戦国武将を召喚して聖杯戦争で勝利を目指す   作:たくヲ

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敗退

 バーサーカーのマスター、間桐雁夜にあるのは痛みだけだった。

 

 雁夜の魔力はさほど多くなく、祖父である間桐臓硯によって植え付けられた魔力を精製する刻印虫で、ようやく聖杯戦争に参加できるだけの魔力を得ている。しかし、体内に植え付けられた刻印虫は、魔力を精製するごとに雁夜の肉を喰らい、雁夜の命を着実に死に近づけている。

 

 

 そもそもこうなったのは、ランサーとそのマスターの本拠地を偶然見つけだした雁夜がそこを襲撃することにしたからだ。

 

 バーサーカーへの魔力を供給のほとんどを令呪を用いることでまかない、残りの自身の魔力のほとんどを自身の使役する蟲、『翅刃虫』に費やしての賭け。

 

 

 本来の雁夜の目的を思えば愚策と言わざるをえない策。それをとってしまったのは彼の身体を食い荒らす刻印虫の痛みで、冷静な判断力が奪われていたからだ。

 

 倉庫街での戦いでランサーはバーサーカーの邪魔をした。これからもランサーは自分にとって邪魔になるかもしれないと思い、焦りすぎたのも一つだろう。

 

 それほどまでに雁夜は追いつめられていた。

 

 それでも彼は目的のために命を賭けて戦うしかない。

 

 一人の少女を救うため、好きだった人に笑ってもらうため……何より、全て自分のために運命に身をゆだねるしかなかった。

 

 そして、

 

「お前がバーサーカーのマスターだな」

 

 運命は間桐雁夜を見放した。

 

 

 

 

 

 旅館前。

 

 ランサーはバーサーカーの心臓に突き刺さった長槍を引き抜き、バーサーカーがコンクリートの地面に膝をつく。

 

 ランサーに刺さっていたはずのバーサーカーの剣が地面に転がる。その刃には一滴の血も付着していなかった。

 

「まさか……」

 

 バーサーカーの甲冑からくぐもった声。致命傷によって消えかかって初めてバーサーカーの狂化から解き放たれた彼の言葉だった。

 

「私が傷一つ(・・・)負わせることもかなわないとは」

「光栄だとは思うが、この戦に余計な言葉は無粋というものだろう」

 

 始めて言葉を交わした敵からの称賛。

 

「しかし、たがいに名乗りもあげず終えるのもまた無粋。おぬしの名を聞かせてもらいたい」

「……私の名はランスロット。アーサー王に仕えていた円卓の騎士……だった者だ」

 

 自身を過去形で語ったバーサーカー、ランスロットの甲冑の中の目がゆっくりとランサーを見る。

 

「儂の名は……」

 

 

 

 

 今まで苦しんでいたバーサーカーのマスターの様子が変わった。

 

 令呪のある手の甲をぼんやりと見る。

 

「バー……サーカー……こいつを……」

 

 令呪を使おうとしていることを察した画仙は、令呪のある腕を切断しようとする。

 

 しかしバーサーカーのマスターを守るように蟲が飛びかかり後退する。

 

(こうなったらランサーを……)

「……殺せ」

 

 バーサーカーのマスターは宣言する。

 

 しかし、バーサーカーは現れない。もうすでにバーサーカーはランサーに倒されていたのだ。

 

 バーサーカーのマスターの手が力なく地面に着く。

 

「……さく……らちゃん……。あお……いさん。……すまない」

 

 ぼそぼそとしたつぶやきが聴力を強化している画仙の耳に届く。

 

 黒こげになった蟲が画仙の周りに落ち、地面に触れた衝撃で粉々になる。

 

「死んだ……か」

 

 名も知らぬバーサーカーのマスターに背を向ける。

 

 手の甲の令呪を自分のものにすることもできたかもしれないが、画仙にはそういった方面の魔術には疎い。時間の無駄だろう。

 

 ランサーと合流してこの場を離れ新たな拠点を造るために画仙は蟲の灰(・・・)の舞う路地を歩く。

 

 

 

 

