兄妹はちゃんと平等に扱わないと喧嘩の元ですからね。
ルビーちゃんのキャラも崩壊……いやでも1巻でも割と彼女は結構はっちゃけてたし大丈夫……? タグつけてるし大丈夫……
ファンの皆皆様、好き勝手して申し訳ございません!(先手の謝罪)
side.ルビー
私、星野
何十回、何百回と見返したライブ映像。
ドラマや映画、バラエティと様々なものを見返しても、輝いていないあの人を見る方が珍しかったと思う。
信号が青に変わり、人が忙しなく交差点を歩き出すのに合わせて、私も一歩、前に出た。
ちらりと上を見れば大きなアイドルの看板が目に入る。
幼い頃はここや他の看板にも大好きなアイドル──私のママであるアイの写真が独占していたっけ。
今では見る影もないのに、アイドルからアイの面影を感じるのは、私が弱いからなのかな。
『ルビーも、もしかしたら……この先、アイドルになるかもって思ってて』
人混み特有の喧騒の中でも、はっきりと。
最後に聞いたママの言葉が頭の中で響く。
あーあ、私は
このまま帰ればお兄ちゃん達から何を言われるかわからない。
真っ直ぐに帰る気分じゃないし、何処かに寄ろうかな。
そうやって迷っていたせいか、前をよく見ていなかったんだよね。
交差点の真ん中で、私は人とぶつかっちゃってた。
「きゃっ」
倒れそうになったところで右手を掴まれ、支えられる。
ぶつかってきたのは私と同じくらいの身長の人。
ふわりと舞う黒い髪。星の見えない夜空のような暗闇という表現が相応しい目と、私の目が合う。
「ママ……?」
その顔は紛れもなく死んだはずのママの顔。
黒いキャップに白と黒のラフな姿といい、外見だけだとママにしか見えない。
そんな彼女は困った顔をしながらも、スラスラとノートに文字を書き、こちらに見せてくる。
ノートには綺麗な字で『交差点は危ないですし、とりあえず渡りませんか?』と書かれていた。
あっ。そうだ、ここは道のど真ん中だった。
ママみたいな顔の人の衝撃のせいで忘れていたが、ここは安全な場所ではない。
青信号がチカチカと点滅するのを尻目に、私達は交差点を渡り切った。
相手は反対側から来ていたというのに、私に合わせてUターンさせてしまった。
申し訳なく思っていると、ママに似た女の子がスマホを取り出して音を出す。
【すみません、避けようとしたのですが避けきれなくて。怪我はありませんか?】
女の子っぽい電子音声はどういう機能なのか、『心配しています』という相手の感情がわかるぐらい感情豊かだった。
最近の機械音声って感情も込められるんだ、すごーい。
……じゃなくて!
「こちらこそごめんなさい! それでその……あなたは?」
【ボクは篠塚アキっていいます】
「アキって……アイじゃ、ないんだ」
無機質なのに感情の籠った機械音声を聞いて、足から力が抜けてしまった。
もしかしたら、私やお兄ちゃんと同じで転生したんじゃないかって思ったけど、やっぱり違うんだ。
そりゃあそうだよね。転生してたらここまでそっくりさんになるはずもないしさ。
私だって前世と今世は顔も身長も体の健康さも全部違う。アイのそっくりさんが、ママのわけがないんだ……
雨でも降り始めたのか、地面と頬に雨粒が当たったような感触が伝わってきた。
「泣かないで」
さっきまでスマホから聞こえていた声が、口から出たものに変わっていた。
あぁ、私、泣いてたんだ。
てっきり声を出せない人なのかと思っていたのに、聞き覚えのある優しい声。
その声のおかげで、私は自分の状態を理解する。
地面から前へと視線を上げると、暗闇のような深い黒目にはキラリと輝く星が浮かんでいて、吸い込まれそうになった。
「ほら、よしよし。悲しかったのかな。大丈夫だよー」
物理的に抱きつくことによって証明される包容力。
どこからどう見ても推しにしか見えない人物よる圧倒的な母性。
やっぱり推しは最強で無敵だったのだ。
イエス・キリストよろしく復活したに違いない。
だから、その、ね?
