【完結】学園生活騒音部 ~のーきる・のーばらーど!~   作:親友気取り。

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今週もよろしく!


5 SWEET VIOLET

 

 

 

 先日の肝試しも無事終わり、救助の影もない空いた日々。

 学園生活部を設立して以降変わったこととすれば、めぐねえ先生が日常風景を思い起こさせるために授業を始めたくらいだろうか。

 オレはもちろんくるみやりーさんは目的を理解し参加、それに続きゆきも同じく……なんだけどぉ。

 ……うーん、何だか元気な姿を望まれ叶えようとするあまり変な方へ行ってそうな気も?

 時々事件が起こってないかのように振舞ってたり?

 

 まぁまぁ不安は残るが信じて見守るも友。

 歌い、歌うに間違いはない。いつだってハートで歌うやつが正しい。

 

 

「ですンでェ。オレの為に歌います」

 

 

 ごちゃごちゃ考えたってしゃーない。あたしは人間関係類が唯一苦手なんじゃもんになぁ。

 そういう訳で最近オレ自身のために奏でておらんのではないか? という思い付きを爆ぜさせるのも兼ねまして、早速屋上までやってきました。

 あ、ちなみに実は今の時間は授業タイムなのじゃ。

 さっき言った参加してるってのを早速反故にしてる気もするけどしゃーないじゃん。

 だってオレから音楽を失くしちゃったらさー!

 

 さー! なーのでー!

 屋上から世界へ向けて音楽配信したいと思います。

 えっちらおっちら運んで置いたるは、改造ラジオ!

 

 電波チェックおーけー。電源確認、バリ良し。ギター良し。

 三階に物理実験室や放送室があって助かったぜ。お陰で機材をくすねてラジオくんが小型の発信機となれた。これを起点に放送室の機械を動かし全国放送が可能なのです。

 手持ちの携帯電話とリンクさせる事でオンオフ操作も簡単仕様。ふふん、オレちゃんはこれくらい造作もないのだ。

 

 オレの熱いハートのために、そして世界のために奏でるぜ!

 それがやりたいこと! スイッチオン!

 

「……」

 

 風が吹き抜け、音は反射せず、遠くで雑音が響く。素晴らしい。

 寂しさのある孤独感も落ち着くけれど、オレはそこへ一石を投じる為にこれを奏でるのだ。

 

「……」

 

 タイトルはない。

 ただ魂の赴くままに音を電波に乗せ、誰かへ届かないかなって他力本願に思いながらも続ける。

 今ここでオレは演奏し、今ここにオレが居た事を残す。こうして、オレが居た事にする。

 

「……」

 

 ごちゃっと考えた思考とは別に魂は明るいジャズを望んでいるようで、自分のハートに感動し聴き惚れながらそれに従い気持ちも乗せていく。

 ギターじゃなくてバイオリンの方が良かったかなーなんて思いつつも楽しく演奏を続けること約17分。

 素晴らしくキリの良い所で屋上へ誰かがやってきた。

 

「あら」

「おや」

 

 りーさん部長だ。恰好からして菜園の手入れへやってきたらしい。授業は終わったのかな。

 勝手に配信へ出演させるのはマナー的に駄目そうなのでスイッチオフ。

 

「やっほ。世界全てへ音楽を聴かせてやったぜ」

「いつも通りね」

「素敵だと思わねぇか?」

「ものによるかも」

 

 手厳しい。

 して、今日のご飯にもお野菜が並ぶので?

 

「トマトが熟れて来たから食べようかと思うけど」

「あー……」

「やっぱり、食べられないかしら?」

 

 んん、やっぱどうしても駄目なやつ食べたせいで苦手意識ががが。

 

「がんばる」

「えらいっ」

 

 褒められた。えへへ。

 

「トマト以外に嫌いなものはない?」

 

 食べられないものはない。

 何故ならば、アレルギーもないからだ!

 

「そしたら献立は……」

「おいしいもんならなんだって構わんぜー」

 

 あ、でもあんまり手間のかからないものの方がいいかも。

 

「どうして?」

 

 さっきちょろっと確認したんだけどさ、電力の残量がぎりちょんで危なかったので。

 ほらうちの発電って太陽光頼りじゃん? それが最近曇り続きなもんで、どうにも充分貯まってないのよぅ。

 

「たぶんこのペースだと早いうちに停電するかも。シャワー浴びれんのは()だろ?」

「私達、女の子だものね」

 

 現代に生きる人間だもの。温かいシャワーでも無いとストレスがマッハ。

 お風呂があればもっと文句なしなんだけれども、流石にこんな状況だし今は──む?

