廃工場の一室。そこは廃工場とは思えないほどの装飾品であふれていた。
それらのほとんどはキャスターが宝具で出したものである。おかげでケイネスとソラウは比較的快適にすごすことができていたといえる。
時刻は午前2時。そんな中でケイネスは頭を抱えていた。
「これは……なんだ? キャスター」
「なんだ? とは?」
ケイネスの目の前には気絶した一人の少女。そして何者かの右手。
「仕方がない。質問の順番を変えよう。キャスター。こんな時間までどこをほっつき歩いていたのだ?」
「昨夜もその言葉を聞いた気がするな。いや、別に奴らとの聖杯問答はかなり前に終わったのだ。だが、貴殿とソラウが楽しんでいるのを邪魔するのも悪いと思ってな」
「……見ていたのか?」
「うむ」
ケイネスは少し黙るが気を取り直し、再び質問をする。 なお、ソラウはすでに眠りについていた。
「ならば聞くが、この少女とそこの右手はなんだ?」
「そこの娘は、この地の聖杯戦争の始まりの御三家、間桐家の養子らしい。何やら間桐の魔術に体を慣らすために蟲を消しかけられる虐待を受けていたそうだ」
「魔術師としては対して珍しい事でもあるまい」
「まあ、そうなのだが……どうやらバーサーカーのマスター、間桐雁夜は彼女を救うためにこの聖杯戦争に参加していたらしい」
それを聞いたケイネスは嫌悪に近い表情を浮かべる。
「魔術師として生きていく幸福を捨てさせるというのが、私には信じられんな」
「まあ、そう言うな、ケイネス。それに一般人の魔術師の行いに対する認識はそういうものになることは自覚しておいたほうがいい」
間桐桜を一瞥しキャスターは続ける。
「それに名門とはいえ、間桐家は衰退しているのだろう? 少しそこの娘を調べたが、彼女の性質ならより魔術師として優秀な子を産ませるために使い捨てられるのが目に見えている。それはあまりに不憫だろう? それに、そんなことは魔術師の幸福とは程遠いものだ」
「……だが、なぜこの少女を連れ帰ったのだ? バーサーカーのマスターにつけられていたらどうするのだ?」
「ほう、そこまで気が回るようになったか」
「茶化すな。早く答えろ」
ケイネスはそう吐き捨てる。
「その心配はない。バーサーカーのマスターは死んでバーサーカーも脱落を確認した。それとその少女を連れて帰ってきたのは私の意志ではない」
「なに?」
「どうやら私の指示で動かしていた
キャスターはため息を一つつく。
本来、キャスターが
だが、指示の言葉を減らしすぎた結果がこの事態を呼び起こしてしまったのである。
「これに関しては私のミスだ。すまないな、ケイネス」
「貴様が謝るなど珍しいこともあるものだな」
「その代わりというのもおかしな話だが、間桐の裏の支配者、間桐臓硯とやらは部下が仕留めた。とはいえ、油断はするな」
「なんだと?」
「どうやら、臓硯という男、体と魂を蟲に移していたらしい。魂は完全に焼き払ったらしいが、間桐邸の中のものまでは燃やせなかったようでな。残った蟲が支配者がいなくなったことで暴走する可能性もありうる」
「このケイネス・エルメロイが蟲ごときに後れを取るとでも?」
そういうケイネスの顔に自信の色はない。彼にとっては魔術によって使役される蟲を殺すことなど造作もないことだからだ。
「油断するな、ケイネス。だが、臓硯の魂を植え付けられた蟲は確実に燃やした。仮に私がつけられていたとしてもこの場所を報告する対象はいるまい」
(臓硯の敗因は自分の拠点に魂を移した蟲、いわば本体を拠点におかなかったことだろう。いや、わざわざ自分の家のマスターの死を感知して自分の拠点を出てきてしまったことだろうか? しかし、なぜわざわざあんなところに出てきたのだ?)
