【完結】学園生活騒音部 ~のーきる・のーばらーど!~ 作:親友気取り。
いつか見た
あたしはどうしたらまた会えるのかって、ただ一つの執念で探求を続けてただけなのにさ。
だって名前が分かってるのに絶対見つかんないとかさ、燃えるじゃん?
その結果できあがったのが、昨日のみーくんが話題にした並行世界の観測機。
今いるこの世界で起こる歴史の断片を記した漫画っていう形式で見られるだけの。
どう考えたって非現実的とも言えるそれの作成は多少てこずったけど、お陰で盲目の子が偶発的に観測できてしまったどこかの世界の住民だと推察することができた。
同時に、あたしはキャラクターとしての立場を守らなければって事にも気がついちゃったけど。
だから音楽を始めた。
研究は止まった。
当初の目的だったもう一度会いたいって願いが無くなった訳じゃない。
それは音楽に絡めて新たな目標として設定すれば、登場人物のひとりとしての立場を保ちながらでも達成できる。
肝心の会いたかったあの子が別世界ってのを推察できたのみで結局見つかってはないし、全く新しい方法を試すのは大いにアリだから丁度よかったんだ。
陽向祭という一人の登場人物、それは音楽大好き音楽馬鹿。
ま、折角なら楽しみたいじゃん?
観測機を作る際の副産物として生まれたラプラスの悪魔的AI、某デーモンという事で“ボーモン”と名付けてかわいがったそれもちゃんとした答えを言わないポンコツだし……。
てなわけで、オレが考えた作戦はこうだ。
こっちから見つけられないのなら向こうからオレに気が付いて貰おう作戦。
ボーモンは悪用されないよう制限つけて売っぱらい、機材を揃えて全て音楽の為に。
歌い、世界を歌わせ、震わせ、ハートに響かせる。
絶対不変な“がっこうぐらし!”の歴史があるってのに意味はあるか分からない。
だがここに、観測できない並行世界にいる盲目の子から偶然影響を受けて変わった陽向祭がいる。
変わったオレの影響で、変わった世界がここにある。
なれば!
偶然を自主的に起こせるだろう!
ギターで、歌で、ハートで!
天にまします主よ、あたしを導いてください……。
「その証拠が、そこにいる!」
「はぇ?」
「わん!」
シリアルをスプーンで食べ頬に牛乳を付けたゆきが首を傾げた。
そう、直感がヤババな彼女こそ奇跡の体現者。奇蹟の表現全3巻。
君が! 君こそが! 証拠ァ!
丈槍ゆきィ!
君がなぜ学校の紹介をする際に……音楽室や放送室を推し学校中をステージと称したのか。
なぜやたらと歌いたがるのか、なぜ蛍の光の歌詞を知っていたのかァ!
その答えはただ一つ……ホワアァァ……!
丈槍ゆきィ! 君が! オレの歌を聴き並行世界でも影響を受けているからだァ!
「うるせぇ」
──ドワォ!
「いてぇなくるみ畜生。オレのスペシャルな頭がバカになったらどうすんだてめぇ!」
「もう既にギターバカだろ」
「なんだとぉ……」
オレはギター以外もいけるんだぞ! ギターが気に入ってるだけで!
でもメガドラ音源も大好きです!
「……」
「美紀? どうしたの?」
「ううん。陽向さんが何だか楽しそうだって」
「楽しそう?」
「記事で見た時、いつも仏頂面だったから」
くるみ&ゆっきーを相手にバカ騒ぎしていると、向かいの席で後輩二人が何やらオレの噂をしていた。
噂といっても昔のあたしがどうのって話だしどうでもいっか。
昔っからオレは美少女やけんな!
「そういう意味ではないですけど」
むぅ。みーくんが冷たい。
「写真でつまらなそうだったのって、やっぱり楽しくなかったからですか?」
記憶してる限り半分くらいがトイレ我慢してるからだと思う。取材の連続で行く暇なかったのよ。
あとぬるっと会話に参加してきためぐぅだったけど、先日からみーくんに食われているぞ。存在感が。
もっとBIGになれ。
「存在感……!?」
それはともかくとして、当時は全く楽しくなかったなー。
期待やら重圧やらはともかく、あたしってほら、かっこつけたがりじゃん?