先に言い訳をさせてもらうと──私はあの時、頭が混乱していたんだよね。
「ば、ばぶぅ」
「……え?」
む、昔の癖でオギャっちゃうなんてさ……
…………………………
あの後、恥の上塗りをする前に彼女に連れられた私は、彼女の目的地であるライブハウスにきていた。
家に帰る気にもなれなかったので、お兄ちゃんに帰りが遅くなるとメールを送っている。
私はちゃんと先手を打てる賢い子なのだ。
「落ち着いた?」
「はい、落ち着きました……」
嘘です。初対面の人にオギャるというとんでもないことをしてしまったバカです。
お兄ちゃんの過保護もバカにできない『やらかし』をした間抜けです。
相手が優しい人じゃなきゃ致命傷だったね。
いや、アキがママに似てなければこんなことも起きなかったんだけど。
って人のせいにしちゃダメだよね。撤回します、私が全面的に悪かったです。
「あぁ、いいよいいよ。私──は今、中学生1年生だから。ルビーは年上でしょ、先輩になるよね」
「え、どうしてわかったの!?」
確かに私は中学2年生(前世は除く)。
しかし、あんな恥を披露した手前、年上だと断言できる要素はなかったはず。
「知りたいの?」
「それはもちろん」
「んー、やっぱりヒミツ。ごめんね」
秘密なら仕方ないなー、かわいいなー。
……はっ、頭がまた壊れる所だった。
ヤバいよやばいよ。電子音声使ってる時と人格変わってるんか!? とエセ関西弁でツッコミしちゃいそうなぐらいの破壊力があるよ。
これはもう、私は察しちゃったね。機械音声を使うのにはそれ相応の理由があったに違いない! って。
催眠音声もびっくりの情緒破壊兵器だもんね、禁止指定したくなる気持ちもわかるよ。というか封印されてもおかしくないね。
後輩にドリンクまでご馳走になっている情けない姿から目を逸らし、ストローに吸い付く。
飲まなきゃやってらんねぇというセリフ、今ならわかる気がするよ。
「本当にごめんね。交差点のアレ、私のせいで泣いちゃったんだよね?」
「え、いやいやいや! あなたを見て泣いたのは私の問題で……」
「ううん、私が悪いんだよ。これだけは断言できるんだ」
──アキとアイが重なって見える。
なんて相手にとっては失礼なことで泣いたのに、アキは頭を下げてきた。
どうして私が泣いてしまったのかわからないはずなのに、私の泣いた理由を確信しているようだった。
いや、ママって口走っちゃってるし、勘がいい人ならわかるのかな?
アキにだってママと違う所を探せばあると思うんだけどね、特に『胸』とか。
いや、それも失礼か。貧乳戦争は怖いから口にしちゃダメな禁句だし。
「そうだ、謝罪代わりにライブ見ていく?」
「ライブ?」
「そう。実は今日の18時から私の単独ライブなんだ! チケットもあるし、泣かしちゃったからね。ルビーのこと、精一杯楽しませるよ」
むん、と細い手で力瘤を作ろうとするアキ。かわいい。
時間は1時間で、遅くても10分ぐらいの延長のライブか。
まだ涙の跡も残ってるし、ライブを見終わるぐらいには消えてそうかな。って考えると、ちょうどいいかもしれない。
「じゃあ、よろしくお願いします」
「うん、楽しんでいってね!」
18時になって、ライブが始まる。
アイドルならともかくバンドのライブなんて初めてだし、楽しめるかちょっと心配だったけど、とんでもなく楽しんでしまった。
ギター、ベース、キーボード、ドラムと楽器を次々に変えながら歌い、時には踊りもつけるアキのステージ。
ファン層もアイドルに近いせいか、違うってわかっていてもステージに『アイ』がいるようにしか見えなかった。
《サインはB》のカバーを披露されたら、もうオタ芸を披露するしかないぐらい、ハマってしまったのだ。
アイが最推しなのは不動だけど、アキも推しちゃうかも。
ちょうどパンフレットもあるし、持って帰っちゃおうかなーって、私は油断してたんだ。
『プロフィール
AKI名義で動画を配信している歌い手。
動画は歌ってみた、弾いてみたと音楽関係がメインだが、踊ってみたや演じてみたといった異色のものも。
美少女にしか見えない《少年》という武器が凶器で、男女問わず幅広いファンを獲得している』
アキは《少年》と、パンフレットに書かれている。
それを認識した瞬間に訪れる──頭に雷が落とされたような、衝撃。
ゑ? あんなに可愛いアイ同然の美少女が男の娘って嘘でしょ!?
