【完結】学園生活騒音部 ~のーきる・のーばらーど!~   作:親友気取り。

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おはよーーー!


4 カラフル・ミラクル・バルーーーーン

 

 

 

 

「──学園生活部ぅ?」

 

 とある日の朝。

 朝食にご機嫌な非常食をもさもさ食べつつ今日は何を演奏しようか考えてたら、りーさんが唐突に切り出した。

 なんでも現在ここにいる我々団体を“学園生活部”と呼称し掲げたいというらしい。

 

「めぐねえと相談して決めたの。こうして気を張って暮らしても疲れるでしょう?」

 

 隣に座る佐倉先生へ視線を向ければ頷いた。

 なるなる。部活の合宿って設定を全員で作り上げる事で精神的な負担を軽減しようって試みでか。

 良いではないか。あ、これってオレも参加できるやつ?

 

「もちろんまつりちゃんも部員よ」

「やったぁ! へへ、すげぇ嬉しいぜ」

「あれ? まつりならバンド活動したいとかいうと思ったんだけど」

 

 くるみの言いたい事も分かるよ。今こうして同意したとはいえ演奏する機会伺ってるもん。

 それに学園生活部なんて生温い名前じゃなくってもっとこう、バンドっぽい名前にしたいし。

 あ、いっそ名前はGUNSLINGER GIRL(ガンスリンガー・ガール)とかどう? こうして口にしてみるとバンド名っぽくてかっこいいっしょ。

 駄目? そもそもバンドする気がない? そんなぁ。

 

「くるみが余計なこと言うから……」

「わりーわりー」

「まつりちゃん! わたし歌作っていい!?」

 

 よくぞ言った我が友ゆき! このルーズリーフにそのレリックを叩きこめ! 

 隣の席に座る盟友へ紙とペンを渡し見守る。魂の旋律を邪魔するのは我が道に反するので見守る。

 

「らじゃ!」

「あの、話を戻していいかしら」

 

 すまんすまんめぐぅ。学園生活部には大賛成ヨ。

 幾ら音楽がオールインワンの完璧なものとはいえそれを扱う人間までは完璧じゃないからな。

 歌はともかく演奏までできるのは結局オレ一人だし、そのオレとて120%人の身。疲れるし怪我もする。

 

 それに万が一って場合には……。オレが先に逝くかも知れんからな。

 音楽と一緒に必死に生きて、そして死のう。

 この学園生活部に欠員が出ない事を祈るばかり。

 

「わぷ。まつりちゃんなぁに?」

「なんでもないよ」

 

 ゆきの頭を帽子越しに撫でて気分転換。

 そういや何だかゆきちん元気だね。今も絶好調に色々書いてるし。

 まずは単語を寄せ集めるとはセオリーが分かっていらっしゃる。

 ほほう? 学校が好きと。音楽室は歌い放題、放送室は学校中がステージと? 

 オレちゃんのお陰か音楽目覚(めざ)ましい。

 

「というか、ゆきちゃんは何の曲を作ってるの?」

 

 ふはははりーさん改め若狭(わかさ)部長よ愚問だな! 

 ゆき! 教えてやるがいい! 

 

「学園生活部の歌、だよっ!」

 

 テーマ曲、あるいは国歌。

 愛しのラブリーエンジェルゆきの心が籠っていれば、とても素晴らしいものとなるだろう。

 

 ──ハッ! こないだもそうだがゆきのやつ、オレから天使の名を奪おうってんだな!? 

 この天才究極完全美少女レッドブルーマウンテンブラストことアンジェリーナ陽向から、天使のような(アンジェリカ)成分を! 

 おのれ許さんぞ! 我が、我こそが──あへぇ! 