段々自分のあの私服が痛く思えてきても、引くに引けなくてさ……。
「なんだか悲しいですね」
「うっ、うぉ、あぁぁああ……!」
「何ですかその怖い声」
そう言ってぇ。
哀れんでくれたあぁぁぁっ!
「うるせぇ」
「ドワォ!」
本日二度目のくるみショベルアタック。
脳天に突き刺さしたまま放置すんなやてめぇ。
アイスラッガーみたいになってんじゃん。
「メシくらい静かに食えよな」
「シリアルじゃん」
「贅沢言わないの」
あかん。お姉ちゃん的見守り姿勢に入ってたりーさん部長がキレかけてる。
オレには分かるぞ。これ以上騒ぐのは得策じゃない。
またギターを封印されてはかなわぬから引かせてもらうぞ。
ほれお主ら。みーくんを見習わぬか。あのおいしそうな食べ具合を。
「……見ないでくださいっ」
「照れちゃってー」
「ゆき先輩まで」
こうなってくるとみーくんでは失礼だな。み、み。
みー……。
よし決めた。ミッシェルとお呼びしよう。
平成のミッシェル・ド・ラップヘブン。
マジかよ、ピッカードの次はJCになってたのかあいつ。
流石はあたしのライバル。
「どうでもいいけど、今日はなにすんだ?」
「ドワォ!」
急にシャベル抜くなよぅ。
くるみちん、オレの扱い雑過ぎない……?
うう、痛いよぅ。痛いよぅ。
りーさぁん。
「くるみ、だーめ」
「だってまつりがー」
んふふふ、りーさんの懐あったかいなりィ。
「あの」
「──そうだっ!」
めぐねえの発言に被せてゆきが立ち上がった。
「体育祭!」
「……」
このタイミングで体育祭?
いやまぁ、いいんだけどさ。
「あら」
「?」
「なんで体育祭?」
ゆきが身体を動かすメリットだのを語っている中、こそっとめぐねえに近付き確認する。
何を言わんとしていたか確かめねばなるまい。
「めぐめぐ。もしかしてマニュアル?」
「っ!」
図星だったようで露骨に反応を示した。
そろそろのタイミングだろうとは思ってたが、しかし潰されたのね。
「本当に陽向さんは何でもお見通しね」
まるで全部知ってるみたい、と続けられては言葉を濁し返すしかない。
知ってるんだよ全部。そのマニュアルの中身も、そっからどう騒動が起きるのかも。
だからそれを知らせるタイミングは重要だ。
ここでゆきと発言が被った事にどういう意味があるのか分からない。
けど、ちょっとした所からオレの想定を超えたイレギュラーな事態に発展する可能性がある。
ただでさえ犬を含め既にいないはずの面子が半数を占める現学園生活部だ。
マニュアルから端を発する騒動、必然の事件は知っている歴史ではみーくんが鍵となる綱渡りだった。
その騒動での中心たる佐倉先生はここにいる、だから事件は起きずすんなり終わりとなればいいんだけど。
でも胸騒ぎがする。
みーくんとの会話で歴史にある死を避けられると確信に至ったけれど、でもそれは想定しているが故に避けられるってだけだ。
想定外が事故を引き起こさんとも限らない。
良くも悪くもオレは歴史を動かしてしまっているのだから、回り回って帳尻合わせとしわ寄せがきても……。
タイミングがずれて、事件が重なってしまったりだとか。
そうなれば責任はオレが取るしかあるまい。
歴史の先を見据えれば、文字通り命を削ってでもオレが──
「まつりちゃん!」
んお? ゆき?
「みんなで体動かすと楽しくなるよ! つらい悩みもすっきり!」
めっちゃ顔が近い。めっちゃかわいい。
舐めちゃいたい。
あと台詞、オレに言うんじゃなかろう?
