自らのサーヴァントの真名を聞いた後、画仙は彼のことをランサーと呼ぶことにした。日本人の英霊をランサーと呼んでよいのかと、画仙は疑問に思ったが、ランサーは「いいだろう。そう呼ばねば、儂が不利になるのだろう?」と簡単に了承した。
「改めて名乗らせてもらうが、俺の名は
「画仙、か……」
「どうした、ランサー?俺の名がどうかしたのか?」
ランサーが自分の名字を聞いて考え始めたのを見て、画仙は問いかける。
「おぬしと同じ性を持つ男をを儂は知っていてな。儂のこの槍は違うが、儂の配下にその男の造った武具を持つ者がおったのだ」
「間違いなく俺のご先祖様だな」
「むう?」
「俺は『画仙工房』第22代目最高責任者だ」
「……ほう。あの男の子孫であったとはな。あの男、随分と女っ気がない生活をしておったが……まさか、自らの血を後世に残しておったとは、驚いた」
『画仙家』。安土桃山時代に初代『画仙
「ならば、問わねばなるまい」
「なにをだ?」
「おぬしは聖杯とやらに何を望むのか、だ。儂はおぬしの先祖とはともに酒を飲み交わした仲だ。故におぬしが何をなそうとするのかを知ることで、あの男の血が絶えておらぬことを知ることになろう」
画仙は少し考え、言う。
「俺の望みは……神々の武具の設計図だ」
「ぬう?それは何故だ?」
「俺は『究極の武具など存在しない』と思っている。だが、俺はそれに近いものを、究極に限りなく近づいた武具を造りたい。そのためにはまず数々の武器を作る必要があるだろう。だから、まずは手始めに神々の武具の造り方を知れば、そこから究極に近づけるかもしれないと思って、な」
しばしの沈黙。数秒、数十秒後。ランサーは口を開いた。
「神の武具でさえ理想ではなく、さらに上を目指すか……。よかろう!!儂はおぬしに仕えようではないか!!」
「待った!!……俺はまだ聞いていないぞ。ランサー、お前程の英霊が聖杯に願うこととはなんだ?」
画仙はランサーを呼び出した後に聞いた真名で、間違いなく自分の呼び出した英霊は最強クラスの英霊であると確信していた。
だからこそ、解せない。心当たりこそあるが、それは目の前の男が願うとは思えないことだった。
「……わしの望みは
ランサーは続ける。
「儂は生前数々の
「つまり聖杯にかける望みは……」
「ない」
画仙は驚きはしたものの、この英霊の生前の逸話を知っていたが故、この言葉が偽りだとは思わなかった。
「この聖杯戦争に出る者は、皆が歴史に名を遺した英雄の霊であると聞く。それも、儂らの国の外に住んで居った者だそうではないか。……この国にはいなくとも、外には儂を満足させうる者がおるやもしれん」
「……わかった。ランサー。お前の願いの成就にできる限り協力しよう」
「かたじけない」
すると、画仙はふと思いついたように言う。
「そういえば、事前に調べた資料だと東洋の英霊は召喚されないそうなんだが?」
「聖杯戦争とやらは、人間が始めたものらしいではないか。ならば、それがほんの些細なことの組み合わせで崩れることもあろう。時代の移り替わりや必要とされておる者が変わったことで、儂が幕府から遠ざけられたことのように、実にあっけないことで、だ」
「なるほどな」
ランサーの言うとおり、聖杯戦争に呼ばれるはずのない東洋の英霊が召喚されたのは、些細なことの組み合わせのせいであった。
一つ。聖杯が『
二つ。召喚主である、画仙の用意した聖遺物。
一つ目は言わずもがなだが、二つ目の画仙の用意した聖遺物が大きな問題であった。
召喚を行ったホールには、今日まで行われていたイベントでの展示物(画仙の提供)が置いてあった。その展示物は大半が
召喚場所の近くに置いてあった、それらのどれを依り代に英霊を呼び出すか聖杯が処理できず、結果として呼び出せてしまった。
これが原因だったのだが……画仙とランサーには知る由もなかった。そもそも、画仙がこの冬木市民会館を召喚場所に選んだのは、一番新しい霊脈があったからであり、それ以外の理由はなかった。
「さて、行くぞ!ランサー!!」
「うむ。まずは戦の準備だな」
こうして、彼らは冬木市民会館を後にした。
ホールではランサー召喚の依り代になった、小刀の刃が光り輝いていた。
時計塔の魔術師、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは、婚約者のソラウ・ヌァザレ・ソフィアリとともに冬木市ハイアットホテルの一室にいた。
