特別な彼女の引き立て役Aです   作:大森依織

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本作の投稿は私が休みたい曜日(+私が休みの曜日)のお昼に行われます。
週休3日制が、憧れなんだ……!


AによるAの為の強化フラグ

 

 

side.ルビー

 

 

 台風が接近していた日にお兄ちゃんが警察にお世話になるという事件から、一日が過ぎた。

 どうやらお兄ちゃんは黒川さんを助けに行って、そこでタイミング悪く警官に見つかっちゃったらしい。

 

 ビックリしたけど、お兄ちゃん(せんせー)らしくて笑っちゃった。

 お兄ちゃんになっても、人助けするところは変わらないんだなって、ますます惚れ直しちゃいそうだ。

 

 黒川さんの自殺未遂ニュースをリークした件も何か考えがあるのだろうし、お兄ちゃんが何を企んでいるのか、お手並み拝見かなー。

 

 

「でも、これで増えるんだろうなぁ……」

 

「何が増えるの?」

 

 

 少し憂鬱になっていると、いつものようにソファに寝転んでいる有馬先輩が声をかけてきた。

 

 この前はエリマキトカゲの本だったが、今日読んでいるのはアシナシトカゲの本らしい。

 勉強勉強って言ってるのに、いつも変な本読んでるね、先輩。

 

 

「増えるって、あー……私のファンとか?」

 

「何で疑問系なのよ。というか、まだ表に出た活動が動画以外にないんだから、ファンなんて増えないでしょ」

 

「相変わらずズバッと言うなぁ」

 

 

 先輩らしいけど、メンタルやられてる時にされたら、ボロボロにされそうだ。

 

 そんなことを考えていると、私と先輩の二人しかいない部屋の扉が開き、黒い長髪がひょっこりと現れる。

 

 

【お二人共、お疲れ様でーす。今日も元気ですかー? 元気そうですねー】

 

 

 自分から質問して自己解決するような音声を流したのはアキだった。

 

 暇なのか何なのかはわからないが、アキは私がアイドルになると言ってからというものの、頻繁に事務所に来てくれるのだ。

 

 多分、お兄ちゃんに言われて、とかママのお願いなのかな。

 今日も差し入れだと言いながら、お菓子を配りまわる妖怪になっている。

 

 本日のおやつはクッキーか。きっとこれも手作りなんだろうな。

 この前のお菓子で『健康を気にしつつも味も追及したー』って熱弁していたし。

 

 

【後のお菓子は事務所に来た人がお持ち帰りできるように並べておきますね】

 

「うん。皆、いつも喜んでるよ」

 

【喜んでくれているのなら、作り甲斐がありますね】

 

 

 機械から流れてくる音声はいつもと変わらないが、ほんの僅かだけど変な感じがする。

 何というか、尻尾と耳が生えてたら垂れ下がっていそうな感じというか。

 

 

「アキ、何かあった?」

 

【何かって、何の話でしょうか?】

 

「ちょっと元気なさそうに見えたから、気になっただけなんだけどね」

 

 

 私も今日はセンチメンタルに襲われていたけど、アキにも似たような雰囲気を感じた。

 だから何かあったのかなーって思ったんだけど、アキ本人は心当たりがないのか不思議そうな顔をしている。

 

 

【あー、強いて言うならあれですかね】

 

 

 クッキーの袋を並べ終えた頃に答えを見つけたらしく、ぐるりと振り向いたアキは人差し指を立てて音声を再生した。

 

 

【フラれたんですよ、昨日】

 

「フラれた?」

 

 

 それって恋しちゃって愛しちゃって告白しちゃってー、に関係するフラれた?

 それともアプローチしてたけど「興味ないね」とフラれちゃったって方?

 

 失恋特有の空気もないし、悲壮感もないから、色恋でーという意味はなさそう。

 

 

「アキ、そのフラれたっていうのはどういう?」

 

【ルビーさんはB小町のメンバーを後一人は欲しいって言ってたでしょう? その件です】

 

「あぁ、勧誘でフラれちゃったと」

 

 

 言い方がややこしいよ。先輩なんてトカゲの本で顔を隠しながらも、チラチラとこっちを伺ってるし。

 

 

「それでちょっと落ち込んでたんだ」

 

【はい……近くにいる人からも『アキ君ってばタイミングが悪いよ〜』と言われましたので、余計に】

 

 

 近くにいる人、というのはママをぼかした呼び方だね。

 ということは、ママにもタイミングが悪いと指摘された勧誘方法だったと。

 