「ううん、まつりちゃんだから!」
オレだから? ううん、言葉の意味が分からん。
別にオレはいざという時の覚悟は決まってるし音楽大好きだしギターも新しいの手に入れたし、幾ら直感最強のゆきとはいえ察せられる要素はないと思うんだが。
でもゆきがそう言うって事は、まさかの天才でも抜けている部分があるんだろうな。
「ならばこの陽向祭、全力でお相手致そう!」
「負けないよっ!」
どうやら……本気を出す必要がありそうだ。
ギュッ。
体育祭、祭。つまりこの最強究極微笑美少女略してびしょびしょの陽向ちゃんが祭するアレだ。
限られた資源でも準備は万全に。
ああ、準備すら楽しい。
中学の頃、楽しめなかったからな……。
みんなよそよそしくてさ……。
……やめよ?
こういう話、やめよ?
「勝手にダメージ受けてんな」
「まさかと思うけど、もしかしてオレってぼっち属性ある?」
「属性の欲張りセット過ぎて無理だろ」
サブカルにある程度理解のあるくるみがしれっと返してくれる。
でも言われてみればそれもそう。
ギターを扱う天才で美少女だけど陰があってぼっち属性の変幻自在な女子高生って、そんな属性もりもりのキャラが存在する訳ないよな。
学園生活部のキャラ振りがバランス良くて最強の布陣よ。
りーさんとめぐぅでお姉ちゃんに任せなさいが重複してるけど。
マジかよ姉祭じゃん。つまりまつりちゃんだな。
「よし、今日からオレ達はお祭りシスターズだ」
「何を言ってるの?」
りーさんに真顔で返された。
泣きそう。
えーっと、それで。
今日の種目は?
いつの間にか掲示されてたポスターを見る。
「徒競走に玉入れに綱引きに……中々充実していらっしゃる」
「このポスター、ゆきちゃんが作ったのよ?」
「あらかわいい」
よくもまぁこの短時間で準備したものだ。
お礼に宇宙植え付けてあげる。
「こわ」
ドン引かれた。
「チームはみー&りー、くるみ&ゆっき、オレとけい。めぐっちは……審判?」
「先生ですから」
そか。
「あの、私は怪我してるから……」
「だからこそこの陽向様が組むのだ。君に勝利の美酒を捧げよう」
「……ハンデですか?」
足を怪我していてあまり派手な事できないけいに代わっておしおきよ!
「負けませんよ」
あららこんな雑な挑発乗っちゃって。
ねぇねぇけいっち。やっぱりみきって負けず嫌いだよね?
「うん。結構冷静に見せかけてムキになるタイプ」
「圭!」
ああ^~、なるほど。やはりな。
良い関係わね。あなたたち。
「まつり!」
「んだくるみオルルァ」
「リベンジだ!」
おふぁー!
第一種目は徒競走なので、くるみが言うのはけい救助の際の競争リベンジだ。
んふふふ、しかし残念ながら全知へ至っているオレに勝てる道理などない。
何故なら前回は走りながら学習しフォームを修正しつつだったのに対し、此度は最初から学習済みとなっているのだからな。
それに背中へ得物をマウントするハンデもない。
「私も負けませんよ」
そんな間に挟まってしまったみーくんもかわいそう。
ふふ、足掻いてみせろぉ。
「はじめるよー」
「位置についてくださーい」
ゆきとめぐぅのぬるい空気に従いスタートラインに立つ。
開催場所はただの廊下なので横に3人も並ぶと少し狭いのぅ。
「よーい」
「……」「……」「……」
くるみはガチなのでクラウチング。みーくんがスタンディング。
オレ? エクシードチャージ。
「──どん!」
スタートはロケット決めたくるみが有利、続いてみーくん。
競り合ってヘンにスタミナを消費したくないから様子見で最後尾にオレ。
ゴールまでの距離は短いが慌てたってしゃーない。
ふむ。
「っ」
走りながらくるみがちらっと後ろを見た。
前回でオレの追い上げを知っているから警戒してるんかな。
ま、警戒したとて妨害なしなら関係ねぇけど!