時計塔にて教え子であるウェイバー・ベルベットにサーヴァント召喚のための触媒、征服王イスカンダルのマントを盗まれてしまったため、急ぎで触媒を用意するよう手配させていたのだが……。
「ケイネス。召喚の準備は終わったわよ?」
「ああ。始めるとしよう」
結局触媒は手に入らなかった。
「(だが、私はこの戦いに出なければならない……。このまま何もせずのこのこと帰っては、時計塔での私の立場はどうなる?私の名誉のため、ソラウとの未来のためにもこの戦い勝利しなければならない)」
触媒こそないがサーヴァントは召喚できる。その英霊こそ誰になるかわからないが、それで弱い英霊がサーヴァントとして呼ばれたとしても、その英霊とともに聖杯を勝ち取ることができれば、『弱いサーヴァントを召喚しても、聖杯戦争に勝利できた者』としてケイネスの評価はあがるだろう。
ケイネスとソラウはサーヴァント召喚の魔法陣の前に並んで立つ。
ケイネスは聖杯戦争のサーヴァント召喚用魔法陣を独自に研究、改造していた。よってその魔法陣にて召喚されたサーヴァントに対する絶対命令権である令呪をケイネス、サーヴァントの現界を保つ魔力供給をソラウがそれぞれ担当するようになっていた。これで、ケイネス自身が魔術師と戦う時にも、サーヴァントに彼の魔力をとられることはない。
ケイネスは詠唱を始める。
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ
閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する」
魔法陣が光を放つ。
「――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
光が強くなるにつれ、ケイネスの体に時計塔での降霊術でとは違う妙な感覚が走る。
「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
閃光にケイネスとソラウの目がくらむ。
その光が消えた時、魔法陣の上にいたのは……。
「問おう。
そこにいたのは、豪奢なローブを着て、右手の中指には真鍮と鉄でできた指輪。左手には一冊の書物を持っている男だった。
ケイネスは自分の召喚した英霊が、7つのクラスの中でも最弱とされるキャスターだったことに内心では落胆していたが、それを表情には出さず言う。
「そうだ。私の名はケイネス・エルメロイ・アーチボルト。そして、私の婚約者であるソラウ・ヌァザレ・ソフィアリだ」
「なるほど。サーヴァントに対する魔力供給と、マスターである証である令呪の役割を分けるとは。……なかなかに優秀なマスターのようだ」
「(たかだか、サーヴァント風情が偉そうに。私をなんだと思っているのだ!?)」
「よいだろう。ケイネスのサーヴァントとして、私は行動する。ただし、私の行動に制限を付けないでもらおう」
ケイネスの感情が怒りの一色に染まった。サーヴァント風情が魔術師の名門、アーチボルト家九代目当主である自分にこのような口を利くこと自体に怒っていた。
「ケイネス・エルメロイが令呪を持って告げ「呼び出したサーヴァントに対する強制命令権。それが令呪だったな」……なんだ?」
「ならばそれは私には効かない。何せ私の得意魔術は『召喚』『使役』『契約』だからな」
ケイネスはその言葉に令呪を使うのを止めた。現代には存在しないほど強大な魔術師・魔法使いが召喚されるキャスターの英霊の言葉であるが故にその言葉に偽りがないと理解できたからだ。
今のやり取りで冷静さを取り戻したケイネスは問う。
「……貴様の真名はなんだ?聖杯に何を望む?」
「私の名は……」
作者のたくヲです。
今回の話ですが、画仙家はもちろん実在した職人一家ではありません。
サーヴァントの真名はまだバラしません。が、外見や願いの内容でその正体がわかった方もいらっしゃるかもしれません。出すがそれを感想に描くのは他の読者様のご迷惑になりますのでおやめください。
さて、東洋系の英霊が呼び出された理由ですが、5次アーチャーや5次アサシンは日本の英霊(アサシンは英霊という殻を被った亡霊だそうですが)ですし、
冬木の聖杯戦争で東洋の英霊が呼べないのは聖杯戦争の魔術基盤がアインツベルン由来だからなのに5次アーチャーは日本の英霊なうえシステムが作られたときにいなかったはずなのに召喚された未来の英霊なんてものですので、ほぼ第3次で起きた聖杯の汚染が原因で東洋の英霊くらい呼べるようになっている気がいしたのです。
最後にあとがきを長々と書いてしまい申し訳ございませんでした。