 

「あたしにもやらせろよー」

「お……重い……」

「だ、れ、が、重いってぇ?」

 

 体重40mgの中身すかすかスポンジボブの陽向ちゃんに乗っからないで、潰れちゃう。

 

「筋肉は重たいって言うわよね」

「こ、これはシャベルの重さだから!」

「ごべぇ!?」

 

 乗っかられてただけじゃなくて机に叩きつけられた。照れた勢いだけで。いてぇぜ。

 照れ隠し誤魔化し隠し、何にせよ結構だが机に我を叩きつけ放置するのは如何なものか……? 

 頭くるくる寝癖ボブの陽向ちゃんは知ってるよ。

 恵飛須沢胡桃、貴様……。今ダイエットしようかとか考えたな? 

 

「うっ」

 

 陸上部所属でもあったその身で食を削ろうと考えるのは如何なものかな? かな? 

 亜空間よりギターを召喚、そして焦らすチョークアップ! 

 海外映画のPVで毎度よく聞く段々音が上がる系の音を食らえ! 

 

「そ、それは!」

 

 さぁあさぁあ! 白状せよ! 

 

「ほら! こんな状況だし、食料は大切にしないと……だろ?」

 

 べーん……。

 拠点である生徒会室が静かになり、めぐぅとりーさんが「そうね」と呟いた。

 まぁ、ダイエット云々はさておき食料が少ない事は確かだもんな。

 それを節約しようって考えは分かる。が、くるみ一人が気を付けた所でそう変わらんと思うぞや。

 我らを想ってくれたその気持ちはとても嬉しいけど。

 

「職員室や生徒会室にあったアルファ米も、そんなに多くはないわよね」

「……他の所から取ってこないと、でも下の階は……」

 

 屋上の菜園からは野菜、同じく屋上のビオトープには魚。

 この二点はそうそうに尽きる事がないのでまだいいが、他のもんも必要だからのぅ。

 

「下に、取りに行ければ」

 

 佐倉先生の言う下ってのは地下の事かな。確かにあのマニュアルによれば、ここに居る5人がしばらく暮らすには充分な食料があるはず。

 でもこれからそこまで行くのはだいーぶ無茶だよなぁ。

 

「だったら“あいつら”の少ない夜に行くか?」

「やっぱり危ないわ」

「恵飛須沢さんが良くても、危険な事に変わりは……」

 

 ふむ。りーさんとめぐぅは歌の力をもってしても未だ踏み出す勇気が出んと。変わらんな。

 ふふふふ。ならば、この陽向隊長自らがお相手しよう。

 学園生活部の歌を聴くまで滅びぬ身なので大丈夫。

 オレはなぁ、無敵だ! 

 

「あ!」

 

 隣でずっと書いてたゆきが唐突に吠えた。

 そして腕を掲げ、立ち上がる。

 

「肝試し、しよ!」

 

 

 

 

 

♪ 

 

 

 

 

 

丘の下咲くヒマワリ 眩しく広がる黄色は

「まつりちゃん起きてるの?」

……希望の光を照らすよ……

「え、もしかして寝ながら歌ってるの……?」

 

 変えられるものなら、違った生き方あるはずと──

 

 ぺあぁあ!? 誰だ!

 ……って、りーさんか……。おどかすなよ……。

 

「ごめんなさい、おどかすつもりはなかったのだけど」

 

 寝袋から身を出してのびー。

 んで、まだ真っ暗だけどなんかあったん? 

 

「みんな準備できてるから呼びに来たのよ?」

 

 何の準備? あ、セッション? 

 おーけーおーけー。ギターどこ置いたっけ。

 んん……。ああ、そっか。向こうか。ふわぁ。

 

「肝試し。忘れちゃったの?」

 

 あー……。

 そういや、ゆきがやろうっつってたねぇ。

 待ってねー……。頭が覚醒してない。

 

「眠いならここで寝ててもいいけれど」

「いや、楽しそうだ。ついてく」

 

 寝床としている放送室は軽い防音仕様なので静かに寝てるぶんには一人でも問題なし。

 だからといってここで一人だけ残されるのは、楽しくない! 