 

「あら?」

「降ってきよったのぅ」

「まつりちゃん、お洗濯物取り込むから手伝ってくれる?」

「任せたまへ」

 

 ギターとラジオを引っ込ませ、りーさんと並び洗濯物を……届かねぇ!

 受け取るから取ってくんろ?

 

「小柄だと困る事って多くない?」

「かわいいから相殺。萌え萌えで世間のハートを射止めるぜ」

「口調が荒いのと寝癖さえ直せばもっとモテそうなのに」

「ひょっとしてディスられてる?」

 

 笑いながら違うわよと答えてくれたので、軽く冗談を言い合える間柄にはなれてるっぽい。

 きっかけはやっぱり演奏を共にしたからだろうか。

 ふふん。違うとは言いつつもやっぱりハートに響いてるな? やはり音楽の鼓動からは逃れられんのだよ。

 本当は歌うくらいして欲しいけどね。

 

「りーさん! お洗濯物大丈夫?」

 

 と、雨が激しくなりそうな所へゆきちゃん筆頭にぞろぞろと学園生活部が揃ってやってきてくれたぞ。

 みんな集えー!

 

「部長にだけやらせる訳にもいかねぇからな」

 

 あら優しい。

 

「陽向さんは雨が降るって知ってたから先に来てたの?」

 

 なぁめぐねえ。オレを万能に思うのはいいが神ではないぞ?

 屋上にいたのは魂が音色を欲してただけだよ。17分ぶっ続けでギター弾いてただけだもん。

 本当はバイオリンの方がしっくりくる内容のパフォーマンスだったがな。

 

「ふっふっふー。まつりちゃんは全部お見通しだもん。ねー」

 

 ねー、ゆきちゃん!

 なんたってこの陽向祭は全知へ至る存在だもん!

 

「えー……」

「ふたりともちゃんと手伝って」

「はーい」

 

 あいあいさー。

 小柄ーズに振り回されいつものしょぼん顔をしている先生を放置し、ピクミンのように渡されたものを運び往復。

 まとめて洗濯したのに雨だなんてついてないなぁ。

 もー。

 

 取り込んだ後は適当な教室にロープを張って干していく。

 初日にも簡易テント作りで大活躍したロープは人類の英知。

 椅子に立って吊るしながら横を見ると、ゆきが何かを手に声を上げた。

 

「くるみちゃん見て見て、ほらほらボイン!」

「小学生かお前は」

 

 何ぃ! ボイン!?

 まさかゆきちゃん、かのイタリアの英雄パルコ・フォルゴレを知っているのかい!?

 ひとつ聞いてみたかったんだ!

 

「もうっ、遊ばないのっ!」

「あーん」

 

 ね、ねえ! フォルゴレの話は!?

 知らないの? 偶然? そんな……。

 あの人が病院で子供達の為にコンサート開いたエピソード大好きで語りたいのに……。

 

「陽向さん」

 

 なんだいめぐねぇ……。

 

「少し、“かれら”の事で相談したいんだけど……」

 

 えー。いいよぉ。

 何が聴きたいの? ジャズ?

 

「いやギターじゃなくって」

「まっとうなツッコミをありがとう」

 

 洗濯物を干しながらめぐねえが語ってくれたのは、肝試し終盤の図書室戦での出来事だ。

 ゆきを守る為にオレの歌かくるみを頼って自らが囮になった命がけの攻防。

 その時に一つ違和感とか疑問を持ったらしい。

 どうしてか“そいつ”は先に自分を狙ってきた。それはなぜだろうと。

 

 確かにオレは全知へ最も近づいた事があるとはいえ、万能に思い過ぎてはいまいか。

 今手元に揃ってる情報以上のことは答えられんぞ。

 

「前に言ってた音の鳴る方へってだけじゃん? 聞く限りそうとしか言えぬ」

「そうかも知れないけど……。でも先に気が付いて先に声を出してしまったのは丈槍さんなの。それに“かれ”は先に丈槍さんを見た。なのに……」

「なのに?」

「その後に私を見て、すぐ私へ向かって歩いてきたの」

 

 ああ、そんな経緯があったから安全にゆっきーから引き剥がし逃がすのに大成功したってこと。

 ……ふぅむ。それは確かに不思議な話だべ。

 

「音のした方、明るい方。目立つ方を優先に狙う習性って確定させてた前提が覆るな」

 

 唯一現時点で考えられるとしたらゆきより先生のがデカいから最後の目立つ方ってんだけど、それで納得するかい?

