特別な彼女の引き立て役Aです   作:大森依織

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この本編で語ってる話は、あくまで動画投稿も何もしたことのないど素人の偏見です。
それっぽい空気だけを楽しんでくださいね。



Aへの想いは初恋ベリー味?

 

 

side.ルビー

 

 

 お兄ちゃんのことで悩めども、答えは出ずに日々は過ぎていく。

 

 

「あー、フォンタの初恋ベリーの味って言うから、どんなものかと思ったら……こんな何とも言えない初恋はヤダなぁ」

 

 

 どうしてこうも、人生はままならないことばかりなんだろう。

 

 先輩には提案したユニット名を全却下されちゃったし、このままだとアイドル活動なんて夢のまた夢。

 ユニット名の決まってないアイドルグループなんて、ライスのないカレーライスなのだ。

 

 それでも先輩は首を縦に振らないので、今も私と先輩は無名のアイドルユニットに参加している、自称アイドルのまま。

 

 お兄ちゃんの企画は順調に進むのに、私のアイドル活動は全く捗らない不満が、山のように積もってしまいそうだ。

 暇だし、ジュースは不満だし、これは愚痴を書くしかない。

 

 さささーっとフリック入力して、送信をタップ。

 

 

「コラァァーッッ! あんた何しようとしてんの!?」

 

 

 した瞬間、頭を軽い何かで叩かれた。

 

 えぇー、なんで?

 

 不満が顔に出ていたのか、振り返った私に待っていたのは鬼の形相の先輩だった。

 

 ど、どうして女優に誇りを持つ先輩が、芸人(ツッコミ)御用達のハリセンを持ってるの?

 ハリセンで叩いたんだろうなってことはわかるけど、どうして叩かれたのか、理由が思いつかない。

 

 私、何か悪いことしたっけ。

 答えの出ない思考の迷路へと旅立とうとしていると、先輩が私の両肩を掴んできた。

 

 

「アンタ、今書き込んでたでしょ!?」

 

「何なら送っちゃったよ……先輩が頭を叩くから」

 

「はぁっ!? え、ちょっ、どうすんのよ早く消しなさいよ!」

 

「消しなさいって言われても、もう既読ついたから手遅れかなぁ」

 

「そんなわけ……って、既読?」

 

 

 さっきまで鬼みたいな顔をしていた先輩が、今度は心底不思議そうな顔でこちらを見ている。

 

 

「アキってラインの既読早いんだよ? 消したってすぐに見られて魚拓(スクショ)取られるよ」

 

「……そ、そうなのねー」

 

 

 ははーん?

 

 この先輩、何かと勘違いして私の頭をハリセンで叩いたね。私のピンク色の脳細胞がそう囁いてるよ。

 貴重な脳細胞が減っちゃう危機に陥ってたけどさ、この件って私悪くないよね。もしかしてこれ、私の叩かれ損かな?

 

 そんな不満で口を尖らせてると、先輩は罰の悪そうな顔で目を逸らす。

 

 

「ツイッターに書き込んでると思ったのよ。個人に連絡してると思ってなくて」

 

「ふーん。それで先輩、何か言うことあるんじゃないですかー?」

 

「……え?」

 

 

 不思議そうにしてるところを見るに、思い至ってないようだ。

 

 頭を叩いておきながら、5歳の子供でも思い浮かぶワードが全く出てこないって……そんなんだから『重曹を舐める天才子役』って呼ばれるんだよ*1、この先輩は。

 

 

「あーあー、痛かったなー。悪いことしてないのにハリセンで叩かれたもんなー。謝ってくれないなら今度から『重曹先輩』って呼ぼうかなー」

 

 

 チラッ、チラッ。

 

 

「うぅっ……その、悪かったわよ。ごめんなさい」

 

「うん、許す。だからそろそろユニット名、決めよっか」

 

「いや、決めたらマジになっちゃうし。アイドル名乗るの踏ん切りついてないっていうか」

 

「えー」

 

