【完結】学園生活騒音部 ~のーきる・のーばらーど!~ 作:親友気取り。
翌日の授業タイムの教室。
早速教壇黒板前へ昨日駅で拾ってきた新入りを立たせる。
という訳で皆さんご注目。新メンバーの後輩です。
はい自己紹介よろしくぅ!
「2年B組の
「あちこちズタボロボンボンだけど階段から蒲田行進曲しただけなんで優しくするように」
めぐねえ以外が首を傾げた。
「もしかして今の子って蒲田行進曲見てない……?」
「出た出た。同年代にたまたま知ってた昔のやつでマウント」
「んだとくるみオラァ!」
「えっと……」
あっとしまったごめんごめん。戯れだぜ。
基本ここの連中はこういう雑で緩い感じだからお主も適当な感じでヨロ。
先輩後輩とかあんま気にせんから。
「はい!」
元気よく手を上げてどうしましたかゆきちゃんくん。
「わたしは3年C組、丈槍由紀!」
元気な挨拶、えらい!
ではMx.K。そこの丈槍さんの隣が空いているのでそこへ座ってください。
授業を続けますよー。
「え、え?」
「よろしくね」「よろしく」
「よろしくお願いします……?」
おーおー、途惑っていらっしゃる。
でもしょうがないねんな。今は授業中だし。
「これ、何をしてるの?」
こそこそっとけいがゆきへ聞く。授業だっつってんだろオラァ!
ゆきが3年C組っつったからドラゴン先生するぞ! フォアチャァ!
「私が先生なのに……」
一歩その頃、今日の佐倉先生。哀愁を漂わせながら教室の隅でみんなと一緒に勉強中。
先生なのに授業をさせてもらえないのが悲しいらしい。
さっき
「授業?」
けいにそろそろ説明しておくと、これはレクリエーションの一環で授業です。
国語は専門の先生であるめぐねえが、音楽にプラスで理数系全般諸々を天才究極ハイパー美少女陽向祭様が担当しております。他だとりーさんが家庭科、くるみは体育。ゆきは給食担当をよくやってるかな。
汝も得意なことがあれば授業にしてええとよ。
これはただのレクリエーションってだけでなく、得意分野の知識を共有する目的もあるから。
「あ、あの!」
ほいきた。けい、どうしたかね。
「その、ショッピングモールに私の友達がいるんです!」
ふむ。
くるみとりーさんが顔を合わせた。
ゆきは首を傾げ、めぐねえが何故かオレを見る。
めぐぅったらオレのこと好きすぎない?
「助けて貰ったのに、まだ我儘を言うようで……その……」
昨日で道の状況はある程度分かったから今度は車で繰り出そうか。
「うっし、今度こそ負けねぇぞ」
「わたしだって!」
「お、ゆきも来んのか? ん?」
「まつりちゃんみたくヒーローになる!」
めぐぅの車って何人乗り?
「4人まで。ひとり助けて連れ帰るなら、3人だけしか乗れないけど」
よぅし。ならば選考試合だ。
参加者は怪我人のけいを含まず学園生活部全員、計5人。
ふたり脱落者が出るとは事実上の決勝戦だな。
「え、あの、そんな即決!?」
「私が車を運転をするから、残りの──」
何言ってんだ佐倉先生。先生も選考で負けたら当然お留守番組やぞ。
「私の車なのに!?」
今日いちの声が出たな、いいぞぉー。
ではシングルイリミネーションデスマッチ、第二回人命救助隊選考御前トーナメントを開始する!
