【完結】学園生活騒音部 ~のーきる・のーばらーど!~ 作:親友気取り。
巡ヶ丘市、巡ヶ丘学院高等学校。
オレはこの学校をとても気に入っている。
だって受験の面接にギター持ち込んで「たとえ世界が滅んでも歌い続けます!」とか言いながら一曲披露して受かるこんな変な学校、他にはない!
……いや、うん……。マジで他に無いと思う。
自主自律を重んじるって校風を信じて賭けたらこれってさぁ。
学園案内に書いてあった学校を一つの街として捉えるだとか生徒たちは街の住民だとか、あの辺を理由にゴリ押したからミュージシャン的な立ち位置へ収まり採用されたんだろうか。受かった後にやってる活動内容は
他にも成績資格に実績云々と色々理由があるんだろうけどさ。
けれどでもでも
本気でオレは世界が滅びるその瞬間まで存在証明の為に音楽を貫く所存であるし、時流れ消えゆく前には熱く燃え盛るこの魂を引き継がせ残したい──
そんな情熱ストレートで面接官を殴ったパッション受験ももうずいぶん昔のように感じ、早いもので現在は高校三年生。
当時も今も変わらず、豪語を空絵事で終わらせないパワーを胸に歌い続けている。
そうしなければオレがこの世界に留まる意味が無いのだから。
「今日も歌わせてもらうか!」
さて皆さん! 紹介が遅れました!
そんな美少女こと我が名は
どこでだって陽向のような明るさとどこでだってお祭り騒ぎの賑やかさという意味の名を携えた、そう、オレこそが! 身長145cm! 体重40mg!
好きな食べ物、たこ焼き! 苦手な食べ物、トマト!
プロフィールと
覚えとけぇ……。このオレこそが! 神に愛され、歌を愛する超越怒涛の天才美少女よぉ!
で。
そんな天才なオレちゃんは今日どこで何してるかって?
一階の購買部倉庫の奥、機械室にある閉じっぱなしのシャッターがそろそろ少し気になってさ。ここを頑張って歌で開けようとしてる。
この奥に誰かがいるのならどんな相手だってオレの歌をハートへ響かせ動かしてやるんだ。鉄のシャッターで心を閉ざすなら歌ってぶち抜いてやるぜ。
「いや意味わかんないから」
放課後になったんで今日もダッシュで歌いに来たら、同じクラスの
この子はこの数年の校内ゲリラライブでオレの魂を受けとってくれたひとり。わざわざ聴きに追いかけてくるならばとても嬉しい。
だがしかぁし! 意味わかんないとは聞き捨てならん。分かんねぇならもっと歌って分からせてやる。
お見舞いするぞー!
「いや意味わかんないから」
全く同じセリフで返された。コピペであしらわれるとか祭ちゃん悲しいゾ!
せっかくなので愛用のギターでこの悲しみを表現する。
陽向の明るさと祭の賑やかさという素晴らしき力で薄暗い地にいるシャッターくんを輝きに満ちた未来へ導こうというのに、それを理解せぬとは……。
「直射日光で全てを焼き払う災厄の間違いだろ」
え!?
陽向ちゃんは太陽の輝きを持ちし全てを超越した最高の天才だって!?
えへ、えへへ。
「言ってない言ってない」
いやぁ照れるね。
んじゃどんどん溢れ出るこの想いをぶつけてやりますかっ!
「ていうかまつりさ、さっきめぐねえに呼ばれてなかった?」
呼ばれてたね。ゆきと一緒にだった気がする。
「ゆきもってことは……。まさか、まつりが補習?」
うむ、あり得んよな。地頭の良さで全てを薙ぎ払っていくこのオレが生活騒音以外で呼び出しなど。
心当たりは進路希望の紙を提出してないくらいなんだけど。
「それだろ!」
まぁまぁいいじゃん。反社反骨もまたロックの華なんだから。
む。そう考えるとゆきもロックなのか。
ならお主もパンクな格好だし我らでバンド組まないか?