 

 なーんでそこでゴネちゃうのかなぁ。

 それを毎回会う度に繰り返されるから、話が進まなくて焦ったい。

 

 私、これでも1年待ってたんだよ。

 やっとそれらしい活動ができるかもしれないのに、また待たされるのは嫌なんだけどな。

 

 ……でも、それは私の都合であって、先輩の都合ではないもんね。

 何とか先輩が納得してくれるように、説得するしかないよね。

 

 

「じゃあ、どうしたらアイドル活動に踏ん切りついてくれるの?」

 

「そりゃあ、その。アイドルの活動というか、実績とか……?」

 

 

 先輩が目を逸らすのと同時にカツン、と響くヒールの音。

 

 

「実績があればいいのね? じゃあ早速作りましょうか」

 

 

 小さなカメラを片手に、ミヤコさんが現れた。

 ナイスタイミング過ぎて思わずサムズアップしちゃったよ。

 

 言質はとったし、今更無理だと往生際の悪いことも言わないはず。

 

 さぁ、ミヤコさん、よろしくお願いします!

 

 

「アイドルとして名前を売る為に、貴方達にはユーチューバー活動をしてもらうわ。いつもいるあの子に任せれたら良かったんだけど……ちょうど良いところに詳しい人も捕まえたから、彼に教わってね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──それで召喚されたのが、ひよこみたいな被り物を被った筋肉隆々の男だった。

 

 

「へ、変質者!?」

 

 

 先輩はご存知ないらしく悲鳴を上げているが、彼はその界隈では有名な存在で、活動名はぴえヨン。

 

 小中学生に人気で、お父さんやお母さんも一緒に筋トレするのに大活躍な動画を配信している、覆面筋トレ系ユーチューバーである。

 

 筋トレ系の中に『覆面』を入れることで最初期に差別化を図り、今では力強い人気で1番低い動画でも10万以上の再生数を安定して稼ぐ、苺プロの稼ぎ頭の一人なのだ。

 

 

「先輩、ぴえヨンさんのこと知らないの? ウチの二大(・・)稼ぎ頭の一人で、筋トレ系動画界隈でも知らぬ人はいないぐらいなのに」

 

「ユーチューブはあんまり見ないから知らないのよ。でも、こんなのが人気だなんて、世の中歪よね……」

 

「それ、礼儀を語る先輩の発言とは思えないぐらい、失礼な発言だと思うよ?」

 

 

 芸能人として上下関係がー、と言う割には同じ事務所の稼ぎ頭の存在も知らぬとは……

 

 いや、知らない相手だからって初手変質者はダメなんだけどね? ミヤコさんに先輩配信者として紹介された以上、変質者呼ばわりとか失礼なことはダメ、絶対。

 

 でも、先輩は「素直な感想だし」と意見を撤廃する気はないみたい。

 ぴえヨンさんは動画配信者として先輩なのだから、ここは彼の凄さを知ってもらうしかないか。

 

 

「ぴえヨンさん、何かビシッと言ってやってください」

 

「ふぅむ……」

 

 

 男の人らしいコミカルな高い声を出したぴえヨンさんは、先輩をじっと見つめて告げた。

 

 

「ボク、年収1億ダヨ」

 

「な、舐めた口利いてすんませんでした……!」

 

 

 この日、この瞬間、先輩はぴえヨンさんの凄さの前に恐れ慄いたのであった……

 と、そんな感じで先輩も反省したところで、ぴえヨンさんのレッスンが始まった。

 

 

「イイカイ、配信において登録者を稼ぐには幾つかのテクニックがあるヨ!」

 

 

 ホワイトボードをペンで小突くぴえヨンさんは早速、ネットのことについて話し始めた。

 

 レッスンの内容は『インターネットで生き残る方法(レッスン1 ネットでサバイブするには!)』について。

 ネットの海へと船を出そうとしている私達が大事にしなきゃいけない心構えであり、知らなくてはいけない知恵の話だ。

 