元陸上のくるみはシード権を持っているので免除、よって4人で戦うぞ☆彡
一発勝負で負けたら当然お留守番。
全員廊下に集まれー。
「私の車なのに!?」
今日いちの声が出たな、いいぞぉー。
「うぅ、私の車なのに……」
「大丈夫ですよ、佐倉先生。私も負けましたから」
「若狭さぁん……」
陽向祭vs若狭悠里はオレの勝利。
佐倉慈vs
それぞれの敗因は陸上所属のくるみですら勝ち越せなかったオレ相手にりーさんが敵う筈もなく、めぐねえは年齢と元気に勝てずって具合。
そんで現在はシード権付けたら救助隊入り確定したくるみに車を取りに行ってもらってる。
オレにゃめぐねえの車がどれだか分からんので。
「陽向さん、ありがとうございます。助けて頂いたのに、そのうえ友達まで……」
「気にすんなよ後輩。ギターを極めし者は必ず世界平和という《
オレこそが自力で全知と《理》へ辿り着いた世界最強の美少女。全知そのもの。
あとこの陽向祭様が恐れ多いからといってそんなガチガチに緊張せんでええぞ。
お前、敬語苦手っぽそうだしさ。
「そういえばまつりちゃん、ギターは持って行かないの? さっきの50m走の時も持っていなかったけど」
「ずっと演奏してないね」
「あっ」
りーさんに言われ、けいが申し訳なさそうに小さく声を出した。
そいや説明してなかったんだけど、昨日の救助の際にジュリエットは殉職なされたぞ。
名誉の戦死。二階級特進。階級がぐーんと上がった!
はぁ……。色々頑張って誤魔化したけどジュリショックは辛い。
愛着あるモンだったがいつかこうなると知っていたし、命に比べたらってのはしゃーないんだけどさぁ……。
ショッピングモールで代えのギターを手に入れるつもりだからそんな顔すんなよ。
「陽向さんがギターを捨ててまで、人助けを」
めぐぅがそっと呟く。まさか世界の為にライブを続けるこのオレがそうするとは思わなかったんだろう。
でもさぁあのなぁお前ら。オレだって場面を見て優先すべきが何かの答えは分かるぞ。
なんたってオレは天才だからな! なんでも聞いてみるがいい! 答えてやろう!
「じゃあまつりちゃん、1+1は?」
「みそスープ」
「おいっ! 早く乗れ!」
「はーい」
なんだよぅ。くるみ来るの遅いよぉ。
ゆきは後ろへ、オレは助手席へそれぞれ搭乗して出発。
「いってきまーす!」
「私の車だからね! 気を付けてね!」
めぐぅも未練がましいの。
我らを信じて待っておれぇーっ!
おっとっと揺れがひでぇ。くるみ気を付けて運転しろよな。
ベゴッ。
「やべ」
「早速ぶつけてる!?」
いってきまーす!
割と遠回りにはなってしまったものの、なんとか許容時間内にはショッピングモールへ辿り着いた。
めぐぅ! りーさん! けい! 終わったよ……。
「いや終わってないから。まだこれからだから」
「ところでお迎えに行くけいちゃんの友達ってどんな子なの?」
ん? 友達っていうくらいだし同学年じゃん? 2年のさ。
「名前は?」
……え。
「どこにいるとか」
……。
「……」
「……」
「……えっと……」
なんて言い訳しようかな。
えへっ?
「お、ま、え! あたしが車を取りに行ってる間に聴いとかなかったのかよ!」
アガガガガガ! だから、だから首はやめろって!
皆でみそスープの話してただけなんだってば!
「みそスープ!? あたしが必死に戦って車探してる間に、みそスープ!?」
ぐべぇ!
「ほら行くぞ! 生きてりゃ会えるだろ」
「まつりちゃん大丈夫?」
「へーきへーき」
ただの戯れだからな。
それに、ここへ来たのは何も人命救助のみにならん。
オレのギター探しも兼ねとる。あと他にも諸々の物資。
……む?