そのチョーカーかわいいね。いつかちょうだい。
「バンドは組まないっての」
そっかー。
「あんまめぐねえに迷惑かけるなよ? 優しいからってさ」
「でもたかが進路ぢゃん?」
「将来に関わることだろ」
音楽大好きバンドマンにとっての未来ってのは数分先の事よ。明日なんかも知らねぇ。
今は進学も就職も関係ない。いくぜ! ジャカジャカジャカジャカじゃーん!
「陽向さん」
「てかもうめぐねえ迎えに来てる」
「めぐねえじゃなくって、佐倉先生です」
ちぃっ、見つかるのが早い!
「探すまでもないんでしょ。こんなとこでギター弾いてるの、まつりだけだし」
そんな……。
あ、ちょっ、たかえちんどこへいく!
どこへも行くな、オレから離れるんじゃない!
「こんな所いたら一緒に怒られるだろって。先生、さようなら」
「はいさようなら」
「じゃあまつり、チョーカーはまた今度な」
まったくもう。帰り気をつけてなー。
「進路の事、ちゃんと先生と一緒に考えましょ?」
めぐねえこと佐倉先生はそう言い、小柄なオレへ目線を合わせて言葉で説得しにかかる。
先生も大変だねぇ。他にもやることある放課後だっていうのに率先していち生徒と向き合うとは。
しかもオレだけじゃなくて他の人も一緒に。
「大変だなんて、大切な生徒の将来ですから」
「生徒に寄りそうめぐねえ大好き」
「褒めたって見逃しませんっ」
大変だって自分で分かってるなら迷惑かけんようにさっさと進路希望出せやって話なんだけども。
でもでもそうとは突っ込まない佐倉先生は良い先生。
薄暗い場所で手間取らせんのも悪いか。ギターを仕舞って立ち上がり素直に背中へついていく。
こうなりゃぱっぱ終わらせましょか。何ならちゃちゃっと決めて一緒に呼び出されてるゆきの相談もオレが乗ってやるぜ。
「真面目に考えてくださいね? それと
一応人の成績に触る内容だったからか言いにくそうに違うと教えてくれた。
ゆきめ! 仮の希望とはいえそっちはもう提出していたのか。この天才美少女陽向祭ちゃん様を差し置いて!
何にせよたかえちんの友人でもある彼女を見捨てるのは忍びないし、時間があれば最後まで付き合っちゃろうだぜ。
それにたかえはオレの歌を聴いたからな。折角だしゆっきーにも聴かせてあげよう。
「演奏しに行くのではなくて、進路希望の……」
めぐぅは頭がかたいなー。
「もうっ、めぐねえじゃなくって──めぐねえでもない!? さ、佐倉先生です!」
いいじゃんめぐぅ。かわいいよ。
成長期が才能へ追い付かなかった天才故の低身長なので若干早歩きに先生の背中を追いかけとことこ。
将来、オレらの将来なー。
「三年生なんですから、進路は大事ですよ? せめて進学か就職かくらいは一緒に考えましょう」
祭ちゃんは天才だからほっといても何とでもなるさね。
「成績が良いからとかまけちゃ駄目です」
せやね。
それにしたってめぐねえ好き。
「唐突な告白!?」
だってめぐぅ、オレ相手でも平等に優しくて好きなんだもん。
ここすき定期まつりちゃんと呼んでくれ。
皆さんご唱和くださいご一緒に、さんはい!
「ここすき定期まつりちゃん!」
いいねくれーっ!
「なんの話……?」
しまった、内なる承認欲求モンスターが。
オレは歌で感動させなきゃならねぇのに!
「ではここで一曲」
「だーめ」
背中に回していたギターをさり気ない手つきで取り出させてくれなかった。おのれ。
くそう、ビートを刻めないのが心苦しい。
「ゆき!この天才究極天使の陽向祭が助けに来たぞ!」
一緒にラッパ吹こうぜ!
