融合超獣キマイラ   作:小林流

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過去編 三話

 

 流は家なし、金なしの浮浪児である。そして個性の無断使用の常連であった。この社会のルールとして、原則的に個性の無断使用が禁止されている。特に他者へ害をもたらす個性の発動は御法度だ。しかし、幼児である流が生きるためには個性を使い続けるしかないのである。よって彼は人目を忍んで生活していた。

 

 

 

 一カ所で活動し続けると、発見発覚の危険は跳ね上がる。そのため流は定期的に住処や宿主を変える。隠れ潜みながら行動するため、土中での移動が主である。土中での移動技術は非常に繊細な技である。融合の規模を大きくしすぎれば道路や道が脆くなり、規模が小さすぎれば移動ができない。絶妙な個性コントロールが必要であった。個性を磨き続ける流であっても、その速度は徒歩にも劣る。それでも社会から隠れ潜むには仕方ないことであった。それにいくら遅くとも、1日かければ大抵は別の街に到着し、新たな寄生対象を見つけることができるので、流は不便に感じつつも仕方ないと半ば諦めていた。

 

 

 

 前回での街で数週間を過ごした流は移動を開始し、今回も運良く新たな街に到着した。新天地に到着すると、まず流は通行人の多い駅の土中に身を潜める。人混みや喧噪は彼の融合時の地鳴りのような音もかき消すことができ、通勤時や帰宅時間の人々は得てして注意散漫なことが多く、勝手に融合しても気づかれるリスクが大幅に減るのだ。流は電柱の影から駅を観察するため、融合したコンクリートで作り出した蛇かミミズのような器官を伸ばす。

 

 

 静かに見つからぬようにズズズと慎重に伸ばし、駅を眺める。

 

 

 するとその視界に飛び込んできたのは小さな影。

 どこか小汚い、ざんばら髪の子供である。子供はじぃと流の器官を見つめている。しまった!見られた!と流は思った。流は急いで個性を発動し、その場を離れようとする。

 

 

 

「まて!」

 

 子供が流に話しかけた。声質からどうやら少女のようである。少女は流を引き留めるように「あんたのことを知ってるよ」と続けた。

 

「四日前、アンタは隣町のファミレスにいただろ?」

 

 流が潜む地面が揺れ、歪んだ。動揺が個性を通じて現れていた。その後も少女は流の行き先や行動をピタリと言い当てた。

 

「別にアンタのことをどうこうしてやろうなんて思っちゃいない。ただ、アタシと取引してほしいんだ」

 

 

 

 少女の言葉を聞き、困惑した流は土中で首をかしげた。少女は話を聞いてくれる気があるならついてこいと、流を先導するように歩みを進めた。流はなぜ自分のことがバレたのか、聞き出すため彼女についていくことにした。

 

 

 少し道を進んだところで、早足で進む彼女はなぜか流が遅れていることを見抜き、「そのでかい音は今は、気にしなくていいぞ」と言い放つ。流はすぐには少女の言うことが理解できなかったが、移動の際に融合で生じるグルルルルという音がしなくなっていることに気づいた。

 

 ますます謎の多い少女を見失わないよう流は移動速度を速めた。川を泳ぐ魚のほどの速度になっても普段の地鳴りのような音は聞こえてこなかった。

 

 

 

○○○○○○

 

 

「よし、ここなら誰もいないな」

 廃病院を前にした彼女がそう呟くとズンズンと院内に入っていく。

 立ち入り禁止の看板が寒々しく立っていたが、土中を進む流には見えなかった。 

 数年以上前に廃業になったのだろう。院内は荒れ果てていた。ガラスは割れ、ゴミが散乱している。少女はその中で比較的汚れの少ない椅子に腰掛ける。

 

 

 

「そろそろ姿を見せてくれよ?ここまでついてきたってことは、話くらい聞いてくれんだろ?」

 

 少女がそう言うので、流は土中から這い出てきた。

 しかし、一応保険として融合の個性は解かない。幼児の体では、目の前の少女にだって簡単にやられてしまうからだ。流は扱いなれた不定期で巨大なトカゲのような姿で少女と向き合った。怪物を見た少女は微笑んだ。その瞳に怯えの色は一切なく、代わりに喜びの色が見える。隈の酷い退廃的な顔の少女だったが、その笑みは可憐であった。

 

 

「まずは自己紹介。アタシの名前は鳴無聲(おとなしこえ)ってんだ。よろしくな」

 実に男らしい口調である。流も挨拶を返そうとしたものの、数ヶ月ぶりの会話のため喉と舌は未だにダメダメだ。動かそうにも膜が張ったかのように固まっている。それでもなんとか言葉を発送と奮闘する流。

 

「こ……んしょ…く、な、な……がれ、よろ…し…く」

 

 怪物の口からは、不明瞭な音を絞りだすのが限界だった。けれども聲はそんな流の自己紹介を十全に聞き取れたようである。彼女はうなずき、「こんしょくながれ、ね。よろしくな、混色」と返答した。

 

 

「さっそくだけどよ、混色。金に困ってねぇか?」

いや、多分困ってるのはお前だろ。流はみすぼらしい聲の姿を見て心の中で突っ込みを入れた。流の内心に気づいたのか、聲は「ああ、アタシは困ってる」と付け足した。

 

 

「でもそれは、アンタも同じだろ?もし金がありゃこんな生活してねぇよな。誰かにくっついてタダ飯食ってんだもんな?」

 聲は意地の悪そうな顔で言う。ビクンと巨体が震える。流はそこまで知っているのかとアワアワとした。

 

 

「アタシの個性は【音量調整】。いろんな音を大きくしたり、逆に小さくしたりできるだけのハズレ個性だが、個性の影響か耳がめちゃくちゃ良いんだ。だからアンタが個性を使うときの地鳴りみてぇな音を覚えて、アンタの正体に辿り着いたんだ」

 

 

 聲は語る。どうも彼女は流から助けてもらったことがあるらしい。盗みでヤンキー二人に手酷い報復を受けているところに怪物が助けてくれたそうだ。

 そんなことあったっけ?と流はあまり覚えていなかったが、ともかくその時に耳についた音をたよりに彼女は流の足跡を追った。様々な場所で聞こえる音に当初は混乱したものの、すぐさま流が個性で他者と融合していることに気づいた。常人が聞き取れぬ極小の音、複数の心音や何かが蠢く音、極めつきはあの地鳴りのような音が人体から聞こえてくるのである。聲からすれば、流が自分の居場所を宣伝しているようなものだ。

 

 

「アンタの個性は土やら人間やら見境なく取り込めるみたいだな。そんで吸収した分だけデカく強くなるってことか……ホント、クソ便利な個性だな。正直うらやましいよ。それがありゃ金にこまるなんてありえないからな」

「……どう、い…う……こと?」

「へ、気になるかい?最初に言ったろ?アンタと取引したいってな。もしアタシの話にノるってんなら詳しく話してやるよ」

 聲は目を細めニヤリと笑った。

 

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