 幼女が寝起きにお気に入りのぬいぐるみを持ち歩くようにギターケースを持って準備完了。

 

「修学旅行の夜にこそこそやるみたいな、こういうワクワクを逃がす訳にはいかんのだ!」

「肝試しだから静かに、ね?」

「ハイッ!」

 

 りーさんに続いて生徒会室へ向かう。そこにはみんなが準備マシマシで待機していた。

 危うく置いていかれる所だったな。あぶないあぶない。

 ふふふふふ、中学の頃は修学旅行ぜんぜん楽しめなかったから今日こそ楽しんでやる。

 意気込んで表明しつつ座り、待っていたゆきが首を傾げた。

 

「まつりちゃん、前は楽しくなかったの?」

「そいつ友達いなかったらしいから」

「あっ……」

 

 くるみィ! ゆきちゅあんに余計なこと教えるんじゃあない! 

 

「わ、わたしがいるから平気だよっ!」

 

 うう、ううぅ……。ありがとうゆき……。

 あんたがアンジェリカや……。

 

「まつりちゃん、また寝癖付いてるわよ?」

「うーっす」

 

 どうしても寝癖が気になるりーさんによる寝癖直しが開始された。

 普段ならスルーされていたが流石に見過ごせないレベルらしい。ボンバー。

 

「肝試しの説明するわよー」

 

 強靭な癖っ毛を直されつつ、めぐねえによるチュートリアルが始まった。

 静かに緊張感をもって行動しつつ2階の購買部まで行き、まずはそこで物資の調達。続いて図書室まで進行し、これからの生活で役に立つだろう本を借りて終了。らしい。

 肝試しなら騒ぐこともないし、全員で警戒しつつ進むことで安全も確保できる。おまけでこれを肝試しというイベントにすることでレクリエーションともなる。

 ゆきがどこまで考えて立案したのかは分からんが、とても良い。

 

「……」

「あれ、まつりちゃん?」

 

 最近何だか時折ヘンな発言の増えてきたゆき。

 少し心配だったが、ゆきは強い子に間違いない。オレはその魂を信じる。

 

「ギターは置いていってね」

「あ! 部長!」

「部長命令ですっ」

「そ、そんな……!」

 

 肝試しに必要なのは音楽だろう!? 古来より! 

 お前なんかに分かるものか! あたしは戦わ(演奏し)なきゃいけないんだ……。

 …………ぁ……。

 

 全て掛けよう

 与えられた時間(とき)の中で輝いていたい──

 

「……」

「寝てる、わね」

「ギター没収したから気絶したんじゃね? ……って、うん?」

「まつりちゃーん」

「なんかこのケースやけに軽いような……?」

 

 たった一つの想い。

 この曲を胸にオレは生きていく。

 それが、それこそが──

 

「──陽向祭ァ!」

「あ、起きた」

「めぐねえの授業って眠くなるもんなー」

「ええっ!?」

 

 ごめんごめん。頭も起きたよ。

 この通りあたし……じゃなくてオレはついて行けるぜ。

 さぁ! 出発しようじゃないか! 

 

「こいつ電池切れかけだし置いてった方が良くね?」

「そうね……」

 

 待て待て待て。

 オレの頭脳を抜きにして此度の作戦を成功に導けると思うとるのか。

 

「その頭が半分寝てるんだけど。ギターケースの中が空っぽだし」

「陽向さんが寝ちゃったら私が背負うから、とにかく行動しましょう?」

「そうだな」「ですね」

「まつりちゃん、手繋ぐ?」

 

 お手て繋ぐーっ! 

 ゆきちんの手をにぎにぎ、ふりふりしながらレッツゴー! 

 お化けが怖いから歌おう! 

