少年「ありがとう、ラモーヌおばさん」皇帝「えっ」+α 作:狸より狐派 ハル
5
『各ウマ娘スタートしました!』
ゲートが開かれ、ウマ娘たちが横一列に綺麗に飛び出した直後に、実況がそう言う。
その後徐々にバラつき始め、縦へと列、人数が不特定的になった。
『先頭はダイワスカーレット、颯爽と掛けていく。その次にはアイネスフウジンが前に出たがる、3番手にはエルコンドルパサー・・・』
スタート直後のちょっとしたコーナーを抜け、直線に入る16名のウマ娘たち。ナイスネイチャは8番手にいた。
(ん~中々いい感じかな?)
《差し》という中間位置を走ることを得意とす彼女は、前方のウマ娘の配置を見る。すぐ前には眼鏡をかけた小柄なウマ娘ゼンノロブロイ、その右斜め前にはエアグルーヴ、その左あたりにメイショウドトウ、その目の前にビワハヤヒデがいる。
一瞬だけ左後方をみると大柄な褐色のウマ娘、シンボリクリスエスがちらりと見えた。おお怖いと内心軽口をたたきながら、この状態で次のコーナーへと向かっていく。
そして入る際、内ラチとの間を意識しながら走る。現在自身とのラチ差は3人分、正直今はこれ以上詰めれないし、何より体力温存のため詰めるつもりわなかった。後者はともかく前者の理由としては、後方のシンボリクリスエスへの進路妨害にならないためであった。後ろから抜こうとする相手を被さるように前へ出ると、飛び出し的な危険走行として審判に降着判断されるため、相手との距離は状況によっては離れた方がいいのである。
だが固まっていた方がいいメリットもある。それは直線に戻り、一回観客の前を走り抜けようとしている合間に起きる。
(ロブロイがエアグルーヴさんを抜いて、私はちょっと右にわざとふくらんで・・・おっ、いい感じにメイショウドトウもエアグルーヴさんの左に位置してる。だからドットさんの後ろに付けば・・・、よしっスリップストリーム完成!)
前を早く走るウマ娘の真後ろに位置することで、空気抵抗を抑える戦術の一つである。本来自身が受ける抵抗は前のウマ娘たちがある程度肩代わりをしているため、自身は風圧による抵抗をあまり感じずにスイスイと行くことが出来た。また、前には先の三人だけでなく、他にも縦ながらも差が無いため彼女等もまたその後ろのウマ娘たちにとっての風よけとなっていたため、さらに空気抵抗が薄くなる。
スリップストリームとは人数が多い程後ろの者たちへの効果が高くなるのだ。
だからこそナイスネイチャは3つ目のコーナーに入る前に、あることに気づく。
(ペースが速いね・・・みんなわかっているのかな。まあ私以外に気づいてる子はある程度いるでしょうけど)
先頭ではダイワスカーレットではなくアイネスフウジンが先頭となり、ダイワスカーレットはその右後ろを走っている。元々二人のペースは特別速くなかったが、そこから後ろのペースが速くなり、先頭の彼女等も負けじとペースを上げた。そうするとまた後ろが速くなり、その結果全体のペースがこの速度になったのだろう。
コーナーに入る。ナイスネイチャは相変わらず内ラチから3人分離れており、シンボリクリスエスも位置が離れない。16人縦に離れず、コーナーを走り切り三度直線に入った。その後中間まで走っていると後ろから動きがあった。
『ゴールドシップ、ペースが少し上がっています。スタミナは持つのか!?』
(あの人もう来るのか~、まあ予想はしてたけどね・・・)
ゴールドシップ、1番人気なだけあって特に警戒されているウマ娘。彼女の得意な作戦は列後方からの《追い込み》なるもので、本来なら終盤まで体力を温存し、ここぞというところで爆発的加速を生み出す豪脚自慢のウマ娘専用の作戦だ。
だがこのゴールドシップは、まだ中盤と言えるこのタイミングで仕掛けてきた。なぜなら、このウマ娘の特徴は先の豪脚を持っているだけでなく、人一倍持続力の高い
