【完結】学園生活騒音部 ~のーきる・のーばらーど!~ 作:親友気取り。
「る……るるる……」
「歌ってないで寝たらどうだ?」
何がなんだか分からないまま、シャベルを振るったのは何時間も前のこと。
屋上への扉を叩いていた連中は気が付くといなくなっていて、学校や街は静かになってて、街に明かりはなくって暗くって──。
ブルーシートの端をあちこちへ繋げて作った即席のテントでは休もうにも眠れず、そっと表へ出てみれば小さな影が大きな楽器を持ちながら柵に背中を預けていた。
なぜか左右でソックスの色を違えてて、寝癖みたいにハネてるショートボブにサングラスみたいな赤いふちとレンズの眼鏡を掛けた幼げな見た目。
名前は
一度も同じクラスになった事はないし今日初めて会ったけど、名前だけは前から知っていた。
放課後になればどこからともなくこいつが発生源の演奏が鳴り続け、放送委員として下校を促す際には必ず「蛍の光」を流すほどの音楽好き。
直接関わらずとも色んな噂を聞く。殆ど、あたしからはあんまり話題にしたくないモノばかりだけど……。
とにかくとりあえず有名人。でも全てを音楽に片寄らせてしまった変わり者。
そんな陽向祭はどんな人物なのか?
今日ようやく相対してみて、ようやく色々言われる理由がわかった。
「……」
「おーい?」
自分の世界に入り込んでぶつぶつと何かを呟くように歌いながら、たまにべーんと弦を鳴らす。
あたしがとっさに先輩だった“それ”へシャベルを振るった後からずっとこれだ。
最初は目の前で人だったモノを倒してしまったことへのショックだと思った。普通だったら軽くでは済まない罪だし、やらなきゃやられていたからしょうがないと自分に言い聞かせてもあたしだって衝撃が抜けない。
でも陽向祭という人物はそういう常識的な物差しで計れる人間じゃなかったらしい。
こいつがさっきからぶつぶつ呟く歌の隙間に漏れる言葉を聞いてみて分かったけど、ずっと「歌を聴かせられなかった」とか「上手い演奏であればいいって訳じゃない」とかを繰り返してる。
つまり……こいつがこうなっているのは、自分の歌や演奏が“あいつら”へ届けられなかったとかいう理由のようだ。
なんというか、こんな非常時に何を言ってるんだこいつは。
しかし実際のところ、扉を開けられたら全員がやられると
頭は良いみたいだからこの状況が掴めていないってことなさそうなのに。
……もしかしたら、これがこいつなりの現実逃避の形なのか?
先輩へシャベルを向けた感覚は本物で。
さっきこっそり屋上から捨てたのも、本当で。
あたしだってこれが悪い夢だと思いたい。
あたしだけじゃなくって、テントの中で震えてお互いを抱きしめ丸まっているりーさんとゆきも、それに扉の前で寝ずに見張りをしているめぐねえだってそう。
「なぁ、まつり」
ゆきよりも一回り小柄で子供っぽい姿。
ああ、いや、容姿はあまり関係ないんだけどさ……。
とにかく何か嫌な事があってより自分の得意なことに傾倒して誤魔化そうとするのは、陸上やスポーツの選手以外だってある。
まつりの場合はそれが音楽になっちゃったんだろうな。たぶん。
あたしだってそうだ。やっぱりこんな悪夢みたいな現実、嘘みたいな世界を直視したくないに決まってる。
「なんというかあたしだってさ、これが現実だって信じたくないよ」
「いや……オレがちゃんと聴かせてやらねぇとだもんな……」
「でも、どう考えたってこれが現実なんだしさ」
「歌を世界に伝えるんだ、その時までに」
よほど現実が認められないのか話が合わない。
というかそもそも会話しようって気がない。
小柄で争い事には向いてなさそうだし、無理に現実を突きつけるっていうのも悪いか?