臓硯が自らの欲求を満たすために出てきたこと、そしてサーヴァントや強力な魔術師が動いている中で逃げ場のない拠点に本体を置くことをよしとしなかったこと。この二つの理由を知らないキャスターは少し考察していた。しかし、そんなことをしても無駄だと判断し再び話し始める。
「もう一つの右手についてだが、それはバーサーカーのマスターのものだ」
「何?」
「令呪こそ消えているが、聖杯戦争の召喚システムを解析した貴殿ならばその右手から令呪を抜き出すことも可能なはずだ」
「令呪は貴様には効かんのだろう?」
「……それでも、私の魔力をブーストすることくらいはできる。私がが本気を出せばいくらソラウでも魔力が足りないからな」
一瞬の間を不思議に思うケイネスだったが、ソラウの魔力が足りないという話を聞いて慌てる。言われてみれば基本的には夜に行われる聖杯戦争の中でソラウが早くも寝てしまったのは魔力の消費が原因なのではないだろうかと。
「まあ、とりあえず。そこの少女は私が引き取ろう。ケイネス。貴殿は令呪の解析を頼む」
『魔術師殺し』衛宮切嗣は冬木市の郊外にあるアインツベルンの城の中にいた。
目的は罠の設置。
冬木市の聖杯戦争の始まりの御三家のひとつ、アインツベルンに雇われた切嗣がアインツベルンの城を拠点とするのは至って自然な事である。そう推測し、この城を攻めてきたマスターを返り討ちにするため策。
そのために切嗣は魔術と近代兵器の融合によるトラップを城の中に大量に施したのだ。さらにご丁寧にアインツベルンの城の周囲の結界もそれなりの魔術師であれば簡単に破れるものにしてある。
隣には彼の助手の久宇舞弥。彼女もこのトラップの設置に協力させていた。
二人がかりでのトラップの設置には丸一日かかったが、夜中までかけてあらかた設置をし終えることができていた。
「切嗣。あの二人を置いてきてもよかったのですか?」
「構わない。アイリも最低限の自衛はできる。セイバーだって英霊相手ならそうそう負けることはないだろう。それに使い魔も何体かおいて監視している。」
二人は夜食として昼に買ってきたハンバーガーを食べていた。すっかり冷めていたが栄養さえ接種できれば二人にとっては問題のないことである。
(ライダーの宝具には驚いたが、特に問題はない。でも、アイリ達の新しい拠点を探さなくてはいけないな)
「そういえば……画仙という男。あれは何者ですか? あの強さは只者ではなかった」
「僕も詳しい事は知らないが、武器の密輸の元締めのようなことをやっていると聞いた。おそらく僕たちの武器を日本に運んだのも元をたどれば奴だろう。こちらの武器はほとんど知られていると言ってもいいかもしれない。魔術師をしているとは聞いていたが、そこまで戦えるとは思ってなかった」
何より舞弥の報告に会った戦いの中で形が変わる武器。そして、コンテナに軽々と突き刺さっていたナイフの切れ味。おそらくどの武器をとっても一級品だろう。
そんなことを考えながら食べているとすっかり食べ終えてしまった。
その時、魔術の警報が鳴る。
「ッ! 思ったより速かったな」
舞弥はノートパソコンを操作し、城の外に設置していた監視カメラの映像を映し出す。
結界の破られたところの周辺の映像を見るとすぐに侵入者を見つけ出すことができた。
その侵入者の姿を見て舞弥は眉をしかめる
「舞弥。侵入者は誰だ?」
「……言峰綺礼です」
それを聞いて切嗣は考える。
昨日、おそらく全滅したであろうアサシンのマスター、言峰綺礼。切嗣が聖杯戦争が始まる前に集めた情報で、最も危険だと睨んでいた男。