 

「肝試しだから静かにねー」

「はーい。ほらまつりちゃんも静かに」

 

 しーってされた。かわいい。

 あ、そういや寝床に眼鏡置きっぱなしだったわ。

 

「本体のギターといい、寝起きで色々忘れてんなお前」

「まつりちゃん眼鏡なくって前見える? 暗いけど……」

 

 別にいいよ部長。視力自体は悪くないから。

 

「そうなの?」

「陽向さんのはサングラスだし度が入ってないのかも」

 

 グラサンじゃないですー。かっこいい眼鏡なんですー。

 オレのイメージカラー(推定)な黄緑のフレームがお気に入りなんですー。

 

「お前ら静かになー」

 

 何気に常識人ポジへ収まろうと画策するなツンデレ風ノーツンツインテ。その歳でツインテはどうなんだ。

 ん? もしかして気になる男子にかわいいって思われ──ほわぁああ!? 

 

「フルスイングとか殺す気か!?」

「お前を仕留めるならこれくらいしないとな。それにほら、ちゃんと避けられんだろ」

「仕留めるっつったかお前!」

「二人とも、静かに」

 

 若狭部長! あのお喋りシャベルを何とかしてください! 危うくサビにされる所でした! 

 ん? 

 サビ? 

 

ただ息をして、ここに居るだけ。それだけなのに溢れ出す気持ち

「いい加減にしないと謹慎にするわよ?」

 

 はい、すみません。サビ歌っちゃいました。

 

「もー。まつりちゃん楽しいのは分かるけどさー」

 

 ゆきの言う通り、こういうワクワクイベントが初めてなもんで……へへ。

 夜の学校とかで演奏したかったけど流石に補導が怖かったからなぁ。

 

「うし……いないな? いいぞー!」

 

 くるみがバリケードを乗り越え率先して先導し安全を確認、それに他の面々が続く。

 安全地帯である3階と比べ2階はクリアリングが甘いので夜といえどまだ油断はできないのだ。

 ん? “あいつら”を問答無用でぶっ倒しちまうくるみに任せるのかだって? 

 

 確かに戦う相手が無事かどうか確かめる前から問答無用で即殺しにかかる姿勢には思う所はあるし、オレとは戦いのやり口が異なり物理的解決になっている。

 だけどあいつのやっている事を声張って非難否定する気はない。

 あいつはあいつの役割を全うしているだけだし、それにオレの歌を聴いたからな。

 歌を聴き、歌うやつに悪い奴はいねぇ。

 

 だが歌に否定的で武力を尊重し今もオレをマークし歌わせないようにしている部長! 

 お前ー! お前お前お前ー! お前お前ー! 

 オレは“あいつら”に歌と演奏でハートをぶつけなきゃいけないのに、わからずやー! 

 

「購買部で証拠を持ち帰るってルールだったっけか。何にしよっかな」

「好きなの持って行っていいの!?」

「ええ。でも、騒ぎ過ぎないようにね?」

「あの、顧問……」

 

 司会進行はりーさん。めぐねえは口を挟むタイミングが悪く、しょぼーんとした顔でオレを見た。

 いやこっち見ても何もならんよ。歌って欲しいなら今すぐ歌うけど、あの部長が納得してくれてないんだよぅ。

 あの人は未だに歌の力を知らないというか危ないやめてって厳しくてさぁ。

 

 つか油断するとすーぐギターケースに南京錠つけてくるしよー。

 ピッキングできない事はないけどあんまりそれやり過ぎると隠されたり、あるいは最悪の場合は破壊されそう。

 ギター破壊はロックの華とはいえ。

 

「ここには誰もいないみたいね」

「電気つけるわよ?」

 

 そんなこんなでほぼ雑談で緊張感ぬけぬけで購買へ到着。さてと、お目当てのものはあるかなー。

 ゆっきーはどれ持ってくの? 