 仮にタイミングが良くても、アキは小さくて女の子にしか見えないのだ。

 そんな子がアイドルの勧誘をしてくるなんて、怪しんで下さいと言っているようなものだよね。

 でも、アキも失敗するんだなぁ。中学生らしくないところばかり見てたから、ちょっと安心かも。

 

 先輩も同じようなことを思ったのか、本を閉じて話に入ってくる。

 

 

「アンタにも苦手なことってあるのねー」

 

【ボクは苦手なことが多いですよ。人前に出るのも苦手ですし、人の涙も苦手です】

 

「いや、人前に出るのが苦手でどうやってライブやってんのよ。つまんない冗談はやめときなさい」

 

 

 アキとママの関係を知らない先輩らしい感想だけど、全部本当なんだよね。

 涙が苦手、というのも間違ってないって意味では本当だ。

 

 泣きながら意見したら、アキ自身は反対だと思っていても高確率で通るし。

 だから苦手という言葉よりも『弱点』って言葉がぴったりだと思う。

 

 

「苦手、といえば……黒川あかねの件、ニュースになっていたわね」

 

「苦手で連想するのがそれって……先輩、黒川さんのことが苦手なの?」

 

 

 番組内では悪女みたいにされてたけど、別に悪い人って感じはしなかったけどなぁ。

 

 

「同い年で女優やってるとねー、ライバルは大体堕ちてこいって思うものよ。アンタもアイドルならわかるでしょ?」

 

「正直、わからないけど……同じって言葉的に、同族嫌悪みたいな感じ?」

 

「どちらかというとシャーデンフロイデの方が近いわね」

 

「しゃー、ふろ……?」

 

 

 え、何なの、そのオシャレなお菓子屋さんみたいにも、ドイツ語の必殺技にも聞こえるワードは。

 言葉の意味が理解できなくてアキを見ると、彼はすかさず合成音声を流してくれた。

 

 

【嚙み砕いて言うと『ざまあみろ~』とか『人の不幸は蜜の味~』っていう気持ちを、伝わりにくい言葉で表現しているんですよ】

 

「つまり、先輩は性格悪いのをオブラートに包もうと努力してるんだね……」

 

「そうやって真っ正面から性格悪いとか言ってくるの、あんた達ぐらいよっ!」

 

 

 怒りでプルプルと震える先輩はスマホより古い──何だっけ? 一昔前の携帯電話みたいだった。

 

 でも、先輩もシャーデン何たらみたいな、難しい言葉なんか使わずにいた方が良いと思うんだけど。

 まだ正面から言ってた方が、嫌な印象が拭われる気がするんだよね。

 

 

【有馬さんの性格の悪さは傍に置いておいて】

 

「置く気あるのか、こいつ」

 

【置いて、そろそろちゃんとB小町の活動報告をさせてくださーい】

 

 

 パンパン、と態とらしく手拍子したアキが、スマホを見せてくる。

 スマホの画面にはB小町の公式ユーチューブチャンネルが。

 もう始動していたらしく、ショート動画多めで、普通の動画もほんの少し投稿されたチャンネルが見えた。

 

 

「登録者数3千人? すっくな」

 

【有馬さん、それはボクも怒っちゃいそうな暴言なんですけど】

 

「いやでも少なくない? 公式チャンネルって名前負けしてるじゃない。1万人ぐらいは欲しいでしょ」

 

 

 特にアイドル活動していない上に、最近できたチャンネルに3千人は十分多いよ、先輩。

 

 

【ボクも頑張ってるつもりなんですけどね……】

 

「表向きの活動なんて殆どできてなくて、練習風景とか自己紹介だけの動画で3千人集められたんだから、すごいと思うけど」

 

【ルビーさんの言葉が温かくて、涙が出そうです】

 

 

 編集などの配信する為のスキルがあるとはいえ、アキの得意分野は『音楽』。

 いくらミヤコさんのサポートがあったとしても、アキが満足に使える武器が少な過ぎる。

 

 というか、私達が主メンバーなのにアキに頼り過ぎてるよ!

 このまま待ちの姿勢は良くない。絶対に良くないね!

