【完結】学園生活騒音部 ~のーきる・のーばらーど!~   作:親友気取り。

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12 ふ・れ・ん・ど・し・た・い

 

 

♪

 

 

 資材資源、食料の貯えについては地下の豊富な備蓄のお陰でしばらく困らないだろう。

 しかし学園生活部が設立されて以降の大事件、これは私達から多くのものを奪った。

 

 引き換えというには釣り合わない多くのものをだ。

 

 安全だった校舎や、備え付けられていた電気や水を生み出す機械。

 それに、取り返しのつかない大切な──。

 

 

 

「まつりちゃん、起きないね……」

「おはようございます、丈槍さん。……えっと、顔は洗ってきた?」

「お水出ないんだもん」

 

 

 

 ここに、陽向さんが眠っている。

 火災による損傷を免れて比較的無事だった放送室へ寝かされた陽向さんは、あれからもう数日経とうというのに目を覚ます様子も、その気配すらもない。

 右腕の噛み傷以上に全身の火傷が痛々しく、彼女の視点からでは炎が見えずに触れてしまったのだろう事を物語っている。

 その上で彼女らしいと言う他ない、どこからか拾ってきたギターを使い無理やりの演奏。

 

 手は尽くした。

 後は、本人が目覚めてくれるだけ。

 

 

「そしたら、若狭さんが朝ご飯を作ってくれているからその手伝いを」

「……はーい」

 

 

 一歩、二歩と後ろに歩いてから丈槍さんがそろそろと放送室を後にしていく背中を見届ける。 

 

 ──あの時シャッターの前で歌い崩れた陽向さんを救ったのは、まるで導かれるように偶(・)然(・)手に入れることができた特効薬だった。

 それのお陰で感染か発症、とにかく“仲間入り”については回避できたのだろうけれど、もしかしたら遅かったのかも知れない。

 

 ふとした瞬間に止まっているんじゃないかと思うほどの微かで浅い呼吸と鼓動が、まだ生きている事を知らせてはいる。

 でもそれがいつまで持つか。

 ここには医療設備や点滴なんてものもなく、最初に打った薬の注射のみで、いつまでこの小さな身体が持つのか。

 

 

 

 今日にでも。

 

 

 

 明日は。

 

 

 明後日になったら……。

 

 

 

 汚れ、焼けた生活圏を一つ一つ片付けていく度に。

 一つ一つ学園生活部の日常を取り戻していく度に。

 あの日に取り残されたまま動かない陽向さんが、これからどうなるかという現実が浮き彫りになっていく。

 話し合っても答えなんか出ず、表面上は取り繕えても段々とみんな憔悴している。

 いつか誰かがとうっすらと覚悟していたことが目の前に迫っている。

 

 追い詰められた顔をした若狭さんが、こっそりと近くの机に包丁を隠していたのも記憶に新しい。

 そもそも私達が無事なのも既に奇跡だ。

 これ以上の奇跡はもう、ないのかも知れない。

 

 

「ねぇ、そういえば屋上のトマトってまだあるのかな?」

 

 

 1つの席、ひとりが欠けた食事の中、丈槍さんが努めて明るく口を開いた。

 時折言葉に詰まりながらも、重く暗い雰囲気をものともせず話題を提供し続ける。

 それが彼女が自覚している自分の役割だからと。

 

「ゆきちゃん」

 

 でも、それを若狭さんは止めてしまった。

 

「……ごみん」

「……」

 

 

 これが以前と異なる日常だ。

 いいや。今もまだ、事件は終わってない。陽向さんがいないという、音楽がないという非日常は続いている。

 

「くぅーん」

 

 部屋の隅に置かれた主のいないギターを太郎丸が鼻で突いた。

 

 

 

 食事を終えた後は各々自由行動となるけれど、かといって現状急いですべきことはない。

 恵飛須沢さんと直樹さんが地下へ使えそうな物資の回収へ出向き、祠堂さんと若狭さんが回収されているものの管理や機械関係の修復が行えないかを試す。

 そして私は陽向さんの様子を観察するだけで何もできず、丈槍さんは──あの日からずっと机に向かって何かを書いていた。

 