「あ! まつりちゃん!」
教室に辿り着くと同時に扉をスパァンと開けて宣言し、ゆきにタックル。
ちょっと楽しく無さげに沈んでいた顔がパァっと輝いた。とてもかわいい。
「うぅーん、ゆきはかわいいのぉぐへへ」
「まつりちゃん重い……」
んだと。オレの体重は40mgのはずだ。
「あと硬い……」
誰の胸骨が直接当たってるってェ!?
「そこまで言ってないよぉ」
「ほら陽向さん、邪魔しては駄目ですよ」
「ぶー」
ずりずり大人パワーで引き剥がされ隣の椅子へ座らされる。
ちなみにゆきとはたかえを通じて知らん仲じゃない。
演奏中に会う事があれば一緒に歌ってくれるくらいにはかわいい。
べりーきゅーと。
「分からない所があったら聞いてくださいね、丈槍さん」
「はぁーい」
「がんばれー」
あーあ、ゆきの顔が楽しく無さげへ戻ってしまった。
同じクラスだしある程度把握してるけど、こやつは本当に勉強が苦手じゃのぅ。
「でもまつりちゃんと一緒に補習ならがんばる!」
「陽向さんは進路を決めるだけよ?」
「ぶー! わたしだけ勉強なんてめぐねえ酷いよ!」
「いじわるしてる訳じゃないんだけど……」
勉強じゃないから楽って訳じゃないぞゆきよ。
こっちはこっちで答えのない二択を迫られているんだ。
オレのアンサートーカー的なハイパー頭脳はこの答えを出さなくて良いと叫んでいるのよ……!
「あんさぁー……?」
まさかガッシュネタが通じないとは、これが世代差か……。
それはともかくどうしようか考えつつペンをくるくるペン回しで間を埋める。
こっからの身の振り、そろそろ真面目に考えねばならぬゆえな。
「進学か就職か、まずはその二択で考えてみましょ?」
音楽が好きだからや頭が良いからと端的にそういう系の進路を指し示さず、オレみたいなの相手でも真面目にひとりの人間として次を考えてくれる。そこが好きだ。
めぐねえは面倒見がいい。相手の目線に立とうとするあまり先生という立場を気にしない。
しかし先生として、そして大人として振舞おうとする努力が沢山見えている。
だからここの生徒達にはめぐねえと馴れ馴れしく呼ばれているが、決して舐められている訳ではなく良い意味で親しみやすいのだ。
つまり。
「先生、好きです」
「はへぇ!?」
しまった! つい定期告白してしまった!
「めぐねえそれより終わんないよぉー」
アホやってる横でゆきちんがダウン。
そうねぇ、と休憩を挟むべきか佐倉先生は視線を一瞬迷わせ──何かを見つけたらしく一点で止まった。
その視線を追いかけると、教室の扉の影にいたツインテ少女と目が合っちゃう。
「なるほど」
「陽向さん?」
「これはあれだ。恋に悩む少女の顔だ。メスの顔だ。佐倉先生、いってきんしゃい」
ここまでめぐぅをすこりまくったオレなら分かる。あれは突撃できないラブハートの持ち主よ。
相談できるような大人兼お姉さんはめぐぅしか思いつかんかったんだろう。
行ってきんしゃい。
「意味は分からないけど……。じゃあ、少し席を外すね?」
「えー、めぐねえずるいー」
まぁまぁそう言うなよゆっきー。
めぐぅがいない間に終わらせてびっくりチキンさせてやろうぜ。チキチキバンバンだ。
「え? んふ」
「ふふふ……。そういうことよ」
「あの、ズルはしないでね?」
何かを感じ取れはしたのかそう言い残し、先生はツインテの下へ行ってしまう。
だが心配しつつでも席を外したのが命取りよ。
「よしゆき、プリント見せろ」
「はーい!」
「内緒だぞぉー?」
かわいい字だこと。
よしゆき、まずはここを教えてしんぜよう。おっと答え自体は直接教えないぜ? ちゃんと自分でな。
あくまでオレはお前さんのぎりぎりを見計らってその帽子から答えを絞り出させるから、そうそれ!