「こいつは」
くるみとゆきの背中を追って歩きながら、床にあったチラシを拾い上げる。
どうも事件のあったこの日は演奏会があったらしい。
そこへ“あいつら”の襲撃とは運がない。人も集まってただろうになぁ。
「やっぱ多いな……」
「くるみちゃん、ちょっと怖いよ……暗いし……」
「任せろって」
ふむ。まだ店内に沢山残っている理由は明確だな。
待っているんだ、演奏会を! 分かるぞその気持ち。音楽がなきゃ死んでも死にきれねぇ。
だったらオレが聴かせてやるよ、魂の音色! ジュリエット! ……はもういないんだった。
そうか、ジュリエット、もういないんだな……。
「まつりー?」
「ういうい」
「なんかお前が歌ってないと落ち着かないな。ギターは?」
「あのねくるみちゃん、まつりちゃんのギターは……」
さっき説明した時に居なかったくるみへゆきが説明してくれる。
ありがとうエンジェル。ゆき神。
「じゃあ、まつりは楽器のコーナーでも見てるか?」
「そうさせて頂こう。くるみはどちらへ?」
「例の友達捜索のついでに食品コーナー行ってくる。お前らふたりで大丈夫か?」
暗にゆきを任せた。任されよ。
ギターさえ見つかれば負け筋はない。
「そのギターで敵が集まってきそうなもんだけどな……」
「それも面白かろう」
「危ないんだって。お前はいいけど、ゆきの方がさ」
そこは任せてくれ。オレのライブで怪我人は出さん。敵も味方も全員な。
“こいつら”が階段に弱いのは変わらずだし上階であるこっちには数が少ないし、ゆきを守りながらでも何とかするさね。
むしろくるみこそ一人で下へ行って大丈夫なのか? 食品関連は地下だろ?
「隠密行動だからなんとかなる」
「それもそうか」
「じゃ、行ってくる」
「くるみちゃん気を付けてね」
シャベルを確認すると、くるみは駆けて行ってしまった。
心配するだけ無駄か。あいつとて伊達に戦線を潜り抜けていない。引き際は弁えてるだろう。
それにオレは大丈夫だって事を知っている。
そうとなればこっちもこっちの用事を済ませちまおうか。
楽器屋さんを訪れたオレ達はきょろきょろと周囲を見渡した。
攻撃があったのかあちこちで多少の破壊が行われていて、やっぱり見るも無残な惨状だ。
その中から無事そうなのを見繕い、とりあえず並べていく。
いくらオレが天才とて設備が無けりゃ修理もできないし、一つしか持ち帰れないなら手間のかからない子がいい。
後は……そうだな、元の値段が桁違いなヤツであれば嬉しい。だって折角なら見得張りたいじゃん?
ギターで張るのは弦と見得。りぴーとあふたみー。
ギターで張るのは弦と見得。
「まつりちゃーん」
おうどしたのゆっきー。
「でっかいスピーカー!」
ああ、それはハウスとかで使う奴だね。
「音もおっきいの?」
クソデカ。近くで聴いたらお耳壊れる。
「お家で使うのに?」
あ、ハウスってのは家じゃなくてライブハウスのことね。
ほらさ、見たことない? ライトがピカピカでみんな踊ってて。
「ちぇけらっちゃ! みたいな?」
「そうそう。DJとかラッパーが生息してそうなとこ」
「いろいろおっきいんだねー」
普段はミニプラグしか見た事がないのか、標準サイズのフォーンプラグを手に持っておっきいとか言ってる。
女の子が太いとかおっきいとか言うんじゃありません!
