【完結】学園生活騒音部 ~のーきる・のーばらーど!~ 作:親友気取り。
朝うどん(朝食の意)
っぱみんなうどん好きなんだわ。
オレちゃんもうどんは上から数えてうんじゃら番目くらいには好きだぞ♡
でも蕎麦の方がもっと好きです。
「手紙とか出してみない?」
「え、手紙? でも郵便局は外だよ?」
先日の雨の日ラッシュは大変だったけど、曲の力で何とかなって平和な朝ご飯。
“あいつら”の行動原理は分からんがだいたい分かった(分かってない)というのを皆で話し合い、考えるだけ心がしんどいからそういうものとして処理し日常へ戻った。
日常に、といってもまぁまぁなサバイバル状態なのは変わらんけど。
これからどうすっぺーとか物資不足はどうしようかーとかうみゃうにゃ話してたら、りーさんが手紙を出そうと提案。
未だに救助の影も無く、故に助けてコールを叫ぼうというのだろう。
かしこいぞ。やろか!
「手紙といえば伝書鳩だな!」
そん中でひとり賢くない人いますー!
伝書鳩の性質理解してないですー!
「伝書鳩いないじゃん」
「捕まえるんだよっ!」
「はいはい」
ノリのいいゆっきーにすら塩対応されてら。
めぐねえは手紙出すなら何書く?
「そうね。私達は感染しておらず無事です、とか救助が欲しい、とか」
無難だねぇ。
「陽向さんは?」
はいこれ。
「この前の楽譜?」
ゆきの作ってる曲に合わせて書き入れちょります。
まだ向こうは完成してないがオレは天才だからな。先回りして完成させといた。
あとは歌詞待ち。どう転んでもきっかりこれにあったの書いてきてくれるはずだからオレの仕事は終わったぜ。
けど一刻も早く音色は世に解き放ちたいので今回のお手紙企画に便乗したいと思います。
「他の曲の作り方は分からないけど、打ち合わせなしに……?」
「できるんですそれが」
くくく。まぁちょちょいとズルっこしてね。
「じゃああたしヘリウム取ってくるよ」
「私も手伝うわ」
「わたしも……」
「ゆきちゃんはめぐねえと先にお手紙書いててもらっていい?」
「はーい」
めぐぅと話してたらりーさんとくるみが理科室へ旅立っていった。
残されたのは先生とゆき、そしてオレ。
ザ・小柄ーズだけになると中学生感が増す。オレ達、高三だよな?
「ゆきは何書くん?」
「すっごいの書くよ!」
そうか、すごいの書くのか。いいぞぅ。
「書いてあるかしら……」
「なにそれ?」
ゆきがうんうんと頭を悩ます横でめぐぅも頭を悩ましていた。
地図帳を開いて我々のいる場所を探そうってらしい。
オレに聞いた方が早いのに手間なこって。ほらよ。
「まつりちゃんはなにそれ。呪文?」
「ふふん。これは座標だよ」
「これを書いておけば、私達はここにいますよって手紙で伝わるの」
折角ドヤ顔で座標を書いたのに、めぐねえはオレの天才ぶりに慣れてしまったのかもう驚いてもくれない。
もぅ! やりがいがないじゃん!
オレはみんなに驚きと笑顔を届けたいの!
「うぉおおおお!」
いでよ我がマイギター! ジュリエット!
「だったら手紙に込めてやる! 我がマイハート!」
ぎゅいんぎゅいーん!
さぁツッコめ。ツッコんでくれ。
紙に音は籠められないでしょとか言ってくれ。
そしたら、オレはレコードと同じ仕組みさぁって今紙に刻んでる溝についてドヤ顔で説明するから。
さぁ! 受け取ってくれ!
「んー、改まって書くと恥ずかしいよね。わたし、字が汚いし……」
「大丈夫よ。丈槍さんの所へ風船で手紙が届いたらどう思う?」
「びっくりする! あと嬉しい!」
ゆきちんすらもオレの事を放置し始めたんやけど。
何故だ、何故なのだ、ハートに馴染み過ぎてギターの音色が酸素のように!?
ならばなられば酸素濃度を上げちまうぜ。
うぉおお! オキシジェンデストロイヤー!
「ただいまー」
りーさんおかえりー。
あれ、くるみは?