いいじゃんこれは良いペース。
そうその調子でゴーゴー!
「……できた!」
「ああ、できたな! 芸術作品だ!」
「完璧?」
カンペッキ!
「──終わったの?」
おうおうめぐっさん。ちょうどいい所へ。
たった今ゆっきーが全部終わらせたところだよ。
「疲れたよぉめぐねえ」
「うん、よくできてますね」
ふふん。オレ監修だからな。この程度の完璧さは造作の無い事よ。
この完璧な仕事の高ぶりハートを音楽で伝えたいレベルだぜ。ふふん。
「どうして陽向さんがそんなに誇らしげなの……?」
良い仕事したから。
「ねえ終わったから帰っていい?」
「そうね……」
ってちょいちょーい。
何で先生が唐突に板型ケータイを見とるのさ。せめてゆきの質問に答えておやりよ。
未だに進路希望を一文字も書けてないオレがギターを取り出したってスルーとか。
「もーめぐねえスマホばっか。まつりちゃん帰ろー?」
一方その頃、ゆきは既に帰ろうとしていた。
おいおいおいおい、ギター取り出したオレを前にして帰るって発想を失わないとか。
ならその意思をこの音で砕いてやる。いくぜ、ハーモナイズ・クローバー!
アコースティックver!
「……丈槍さん!」
「んぅ?」
生徒の前で
なんぞ変な件でもあったかね?
む。
「オレんとこにも着信アリ」
緊急速報かなんかくらいでしか我が古の二つ折りケータイは振動せぬというのに。……って、これは?
「……乱闘騒ぎ?」
隣でめぐねえとゆきが帰る帰らないだのお腹空いただの話しているが、どうものんびりはしていられなさそうだ。速報の中を読むに被害が大き過ぎる。
巡ヶ丘の駅やらショッピングモール、あちこちで唐突に人が人を襲うだのなんだの危ない事件が起こっている。……まさか!
そうか……。もしや、これは……。
「佐倉先生!」
「──は、はい!?」
今日の放送委員の仕事は任せていいっすか!
世界がオレを呼んでいる! オレの歌を待ってんだ!
「ひ、陽向さん。えっと、お巡りさん達の邪魔しちゃだめだから……!」
「めぐねえ?」
事件が起こってるとは唯一知らないゆきがかわいらしく小首を傾げる。
ゆっきーは見ての通りパワータイプじゃないから乱闘なんざに巻き込まれたらワンパンゆえ、安全な学校で先生と一緒に待っていてくれ。
オレは行ってくる。愛用のMyスクーターならすぐ
「えっと……よくわからないけど、なにかあったの?」
「なんでもないのよ? そ、そうだ丈槍さん、陽向さんと一緒に園芸部の見学に行こう?」
オレも参加ですか先生。
そんなことより乱闘を止めるため、オレは現地へ演奏をしに行かねば──
「──植物へ音楽を聴かせるとおいしくなるそうよ?」
屋上、そうか! よし!
今すぐ園芸部のとこ行こう!
オレの歌が求められてるなら! これが運命の分かれ道だというのなら!
「意外と単純ね……」
さぁさぁゆき。早く来い!
おいていくぞー!
そんなこんなでやって参りましたは屋上の家庭菜園。
日も傾き始めた頃合いで世界がのっぺら一色に染まりつつありますが、いかがお過ごしでしょうか。
「こんにち音楽。植物に歌を聴かせると良いと佐倉大先生がビートを刻んでいたので、セッションしにやってきました」
「よくわからないけど、こんにちは?」
糸目で園芸部のチャンネー部長が困惑しつつ挨拶を反してくれたので、これはおっけーと判断し手近なバケツを引っくり返して座って構え。
先程はキャンセルされてしまったが、この時間帯をイメージした曲であるハーモナイズ・クローバーを今こそ!