「?」
ゆきちゃんはかわいいですね。
「これはここに差して、こうして使う」
微妙な雰囲気になったので誤魔化しの説明。
クソデカスピーカーをこっちの機械に繋いで、こっちやって、そんで最後にギター。
……電気が来てないから動かないわ。あっちにバッテリーもあるけど、動かしたらうるさそうだ。
「まつりちゃんのギターはこういうの付いてなかった気がする」
オレが使ってたのはアコースティックギター。電気が必要なのはエレキギター。
アコギは自力で音を発する昔ながらのやつさね。
温かみがあるとか素朴な感じとか色々な理由で使う人いるけど、オレは単純に取り回しの良さから使ってた。
いつでもどこでも歌えるってのは強みよ。
「色々あるんだね」
で。ここに残ってるのはエレキばっかり。
うーん。学校には電気あるし使えない事はないんだけど、こいつら融通効かないのがなぁ。
気に入らなかったら買い直しってのができない中で一発エレキはやりたくない。
ミキサー持って帰るにしても荷物になるしのぅ。
「へー」
ゆきが飽きちゃってさっき説明した機材を弄り倒してら。適当にスイッチを弄っていらっしゃる。
この子は感覚派だから細かい説明は却って不要よな。
音を聴かせりゃ分かる子。
「他のとこ見に行ってもいい?」
「ちょいと待ってけれ」
今日はけいの友人の救助もある。時間も掛けてらんないし、こいつでいいか。
てか生き残ってた店売りのアコギがこれしかない。
「シャキーン!」
「かっこいいね!」
いいでしょー。
今までのギターはアコギらしいシックなカラーに対し、こっちは特別感出る青カラー。
オレの視覚的にもパッと変わったのは分かるし丁度良い。
じゃかじゃかじゃんじゃん。んー、ちょっとチューニングとか色々弄らんと好みにならんな。
帰ったらちゃんと手入れしてやるか。
「くるみへ向けたメモを一応設置して、他のお店は……」
「あっちあっち」
組み上げた機材一式をお店の外へずりずり移動させて目立たせて、そこへメモで他のお店へ行くと伝えておく。
万が一入れ違いになってもこれで良し。
それで、ゆきはどちらへ向かいたいのだい? ……ああ。
お洋服か。
「おしゃれして帰ったらさ、みんなきっとびっくりするよ!」
「それも良いな。着替えもあるに越したことはない」
ジャージは各々持っているので肌着重点。寒い日に備え上着も欲しい。
あんまり持って帰れないから選定が必要だねぇ。
「ふんふーん」
オレが美少女なのはともかく、ゆきもかわいいからお洒落させてやりてぇなぁ。
ちくしょう、世界がこんなことになってなければ。
メンバー各々のサイズの目視を頭の中で整理し、丈夫そうなのをぽいぽい鞄へ。
うーん、見た目は肌着泥棒。さっきの太くて大きいといい、オレも一応女の子やぞ? それをこんな役回りしちゃって。
ちょんちょんと横から突かれた。
「じゃん!」
「お。かわいいじゃん」
「ふっふー」
夏っぽい恰好で涼しそうだ。
ゆきはやはり可愛い系が似合ってる。
その猫耳帽子もゆきっていうアイデンティティになっていいぞ。
「まつりちゃんもっ」
えー、オレも?
オレはギターさえあれば……。
「まつりちゃんは、これとこれ!」
「ふむ」
お構いなしに色々渡される。
インバネスコート的なのと、探偵的な帽子。ケープ。
見るからにシャーロックスタイルやないかい。
てか、昔オレが好きで着てた服に似てるじゃん。よくあったなこれ。
今思うと私服にしては結構痛々しいねぇ。
「まつりちゃん頭良いし、探偵ってかっこいいかなって」
「ふむふむ。よし、傍から見た評価もまた一興」
「帽子は寝癖隠し」
「そんな……」
外ハネ的なボブって言い訳も虚しくゆきにすら言われてもうた、わいの寝癖……。
傷心しつつギターを置き試着室へ。ばっばと脱いで、はい着替え完了。
ううむ。オレの低身長と合わさりやはり探偵コスプレ感が強い。
かわいいのは確かだが、中学の頃のファッションセンスで選んでこれ着てたんだしな……。
どうだいゆき。似合ってる?
「すごい似合ってるよ!」
「えへ。そう? そう? んふふふ」
「別人みたい!」
あたしは陽向祭だが……?
制服を収納。照れるが今日はこのスタイルで過ごそうか。
「おーいたいた」
「くるみちゃん!」
む。くるみか。よくぞ戻ってきた。
「ゆきが無事でよかった。まつりのやつは?」
「え」
ふむ。
「こんにちは」
「あ、ああ。こんにち……待て」
ずいっとくるみが近寄って顔を見る。
「お前、まつりか」
「近い近い」
「ったく。知らないやつかと思ったじゃん」
「一瞬騙せたのでゆきの勝利でーす」
いぇーい。ハイタッチ。
こっちはギターも見つかったし、今は肌着一式の予備を確保したとこ。
この着替えはついで。
そっちの首尾はどうだい? 例の探し人は?