「鳩を捕まえに行くって、屋上へ」
ふむ。オレの歌を聴かせる相手はそっちにいる訳だ。
「……」
屋上へ向かうとくるみがシャベルを片手に鳩へ立ち向かっていた。
いいね。そいつへ聴かせてやろう。
「行くぜ! “Yummy Yappy Recipe”!」
「あっ」
ゆきとりーさんが料理している風景に感銘を受け歌います。屋上で。
ギターでガンガンにビートをゴーしてハートをポッポーにバンバンやって──逃げられちった。
くるみが眉を潜めながらこっち見る。
ようブラザー、協力するぜ。
「お、ま、え、の、せいで逃げられただろがっ!」
「アガガガガガガガ」
待て待て待て、首はあかん、あかんて!
ちょ、力強いてば! オレは音楽がない時の守備力ゼロなの!
バフ詰み前提の能力設定なの!
「あたしの伝書鳩どうすんだよコレっ」
「わーった、わーったって」
なんやかんやで鳩は野生の動物。人間や人間の出す音で逃げるのは道理。
聴かせる前に逃げられちゃあしゃあない。
仕方がないので
眼前に据えるは菜園の野菜を狙った鳩。荒らせばりーさんも悲しむがゆえに容赦はせぬ。
「まつりにできんのか?」
訝し気に聞かれるが、任せたまえ。
我が必殺パクり剣で捕らえて
「散りゆくは叢雲。咲き乱れるは桜花……」
──今宵、散華する
「はやいっ!?」
くるみの目にすらも追いつかない神速の踏み込み。
一瞬の後にはシャベルを振り抜き、空いた片手に鳩を捕まえ残心している姿が残った。
これが見様見真似で使う他人の必殺技。その名も桜花残月。
攻撃技だしこういうネタ伝わりにくいからもう二度と使わない。
まつりおぼえた。
「どうだ捕まえたぞ」
「いや、うん。すごいけどさ」
ふふん。もっと褒めたまえ。
ほらシャベルをお返しだ。
「シャベル、いつ使った?」
「トンファーキックみたいなもんだから」
「?」
シャベルを受け取りながらくるみは首を傾げる。
どうもこっちのネタも伝わらないらしい。
これが若さか……。
「つかその強さを“あいつら”との戦いでも使ってくれよ」
「武器なんぞ持ったらギターが持てないし歌えないじゃん」
「せめて護身用でも一つなんか持っとけって。曇ってたら傘持つだろ?」
「へっ。傘なんか差したくないね。濡れる方がロックだから」
「どうせそうなると思ったよ……」
まったくもぅ。オレが最前線で歌ってる理由を思い出せ?
全ては世界へ魂の音色を伝えるためさ。
武器なんか持ったら演奏できない。
「にしても技名ついてんのカッコイイなー。あたしもつけようか」
「後でうわぁああ! ってなるから程々にな」
「まつりはなったことある?」
舐めるな。
「やらかしたんだな……」
「何の話?」
「二人とも、鳩は捕まえられた?」
グダってたら屋上へ学園生活部一同がやってきた。
おぅりーさん。この通り捕まえたぜ。
さっそくこいつへ聴かせるから待ってくりゃれ。
オレはこの鳩へ歌を聴かせるためだけに本気でオレは捕獲しにかかったのだ。
「聴かせてやるぜぇ……」
「アルノーがかわいそうだからやめてやれ」
もう鳩に名前つけたの?
オレが捕まえたんだからオレにも一枚噛ませてくれよぅ。
混ぜてよぅ。
「鳩錦鳩子ちゃんでしょっ」
「ちょっと待て、誰が鳩子だ」
「間を取ってアルノー・鳩錦でどうかしら」
オレもいるんだからもはや無印ではなかろう。
ゆえに名乗るのならアルノー・鳩錦二世だ!
めぐねえ!
「私に振られても」
お゛お゛ぉ゛ん!
「じゃあそろそろ飛ばすわよー」
はーい!
ヘリウムで膨らませた風船に各々の手紙が紐で繋がれており、後は飛ばすだけ。
みんなでいっせーので飛ばす思い出作りの為に一個渡された。深緑の風船はなんかオレのイメージカラーと違うな。
あたしそっちの黄緑がいーいー。めぐねえ交換してー。
「はいはい」
「やったー!」
「どれでもいいだろ……」
どれでも良いって思うなら鳩使うなし!
