ポケットモンスター 新たなる冒険   作:malco

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まずは、最初に一言……遅くなりました。実は昨日の内に完成してたんですが、日にちの計算を間違えていたみたいでいつもよりも1日遅れでの投稿です


リコVSチリ

 

「これで俺の受け持ち分は終わりか……すまない。俺と対戦したトレーナー達は全員、集まってくれ!」

 

 オニキス、ライに続き、ルカ、ボッコという既視感を感じさせる複数の研修生とのバトルは今、終わりを迎えた。予定よりも早く終えたジンは、たった今、バトルをした研修生達を自分の下へと呼び出す。

 

「……オニギリ君はいないのか?」

 

 不思議そうな顔をしながらもジンの下に集まる3人。しかし、そこには最初に対戦したオニキスの姿はなかった。

 

「あっ……そう言えば、バトルが終わった後、直ぐに出ていちゃってた様な?」

 

(あいつめ……まぁ、いいか。あいつに言う事は特にないし)

 

「あの……」

「ん?あぁ、すまない。実は、オモダカさんからバトル後に研修生に軽くアドバイスをして欲しいと頼まれていてね。その為に、ヒアリングに付き合って欲しい。まずは、ライ。君からだ」

「ぼ、僕?」

「そうだ。正直に答えて欲しいんだが、君は自分のポケモンをどんな風に強くしたい?」

「えーっと……」

「難しく考えなくていい。なんとなく、こうなりたい。って思った事があるだろう?それを正直に言って欲しいんだ」

 

 ライは暫く、無言になるが、自分の足元にいたパートナーのダルマッカを見ると笑顔を取り戻し、自分とそしてダルマッカの理想を語り始める。

 

「ダルマッカをヒヒダルマに進化させたい!あと、ダルマッカは接近戦でのバトルが好きみたいだから、それを極めたい!」

「マッカ!」

「そうか……君達の気持ちはよく分かった。そう言うのが聞きたかったんだよ」

 

 ジンは満足そうな顔で頷くと、次にルカとボッコに視線を向ける。その視線が何を意味しているのかを直ぐに2人は理解したが、恥ずかしそうな顔をしながらそっと視線を反らしてしまう。

 

「わ、私達も今の言うの?」

「あはは……ちょっと照れるね」

 

 ライと比べ、少々、内向的な部分もある2人は素直に自分の夢や目標を口に出す事に抵抗があるらしい。その為か、中々、素直に思いを吐き出す事が出来ない様だ。

 

「2人共、恥ずかしがる事はない。目標を持ち、それを成し遂げる為には、正しいトレーニングを行う。これは、君たちが次の段階に行く上で必要なプロセスだ。」

 

 ジンはポケットから1つのモンスターボールを出して宙へと投げる。そこから現れたのは、今までのバトルで彼らの対戦相手を務めていたボスゴドラだ。

 

「少し具体例を出して説明しよう。ボスゴドラは攻撃、そして防御に関してはかなり優れたポケモンだが、その反面、『かえんほうしゃ』や『みずでっぽう』の類の特攻や素早さには難がある」

 

 ポケモンには、それぞれ種族値という物があり、得意不得意がはっきり分かれている。その為、どんなポケモンでも長所と短所が存在するのだ。

 

「そんなボスゴドラの欠点をなくす為に、素早さと特攻を上げたいと考えたとする。その為には、どうしたらいいと思う?」

「えっと……体重を軽くするとか?」

「攻撃技よりも特攻技に力を入れてトレーニングするとかかな?」

「そう考えるのが自然だな。確かにそうすれば、今よりかは、どちらの能力も向上するだろう」

 

 しかし、それは諸刃の剣でしかない。

 

「だが、体重を軽くすればボスゴドラの最大の長所である防御を下げる可能性が高いし、特攻のトレーニングに力を入れすぎては接近戦のトレーニングが疎かになる。そうなった結果、全てのステータスが中途半端なポケモンに仕上がってしまう……はっきり言わせてもらえば、選択ミスだ。器用貧乏どころじゃない」

 

 実際に自分のポケモンの特徴をよく理解しようとせず、自分好みに鍛え上げた挙げ句、バトルに勝てなくなりポケモンを責め立てるトレーナーは今までに何度も見て来た。しかし、それはポケモンの責任ではなく、はっきりと言えば、それはトレーナーの罪と呼んでも過言ではない。言うなれば、ポケモンではなくトレーナーのレベルの低さが原因だ。

 