「まつり?」
「うし。そうと決まりゃ話は早い。さっさと寝て明日こそ聴かせにいくぞ!」
言うが早いか、まつりはギターを適当にしまうとテントへ潜っていきすぐ寝息を立て始めた。
まじで一瞬、一瞬で寝た。
急にテントに入ったせいで隣のりーさんがもの凄い顔であたしとまつりを交互に見てる。
「え、えぇー……」
ただの音楽バカって言い捨てるにはやっぱり、ちょっとネジがヤバいやつだな。
「……って、明日は聴かせにいく……?」
なんか嫌な予感がするんだけど!
おっはようございまぁああああああーっす!
がっこうぐらし! が! 始まっちまったが放心してる場合じゃねぇ!
方針を決めて放心しないようにってな! ガハハ!
「うるせぇ」
「陽向さん、元気ですね……」
シャベルを手放さないツインテことくるみと、疲れた顔の抜けないめぐぅことめぐねえが返事をした。
ま、とりあえず元気を振りまくのもこれくらいでいいだろ。
「……おはようございます……」
「おはよぉ」
園芸部ことりーさんとゆっきーことゆきが起きてきて全員集合だな。
さてさて。状況の方はどうだと。
めぐっさん、見張りしてたみたいだけど夜中はなんかあった?
「えっと、夜は静かだったわね。でも、朝方になってから校庭に“みんな”が増えてきてるような……」
うむ。夜はどっか捌けてたんね。
明るくなってオレ達に気が付いてわらわら集まり始めたか、あるいははたまた別の理由か。
探せば答えはすぐに見つけられるがまぁいい。何にせよオレの行動はただひとつよ。
「まつり、お前さ」
「ん。どったの?」
「“あいつら”のこと、どう思ってんだ?」
恵飛須沢がやけに困惑した様子で尋ねてきた。
どう、と言われましてもパニック映画のアレでしょ。状況的に。
まーなんというか、本当にこうなっちゃうんだーくらいの気持ちよ。
あたし的には止めらんなかった悲しい悔しいもある。
「……なら、いいけどさ」
やけに含みがあるじゃないか。
「佐倉先生。本当に、学校は……」
「……残念だけど……」
「そう、ですか」
りーさんは現実が受け入れきれない様子。
めぐねえだって半信半疑が抜けきれていなさそう。
今の所はこの場でオレ以外にフィクションみたいなリアルを受け止めて理解しているのは、くるみとゆきくらいなもんか?
ゆきに関しては理解してるっちゃしてるけど、正面から受け止めすぎて逃げ場がなさそうだからちと怖いが。
「あの。提案があるのだけど……」
さっそくとりあえず一曲奏でようとギターを出してチューニングをしているとめっぐが全員を集め、そう言葉を発した。
何をすべきかは一つくらいしか答えがないので我輩が聞く必要なし。横で流して音程チェックぎーぎー。
「──3階の奪還、ですか?」
先生の言葉を総括しりーさんが繰り返す。
本気でやるつもりか、と問うような声だがこれは避けられんことよ。
なにせ屋上は寒い。簡易テントで風をある程度凌いだところで冷えるし、寝床は硬い。肥料やら土の袋やらをベッドにしたとて無理があろう。
オレちゃんともなればどこだってすぐ寝られるけどな。えっへん。
しかしここでひよる流れになったらまずいので同調しよう。圧力かけていけ。
「我々も同じ意見だ! それしか道はない!」
「いや我々って、もしかしてあたし達も含んでんのか?」
いいや違うぞくるみんよ。君やましてやゆきでもない。
我々とは! そう!
「我が愛用のギターことジュリエットのことだ!」
アコースティックギターでお馴染み!
んじゃか、ぱーん!
じゃんじゃかじゃかじゃかじゃんじゃーん!
「誰だよ……」
何だその目はくるみんよ。
恵飛須沢って名字、どう読んだって高見沢さんと同じ韻だしお前なら分かるだろギターでジュリエットなら。
答えが。
パッションで。
「いや知らないし」
かーっ! 見んねゆっきー、浅まし女ばい!