全事象演算終了、解は出た。
解は“無駄”に収束しているぞ!
「きやがった!」
「はやっ!?」
姿勢を下げ、加速。
フォームは完璧なので必要だったのは追い抜かすタイミング。
相手の腕の振りや身体のふらつきから道中で減速の必要がない瞬間を狙ってのことよぉ!
「こなくそ!」
シャベルを背負っていないくるみはマジもんの陸上部ガチモード。
舐めプしたわけじゃないが、スタートを譲ったのが仇となりちょい厳しい。
こんな時、こんな時こそギターがあればー……って。
「わん!」
あの犬、オレのギターに近付くんじゃねぇ!
「えっ!?」
「なんだあのスピード!」
モールで救助した犬こと太郎丸がゴールの奥でmy new gear……へ対しイタズラしようとしてたので思わず限界を超えて駆けつけてしまったではないか。
確かにギターがあれば勝てるとは思ったが、むぅ。こういう形で勝ちたくはなかったのよぅ。
「わん!」
わんじゃねぇ!
「ったく太郎丸お前ギターだけはやめろよな。次これ齧ろうとしてみろ、お前を福岡に送って次郎丸にしてやるからな。博多の」
「1位、まつりちゃん」
それどころじゃねンだわ。
「結構やるじゃん」
「最下位とは」
くるみーくんが友情を深めている。
良いぞ。友情は素晴らしい。
オレが没する前にその光景をこの目で見られたことができてうれしく思うぞ。
「ひゅー……ひゅー……」
「なんで急に死にかけてるの?」
言うなけい、オレは元気の前借りってやつをしただけなんだ。
ミサイルよりも爆発力のあるサウンドは出せるが、い、意外と持続量はないんだぞこの陽向祭は……。
ちゅらい。
「でも、ほんとに勝っちゃった」
かっこいい? かっこよかった?
「すごくダサい」
何故だ。汗だくで廊下の隅に膝を立てて脇腹を抑えてるだけなのに。
とにかくまずは一勝。次は玉入れだしけいも参加できるが故に頑張ってくれ。
「はいっ」
多少の事件はあったが陸上部の得意科目を下し、お次の種目は玉入れ。
蛍光灯につるした鍋にテニスボールを投げ入れる……んだけど、これ耐久度的に大丈夫か……?
ふっつーに色々無理があると思う。
「無理がありませんか?」
やはりミッチーもそう思うか。
「美紀です。誰ですかミッチー」
王子様だよ。
「無理は承知の学園生活部っ! よっ」
そんなオレ達のやり取りを気にせず、ゆきは構わず天井の鍋へとボールを投げた。
ガゴン、ぺしっ。
「はうっ」
「強すぎ。もっとそーっと」
跳ね返ったボールがゆきの頭部を直撃し、りーさんが微笑みながらアドバイス。
その一連の流れ、やはりか。
オレの知っている歴史と同じようにしれっとみきがチャレンジして……入れてた。かわいい。
よし。ならその調子で転ぶなよーゆきー。
「まっけないぞー」
転がっていたボールを踏んでゆきは転ぶ。
「あたっ」
「オレの占いは当たる」
「知ってましたよね、陽向さん」
「なんのことかな」
みきにはカラクリを見抜かれていたようだ。
オレが未来を知っているという……。全知だという……。
「でも負けませんよ」
「おほほっほほ」
正史は確かに存在しているが、歴史は動かせるって事をみきには見抜かれている。
意識次第で幾らでも可能性は変動するって知ってるから、適当なブラフが通用しない。
だが!
この全知たる陽向祭を乗り超えぬことには意味がないぞ!
「けい! 君が投げたまえ!」
「え、私が?」
「相方にも手伝って貰うがダブルス道」
全部やってしまうとそちもつまらぬだろいし、何より折角生き残った面々で親睦を深める機会を失わせてしまう。足の怪我ひとつで寂しい思いはさせぬ。
仲のいい姿を見る為に生きているってのにさ。
じゃかじゃん! じゃんじゃーん。
「ボールは渡すから投げ込みよろしく!」
「陽向さんは!?」
「演奏!」
バトルBGMは任せろ、友を超えよ! 宇宙よ歌え!