「そういう意味だと、ライ。君は合格だ。ダルマッカの進化形のヒヒダルマは攻撃値が優れたポケモンで、接近戦を極めたいという君の望みにも合致している」

「ほ、本当に?」

「あぁ、さっきのバトルと担当のジムリーダーから貰った基礎テストの映像でデータは十分に取れた。後は、俺が個別のカリキュラムを作成するから、気が向いたらその通りにトレーニングをしてくれ。するもしないも君達の自由だが、今よりも強くなれる事を約束するよ」

「はい!よろしくお願いします!」

 

 ライは、この僅かな時間でジンが信頼に値すると感じた様だ。いつの間にか敬語となり、尊敬に近い眼差しになっている。そして、それは残りの2人も例外ではない。

 

「あ、あの!私も聞いてください!」

「はいはい!次、私!」

「落ち着けよ、大丈夫だ。2人の意見もしっかりと聞くから」

 

 続いて、ボッコ、ルカの順でヒアリングを終えたジンは脳内に彼らの目標を記憶し、ざっとではあるが個別のカリキュラムを作成した。大まかながらも複数通りの育成方針を即座に導き出し、それらを3人に提示する形で、育成方針を選択形式にしたのである。尤も、育成方針を選んだ後に、更なるブラッシュアップをする為にも、もう少し時間を必要とするが。

 

「詳細なカリキュラムは今夜中に完成させる。明日の朝、アカデミーの前に集まってくれ」

「「「はい!先生!」」」

 

 何時の間にか彼らの中でジンは先生と同じ待遇になっていたらしい。ため口から敬語へと変わるその変わり身の早さにジンは思わず、笑い出してしまった。

 

「はははっ……ライバル達のバトルもちゃんと見ておけよ。何か参考になるかもしれないからな」

「「「は~い!」」」

 

 その言葉を最後に3人は、それぞれ観客席へと戻っていく。ジンもまた仲間たちが、四天王相手にどの様なバトルをしたのか興味を持ち、隣接されたバトルフィールドへと視線を送った。

 

(ロイ達のバトルはもう終わったか……)

 

 序盤にバトルが行われたロイ・ドット・アンは既にバトルフィールドにはおらず、観客席に戻っている。今、バトルフィールドにいるのは、交流戦最終バトルを行うリコとカエデ、そしてその対戦相手のチリだけの様だ。

 

「ふむ……」

 

 リコはニャローテ、カエデはバッタポケモンのエクスレッグ、それに対しチリは、とげうおポケモンのドオーと、もぐらポケモンのダグトリオをフィールドに出している。チリは地面タイプの使い手で一見、リコが有利に見えるがドオーは毒タイプを持っており、相性は五分五分と言えるだろう。

 

「……始まるか」

 

 距離があった為、分からなかったが、何やら軽い談笑を終えた彼女達はそれぞれトレーナーゾーンにて準備を終えた様だ。それを確認した審判のキハダがバトルスタートの合図を出した。

 

「いくで!ドオー『ヘドロウェーブ』、ダグトリオ『あなをほる』!」

 

 ドオーは前足を大きく上げ、フィールドを踏みつけヘドロの波を発生させる。そして、ダグトリオはその場で地面を掘り進み、地下へと潜り込んだ。『ヘドロウェーブ』は強力な反面、味方を巻き込んでしまう技でもある。それを回避し次の攻撃へと繋げる事を企んでの行動だ。

 

「ニャッ!」

 

 エクスレッグは後方にジャンプし、ニャローテは大きくジャンプしヘドロの波を回避する。しかし、ニャローテが飛んだ落下地点には既に『あなをほる』で先回りしたダグトリオがおり、迎え撃つ準備に入っていた。

 

「ニャローテ!蔦でダグトリオを捕まえて!」

 

 しかし、リコは冷静に判断を下す。ニャローテは胸の蕾に蔦を付け投げ飛ばし、ダグトリオの1体に巻き付ける。ダグトリオは必死に藻掻いて蔦から抜け出したが、既に攻撃が出来る状態ではなく、ニャローテへの追撃は諦める他なかった。

 

「『アクロバット』!」

 

 ニャローテは空中から軽やかな動きでフィールドに着地すると一気にダグトリオに接近し、強烈な蹴りを叩き込む。

 

「やるやん!でも、まだまだここからや!『いわなだれ』!」

「させません。エクスレッグちゃん『じごくづき』!」

 