 

「ふっふっふー」

「麩菓子か……」

「まつりちゃんは何味が好き?」

「たこ焼き風味」

 

 取ってくれるの? ありがとー。

 

「そして、風船!」

「何で学校の購買にそんなものが……?」

「これ凄いよ! 20倍に膨らむんだって!」

「マジかよ! 化学の勝利じゃねぇか!」

「お前らそんなの何に使うんだよ」

 

 おまえくるみ風船の凄さを知らないなおまえ。

 20倍に膨らむって事は20倍に膨らんで凄いんだぞ。

 分かっとんのか。20倍だぞ20倍。

 

「お前らのセンスわかんねー……」

 

 くるみこそその高枝切り鋏はなんなんだよ。

 てかなんで学校の購買にそんなものがあんだよ。

 訳わかんねぇよちくしょう。

 

「んで、オレの目当てはと……あったあった」

 

 商品棚の一角で楽器関連の消耗品が山を作っていた。

 個人的に買ってるのを持ち歩いてたからここを利用した事なかったけど、こういう状況じゃ在庫は嬉しいなぁ。

 いやぁ、音楽室にはオレの求めてるもんがなかったから──。

 

「……」

 

 ケッ、素人が。適当なもん選びやがって。

 オレちゃんに媚売るつもりならアンケート取れっての。でも今は贅沢言ってらんないのも事実。

 しゃーなしこれでいいから持ってくか。

 めぐねえはなんか見つかったけー? 

 

「うーん、食料は若狭さんが集めているから私は筆記用具にしようかなって」

「あら真面目」

 

 白紙の楽譜束を見せられる。

 

「丈槍さんの曲作り、応援してあげてね」

「あたぼうよ」

 

 むしろオレが首突っ込まんと思うとるのか。

 コード表じゃなくって楽譜かよとかの突っ込みは抜きに受け取り手持ちへ加える。こういうのは気持ちやハート、魂が大事なのよ。

 避難マニュアルの件でなんか自分を追い詰めてたっぽい佐倉先生だったが、音楽の力で今やフォロワーとなった。あの内容については自分の中で区切りをつけたらみんなに打ち明けてくれるだろう。

 

 オレから言わんのかって? 

 いやいや。パラ読みで見える範囲は全部覚えてるけど、オレから発表すんのはなんかこう……違うじゃん? 

 生き残る以外でのめぐぅの目標として設定しとかんとってのもあるし。

 それにタイミングを待たないとな。

 

「くるみ、少し持ってもらっていい?」

「うし任せろ」

 

 りーさんがくるみの背負うリュックへ軽いけどかさ張るタイプの物品を詰めていく。

 あの人へどう音楽パワーを伝えたもんかなぁ。

 

 くるみは戦い、ゆきは明るい笑顔を。めぐぅは前述。

 それぞれが役割を得る中で学園生活部の部長って立場を手に入れたりーさんだが……なんだか危うく見えるし早いところハートをぶつけて燃やしてやりたい。

 

 なんというか肩に力入り過ぎなんだよなー。

 ほら、歌に関しても“あいつら”を呼び寄せるからとかいって否定的だし。他のメンバーがいなけりゃ速攻禁止してるレベルだし。

 理屈が過ぎるというより、どうにかしなきゃ自分がやらなきゃって焦りと責任感で周りが見えなくなってストレス溜めてっちゃうタイプ。

 きっとハリボテの平穏が訪れたとしたらすぐ甘えちゃうだろうな。ちょっとバランスが崩れた瞬間ボロボロになるってのを分かってて。

 

 だからこそギターだ。そして歌。

 歌えは全てわかるっちゅう簡単な事なのにな。

 

「まつりちゃん、どうしたの?」

「んにゃ。次は何を歌おうかなーって」

「ふーん……?」

 

 人のこと考えるあまりゆっきーに心配されちまったじゃねぇかよ。

 この子には笑顔でいて欲しいんです! これ以上ゆきの涙は見たくねぇ! 

 だから聴いてください、オレの演奏! 

 オレの歌をき──

 

「──あ! ギターないんだった!」

「まつりちゃん」

「ハイ」

 

 部長の首が回ってオレを見た。

 

「まさか、肝試し中に歌おうなんて……」

 

 ハッハー! オレといえど肝試し中に、まさかねぇ! 