「よっほっはっ!」
じゃかじゃかギターを掻き鳴らしながら転がっているボールを蹴り上げ、ぺしんと相方のけいに弾いて渡して投げてもらう。
120%美少女のオレが投げたら120%入っちゃうからね、手加減手加減。
オレはなぁ、無敵だ。
「隙を見せましたね!」
「やるなみーくん!」
「みーくんじゃないです!」
ゆきとみーくんがなんかバトルチックしてる。仲いいね君ら。
だが、負けないぞ! けいがんばえー!
「肩も痛めちゃうって!」
頑張れ♡ 頑張れ♡
もっと入れるんだ……♤
……
…………
………………
「結果発表~」
佐倉先生の合図に従って鍋から一つずつ出して投げていく。
鍋三つ、三チームという事で床に転がしていたテニスボールはあっという間に消えていったので勝負は分からない。
さてどうだ……!?
「最下位じゃん!」
あらららら。アラアア、アアyeah……。
我らの完敗でした。
敗因は手数か。一人で投げさせ過ぎた。
「普通に人数差ですよこれ!」
そうかな。そうかも。
ごめんねK。次は勝つから。
司会のめぐ先、お次は?
「次は綱引きでーす」
わりぃ、負けたわ。
「はやっ!」
だって正面からのパワー勝負苦手なんだもん。
ゴリ押しに屈するもん。見てよ相手、くるみ&りーさんだぜ? 勝てる見込みがない。
「で、でもほら、お願いしてゆき先輩と戦わせて貰えば」
「まつり相手には絶対あたしが出るけど」
わりぃ、負けたわ。
てかけいに踏ん張らせる訳にもいかないし全部オレ出にゃならんやんけ。
苦手科目連戦とかまぢ? 棄権してもいい?
「お、なんだまつり逃げんのか?」
やってやろうじゃねえかよこの野郎!
「第一試合、恵飛須沢さん対陽向さん」
「うし」
「オーラオラオラオラ、オーラァ!」
綱引きというより紐の引っ張り合い、パワーで負けてても駆け引きでワンチャン!
「開始!」
「よいしょ」
「グワー!」
「一本!」
即落ちだった……。
無駄だ、根本的に陸上部とは身体の作りが違う。
「どんまいです」
駆け引きどころじゃないもん。ワンパンだもん。
そうよね、手押し相撲とは違うもんね。
「次は私です」
み、みーくん!?
「第二試合、直樹さん対陽向さん」
「ちょ、ちょっと待って」
「逃げるんですか?」
やってやろうじゃねえかよこの野郎!
「開始!」
「サヨナラ!」
「弱っ!?」
う、うぅ。正面からのパワー勝負は見た目相応なんだよぅ。
身長と体重を思い出してくれ。
40mgだぞ。
「あれだけ自信満々だったのに、負けてるじゃないですか」
「綱引きは想定外なんだよぅ。知らないんだよぅ」
「えぇ……」
ぽん、と肩に手が乗っかった。
振り向く。
「まつりちゃん」
あのぅ……りーさん?
その、手に持っている綱は……?
「第三試合、若狭さん対陽向さん」
「休憩とかは!?」
「あら、やめておく?」
やってやろうじゃねえかよこの野郎……!
「あっ……」
けいが何かを察したらしいが──
このオレが負ける訳にはいかぬぅ!
「開始!」
「うぉおおおお! ぁぁぁあああああ!」
「ふふっ」
どんだけ引っ張っても!
どれだけ力を入れても!
びくともしない! なぜだ、どうなっているんだ!
片手に太郎丸を抱えながら、片手間にこの陽向祭を!
「ゆきはさ……なんでか分かんないけど、本当にそれが必要だってなった時にこういう事を言い出すんだ」
「えっ?」
くるみィ! こっちが必死こいてる時に何みーくんと会話を進めてんだ!