 空中に大量に発生した岩がニャローテに降り注ごうとするが、その瞬間、エスクレッグがその場から飛び上がり、『じごくづき』を叩き込み全ての岩は粉々になり散っていく。

 

「そう易々とはいかへんか」

「ふぅ……助かりました。カエデさん」

「ふふっ……お手伝いできるのがタッグバトルの良い所です。ドオーちゃんだけに気を取られては駄目ですよ。周りをよく見てくださいね?」

「は、はい!」

 

 リコはカエデのアドバイスに従い、ニャローテとエクスレッグ、そしてドオーとダグトリオに視線を向け、続いてバトルフィールド全体を見渡して行く。

 

「自分、めっちゃ素直やな」

 

 あまりにも素直にカエデの言う通りにするリコを見てチリは思わずコガネの血が騒ぎ、ツッコミを入れてしまう。勿論、悪い事ではないのだが、大人に反発したがる年頃の割に素直すぎると感じたのだろう。

 

「そこがリコさんの良い所……なんだけど」

「成程な。自分、あれもこれも余計なことばっか考えて頭ん中ぐっちゃぐちゃなんと違うか?」

「それは……」

 

 リコはそれを完全には否定できなかった。考えすぎるのは自分の長所でもあるが、同時に短所でもある。ジンの指導もあり、バトル中は出来るだけ雑念を捨ててはいるがそれも完璧とは言い難いのが現状だ。現に今も基礎テストの成果を出す事や自分のバトルを見ているジンに成長を見て欲しいなどの思いが、心のどこかにあるのは確かなのだから。

 

「バトル中は余計な事は考えなくてええ。トレーナーもポケモンも勝つ為に全力を出してぶつかる。それがポケモンバトルや!」

「んっ……」

「ははっ!とっくに分かってるって顔やなぁ?バトルの目的が勝つって事なら、うちらは何の為にバトルするんやと思う?」

「か、勝つ為です!」

「やっぱり素直やなぁ……そうなんやけど、そうやない」

「え、えっと……」

「その答えはきっと、バトルの先に見えてくると思いますよ」

 

 チリの言葉の意味の意味が分からず、リコは混乱していた。しかし、そこにカエデがフォローに入る。

 

「まぁ、ぐだぐだ色々と言うたけど、今は勝つ事だけを考えて、かかってこいっちゅう事や」

「今はチリさんのお言葉に甘えて本気で行きましょう」

「ニャァッ!」

 

 チリ、カエデからの言葉、そして相棒のニャローテのやる気に溢れる姿を見て、色々と考えすぎていたリコは頭の中を一旦、リセットさせた。その時のリコの表情は先程よりも明るく、生き生きとしている様に見える。

 

「よしっ!今は勝つ事だけを考える!」

「ええ顔や。ほな……続けようか!ドオー『マッドショット』!ダグトリオ『いわなだれ』!」

 

 ドオーは口から泥の弾をニャローテへと発射する。これだけであれば、躱すのは然程、難しくはない。しかし、避けようとした先で今度はダグトリオが空中に放った大量の岩が落下しニャローテの行く手を塞いでくる。

 

「ニャッ!?」

 

 ニャローテは岩の下敷きにされない様に動きを止めざるを得ない。しかし、そうすると今度は再び、泥の弾が襲い掛かってる。逃げ場のなくなったニャローテは蔦を体の前で回転させ身を守る盾にした。それでも完全には防ぎ切れず、徐々にダメージを受け始めてしまう。

 

「そこや!もう一度『いわなだれ』!」

 

 動きを止め、『マッドショット』を防ぎ始めたニャローテの頭上にダグトリオは『いわなだれ』で大量の岩を降らせ始める。動きを封じられたニャローテは避ける事が出来ずにこれをもろに喰らってしまった。

 

「凄い手数、このままじゃ……」

「私達が隙を作ります。エクスレッグちゃん『とびかかる』!」

「スレーッグ!」

 

 このまま攻撃を受け続ければ、遠からずニャローテは倒される。そう判断したカエデはリコ達のサポートの為に行動を開始した。エクスレッグはその場から、大きく飛び上がり、ドオー・ダグトリオの頭上を取ろうとする。

 

「撃ち落としたれ!」

 

 頭上からの攻撃を無視する事は出来なかったのか、ドオーとダグトリオは狙いをニャローテからエクスレッグへと変更した。状況を考えればその判断は正しいが、それは同時にニャローテを一時的とはいえ自由にする事を意味する。

 