「えっと、あなた達は園芸部の見学かしら?」
「はい! トマト、すっごくおいしそうだね!」
「食べたい?」
「いいの!?」
「ええ、お手伝いしてくれたらね」
妹系を扱うのが上手いのぅこのチャンネー。相手の要求を即座に労働力へ転換しお互い遠慮なしにするとは。
はじめに言っておくけどオレはトマトいらないぜ。歌を聴かせるのが目的であり報酬でもあるからな。
「ふふ、ありがとう。でも遠慮せずその子と一緒に食べてもいいのよ?」
ちゃうねん。あたし、トマト苦手やねん。
頑張って育ててる人の手前で言うのはあれだけどさ、家庭菜園のって出荷してる訳じゃないじゃん? だからちゃんと熟してるのかどうかわからんくて。
前にまだのやつ間違えて食べちゃってさ、どうもそれ以来トマトが……。
「あれー、まつりちゃんトマト食べられないのー? わたしが全部食べちゃおっかなー? どうしよっかなー?」
「食べても良いけど全部は駄目よ?」
やーいゆっきーからかおうとして怒られてやんのー。
「……」
そんでだ。佐倉先生よ。
さっきからずっとスマンホッホンゴを気にしてるけどまだ乱闘騒ぎ気にしてんの?
オレが歌を聴かせてみんなを夢中にさせりゃすぐ終わっただろう事を、こうしてここへ呼び止めたから──
ドン
ドン
──ふいに扉が強く叩かれた。失礼します的な叩き方じゃなくて、力の限りって様子だ。
「もしやこの時間に屋上にいるのって校則的にまずかった?」
とは思ったが、しかしそれにしたってこのドラムから感じ取れる必死な感じは何だろう。
やけにひっ迫した……。そうだな、まるで例の乱闘騒ぎから逃げてきたかのような……。
「はーい! 今開けるよー!」
待てゆき。
「まつりちゃん?」
「時間帯的に居留守でやり過ごさんと園芸部じゃない我々はしばかれる可能性がある」
「そうなの?」
「なら私が」
「口とギターの上手い我輩がお相手いたそう。下がっていてくれ」
これはゆきを止める為の言い訳。
扉を開けた途端に拳が来たらゆきが文字通りワンパンされてしまう。かわいい子が傷つくのは耐えられん。
オレがここを開けよう。オレの超ヤバい全知的能力なら開けた途端襲われても避けつつ歌える自信があるし、それで相手のハートを射止めればいい。
「陽向さん待って!」
「あの、何かあったんですか?」
またしても何も知らない園芸部さんは困惑中。
めぐっさんはちゃちゃっと説明ヨロ。
「お願い、誰か、誰か開けて……」
直接的なアプローチとはやはりピンチか!
待ってろ今開けるぞ!
「お前はさっきチラ見したツインテ! と、全く知らん人! 無事か!?」
「はやく鍵かけて……っ!」
さっきのメス顔ツインテが男児を担ぎながら屋上へやってきたではないか!
なんか満身創痍だぞお主ら!