つかその台詞オレ知らないし! どこ、どこの話してるの!?
どこのページを読んでるんだお前らはぁあああああ!
「まつりちゃん……流石に弱すぎない?」
「ハァ、ハァ、敗北者……?」
「そこまで!」
どっちも動いてないから引き分け判定とジャッジメント佐倉は言うが、どうみたってオレの負けだ。
く、くそぅ! このままだと全敗じゃないですかぁあああああ!
こうなればゆき!
「雌雄を決する時が来たぞ……」
「負けないよー!」
今まで本気出してなかっただけだし。
どうやら本気を出す必要がありそうだ。
「さっき聞いたし必死過ぎてめっちゃ汗かいてるし」
うるせぇくるみ!
オレは強い、オレは世界の真理を理解した唯一無二の存在ィ!
君たちの未来を知り、過去を知り、世界を知った!
そして覚悟し生きてここにいる!
勇気あるものより散れィ!
「あ」
世界がスローに見える。
天井が見える。
なんで?
って思ったら、頑張り過ぎてたゆきが手を滑らせて綱を放してしまったらしい。
全力で引っ張っていたオレはその勢いで倒れ──
「あら」
──る事はなく、めぐねえクッションに抱き留められた。
特段シリアスな雰囲気になることなくさくっと。
「危ないと思って待ってて良かった」
「子供みたいな扱い」
「うーん……。私からしてみれば生徒達みんな子供です」
「それはそう」
そういえばゆきの後ろにりーさん待機してたし、双方共にこういう事態を想定していたのかも。
なんともまぁ姉貴組のお姉ちゃん力よ。
やっぱりお姉ちゃんに任せなさいじゃんか。パン作ったことある?
「二人とも本当に先輩ですか?」
「みーくんひどいよ!」
「そうだそうだー!」
「なら先輩らしくしてください」
オレは君の先輩として宇宙の真理に限りなく近づいたんだが……?
「それは後輩として荷が重すぎます」
じゃあゆきは?
「むふー」
「……軽すぎです。お気楽すぎます」
「がーん!」
わっはっは、ぽこぽこ叩いてて可愛らしい。
どれ、あのかわいいやり取りを見ながら一曲弾きますかね。
なんやかんやと考えたが、研究をやめた頃は最期が近いとヤケになってた部分も確かにあると思う。
散る前に自身が生きた証拠を残そうと、散る前に音を届ける夢を最期に叶えようと、それだけでもできれば良かったと思っていたんだが──
「まつりちゃん、ギターもいいけど先に片付け手伝ってもらっていい?」
「ん。おけ」
「今日は素直だなやけに」
「いいだろ別に」
──演奏が誰かに届けばいいってだけじゃなく、いつの間にかみんなのいる空間が好きになっていた。
「んー! 運動した後はおいしいね!」
「それは……否定しません」
本来は存在いない唯一完全なイレギュラーたるオレがどこまで行けるのかは、やっぱり分からない。
最後まで生きられるかも知れないし、どこかで最期になるのかも知れない。
みんなが生きて、みんなで笑うこの世界。
ここまで来たんだ。やれるとこまでとことんやってやろう。守ってやろう。
それにまだ、学園生活部の作る歌を聴いてないからな。
「みーくん。食べ終わったら歌おうぜ」
「陽向さんはまた」
「だめ?」
「だ、だめではないです。けど」
「えー、みーくんの歌聴いてみたいなー」
ほらほら。ゆきも言っておられるぞ。
「歌ってよー、みーくんの歌も聴きたいなー」
「ゆき先輩までっ」
「自信がないのかな?」
「そ、そんなことありませんっ」
いいね追撃。ギターセットおーけーおーけー。
流石は直感の鋭さが宇宙の方程式を超えるゆきだ。みー太くんが歌えることを知っている。
さぁ行くぞ! 全部の歌を聴くまでオレは死ねないんだから!
「もう、仕方ないですね」
ギターの旋律に合わせてかわいい声が響く。
学校の外がどうなっているかなんて関係ない。今はただ、この歌を聴いていたかった。