「リコさん。今です!」

「はい!『でんこうせっか』!」

 

 攻撃の手が緩んだのを確認するとニャローテはその場から一気に駆け出し、ドオーへと接近していく。確かに接近戦に持ち込みさえすれば、先程の様な遠距離からの2体同時攻撃は喰らわず、動きを封じられる事もないだろう。

 

 しかし……

 

(単調すぎるぞ……)

 

 あまりにも攻撃が素直すぎる。漸く反撃のチャンスが巡ってきた事で焦りが出ている事がよく分かってしまう。そんなリコの攻撃はジンだけでなく当然、チリにも読めていた。

 

「そう来ると思ってたで!ドオー『どくづき』!」

 

 ニャローテが接近していくと、ドオーは背中にあった4つの白い模様から紫色の毒を纏った突起物を出現させた。猛スピードで接近していたニャローテには先程の様に蔦を伸ばし回避する事も出来そうにない。このまま攻撃を受けるしかないと誰もが思った時、パートナーのエクスレッグが動き始めた。

 

「エクスレッグちゃん!」

 

 エクスレッグは背中に畳んでいた2本の後脚を地面に下ろし、ニャローテに向かって飛び出した。計4本の脚で行ったジャンプは相当な飛距離とスピードであり、見事にニャローテとドオーの間に割り込む事に成功する。

 

「スレッグ……」

 

 エクスレッグはニャローテに代わって『どくづき』を受け、その衝撃により2体は後方へと飛ばされていく。その成果もあってか、ニャローテにダメージはないがエクスレッグは毒状態へとなってしまった。

 

(妙だな。今のは躱せた筈なのに……)

 

 今の一連の攻防を見てジンは疑問に感じていた。エクスレッグの献身は称賛に値するが、あの飛距離とスピードならば、ドオーに接触する事無くニャローテを吹き飛ばす事も不可能ではなかった筈だ。それなのに、実際には『どくづき』を喰らった上に毒状態にまでなってしまっている。

 

「……そう言う事か」

 

 ジンの抱いた疑問の答えは直ぐに出された。毒状態になったエクスレッグの目に光が宿り、体全体から黄緑色のオーラを発し始める。その変化は顕著であり、明らかに先程よりもパワーアップしているのは誰の目にも明らかだった。

 

 エクスレッグの特性『むしのしらせ』、これの効果により追い詰められる程に虫タイプの技の威力が上昇する。カエデはこれを狙い、先程、ドオーの『どくづき』を喰らう事を選択した様だ。

 

「リコさん、ごめんなさいね。私……もう我慢できないみたいです!」

「えぇっ!?」

「私らしく行かせてね!」

 

 このバトルの主役はあくまでも研修生である。その観点から見れば、カエデが今からしようとしている行動は正しくない。審判のキハダやバトルを見守る教師達も一瞬、戸惑う様子を見せるが、今のリコにはカエデのこの姿は良き手本になると考え、静観する事にした。

 

「エクスレッグちゃん!『むしのていこう』!」

「カエデさんの本気、見せてもらうで!ドオー『マッドショット』!ダグトリオ『いわなだれ』!」

 

 黄緑色の光線がエクスレッグの体から幾つも発せられ、ドオーとダグトリオに向かって行く。それに対し、チリは『マッドショット』と『いわなだれ』で相殺しに掛かる。しかし、エクスレッグは前後左右、斜めにと不規則な動きでそれらを回避し、大きくジャンプし2体の頭上を取り光線を雨の様に降らして行く。

 

「ドオ~!?」

「ダグッ!?」

 

 ドオーとダグトリオは『むしのていこう』を受け続け、ダメージを受けていく。それだけに留まらず、追加効果により特攻までも下げる事に成功した様だ。

 

「ドオー!ダグトリオ!ここは耐えるんや!」

「エクスレッグちゃん!小さな虫の大きな力で完膚なきまでに捻って差し上げて!『とびかかる』!」

 

 防御に徹するドオーとダグトリオに向かって、エクスレッグは全力で飛び掛かり、蹴りを入れ込んだ。そうして出来た隙を逃さず、カエデは新たな指示を出し始める。

 

「まだです!続いて『とびはねる』!」

「スレーッグ!」

 

 エクスレッグは空高く飛び跳ねた。そのまま落下の勢いを利用し、渾身の頭突きをドオーに喰らわせようと突き進む。ここまでの連続攻撃で既に回避する力はドオーには残っていない。この攻撃が決まれば、ドオーを倒せると確信した瞬間、両者の間にダグトリオが地中から現れた。