 ま。言うなればめぐねえが恋しくてたまらんかったとかそんなもんじゃろ。

 男子学生なら大方デカいほうへ向かいたいもんだって。漢はみんなそんなもんよ。

 ……悲しいね……陽向ちゃんよ……。

 

「そんな適当な」

「めぐぅったら愛され系の先生だからねぇ」

「……」

 

 ほら、手を止めたって仕方ない。どんどん干して……ってもうないわ。

 みんな集まってたしあっという間。おーわりー。

 りー? 

 

「佐倉先生、電力の事で相談したいのですが」

 

 終わったタイミングでりーさんがさっきオレが教えた電力についての相談を持ち掛けた。

 授業や日常生活で使用する電気を絞ろう、あれやこれやに制限を設けよう、ルールを作ろうってらしい。

 りーさんは真面目だねぇ。なのにどうしてオレじゃないんだ。オレなら最適解を教えてやれるのに。

 久しぶりに悲しみのAm。

 

「いや、こういう時はオレよかゆきが適任よな」

「ん? ゆき?」

「くるみにもすぐ分かるさ。おーい、ゆきちゃんやーい」

 

 呼べばすぐさまとてててと猫耳帽子のゆきちゃんがやってきたので、ひとまず抱き着き癒される。

 癒し系なのにオレよか若干背が高いの納得いかねぇ。

 でもオレも美少女なのでオッケーです。無限抱擁。

 

「いやね、電気がないからどうしたもんかとゆきを呼んだわけですよ」

「なんでわたし?」

 

 理論ガチガチ攻めのオレよか、ゆきのがサバイバル下での衝突は少なかろうとな。

 別に仲が悪いって訳じゃないけど、ストレスを減らすには音楽とレクリエーションが一番。

 てなわけで、肝試しの提案も成功させた君からなんか面白いアイデアある?

 

「んー……」

「つか急だなぁ。電気が足りないってお湯も出なくなんだろ?」

「せやで。シャワーが出ない」

「ガーン」

 

 シャワーが浴びれないのは流石に堪えるのか、ゆきがのけ反って停止した。いいリアクションだね。

 一応予想を伝えておくと、このままだと夜には停電しちまうはず。どうだいゆきの者。

 

「……キャンプだよ!」

 

 それも面白かろう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャンプってわくわくするよね」

「分かる。よし、焚き火するか」

「すんな」

 

 なぜかテントが都合よくあったのでみんなで収まり、真っ暗を楽しむ。

 3人用だから4人で収まるには少々キツいが、オレが小柄でかわいいので問題ない。

 どの道めぐねえは締め出されてるけど。スッゴイカワイソ。

 

「キャンプならバーベキューとかどうかしら」

「いいねぇ。じゃあオレは野菜焼くからりーさんはお肉よろしく」

「大和煮!」

「バーベキューで大和煮をどうするんだよ」

「焼く!」

 

 オーバーキルじゃん。

 

「んふふふふ」

「まつりちゃん?」

 

 いや、ごめんごめん。ぐだーでゆるゆるーなのが何だか楽しくなっちゃって。

 お泊り会とは違うこの感じ! ワクワクが止まらねぇんだ。

 なんかみんなお話しよ? あ、こわーい話とかどう?

 

「怖い話?」

 

 暗いから誰にも分かんないけど、それを承知で学校であった怖い話風に表情を作って語る。

 

 ふふ。君はラプラスの悪魔って知ってるかい? 全てを物理的に把握する事で人の行動や世界全ての未来すらも演算できるだろうという昔からの主張なんだけども……。

 そんなラプラスの悪魔を最近になってAIで証明しちゃう手前までやった天才がいるらしい。

 自分の研究で使うために必要だったからと作って、お金になるからと医学分野へ売り込んだ。

 軍事転用しないでねって契約と、もしされた時に備え念のためランサムウェアを仕込んでね。

 その結果は……。

 

「……それ、怖い?」

「うーん。思ってた方向性と違うな」

「……すぴー……」

「ほら、ゆきなんか寝ちゃったし」

 

 なにぃ!? こっから人間の業と図々しさ、全知存在の懐の深さについてを語ろうかと思ったのに!