「アルノーは特別だ!」
特別なら仕方ない。
んじゃあ、飛ばすか。
「1、2のさんでいくよ? せーのっ」
おっけ。いち。
「2の」
みんなで「さんっ」で同時に手を離し、青空に風船と鳩を放つ。
そしてコンマ数秒もいらない高速で亜空間よりギターを取り出し演奏開始。
オレの歌も一緒に連れていってくれー!
お前達ィーッ!
「お返事こないかなー」
「すぐにはこないんじゃないか?」
ゆきとくるみが暇を持て余した18時。
お手紙形式で返事が届くと考えるから駄目なんだ。
昨今の若造はラジオを聞かんのか? お手紙の読み上げといったらこれよ。
じゃっじゃーん、雨の日には大活躍したまつりちゃんお手製魔改造ラジオ~。
「なんとこの機械、アンテナを伸ばす事で電波を受信し音を鳴らせるんです」
「ただのラジオじゃねぇか」
「スマホ以外でもラジオって聴けるんだ!」
「ゆき、そうじゃない」
なんかないっかなー。
ワンワンワンワンワン放送局ならこういう時でもやってそうなもんだけど。
「ワン多くない?」
「りーさんも相手を探してみるかい?」
ここのつまみをぎりぎりーってやるとざらざらーって音がいい感じになるから。
今回はワワワンラジオはさておきのお返事探しなので、しらみつぶしにくるくるー。
この辺とかどうかなー。うろうろー。
「む」
プロジェクト
なんかゴニョゴニョいっちょる。
調整調整……。
『……──えてますか? 聞こえてますか?』
「聞こえてるよ!」
「ゆきちゃん、少し静かに」
残念ながら片道の受信のみなのでこっから返事しても意味はない。
ゆきはめぐねえ呼んできてもらっていい? たぶん今一人寂しくごはん作ってくれてるから。
『今、巡ヶ丘駅の北口に……北口の駅長室にいます』
「ふむ」
駅か。こっから迎えに行けん事はないな。
『今足を怪我してて、噛まれてはないけど、うまく動けない。結構痛くて……一人で外へ出るのはもう無理かも』
「くるみ、この人怪我してるって……」
「だな。でも学校の外なんてどういう状況か分かんないし」
噛まれてないならいいんだけどさ、足の怪我どうすっか。
んー、歩けるかどうか分からんし迎えに行くなら車両が欲しい所。まだ動くかな、オレのスクーター。
ちょっとやそっとじゃ壊れないとは思うけど、しばらく野ざらしだから心配だ。
「まつりならどうする?」
「そうね、まつりちゃんは?」
無論行くに決まってる。
それも今夜だ。
ギュッ。
「“あいつら”が夜にあんま動かないっぽいとはいえ、あたしらも危ないだろ」
「人数を絞るとか」
「だな。あたしが戦うから運ぶ人が欲しい」
「めぐねえ連れて来たよ!」
作戦を考え無言になっている隙にゆきがめぐねえ連れてきた。
「それだったら、私の車を使えば」
あ、それは無理。
外の状況が分からんのに走れるところが限られる四駆は駄目よ。
「……まつりちゃんは良い案ある?」
ふふん。よくぞ聞いてくれました。
んじゃか、ばーん!
「鍵?」
我がスクーターの鍵です。
多少道が塞がってたりしても小柄なスクーターなら抜けられるし、多少お相手がたの足が痛んでたとしても乗せちまえば運べる。
正直この展開は完全な想定外、イレギュラーなので不安だが何とかしよう。
雨の日のめぐねえが救えたんだ。こいつだって救えらぁ。
「くるみ、行ける?」
「バイクは自信ないな……」
なんでオレのスクーターなのにくるみを乗せようとしてるんだよ。
「だってまつりちゃん、どうせ外で歌うんだもの」
「なぜバレた」
「むしろ何でバレないと思ってるの?」
ギターを背中へマウント。おっけ。
じゃ、ちょっくら行ってくるわ。
「待て」
ぐえっ。
「お前ぜったい寄り道すんだろ」
「まつりちゃんが一番危ないのよ。歌うから」
「せめてもう少し情報を集めてからでも」
みんなに反対された。なんで?
あと何でブロリー映画のトランクスみたいな台詞言った?