「ダグゥッ!」

 

 ドオーの盾となったダグトリオは、エクスレッグの勢いに負け後方へと下がった。エクスレッグもここまでの連続の技が途切れ、体勢を立て直そうと距離を取る。

 

「スレッグ!スレッ……グゥ」

 

 だが、エクスレッグは既に限界を迎えていたらしい。『どくづき』を受けた際の毒が体に完全に回り切り、体力を全て奪ってしまった様だ。片膝を突くと、そのまま目から光を失いフィールドに横たわってしまう。

 

「エクスレッグ戦闘不能!」

「ここまでのようですね……」

 

 エクスレッグは戦闘不能となり、これで数で言えば2VS1の状況となった。しかし、エクスレッグの奮闘は、大きな戦果を残している。

 

「ドオー、ダグトリオ!よう耐えたで……あっ」

 

 ダグトリオは先程の『とびはねる』の追加効果により、麻痺状態に陥っていた。これにより、動きはかなり制限され万全なバトルをするのは難しいだろう。

 

「あぁ、全力でバトルするって気持ちい~」

 

 戦闘不能になったエクスレッグを回収したカエデは気分の良さそうな笑顔を浮かべながら、そう発言する。

 

「カエデさん!凄いバトルでした!」

「ありがとうございます。リコさん、ダグトリオは暫く動けないでしょう。後はお願いしますね」

「はい!私も全力でぶつかります!行こう!ニャローテ!」

「ニャァッ!」

 

 この時、リコは不思議とニャローテの気持ちが理解できていた。先程までのバトルを目にし、ニャローテもエクスレッグの様に飛び回りたいのだと察していたのだ。

 

「鋭く『マジカルリーフ』!」

「『マッドショット』や!」

 

 鋭く尖った葉と泥の弾がフィールドの中央でぶつかり合い、小さな爆発を生んだ。一瞬、煙がフィールドを覆う中、ニャローテは次の攻撃に移り始める。

 

「『でんこうせっか』!」

「近づけるな!『マッドショット』!」

 

 猛スピードで接近していくニャローテに対し、ドオーは口から大量の泥の弾を発射し、それを阻止しようとする。何発か命中するが、ニャローテの素早さの前では、効果は薄く大した足止めにもならない。縦横無尽にフィールドを駆け抜け、ニャローテの『でんこうせっか』がドオーに命中した。

 

「くっ!?」

 

 本来であれば、『どくづき』で迎え撃ちたい場面である。しかし、ニャローテは先程、ダグトリオに対して蔦を利用した回避と『アクロバット』による攻撃を披露した。あれを見た後では、『どくづき』が成功しないのは目に見えている。『どくづき』はドオーの得意技ではあるが、このバトル中にチリがそれを指示する事はまずないだろう。

 

(楽しい!チリさん……こんなに強い人とちゃんとバトルが出来てる!)

 

 相手は四天王、本来であれば力の差があり勝つ事は困難な相手だ。カエデの助けがあったとはいえ、自分がここまで渡り合える事が出来ているという事実にリコは心が震えていた。

 

(そうか……そうだったんだ……)

 

 先程、チリは何故、自分達はポケモンバトルをするのかと聞いてきた。その時は勝つ為と答えたが、今は違う。このバトルを通して、リコはそれとは別の答えを見い出す事が出来た様だ。

 

「ポケモンバトルをしてると夢中になれる。夢中になるとニャローテの気持ちが伝わって一つになれる。それが楽しい!」

「ははっ!答えが出た様やな!ええで!思いっきり可愛がったるわ!」

「行きます!ニャローテ!満開に輝いて!」

 

 リコはポケットからテラスタルオーブを取り出した。エネルギーを蓄積し、満タンにまでため終えるとニャローテの頭上に投げつける。その瞬間、ニャローテの体を大量の結晶が包み込み、砕け散る。そこには全身を結晶化させ頭上に花の王冠を被った姿となったニャローテが現れた。

 

「ドオー!隆起せえ!」

 

 チリもまたテラスタルオーブを取り出し、ドオーへと向かって投げつける。同じ様に頭上でエネルギーを解放され体を結晶化させていく。その頭上には地球の断面模型の王冠を被っていた。

 

(地面タイプのテラスタルか。相性は有利、ダメージ量もニャローテの方が少ない。だが……)

 

 レベルに差がある。ニャローテは強くなったが、それでも四天王のエースポケモンには数段劣っているのが現状だ。真っ向勝負となると細かい工夫が効かない為、不利になってしまう。そうなれば負ける可能性が大いにある。

 

(さて、どうなるかな?)