「ええ?」
「あのー、続きを話したいんだけど……」
先生! 先生なら分かりますよね!
「それよりも」
ぐえっ、りーさん抱き締め物理キャンセルとは手強い。
「どうやって3階へ降りるんですか?」
「それは」
佐倉先生の目がくるみへ、というよりくるみのシャベルへ向かっていった。
まあ言わんとしている事はわかる。けど、先生としてそれを明確に指示するには踏み出せないんだろう。
それでいい。それでいいんだよめぐねえ。リーダーは後ろでどっしり構えてりゃいいの。
前線はオレに任せろ。
「──歌だ」
一瞬の沈黙を逃さず、かつまるで示し合わせていたかのようなタイミングで踏み出して答える。
堂々と切り出せば多少のゴリ押しは勢いで行ける。
くるみ以外の全員が驚いた顔になった。
「こうなっちまった以上はある程度の犠牲が出ることもあるだろうがな、それでも“あいつら”とて何も聞こえてねぇ訳がない」
ギターを掲げる。
我が手中にジュリエットあり。
「オレが“あいつら”に歌を聴かせる。魂の籠ったビートを逃さねぇやつがいるわけねぇ」
心をさらけ出し、魂の底からパワーをぶつければ砕けねぇもんはない。
それを証明するためにもオレは歌い続けると誓ったんだ。
「まつりちゃん危ないよ」
「心配すんなゆき。歌がある限りオレはそこにいる」
eeWindowslここがオレたち。
「陽向さんは丈槍さんと一緒に屋上で待っていてもらっていい?」
なんか急に佐倉先生が子供扱いはじめたんだけどぉ。
な、なぜだ……?
「まつりちゃん、また菜園に歌を聴かせてもらっていいかしら」
昨日自己紹介したばっかの園芸部まで揃いも揃って!
3階や2階へ足を踏み入れない事には屋上生活ぞ!
オレが歌でなんとかしちゃるっちゅうのに!
「だな。まつりはここで待ってて──」
まだゆき以外には誰もオレの歌を聴かせてやってねぇからこうなのか?
このまま言葉通り屋上に残って納得するまで音楽をぶつけてもいいけど、オレとて優先順位は分かる。
バンドマンだって生活があるのだ。
実はバンド活動なんてしたことないけど。思考性の違いで。
「跳躍26次元!」
「あ!」
跳び越し扉へレッツゴー。
誕生日は2月6日の陽向祭、ちょっと行ってくる!
「ほんと勝手なんだから! いい加減──!」
弦を鳴らしながら駆け出し階段を飛び降り下れば、後ろからくるみだけ怒りながら追いかけてきた。
しかし頭脳面だけでもなく身体能力も天才レベルであるオレへは簡単に届かない。
他の面々に関してはそも唐突な展開について来られなかったらしい。
陸上部とてパルクールを駆使するオレには敵わず追う足音は遠く後方へ消え、とりあえず入ったここはいずれかの教室の中。
ここまでくりゃあすぐには物理で止められんだろ。
さ、てと。
「廃墟みてぇに荒れ果てた校内へ響かせるはオレの歌。そしてギター!」
明るく激しく鮮烈に!
どこかにいる誰かしらよ聴いてくれ、いや聴かせてやるぜ!
「空に私のサンシャイン!」
軽やかで明るくポップな曲調が目の前の惨状に合わない?
そんなん知るかよ。暗けりゃ明るくすればいい。
昨日はゆきのハートへだって届けたからこの歌を使うのみ!