「ダメだった。居るとしたら上だと思うんだけど……」
「上かぁ……」
くるみと一緒に吹き抜けの先を見る。
フロア全部を一個ずつしらみ潰しに回っていくのは時間的にきついなぁ。
我々救助隊がここで一晩明かすのは余裕だが、学校に残した面子の安全や事故を考えたらね。
今日は良くても明日は雨かも知れない。雨が降ればどうなるかは知っての通り。
故に日暮れまでには戻れるようにせねばならぬ。
「ゆっきーはなんか良いアイデアない?」
「迷子の案内とか?」
「どこでどう鳴らすんだよ」
バッテリーはあったしさっきのライブセットが使えるぜ。
一発かますかい?
「まつりに許可出したらアレで何するかはもう分かってるっつの」
「バレた」
んー、と言っても他に手段は──
「──わん!」
んぁ?
「なんだお前、着いてきたのか」
「くるみ、ゆき、離れろ!」
「かわいい!」
「地下にいた犬。ちっちゃいしすばしっこいし生き残りっちゃ生き残りだけど」
なぜ犬がいるんだ!?
「安心しろって。噛まれてはないっぽいし」
「わん!」
ひょえぇー!
「触っていいー?」
「わん!」
「あははっ」
ゆ、ゆき、リリースなさい。
ほら、あっちやりなさい、その、犬。
「……もしかしてまつり」
「んだよ」
「犬、嫌いなのか?」
んな訳ないだろ。
い、犬如きがこのオレに。
「あ」
足元に巨大な毛虫が触れる感覚がした。
ひゅぉぁああっ!?
「まつりにもこんな弱点あったんだな」
「でも置いていくのはかわいそうだよ」
「だよな」
…………。
「おーい、わたしのリュックに入る?」
「わん!」
「いいこいいこ」
………………ハッ!
犬が消えてる。
勝ったな(?)
「とりあえず気を取り直して、探索するか」
「だな」
「一緒にいこうねー」
……一緒に……?
なぜか恐怖を覚えながら探索再開。
荷物は多少重たいが、隠密すればそも戦闘にならんので問題ない。
それにしたってこんだけいて生き残りはけいのお友達一人だけか。
何も分からない非現実的な出来事で集団パニックからの悪循環で世界はこうなっちまったらしい。
静かにしてれば助かるってのに、そうと分からない内にとは可哀想な事だ。
尤も、分かったとて想定外もあるのが現実。
それらはさておいてけいの友達がどこに潜んでいるのかは知らぬ。
いそうな所とすれば……。
「スタッフルーム」
「あ?」
「いや、客が入り込まず助かりそうなところ」
「ああ。確かにそこなら立てこもるのにもよさそうだもんな。でも」
くるみの言いたい事も分かる。
そのスタッフルームがどこにあるのかも分からないし、狭く入り組んだところは危険が多い。
もし退路を塞がれたる事態になったら全滅も有り得る。
「どこにいるんだろうね?」
「わん!」
「うひぃ!」
敵が多く危ない時は無理せず去り、避けられないならスポーツ用品店で確保したピンポン玉を投げ。
ギターを取り出せば腕力で下げさせられ、歌おうと口を開けばピンポン玉を突っ込まれる。
その後も虱潰しことプロジェクト虱プレスで各階をくるっと回ったが、誰もいないし痕跡も無かった。
そろそろ時間も厳しい。帰るのを考えれば、この映画館を最後に車へ戻った方が良いだろう。
「ちょっとあたしが先に見てくる」
「おう」
「ねぇねぇまつりちゃん。このポスターの犬、この子に似てない?」
「……犬なんて大体こんなもんじゃね?」
はぁ、これから犬と一緒かぁ。
けいには悪いが、ここでダメなら出直すしかない。
最後に突発ライブ一発かまして帰るかぁ。
「はっ……はっ……!」
お、くるみが走って帰ってきた。
どう? いた?