その男がわざわざここに来たのは、おそらく裏でつながりがある遠坂時臣の指示である可能性が高い。
「どうしますか? 今なら脱出もできますが」
「……いや。奴は元代行者。城の中のトラップだけで簡単に仕留められるとも限らない。それに奴は遠坂とつながりがある。このまま動かれても厄介だ」
令呪でセイバーを呼び出して戦わせれば、いくら元代行者で圧倒的な戦闘力を誇る言峰綺礼でもひとたまりもあるまい。
だが切嗣はそれをするつもりはない。セイバーは聖杯戦争を英霊同士の殺し合いと考えているため、言峰綺礼を攻撃させるのを断る可能性がある。そうなってしまえば、攻撃をさせるために令呪を使わざるを得ない。
そうなった場合は結果として令呪二つを犠牲にすることになる。それは切嗣たちにとって大きな痛手だ。
「ここで奴を仕留める。作戦は……」
言峰綺礼がアインツベルンの城にやってきたのは遠坂時臣の指示ではなかった。むしろこの行動は遠坂時臣の意思に反すると言ってもいい。
(アサシンに調べさせていた情報が確かならここに衛宮切嗣がいるはずだ)
綺礼はアサシンを聖杯問答に特攻させる直前まで他のマスターの拠点の捜索に当たらせていた。特にこのアインツベルン城や、間桐邸といった『始まりの御三家』が所有する重要な拠点にはアサシンを張り込ませ監視をさせていたのだ。
その結果、綺礼は衛宮切嗣の居場所を把握することに成功した。
他にもランサー、バーサーカー、キャスターの陣営を把握することに成功していた綺礼は、アサシンを特攻させた後、そのことを遠坂時臣に伝え、一日待機することを命じられていた。
そんな中、綺礼がアインツベルン城まで来たのは『魔術師殺し』衛宮切嗣にその人生の答えを問うためであった。
綺礼にとってこれまでの人生は空虚な物だった。人の楽しむものを楽しいと感じたことはなく、人が美しいと思うものを美しく感じたこともない。自分がその空虚さを埋めるためありとあらゆることを試してきたがどれも失敗していた。
そんな中、綺礼は聖杯戦争に参加することになり、戦争が始まる前の準備の時、切嗣の存在を知ることになる。
数年前、アインツベルンに雇われるまでの切嗣の人生が自分と似通っていると感じた。そして、アインツベルンに雇われて以降まったく活動しなくなってしまった切嗣のデータから、アインツベルンに雇われたことによって衛宮切嗣は空虚な人生の答えを得たと考えた。
すべては、己の空虚さを埋めるため。
鍵がかかっていた入り口の分厚い扉を壊して潜入した綺礼を出迎えたのは銃弾の雨だった。
言峰綺礼は両腕に持った黒鍵でそれを全て弾き、敵の姿を探る。
が、もうすでに敵は視界の中にはいない。
分かったのは2階からの攻撃だということ。
一歩一歩と、綺礼は前に歩いていく。銃声が収まり静かな城内にネズミの鳴き声が小さく響く。
切嗣がトラップを仕掛けている可能性もあるため、慎重に歩いていく。
足元に仕掛けられていた糸をまたぐように避け前に進む。
2階へ上がろうと階段に足をかけた。
その時、爆発が起き、階段が壊れる。
しかし、綺礼はそれを一瞬の判断で回避するために2階に向け跳躍。爆発に巻き込まれることなく2階に上ることに成功した。
次の攻撃は後方。
使い魔のネズミが糸を切った結果、後方にトラップとして仕掛けられていた二つのクレイモア地雷が作動し、周りに鉄球をばらまくとっさに振り返った綺礼は両手の黒鍵で鉄球をはじこうとする。
幸い、本来の攻撃目的範囲とは違う位置にいたために全ての鉄球をはじく綺礼。
その後方から発砲音。それを察知していた綺礼は振り返りざまに黒鍵で、弾丸を防御する。
その瞬間、綺礼の身体から力が失われた。