 

 

 周囲は港に戻っていた。

 

 ライダーの『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』の前にアサシンはなすすべなく全滅したのだ。

 

「征服王よ。あのまま貴殿の盟友たちを私たちに向けていれば、厄介な王たちを一掃できたのではないか?」

 

 キャスターは笑いながら言う。

 

「確かにそれをすればいささか楽にもなっただろうが。余はこの場を酒の席だと決めていた。この場はあくまで酒によって王の器をはかるためにもうけたのだ。倒すのは無礼者だけでよかろう」

 

 ライダーは持参した樽酒を柄杓で掬って言う。

 

「あれだけの配下を従えれば王と息巻くようにもなるか。面白い。貴様は(オレ)自ら手を下す価値のある王だと認めてやろう」

 

 アーチャーは自分の酒を黄金の酒器でのみ言う。

 

「そろそろ宴もたけなわと言うやつだろう。貴殿らも暗殺者が紛れ込んだ酒の席に長居はしたくあるまい」

 

 キャスターも自分の出した酒を飲みほした。

 

「……」

 

 セイバーは無言を貫く。

 

「聖杯問答という趣旨においての判決はあいまいだが。まあ騎士王……セイバー以外は私と互角と言うことにしておこう」

「何様だ。雑種。我は貴様のことはまだ認めてないぞ」

「まだということはこれから認められる可能性もあるということだな。英雄王」

「無論だな。この世の全ては我が裁く。貴様の価値もな」

「それは光栄なことだな」

 

 そう言い残しキャスターは霊体化して消えた。

 

 

 

 

 

 間桐雁夜の亡骸に近づく影が一つあった。

 

 それは老人の姿をしていたが纏う雰囲気は老人のそれではない。

 

 その老人の名は間桐臓硯。数百年の時を生きる妖怪のような男であり、冬木市の聖杯戦争の『始まりの御三家』のひとつ間桐家を支配する男である。

 

「まったく愚かよのう」

 

 その顔に戦った息子を褒める様子は全くない。称賛とは真逆の嘲笑があるだけだ。

 

「だが、雁夜をやった魔術師め。魔術の秘匿も考えないような輩が聖杯戦争に参加するとはのう」

 

 魔術の秘匿。魔術の存在が公になるのを防ぐという、魔術師にとっては最も重視すべきことの一つである。

 

 聖杯戦争においては本来であれば仲介役の聖堂教会が後始末をするのだが。

 

(この程度なら知られても問題ないのだが……まあ知られないことに越したことはあるまい。どうせやることもないのでな)

 

 間桐臓硯は蟲を周囲に放つ。放した蟲は戦闘に巻き込まれた旅館の人達の遺体や虫の死骸を処理(・・)していく。

 

 そして、間桐雁夜の遺体の処理に入ろうとした時、臓硯は気づいた。

 

 間桐雁夜の遺体。その遺体の令呪のあったはずの右手が消失していることに。

 

「……なかなかに厄介な奴もおるようじゃな」

 

 そう言って臓硯はニタリと笑う。

 

 今回の聖杯戦争では臓硯はあくまで様子見に徹するつもりであった。

 

 雁夜を出場させたのも、臓硯にとっては遊戯感覚であり期待などまるでしていない。

 

 冬木の聖杯戦争は約60年周期。今回の聖杯戦争に出場した雁夜は魔術師としての素養は最低といっても過言ではない。

 

 だから次の聖杯戦争までに優秀な間桐の魔術師を用意する。そのために御三家のひとつである遠坂家から遠坂桜を養子として引き取ったのだ。

 

(桜の改造(・・)ももうすぐ終わる)

 

 臓硯の目的は聖杯戦争の勝利し不老不死となること。そのためならどれだけ時間がかかろうと構わなかった。

 

(ご苦労だったな。雁夜。おぬしの悪あがきだけは評価してやるわい)

 

 まあ、見世物としてじゃがな。と臓硯は呟き、雁夜に背を向ける。

 

 

「あらあら、随分と余裕ね」

 

 背後から声。臓硯が振り返る前にその体が燃え盛った。

 

