特別な彼女の引き立て役Aです   作:大森依織

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今回はオリキャラが出てきます。


Aプレゼンのお仕事

 

 

side.ルビー

 

 

 お兄ちゃんが恋愛企画に参加していても、私達の時間は進む。

 それなのに、あれからぴえヨンさんのコラボ以外に特に動きもなく、レッスンと勉強の日々だけが過ぎていた。

 

 

「んー、そろそろ歌とか踊りのレッスン以外にも、またアイドルらしいことしたいなぁ」

 

「どうせアイドルの期限なんて短いんだし、勉強したら?」

 

「エリマキトカゲの本読んでる先輩に言われたくないよ」

 

 

 私、芸能科に入ったけど、昔ほど勉強を軽視してないからね?

 これでも妹ってハンデがある以上、お兄ちゃんに相応しい人になる為の努力は怠ってないんだから。

 

 なんて言い合ったところで、今の私にやれることなんて殆どない。

 

 

「勉強、するしかないのかなぁ」

 

【そんなことありませんよ】

 

「っ、どこから声が……!?」

 

 

 先輩と二人しかいないはずの部屋に響く合成音声。

 声の主はアキで間違いないのに、その本人の姿がどこにも──いや、扉のほんの少し開いてる隙間に何かいるー!?

 

 

【どうもこんにちは、今日もお疲れ様です。お二人共、お揃いで何よりですよ】

 

「え、えぇ……今月はもう予定ないから」

 

「先輩は『いつもない』の間違いじゃない?」

 

「おい後輩、ドタマかち割ってやろうか?」

 

 

 先輩のことを弄っている間に、アキが部屋の中に入ってくる。

 どこかママを彷彿とさせる不敵な笑みを浮かべたアキは、スマホから再び音声を流した。

 

 

【アイドルらしい、というかは少々微妙ですけど……B小町のお二人に仕事を持ってきましたよ】

 

「仕事!? それって何の仕事なのっ?」

 

【ふふ、よく聞いてくださいね。二人の次のお仕事は──ソシャゲキャラの声優です!】

 

「おぉぉっ!」

 

 

 コラボ動画の次は声優案件!!

 私の反応の方が大きくて目立っちゃってるけど、先輩も目を見開いて驚いている。

 

 そりゃあそうだよね。

 ほぼ無名でアイドル活動もそこまでしていないグループに、まさか声優の仕事が回ってくるなんて予想できないもん。

 

 

【ミヤコ社長にも話を通し、オッケーを貰ってる正式なお仕事です。これならアイドル活動をしたいルビーさんも、女優としての経験値も得たい有馬さんも満足できる仕事になると思いますよ】

 

「あんた、そんな仕事も取ってこれるのね」

 

【当然です。伊達や酔狂でマネージャーの真似事をさせてくれー、とは言ってませんよ】

 

 

 はえー、そこまで覚悟を決めて仕事を取ってきてくれてるんだ……先輩も驚いてるし。

 

 それにしても一体どういう仕組みでとってきたんだろう。

 先輩も驚いているぐらいだし、苦労してゲットしてくれたんだよね。

 いきなり現れたチャンスだけど、これも掴まなきなきゃ立派なアイドルなんて夢のまた夢。

 

 

「先輩もやろう、声優!」

 

「まぁ、子役から声優ってのはありきたりなルートだし、アイドルよりは現実味があるわね。私も構わないわ」

 

【乗り気になってくれたようで何よりです。それでは明日、改めて迎えに来ますので心の準備をしていてくださいね】

 

 

 正直、また仕事がない期間に入ると思っていたから、すごくドキドキしてる。

 よーし、この仕事も頑張るぞー!

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 《エステレラ》

 

 それが今回声優の仕事をいただくことになったゲームのタイトルであり、ジャンルは『育成シミュレーションゲーム』だと聞いている。

 

 星を意味するタイトルというだけあって、ゲームの舞台は宇宙!

