一体何の流れがあってそこまで距離が近づいたんだ……って読み返して宇宙猫になりましたね。(友達少ない作者の感想)
side.アキ
とても既視感を感じる文章が、アクアさんから届いた。
《今すぐ
とてもシンプルな文章だが、問題が一つある。
現在、台風が接近中。
どこのテレビ番組を見ても目に入る情報なのに、アクアさんはご存知ないのだろうか?
《今日、台風来てるんですけど。鬼ですか?》
せめてもの抵抗に送った文章は《いいから急いで来い》の一文で終わってしまった。
兄のアクアさんといい、妹のルビーさんといい、狼使いが荒い兄妹である。
この気持ちの訴え先は、動物愛護団体*1にしたら取り合ってくれるだろうか。
……そういえばこの世界の狼人間は絶滅していたっけ。
そんな世界の動物愛護団体に訴えても『何言ってんだお前』って困らせるだけである。
気が進まないものの、行くしかないか。
傘とカッパを装備して、雨の中をひた走る。
急いで、とも注文を受けていたので狼人間としての力を存分に発揮して走っていると、10分ぐらいで到着した。
【アクアさーん、来ましたよ】
「おい、態々連絡を入れるな。インターホンを鳴らせ、インターホンを」
【メッセージ送って呼びかけたらわかるんですから、いいじゃないですか】
文句を言いながら出迎えてくれたアクアさんの後ろをついていき、彼らの家へとお邪魔する。
少し濡れてしまった体を持参したタオルで拭い、カバンの中へ。
いつもは居間で、この間はルビーさんの部屋だったが、今回は珍しくアクアさんの自室に案内された。
ルビーさんの部屋とは違って良く言えばシンプル。悪く言えば殺風景な部屋の真ん中で、向かい合うように座る。
【それで、話とは何ですか?】
「単刀直入に言うとだ……お前の狼としての力を貸して欲しい」
アクアさんが机の引き出しから取り出したのは、数本の青っぽい髪の毛が入ったジップロックだった。
しなやかで丈夫な毛質をみるに、女性の髪の毛だろうか。
数本の髪の毛からでも、丁寧に手入れされているのだろうということだけはわかる。
【ま、まさか──恋愛リアリティショーで気になる女の子の情報を得るために、髪の毛を確保したというのですか……この変態!】
とんでもない予想に辿り着いてしまったせいか、ボクの手は震えていた。
アクアさん、何と恐ろしいことを。
ゆきさん争奪戦についていけないから別の女の子を狙おう……というのは万や億の歩数を譲って理解しよう。
でも、ボクの能力を使ってまで相手の隅から隅まで調べようとするなんて、男として恥を知った方がいいのではないだろうか?
ルビーさんと有馬さんを放置して女を手に入れるなら、せめて自分の実力でどうにかしてください。
「いや待て、勘違いするな。落ち着け」
ドン引きするボクに気がついたらしく、アクアさんが必死に弁明してくる。
益々怪しく感じる言動だが、ここで疑っても話は進まない……か。
【最後に言い訳ぐらいは聞きましょう】
「最後ってお前な……まぁいい。アキ、今回の企画で黒川あかねが炎上しているのを知っているか?」
【あぁ、はい。又聞きですけど】
寄って集って一人を叩く姿は醜悪過ぎて見るのも嫌なので、その件を直接調べてはいない。
だが、有馬さんとルビーさんが黒川さんの炎上について話しているのは聞いていたので、大体は把握していた。
【炎上とその髪がどうしたんですか?】
「今のあかね──いや、黒川さんが精神的に大丈夫なのか知りたいんだよ」
【あぁ、なるほど。記憶を読む方の力を使いたいと】
アクアさんは共演者が追い込まれていないか、心配なようだ。
過去、恋愛リアリティショーで自殺したという事件は、話として聞こえてくる。
そういう過去の事例も考えると、今回の炎上も合わさって心配になるだろう。
アクアさんがまるで変態のような行動を、正当化させようと訴えてくる理由は理解できた。