胸以外に母性が詰まったあの子が、男の娘のわけないじゃん?! 私のママだったかもしれない人だよ!?(錯乱)
あまりの衝撃に、ライブ中もその後も上の空。
アキがライブ後にわざわざ家まで送ってくれたのに、ほとんど記憶になかった。
「あっ、連絡先交換するの忘れてた……」
たぶん、ライブハウスに行けばいつか会えるだろうし、まだ巻き返せる。だから大丈夫だし問題ない……はず。
……あれ?
──そういえば、どうして彼は私の名前を知ってたんだろ。
私、名乗ってなかったよね……?
side.ルビーend
☆★☆
side.アキ
グッタリとした
パンフレットを片手に「男の子、男の娘?」と呟いていたルビーさんはきっと、この体が男であることを知ってしまったのだろう。
帰り道も上の空だったし、泣かせてしまうし。
偶然出会ったとはいえ、今日はルビーさんに悪いことをしてしまった。
『アイさん、フォローありがとうございました』
「ロキ君は涙に弱いもんね。それに、元はといえば私のせいだから、これぐらいはね」
『アキです。その名前は
ぬるりと体から出てきたアイさんは相変わらず名前を間違えている。
だが、さすがに双子の母親ということもあり、久しぶりに再会した娘の名前は一度も間違えていなかった。
アイさんにとって、アクアさんもルビーさんも大切な人なのだろう。少し羨ましい。
──あの、アイさん。
『んー、どうしたの?』
その……胸って、必要でしょうか?
『ルビーはおっぱい好きだったからねー。男の子の胸と生前の私の胸、比べちゃったのかなぁ……』
そうですか。やはり胸がアイさんに似てないと思われていたんですね。
わかりました。ちょっと電話して、股間のモノを生贄に胸を錬成してきます。
『待って、アキ君。ちょっと落ち着こう?』
アキです。って、間違えてないですね。
なら問題ないですね、今から病院へ予約を……
『今のままでいいから。死んでる私がこうやって動けるのも君のおかげだし、私助かってる。すごく助かってるから、手術だけはやめよう。ね?』
ううむ、そこまで言うなら今回は見送ります。
──そう思った瞬間、アイさんは露骨にホッとしたような顔をする。
『幽霊になってから感情が出やすくて。死ぬ前より難しいんだよね』と言っていたアイさん。
どうやらアイさんにいらぬ気を使わせたらしい。
自分の感情を優先して勝手に体を弄くり回すなんて、器失格である。
アイさんに言われるまで気が付かないなんて、不覚だった。
『ねぇ、タキ君』
アキなんですけど、なんでしょうか。
『君はどうして、こんな幽霊に体を開け渡してるの?』
どうしてと言われても、それがボクの存在理由だからです。
ボクは幽霊のあなたに甘えて、ボクの生き方を正当化する理由に利用しているんです。
だから、気にしないでください。これはボクの証明問題なので。
『君は本当に狼だよね』
いやぁ、それほどでも。
『褒めてないよ』
にっこりと笑うアイさんの目は狼よりも恐ろしく、獰猛に見えた。
これがアイドルの本気なのか。体がぶるりと震えてしまう。
『あのさ、私のお願い事なら何でも聞いてくれるんだよね?』
はい。器として、ボクができることならですが。
『じゃあ、ウチの末っ子にならない? アクアとルビーと、君と私4人家族』
それはごめんなさい。何度聞かれてもそれはダメです。
あくまでボクは部外者。アイさんの子供はあのお二人だけですから。
『そっか。じゃあまた今度聞くね』
いや、だから
『私って欲張りなんだ。だから、お願いだから、私に君を殺させないでね』
……むう。
どうやらまだ、一流の
アキ
前世では聡明の器にならなければ、バンドマンになりたいなって思っていたらしい。
残念ながら器になることも、バンドマンになることも、どちらも叶わなかったのだが。
アイ
双子にはアイだと名乗らないし、嘘が上手なので知らないふりも上手。
アイが双子に自分のことを語らず、他人のフリをする理由はアキの暴発を防ぐ為。
幽霊になって感情が表に出やすくなったが、それでも彼女は本物の嘘つき。
双子を掻き回したので、少し休憩です。