 

「神話か何か?」

「気になるっちゃ気になるけど、今じゃないんだよなぁ」

 

 そんな……。

 ゆき、ねぇゆきぃ。怖い話してよぉ。

 あるいはギターの話しようぜぇ。

 

「えー。怖い話……」

 

 どう?

 

「あ。ねぇ、すごく怖いこと思い付いちゃった」

 

 キタコレ!

 

「なにぃ」

「ちょっ、タンマ! そういうのじゃなくて!」

 

 おいくるみ、自分が怖いからってシャベルで威嚇すんな。

 りーさんを見ろ。まるで菩薩のようだ。今日もお麗しい。

 

「わたし達が学校を卒業しても、めぐねえはずっとここにいるんだよね?」

「先生も一緒に卒業したらまずいだろ」

「そう思ったら、なんだか寂しくなって」

 

 若狭観音母もその主張に「いい先生だもの」と返す。

 まるで宇宙の果てや終焉についてを想像したかのような怖い話だ。

 オレとしてはゆっきーがさり気なくここで卒業ってワードを使ってるのが一番怖いんだけど。

 もしや今の生活で卒業を視野にいれていらっしゃる……?

 いやいや、これはただの揶揄に違いあるまい。うん。

 

「あ、めぐねえ来た!」

 

 来た! こういう時の必須イベント、見回りの先生!

 寝袋に収まり直して寝たフリ!

 わざわざそれも再現してくれるなんてめぐねえ大好き!

 

「はーい。夜更かししてる悪い子はいないかなー?」

「……」「……」「……」

「……ふふ……」

 

 楽し過ぎて思わずニヤけたら、隣から蹴られた。

 くるみめ……っ!

 

「……んん……んんんん……くく……」

「誤魔化せてない子は誰かな?」

 

 クク、ククク……!

 笑っちゃ駄目ってなると途端に笑いたくなるよな、そうよな……!

 

「あまり夜更かししないでねー」

 

 こつ、こつ、こつと足音が遠ざかり扉の動く音。

 どうやら危機は去ったようだ。

 

「ふぅ、危ない所だった」

「バレてんだろ!」

「まつりちゃん笑い過ぎよ」

「でも楽しいねっ」

 

 そだな。

 願わくばこの平穏が──

 

 

 

 

 

 ──翌日。

 

「気が付いたら明るくて誰もいない!」

 

 バカなっ! 楽しいお喋りの時間は……!?

 つか寝袋の上からテントでぐるぐる巻きにされてる!

 う、うごけん! そんな馬鹿な、身体が全く動かん……!

 

「やっと起きたな」

「くるみ!」

 

 なんで人が寝てたのにテント中途半端に片付けた!?

 簀巻きにすんなよ動けねぇ!

 

「いやだって何しても起きないんだもん」

「いじめだぞ!」

「寝ながら歌ってうるさいのが悪い」

 

 ばっかテメェ。いつだって歌うのがオレだぞ。

 

「じゃあ飯できてるから早くこいよー」

「え、ちょ」

 

 助けてくれるとかじゃないの?

 このまま放置なの!?

 ええい、ガチガチに固めやがって!

 

「それはそうと、ゆきがなんか怖がってるから構ってやれよー」

 

 そう思うなら解けや!

 

「しゃーねーなー」

 

 ゴロゴロ転がってるオレを蹴って更に転がし、縛っている紐をほどいてくれるくるみちゃん好き。

 で、テントでオレを封印する計画を立てたのは誰だ?

 場合によっては許さんぞ。楽器を奏でられない状況へ追いやるとは……。

 

「ちなみに簀巻きになったのは陽向祭って奴の仕業だぞ」

 

 な、にぃ!?

 あの天才究極陽向祭の野郎が黒幕だった!?

 

「起きないしほっとくかーってしてたら転がりだしてこうなった」

 

 じゃあテントの支柱が無いのは何でさ!

 

「だって危ないじゃん?」

「それはそう」

「つかお前、寝ながら歌うし寝相は悪いし夜酷かったんだぞー」

 

 うぉおい、抵抗できないからって我がかわいいほっぺをぷにぷにするな。

 さっさとメシ食おうぜ。早く解いておくれやす。

 

「はいはい」

 

 急いで解いて急いで飯食って、そしてギターを掻き鳴らす。

 完璧な日常動作が壊れちゃうー。

 うー?