「おまえら、逃げろ! 大勢だ!」
「おおぜい?」
意味が理解できずゆきが首を傾げる。
「そういう事ねぇ」
「のんきしてる場合か!? ほら行くぞ!」
走り際にくるみがゆきの手を引き、オレはギターを取り出そうとしてやめておく。
今はその場合じゃない。場合じゃないって言うのは、ここで演奏するタイミングじゃないって意味で。
もっと良いタイミングがあるからそれまでこのハートの高ぶりを抑えておこう。
ふふ、楽しみだ。
「映画館の中、たぶんみんな避難してたんだ! でも、誰かが……!」
「わ、わ! くるみちゃん!」
「走れ!」
オレ達の全力疾走に“あいつら”は当然追いつく訳がない。
でも後ろを見れば、あちらこちらから出てくる出てくる。
くるみが叫んだせいも多少あるかも知れんが、もっとな理由は“あいつら”の群れが発する音だろう。
自分で出した音に自分達で集まるとは厄介な。もしかしたら何かしらの電波的なあれの繋がりで呼び寄せてんのかも知らないけどさぁ。
何にせよ危険は増した。時間もそうだが撤退一択だろう。
「その
ゆきの鞄のサイドポケットに忍ばせておいたサイリウムを引き抜き、光をばらまく。
美しい。廃墟同然の薄暗い中に観客の光が生まれた。鼓動が高ぶる。
さぞこの光の中心でライブを出来たら楽しかろう。
「おらっ!」
1Fへ通じる最後の階段の手すりをくるみが滑り、下にいる敵へ蹴りを食らわせる。
やっぱお前身体能力凄いな! あと良いケツ!
「……オッケー!」
玄関まで走り抜け、ようやく一息。
ゆきは息も絶え絶え、くるみもだいぶ疲れている。
いやぁ。オレも演奏する暇なかったなぁ。やりたいんだけどなぁ。
「お前ら車で待ってていいからさ、オレだけ演奏しに戻っちゃ駄目?」
「おまっ、流石にさ……」
「──ねえ。何か聞こえなかった?」
いつものやり取りで場を和ませた矢先、ゆきが不穏に呟いた。
オレの耳にも、くるみにも何も聞えない。
「……」
「気のせいだろ」
くるみはこれ以上の無理はできないと、確かめに留まる選択を取らないようだ。
「本当に聞こえたんだな?」
「うん。助けてって……」
「わん!」
「聞こえたよね!」
犬に確認を取るなや。いや聴覚的に確認取れるならそっちのが良いのか?
でだ。救助隊隊長のくるみっちはどうするんで?
「そりゃ、でもさ」
「──待ってて!」
「あ、おい!」
「まずいなそれは」
ゆきのリュックから飛び出した犬が走り、ゆきもそれに続いて駆ける。
さっきの騒ぎでエントランスホールは“あいつら”でいっぱいだ。あんな所へ突っ込めば囲まれてどうなるかは言わずとも分かる。
正しくミイラ取りがミイラってやつかもな。
「言ってる場合かよ! くそっ」
追いかけ走る。
まーまーおっけー。
「居たっ!」
「ホントに居たのかよ!」
ゆきとくるみが同時に叫んだ。
ホールの中央のピアノの上、うちの学校の制服を着た子がおろおろしている。
だけど下はピアノだ。“あいつら”の演奏魂が旋律を刻み、その音に反応し更に集まる光景が広がっていた。
いいねぇ、楽しくなってきた!
おいおいおい! お前ら良い音出すなぁ! その音色、気に入ったぜ。
セッションしようじゃねぇか!
「おいまつりっ!?」
新しいギターはここに置いとくぜ、よろしくな!