 

 もしも、あの場にいるのがジンであれば、ここで敢えて、『でんこうせっか』や『ふいうち』などの先制技で攻撃しドオーに隙を作らせる。そして、その間に動けないダグトリオに『テラバースト』を放ち、確実に勝利を狙いに行く。

 

(まぁ、リコの性格上有り得ないか……)

 

 格上である四天王に正面から挑める貴重な場面でその様な勝ち方をしようという発想は彼女からは生まれない。例え、その手が思いついたとしても実行にまで移す事はしないのだろう。

 

「ニャローテ!あれをやるよ!」

「ニャァッ!」

「なんや?まだ何か見せてくれるんか?」

「はい!まだ、ほんのちょっとの時間しか使えないけど……私たちの全力、見てください!」

 

 どうやら、テラスタルだけで終わりではないらしい。リコ達の奥の手に興味を抱いたのかチリとドオーは静観の構えを見せる。

 

「ニャローテ!『エナジーチャージ』!」

 

 ニャローテは口元に草のエネルギーに溢れた緑色の光球を生み出し、それを口の中に無理やり入れ飲み込んだ。その瞬間、元から輝いていた体は緑色のオーラを纏いエメラルドの様に眩い光を発し始める。

 

「ほぉ……」

 

 『テラスタル』+『エナジーチャージ』、これは以前、ジンとジュカインがカロス地方でカビゴンをゲットする際に使用した技だ。『メガシンカ』+『エナジーチャージ』と比べると能力の上昇は抑え気味だが、その反面、持続力が長いというメリットが存在する。

 

 ジンとジュカインは特訓の果てに『メガシンカ』+『エナジーチャージ』の持続力を伸ばす事に成功した為、最近ではこの技は殆ど使用していなかった。それがまさか、この場で見る事になるとは流石のジンも予想していなかった様だ。

 

「これは、アオキさんとのバトルの時の……計算外やな」

 

 チリは予想外の展開に冷や汗を垂らす。ジンとジュカインだけが使えると思っていたあの技をよもや、リコが使用出来るとは考えていなかった。これにより、相性だけでなく能力値までもが完全に逆転され、このままではドオーの勝利の可能性はほぼない。その事がニャローテから溢れ出るオーラで嫌でも分かってしまう。

 

「行きます!ニャローテ!『テラバースト』!」

 

 ニャローテのテラスタルジュエルが砕け散る。その瞬間、緑色のオーラを纏った光の光線がドオーに向かって突き進む。威力、速さ共に申し分なく正に必殺の一撃と呼ぶに相応しい威力だ。

 

「大したもんや……」

 

 まだ粗削りではあるが、この状態の『テラバースト』の威力は間違いなく、チリが今まで見て来た中でも一二を争う物だ。本心を言えば、正面から打ち倒したかったのだが、この威力の前ではドオーの攻撃で相殺する事は出来ない。そう判断したチリは決断を下す。

 

「しゃーない!ドオー『まもる』!」

 

 迫りくる光線を前にドオーは体を半ドーム型のオーラで覆い、防御の体勢に入った。如何に強力な攻撃であっても『まもる』の防御は突破する事が出来ずに数秒程で光線は消えてしまう。

 

「にゃ、ニャァッ……」

 

 『テラバースト』が消え去ったのと同時にニャローテはその場に片膝を突いてしまう。まだ完全には使いこなせていない急激なパワーアップと今の攻撃で体力の殆どを使い果たしてしまった様だ。

 

「これで決めんで!ドオー『だいちのちから』!」

 

 ドオーは前両足を上げると全力でフィールドを踏みつけた。それと同時にフィールドは引き裂かれ、ニャローテに向かって大地の力を放出する。

 

「ニャッ!?」

 

 体力をすり減らしたニャローテには、もう逃げる事は出来ない。『だいちのちから』に飲み込まれ、爆煙がフィールド全体を包み込んで行く。

 

「ニャローテ!?」

 

 リコの叫び声が響く中、煙は徐々に晴れフィールドの全容が見えて来る。そこには体をふらつかせながらも辛うじて立っていたニャローテの姿があった。しかし、それも束の間、限界を迎えたのかテラスタルは解除され両膝をフィールドに突き、そのまま倒れ込んでしまう。