 宇宙を渡る船乗りの少女達がチームを組み、名誉や賞金、権力拡大を目標に争う宇宙船レース要素と、個々のキャラクターを育成できる要素やストーリーを合わせたゲームシステム。

 『シンデレラ・ストーリー』にもかけたタイトルもあって、それぞれの女の子が成り上がっていくストーリーとなっており、お金がどんどん溶けていく予定の沼もあるんだとか。

 

 エステレラとシンデレラと。

 シンプルだけどちょっと興味が出てくるタイトルだよね。

 

 

【おはようございます。本日はよろしくお願い致します】

 

「おはようございます! B小町のアイドル、星野ルビーです」

 

「おはようございます。同じくB小町の有馬かなです」

 

「おはようございます。SOygames(ソイゲームズ)ディレクター、後藤(ごとう)と申します。貴女達がAKIさんイチオシのアイドルですか! 本日はよろしくお願いしますね」

 

 

 アキが後藤Dと話し始めるのを傍目に、私と先輩は部屋の隅へと移動する。

 アキはいつもの合成音声で話しているのに、後藤Dは全く気にしている様子もなく、むしろ好意的だ。

 

 

「あいつ、変な催眠術でも使ってんじゃないの?」

 

「あはは……疑いたくなるぐらい、好意的だよね」

 

 

 無名の存在への待遇とは思えない対応に、先輩が注意深く観察してるし、私も今の状況を信じられないでいる。

 

 

「そりゃあ好意的にもなりますよ」

 

「ひっ、えっ、誰ですか!?」

 

 

 二人でこそこそ話していると、間に割って入るように話しかけてくる女性が一人。

 びっくりした……けど不審者じゃない、んだよね?

 

 丸いメガネに前髪を括って額を出した、女性らしさをかなぐり捨てたような見た目。

 驚くぐらいダサいのに、顔面偏差値の暴力のせいで『似合っている』レベルまで押し上げてしまった女性が隣にいる。

 

 ぴえヨンよりは少しマシな不審者にしか見えない女性は、怪しげな笑みを浮かべながら一礼してきた。

 

 

「どーもぉ、プロデューサーの東雲(しののめ)でッス。お二人が噂の復活したB小町ッスね。私、アイさんのファンだったので感激ですよ」

 

「あ、ありがとうございます。私は星野ルビーです」

 

 

 うわぁ、プロデューサーってことは後藤Dより偉い人の筈なのに、そうとは思えないぐらい不気味だ。

 美人でプロデューサーと名乗ってなきゃ、不審者として通報してもおかしくなかったと思う。

 

 こういう人も普通に生息しているなんて、芸能界って不思議だなぁ。

 

 

「あのアイさんに似ている子に、天才子役と。二代目のポテンシャルはAKIきゅんの言う通り、高そうッスね。後は先行投資したAKIきゅんの目が間違いなかったか、見定めさせてもらいますよー」

 

「先行投資?」

 

「って、私は思ってますけどね。あ、今のはオフレコで頼んますよー。女神より女神してるAKIきゅんに怒られるのはショックが強すぎるんで」

 

「は、はぁ……」

 

「まぁ、君らは頑張って演技してねってことです。レッスン映像見てるんで心配はしてませんが、チャンスは全力で掴んでくださいよー」

 

「わかりました、頑張ります!」

 

 

 私が代表して東雲Pと話すと、彼女はフラフラと手を振って力の抜けた笑みを浮かべた。

 

 

「んじゃ、話は終わりで。お待たせしましたーん、AKIきゅーん!」

 

 

 私と話していた時はゾンビみたいだったのに、話が終わった瞬間、東雲Pはチーターもびっくりするぐらい俊敏な動きでアキに抱きついていた。

 

 や、やっぱり変な人って印象は間違いじゃなかったんだ。

 もしくは、幼い男の子が好きな変態なのかもしれない。

 

 

「……あいつ、もしかして私達の為にヤバい営業を?」

 

「そ、そう思う気持ちもわかるけど、違うんじゃないかなー」

 

 

 先輩がとんでもない方向に思考が飛んでいるので、一応訂正しておこう。

 あのプロデューサーを見たら自信がなくなってきたが、前情報を見る限り……

 

 

「アキはバンドの面が取り上げられることが多いけど、主収入は作詞とか作曲なんだってミヤコさん(社長)が言ってたよ。だから、私達をねじ込む代わりに格安で仕事を受けたとか、そういうのをしてくれたんだと思う」