 慌てて蟲で背後の敵へ攻撃しようとする。しかし、なぜか離れていたはずの蟲達まで燃えている。

 

「間桐のマスターを見張っていれば他の魔術師が来るって聞いてたけど本当だったのね」

 

 声の主が女性であることだけはわかった。

 

「特別サービスであなたには真実を見せてあげるわ」

 

 パチンッ、と指が鳴る音。

 

 その瞬間、臓硯の脳裏にうかんだのはかつての自分。長く生きすぎて忘れていた過去の理想が蘇ったのだ。

 

「せいぜい今の己を悔いて死になさい」

「……無、念……じゃ」

 

 その言葉を最後に間桐臓硯は焼失した

 

 

 

 

 

 臓硯が死んだことで、間桐邸の結界は全てが解除されていた。

 

「結界が消えたようだな」

 

 間桐邸の前に立っているのは弓矢を持ち緑色の服を着た男。

 

「なに? その弓で壊せなかったのか、だと? 不可能ではないさ。だがそれには膨大な魔力がいる。それではマスターも困るだろう」

 

 その男は虚空に向け話しかけている。傍から見ると気が狂ったようにも見える。

 

 男は門を開き、扉を開け正面からゆっくり間桐邸へと入っていく。

 

「急いでくれだと? 随分と態度がでかいな。私には私のペースがある」

 

 男はどこかに話しかけながら間桐邸の廊下を歩いていく。

 

 しかし、一度廊下を曲がった所で足を止めた。廊下のど真ん中では酒瓶を持った酔っ払いが呆然と立ち尽くしている。

 

「なんだ、お前(・・)が助けたいという間桐桜(・・・)とやらはこいつか? ふむ、違う、か」

「ば、化け物……」

「……気が変わった。何? 助けてやってくれ? 馬鹿を言うな。お前(・・)との契約は間桐桜(・・・)の命だけだ。他をどうしようと俺の勝手だ」

 

 緑服の男は弓を構え矢を番える。酔っ払いは逃げようと逃げ出そうとしたのだろう、緑服の男に背を向けた瞬間に矢で射ぬかれた。

 

「私に向かってくるのであればまだ見込みもあったが、やはり凡俗だな。……お前(・・)の兄? 兄弟でここまで変わるものか?」

 

 緑服の男は再び歩き始める。

 

 男が酔っ払いの死体の横を通り過ぎた時。すでに死体は腐り始めていた。

 

 

「ここか」

 

 彼が辿り着いたのはひとつの扉。間桐家では蟲蔵と呼ばれる場所である。

 

 扉を開け中に入ると下へと続く大きな階段。

 

 会談を降りきった場所から先には男の腰まで覆い尽くすほどの高さまで大量の蟲が蠢いていた。その中心には一人の少女らしきものが見える。。

 

 緑服の男が少女に向かい歩きだすと男の前にいる蟲の群れがぞろぞろと男を避けるように左右に逃げていく。

 

「こいつで間違いはないな?」

「……おじさん。誰?」

 

 生気のない目で少女は……間桐桜は問いかける。

 

「残念だが名は名乗れない。あえて言うならば君のおじさんの友人とでもしておいてくれ」

「雁夜おじさんの?」

「そうだ。さて。ひとまず立ちたまえ」

 

 言われるがままに間桐桜は立ち上がる。

 

「さて、それではここを出るとしよう。……だがその前に」

 

 その瞬間、緑服の男が振り向きざまに放った一本の矢が間桐桜の左胸を貫いた。貫通した矢は後ろの地面に突き刺さり、桜は力なく倒れる。

 

「約束が違うだと? 別にお前(・・)との契約通りだ。傷口を見てみろ」

 

 間桐桜の左胸には傷一つもない。矢が貫いたにも関わらずだ。

 

「中にいた蟲を殺しただけだ。別に死んだわけではない」

 

 緑服の男は桜を肩に担いで言う。

 

「……あとは服だな。彼女の服はどこの部屋にあるか案内しろ。この屋敷を出るまではお前(・・)の意識は残しておいてやる」

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