「っと、さっそく聴きに来てくれたか」
昨日くるみがシャベルで殴っちまった先輩や、校庭で見えた“あやつら”のようにふらふらと歩く生徒が音に釣られてやってきた。
オレの目にはこれが疲れや怪我でふらついてるのか、それとも感染している状態なのかが分からん。判断できん。
祭ちゃんは確かに天才さ。
でも、トマトがちゃんと熟れてるかどうかの判断はできないっていうかわいい欠点がある。
こいつらがどういう状態なのかは……。
「いいや、聴かせる相手がどうだろうと関係ない。そうだよな?」
相手が“あいつら”かどうかを判断する必要はない。
そこに人がいる限り、否。人がいなくたって。
心の向くまま魂があり続ける限り、陽向祭という個人の存在の為に歌い続ける!
「よっと。よしよしこいこい、もっと夢中にさせてやるよ」
掴みかかりをステップで回避し、追加でやってきた数名も同じように捌きながら演奏と歌を続ける。
パニック映画のお約束で噛まれたらそこで感染、終了しちまう。例としては仲間入りしてしまった先輩さんにはしっかりと噛み傷があった。
仮に感染した場合、流石のオレとて歌い続けるのは困難だろう。先輩ですらくるみを標的にしちまっていたし。
「もっと聴きてぇかお前ら! 盛り上がってるかーい!?」
なので、余裕をもって避けていく。ミリ単位の回避を狙うのは追い詰められてからでいい。
「──盛り上がってんのはっ! お前っ! だけだっつの!」
ごっ、がっ、ばごっ。
息を切らせながら突撃してきたくるみがシャベルを振るい、折角やってきた合わせて3名をリズムよく殴ってしまった。
倒れ伏したひとりがまだ動くと知るや、地面を掘るかのように容赦なく首へ先端を叩きつけトドメを刺す。
「何すんだよ! 折角のステージだってのに!」
「お前、どっちなんだよ!」
どっちとはなんだ。どっちとは。確かにドッジングはしてたけど。
「状況が分かってんのかよ、本当に!」
ぶんとシャベルが空を切ると遠心力で液体が飛び、床やオレの制服にかかる。
色合いからして“こいつら”が身に纏っていた汚れ系と一緒で間違いない。
つまり血だ。状況が分かってんのかって質問はつまり、現実見てんのかって質問なのか? 今更。
さっきもそれ系の話した気がするんだけど。覚えてないの?
「……お前まさか、マジで言ってんの……?」
マジも何も、最初からずっとそうだっただろ。
「分かってて歌ってんのか……?」
だから、最初からずっとそうだっただろって。
この学園へやってきた当初から世界が滅んでも死ぬまで歌い続ける気だったし、今もそうだし昨日もそうした。
けどまぁなんつうか現実は厳しくといいますか。
音楽を心へ届けるよりも先に暴力の成果が出ちまうもんだったがな。
「本気でこいつ、はぁー……。変に考え過ぎてた、いやあたしよりこいつが変過ぎたせいっていうか」
どうした急に頭抱えて。
ははぁーん。わかったぞ、ついにオレの歌を聴いてくれる気になったんだろ。
よし任せろ。今日はとことん“空に私のサンシャイン”を聴かせてやるぞ。
「ちっ、また集まってきやがった!」
おうおうおうおうおうおう、その耳かっぽじってよぉーく聴きやがれ!
ひとりでだって歌い続けるが聴くやつ聴かせるやつがいてこそのが音楽でもある。
古来は神への奉納とし、現代はより多岐の意味に。
「オレの歌を──」
「おい下がってろ!」
ぐえぇっ、後ろから引っ張らんといてぇ。
「は、離せぇ……」
「だぁもうやってる場合じゃねぇ! こうなったら、まつりは下がってろ!」
離してくれた! そしてその合図は、任せろ!
昨日は上手にってしか考えず失敗しちまったが、今のオレなら間違いはない!
上手いとか下手とか関係ねぇ、魂込めての陽向式!
オレの歌をき──
「おらぁ!」
ちょ、くるみさん!?
何で攻撃しちまうんだよ!
「全員まつりの方にしか向いてないから、まだやりやすいな!」
くそっ、そういうことかよ!