「むしろ何で反対されないと思ってるの?」
さっきとほぼ同文で返すんじゃない。
じゃあお前らはどうすんだ? えっちらおっちら歩いて駅まで行って、足怪我してる奴をどう持って帰るつもりよ。
「……線路って歩いちゃだめ?」
「ゆきちゃん?」
「ほら、昔の映画でなかったっけ。みんなで線路歩くやつ」
ああー。あったねぇ。それいい着眼点だ。
“あいつら”が生前(?)の行動にある程度従っているのなら、線路なんか絶対立ち入らない説。
どれ撫で褒めてやろう。うりうり。
駅構内は帰ろうとしてるやつが結構いそうだから線路沿いに行くのが正解かね。
うっし、んじゃあ行ってくるか!
「ぐえぇっ」
「だから待てって。線路から行くんだったら徒歩でもいいし、走りに自信のあるあたしが出るって」
「そうね。恵飛須沢さんなら……。……恵飛須沢さん、本当に大丈夫?」
「めぐねえも安心しなって。行って帰ってくるだけだし」
おいこら、オレが行くっつってんのに。ならその走りで決着つけてやろうか?
オレはギターを、そっちはシャベル背負ったまま廊下を走ってより早くゴールまで辿り着いた奴の勝ち。
「まつりちゃんがそれで納得するんだったら、私はいいけれど」
「りーさん」
「くるみ、走れる?」
「走れるけどさ」
お、図らずもりーさんが追い込んでくれた。
くるみも自信があるって言った手前、そして陸上の意地で引けなくなっとる。
はははっ、くるみがビビってるぞ。さっきのオレの動きを見てるからな。
佐倉先生もゆきも、肉体勝負ならオレが倒せるもんと思ってるし丁度いい。
「くるみ。運が無かったな」
「ハンデあるなら負けやしないさ」
距離を測っておおよそ50m。レギュレーションは背中へ自身の得物を装備する事。
ゴールするのが早い方が当然勝利だが、接戦の場合はスタミナの消費具合も審査に入る。
判定は中立を保つためめぐねえとりーさんにゴールを見てもらい、フライング対策としてスタートにはゆき。
安全圏の外へ、そして言い方は悪いが足手まといを連れて帰るにはこれくらい慎重な人間選びが必要なのだ。
「る、るるる……るる……」
「その歌がいつまで持つかな?」
「位置についてー」
くるみがクラウチングの姿勢を取る。
オレはスタンディングスタート。背中のバランスを考え安定を取ってな。
「よーい」
「……」
「……」
「どんっ!」
ゆきの手が振り上げられると同時にダッシュ。
スタートはくるみの有利だが何メートルと離されている訳ではない。
「ふふっ」
前方から笑いが漏れた。勝ちを確信しての事だろう。
まぁ確かにこのままだとオレは負ける。スタミナ審査の前にゴールラインで失格にされちまう。
さぁて、そろそろ行くぞ!
「っ」
オレの闘気を感じ取ったのだろう。もしかしたら踏み込みが変わったのを感じ取ったのかも知らんが。
なんにせよフォームを変えたのは確かだ。姿勢はより前傾に、踏み込みはより深く。
自分の脚がしびれるような溢れ出る力。ふふ、この陽向祭の本気はこんなものではない。
より最適な姿勢、より最適な力の籠め具合を演算し効率化を進め──
「なっ!?」
くるみの最高速を超え、ぐんぐんと競りもせず抜かす。
向こうは焦って加速しようにも、そんな力任せではオレに敵う訳もない。
「ゴール!」
なるべく身体に負担を掛けないように静止。
どうだ、文句なくオレの勝利だろう。
オレこそが究極なのだ! ふはははは!
「まつりちゃん顔真っ赤」
現役陸上相手によくやったオレ。
そういうのは指摘しないのが大人のレディだぜ、ゆき。
「そんな、くるみが……」
「……悪ぃ……りーさん……」
くるみは息を整えつつ、負けたと自分で言う。
さて。これでオレの勝ちだし出陣は止められないな?
「そういう、約束だものね」
納得いってない顔だが約束は約束。
んじゃあ軽くご飯食ったら出発しますわ。
めぐぅ。今日のご飯はー?
「あ!」
「え」
「──めぐねえお鍋が凄いことになってるよ!?」
「忘れてた!」
ちょっ、めぐぅ!?