 

 

 私がわかっているのはこの企画のOPの楽曲提供者であったり、サウンド担当の名前の中に『AKI』って名前があったこと。

 そして、この仕事を取ってくれたアキの為にも、自分の次の為にも全力で仕事をしなきゃいけないってことだ。

 

 だからこそ、アイドル活動が始まって、少々モチベが低下気味な先輩をやる気にさせなきゃいけない。

 

 

「Pと直接交渉できるぐらい力があるなんて、ただの年下じゃなかったのねぇ」

 

「アキのマネーパワーってさ、最低でもぴえヨンさんの倍あるらしいよ」

 

「それって年収の話よね? う、嘘でしょ?」

 

「オリコンチャートに乗るような楽曲を提供して、ついた渾名が『目をかけられたら絶対に売れる幸運の女神様』だって聞いたよ」

 

「どこかの大御所と間違ってない?」

 

 

 私もそう思うけど、ミヤコさんも言ってたし間違いなさそうなんだよね……

 それに、女神って呼ばれるのはどんな大御所でも男なら遠慮したいと思う。

 

 

「はぁ、中学生でもそんな力があるのね。私にもあいつみたいな力があれば、今頃は……」

 

「今から頑張っても先輩ならいけるって」

 

「簡単にいうけど、この世界はそんなに甘くないのよ。あの中坊の異常者が特別なだけ。ソースはこの私自身だし……間違いなく正確な情報よ」

 

「甘くないからこそ、尚更一つ一つ頑張っていかなきゃいけないよね。初めての演技のお仕事だから、ご指導よろしくお願いします、先輩!」

 

「ふ、ふーん? まぁ、ちょっと畑違いだけど、教えてあげないこともないわ。ただし、私の指導は厳しいから弱音を吐かずについてきなさい」

 

 

 あ、いつもの先輩の調子に戻った。

 お兄ちゃんには劣るけど、先輩の励まし方とかわかってきたのかも。

 こんな感じで接したら良いんだね。今度から気をつけよーっと。

 

 

「B小町の皆さん、そろそろ準備お願いしますー」

 

 

 ディレクターの後藤さんだ。

 先輩も張り切ってるし、B小町は準備万端。

 私も初めての演技のお仕事だし、頑張るぞー!

 

 

 

 

 

 

 

 

side.ルビーend

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 

 

side.アキ

 

 

 

 

 

「アイドル枠を使わなくても普通に声優で通用する良い演技力ですねぇ。ハズレじゃないのはありがたいッス」

 

【その、今回は無理を押し通してしまってすみませんでした】

 

「大天才の血筋のAKIきゅんの為ならこの程度は安い買い物ですし、キミの叔母様にはお世話になりっぱなしッスからね。お安い御用ですよー」

 

 

 東雲さんは家政婦(おば)さんの紹介で知り合ってから付き合いがある大人だ。

 年齢は不明。見た目は20代だが、地位とかも鑑みたらどう考えても上であるものの、そこはタブー扱いの美魔女である。

 

 

【天才の血筋と言われても、ボクはただの犯罪者の息子ですよ】

 

「あの家は天才ばっかり出てくるとこッスからね、そんな謙遜はよくないですよ。キミの父親だって汚点さえなければノーベル賞モノの天才でした。実の息子に対して、あんなことをしなければねぇ……そんな人にも見えなかっただけに、残念ッス」

 

 

 父親のことを知っているらしい彼女は、ほんの少しだけ愚痴を漏らすものの、それ以上は何も言わずに話の軌道を戻してきた。

 

 

「だからなんでしょうかねぇ。息子であるキミは中学生でありながら、音楽においては大人顔負けの天才だ」

 

【褒めたところで、本物の天才には及びませんよ】

 

 

 聡明さんといい、アイさんといい、ボクが知る天才はキラキラしていて、目が惹かれるカリスマがある人ばかりだった。

 そんな彼や彼女と比べたらボクはまだまだで、『狼男の力』というズルによって見せかけているメッキの天才に過ぎない。

 

 だから東雲さんに褒められたとしても、罪悪感の方が強かった。

 

 