「この人怪我してる! 先生、早く保健室へ!」
園芸部さんの言う通り、動けんくらいの怪我したんなら普通そっち行くよな。
あんた恰好からして今日も下で走り回ってる陸上部だろ? なんでそこから
細身な癖して中々のパワー系。バンドでいうならドラムだな。
「下は駄目だ! だめ、なんだ」
「なに、あれ……」
手持無沙汰に外を眺めていたらしいゆきが弱々しく声を震わせながら呟いた。
状況確認にそっちも気にはなるが、まずはとにかく怪我人最優先よ。
疲れ切ったツインテから男児を受け取り、平地へ降ろして怪我の手当て開始。
モノが無いので園芸部の首に掛かってたタオルを奪って止血くらいだがやっておく。
夕焼けとべちゃべちゃで何がどうなってんだか殆ど分からんが、傷の位置は何とか分かるのでひとまずはこれでいいだろう。
めぐねえ……は、ゆきに釣られて校庭見て固まってる。
よっぽどやべぇんだな下。
「どうだツインテ喋れるか。何があった」
「急に、みんなが“ああいう感じ”になって……」
オレはそっち見てないからどんな感じか分からんけど、たぶん駅とかでやってた乱闘騒ぎと同じあれか。
あっちこっち賑やかなこって大変だね。
ったく、急なもんだからどうしたもんかな。
「うッ……」
「先輩!」
「外に出て救急車を呼ばないと!」
園芸部。そりゃきっと無理だぞ。
あっちこっちステーションな騒ぎだと救急隊もてんやわんやで来られんと思うからな。
佐倉先生がスマホを耳に当てたまま固まってるし、ほらきっとそうだよ。こういう非常時はみんな呼びたがるから。
……んんー? にしてもこれ、もしや噛み傷か?
幼稚園児の喧嘩じゃあるまいし。
って、噛み傷? あー……。
「陽向さんの言う通り、電話しても繋がらない……!」
先生が困惑に満ちた声を絞り出した途端、どこかで爆発音がした。
ステージの演出のような意図したものではなく、事故が起こったとしか思えない音。悲鳴が止まない。
「わかんない……」
おおう、ゆき。お前も分からんのは承知だ。落ち着け?
なんせスペシャルな頭脳を持ちIQ5000兆を誇る英傑、陽向祭ですらまだいざこうなると事態を把握しきれとらんのだからな。
今これ世界どうなってんの? どこ? 世界の歴史のどこらへん?
にしても本当にどうしたどうした。
オレも校庭見りゃちょっとは状況が……?
「乱闘騒ぎっつうのは、ニュース上そう表現せざるを得なかった系のあれかい?」
お陰ですぐに分からなかったぞ。
例えるのなら、“ゾンビもの”としか言いようのない光景。
人が人を襲い、食い、仲間を増やす。逃げまどっても焦りから捕まって、噛まれ……そんな感じの。
ははーん。さては今日がXデー。ついに来たかこの日がテメー。
「……なんで……どうして、こんなこと……」
駅も、ショッピングモールも、人が多い場所で乱闘騒ぎと見物客が集えばどうなるか。
状況を知らない後列が前列を封じ込め、そこからどんどん増えていったのだろう。
それがやがて学校にまで及んできた。
めぐねえは良い判断をしてくれた。
学校を出ようとしたやつを何とかして校内に留まらせたのが大正解だった訳だ。
しかも到達ルートが階段の一つしかない屋上なのもとてもいい。
天才陽向祭も実際見る状況がこんなんじゃあ、歌ってる途中にあっさりやられちまってたやも知れん……。
「助かったよ先生。屋上に残ってなきゃ、歌を聴かせるどころじゃなかったかも」
「そんなことよりも、今は!」
ドン
ドン
「また負傷者か!? 待ってろ!」
「陽向さん待って!」
今開けてやっから! 人命救助は超大事!
急いで扉へ飛びつき、鍵を開け──いや、これは駄目だ!
「うわぁ!?」
「陽向さん!」「まつりちゃん!?」
「くそっ、きやがった!」
扉の小窓が割れ腕が伸びた。
咄嗟に反射で顔は庇ったけど、全身にガラスを浴び尻もちをつく。
へ、へへへ。
いきなりかましやがって、びっくりしたじゃねぇか。
「ぅ、うう、ぅ……」
あまりの現実が受け入れられなかったんだろう。ゆきが頭を抑えてうめき声を漏らす。
ああもう! かわいい子の涙は見たくねぇのに、んにゃろぅ共!
かわいいかわいいウチのゆきを怖がらせやがって!