 全員が協力しているようで、その実はバラバラ。

 陽向さんも、私達も、いつまでこうしていられるんだろう。

 きっといつまでもと言う訳にはいかない。

 

 その内に、いいや。

 限界はもう迫っている──

 

 

「めぐねえ、まつりちゃん起きた?」

「丈槍さん……」

「どうして起きないんだろう」

 

 

 祈りを捧げるしかない中、いつの間にか放送室にはみんなが集まっていた。

 

 

「まつりのやつ、ほんと勝手なんだからさ。いい加減に起きろよ」

 

 

 恵飛須沢さんがぽつりと呟いて再び沈黙が訪れる。

 世界がこうなってからの初日、ギターを片手に飛び出した陽向さんを追いかけた時と同じ言葉だ。

 あの日から続いた今日。明日へ続かない今。

 次へ進むにはどうしたらいいか、みんなが悩んでここにいる。

 

 

「……」

「ゆきちゃん?」

 

 みんなが祈りを捧げるだけだった空間の中、丈槍さんが前へ踏み出した。

 涙を浮かべながらも、それでも笑顔を繕って、明るい声で。

 

 

 ──彼女は歌い始めた。

 

 

 

「わたしたちは ここにいます

ここには夢がちゃんとある」

 

 

 

 明るく、子供っぽい歌詞。

 それでも感じるのは、丈槍さん……いや、学園生活部らしさ?

 これって、もしかして……。

 

 

 

「フレンドなら ともだちでしょ

すきって言ってみた」

 

 

 

 そっか。丈槍さんがずっと書いていたのはこれだ。

 学園生活部の曲、陽向さんが楽しみにしていた……。

 

「ゆきちゃん……」

「ほら、りーさんも」

「でも」

「そうだよ! みんなで一緒に!」

 

 溜息を突きながらも前へ踏み出した直樹さんと丈槍さんに引かれてみんなで並ぶ。

 よし歌おう。そしたら陽向さんも満足するから。……なんて思っちゃうのは陽向さんに影響され過ぎかな。

 フィクションみたいなそんなデタラメと祠堂さんは笑うけど、そんな滅茶苦茶を貫き通してきたのが陽向祭という人物なのはみんなが知ってる。

 だから、歌うのだ。

 

「じゃあ行くよー? せーのっ!」

 

 

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

放課後なら当たり前のこと

さぁさ集まれこっそり帰るな

 

部活動だね 活動しちゃうね

遊んでるんじゃありませんっ!

 

 

 

 初めて見る歌詞。初めて歌う歌詞。

 それなのに全員、まるで何度も歌った事があるかのように歌えた。

 

 

 

ただいまって あのこが言うよ

みんなでいれば大丈夫

 

エビバディ セイ!

ともだちで いよーね

 

 

 

 太郎丸がかわいく吠える。声が重なっていく。

 みんなの声が、空間に響き渡る。

 

 色(・)を(・)つ(・)け(・)て(・)い(・)く(・)。

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

 

わたしたちは 楽しんでる

24時間 はしゃいでる

 

屋上に ま(・)っ(・)赤(・)な太陽

かなり 叫んでみた

 

 

 

 

 

「元気でえぇぇぇぇぇぇす!!」

 

 

 

 

 

 その時、雄叫びがあがった。

 それが誰のものかなんて言うまでもない。

 

 

「もうっ、私に歌わせないでくださいっ!」

 

 

 直樹さんが照れ臭く返し、笑顔が灯る。

 学園生活部に欠けていた一人は、陽向祭は、今ここに復活した。

 

 

 

 

 

♪

 

 

 

 

 

「出身は新潟、身長4cm、靴のサイズは5km、体重40t。他に聞きたい事は?」

「答える気ないだろ」

「越後国出身なのは本当だよ」

 

 ヘリの爆発を食らった打撲と左目の負傷、右腕の噛み傷。

 それにプラスして全身の火傷。

 自分の事ながらよく生きてたなぁ。

 てかなんで生きてんだよこれで。

 

 きっとオレの本能が歌を聴き逃がして死んでたまるかってなってたんだろう。

 みんなの想いで死にそこねたか。

 誰かに呼ばれたのかもな。生きろと。

 

