喫茶店の看板を下ろして、上野さんの横に座る。
上野さんは机の上にこちらに来るまで集めていた資料を広げながら私のノートPCを使って何かを調べている。
「…やっぱりあった」
「何がですか?」
「藤原君が富士山に登った理由が少し気になってね。富士山関連で情報を調べていたら随分ときな臭い話が出てきた」
上野さんがこちらに見せてきたPCの画面にはよくあるスレッドが映し出されていた。
そこには最近の富士山での出来事について書かれており、その中でも『健康になれる薬草』についてのスレッドも立っていた。
確かに関係はありそうだが、こんな曖昧なものに縋ったのだろうか?
「納得してないようだけれど前の事件のことを考えればあり得る話だと思うけどね」
「そういうものなんでしょうか…」
「病弱体質の彼からしたら藁にも縋る思いだったのかもしれないね」
私は普通とは外れてしまっているから分からないが年功者である上野さんが言うのならばそうなのだろうと思い、そのスレッドを読み進めていく。
それにしてもこの投稿はやはり何処かおかしい…
「こういうのに疎いので実際はどうなのか知らないのですが、この投稿してる人の判別って何でおこなっているんですか?」
「基本的には後ろのIDとかかな?」
「だったらこの薬草の話をしてる人って同じ人なんですね」
「…本当だ、内容にばかり目がいっていて気づかなかった」
どのスレッドもこの薬草の話を出しているのは同じIDでまるで実物を見たかのように内容を書いている。
この投稿をしている人を藤原君が言っていた『みかわ』という人物だと仮定して話を進めるとやはり違和感を感じてしまう。
「…何か違和感を感じるみたいだね」
「…はい、この薬草の話が作り話だったとしても内容があまりにもしっかりしすぎてます。まるで自身がこの恩恵に預かっているかのようです」
健康になると謳っているのに内容はそれを超えた効果だ。不死になったかのように傷が塞がり、病に悩まされずに済むと書かれている。
まるで自身て確認でもしたかのように。
「つまりこの投稿主は不死だと?」
「その可能性もあります。もしそうなのだとしたら可笑しな点がもう一つ出てきます」
「どうしてこの内容を投稿したのかだね?」
私は頷き、再度スレッドを確認する。
ここまで完成された不死なのだとすれば、わざわざ人が集まるようなことはせずに暮らす方がいいはずだ。
世間というのは案外変化というものに敏感なもので、逆に変化のないものには尚更違和感を感じる。だからこそ世間から外れた山奥にでも暮らしている方が余計な詮索もされず、平和な筈なのだ。
なのにこうして人の目につくような形で情報を公開し、あたかも人を集めたがっているような…
「もしかすると完全な不死ではないのかも知れないね」
「不死を完全なものにするために藤原君を実験台にしたと…」
確かにそれなら人を集めている理由もわかる。
藤原君から届いた手紙に書かれていた手下が気になるがそこは一旦置いておき、ひとまずやる事は決まってきた。
私は携帯電話を取り出し、ある電話番号にかける。
個人的には苦手な分類の人種なのだが
今の時間ならカルフォルニアのある大学で研究資料を作っているはずだ。数コールの後、こちらから声をかける。
「もしもし、大宮君。少し聞きたいことがあるのだけれど」
『…いきなりなんだい咲君。こんな夜に』
「貴方不死について研究していたわよね」
『確かに研究しているが君は興味ない事だろう』
「まだ予測の範囲を出ないのだけれど、巻き込まれた事件に関係あるから聞いているの」
『…君のような「「なりそこない」」が不死を恐れるかい? 面白い冗談だ』
本当にこの友人_大宮 晃は私を人として見ない。
「貴方のことだから分かってるかもしれないけれど、私は人間よ」
『君が人間? 自分からすれば人の真似事をしている怪力女で神のなりそこないだと思うが?』
私の過去を知っている大宮はその起きた結果から「「神のなりそこない」」だと言いきる。
「私のことはなんと言っても構わないのだけれど、余り時間がないの」
『ふむ…。君が関わっているのはもしや富士の失踪事件じゃないのかい?』
「!? どうして分かったのかしら」
『日本で君が関わっていそうな不死の事件はこれくらいしか思い浮かばなくてね』
「そうじゃないわ。どうして貴方は富士山での失踪事件を知っているのか聞いてるの」
『これでもその分野ではエキスパートだ。国外まで情報網を広げていて何が悪い』
研究熱心で常に情報収集をしているのは知っていたが国外まで調べているとは知らなかった。
『それにあの事件は終わっていないし、今も被害者が出続けている。そしていくつかの情報からこちらで発見された不死の薬、日本で言えば『蓬莱の秘薬』と酷似しているとしてこちらの界隈では結論付けられているよ』
「そこまで特定してるなら『先に言っておくがここから先は有料だぞ?』……分かったわ、何が欲しいの?」
『今度そっちに行く用事があるからその時に血でももらおうかな』
本当に嫌な物を要求してくる…