 ……なんか騒がしくねぇべか?

 

「ゆきがまたなんか馬鹿やってんだろ」

「静かに」

「……」

 

 ……がたがた?

 …………がしゃん……。

 ………………音の向き、音源、反響……。

 ──キャンプ、雨。

 

「全員を放送室(ここ)へ集めろ! 急げ!」

「分かった!」

 

 オレの救助をやめさせくるみを走らせる。

 微かに聞こえたビートからして何処かのバリケードが崩されたのは確実で、その原因があるとすれば敵の侵攻一つ。

 生存者が訪れるなんてありえないしやってきたのは“あいつら”で確定。足腰が不安定で階段を昇ってくる可能性が低く、故に机を組んだバリケードで進行を食い止め全員を安心させられてたってのに……。

 雨だ。雨が悪い。

 

 ……ははーん、こうなりゃやってやるぜ。

 全員へオレの歌を聴かせりゃいいんだ。

 まるっと全部含めてギターの音色と歌を伝える野望にとって、聴かせる相手がわざわざやってきてくれるのは大変都合がいい。

 非戦闘員と非バンドマンを抱え、皆の安全を優先する集団生活だからオレはそんな野望を泣く泣く二の次にさせてきた。たぶん二の次にできてた。

 

 それが崩れた緊急事態、非常事態。

 望まれるのならば──!

 

「──くっ、ジュリエット!」

 

 もぞもぞ動きながら頭上に安置されているギターケースを睨む。

 流石はジュリエットだ。肝心な時に役立たねぇ。オレの物なら我が意志を守れぇ!

 

「お、おお、おおぅぅお! ギター(ジュリエット)よ、このオレを裏切るのかぁ!」

「まつりちゃん!」

 

 む。ゆっきーよ来てくれたかァ!

 他の面々はどうした、何故にお前だけか!

 

「みんな雨で壊れた所がないかって、あちこちに行っちゃった」

「ゆきはオレ係?」

「うん」

 

 階段は三か所。手分けして確認しとんのか。

 屋上へ通じる中央の階段は念入り厳重に封鎖してるから多分持つとは思うが、確か職員室側が手薄だ。

 オレの耳に届いた情報のみで崩れた箇所を察するには情報が少ない。

 

 入り組んでいて不意打ちを食らいやすいであろうと危惧できる職員室側へせめてくるみが向かって欲しいけど、あいつ走るのは得意だとか言って一番(いっちゃん)遠いとこ向かいそうなんだよなぁー。

 むぅ。ゆきが色々話すせいで音が分からん。何にせよこっから指示も行動も起こせんので考えるだけ嘆きだが。

 

「それとね、雨で運動部が雨宿りしてて──」

 

 ……雨宿り?

 運動部ってワードに雨宿りねぇ。

 音、光、刺激。そういうモンに反応するなら雨で混乱するだろうって予測に反して明確に雨を嫌煙し、そして屋内へ向かう明確なリアクションを行っているのがここで周知か。

 昨日めぐねえに聞いた生徒であるゆきより先生たる自分を優先し狙ってきたという話と組み合わせて考えて、人としての生活がある程度……。それこそ、本能くらいには残ってるとみんな推察できるね。

 

 だからとやることは変わらん。

 

 つまり“あいつら”へ歌やギターの音色をぶつけるのは間違ってねぇってことだな。

 後は聴かせてやるだけだと。

 オレのハートを、音色を、歌を! 情熱を!

 

「ゆき、早いとここれ解けるか?」

「ちょっと待ってね、ロープがぐるぐる巻きに……」

「こんなタイミングで、どんな寝相だよっ」

「わたしが言いたいんだけど」

 

 ゆきから冷静にツッコまれた。

 

「奥の階段は突破されてた! くるぞ!」

「真ん中はまだ平気そうだったけど、いつまで持つか……」

 

 くるみとりーさんが戻ってくる。

 一番遠い所をくるみが、中央階段をりーさんがって具合に見て来たらしい。

 ……職員室側をめぐぅか! 何で危ない所を任せた!?