 

「ニャローテ戦闘不能!勝者チリ!」

 

 キハダの宣言と同時に観客達から声援が上がる。四天王を追い詰めた事もあるが、『テラスタル』+『エナジーチャージ』という滅多に見る事の出来ない技まで見る事が出来たのだ。この反応も当然と言えるだろう。

 

「ありがとう。ニャローテ……」

 

 リコは戦闘不能になったニャローテをモンスターボールに回収し、感謝の言葉を伝える。すると、リコの目から一滴の涙がモンスターボールへと零れ落ちていく。

 

「あれ?なんで?私……」

 

 モンスターボールに涙が落ちるまで、リコは自分が泣いていた事に気付いていなかった様だ。今まで、バトルに負ける事など何度もあった。それなのに、何故、今、自分がこうして泣いているのかリコには分からなかった。

 

「リコ」

「じ、ジン!?」

 

 いつの間にか近づいていたジンに気付くと、リコは慌てた様子で顔を背けると目をこすり、無理やり涙を止めようとする。そんなリコの肩に手を回したジンは無理やり、自分の方に顔を向けさせるとそのまま抱きしめる。

 

「泣け」

「えっ?」

「全力で挑み、負けた。悔しくて当たり前だ。だから恥じる必要はない……今だけは泣いていい。俺なんかの胸でよければ幾らでも貸してやるよ」

 

 その言葉を最後にリコは塞き止めようとしていた涙を堪えられなくなった。ジンの体に手を回し、その胸で溢れ出る涙が止まらなくなるまで、ひたすらに流し続けた。

 

 

 

***

 

 

 

「リコ、惜しかったね」

 

 数分後、漸く涙が止まったリコの下に彼女の友人たちが集まっていた。リコの目元は未だに赤かったが、それでも先程よりもかなり落ち着いたと言えるだろう。

 

「熱いバトルだった。リコなら絶対にもっと強くなれるよ!」

「本当に凄かった!」

「うん!私達、凄かった!」

 

 リコにしては珍しく強気な発言である。普段から活動を共にする仲間達から見ても珍しい光景だった為か、ロイとドットは少し驚いた様子で互いを見つめた。

 

「まぁ、チリちゃんの方が一枚上手やったけどな」

 

 チリはリコが『エナジーチャージ』の指示を出す前の『まだ、ほんのちょっとの時間しか使えないけど」という言葉を聞き、あれが短時間しか使用できない限定的な強化だと速やかに理解した。だからこそ、時間を稼ぐ事為に防御に徹する判断を下したのだ。

 

 僅かな言葉から、その事を察し、速やかな判断を下したのは経験の差と言わざるを得ない。今回のバトルで勝敗を分けたのは本人が言う様にチリが一枚上手であった事が最大の要因と言えるだろう。

 

「ありがとうございます。チリさん!私、前よりもずっとバトルが好きになりました!」

「おおきに。それにしても、さっきのには、驚かされたで……あれ、完全に使いこなせる様になったら、もっと強くなれるで」

 

 それはジンも同感だった。しかし、あの技はニャローテが使うにはまだ負担が大きすぎる。出来る事なら、最終進化形のマスカーニャになるまで封印し、今は地力を上げる事に専念すべきだとも考えていた。

 

(まぁ、それを伝えるのは後でいいか……)

 

 負けたとはいえ、四天王相手にここまでバトルが出来たのだ。今はその事を誇り、バトルの余韻に浸らせてあげたい。そう考えたジンは楽しそうに会話をしているリコをそっと見守るのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 オレンジアカデミーの一室、現在、ジンはクラベル校長から許可を得て、学校所有のパソコンを借りていた。そこで行っていたのは、バトルの相手をしたルカ、ライ、ボッコの3名のカリキュラムの作成である。

 

「ふむ……ルカとライはこれでいいとして、問題はボッコだな」

 

 3人の中で最も実力が低く、相棒のコアルヒーとの連携、テラスタルのタイミングなどにもやや難があるというのが彼女の印象だった。基礎テストはなんとか合格できた様だが、このままだと応用テストはかなりの確率で不合格となるだろう。

 

「まぁ、やるだけやってみるか……」

 

 ここまで来たのだ。彼女の合格にも出来るだけ協力したい。そう考えたジンは、ヒアリングで聞いた彼女の目標を叶えるための最適なトレーニング方法とバトルで感じた欠点などを細かく記載し始める。これでも確実に合格できるとは言えないが、それでもこの通りにすれば合格の確率は大幅に上昇するだろう。