こいつ! オレをダシにして儲けようとしてやがる……。
「……」
許せねぇ。
「な、なんだ?」
どぅーんと低い音が鳴り、くるみの手が止まる。
しまった。憎悪のあまり感情が音に乗っちまった。
落ち着け落ち着け。良くも悪くも魂は純粋。影響されやすい。
「この曲は楽しく演奏してからこその」
目を伏せ一呼吸入れ、気分を入れ替える。
瞬間的な怒りが過ぎるのを待ち、演奏再開。
聴かせてやるぜ──
「──あれ?」
再び目を開け構え直した時にはもう、オレ以外誰も立っていなかった。
地面には倒れ動かない“あいつら”が並び、近くの椅子には疲れたくるみが座ってる。
つまり出し抜かれた訳だ。
また暴力のが先に成果を出されちまった。
「こいつら、うるさい方へ優先して向かうっぽいな」
息を整えながらくるみはそう呟き、なぜか満足げだ。
「まつり。怪我はないか?」
「……」
「な、なんだよその顔」
思わず睨んでしまう。
こいつはやっぱりオレの音楽をデコイくらいにか思ってなかったようだ。
わからせてやるにはまだ時間がいる。最後にオレの歌を聴いて納得すれば、オレの勝ち。
待ってろよくるみ。お前もすぐに分かるからな。ハートに込められた熱い想いが。
「くるみ!」
「まつりちゃん!」
む。りーさんとゆき、それに先生がやってきた。
なけなしの武装としてそれぞれモップを持ち、ゆきだけは無手。
ふふ、くるみよ見ろ。オレの歌を聴いたゆきはすべきを分かっているぞ。ゆきは賢いなぁ。
「陽向さんの演奏が途切れたから、もしかしたらって思って……」
ほほう佐倉先生よ。オレがこの程度の攻撃を食らうとでも思ったか?
「くるみ、大丈夫?」
「平気。まつりのお陰で助かった」
「……まつりちゃんの?」
「“あいつら”、どうも大きい音みたいなより目立つ方へ寄ってくみたいなんだ」
「習性、なのかしら」
確かにそういう行動を習性というのは合ってそうなもんだけど。
あんな、オレのギターをその為に使う気はないぜ?
「みなさん!」
ぱん、と手を叩いてめぐねえが声を出した。
この場へいつ“あいつら”がまたやってくるか知らんし、細かい事はさておき次の行動をせにゃならんと言いたいんだろう。おーけーおーけー。
無敵の英雄・陽向祭は平気でも他の連中の安息が掛かっちょるけん。
「でも、どうしたらいいのかな……」
言葉を続けようとしたが、めぐっさんは行動プランを持っていなかった模様。小声で不安が漏れた。
仕方ない。
あたしが最適解を教えてやろう。なんせ天才故に解を知っているからな。
「どうせギター弾くだけだろ」
「おまえこの陽向様をなんだと思ってんの?」
そこらへんに転がってる机とか使ってバリケード作るんだよ。
職員室に行けば紐とかあるだろうし、完成すれば3階で籠城できるぞ。
「ま、まともな意見が出たわね……」
りーさん言いたい事があるなら聞くぞ。
他に良い意見があるのかぁ?
「確かに“こいつら”相手なら、それくらいでもいいのかもな。ふらふらしてたし」
「なら階段に設置するのはどうかしら」
くるみとめぐねえが意見を引き継ぎ話を進める。
よしよし。あたしの仕事は済んだな。
んじゃ、オレちゃんはオレちゃんのやることするわ。
「まつりちゃんどこいくの?」
「どこって、ギターを弾く場所を探しにちょっくらそこまで」
「危ないよ!」
危なくねぇって。現に今も無事だし、囲まれたって避けられた。
無理な場合くらいの判断はできる。駄目なら出撃しない。
「あの、陽向さん」
なんだいめぐねえ。
「バリケードを完成させるまででいいから、私達を手伝って欲しいかな」
う、あざといな。これが大人の魅力。
だぁっ、もうっ!