 

「歌おうとしたってはっきり言わない辺りがまつりだよな」

「陽向さんらしいというか」

 

 嘘でもオレは歌わないなんて言わない。

 そう夕日に誓ったんだ! 

 

「明日はギター1日没収かしら」

「それだけは許してください!」

 

 考えうる限り最高の角度で腰を曲げ頭を下げる。

 土下座もいいがやり過ぎるとおちょくってる感が出るからね。

 

「りーさん」

「若狭さん」

「もう、くるみにめぐねえまで……」

 

 関節がキツいが、これは、許されたか……ッ!? 

 

「……そうね」

「お前それ身体どうなってんの?」

 

 腰から上を110℃きっかり前方へ曲げたまま首だけ垂直に曲げ直しただけだが……? 

 

「キモ」

 

 シンプルな誉め言葉をありがとう。

 ところで若狭部長……! 

 

「節度は守るように。ね?」

 

 ハイッ! 

 

 

 

 

 

 購買部ではそこそこに再び移動。お次は図書室へ。

 道中に“あいつら”の姿はなくスムーズに移動出来た。

 

「く、暗いね。電気つかないかな……」

「窓があるから明かりはつけられないわね。それに、明るかったら肝試しじゃないでしょ?」

「だな。あたしが入り口抑えとくよ」

「顧問……」

 

 辿り着いた矢先にスムーズに役割分担が行われたせいで、再び佐倉先生(顧問)の出番はなし。

 だからそのしょぼんとした顔でこっち見ても何もしてやれることはないんだって。

 

「りーさんは何の本持っていくの?」

「教科書や問題集。──ゆきちゃん、分からない所が多いってめぐねえが言ってたから」

「うっ」

「これはゆきちゃん用ね」

 

 勉強が苦手なのは知ってるけど、ゆきってほんま全般的にダメなんなー? 

 

「丈槍さん、補習の常連だから……」

 

 あらま。

 

「わ、わたしも本探してくるね!」

「ゆきちゃん!」

 

 あれま。勉強が嫌で逃げちゃった。

 逃げた所で本(を持ったりーさん)は後日追いかけてくるんだけどなぁ。

 というか単独行動は怖いからよせやい。

 

「私が丈槍さんと一緒にいるわ」

「……佐倉先生、お願いします」

 

 めぐぅはゆきを追って闇へ消え、足音が遠ざかっていく。

 ふむ。りーさん部長と二人になってしまったぞ。

 ここぞとばかりに歌をぶつけてやりたいが、歩み寄る姿勢を忘れてはいけない。

 普通に会話を進めよう。

 

「それにしても、専門書が多いわね」

 

 ライトで背表紙を照らしながらりーさんが呟く。

 その視線を追ってみると、なるほど確かに高校へ置くにはレベルの高すぎるのがずらっと。

 

「誰がこんなの使うのかしら」

 

 はいはーい。オレちゃんでーす。

 

「これ全部英語みたいだけど、読めるの?」

 

 専門過ぎて翻訳もされてないのを差し出された。しかし言語が違うなんて問題にもならん。

 なぜならオレは天才だからな! この程度造作ない。

 

「図書室では静かに」

「厳しい」

「それよりまつりちゃんが苦手な科目ってどれかしら」

 

 あれ、もしかしてりーさんってオレのことご存じではない? 

 授業態度で下がっちゃうだろう成績をテストで満点を取る事でカバーする事でお馴染みの陽向祭様の事を。

 

「成績が良いってめぐねえは言ってたけど、本当だったの……?」

「めぐねえから聞いてもなお疑われるとか悲しい」

 

 職員室のどっかにテスト用紙あると思うから、今度それ使って仮テスト勝負しようぜ。

 オレが凡ミスするまで満点を出し続けるでもしないと勝ち目なんてないがな! 

 がっはっは! 