 

「……何時まで、そこにいるつもりだ?」

「うっ……」

 

 部屋の外に人が立っている気配を感じ、ジンはそう呼びかける。声を掛けられた人物は部屋の外で体をビクッと揺らすと観念した様子でそっと扉を開け、中へと入って来た。その人物はジンにとっても関係のある赤と青の特徴的な髪型をした女性だ。

 

「ボタン?どうしたんだ?用があるなら早く入ればよかったのに」

「じゃ、邪魔したらあかん思うて……」

「気にしなくていい。君は大事な相棒だ。君の為なら時間を作るよ」

「あ、ありがとう……」

 

 ジンの言葉一つでボタンは顔を赤くして、やや声も小さくなってしまう。その姿を可愛らしいと思いつつ面白がったジンは小さく微笑んだ。

 

「それで、どうしたんだ?直接、会いに来たって事は何かあったんだろう?」

 

 今までジンとボタンは直接会うことは避け、できるだけスマホロトムで連絡を取り合っていた。それがこうして直接、会いに来たのはそれだけの事があったという事だ。

 

「う、うん。その前に……ごめん。アゲ先の事を見張ってたのドットにばれた」

「……どういうことだ?」

「実は……」

 

 ボタンの説明によると、リコとチリがバトルしている際、ドットは勝手に校内に入ったテラパゴスを追ってボタンと出会ったらしい。その際に話の流れアゲパン事、アゲートについての話を少しだがしてしまったそうだ。

 

「なるほど……」

「ご、ごめんなさい。怒っとる?」

「いや、その程度なら問題ないさ」

 

 リコ達にも教師の中にエクスプローラーズのメンバーがいる事は話しており、その上で何もするなと厳命してある。知られてはまずいのは、ジンとボタンが手を組んでエクスプローラーズの目的を探っているその一点のみだ。それさえ知られていなければ問題はない。

 

「前にも話したが、ドット達には研修に集中してもらいたい。だから、今後もアゲパンの行動の監視を頼む」

「任せて。うち、陰が薄いから張り付いててもバレへんし、ネットでの監視もばっちりやから」

「……心強いな」

 

 若干、自虐ネタの入った自信ではあるが、現状、彼女以上の適任者はいない。それは彼女の能力を適切に評価した上でジンが出した結論だ。一度、仲間として信じると決めた以上は最後まで信じるだけである。

 

「あ、あの質問してもええ?」

「ん?なんだ?」

「その……パルデアの四天王になるって本当?」

「あぁ、一応、その予定だ」

 

 もっとも、テラパゴスやラクアの件が一年以内に解決すればという条件付きではある。しかし、6体中4体の六英雄とは、まるで何かに導かれるかの様に短時間で出会うことが出来た。この分ならそう遠くない内に全ての六英雄に出会えるだろう。そうなれば一年以内に全ての秘密が解き明かされる可能性は大いに存在する。

 

「なら、そのままチャンピオンになる?」

「まぁ……順調に行けばな」

「だ、だったら、その時、うちの事を……正式なエンジニアとして雇ってくれへん?」

 

 既に彼女から聞いた話だが、ボタンは過去にシステムに無断でハッキングをした事があるらしい。紆余曲折あり、それらの罪は許されたのだが、その代償として現在はエンジニアとしての奉仕活動をさせられているそうだ。

 

「それは構わないが……あと数か月も奉仕活動を終えれば自由になれるんだろう?やりたい事をしなくていいのか?」

「い、今はジンの為に何かするのが、うちのしたい事だから──ジンがうちの推しだから」

「それは嬉しいな……その時はよろしく頼むよ」

 

 リーグでの雇用の最終決定権はオモダカにあるが、ボタンは優秀なエンジニアであり四天王にも匹敵するトレーナーだ。有能な人間を欲しているオモダカであれば決して悪いようにはしないだろう。

 

(彼女の力は今後も必要になる可能性が高い。その時、傍にいてくれれば色々と助かる。それに……)

 

 ジンの返答を聞き、顔を赤くしながら小さくガッツポーズをして喜ぶボタン。そんな彼女の笑みを見たジンもまた小さく微笑んでいた。

 

(悪い気はしないしな…‥‥)

 





アニメ100話超えましたね~予想通りではあったけど、フリード生きてたしこれから先の展開も本当に楽しみです!

☆9
マブナ回さん、シェリーザさん

高評価ありがとうございます

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