「言っててもしゃあねぇ。机とか運びやすいとっから作ってくか」
「そうね、行動しましょう」
はぁー、しゃあねぇなーもう。
そしたらくるみとめぐっちで職員室へ使えそうなもん取りに行ってくれ。
その間に残りの面々で机運び出しとくから。
「……そっちの戦力、りーさんだけか」
「大丈夫よくるみ。ゆきちゃんの事は任せて」
あの、くるみさん。オレは?
それにりーさん、オレは?
「まつりがどうせ歌うかなんかするだろうから、そっちに集まった所を、こう! ってな感じで」
「本当にまつりちゃんのお陰で何とかなりそうね」
「ああ、悔しいけど役に立つよ」
悔しいのはオレじゃい! 囮くらいにしか扱わんのけお主ら!
ギターの腹をばんばん叩いて腹立ちアピール。
「あー……。でもだったら慣れてるあたしがまつりと一緒に職員室行くか」
「なら私も」
「めぐねえはゆきやりーさんといてよ。この辺はもう平気だと思うけど、向こうはそうとも限んないし」
ふむ。戦い慣れしている自分が危険な領域へ足を踏み入れるから、まだ音楽隊や戦闘員としての覚悟が足りてない面々は安全圏でできる事をして待っててと。
まだまだ事件も起きてから24時間経っていない。
初めから覚悟の決まってるオレやそうせざる得なかったくるみと違い、他の面々が無理して現場に立っても邪魔になるっつかしゃーないよなぁ。
てなわけでギターをセット。
「心配すんなって。こいつがいりゃ大丈夫」
ええい、その扱いをやめんか!
「分かりました……」
分かるな先生。正気を取り戻せ。
「えっと、音に反応するなら静かに行動しましょう? 恵飛須沢さん、陽向さんをよろしくお願いします」
「うん。そっちもよろしく。めぐねえ」
「めぐねえじゃなくって、佐倉先生ですっ」
オレはこんな扱いをされるためにギターを弾いてるわけじゃ、うおぉい引っ張るな。
「いくぞー」
「ぐえぇ」
ちやほやされて大事にされ過ぎるよりは、まぁこういうちょい雑な方が楽しくはあるけど。
なんつうか、こう……いち友人として接されてる感じがしてさ。
なぁくるみん。オレ達、友達だよな……?
「きゅ、急になんだよ」
「クルミ……オレ、トモダチ……」
「こわ」
ドン引きされた。分からんのか友達だよ、フレンド!
「……だめ?」
「いや駄目ってこたないけど」
上目遣い。うるうる。
どうだかわいいオレのかわいい顔だ。これで墜ちんやつはいない。
駄目ならファービーの真似するから!
ファー!! ブルスコ! ブルスコ!
クルミチャン! トモダチ! ファー!!!
「うるせぇ!」
モルスァ……。
「わぁーったよ、友達友達」
やったぁー!
「もしかしてお前、友達いなかったの?」
会話しながらもくるみは職員室の扉を開き、しっかりと中を警戒しつつ歩み入る。
その顔に微妙な
たかえっていう聖人が友だったよ。
「まぁしょうがないか。
む。くるみはオレを知っていたのか。
「陽向祭っつったら色々と有名人だからな」
「……」
「なんつうか、その。……嫌でもお前の色んなウワサを聞いたよ」
「……そうか」
オレとて学園内で変な目立ち方してるのは自覚してる。才を隠そうとはしとらんし
今更くるみの口から言われたところで適当に流せるけど、くるみ自身は悪口的な事を噂とて言うのが嫌なんだろう。
なんて優しい子なんだ。ツンデレツインテと外見で思ったが普通にぜんぜん良い子じゃないか。みんながやりたがらない戦闘も積極的にこなそうとするし。
ま、オレにとっちゃそのシャベルが邪魔なんだがな!