「身体プロフィール非公開とかアイドルかよ」

「じゃあ、赤色が見えないのってホント?」

「それはマジだよ。ゆきヘッドがみーくんカラーとダブリ」

「なにそれ」

 

 ふ、お主にゃ分からん事よ。

 

 目が覚めてからというものの、今までオレが倒れてた期間を埋めんが如き勢いでこやつらは色々と聞いてくる。

 やれ出身がどことかやれ色がどうとか。他にも過去の実績とかそういうの。

 唯一みきがなんも聞いてこない辺り、こいつが多分差し向けたんだろうな。

 ほら、きっと陽向ってやつは聞かないと答えない内容が多いから聞いてこいって顔してる。

 

「あんなー。オレは別に隠し事なんかないぜ? そんなあーだこーだ言わんでもさー」

「そういってピンチになったんですから反省してください」

 

 ……うん、赤色盲放置については悪かったよ……。

 でもみんな察してくれると思うじゃん……?

 そもそも学校であんな色の付いたレンズの眼鏡かけてるのに怒られてない時点でさぁ。

 

「その辺どうなのよぅ、めぐぅ」

「それ以外にも怒られる要素があったのに放置されてたから……」

「んあぁ! もうっ、教員連中めぇ!」

 

 いくら天才美少女が相手とはいえそう畏まらんでいいの!

 そういう特別扱いが一番やなの!

 

 

「けど、お陰で楽しかったぜ」

「まつり?」

「ご飯できたわよ」

「りーさんママァー!」

「うわ」

 

 

 しっかし全身がいてぇ。

 歩けない事はないんだが、基本は寝て、移動は車椅子を使用して療養。

 まぁ怪我の規模が規模じゃけぇのぅ。てかほんとになんで生きてんだあたし。

 久しぶりのご飯タイムとなったが、身体が痛むことを言い訳に食べさせて貰おう。

 

「まつりちゃん、あーんっ」

「んあー」

 

 ゆっきーにおかゆを食べさせて貰えてるしいっか。

 ぐへへ、かわいい子があーんしてくれるなら幾らでも食べちゃうもんね。

 

「お前はそれでいいのか……」

 

 んだよくるみ。文句あっか?

 

「べっつにー」

「それにしてもまつりちゃん、利き手が動かないなんて大変ね」

「利き手?」

 

 確かに噛まれただの火傷だので右腕は完全におしゃかだが、別に逆サイドが動くし問題はないぞ?

 

「え? でもいつも右手でご飯食べてなかった?」

 

 利き手とは凡人の発想なのだよ。

 それにむしろ左腕一本のが身に馴染むくらいだ。

 

「最後のは強がりでしょうけど、多分陽向さんは置かれた箸をそのままの向きで使ってただけかと」

「えぇー……」

 

 いちいち見せつける為に左右切り替えるのもめんどいじゃん。

 

「つかだったら自分で食えよ」

「ゆきに食べさせて貰うんだもーん」

 

 イヒヒ。んぁいたたた。

 そこ触らんといてや。

 

「あ、ごみん」

「うーん。やっぱ触られるともっと痛い」

「この火傷、残っちゃうのかなぁ」

 

 今眼帯してる左目の方はそのうち完治して取れるとは思うけど、火傷の方はロクな治療もできなかったし残っちゃうかもなぁ。あと噛み傷。

 身体に残った方は服で隠せる。が、顔の方は化粧品もあんまないし諦めよう。

 

「ごめんなさい陽向さん。私達にはそこまで……」

「めぐぅが気負う必要はねぇさ。むしろこの火傷痕はなんというか、ファッションにできねぇか楽しみなくらいだぜ」

 

 それに生きてる。生きてここにいる。それで充分じゃないか?

