原作第二章芸能界部分。二巻丸ごと。流れはほぼそのままです。
第二章始まっとるやないかい! っていうツッコミの言い訳は後で。
Aのようなアイ活がしたい!
side.アキ
──高校へと向かう星野家の双子と別れ、中学の始業式に参加した後。
アイさんが『やっぱり入学式見たかったなー。見たかったなぁ』と駄々を捏ねるので、放課後は早めに帰宅しようと思っていたのだ。
ミヤコ社長から入学式の動画を送ってもらっているので、帰ってから確認しようと思っていたのである。
それなのに、気がつけば下校途中でルビーさんに捕獲され、そのままどんぶらこと苺プロの事務所まで運ばれていた。
「ミヤえも〜ん! アイドルになってから一年も待ってるのに、まだデビューできないの? お願いだから私をアイドルにしてよぉぉぉっ!」
「わかった。わかったから、落ち着いてちょうだい」
そんなこんなでどうして苺プロに連れて来られたのかわからぬまま、ボクはルビーさんの叫び声を聞いている。
ルビーさんはアイドル(未デビュー)としてウッキウキで高校に入学したのに、自分だけアイドル活動してないのを気にしているって認識で大丈夫かな?
それも仕方がないことではないだろうか。
まだメンバーも集まっていないのだから、活動ができないっていうのはルビーさんも理解しているはず。
……理解していても、一年も待たされるのは辛いか。
ミヤコ社長の詳しい説明も虚しく、ルビーさんは鬼気迫る顔で叫んだ。
「手続きとかユニットのメンバーが私以外にいないとか、難しい事が多いのはわかるけどさ! このままじゃダメよ。今のまま学校に行ってたら、いじめられちゃう……っ!」
「と、言われてもねぇ。フリーで才能がある子なんて早々いないわよ」
「いるよここに!」
どーん、という効果音が聞こえてきそうな勢いで、ルビーさんが指し示していたのは──ボクだった。
……え?
「去年から苺プロに所属してて、ママみたいに可愛くて、踊りもできそうなぐらい運動神経が良い。歌はご存知の通り売れっ子レベル!」
「でもその子、戸籍上の性別は男よ?」
「男の娘だからいいんだよ!」
良くないが!?
もしかしてボクを連れてきた理由はアイドルにする為だったの?
ルビーさんが勝手にミヤコ社長に宣伝しているが、ボクは何一つ聞かされてないんだけど。
事前に話を通してても、今更アイドルになるのはちょっと遠慮したい。
「ミヤコさん、アキをよく見ながら聞いて欲しいんだけど──」
ルビーさんの言葉と共に、ミヤコ社長の視線がこちらに向く。
「まず、顔はママに見間違えるぐらい良いよね。体も男と考えれば華奢だけど、女の子と考えればスレンダー」
「そうね」
「黒髪は枝毛一つなくサラサラだし、まつ毛も長い。ステージに立てばママが降臨したかのような輝きを見せる。その上、普段から女の子っぽい服装なのにも関わらず、スカートだけは恥ずかしくなっちゃう……そのギャップが胸にグッと突き刺さるんだよ」
「その分析は間違いないわね」
「長年アイドルを追ってきた私の経験上──こういうギャップがあって、魅力がある
「確かに……そう考えると意外と、アリかもしれないわね」
無しですよミヤコ社長!? ルビーさんの口車に乗せられてないで正気に戻って?!
そうやって一生懸命身振り手振りで訴えているのだが、2人は全く気にしていない様子。
どうしたもんかと悩んでいると、隣から堪えるような笑い声が聞こえてきた。
『くふ、ふ。うん、私も似合うと思うなー、アキ君のアイドル姿』
アイさんも他人事だからって楽しそうに漂わないで貰えませんかね。
『他人事だけど、アキ君がアイドルやってもいい線行くと思うよ〜? 何せ私もいるしね!』
アイさんがいたら百人力でしょうけど、ボクは今のままで十分ですから。
ちらりと二人に目を向けると「あの服が似合いそう」とか「こうプロデュースすればあるいは」とか既に入ること前提で話が進みそうになっている。
このまま放っておくとヒラヒラの可愛いスカートを着せられて、似合うかどうか議論後、書類に名前を書けと言われそうだ。ボクの人生が危ない。
【アクアさん、お宅の妹さんの暴走、止めてくれませんかね……?】
我関せず、と口元を隠すように本を読むアクアさんに助けを求めると、スッと視線を横に逸らされた。
よく見ると本を持つ手が震えている。
──この人、澄まし顔だけど、あのやり取りを安全圏から見て笑ってる……!?