「売れる物を当たり前のように作れるのなんて、それもまた才能だと思うんスけどねぇ。AKIきゅんの自信のないところは欠点ッスよ。キミの叔母様も心配してるんだから、自信を持つように」

 

【……はい、できるだけ頑張ります】

 

「頑張ることじゃないんですけどねー。ところで……AKIきゅん」

 

 

 ルビーさんと有馬さん、二人の収録を見ていた東雲さんはボクの方へと首を向ける。

 

 憂鬱そうな気だるげな顔は見慣れていたものなのに、何故か物凄く嫌な予感がした。

 具体的には今すぐ逃げ出したいぐらいの嫌な予感。

 

 

 ──そして、爆弾は警戒態勢に入る前に投げ入れられた。

 

 

 

「キミ、いつからB小町に合流するんスか?」

 

【しませんが!?】

 

 

 嫌な予感が当たっちゃった。当たらなくていいのに、こういう時に限って予感が当たっちゃった。

 

 

『アキ君、やっぱりアイドルに興味あったんだね……!』

 

 

 あぁぁ、今まで静かだった幽霊のアイさんも、ウォーミングアップし始めちゃいましたよ。

 ならないので静かにしててくれませんか? あ、無理ですか、そうですか。

 

 

「えー、アイドルするためにB小町に投資してるんじゃないんスかー?」

 

『身長まで私に合わせてるし『性別:?』でアイドルしたら面白そう!』

 

 

 あぁもう、嫌なぐらい大盛り上がりだよ……

 

 ボクは(ぜんせ)の教育のせいか、そもそも人前とか目立つようなことをするのが苦手なのである。

 

 演奏程度ならまだ何とかなる。しかし、アイドルなんて歌って踊って常に目立つお仕事だ。

 ライブでもアイさんに憑依してもらって乗り越えているボクにできるだろうか? いや、できるはずがない。

 

 赤面症で、人前に出たらすぐに真っ赤になるのが恥ずかしいっていう、小さな理由。

 そして、制御できるようになったとしても、大勢の前に立つと情報を読み取ってしまいそうになり、下手したら気絶する恐怖との戦いになるので、パフォーマンスどころの話ではないという、大きな理由。

 

 アイさんもその両方の理由からボクが嫌だと思っているのはわかっているのに、彼女は割と『面白そう』とか『楽しそう』って感情を優先する。

 もしも何かの間違いでアイドルになってしまったら? その瞬間、ボクは『アイさんに憑依してもらう』という手段をなくしてしまう。

 

 何故なら、アイさんは『ボクが』アイドルになるのが『面白そう』と思ってるから。

 アイさんが再びアイドルになりたいという話ではないので、絶対に憑依を禁止してくるはずだ。彼女の考えなんて容易に想像できる。

 

 

【絶対になりませんから! ボクはただ応援してるだけなので!】

 

「えぇー」『えぇー』

 

 

 ええい、どうして生者と死者の感想が同じになるんだ! 顔見知りでもない死者と生者が合わさるんじゃないですよっ。

 

 残念そうにされたって、絶対(ぜぇったい)にやらないですからね!

 

 

 ──そんな感じで、ボクはルビーさんと有馬さんが収録を終えるまで、ひたすら逃げ続けることになるのであった。

 

 

 ……ちなみに、ルビーさんと有馬さんのお仕事は大成功だったので、頑張った甲斐があったと思う。

 

 




大豆ゲーム会社の東雲さんと後藤さんはオリキャラ。
アキ君には叔母さん経由で広げた人脈もあるので、重曹先輩に認めて貰うためにフル活用してもらいました。

過去そのものがヘビー級のルビーちゃん、メンがヘラりがちな重曹パイセンなど、アクア君は過去や感情重量級女子にモテモテですよね。
重い女の子限定で吸引力の変わらないただ一人のアクア君って凄いですよね。

《あきのこばなし》
ちなみにアキ君の音楽の才能ってどれくらい? って聞かれますと、『明治時代に絶滅した動物(狼人間)の遺伝子を混ぜ合わせてでも復活させる科学力をもつ父親の才能を音楽に全振りした』ぐらいです。
つまりやべー奴ですね。
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