【わかりました、読み取りましょう。アクアさんが変態かどうかは傍に置いておいてね】
「そこは違うと否定してくれないか?」
【いやぁ、女の子の髪の毛を集める男を、変態じゃないとジャッジするのはちょっと……】
「その切り取り方は人聞きが悪過ぎるぞ」
でも事実だし……目的があったとしても、やってることは怖い人なのは間違いないわけで。
手段を選ばないのは構わないが、どうかこちらを巻き込まないように注意して欲しいものだ。
同罪でーす、と捕まったらアイさんと同じく成仏できない幽霊になってしまう。
なんて、馬鹿みたいな思考こそ傍に置いて、さっさと仕事を始めようか。
【では、一本拝借しますね】
ボクが1番情報を読み取れるのは『味覚』だ。
涙が1番気持ち良く読み取れるのだが、今世のボクは髪の毛からでも情報を読める。
会ったこともない女の子の髪を口に咥えるという行為に、思うところがないと言えば嘘になる。
だが、そんな贅沢は言ってられないので、大人しく一本の髪を口に咥えた。
これがフェチのモノなら電流が走るぐらいの快感があるのに、今のボクはの感情は無そのもの。
こういう時、毛フェチとかの方が良かったのではないかと思うが、これも前世の因果なので仕方がない。
そんな雑念を思い浮かべていれば……すぐに情報の波がやってきた。
黒川あかね。
劇団ララライ所属で若きエースと呼ばれる女優。高校二年生の十七才。
演技の練習も一生懸命、アクアさんが参加している企画でもスタッフや他の人から意見を聞いてメモをしているところを見るに、真面目な子なのだろう。
最近の記憶を見る限り、『真面目な努力家、奥手で責任感が強い』という印象が強い。企画には向いてなさそうな性格だった。
こういう子は真っ正面から批判を飲み込んでしまうし、身内などを否定されたら気にしてしまう。
そして、炎上というのは基本的に全否定するような書き込みが出てくる。
平然とその人の努力を否定し、親も人生も何もかも否定してきて、好き放題してくる。
正義に酔った人間は何してもいいって自分を正当化するから、酷い叩き方をするのである。
そういうコメントもエゴサして閲覧してしまったと仮定して、記憶やパーソナルデータから考えるに……
【アクアさん、今すぐ走ってください】
「それはどういう意味だ?」
【責任感が強い人って誰にも相談できずに全部飲み込んで抱えてしまって、風船のように破裂しちゃうんです。そして……その限界がくるとしたら、今日です】
ここまで言っているのに、まだアクアさんは動こうとしない。
察しの悪いフリをしても、事態は動いているのだ。それでも動かないならボクが動けばいいし、これから起きるであろうことを突きつけようか。
【──このままだと黒川さん、自殺しますよ】
「!?」
アクアさんの机の上に置いているワイヤレスイヤホンを手渡す。
【助けるつもりなら、台風の中でも彼女が自殺しそうな地点へ誘導します。アクアさんはどうしたいですか?】
「そんなの決まっているだろ……今から、走るぞ」
【了解です。後で電話しますから、ひとまず黒川さんの家へ向かってください】
どうやらやっと覚悟を決めたらしい。彼のアイさん譲りの右目がキラリと輝く。
目に強い光を宿したアクアさんは手渡したワイヤレスイヤホンを片耳に嵌め、部屋を飛び出した。
side.アキend
☆★☆
side.アクア
ご都合主義というのはそう何度も起きるものではないと、俺は知っている。
人は簡単に死ぬし、中には悲鳴を抑えて身を投げ出す奴もいる。
奇跡は何度も起きないから奇跡なのであって、一度起きた奇跡の二度目を期待するのは間違っている。
奇跡的に奪われた者が戻ってきたとしても、俺だけは忘れてはいけない。
俺は──俺達は一度、大切な存在を失ったという事実を、忘れてはいけない。
それに、今の俺は医者じゃないし、俳優をしている高校生だ。死に近い立場でもないのに、人の死に姿をこれ以上見てたまるか……!