──もう一度、望みを託して放送をしてみた。
当然どこからも返事はない。
どこかで誰かが聴いてくれてるとも限らないし、それにわざわざ危険な外へ出てまで足を怪我した足手まといなんか助けたくないのかも。
「ここまで、なのかな」
ショッピングモールを抜けて、町を駆けて、駅へ辿り着いて。
どこにも生きている人は誰もいなかった。
まるで自分だけが世界に取り残されて生きているかのような不安感が胸を押し潰して、今すぐにあの狭い部屋に置いてきてしまった
でも、そうはいかない。
生きているだけの時間稼ぎじゃなくて動く事で開ける先を証明しなきゃ、喧嘩した程の行動に伴わない。
「痛い……」
折れてはない……と思うけど、痛むのに無理やり走って
「……ここで、死んじゃうのかな」
扉は一枚。窓もない。“あいつら”から必死に逃げてきたせいで、逃げ場のない所へ来ちゃった。
唯一ある放送機器も受け取る相手や助けてくれる人がいなきゃ意味がない。
ゲームで言うなら詰みだ。
おとなしくあの場所で救助を待っていた方が良かったのかな。やっぱり。
「もう、
最初にここへ来たのが16時くらい。
持っていたご飯を食べて、置いてあったマニュアルを読みながらなんとか放送をしたのが17時。
そこから一時間くらいずつで同じような事を言って、もう諦めた。
どうせ聞いたところで誰もここまで来られない。誰も──
「──でも」
美紀の為にも、私の為にも。
さっき見た線路には感染した人は少なかった。あそこから隣町まで行ければ、もしかしたら巡ヶ丘は封鎖されてるとかで無事な人が大勢いるかも知れない。
生存者が一人でもそこへ辿り着けば、人が生きてるって信じて救助に踏み切ってくれるはず。
「はは」
なんて希望だけの思い付きなんだろう。痛む足がじわじわと視界を白黒させる。
折れていようがいまいが、痛いのなんか我慢すれば。
ここでじっとしていても死を待つだけだ。
「よろしくね」
ショッピングモールを出る時に持ってきていたCDプレイヤーの電源を入れて、スピーカーから大きく音を出す。
急いで駅長室から出れば、音に寄っていく“あいつら”が見えた。
入れ違いでホームまでは行けるはず。
途中で階段があるけど、そこさえ我慢できれば……あとは……。
「はっ……はっ……」
這い出るように表へ出る。
駅構内に残っていたスーツ姿の“あいつら”の目が私を見て、歩み寄り始めて……音に気が付きそっちを向いた。
なるべく急いで、なるべく音を立てずに動く。
「……っ!?」
その中でひとり、誘導に気を向けず私へどんどん近づく人がいた。
私と同じ巡ヶ丘の生徒だ。リボンの色は一つ上の学年を示している。
家に帰ろうとしてここにいるのかな。私も、この人のようにどこかへ向かってさ迷い続けるのかな。
嫌だ。
終わりたくない。
「まだ!」
思わず出た叫びで回りの相手が向いてしまったけれど、気に留めてる暇はない。
痛みで狭まる視界の中で、床に倒れては動く手足で必死に動き、壁にぶつかりながらも進み、階段を──
「──うぅ」
一瞬気を失ってたかも知れない。
点滅する視界の中、気が付けば駅のホームに辿り着いていた。
でも、もう動けない。
もう、これが限界。
美紀は、無事かな?
学校はどうなっちゃったんだろう。
他に誰か、生き残りはどこかにいたのかな。
「……ぁ」
見上げて、僅かに見えたのは知らない誰か。
ぐえーとかぐわーとか、そういう唸り声で、私はここで……。
「君の心を受信した!」
じゃーん! じゃかじゃーん!
とんでもなく場違いな音が絶望の雰囲気を消し飛ばす。
言ってる意味も分からない。受信? 心を?
というか、誰が……どこから?
「
え……。
ひ、陽向祭って……。
まさか、あの!?
「見てたぜブラザーそのガッツ! 今こそ欲する我が正義!」
ばんばんと大音量のエンジン音と、何故かギターの音。
前に美紀が教えてくれた陽向祭って名前の天才科学者は物静かで研究熱心らしいけど、えっと……本当に同一人物?
こんな状況でタガが外れたとかそういう?
でも──助け?
「オレの歌をっとと、ええい根性見せろポンコツ! れっつごー!」
痛みに耐えながら身体を起こしてみれば、線路の果てから現れたスクーターが前輪を持ち上げホームへ乗り上げようとしている所だった。
見間違いじゃない。スクーターが、アクロバットなことしてこっちへ来ようとしている。
「誰もお前を……死なせやしない!」
超かっこいいことしてるけど、その運転もどうなの!?
