ミスターシービーのトレーナーにお見合い話が舞い込む話   作:からんBit

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風吹く夕刻・再び

学校の屋上。

 

生徒会長であるシンボリルドルフを呼び出したミスターシービーは前と同じように屋上の柵に寄りかかり、ルドルフに今回のことの顛末を話していた。

 

もちろん、トレーナーと『お見合い』をしたことも含めて。

 

「なるほど。ひとまず、『おめでとう』と祝辞を送るべきかな」

「あはは……気が早いよ。まだ正式に返事は貰ってないんだから」

「だが、随分と余裕そうじゃないか。周章狼狽とは程遠いようだ」

「まぁ……ちょっとだけ怖くもあるけどね。でも、きっと大丈夫……そんな気がしてる」

 

シービーはそう言って風になびく髪に手を当てた。

 

「ちなみに、アタシがそう思えるようになったのはルドルフのお陰もあるんだよ」

「え?」

 

虚を突かれたような顔をするルドルフ。シービーは内心で『珍しいものが見れた』と、クスリと笑った。

 

「うん。前にさ、ルドルフが『お見合い』の噂を教えてくれたことがあったでしょ」

「ああ、どうやら私は本当に余計なお節介を焼いただけになってしまったようだが」

「ううん。助かったよ。あのお陰で決心がついたんだから」

「決心?」

「うん、ルドルフは私達が『付き合ってる』って勘違いしてた。そうだよね?」

「……まぁ、そうだ……な」

 

そこまで確信があったわけではないが、少なくとも男女の関係が多少なりとも進んでいると邪推していたのは確かだった。

 

「アタシはさ、縛られない自由が好きで、熱いレースが好きで、自分の気持ちに従って歩くのが好き。でも、やっぱりそれってさ、他の人から見たら色々ズレてるんだろうなってのもわかってる。でも、トレーナーはさ、そんな私の隣にいつもいてくれるんだ。あんな人、他にいない。アタシはトレーナーのことを『特別な人』だって思ってる」

 

『特別な人』

 

確かに、前に話をした時も彼女はそのフレーズを使っていた。

だが、それはルドルフが思っていた以上にシービーにとっては重い意味のある言葉だったようだ。

 

「でも、トレーナーがアタシのことを『特別』だって思ってくれてるかどうかはあんまり自信がなかったんだんよね。ほら、アタシっていつも目の前しか見えてないからさ。散歩の時も、レースの時も。だから、トレーナーがどんな目でアタシのこと見てくれてるのか、ちゃんと確かめたことなくて……それに、確かめるのを怖がる気持ちもちょっとあったし」

 

そう言ってシービーは自嘲するような照れくさそうな顔をした。その表情はまさしく『恋する乙女』そのもので、ルドルフは内心で『珍しいものが見れた』と、クスリと笑った。

 

「でも、ルドルフが私達が『付き合ってる』って、勘違いした。それぐらいに距離が近くて、そう思える程にトレーナーはアタシのことを見てくれている。なら、大丈夫だって思えた。決心がついたんだ。トレーナーの家族に『このお見合いの真意を教えない』って決心が」

「なるほど。図らずも私は恋のキューピットをしてしまったわけか」

「そういうこと。友人代表スピーチは任せるからね」

「無論、引き受けよう」

 

2人はそう言って笑い合う。

 

「そう言えば、あの時言っていた『あれ』はどういう意味だったんだ?」

「『あれ』って?」

「前に話した時『悔しい』と言っていたじゃないか?あのことが少し気にかかっていたんだ」

「ああ、それはね……」

 

シービーは仄かに頬を染めながら、目を細めた。

 

「もっと……恋人っぽいことしてみたかったんだよね。デートしたり、同棲したり、夜景の綺麗なレストランで食事したり……そういうことしながら告白されて、プロポーズされて。なんならお母さん達みたいに駆け落ち騒ぎっぽいこともしてみたかったし。それができなくなっちゃったのが、ちょっと悔しいかなって」

「なるほど。しかし、君にそんな『時間をかけて距離を詰めていく』なんて駆け引きができるのか?」

「アハハッ、痛いとこつくな〜……まぁ、その通りなんだけど。でも、理想は理想としてあったんだよ。アタシ、これでも重度のロマンチストなんだから。知らなかった?」

「知っているとも」

 

2人してまた笑い合う。

 

その時、シービーの携帯電話から着信音が鳴り響いた。

 

「あっ、トレーナーからだ。もしもし?」

 

意気揚々と電話をとったシービーであったが、携帯電話のスピーカーから流れてきた声は随分と対称的であった

 

「……シービー……まずは……まずは、ちゃんと話し合おう」

 

泣き出す寸前の子供のようにも、追い詰められて命乞いをしているようにも聞こえる声音だった。

だが、その言葉の奥には大きな決断をした者特有の興奮と緊張感が隠れている。

その気配をルドルフは確かに感じとっていた。

 

「話し合おうシービー……互いにとって……とても……とても大事なことだ」

「うん。そうだね。話し合いは大事だ。でも、やっぱりアタシは……先に『返事』が欲しいかな」

「うっ……」

 

言葉に詰まるトレーナーの胸中が透けて見えるようだった。

そもそも、断りの電話を入れるつもりなら『話し合おう』なんて台詞が出てくるはずがないのだ。

電話の向こうでトレーナーが息を詰める音がした。

 

「……わかった……今度、然るべき場所で、然るべき時に、然るべき態度で、ちゃんと『返事』をする。だから……とにかく今は、ちゃんと話し合おう!」

「ふふふっ、オッケー、じゃあトレーナー室に戻るね」

 

喜色満面とはまさにこのこと。

通話を切ったシービーはルドルフが今まで見てきた中で1番幸せそうに笑っていた。

 

「それじゃあ、ルドルフ。また明日」

「ああ、良い一日を」

「ありがと」

 

シービーは踊るような足取りで屋上を後にする。

残されたルドルフは澄んだ夕焼け空を見上げ、フッと息をも漏らした。

 

「……やはり……君が羨ましよ……私は……」

 

そう呟いた直後、屋上の扉が再び開いた。

 

「あっ、ルドルフ。またここにいたの?」

「おや、トレーナー君。よくここに私がいるとわかったね」

「いや、違うよ、今日は風が気持ちいいから、たまたま来ただけさ」

「そうか……ふふっ、そうか」

「どうしたんだい?随分と嬉しそうだけど」

「なに、少しだけ……ほんの少しだけ……良いことがあったのさ」

 

ルドルフはそう言って柵に体重を預け、目を閉じる。

 

吹きゆく風はまた新たな季節を運んでくる。

 

この世のウマ娘の未来に幸多からんことを願うばかりだった。

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