特別な彼女の引き立て役Aです   作:大森依織

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いつも閲覧ありがとうございます。誤字報告など、助かってます。
この話の展開について、アキ君というオリジナルな人物によって、良くも悪くも変わるのが二次創作……と言い訳させてください。
あ、最後は3人称なので違和感があるかもしれません。


Aの落とし物

 

 

side.アクア

 

 

 今ガチ最終回で、ふと、頭の中にあの日の言葉が次々と蘇った。

 

 

 ──答え、待ってるから。16歳でも、いつまでも、答えてくれるまで……待ってるからね。

 

 

 夕陽を背に両手を握っていた、ルビーの悲しそうな顔が忘れられなくて。

 

 

 ──ゴチャゴチャ考えずに素直になりなさいよ。今のあんたは何が良いと思うの?

 

 

 有馬がボールをキャッチしながら聞いてきた言葉が、頭の中に蘇って。

 

 

 ──今のままだと、釣った魚に餌もあげないクズ野郎ですね。

 

 

 アキからあっさりと言われたその言葉が、どうにも頭の中から離れなくて……俺は結局、決意したはずの意思を捻じ曲げた。

 

 

 

 

 

『かんぱーい!』

 

 

 

 

 

 その結果、今回の今ガチでは誰一人としてカップルが達成することなく、番組的には残念な結果に終わってしまった。

 

 ここは俺があかねに告白するべきだったのだろう。

 でも、どうしてもそれができなくて、迷って躊躇って、その結果。

 最終的には土曜日の夜、打ち上げまで流されてしまった。

 

 周りの空気を振り払って何もしないことを選んだ俺は気まずさで一人、打ち上げ会場の部屋の隅でちびちびとジュースを飲んでいる。

 今混ざったら絶対に告白のことを聞かれるだろ。ここはおとなしく避難しているのが正解だろう。

 

 

「アクアくん」

 

「……あぁ、あかねか」

 

 

 右斜め後ろ、出演者が盛り上がる中から抜け出したあかねが、グラスを片手に持って近づいてきていた。

 

 

「隣、いいかな?」

 

「予約してる席でもないからな」

 

 

 気を遣うようなあかねの問いかけに答えた俺の言葉は、自分でも驚くぐらいそっけなかった。

 そんな俺の態度にも、あかねは気にしていないようだ。

 

 ちょこん、と隣に座ると、何故かじっとこちらの顔を見てきた。

 

 

「何だよ」

 

「アクアくん、やっぱり私を異性として見てなかったんだなーって思って」

 

「あぁ、それなのに思わせぶりな態度を取ったことは、番組的にも悪かったと思っているし……演技を貫き通せなかったのも悪かった、ごめん」

 

「ううん、いいの。アクアくんにもアクアくんの理由があったんだよね」

 

 

 違うかな? と問いかけてくるのに、その質問にはかなり自信があるようで。

 

 

「お見通しって感じだな」

 

 

 あまりにも力強く確信している様を見て、さすが劇団で天才と呼ばれている女優だと、少し笑ってしまいそうになった。

 

 黒川あかねはアイという言葉だけで『隠し子』の存在にまで辿り着いた分析能力を持つ。

 そんな彼女相手なら、俺が利用する目的で恋人になったとしても、すぐに見破って「こんなクズ男!」って振ってくれるんじゃないかと、期待していた。

 

 そんな言い訳を並べて、昨日までは番組を盛り上げる為にもカップルを成立させようとしていた。

 ──まぁ、最終的にヘタレてできなかったんだが。

 

 

「うん、私を通して誰かを見ちゃったって顔、してたから」

 

「顔に出てるのなら、役者としては失格だな」

 

「その、どうしてアクアくんはこの企画に参加しようとしたの?」

 

 

 今までのらりくらりと交わしてきた質問を、あかねが改めて問いかけてくる。

 ここでまた誤魔化すこともできるが、彼女は俺の半端な嘘のせいで被害を受けてしまったのだ。

 

 嘘を突き続けるのは不誠実、か。

 

 

「後腐れなく別れられる恋人(あいて)を見繕う為、なんて言えないだろ。この企画で結ばれたのなら、ビジネスカップルだしダメージはそこまでないと思ったんだよ」

 

「それなのに告白しなかったんだ」

 

「ヘタレとか中途半端だと、笑って……いや、いい」

 

 

 短い付き合いでも、隣の少女がそうやって笑う人物ではないことを知っているのだ。

 

 アキならこちらの内心を的確に読み取って、こちらの気を軽くする為に煽って笑ってくるのだろう。

 