そう思ってあかねの家へと向かっていると、スマホから着信音が流れてきた。
アキはまだ髪の毛から情報を洗い直している最中なので、電話はかかってこないはず。
誰かと思って電話に出ると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『アクたん、どうしよう! あかねちゃんが家に帰って来てないらしいの!』
電話をかけてきたのはメムだった。
彼女も外に出ているのか、イヤホンからわずかに雨の音が聞こえてくる。
「家に戻っていないって、こんな雨の中なのにか」
『うん、外に出るって出かけてから、家に戻って来てないって……あかねちゃんのお母さんが』
「そうか、わかった。俺の方でも探すから、メムも協力してほしい」
『うん。私の方でも探してみるから、アクたんもよろしくね』
メムから電話が終わったと思いきや、また電話がかかってくる。
こちらもワンコールで出ると、今度は目的の人物──アキからの電話だった。
『【すみません、お待たせいたしました】』
「こっちもメムと連絡していたから大丈夫だ。どうやらお前の言葉はアタリみたいだな。あかねは外に出てから家に帰っていない」
『【やはりそうですか。でしたら今からナビゲートします】』
電話越しでも合成音声を使うアキに従い、俺は雨の中を走る。
目的地は歩道橋。彼女の家からコンビニまでのルートらしく、今走っている道からはかなり近い。
雨の中でも車は走っており、視界が悪い。
自殺するつもりならちょうど良さそうな条件が揃っている。
衝動的なのか、計画的なのかはわからないが、嫌な条件ばかり揃ってきてるな。
思わず舌打ちしそうな気持ちを抑え込んで走ること数分間。
『【そろそろ歩道橋だと思いますけど、見えてますか?】』
「ああ、近くまで来たが……どこだ、どこにいる?」
息を整えつつも、歩道橋を観察する。
台風が近づいているだけあって、車以外の影はない。
本当にあかねは歩道橋にいるのだろうか。
アキのナビゲートに疑問を抱き始めていると、二度と使えないぐらい折れたビニール傘が歩道橋から空へと舞った。
『【情報からの予測が間違いなければ、その歩道橋にいると思うのですが……】』
「あぁ……確かに、上に誰かいる」
特徴もないビニール傘を視界に収めるのと同時に、俺は階段を駆け上がった。
雨粒が叩きつけられるように降る中、滑り落ちたら目も当てられない。
歩道橋の真ん中に、人影が見える。
倒れていた影はゆっくりと立ち上がり、柵をよじ登り、その上に立ってしまう。
青っぽい髪の毛。ついさっき、アキに渡した毛と同じ髪の色。
「……くそっ」
あいつの言葉に『他人が介入して良い問題なのか』とウジウジ迷ってなければ、あの場に立つ前に止めれたっていうのに……!
走る。どうか落ちるよりも早く辿り着き、間に合ってくれと祈るよりも早く、前へ。前へと。
「間に、合えーーーーッッ」
手を伸ばすのと同時に、彼女の足が宙へと進む。
斜めに滑り落ちようとする体を両手で掴み、自分の体ごと重心を後ろへ。
「あっ……あぁ……なんで、どうして……いやぁっ! 放して、放してよぉっ!」
呆然と唸っていたあかねは、やがて己が死んでいないことを悟り、暴れ出した。
あぁもう、助けて終わり。大団円とはいかないのか!
「落ち着け、俺は敵じゃない」
また落ちようと足掻くあかねを抱きしめて、落ち着かせるように頭を撫でる。
「頼むから、落ち着いてくれ……」
しばらくあかねの頭を撫でていると、死んでいるような暗い目に光が戻ってくる。
どうやら正気に戻ったらしい。
安心から肺から溜まっていた空気が出てくるのを感じながら、あかねの体から手を離した。
「アクアくん……どうしてここに……?」
「メッセージを見て心配になったメムが『お前が帰ってきていない』って探し回ってんだよ。それぐらい、察しろ」
『自分も心配したんだぞって、素直に言えばいいのに』
イヤホンから肉声が聞こえてきたことに違和感を覚えたが、今は無視だ。
この場にいない存在を気にするほど、今の俺には余裕がない。
「ちょっと君達! あんな場所にいたら危ないでしょ!?」
泣き始めたあかねの側に寄り添っていると、声をかけられた。
台風が来ているのにこんなところに来る物好きは誰かと思いきや、声をかけてきたのは制服姿の男。
「──警察かよ」
『あちゃー、見られちゃまずいところ、見られちゃった?』
イヤホンから能天気な声が聞こえてくるせいか、現実感がない。
あれやこれやと警察に事情聴取をされ、未成年ということもあり、警察署まで連れて行かれることになってしまった。
『メムちゃんも途中で拾えたし、警察の方に行くように誘導しとくよ』
イヤホンの向こう側から、一方的に話しかけられる。
『女の子を自分の手で救えたなんてすごいよ……よく頑張ったね、アクア』
その声がアキのものではなく、アイのものだと気付いたせいなのか。
両目から雨以外の暖かい何かが、溢れた気がした。
ミヤコさんに褒められたのも嬉しいと思いますが、何よりもお母さんに言って欲しかったであろう言葉。
今話もここまで読んでくださり、ありがとうございました!
この後のアクア君側の展開は漫画やアニメとほぼ一緒の流れとなりますので、大きくカットです。
《あきのこばなし》
実はこの後、MEMちょと出会ったアキ君は少しの間だけお話ししたのですが、見事にフラれてしまいました。
「今はちょっとタイミング悪いかな」と断られて、ショックを受けたアキ君。
「今はタイミングが悪いでしょ……」とアイさんにすら、言われたらしいのです。どれだけ間の悪い話だったのでしょうね……