 

「──む?」

「どうしたの?」

「今なんか聞こえなかった?」

 

 ふたりで動きを止め、一瞬聞えた音に構える。

 じゃりじゃりという不安定な足音と……粘度のある液体が滴る音が聞こえた。

 きっと“あいつ”だ。

 横のりーさんと顔を合わせて頷く。

 

「くるみに報告を。オレは」

「歌うの?」

「もちろんだとも」

 

 言うが早いか掴まる前に本棚の上まで駆け上がり、()()()()()()()()()()ギターを拾い上げて仁王立ち。

 ストラップおーけー天井すれすれオーケーオーケー。

 そう。肝試しの開催が決まった時にはもうここへセットしておいたんだよ、ギターを!

 ここで使うんじゃないかと見越してな!

 

「聴かせてやるぜ、ミラクル・カラフル・バルーーーーン!」

 

 テンション上下の乱気流、ちょっとバラバラな始まりが楽し気に重なっていくハーモニー! 

 青春の膨らむ夢と希望を詰め込んで飛ばせ、20倍を超え! 

 ギター一本じゃfeat成分が足りない気もするがそこはオレの気合でカバー。

 と、ここでオレを援護しようとしているのか出入口付近に陣取ったりーさんがノってきた。

 

 どこからか拾ってきたバケツをバンバン叩いて何処かにいるだろう“そいつ”の気を引こうとしている。

 魂の旋律は音楽を奏でようって気より必死な感じ、音楽を作ろうって気はなく無意識。

 でもオレのリズムに引っ張られている辺り、完全に意識してないって訳じゃなさそうだ。

 陥落まではあと一歩って所。

 

「はっ……はっ……!」

「……ッ、めぐぅ!」

 

 めぐねえが緊張で息を切らしながら、徐々に影から姿を現す。

 その対面には“そいつ”がいる。

 暗いが眼鏡を掛けていないオレの目にもはっきりと、血が滴っていると理解できる状態の“そいつ”がいた。

 ゆきは……。ゆきは、いない。

 イレギュラーが起こったってか? んなもん信じねぇ……!

 

「聴かせるんだ!」

 

 初日もそう。揺らぐな。

 オレは歌い、魂を震わせ、聴かせる為にいる。

 その為に、今ここにいて生きている。この命、燃え尽きるまで!

 

「お前! こっちだ!」

 

 声がして、軽やかで確かな足音のくるみが“そいつ”をシャベルで殴り倒した。

 めぐねえが腰を抜かしてへたりこみ、くるみはサムズアップ。

 全くもうっ! 一曲歌い終わる前に一瞬とは手慣れてんなぁ!

 

 大丈夫という意味なのは分かるし歌をまた届けられなかったのは心苦しいが、ゆきはどうなった?

 今倒した“こいつ”の血は、一体……。

 本棚を飛び降りてめぐねえへ駆け寄る。へばってる場合じゃねぇぞ。

 

「落ち着いてまつりちゃん」

 

 んなこと言ったってりーさん、“こいつ”から、血が出てたし……!

 

「落ち着けって。“こいつら”が血ぃ出してんのは今更だろ?」

「そうよ。狙われないように静かにしてるだけに決まってるわ。そうですよね、佐倉先生」

 

 そう、か? そうなのか?

 汚れか血か分かんないから今まで気が付かなかっただけで、“こいつら”っていつも垂れ流しだったのか?

 だったら、それをいつも目撃してるここのみんなは強いな……。

 

「あたしだってそんな直視してる訳じゃないさ。それよか早くゆきのやつ見つけてやろうぜ」

「そうね」

「……だな」

 

 大声で呼ぶのもまた危ないしこっちから探してやらんとだな。

 りーさん。

 

「なに?」

 

 さっきのドラム、いかしてたぜ。

 

「……演奏に乗った訳じゃないわよ」

 

 ツンデレさんめ!

 

 






たった1つの想いはいい曲だ……

次回は来週となります
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