 だからこそ奴とはかなり気楽な付き合いをさせてもらっているのだが、それを相手にも求めるのはダメだ。

 今まで逃げ続けたせいなのか、逃げ癖がついている自分に少し、嫌になってしまった。

 

 

「ねぇ、アクアくんさえよければだけど、番組が終わった後も連絡してもいい?」

 

「カップルが成立してもないのにか?」

 

「ゆきとノブ君は成立させてなくても付き合い始めてるし、成立しなくても連絡ぐらい、取っても大丈夫だと思うんだけど……一応ね」

 

 

 あかねとのやり取りの継続よりも、ゆき達が付き合い始めたことの方が驚きだった。

 アイツら、付き合い始めたのか……番組では見せずに裏では、なんてテクニカルすぎるだろ。

 

 やはり恋愛リアリティショーは奥が深いな、そんな手があるなんて思いつかなかった。

 

 

「まぁ、連絡くらいはいいか。連絡先は交換してたよな、それで大丈夫だろ」

 

「うん、ありがとう。これからもよろしくね」

 

「何だよ、改まって。連絡だって態々聞かなくても好きにすればいいのに、律儀な奴だな」

 

 

 そういう性格だとわかっていても、きちんと分別しているあかねの言動に、好意を持っていないといえば嘘になる。

 

 ……これで、よかったのだろうか。

 

 結局、この企画で目的の存在を手に入れられなかった俺に残ったのは疲れと経験、人脈だけだった。

 

 

 

 

 

 ──いや、本当はわかってるんだ。こんなことを続けても、良くないってことぐらい。

 

 でも、どうしようもなく怖かった。

 俺が生まれたせいで、アイが殺されることになったから。

 僕が生まれたせいで、母親が死んでしまったから。

 

 じゃあ、僕が動いたら──次は誰がいなくなるんだ? 誰が傷ついてしまう?

 ルビーか? 有馬か? ミヤコさんやアキ、アイか?

 

 でも、僕が足踏みして、動かなかった結果はどうだった?

 アイは幽霊だけど帰ってきたし、友達(アキ)も失わずに済んだだろ?

 奪いそうになったけど、《動けなかった》お陰で何も失わなかった。

 

 そう考えたら、僕は動かない方が良いんだ。

 あかねだって、僕が動かなくてもメムが動いてたし……アキに話をしてたんだから、僕の代わりにアイツが助けに動いたはず。

 

 いや、そもそも、僕が動いてしまったせいであかねは自殺まで追い込まれてしまったのかもしれない。

 そう思うと、悪いことをしてしまったな。

 

 そうだ……僕が何をしたって、何もしない時と変わらない。

 むしろ、僕が復讐したってアイは戻って来なかったのだから、動かない方がいい結果になっている。

 

 僕が動いたら悪化する恐れがあるなら、動かないで今を守った方が──きっといい結果になるって、もう証明されてるんだよ。

 

 

 《現状維持》の呪いに囚われた自分を、必死になって見ないふりして、頑張っているフリをしてれば、何も問題ない。そうだろ?

 

 

 ──そんなことないってわかってるから、アキに言われた時に動こうとしたんだろ? 逃げるなよ、俺。

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから打ち上げは山も谷もなく終わり、参加者は俺とメムを除き、タクシーで帰っていった。

 

 

「メムはタクシーに乗らなかったけど、家が近いのか?」

 

「うん、歩いて帰れる距離だから大丈夫だよ~」

 

 

 流石に女の子を一人で帰すのは拙いだろう。途中まで送っていこうと思って一緒に歩いていると、メムがあーあ、と呟いた。

 

 

「寂しいなぁ……私、この現場めちゃくちゃ好きだったから」

 

「そうか」

 

「あっさりしてるなぁ……アイの演技しているあかねに赤くなっていたのに、最終的に付き合わないしさ~」

 

 

 ニヨニヨ、と笑うメムに思わずムッとしてしまう。

 

 メムって俺の断片的な言葉からアイを導き出したり、高校三年生とは思えないぐらいアイに詳しいよな。ちょっと仕返しにからかってみるか?