そのため結構無茶を許容できる体質なため、早速ロングスパートを掛け、少しずつ速度を上げて行っているのであろう。
このような存在は放っておくといつの間にか先頭へとワープの如く、手が付けられなくなる。そこでナイスネイチャは奇術を打った。
「後ろからじわじわ来てますよ~、あーヤバい、ちょっとまって、これヤバい」
「っ!」
彼女がそうささやくと、前のウマ娘たちは惑わされたのか、少しペースが速くなった。一見邪道に見えるこの技術は、実のところそれなりに他のウマ娘も採用していたりする。実際に彼女のようにささやいたりするウマ娘自体は少数だが、走り方を工夫して後ろを動揺させたり、とにかく徹底的に後ろについてプレッシャーを与えたりと、様々な戦術がある。
レースとは速さだけでは勝てない。相手の嫌がることをして本領を防ぐこともまた、大切なのだ。
もっと言えば、ルールにひっかからなければ、何をしてもいいのである。競技とは本来そう言うものだ、解釈次第ではルールよりもグレーゾーンのほうが多いなんて、結構あるのだ。
前方がペースを上げたことで、さらに前のウマ娘たちもペースを上げた。後ろのウマ娘たちも異変を察知し、ペースを上げようかと悩む(ゴールドシップを除く)。しかしナイスネイチャはもとから上げようとしなかった。
そして最終コーナーに入る前に右後方を見る。ゴールドシップはまだ離れている。これならばとナイスネイチャは予定していた行動に出ようとする。
コーナーに入った。ゴールドシップも加速を一旦やめ、曲がるために今のスピードを列の外側で維持しようとする。一方ナイスネイチャはコーナーを曲がっている途中ほんの少しずつだが、外に膨らんでいっている。
スピードの出し過ぎではない・・・いや。それを逆手に取っている、と言った方が正しいか。
ナイスネイチャはコーナーに入ってからスピードをこれまた、少しずつ上げていった。コーナー中盤、他のウマ娘がスパートに入る。しかしナイスネイチャは周りより一足先にテンポを上げていため、既に前にいたウマ娘たちを何人か抜いていた。
そのまま外に意図的に膨らみ、コーナー出口で出る位置を調整する。
そして出る直前、ここでもワンテンポ早く直線に入るための姿勢に入り、そして地面を
(いよっしゃそれ行け
彼女の幼馴染直伝のスパート法、プラス自身の戦術。第三者視点からでもこの作戦は上手くいったと言っても過言ではないだろう。
レース中盤、彼女がささやいたことで、周りが望まぬ体力の消耗をしでかしたせいか、周りのスパートのノビがイマイチだ。
また、彼女が一足先にスパートを掛けたおかげでその時のトータルパワーも上回っている。
そして今、彼女はどんどんとごぼう抜きをしている。
行ける!
そう思った矢先、ナイスネイチャは後方から激しいプレッシャーを感じた。
(っ!・・・やっぱ効かないか・・・!)
一人はずっと彼女の後ろ辺りにいたシンボリクリスエス、スパート時に少し遅れを取ったが、恐らく中盤のペースアップに巻き込まれなかったのだろう、体力を保てて今自分を抜こうとしている。
このウマ娘だけでない。ずっと
そしてゴールドシップ。ナイスネイチャはもう後ろを確認する余裕が無いためわからないが、彼女もまた鬼気迫る表情で迫ってくる。
ゴールドシップはペースアップにどちらかと言うと巻き込まれたウマ娘なのだが、桁外れのスタミナと根性が、彼女の減速を足止めしていた。
(間に合え!間に合え!間に合えぇえええええ!!!)
ナイスネイチャは狂うように走る。初めてのG1勝利を手にするために、幼馴染の顔に記念にとトロフィーで殴りつけるために。
走り、走り、走り、
そして――――――
『ゴーーール!!!かなり微妙だ!果たして結果は!?』
ゴール板を通り過ぎると、減速しながら大きな黒い電子ボードをみる。
急に止まると後ろのウマ娘が減速できず衝突の危険があるからだ。
意識が
(あちゃ~、結局3着か~。・・・まあこのメンツで3着って、かなり上出来じゃない?)