感情の籠ってねぇドラムキックなんぞオレのギターに
いくぜ本日お馴染みのナンバー、ハーモナイズ・クローバー!
オレの歌を──!
「園芸部のロッカーを、陽向さん!」
あ、ちょ! バリケードなんて作ったら聴かせるもんも届かねぇじゃねぇか!
先生だけでなく園芸部も手伝って扉を抑えだしちまう。
こうなったら目的変更だ。未知の状況にパニック状態なゆきを先に落ち着けよう。
溢れ出るバーニングソウルの出力を調整し、まずは静かに弦を鳴らす。
電子を一切通していない、味のある生音しか出せないアコースティックギターだぜ?
これが心へ届かない訳がねぇ。
「ゆき、顔を上げな。歌はここにある」
「……」
「いつだって現実は厳しい。でも歌は、音楽はいつも人と共にあった」
人がいるから音楽がある。音楽があり続ける限り、そこに人はいる。
シンガーってのは、だからどの時代にもいるんだ。それがロックだからな。
「……うん」
オレの心を、魂を存分に乗せて奏でられた音。
少しふらついて視線は定まってないが、オレという存在の安心感が歌と共に届いたらしい。
ゆきは持ち直したようで、まずすべき事として扉を抑える役目へ加わっていく。
一緒に歌うよかそっちに行っちまうのはちょいと悲しいが、まぁ音がハートへ響いたのなら無問題。
「扉の向こうがどうなってんのか分かんねぇが、心が伝わらねぇ相手なんざいねぇんだ」
「もう歌うのをやめなさい!」
糸目を開いた園芸部から物凄い剣幕で怒られる。
こうしている間にもばんばんと扉を叩かれていたし、勝手に時間稼ぎとされてたらそら怒るか。
でもすまん。ゆきに歌を聴かせるのが最優先だった。
「おまえ、歌はいいけど今はそんな場合じゃ」
疲れがまだ残っているだろうツインテも籠城バリケード組へ加わろうとしたのか立ち上がる。
確かに現実的にみりゃこんなパニック映画みたいな状況で歌を貫くのは間違ってるけどさ、だからこそオレは歌を貫きたいんだよ。
ロックってのは現実を乗り越えてこそロック!
駄目だ無理だの道理も全部、ぶっ壊してこそ……!
「ぁ……。せん、ぱい……?」
ツインテとオレの間、ぬっと何かが立ち上がる。
そうだ。そこの床には噛み跡の怪我をしていた男子がいた。
この展開、この光景。
もしかしてって今更言うのもあれだけど、これって、たぶん──
「──
名前が明らかになったツインテこと恵飛須沢が男子に突き飛ばされ、あっけなく床へ転げる。
佐倉先生は逃げてと叫んだがあの体勢じゃ無理だ。這って行くにしろ、諸々の状況が悪く動けない。
諸々の状況が悪いというのは、倒れた近くに
逃げられない状況で襲われれば、恐慌状態なら、何をするか。
これは運命だ。
「オレの歌が聴こえねぇのか! お前もこっち向いて聴きやがれ!」
このままじゃまずい。
「あ、あ……」
男子にはもう理性がなく、あちこちの騒ぎと同じ、それこそさっき恵飛須沢が自分で語った通り“ああいう感じ”になってしまったと分かっているんだろう。
逃げなきゃやられる。でも逃げようとしても足は動かず、地面をゆっくり後退しかできず、何とかしないとと必死に考えを巡らせているであろう手が
「お前ら、オレの歌を!」
歌で運命を変えようとギターを掻き鳴らすが状況は変わらない。
恵飛須沢が
だが、それをしてしまえば……。
「よせ!」
「うわぁああああああ────っ!」
弦を指が滑る音だと信じたい。
「……」
恵飛須沢は、
これが、物語のはじまりなんだ。
次話は明日投稿いたしますので、感想やお気に入り評価等々よろしくお願いします。