融合超獣キマイラ   作:小林流

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第一話 衰えを感じた男

 バトルヒーロー「ガンヘッド」がその場にいたのは全くの偶然だった。徐々に知名度が出てきたとはいえ、まだまだ新人の域を出ないガンヘッド。彼は日課としているパトロールの最中だった。その日は、自身の守る街の地理を頭にたたき込むため、持ち場の地区から離れた場所まで足を伸ばしていた。無骨な見た目とは打って変わって物腰が柔らかい人柄の彼は、通行人とも気軽にふれ合い、時には公園で子供と遊んだりしながら充実した一日を過ごした。そんな中、突如空気を震わす爆音が彼の耳に届いた。彼はすぐさま駆けだした。

 

○○○○○○

 

 

 高層ビルの建築現場にその音の正体があった。獅子のような顔、熊のような腕、蝙蝠のごとき翼は暗闇をそのまま固めたように暗い。異形の怪物、融合超獣キマイラが一人のヒーローと対峙している。

カラフルなピッタリタイツに身を包む彼は、ヒーローはプロになって数十年のベテランである。個性は筋力増強型であり、常人の数倍の力を誇った。

 

 

「早く逃げるんだ!私がくいとめる!」

 彼はそう叫ぶとキマイラに跳び蹴りを食らわせた。怪物の腹がへこみ、巨体がよろけ、組まれた足場に激突した。その衝撃に固定されていたパイプが緩み、ぐらりと揺れた。まだ避難しきっていない数人の職人は頭を抱えて倒れ込んでいた。

 

 

 

 ベテランヒーローは一瞬、あっ、という顔をした。

 瞬間、いくつもパイプは甲高い金属音をかき鳴らしながら落下。粉塵を巻き上げ、職人の叫び声が聞こえたのと同時に、それ以上に巨大なグルルルルという地鳴りのような音が響く。ベテランヒーローは唖然として、棒立ちになった。

 

 

 すぐに風で粉塵は流された。

 そこには血まみれな職人の姿はなかった。見えたのはいくつもの影だ。よく見ると先ほど攻撃されたキマイラが怒り狂ったのか、様々な鉄筋やコンクリートを融合し、大蛇のような触腕をいくつも形成していた。悍ましく恐ろしい姿になったキマイラは咆哮しベテランヒーローを睨んだ。その腕の影に隠れるようにして職人はブルブルと震えている。

 

 

 

 どうやら奇跡的に触腕が落下したパイプにぶつかったらしい。パイプは職人に直撃することなく周囲に転がっていた。唖然としていたベテランヒーローはかぶりを振ると、キマイラに向き直る。

「お、お、おのれぇ、こしゃくな!」

 ヒーローはどもりながら言った。

 

 

 怪物はそのいくつもの触腕をベテランヒーローに殺到させる。当たればひとたまりもない攻撃だが、ベテランヒーローはその拳ですべてはじいていった。これでは勝負がつかぬと悟ったキマイラは、その触腕をすべて右腕に収束させた。ぐちゃぐちゃと混ざり合いできあがったのは杵に似ている。怪物は自身の巨体よりもなお巨大な恐るべきハンマーを振り上げる。その大質量が怪物の筋力にとって叩きつけられたなら被害は甚大だろう。ベテランヒーローは果敢に拳に力を込めた。彼はハンマーと真っ向から立ち向かうつもりだった。

 

 

 

 ハンマーはその大きさ故か、振り下ろされる速度は緩慢だ。徐々に近づいてくる影がベテランヒーローと激突しようとしていた。その瞬間、怪物の顔や体にいくつもの細やかな衝撃が走った。その勢いはすさまじく巨大なハンマーはコントロールを失い元の鉄筋やコンクリート片となって、バラバラと怪物自身の上から降り注いだ。

 

 

「やらせないよ!!」

 そう叫んだのはガンヘッドだった。彼の両腕からシュゥゥという音と共に煙が立ち上っている。彼の個性ガトリングは、自身の肉体由来の硬質化した弾丸を撃ち出すものである。キマイラはその攻撃をもろにくらったのだ。    

 

 

「お手伝いします!」

 ガンヘッドはベテランヒーローにそう言って走り出した。そして、倒れ伏せる怪物に追撃するのではなく真っ先に先ほどから震えていた職人を抱き上げる。鍛えられたガンヘッドの肉体は職人を軽々と持ち上げ、すぐに戦いの現場から連れ出すことができた。

 

 

 ベテランヒーローはその場を動かなかった。動けなかったのかもしれない。彼は、ガンヘッドが救助する様子を懐かしむような、うらやましがるような顔で眺めた後、キマイラに向かって走りだした。

 

 

 直後、バガンッ!という衝撃音が轟いた。ベテランヒーローが渾身の力を込めて拳を振り下ろした音だった。その一撃を食らって、キマイラは立ち上がることができなかった。キマイラはその異形をドロドロと溶かしながら消えていった。ガンヘッドは現場に戻り、声をかけるまで彼はいつまでも自分の手のひらを見つめていた。

 

 

○○○○○○

 

 

 その日の深夜。路地裏で話す影が二つある。

 一つは初老の男性、もう一つはフードで顔を隠した子供だ。子供、鳴無聲はその年齢とは不相応な乱暴な口調で話しだす。

 

 

「下手くそがよ、おかげで余計なチャチャがはいったじゃねぇか」

 嫌悪感を隠そうともしない彼女の言葉を叩きつけられた男は、それでもうつむくばかりだった。子供と親以上に年の離れた男は「…………すまん」とだけ呟いた。

 

 

 その様子を見て、聲はため息をつく。今、ここで文句言ったところで意味がないことに気づいたのか、胸の中のモヤモヤをすべて吐き出すように「はぁ、まぁ良いけどよ。」と返した。

「そんで約束のモンは?」

「ああ」

 彼女は男がもつ封筒を受け取る。そして、すぐに入っている一万円札の枚数をすさまじい早さで数え始めた。枚数が正しいことを確認した彼女は、「まいどあり」と言って男を見る。金を見たことで幾分か機嫌が直った彼女は、男に話しかけた。

 

「まぁ、そうだ!あのマシンガン野郎が入ってきたのは偶然だし、しょうがないよね。うんうん!また必要になったら言ってくれよ!じゃあな!」

聲は足取り軽く去っていった。

 

 数日後、あるベテランヒーローは引退を表明した。彼の過去の活躍をしる世代からは、惜しむ声もいくつかあったが、彼の思いは変わらなかった。

 

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