 

「縄を切れ! こうなりゃオレが出る!」

「ダメよ!」

「ああ、もう! りーさん! ゆきとまつりを頼んだ!」

「くるみ!」

 

 危機を理解したのはくるみも同じらしい。言うが早いかシャベルを片手に速攻で飛び出した。

 

「りーさん、ハサミあるけど」

「ダメ。ゆきちゃん、このままでいいの。このままで……」

 

 不安げに簀巻きのオレを解放するためのアイテムを差し出したゆきだが、恐慌気味のりーさんは最悪の結末を想像し動けなくなってしまったようだ。

 この面々の中で唯一の大人、先生であり心の拠り所だった先生を失ってしまう可能性。それを救出しに向かったくるみの安否。

 そして何より、この放送室という逃げ場のない所へ攻め込まれたらという絶望。

 

 オレとてここまでみんなで生き残ってきた事を嬉しく思っている。

 だからこうなりゃ最後までめぐぅにも生きてて欲しい。

 あめのひ。今日が運命の日。

 今日全てを引っくり返さなきゃ、本当の意味で変えられない。

 

「すー……」

 

 あたしは守れると信じてる。オレがやれると信じる。

 歌い、演奏し、その音の心、ハートを動かす。そして世界を変える。

 拘りの延長、趣味の延長。それで世界を変えられるなら、それは最高じゃないか。

 ここまで来たんだ。せっかくなら足掻いてみよう。

 

「まつりちゃん?」

 

 懐に仕舞いっぱなしだった愛用の携帯電話を手に握り、もぞもぞ動いて首元から表へ出す。

 見た目は黒いガラパゴス。しかし今、オレは手元でコードを入力していたのだよ!

 そう! 改造ラジオを動かすパスを!

 

「イニシエイト・クラック・シークエンス、アクセス開始!」

「!?」

 

 咥えて首を振ってケータイを吹っ飛ばし、部屋の片隅で置きっぱなしになっているラジオの前まで転がす。

 画面が切り替わり、これで良し。

 

「まつりちゃん何したの!?」

「なんだろな」

 

 技名の詠唱とりーさんの問い詰め、計で5秒も稼げれば充分よ。

 ケータイから放たれた電波は改造ラジオを中継し、放送室の機材を動かしていく。

 電力は足りるかな。ギリギリだろうがちょっと動きゃ問題ない。

 

「なんか……。鳴ってる?」

「止めなさい!」

 

 掴みかからん勢いでオレへ詰め寄るけど、今現在も簀巻きのまんまだしケータイは放っちまったしこれ以上はどうしようもないぜ。

 世界は運命への手出しを禁じてこの簀巻きの状況を作っただろうが、オレは歌で運命も変えてみてぇんだ。

 

「ゆきちゃんコード抜いて!」

「え、え、どれ?」

「どれでも!」

 

 そうこうしている内に放送室の機材は音楽を奏で始めた。

 オレが演奏できない状況なら、演奏させりゃいい。

 みんなさ、オレちゃんが放送委員だってこと覚えてる?

 そう。下校時刻になりゃ下校の挨拶の代わりに「蛍の光」を流す事でお馴染みの。

 

「止まらない……」

 

 スピーカーからは音楽が流れ続ける。

 生演奏とはいかないけど、この音色は“みんな”覚えてるだろ?

 この学校にいるならなんやかんやで一回くらい聴いたことあんだろ。

 そうでなくとも、ジャポネーゼのDNAに刻まれた閉店のテーマだ。

 ゆき、歌詞知ってる?

 

「ううん」

 

 じゃあ歌詞教えてあげるよ。しっかり覚えてね。

 オレ作じゃないのは悔やまれるが、折角だから魂に刻んでくれ。

 今日はもうおしまいって雰囲気がちょっと寂しいけど……。

 

「時間切れか」

 

 ばつん、と音がして放送が止まる。電気切れか、それとも配線が途切れたか。

 理由はいずれにせよ音楽は止まってしまった。

 でも……なんか運命が変わった予感がする。

 

「なぁりーさん」

「……なに?」

「そんな怖い顔すんなって」

「誰のせいで……!」

 

 まだ音楽の力を信じられないか?

 ちゃんと、“みんな”の心には届いてたと思うぜ?

 

「もう……どうせ、ここも……すぐに……」

 

 だから怖い顔すんなって。

 ほら、ゆきを見てみろ。

 御主人が帰ってくる音に反応して玄関を見る猫みたいになってる。超かわいい。

 って事はだ。足掻いたかいがあったみたいだ。

 

「──戻ったぞ!」

「はぁ……はぁ……」

「めぐねえ! くるみちゃん!」

「っ!?」

 

 息を知らしながらくるみと、めぐねえが帰ってきた。

 どろどろに汚れてる辺り一戦どころじゃなかったらしい。

 

 はは、ははは。めぐねえだ。佐倉先生……。生きてる。

 っとと。オレがそんな顔しちゃだめだな。

 ようふたりとも。ご無事かやー?