 

 ユーチューブにおいて動画を配信することはもちろんだが、何よりも『見てもらわなければ話にならない』のがネットの世界である。

 

 その為に毎日投稿するといった『そもそもの閲覧確率を上げる』という、数打ちゃ当たる戦法。

 所属事務所や個人の『知名度』を利用してファンに閲覧やいいねをつけてもらい、『あなたへのオススメ』に乗ることで閲覧範囲を広げる方法。

 

 他にも色々あるだろうが、私達にはそれをするような『技術』も『テクニック』も『根気』も『知名度』もない。

 そんなナイナイ状態の人間でも最初から、それも時間もかけずにある程度の閲覧数を稼ぐ方法は何か?

 

 ──それが『コラボ』だ。

 

 動画には通常の動画や案件動画といったものもあるが、コラボ動画はコラボ相手の視聴者も開拓できるかもしれないという大きなメリットがある。

 

 それが大物ユーチューバーと、知名度ほぼゼロのアイドルユーチューバーのコラボだとしたら?

 知名度ゼロの方が明らかに恩恵を貰うことができ、普通ならば成立しないコラボになる。

 

 

「──だからこそ、そんな大事なコラボを……ううん、私達の初仕事を寝起きドッキリにするのはダメだと思う」

 

「はぁ? アイドルなんだから別に良いじゃない。ぴえヨンさんもドッキリにするかって提案してきてるんだし、甘えてもいいと思うわよ?」

 

「ダメ。私は、そういうアイドルを応援したいって思わない」

 

 

 別に、昔みたいに嘘がダメだとか言うつもりはない。

 嘘も大事だってことは知ってる。アイドルも俳優も、ママもお兄ちゃんも使ってるものだから。

 でも、今はその時(・・・・・)じゃない。

 

 

 

 

 ──いつの日か、私が『嘘が嫌いだ』って言った時にアキが言ってくれたことがある。

 

 

【『嘘』は《剣》ですからね。使いようによっては守ることもできるけど、何より自分も相手も傷つけてしまうことの方が多い。傷つけてしまうかも、と思う側面を強く見てきたから、ルビーさんは嘘が嫌いなのかもしれませんね。

 逆に『(ほんとう)』は《盾》なんです。自分の身を守ることができるけど、間違った使い方をすれば鈍器にもなってしまう。悪いことをしたって真実は、自分を守ってくれませんからね。嘘も本当も、使いようなんです】

 

 

 あの時の言葉もいつもの合成音声だったけど、不思議と彼の口から出している声のようにも聞こえた。

 

 

【だからルビーさんは『嘘』と『本当』を使い熟してください。そうすれば困難な時でも強く、図太く生き残れますよ。きっとね】

 

 

 大事な友達の言葉を信じるのなら、今使うのは《(うそ)》じゃない。

 

 

 

「だから、別の方法でいこう」

 

 

 この瞬間に使うべき武器は──《(ほんとう)》だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

side.ルビーend

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 

 

 

side.アキ

 

 

 

 

 ──メザセムキムキマッソー‼︎

 

 

 ルビーさんから初恋ベリー味のレビューのような文章が届いた後、ボクとアイさんは苺プロの事務所へとお邪魔していた。

 

 

 ──サイショハダレデモヒヨッコマッソー‼︎

 

 

『うわー。ルビー達、苦しそうだねぇ』

 

 

 ──ピーチクーパーチクイウーヨリモドゥーイット!!