「……ん? 誰かいたのか?」
職員室を慎重に歩いていたくるみが、あるものを発見した。
それはオレ達の来た廊下とは反対側にある、主に職員関係が使う階段方面の扉を塞ぐ横倒しのロッカー。
事件後にせめて立てこもろうとしたんだろうな。結果は……
きっと怪我した生徒を招き入れたりしちまったんだろう。くるみが先輩を屋上へ連れて来たみたいにな。
「さて、オレの歌を聴きてぇやつはいないかー!」
聴きたいやつは!?
いない!
のか!
「な、なんだよ」
オレの歌を聴きたいやつはぁー!?
「もしかしてあたしに言ってんのか!?」
危機管理ィー!
咄嗟に屈んで後ろからの襲撃を避けて振り返り、手元を確認ギターオン。
まったく。歌う前から熱心なファンなこった。
いいぜ、熱いハートを見せてやる!
「隠れてやがったか!」
あ。
「まつり、無事か!?」
……またくるみに一本出し抜かれたか。
歌う暇もありゃしねぇなぁ。
「他にはいなさそうかな」
「そうね。くるみが片付けちまったもんね」
「どんだけ聴かせたいんだよ」
しゃーないじゃん。オレのハートをぶつけるにはそれしかないんだし。
ともかくと片付けるにゃ大きな問題だが、ひとまず置いてすべきを成そう。
非常袋的なのが常備されているのは記憶にあるのでそっちを先に回収し、棚や机から紐やテープを見つけては放り込む。
ぽいぽーいとな。
「……なあまつり」
なにか?
「どうしてそこまでして歌いたいんだ?」
そりゃあまた今更な質問だな。
「それだけがどうしても気になってさ。……友達として」
えへ、えへへ。友達……。
友達なら教えちゃおっかなぁ? ぐへへ。
──元々は趣味でたまに触る程度に楽器を扱うくらいなモンだったけど、世界を超えるレベルで歌を時空全てへぶつけてやろうって心に決めた出来事がもちろんある。
今この場は、それを教えてやろうではないか。
「お、それそれ。それ聞きたい」
全盲の友へ、色を教えようとしたのが始まりなのだ!
「うん。……うん?」
「幼少期に機会があって全盲の子を見かけてな。その時、我輩は思ったのだ」
色を知らぬ者へ色を伝えるには、どうしたらいいのかと。
きっと天才陽向祭の頭脳を総動員させ饒舌に筆舌を尽くしてもなお足りないと。
ならどうしたらいいか?
その答えは、楽器と歌により我が猛き
「ごめん。何にも繋がらないんだけど」
その子へ色を教える! 一方的だがその子へ約束したのだ!
色々と障害があって難しいことだったが、研究の果てにそれが可能であると解は導き出せた!
あとは実行あるのみ! 最後にものを言うのは情熱だ! パッション!
……まー語りたい事は多くあれど本題の音楽一本になったきっかけはそんなモンよ。
色を伝えたくて音楽を貫こうとした。
ま、今やその盲目の子だけでなく相手は世界そのものになっちまったがな。
「ってな
「ははっ、なんだそれ」
一通り語り終えると、くるみは笑った。
先輩を介錯した頃から張りつめていた怖い雰囲気が緩み、とても良い笑顔だ。
その笑顔からオレに対する偏見の感情は見えない。
「色々損した。ただの音楽バカじゃんか」
何はともあれどこでもどこまでも歌い、魂で音を震わせるのが今のオレさ。
納得したならもっと聴くか? 今ならくるみにぴったりな“RUN&RUN”を歌うぜ。
なんならお前も歌うかい?
「じゃ、一曲お願いしようかなっ」
「よしよし、そうこなくっちゃあな!」
ギターを取り出し二人で歌う。
昨日の止められなかった悲しみから一転、今日一番楽しく声が出た。
次は来週となります。
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