 

「先生、大丈夫ですか!?」

「ご心配をおかけしました」

 

 言いたい事は色々あろうに言葉を選んでめぐねえは無事を伝えてにっこり笑い、ひとまずりーさんを安心させる。

 部長さんがいかに追い詰められた状況にいたのかってのは察してくれたらしい。

 あれこれはくるみに聞こう。向こうはどんな様子だった?

 

「危うくって所だったな。けどめぐねえ凄いんだぜ?」

「すごい?」

「ゆきにまつり、めぐねえ見て気付くとこない?」

 

 んんー……?

 あ!

 

「めぐねえ髪切ったの!?」

「えっ」

「あ、気が付いちゃった?」

 

 そも狙われやすい上に髪も長かったし、自切したんかワレ。

 

「トカゲの尻尾切りみたいな言い方すんなって」

「長いと邪魔なのもあるし、囮にしたの」

 

 そうか……。囮から短髪になっとったんかぁ。

 でもどうやって?

 

「もし“みんな”が先生の事を覚えてたらって、まつりちゃんが言ってたのを思い出して」

 

 ふむぅ。

 それで目立つ後ろの長い髪の毛を根元からざくっと切って、佐倉先生のデコイとしたのか。

 

「囲まれてたのをあたしが間に合うまでそれで凌いで、でも最後のひと押しは……」

「……ねぇくるみ。“みんな”、もしかして帰ったの……?」

「ああ。()()()まつりがなんかしたんだろ? 下校の放送でみんな帰ったよ」

 

 どうせってなんだどうせって。まるで音楽常習犯みたいに。

 りーさんがえらい顔でこっちを見る。

 

 まさか今までパニック映画のアレみたく意志はないって思ってた連中が、実はちょっと意識残ってましたなんて受け入れがたいんだろう。

 今まで散々くるみがぶっ飛ばしちゃってるし、それを推奨しちゃってる立場だしなおさら。

 そんで下校の放送という名の「蛍の光」で帰ったっていう現実も受け入れてなさそう。

 ここまでくりゃ音楽も捨てたもんじゃねぇって分かるだろ? なぁりーさん。もっと柔軟になろうぜぇ。

 

「よっと。ふぅんぬ」

「お、ミノムシが羽化した」

「全くどんだけがっちり絡まってたんだオレは」

「ほんとだよ」

 

 でだ。りーさん。

 これでちょっとは歌の力を信じる気になったかい?

 

「……そうね、偏見で意地張ってたみたい」

「お!」

「ごめんなさいまつりちゃん。くるみとめぐねえを助けてくれて、ありがとう」

 

 良いって事よ。

 本当はオレの生演奏で響かせたかったが、妥協して良しとする。

 

「でも」

 

 うむ?

 

「今日みたいなちょっと怖いのは無し。いい?」

 

 えー。ゲリラライブってドキドキさせてこそじゃーん。

 

「だーめ」

 

 みんな笑ってるんじゃないよぅ。演奏は怖くないよぅ。

 ぶーぶー。

 

「てか居なくなった隙にバリケード直さね?」

「そうね」

 

 おいくるみ、和みムードを正すな。緊張の弦が切れて緩くなったりーさんを現実へ戻すんじゃない。

 ぎた次カモン!

 せめて一曲付き合ってもらうぜ!

 演奏は陽向祭、歌はりーさん部長こと若狭悠里さんにてお送りします。

 

「えっ」

「それではお聴きください、“SWEET VIOLET”」

 

 






 電波受信記録 vol.29


・周波数:76.4MHz
・採集回数:1回
・採集時間帯:11時
・放送者:不明

備考:
 17分ほど音楽が流れた。
 音楽には詳しくないが、楽器は多分ギター。
 曲はジャズなのだろうか、明るくアップテンポな曲だった。

 音の響きや、風の音などから、野外での演奏と思われる。
 途中で、第三者(女性)の声が近づいてきて演奏は中断した。
 楽器類を撤収する気配と足音があり、そして放送が完全に止まった。
 野外で生演奏をしていたのだろうか。だとしたら誰が、何のために。
 あの曲をまた聞きたいと私は思っている。
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