 

 

「先輩、やっぱりアイドル活動しようよ! ライブとか握手会とか!」

 

「そう言ってもねぇ。そんな簡単にできないでしょ……お金もかかるし、そもそも私達にはまだ持ち曲もない。まったりと動画を投稿するだけで精一杯じゃない?」

 

【いえ、できますよ】

 

 

 先輩の予想に反して、アキは自信ありげに音声を流す。

 

 

【お二人さえ良ければ──声優の仕事をしてもらったその繋がりで、《エステレラ》配信前ライブに招待できます】

 

「配信前ライブ?」

 

【はい。本当はボク一人で回す予定でしたが……二人さえ良ければ、一緒に回してほしいんですよ】

 

 

 《エステレラ》といえば、アキの紹介で声優の仕事をさせてもらったゲームの名前だ。

 どうやらSOygames(ソイゲームズ)肝入りのゲームらしく、配信記念ライブを決定してしまうほど、力を入れているらしい。

 

 メインキャラの声優さんが出つつも、主役はOP担当にしてサウンド制作協力もしている、AKI。

 その中に声優として参加したアイドル──B小町も突っ込もう、というのがアキの提案だった。

 

 

【その場合、お二人には司会のサポート役と、エステレラOPのカバーバージョンのお披露目シーンも担当して頂きます。OPはダンスがそこまで必要ないものなので、歌だけはちゃんと歌えるように練習してくださいね】

 

 

 トントン拍子に進んでいく出来事に、私は興奮が止められない。

 声優だけじゃなく、ライブまですぐ決まっちゃうなんて!

 

 

「わかった、OPだね。私、練習してくる!」

 

 

 善は急げ、鉄は熱いうちに打てと言うし、アキにも止めなかった。

 そんなこともあり、私は興奮をそのままに部屋の外へと飛び出し、練習室へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side.ルビーend

 

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 

 

 

side.かな

 

 

 

 

 

「さてと、ルビーは行ったかなー? うん、大丈夫そう。ごめんねぇ、ちょっと今の入間ちゃんの状態はあんまり良くないと思ったからさ。お話しする時間が欲しかったんだ」

 

 

 ルビーが出て行った扉の方をじっと見ていたアキが、一人で語りながら振り返る。

 

 

「入間ちゃんって、今の状況にモヤモヤしてる?」

 

 

 アキの雰囲気がガラリと変化したのを感じる。

 吸い込まれそうなぐらい強い星を宿した瞳を輝かせ、笑みはいつもの控えめなものから作り物めいた自信ありげなものへ。

 

 他人に空気が持っていかれる、この嫌な感覚。

 顔を顰めたくなる気持ちをグッと堪えて、私は声を出す。

 

 

「あのねぇ……私の名前は有馬なんだけど?」

 

 

 というか、コイツ初めて自分の口でしゃべったかと思いきや、私の名前を堂々と間違えるとか失礼過ぎない!?

 持っていかれそうになったけど怒りで戻ってきたわ。初対面でもないのに失礼にもほどがある。

 

 

「あー、ごめんね。私、名前覚えるのが苦手でさー」

 

「こいつ、絶対謝る気ないわね」

 

 

 あははー、と笑うアキに反省の色など全くない。

 

 というか、コイツ、本当に私が見てきたアキなのかしら?

 女らしさ、いいえ、アイらしさ(・・・・・)を増幅させて破天荒さをトッピングしたような言動が、私が知っている奴の像とブレる。

 

 これ、いわゆる解離性同一性障害、二重人格って奴なのかしら。

 だから機械音声を使ったりしているのかもしれないわね。

 

 こういうデリケートっぽい問題に土足で踏み込むのは面倒そうで、躊躇われる。

 ルビーがいれば話が楽なんだけど、飛び出しちゃったし。こういう時にいないなんて使えないわねぇ。

 

 この空間から逃げ出せる方法はないか模索していると、アキ? の方から先手を打ってきた。

 

 

「ま、いいや。モヤモヤしているのは間違いないよね?」

 

「そのモヤモヤっていうのは何よ」

 

「目的だったアクアが不在で恋愛系の企画に出ているとか。声優の仕事の時、格下だと思っていたルビーに自分が得意な演技(分野)で『飲まれる』って思ったとか」

 

「それは」

 

 

 こっちは土足で踏み込むかを悩んでいるってのに、向こうから突貫してくるなんて……!?

 

 言葉が出てこない、っていうのはまさしく今の状況なのね。

 アクアへの不満も、ルビーへの焦りも的確に見透かされていて見事とも思ってしまうわ。

 でも、このままやられるのも癪だし、ジャブでも打って牽制しましょうか。

 

 

「あんたがそのつもりなら私もその二重人格について、踏み込むわよ?」

 

「二重人格! その設定いいね、採用!」

 

 

 牽制のつもりが、相手が嬉しそうに親指立ててきたんだけど。こいつ、最強か?