人が困っているところを笑う性格の悪い男を睨みつけると、彼はため息をついて本を閉じた。
どうやらボクの睨みが効いたらしい。まだまだ捨てたもんじゃないね、ボクの目力は。*1
「態々そいつをアイドルに仕立て上げなくても、ルビーの知り合いの中にいるだろ。アイドルに向いてる奴が」
「え!? そんな人いたっけ?」
ルビーさんは本当に心当たりがないのか、首を傾げている。
ルビーさんの知り合いなのに、ルビーさんが思いつかない人物?
一体誰を提案するつもりなんだろうか。この状況を抜け出せるぐらいの逸材なら助かるんだけど。
「名前が売れている割に仕事がない、フリーランスな元天才子役の先輩がいるだろう?」
「あぁ! ロリ先輩か!」
ロリ、先輩?
ロリと先輩、普通なら繋がりそうにない単語だ。
アイさんも隣で首を傾げていたものの、数秒程で心当たりに辿り着いたらしく『あっ、あの子かな』と頷いている。
アイさんに聞いても全くの別人になりそうなので、ボクの方でルビーさんやアクアさんの記憶を辿るしかない。
元天才子役で、名前が売れてる。仕事がなくてルビーさんとアクアさんに接点がある、といえば──
『そうそう、
──いや、誰やねん。
アイさん、自信満々に言ってますけど、盛大に間違えてますよ。
確かに播磨は兵庫にあるから『〜やな』って関西弁使うのもおかしくはないですけど、名前が行方不明じゃないですか。
そうじゃなくて、2人が想像している人は──
ルビーさんが『因縁のある先輩と面接の時に会っちゃった』と愚痴っていた話の中に出てきていた、高校2年生の先輩である。
side.アキend
☆★☆
side.かな
自分が、断れない自分が、今は世界で1番憎い……っ!
私、有馬 かなはアクアの口車に乗ってアイドルをやることになってしまい、スケールの大きい恨みを胸に抱いていた。
印鑑を持つ手は震えているが、既に書類へと押された後。
苺プロの女社長から歓迎されてるし、今更断れるような空気じゃない。
どうしてこうなった?
アクアの甘言に乗った結果だってことはわかってるんだけど、頭を抱えずにはいられないわ。
そう後悔しても状況は変わらない。
それに、良い面もちゃんと見れば納得だって自然とできるはずだわ。
元・天才子役って呪いみたいな肩書きに、アイドルが追加されただけ。
どのみち、ここから何らかの刺激は必要不可欠だった訳だし。
その手段にアイドルを選んだと思えば納得──納得、できないわよっ!
キッと後ろを向けばアクアは斉藤社長と話しているみたいだし、アクアの妹は生意気だし。
この状況でアイドルになることを納得するなんて、かなり難易度が高いわ!
「一緒に頑張ろうね、先輩」
「あー、まぁ、なってしまったからにはそうね……って、うん?」
ルビーとアクア、斉藤社長に気を取られてたけど、事務所になんか幽霊みたいな奴がいない?
黙ってニコニコしてる姿は可愛いとは思う。
でも、何度確認してもこの世にいるのがおかしい、見たことある顔してるのよね。
ちょうど事務所に飾られている今は亡き故人の写真にそっくりな奴。
……ルビーといい、苺プロって『アイドルのアイ』コンプレックスでも拗らせてんの?
アイっぽい雰囲気の顔だけが良い奴*2とか、アイのそっくりさん*3とか集めて、とんでもない執念を感じるんだけど。
「ロリ先輩、アキのことをじっと見てどうしたの?」
「こいつ本当に失礼ね……いや、何かアイに執念感じるヤバい事務所に来ちゃったから、ちょっと後悔してるのよ」
「偶然だから気にしないで。普段のアキは本当に外見以外似てないし、そもそも性別すらアイとは違うから」
「ふーん」
確かにルビーとは違って、アイのようなスター性は感じないわね。上手いこと猫被ってるだけの可能性もあるけど。
そしてそもそもの性別すら違うと……ん? 性別が違うってどういうこと?
「ねぇアンタ、ちょっと聞いてもいい?」
【ボクですか? なんでしょう?】
うわぁ、何なのこいつ。
妙に感情が籠った変な合成音声を再生しているなんて、芸能界でも絶対にいないキャラよ?
そこまでキャラ付けしないと売れないわけ? アイドルっていうのは。
「アンタ、女じゃないの?」
【ボクは男ですよ?】
……あぁ、思い出したわ。
こいつ、ちょっと前に噂になったアイのそっくりさんね。
アイドル漫画が原作の映画に出演して、熱狂的なファンから火がついて話題になり、トレンド入りしてた記憶がある。
動画配信もしてる、インディーズ系ソロバンドとしても活動してるって経歴だったかしら?