1着こそ取れなかったという不満はどうしてもあったが、それでも3と言う数字に馴染み深い彼女にとって、最低ラインを確保できたのは素直に嬉しかった。
「うおぉおおおおおおお!!!見ましたか!!後方から追い上げたウマ娘ちゃんたちの気迫をぉ!!!」
確かにすごかった。生のウマ娘レースとはここまでだったとは。
これが本格化したウマ娘たちの本気のレースなんだと、少年は思い知った。
ナイスネイチャがあそこまで緊迫した表情になったのを見るのも初めてだった。普段穏やかな幼馴染の意外な一面を知って、彼は新鮮な気持ちだった。
他のウマ娘たちもそうだ。みんな凄まじく・・・凄ま・・・じく・・・。
・・・・・
・・・・・わぁ・・・
「凄い・・・すごいですよね~~~!!」
・・・うん・・・すっげぇな・・・
胸が。
「・・・は?」
特に今回一着を取ったゴールドシップと言うウマ娘が露骨だった。
彼女の勝負服は、体のラインがはっきりとしたノースリーブの紅白のマリン風勝負服と言うべきか。
特にその胸の部分。ベルトが前方上下に巻かれており、後ろは一本にまとまっている。それゆえか、ふくらみが凄い強調されているように見えるのだ。
そして今、嬉しいのか左拳を上に突き出して喜んでいる。そのおかげで上半身が腕で隠れず見える。
・・・この際はっきりと書いてしまおう。服越しに膨らんでいる大きな胸が凄い上下に揺れているのだ。
いやもうそれは凄い揺れようである。すっごい爽やかな笑顔で胸を揺らしているのだ。もちろん彼女は意図して揺らしているわけではないだろうが。兎にも角にも揺れているのだ。あんなの年頃の男子が見たら、色々とたまったもんじゃないんだろうか。
よく見ると彼女だけでない。他のウマ娘たちもなんだか異様に大きかった。そしてその彼女等も・・・
「ギィィルティィィイイイイイイ!!!」
アグネスデジタルは手で少年の目を塞いだ。
「アンタって人は・・・!アンタって人はぁああああああ!!!」
過去一番キレたんじゃないかな、と後に彼女はそう思ったのであった。
EPILOGUE
「おっ、アンタ本当に来てたんだ。ていうか・・・」
夕方、レース場の施設出入り口付近にて少年は待ち合わせをしていた。
メールのやり取りでのみの連絡だったため、本当に来ていると話思わず、上記の台詞か出る。
ナイスネイチャの周りには、ツインターボ含むなかよし3人組、そしてトレーナーと思わしき、男性がいた。
「どうも~ネイチャさん。すごい末脚でしたよ~~!」
「ど~もありがとう。けどなにがあったら、あなたたち知り合いになってんのよ」
「いやまぁ、色々とあって・・・いやもうホントⅠ☆RO☆I☆ROとねぇ・・・!」
「いや待って怖い怖い、マジで何があったの?」
「知っちゃいけないことです(真顔)」
「あっはい」
そんな感じでアグネスデジタルとナイスネイチャの会話が終わる。
すると今度は、トレーナーが声を出した。
「ところでえっとキミは・・・?」
「ああ、紹介が遅れたね。彼が例の幼馴染ってヤツですよ」
「そうだったんだ。初めまして、僕がナイスネイチャの担当をしているトレーナーなんだ」
そのようにトレーナーが挨拶をしてきたので、少年もとりあえず返す。
そしてついでにこういった。
ネイチャを加湿器にしてる方ですか。
「えっ」
「「アンタねぇええええ!!!」」
なかよし3人組はナイスネイチャより、本気で怒ったアグネスデジタルに怖がったのであった。
THE END
ラモ「今度は私のレースも見に来てくれるわよね?」
気が向いたら
ラモ「・・・・・」
・・・・・
ラモ「・・・・・」
・・・・・わかった。絶対見に行くからそんな目で見ないで。
ラモ「(ニコッ)」