「さっきセットしといてよかったなぁ! さっそく出番だぜ!」
「おまっ」
小柄ゆえ。そして全てを見切れるがゆえに群れだろうと何だろうと、一陣の風となり駆け抜けられるのがこのオレ陽向祭。
ついでに常人では思いつかないようなパルクールルートで更に短縮、あっという間に用意していたライブセットが目の前に。
眼下ではくるみがシャベルを振るい、ゆきと救護対象が合流しつつも包囲されエラい事になっている。
よぅし。
聴かせてやるぜお前ら。
待ちに待ったコンクールとは多少違うかも知れねぇが、聴かせてやるぜ。
このオレが聴かせてやるってんだからなんだって構わねぇだろ。
バッテリーを動かし、電気を送り、エレキギターをマウント。即席ライブ、行けるぜ!
「行くぜぇ!」
オレの歌を聴──
「────!?」
「──!」
──身体が弾け飛んだかと思った。
てか、衝撃で目の前の手すりとかそういうの全部吹き飛ぶんじゃないかなって勢い。
さっきゆきが暇でセットを弄ってたのを忘れていたよ。
ボリュームマックスのスピーカーが真横にふたつ、それを反響するホールへ向けて放ったんだからもうやべぇのなんの。
この、旋律はなんだ!?
「たーのしぃぃいいいいーっ!」
でもでもこれ、魂が物理的にも震えてやべぇ興奮する!
こんなの初めてだよぉ! 流石ギターのお兄さぁん!
完全に“あいつら”が折角奏でてくれていたピアノを喰っちまったが、それほどオレのソウルパワーがマジェスティックって証拠だよな!
オゥ! マジェスティック!
「盛り上がってるかぁーいっ!」
音激弦・雷電激震!
視界に写る全てが音の勢いに震える中で階下を見れば、くるみもゆきも救護対象も、みんな玄関へ向かっているところだった。
一方で“あいつら”はというと、ロックなヘッドバンキング中。中々にノリノリでいいじゃないの。
もっと聴かせてやろう! もっともっと! もっともっともっと!
魂揺さぶる
だからMotto Motto そうさMotto Motto!
「過激にファイヤー!」
爆裂的にバーニングソウルし過ぎたのか、電気を供給してくれていたバッテリーが火を噴いた。
「あら、あらら」
目に見えて落ち込むギターの音色。反響だけを残して突撃ラブハートは終了してしまった。
どうも店売りの展示品だったし放置されてたもんだったから動いただけ幸運だったらしい。
あーあ。折角セッションできたのに。
“あいつら”と音楽で語り合えばハートで繋がれたのに、勿体ないなぁもう。
仕方ない。決め台詞だけ言って帰るか。
んんっ。
爆鎮完了!
「まつりー! さっさと戻ってこーい!」
「今行くよー」
オレの回避性能を知っているからくるみは迎えに来ず、ゆきと救護対象を連れて表へと出ていく。
恐らくはオレが玄関に辿りつく頃には車も来る頃合いだろう。
「一瞬だが世話になった。ありがとな」
名も無きエレキギターを置き、帰りもパルクール。
下に置いていたマイニューアコギはどの人物かが連れていってくれたらしい。
身軽にとたたと駆け抜け車へ問題なく合流できた。
「帰るぞ!」
「まつりちゃん!」
「……」
ドアの代わりに助手席の窓が開いていたので、走ったままの勢いで跳んで入る。
ちゃんとルーフを掴んで勢いを消しているから運転手のくるみは蹴っ飛ばしてないぜ。
「やるかと思ったけど、マジでやるんだなお前」
「かっこいいでしょ」
「……まぁ」
んで、新入りは安堵の気絶中か。
少し憔悴してるように見えるが怪我もなさそうだし良かった良かった。
な、くるみ。オレのライブどうだった?
「うるさかったとしか言いようがなかったぞあれ……」
そんなぁ!
レスキューファイアーしただけなのに。
「でも、ライブってあんな感じなんだろうなぁ」
足の先から頭のてっぺんまでしびれる音だったろ?
「楽しかったね!」
「まぁ、な」
おお、分かってくれたのか!
「もし世界が平和になったらさ、ちゃんとしたライブやってくれよ」
もちろんやるとも。
その時まで生き残れたらもれなく全員招待さ!
レスキューファイアーはいいぞ。
とてもかっこいい。