 こんなもんオレの目と一緒で聞かれたら堂々答えるまでよ。

 歌でシャッターをこじ開けた勲章だってな。

 

「けど、この学校にいつまでも留まるのも難しいよね」

「くぅん……」

 

 けいはまだ不安があるそうだ。太郎丸も同調して悲しそうに鳴く。

 あー、まぁそうね。学校の設備全部ダウンしてるんだっけ。

 

 

 

 久方ぶりの食事を終えた後、ゆきに車椅子を押されて訪れたのはとある教室。

 屋上にヘリがぶつかって爆発した衝撃で、ものの見事に大穴が開いてしまっていた。

 まったくとんでもないことだよ。黒板も真っ二つで大空が見えちゃってるじゃんか。

 悲しく朽ち果てた空間、でも美しい。

 

「直せそうか?」

「あんなーくるみさんさー。いくらこの陽向様が超スーパーすげェ天才とはいえ、素手で建築修繕は無理あるぞ」

「そっちじゃねぇよ」

 

 わーってるよ。インフラ関連だろ?

 けいとりーさんが作ってくれた破損メモを見る限り、みんなが行える範囲の作業で復旧自体はできそうだ。

 ただし、しばらくは2~3人が細々暮らす分をようやくってレベル。

 なんせ口頭の指示じゃカバーしきれん専門的な部分があって、そこはオレの回復待ちとするしかないからな。

 

「私達でもできそう?」

「まだ直接見てないから詳しいことは言えんが、みんなに任せるとすれば多少配線繋ぎ直したりパイプ叩いたりで済むもんだけだしちょちょいのすぐよ」

 

 それよかりーさん、自分達じゃあお手上げだってのによくこんな細かいメモ作ったね。

 綺麗にまとめられてるお陰で助かった。

 

「まつりちゃんが起きたら直してもらおうと思って」

 

 えへへ、照れるぜ。

 みんなしてオレのこと諦めてなかったな?

 ……さらっと回収してた包丁については触れずにおこう……。

 

 まぁそれはさておき。

 でだ。

 ──お前ら。ひとつ考えてることがあるだろ?

 

 

「それは」

「あー」

「え? なに? なに?」

 

 

 ゆきは聞かされてなかったようだが、当たりらしい。

 当てられたのは例の知識のお陰だからあまりドヤ顔すべきじゃないけど。

 いやそれを導く研究したんだしドヤ顔していいのか?

 ともかく、これからの行動は一つ。

 

「ここを出て大学へ向かうか、製薬会社へ向かうか」

「ああ! 進学か就職!」

 

 いやゆきちゃんピンときてなかっただけかい!

 

「ここが機能停止したからマニュアルに書いてあった関連施設を当たってみようってとこだろ?」

「……ええ。他にも生き残りがいたらって」

「けどまつりは寝てるしけいの足はまだ悪いし、そもそも人数に対して移動手段がないんだよなー」

 

 なにも全員で行く必要なかろう。

 

「──先生の車を借りて、4人が出発。ですね?」

 

 がらがらと扉を開けてみきとけいがやってくる。太郎丸も一緒だ。

 どうやらロジカルなみっきーは先回りしてオレの言いたいことを汲んでくれたらしい。

 いやぁ話が早くて助かる。

 大事な話になるってのにめぐぅはどこいったよ。

 

「洗濯物の取り込みです」

 

 さっきやってたじゃんけんはそれか……。

 

「それでみきちゃん。4人でっていうのは?」

 

 おうりーさん、カリカリすんな落ち着きなせぇ。

 復旧させてもここの設備が住めるのは数人だってのは話したろ?

 めぐぅカーに乗れる4人は外へ生き残りや救助の捜索、学校に残る面々で修繕や人命保護が行われた際の受け入れを担当するわけよ。

 ……まぁ、後者はホント後々になりそうだけど投資って事で。

 

「でもさ、それじゃ学校に残るのって」

「怪我してて動けない私や陽向先輩、それと──」

 

「終わりましたよって、え? なに? 私?」

 

 めぐぅがきたので視線が集まってしまう。

 まぁ、残るとしたらこの人よな。自然と運命的に。

 ざざっと説明。

 

「うん。そういう理由なら」

 

 意外とあっさり納得してくれたじゃん。

 

「先生は学校にいてこそですから。それに、怪我してる2人を置いていく方が耐えられません」

 

 さっすが先生! 略してさす!

 

「略し過ぎですっ」

 

 そしたら、さっさと準備してかねぇとな。

 楽器もない非戦闘員が3人ここへ残るんだ。防衛と資源は潤沢に。

 そして次のライブの準備もだ!