 

 もしかして、アキにとって二重人格っていうのはそこまで重要じゃないことだったりするのかしら。

 ただ単に、今まで別の人格が出てくる必要がなかっただけで。

 

 ……つまり、今この状況ではアキの別人格が出てくる必要があったってわけね。嫌な予感しかしないわ。

 

 

「私ね、佐久間ちゃんは女優よりもアイドルの才能があると思うんだよね」

 

「はぁ!? 名前を間違えながら、ふざけたこと言ってんじゃないわよ!」

 

「その自分を見てほしい、注目してほしいーって輝きは間違いなく、アイドルらしい才能だよ。女優でもいけるとは思うけど」

 

 

 見当違いだと切り捨てるには、所々に心当たりがあり過ぎた。

 

 アキ? が一歩前に進んでくるので、私は一歩後退する。

 距離も心も追い込まれている気がして落ち着かない。

 

 

「それにさ、アクアが求めてくれたからアイドルになったのに、全然こっちを見てくれないのって悔しくない?」

 

「それは……そんなの言われても、私ができることなんて何もないじゃない」

 

「だから何もしないの? アイドルとしても、女優としても動けなくて、アクアか、他の人に声をかけてもらうまで待ってるの? 穴の中に引きこもって、周囲を照らしてやるって上から思うだけ?」

 

 

 何もしないのが悪い、と責められているように感じて、私の頭の中の血が一気に沸騰したような感覚に襲われる。

 

 

「じゃあどうしろっていうのよ。この世界は頑張れば報われるって訳でもないし、好き勝手する奴は真っ先にお陀仏なのよ。アクアに流されてここに来ちゃったけど、私は──有馬かなはアイドルじゃなくて『女優』なの! なのに今更新しい道に行けって言われても……どう歩いたら良いのか、わかるわけないじゃない!」

 

「そんな我儘が下手っぴな尾島ちゃんに提案! その無意識に引きこもっちゃった穴から抜け出して、アクアを見返してみない? アイドルとして頑張ってくれるなら、その手伝いぐらいはできるよー?」

 

「だから、有馬なんだけど……」

 

 

 名前を間違える方が気になり過ぎて、頭に内容が入ってこないじゃない!

 

 えーと。つまり、アイドルやる代わりにステップアップして、アクアを悔しがらせてやろうってことよね?

 この名前すら覚えられないポンコツ人格に、そんなことできるのかしら。不安しかない。

 

 けど、私は既にアイドルという船に乗っている。

 その船の中でどう過ごすか、どうせならプラスになる乗り方をしたいわね。

 

 

「もし、ワンランク上に上がることができるっていうなら、付き合ってあげてもいいけど……」

 

「ふふーん、誰にそんなことを言ってるのかな? 私は完璧で究極のアイドルなんだよ。それぐらい朝飯どころか、昨日の夕食を通り越してオヤツ前なんだよ」

 

 

 自称アイドルの人格は、ピースサインを顔付近で作る。

 まるでどころか、アイそのまんまな人格ねぇ……アキがこんな人格を隠し持ってるなんて、やっぱり芸能界は闇が多いわ。とんでもないわね。

 

 でも、その世界で生きていくと決めたのも私。

 

 何か抜けるきっかけがないと、この先やっていけないっていうのも、私はもう知ってるもの。

 女は度胸って言うし、待ってたってアクアは来ないし……ただ待ってるだけのお姫様っていうのも私らしくないわよね。

 

 

「いいわ、やってやろうじゃない。私は女優よ。演じるのは得意だもの……アクアにぎゃふんと言わせるぐらい素敵な有馬かな(わたし)に──アイドルにでも何でもなってやるわよ!」

 

「そうこなくっちゃ!」

 

 

 

 ふん、アクアがイチャイチャしてるうちに私は演者として階段を登ってやるんだから、首を洗って待ってなさいよね!

 

 

 




A(アイ)によるA(有馬かな)の為の強化フラグ。漫画を読んでて天照大神みたいな子だなーって思った感想をそのまま詰め込みました(異論は大量にあると思われる)。
アクアの為一本のモチベの方向性をほんの少し変えて、補強。
後は仲間の為やら、アイドルをやめたくないぐらい楽しませるとか、そんな太い柱を建築できたら三本柱。
アクア君が建てた柱が一本折れても大丈夫になるので、安心ですね!
(魔境小町になってる中に放り込まれそうなMEMちょがいますが、MEMちょなら大丈夫、きっとなんとかやってくれる!)

《あきのこばなし》
アイさんとアキ君のB小町活動方針は娘であるルビーちゃんの言葉からきています。
①ママのB小町は7人で多い気がするから、半分ぐらいの3人とかぐらいがいいかも。
②ママから初期メンバーと仲違いしてって話を聞いてから、できれば皆で頑張りたいなぁ。
③私、ママとライブした感動が忘れられないからさ、B小町は皆で輝きたいなって思ってるよ。
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