 

 

 現在、ルビーさん達は本格的な筋トレ動画を撮影しているらしく、苦しそうでありながらも楽しそうに動画を撮影している。

 

 じゃあボクは何をしているのか? というと、覆面を被った三人を見習って『狼の頭』みたいな形の覆面を被っている。

 目はボタンで口は糸。ボクお手製の自信作だ。

 

 どうしてボクまで覆面姿なのかというと、実は裏側から撮影している様子の音などが入るように、限定公開状態で生配信をしているから。

 

 ヤバそうなところは映らないよう物理的に隠し、編集が入ってない証拠の為にチャットを残せる生配信を採用した。

 

 これでルビーさんや有馬さんが『頑張って1時間やり通したんだぞ』ってことの証明の一つになればいいと思っている。

 やらせだと思われたくないからと、真正面からぶつかっているのなら、やらせ疑惑を消せるように動くべきだ。

 

 その点、生配信の動画というのは証拠としてちょうど良い。

 カットなどの編集すればチャット欄が消えるので、チャット欄がある動画が無編集の証。

 

 この動画を限定公開にしてぴえヨンさんの動画にリンクを貼って貰えば、案件動画がやらせではない証明になるはずだ。

 たとえ閲覧されなかったとしても、証拠があるのとないのとでは説得力が違う。これはやって損のない手間なのだ。

 

 

 ──ピッピッピーヨピヨー ピッピッピーヨピヨー!

 

『それにしても……流石私の()。覆面つけてもオーラがあるね』

 

 

 そうですね。毛穴から何か出してるんじゃないかって思うぐらい、目が惹かれます。

 

 

 顔を隠していてどんな人間なのかもわからないのに、メインであるぴえヨンさんの方が目立つ体付きだというのに。

 そんなハンデなんてものともしないぐらい、右端の後ろから『楽しい!』って感情を叩きつけて、こっちを見ろと視線を鷲掴んでくる。

 

 1年間という期間をフルに使ったアイさん監修のトレーニングによって齧り付き、疲れていても有馬さんごと引っ張って行こうとする強い光。

 

 

 

 ──アイさん、ルビーさんのコーチ、頑張り過ぎたんじゃないですか? このままだと有馬さんは取り残されて、ルビーさんが引っ張っていくワンマンユニットになりそうですけど。

 

 

『んー、それはないんじゃないかな』

 

 

 現在、有馬さんはルビーさんに引っ張られてるだけなのに?

 

 

『あの子は多分、本質は太陽だね。本当なら自分を見ろって、自ら燃えて輝ける子。だけど、今は輝き方を忘れちゃって、寒くなってるだけなんだと思う』

 

 

 ……なるほど。

 アイさん、マネージャーとしてもやっていけそうですよね。

 

 

『難しいんじゃないかな? 生前ならこんなに『見る』力は付けられなかったし。後、裏方って表舞台よりはつまんないから』

 

 

 裏方は裏方で面白いんですけどね。

 それにしても、幽霊も成長するんですね。それともアイさんが特別なんですかね?

 

 

『私は天才だからねー。幽霊であろうが私の成長を止められないのだ』

 

 

 キラッ、と星を撒き散らしそうな輝きを放つ幽霊なんて、アイさん以外にいませんしね。

 死んだ後でもイキイキしてるって矛盾してますけど、楽しそうで何よりです。

 

 

 『ぴえヨンブートダンス』に取り組む二人へと視線を向けたアイさんは、自然な笑みを浮かべる。

 娘達のアイドルユニット名を聞いて嬉しくなったらしい。ニコニコとした顔を隠そうともせずにボクの方へと視線を戻す。

 

 

 

『二人のユニット名は『B小町』なんだぁ。ルビー達には是非とも、(ママ)を超えて欲しいね』

 

 

 きっと、なってくれますよ。何せルビーさんはアイさんの娘なんですから。

 

 

*1
10秒で泣ける天才子役である。重曹呼びしてるのはルビーだけ




メンバー同士、ぶつかって悩んで乗り越えて欲しかった原作。
アニメのedで階段登ってるのに、漫画の方のルビーちゃん転落しちゃってるんですよ……滑り落ちずに登ってください。
今回も最後まで読んでくださりありがとうございました。

《あきのこばなし》
実は苺プロの二大稼ぎ頭になってるのはアキ君。
作詞作曲もしてる印税稼いでる系男の娘だし、とある小さな理由も含めてアイドルにはなりたくないのだそうです。
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