 忙しくなるぞぉー!

 

 

 

 

 

『おーっ!』

 

 

 

 

 

 学校に残るのはめぐねえ、けい、オレ。

 出発するのはゆき、くるみ、りーさん、みき。

 

 そう。オレの知ってる正史で学校を発ったメンバーと残された者だ。

 正確に言えばその歴史にオレの名前はないけれど、でも似たようなもんだろ?

 この帰結が修正力なのか、偶然なのかは分からない。

 

 だけど一つ信じたいのは、運命に縛られるなんて考えたってしょうがないって事だ。

 幾らか身代わりにみんなの事象を代表して被ったってオレは死ななかったんだし。

 

 皆の歌を聴いて、世界に向けて歌って、オレは大満足したよ。

 だから──あたしの番があってもいいかも知れない。

 

 

「みき」

 

 

 目覚めから数日。

 面々が青空の見える教室での卒業式を終え、設備の修理の際にわがままで屋上に作って貰ったたかえの墓にチョーカーと祈りを捧げ、後は出発するのみと荷物の最終確認をする中でみきを呼んでおく。

 正直にあたしが知りえる情報全てを渡すのはあたしも身を持って体験した“知ってるが故”っていうのが怖いので、唯一事情を知っているみきにこっそり資料とペットボトル2本を渡す事にした。

 

「何ですか、これ」

 

 ぺらぺらとめくって中身を確認したみきは眉を潜めた。

 無理もないか。実体験した感染状態と治療についてをまとめただけにしては詳細過ぎるし、研究機材がないから細かい分析や証明はそっちでやってねっていう投げっぱ論文なんだから。

 陽向祭のネームがなきゃ机上の空論、あるいは妄想と捨てられてもしょうがない内容。

 でも、あたしが持たせるんだから相応の意味があるよー。

 

「これもですか?」

 

 そう言って示したのはペットボトルの水道水。

 学園の水道水も薬の一部を成すなんて、と言いたげだ。

 実体験したんだからしょうがないじゃん。雨とスプリンクラーの水で噛まれた後も幾らか意識保てたんだからさ。

 

 とにかく!

 大学に着いたら理学部棟を訪ね、そこにいる人物へ陽向祭からだと伝えて好感が持てたらこれらを渡すこと。

 

「お知り合いですか?」

「一方的にね。たぶん向こうも一方的に知ってるかもだけど」

 

 みきがあたしのこと知ってたみたいにさ。

 ちょっと怖いけど良い人だよ。

 

「名前とかは」

「相手が信用足るかは自分の目でなー」

「……それで好感が持てたら渡すと」

 

 みーくんなりに考えて全部受け取ってくれた。

 ま。あんま深く考え過ぎず、陽向祭って名前の仲介無しに相手と仲良くしてくれって事だ。

 万が一何かあって誰もいなかったり信用できないと感じたら、その時はタイミングが来るまで大事に持っておけばいいよ。資料と水だけだし大してかさばらんでしょ。

 というわけで、あたしからは以上だよ。

 

「分かりました。ありがとうございます」

「あら素直」

 

 もうちょっとあれこれ質問してくるかと思ったけど。

 

「陽向さんが私達の行く先を考えて託してくれてるんです。だから、信じてみようかなって」

 

 あはは、照れるな。

 散々非科学的なライブだのギターだのやっといて。

 

「そんなデタラメを目の前で通してしまったんですから、信じてみる他ないじゃないですか。何ですかみんなで歌ったら起きるって」

 

 あっはっは。

 それに関してはあたしも知らん……。人間の執念ってこわ……。

 

「陽向さんがドン引きしないでくださいよ……」

 

 あ、そだ。なぁみきさんや。

 そんな堅苦しく他人行儀せんでさ、みんなと同じように名前を呼んでくれないか?