何でスクーターの上に立ってるの!? 演奏しながらここまで来たの!?
現れた陽向祭を名乗る不審者は、サーフィンでもするかのようにスクーターを乗りこなしながらギターを弾いている。
ハンドルを文字通り踏みつけながら、ギターを弾いてる。
私の見間違い、じゃないよね?
だ、駄目だ、天才って何考えてるかわかんない……。
セリフと登場するタイミングはいいんだけど、えぇ……。
「着地っ」
私の近くで飛び降りた陽向祭さんが手を伸ばした。
「助けに、来てくれたの……?」
「もちろんさ。動けるかい?」
よく分からないけど、助かる事に違いはない。
安心したその瞬間、陽向さんの背後にさっきまで私を狙っていた“あいつ”が現れ襲い掛かる。
危ないと声を掛ける隙もなく──簡単に後ろからの攻撃を避け、とろとろと倒れず動いていたスクーターを蹴って走らせエンジン音で敵を遠くへ誘導させた。
スクーターはハンドルを柱にぶつけると、ひとりでに方向転換をして帰ってくる。
まるでアニメか映画のような、そういう滅茶苦茶なアクションを現実でやってる。
私がそんな意味不明な流れに気を動転させている間に陽向さんは周囲を確認し、痛む足へライトを当てつつ手当をしてくれていた。
天才となんちゃらはって、こういうのを言うの……?
「“あいつら”にももっと聴かせてやりてぇが、今回は怪我人もいるしお預けだ」
「は、はい……」
何ではいって言っちゃったんだろ。むこうもそれを聞いてなぜか頷いてるし。
「無茶し過ぎたか? 折れてそうなのが怖いな」
「ごめんなさい……」
「ちょっと待ってな。せーのっと」
ギターを床に置いてスクーターのスタンドを立たせ、とても小柄な陽向さんは私が力を入れるのに合わせてひょいっとシートへ乗せた。
「……増えて来たな」
「たぶん、上に置いてきたCDプレイヤーが壊れてこっちへ来たんだと思います」
「CD? 音楽聴かせたの?」
「それなら、囮になるかなって」
ふむ、と陽向さんは首を傾げる。
そんな時間はないし早く安全な所へ行きたい。そうお願いすると、陽向さんは仕方ないと呟いて懐から何かを出した。
「じゃん。ピック付きドリル陽向スペシャルバージョン~」
「早くっ、もういっぱい来てますって!」
「まぁ慌てなさんな。お前に“あいつら”へ音楽を聴かせられてオレに聴かせられない訳がねぇ」
言ってる意味が分からない。
「……これも、仕方がないんだよな」
床に置きっぱなしだったギターへ起動したドリルを放る。
ドリルに刺さったピックが弦を鳴らし不協和音を響かせた。
「天国でオレ達を見守っていてくれ。ありがとう、ジュリエット」
陽向さんはそれに振り向くことなくハンドルを直接握ってスクーターを走らせた。
「えっと……」
「あいつは勤めを果たした。あいつは、あいつは……」
「いや……。はい」
ジュリエットって、あのギターのこと……?
というか、えっと、助けに来てくれたのは間違いないんだけど、あの。
……どこいくか分からないけど大丈夫かな……。
「んー、演奏できないし歌うか」
「え、歌って」
「リクエストをどうぞ」
「えっと、わ、うわっ」
「揺れるぞー」
言うが遅いかホームの端から階段を下って線路へ降りて、小石をものともせずスクーターは進む。
め、めちゃくちゃだこの人。
言ってることも、やってることも。
「ないの?」
「あ、あります!」
「バッチコイ」
歌うか演奏してないが落ち着かないみたい。
とりあえず何かリクエストしておこう。
悪い人ではないんだけど、こんな調子で大丈夫なのかなぁ。
「“We took each other's hand”っていう曲なんですけど」
「……バラードか。しゃーねぇ今日は特別だ。るー、るるる……。んん、おっけおっけ。さんしーせーのっ」
ギター、歌。ジュリエット? との別れ。
よく分からないけど、私は助かって生きてる以上に生き生きしてる人がいる。
美紀。生きてればこういう事もあるよ。
もう少し待っててね。もうすぐ、この人なら助けてくれると思うから──
その時も歌いながらだろうけど──
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