 

 

「メムってB小町のこと、詳しいよな。世代じゃないだろ」

 

「いやいや、B小町は皆の憧れだから!」

 

 

 なんて言ってメムは笑っているが、恐らく家の誰かがファンだった、とかだろう。

 高校生とかでも『昭和返り』とか言って、昔と言われそうな昭和の音楽やアーティストを見てハマったりするらしいし、メムもそれに近いのかもしれない。

 

 

「……ここだけの話だよ?」

 

 

 そう思っていると、俺よりも一歩前へと歩き始めたメムが話し始めた。

 

 

「私さ、元々アイドル志望だったんだよね。今は色々あってユーチューバーやってますけども」

 

「ふぅん。じゃあウチ来たら? B小町は現在、メンバー募集中だし」

 

「……あー、それは難しいんじゃないかな。この前、B小町のスカウト? っていう話を断ったから」

 

「B小町のスカウト?」

 

 

 そんなのしていると聞いていないが。もしかして偽物か?

 

 

「そのスカウトの特徴は?」

 

「黒髪で、思い返せばなんとびっくり! アイにそっくりの女の子だったんだ! そのせいなのかな、偽物のスカウトだと思えなかったけど、あかねのこともあった時期だったからさ。今は考えられないって、断っちゃって」

 

 

 絶対にアキじゃねーか。何やってんだよ、アイツ。

 話をややこしくするだけならスカウトなんて無理しようとするな。お前の得意分野はそこじゃねぇだろうが。

 

 それにしてもどうするか。

 メムがB小町に来るのはかなりメリットがあるし、本人もいやそうではないのだが、ファーストコンタクトがよろしくなかった。

 ここから逆転するには……いや、あれがあったな。

 

 

「メム、明日は空いているか?」

 

「明日? 今ガチも終わったし、特に何もないけど……」

 

「じゃあ、明日に二人でここに行かないか?」

 

 

 アキから多めに貰っていて、かつ持ち歩いていて助かった。

 

 メムは戸惑いながらチケットを受け取ると、大きく目を見開く。

 

 

「え、待って待って待ってよこれ! AKI様のライブチケットじゃん!?」

 

「AKI様?」

 

「そうだよ、動画配信者として活動していたら一度はお世話になる神様みたいな人なの。知らないの!?」

 

「……そこまで興奮するような知り方はしてないな」

 

 

 あのチワワのような奴だぞ。アキが様付けで呼ばれるなんて、想像できないのだが。

 しかし、そう思っているのは俺だけのようで、メムは興奮したまま熱く語ってくる。

 

 

「音楽活動も勿論だけど、配信者としてはかなりフリーに近い状態で配布されている数の多いBGMがね、滅茶苦茶お世話になるんだぁ」

 

「へぇ、そんなのも作ってるのか」

 

「うん。種類も豊富過ぎて、AKIのBGMを使えばそれなりの動画を作れちゃうから本当にオススメだよ〜。動画配信者でAKIを知らないのはモグリだもん。お金とってもおかしくないクオリティのものを無料で配布してるんだから、きっととんでもない聖人だと思うんだよね〜」

 

 

 ──ごめん、たぶんそいつ、そんな難しいこと考えてないし、むしろそういう音楽活動してる人の目の上の瘤だぞ。

 

 そんな内心を顔にも出さないのは、俺の俳優としての最後のプライドだった。

 

 そんな熱心なファンであるメムがアキの顔を知らないのが不思議だったが、その理由は単純で『露出が少ない』ということらしい。

 

 アキは動画では手元配信ばかりで全く顔を出さないし、唯一存在を認識できるのはライブのみ。

 最近は映画も出ていたが、あの時のアキは『アイドルの仮面』を作っていたので、今のアキとはあまりにも印象が違うのでヒントとしては頼りない。

 

 更にそのライブもチケットが限定されていて、ファンも写真をネットに出すことなく、自分の楽しみとして秘匿されるという。

 ……今時珍しいぐらい民度がいいんだな、アイツのファン。

 

 そこも驚きだが、様々な要因が重なって、メムはスカウトしてきた相手がAKIだと気が付いていないようだった。

 

 

「で、その貴重なライブチケットがどうしたの? ま、まさかそれで脅すつもりじゃ……」

 

「違う。このライブの途中で新生B小町が出るんだよ。だから、スカウトを受ける上で参考にしてほしいと思ってな」

 

 

 最悪はライブを見て心が折れることだが、俺の見立てが正しければメムは食いついてくるはず。

 負ける可能性の低い賭け事は嫌いじゃないので、メムにチケットを押し付けた。

 

 

「それに、ファンなんだろ。タダでライブを見れてラッキーと思ってくれればいい」

 

「そっか。そこまで買ってくれてるのなら、断るのもどうかと思うし……明日は楽しませてもらうね」

 

 

 なんとかチケットを押し付けることに成功した俺は、明日の昼に会う約束をしてからメムを家へと送り、自宅に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side.アクアend

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side.……?

