テラスタルも良かった!文句なしの合格じゃ~!」
再び、歓声が上がり始める。因みにこのバトルをテレビで見ていたマードックは嬉しさの余り、男泣きしていた様だ。
「ドット!」
「合格おめでとう!」
合格が告げられたのを見た瞬間、リコ達は観客席からフィールドへと入るとドットとウェルカモに近づいた。リコとロイはドットの手を片方ずつ掴み握手をしながら喜びを分かち合っている。
「ドット」
「ジン……その……」
「相手が戦闘不能になったのかも確認しない内に勝利を確信したのは減点だ。だが、まぁ……それ以外は良かったと思うぞ。特に最後の『アクアブレイク』の使い方はな」
「あっ……」
ジンはドットの頭に手を伸ばすと、ゆっくりと撫で始める。ドットは恥ずかしそうに顔を赤くし、下を向くが決して嫌がる素振りは見せなかった。
「む~……」
リコは少しだけ複雑そうな顔をするが、リコにとってもドットは大事な仲間であり友人で、どこか妹の様にも見ている存在だ。これはそんなドットが勝利したのを祝っての行為、それを咎めるのは幾ら何でも大人げないにも程がある。そう理性的に考え、我慢する。
「う~ん。これは……修羅場の予感?まぁ、いっか……そろそろ締めるよ~!皆の者、今夜の生配信はどうだったかな?僕とドット氏の見事なバトり脳内メモリに焼き付けて上書き保存だぞ~!という訳で、あなたの目玉をエレキネット!エレキトリカルストリーマー、何もんなんじゃ?ナンジャモでした~!高評価とチャンネル登録よろしく~まったね~!」
***
「ドットさん。素晴らしかったです」
未だに盛り上がっている中央エリアを抜け出し、ハッコウジムにまで戻って来たジン達。そこで校長のクラベルから話を聞かれていた。
「リコさんもロイさんも見事に基礎テストをクリアしましたね。改めておめでとうございます」
「「「ありがとうございます」」」
「では、これからアカデミーに戻ってもらいますが、帰り道に野生のポケモンと合流しレポートを書くのを忘れないでくださいね」
「そうだった……レポート書かないと」
ジムリーダーとの基礎テストというのが印象に強すぎたのか、皆、どこかでレポートの事を忘れてしまっていたらしい。
「ふふっ……必ずや得る物がありますよ。ジニア先生共々、期待していますね」
「「「「はいっ!」」」
クラベル校長の反応から見て、リコ達の様にジムリーダーとのバトルに目が行き過ぎてレポートを忘れる生徒は例年、何人かいる様だ。
「さてと……ドットさん。聞きたいことがあるのですが、宜しいですか?」
「えっ?は、はい?」
「ドットさんは配信について詳しいとお聞きしました。よければ詳しく教えてもらえますか?というのも我がアカデミーも……」
(こりゃ長くなるな……)
街中で再会した時には、ドットのバトルを口実に逃げ出すことに成功したが、今回は話を切り上げる言い訳が存在しない。その為、逃げる事も出来ず、ジン達はその後、数時間程、クラベル校長の話に付き合う事になるのだった。
これで基礎テストは終了です。次回は多分、数話分飛ばすと思います