 あたしも、物語に混ぜておくれ。

 

「もう充分に物語をかき乱したじゃないですか。──まつり先輩っ」

 

 

 

 

 

 みきが笑う。

 ふふ、やっぱり歌も良いけど笑顔が一番だ。

 

 

 

 

 

「──おーい、そろそろ行くぞー」

 

 ほら、お呼びがかかってるぞ。

 さぁ行ってこい。次の物語がお前を待ってるぜ。

 

「ねぇねぇ、なに話してたの?」

「ゆきちゃん。女の子には秘密があるものよ」

 

 ぞろぞろ集まってきた面々が好き勝手言いなさる。

 誤解されるようなこと言わんでくれりーさん。

 別れを惜しんでちょっと話してただけだよ。

 

「お別れ、かぁ」

 

 ゆきがそう名残惜しく呟き、黒板を振り返る。

 卒業式の際にチョークでみんながラクガキした黒板には、想い出や感謝が詰まっていた。

 今のこの目には、とてもカラフルに見えるよ。

 

「……まつりちゃん、泣いてるの?」

「泣いてないよ」

「じゃあこっち見てよー」

「いやだね」

「ぶー」

 

 いつの間にあたしへ宛てたメッセージなんか書いたんだよ。

 そういうのはさ、ったく……寂しくなるじゃん。

 こっちだってなぁ、楽しいみんなとの生活を終わらせたくないんだよ。

 

 けど、世界を守るにはお前らを送り出さなきゃなんねぇんだ。

 そんで、お前らの帰ってくるこの学園を守らなきゃいけねぇんだよ。

 

 

「急に規模でかくない?」

「で、そのカギをみーくんに託した訳」

「そうなの?」

「えっ」

 

 

 ほら、こんなに喋ってたら行きたくなくなっちまうだろうからはよ行ってこい。

 旅はいつか帰る所へ向かう行為という。

 だから今は行ってこい。そんでいっぱいお土産持ち帰ってこい。

 今生の別れじゃねぇ。お前達の帰る場所はここにある。

 

 

「よしっ。まつり、それにめぐねえとけいも」

「行ってくるわね」

「行ってきまーす!」

「……じゃあ、また」

 

 出発と元気よく声を出し、窓から直接駐車場へ降りた面々が足早にめぐねえの車へ乗り込む。

 

「ああ、行ってこい」

 

 走り去っていく車からはまた学園生活部の歌、完成した「ふ・れ・ん・ど・し・た・い」が聴こえてきた。

 よく歌い、よく歌を聴いて、ここまで来た。ここまでこられた。

 

 物語が幕を閉じる。

 あたしの出番はこれで終わりだな。

 

 窓から離れて背を向けて、残った2人と一匹に向き直る。

 さて。

 

 

「よく燃えたなぁ」

 

 

 こっからだぜ。あいつらはあいつらの、オレ達はオレ達の物語。こっからだ。

 次のライブの為にやることはたくさんある。

 学校が廃墟になった事で立ち寄る“あいつら”の数は減ったとはいえゼロじゃない。

 怪我人ふたりに戦いに抵抗のあるめぐぅひとりだ。去る前に作ってくれたバリケードもあるとはいえ、修理ついでに仕掛けもあちこちにせなんだならん。

 

「まだ歌うの?」

「本当に好きなんだから」

「わんっ」

 

 うーん。本調子じゃないしギターもないからまだだけど、でもオレだしな。

 あ! あいつらに代用のギター探してもらうの忘れてた!

 

「大丈夫じゃないかしら」

 

 そう?

 

「ま、じゃあまずは歌うか!」

 

 それが陽向祭だからな!

 

 

 

 

 

 ──みんなで歌う、みんなが笑顔の世界。

 誰も傷つかず(のーきる)、誰も悲しまない(のーばらーど)を目指したっていいじゃんか。

 だって“ここには夢がちゃんとある”ってのを証明せにゃならんからね。

 

 世界には、今も確かに希望があるよ。

 

 

 

 

 

 







 というわけで、これにて学園生活騒音部完結となります。
 本当は各話毎に各キャラと歌わせたかったり、でもそうもいかないからサブタイだけでもキャラソンから持ってきたり、色々頑張りました。
 あと話数。ワンクール風に12話で完結っておしゃれじゃないですかぁ!

 色々と話したい事はありますが、最後に一言。
 頑張ったからもっともっと褒めてー! 評価とか感想とか推薦とか、色々くれー!!
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