役者じゃないのにやけにアイドルの役がハマっていて、どう見ても女の子にしか見えない美少女っぽい少年……とも言われていたような。
アクアもちょい役で出てたから見てたけど、確かにあの時の『アイのように目を惹かれるスター性』を考えれば、こいつも紛れもない逸材。
ルビーなんかよりも話題に上がる可能性があるし、アイアイしてるコンビがいれば勝算もある、というわけか。
考えてるわね、苺プロ。侮っていたのを撤回するわ。
「まぁ、こいつもいればこのアイドルグループも可能性があるのかしら……?」
「いや、アキはアイドルじゃないよ?」
HA?
「マジで言ってる?」
「マジもマジ、大マジだよ。アキがグループに入るのはまだ時代が追いついてないから、先輩をスカウトしたんだし」
「あぁー。そうね……冷静になったらありえない話だったわ」
そうよね、ちょっと女として自信無くすぐらい女の子やってるけど、コイツの戸籍は男。疑わしいけど、男らしいのよ。
アイドルは特に男女の関係に厳しいもの。
アイドルユニットという女の中に男を投げるなんて、カンフル剤どころか火薬庫に火を投げ入れるような行為を許すはずがない。
むしろ苺プロがそこまでとち狂って無かったことに安心を覚えるべきだわ。
それに……逆に考えるのよ。
こいつが女の子じゃなくてよかったなと。
もしもこのアキって奴が女の子だった場合、私の勘が『アクアの彼女最有力候補になってた』と告げている。
アクアのアイ大好き具合は私も察している。アキがアイドルになって、更にアイに近づいてしまった場合、私のこれは負け戦になる。
だが、全ては机上の空論で現実ではない話。アイ似の奴らは全員、漏れなく法律が邪魔してくれている。
ルビーは妹だからアクアの恋愛対象外!
アキは男だからアクアの恋愛対象外!
そして、苺プロに所属した今、一番アクアに近くて彼女になれる可能性がある異性は──この私っ!
フッ……勝ったわね。帰ったらまず、お風呂に入らなきゃ。*4
「ねぇねぇ、アキ。先輩が急に勝ち誇った顔してて怖いんだけどー」
【幸せな世界に旅立っているんです。そっとしておきましょう】
「ちょっとうるさいわよ、外野共ォ!!」
人が折角いい気分になっているというのに、この年下組ときたら。年上への敬意が足りないわよ、敬意が。
私の方が芸歴が上なんだから、礼儀を叩き込みたくなってきたんだけど。
まぁ? 今の私は気分が良いので見逃してあげましょう。感謝することね。
「ところで、アクアの次の仕事とかって入ってないの?」
「お兄ちゃんの次の仕事……ぬぐっ……うぐぅ……胸が痛い」
【あぁ、今のルビーさんには酷な質問を】
突然胸を押さえて苦しみ出したルビーの背中をアキがさすっている。
え、何なの。妹が苦しみ出すような、何かヤバいことをするつもりなの?
ルビーなんて渋い顔を通り越して梅干しみたいな顔になってるし、聞いちゃダメだった話題だったってこと?
いくら考えても答えが出てきそうにないので、知ってそうな奴に問いかける。
「アンタはアクアの次の仕事、知ってるの?」
【えぇ、まぁ。これなんですけど】
「どれどれ……えっ!?」
アキは言いにくそうな顔でノートパソコンを差し出した。
差し出されたパソコンの画面には6人の男女が写っている。そこまでは特に疑問はない。
ただ、その真ん中。
見覚えのあるその人物に、私は思わず叫んでしまった。
「アクアが、恋愛ぃ……!?」
【はい。次のアクアさんの仕事は……恋愛リアリティショーの出演です】
うっそでしょ、それ。
一体どうしてそんな仕事を受けてんのよぉぉぉっ!?
いつも感想や評価、お気に入り、ここ好きなどありがとうございます。大変励みになっています。感謝感激雨霰です。
それでですね。あの、完結って言ったんですけどね。
冷静になって終わったーって思った後、ふと思うんですよ。
私が推しの子読み進めている間に好きになったキャラってMEMちょとミヤえもんなんですよね。でもこの話では名前だけーとか、影も形もなかったなぁと。
そんなことをつらつら考えてたら、できちゃってたんですよね←
なので見切り発車第二号です。
復讐劇は始まってないので、原作の二章は始まってないですの精神でいきましょう。