 

 

 

 

 

 

 

 真っ暗な部屋に、液晶画面の光のみが爛々と輝いていた。

 

 照らされた壁には大量の付箋と一人の少年の写真がびっしりと貼られており、対象への執念を感じる。

 そんな部屋の液晶画面に一人、ペンを忙しなく動かしている少女がいた。

 

 

「アイに隠し子……双子なのかな。ライブでバズッた過去のツイート、赤ん坊のオタ芸」

 

 

 少女は一心不乱に付箋に書き込み、壁に貼り付けている。

 コピー用紙に写真を印刷し、画質の荒い写真を壁に貼り付け、再び液晶画面へ。

 

 

「似てる。やっぱり、アイの隠し子の線が濃厚かも」

 

 

 少女は過去のツイートとして残っていた動画の写真と、過去にアイと共に出演していた子役の写真を並べた。

 

 

「でも、それらしい暗さがなかったよね」

 

 

 二枚の写真を壁に貼り付けると、写真によって隠されていた新聞の写しが出てくる。

 アイドルのアイがストーカーに殺された事件。警察が所長夫妻の子供を保護していた話。

 

 

「それから病院で目撃情報があったけど、1年ぐらい前から消えてる。探し物が見つかった? ううん、今の状態を見る感じ、解決したのかな」

 

 

 メモをして、新聞の写しごと壁に貼り付ける。

 

 

「じゃあ、どうしてあの企画に参加したのかな? 復讐の為なら納得できるけど、他の可能性は?」

 

 

 少女はくるりと半回転すると、壁の写真や付箋を一つ一つ眺める。

 少女の視線を引き留めたのは、双子の赤ん坊がオタ芸をしているという、奇妙な写真。

 

 

「──妹。そっか、それであの最後になったんだ」

 

 

 青い目の子と、赤い目の子。

 赤ん坊とは思えない聡明さを感じる四つの目が映った写真を撫でる。

 

 

「どうすれば、助けてくれた彼に恩返しができるのかな?」

 

 

 真似をするだけでは足りなかった。

 

 彼がやりたかったことは何なのだろう。彼が本当に望むものは何だろう。

 

 

「1年前から必死さがなくなった。満たされた? じゃあそれを失くしたいとは思わないよね。なら、本当に望んでいるのは」

 

 

 ぐるぐると思考を回して、考えて、ふと少女の頭に天啓のような何かが降ってくる。

 

 

「アクアくんが望んでるのは、現状維持。誰も傷つかない今を続けること」

 

 

 かちりと何かがハマった気がして、少女は悲しげに眉を下げた。

 もう一度資料を眺めて、間違いがないか頭の中で検証していく。

 

 

「その中に入る方法は──箱を作るしかないかな。鍵は紅玉だね」

 

 

 思考をまとめ、部屋の電気をつけた少女──黒川 あかねは何事もなかったように部屋を片付ける。

 壁に貼り付けられた証拠を丁寧にファイリングすると、部屋を出て行ってしまった。

 

 

 




簡単な解決方法:アクア君が覚悟を決める。
全員選ぶとしても、一人だけ選ぶとしても、彼次第。

でも、失くしてきた人間がやっと取り戻した時、もう一度自分から失くす選択って無理ですよね。人間は現状維持したい生き物だし、アクア君も例外なく動けなくなりそうな気がするんですよね……まぁ、あんまりにも立ち直らないならアキ君が叩き起こすんですけども。

次回は水曜日、B小町2人バージョンの1曲だけのライブです。
MEMちょ、才能に殴られても立ち上がるのよ。ノックアウトされちゃダメ、あなたが3人目のB小町なんだから! って感じかもしれません。

《あきのこばなし》
どうしてアキ君が10話付近にて、アクア君に自分を殺させようとしていたのかというと、《アクア君が動いたこと》によって《母親(アイ)を取り戻した》と思わせる為という理由があります。
じゃないと今みたいに、アクア君は自分で動けなくなってしまう。
1年程度じゃアキ君自身も、アクア君のメンタルケアなんてできないよ! と自分でわかっていたので、最後に命懸けで立ち直らせたかったんですよね。

現在のアキ君はその手段が取れなくなったので、ルビーちゃん達も見守りつつ、アクア君が再び自発的に動けるようにサポートしてます。
今のアクア君はアキ君が煽られなければあかねちゃんを助けに行かないぐらい、動けません。アキ君の介護力が試されてます。
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