と、してますが、アイドルはidleが正しいです。Aではありません。
なのでツッコまないでと初手白旗です……よろしくお願いします。
side.ルビー
忙しなく行き交う人々。怒声のような大声のやり取りや、人が集まったことによって生まれる熱気。
キラキラと輝くステージの裏側は、まるで戦場のように鬼気迫る人達が駆け回り、邪魔でもしたら命を取るぞと言わんばかりのやる気を感じた。
「わー、アキとのライブの時よりこっちの方が人が多いや。すごいな~」
そんな中で、私と有馬先輩は隅っこに与えられた椅子と机を領土にして、出番を今か今かと待っている。
先輩が机に突っ伏したまま動かないので、呑気な声を出してみたけど……反応が全く返ってこないね。
もしかすると、先輩は緊張しているのかもしれない。腕から少し上げた顔が思いつめているように見えた。
あー、これはちょっと拙いかな。私も緊張していないわけではないけど、先輩は思いつめ過ぎだ。
「先輩、どうしよう。私、めちゃくちゃ緊張してきちゃった……」
「さっきまで呑気に笑ってたでしょー」
そう答える先輩は私の方向なんて一ミリも向いてなくて、上の空。
なんてことでしょう。私がそこまで緊張していないのがバレているのか、全く取り合ってくれないね。
こうなったらもう、最終手段を取るしかないかなぁ。
頭の中でボケを考えて、迷惑をかけない程度に大きな声を出す。
「重曹先輩! たったたタワシ、きききキンチョールしてきましたぁぁっ!」
「なんか色々おかしいし、キンチョールとかボケる余裕があるなら、さっきみたいに可愛らしく緊張してるフリでもしてろぉーっ!」
スパコーン、とどこからか取り出した有馬先輩のハリセンが私の頭に炸裂した。
ハリセンは痛くない〜と言うけれど、地味に痛いという微妙なダメージがある。
肩で息をするようにツッコミ切った先輩を傍目に、私はさらにボケを上乗せした。
「さ、流石は先輩。ツッコミ芸人の鏡にしてツッコミ界のエース……私とⅯ1目指して階段を登れる逸材だよ……」
「私とアンタはお笑いコンビじゃなくて、アイドルユニットでしょーが。頭沸いてんじゃないわよ」
はぁ、と深くため息を吐いた先輩の視界に、今度はちゃんと私も映っている。
よかった、緊張は吹き飛んでくれたみたい。体を張って道化になった甲斐があるよ。
「先輩、今回は失敗しても良いって気持ちでいこうよ。最悪の状態になったら、アキが責任持って空中3回転を披露するから」
「アンタねぇ……後輩への無茶振りが酷すぎて、いっそ哀れに感じるわ」
先輩は無茶振りというが、アキは狼人間なので、それぐらいならできちゃうらしい。
下手したらもっとすごいのを披露する可能性もある。
そういう身体能力を見ると、アキが狼だって自称する言葉が冗談じゃないんだなーって思うんだよね。
ゆっくりと上半身を起こした先輩を確認してから、私は改めて先輩の様子を伺う。
「先輩、緊張してない?」
「おかげさまでどこかに吹き飛んだわ」
「よかった。先輩とは初めてのライブだもん、どうせなら楽しみたいよね!」
心の底から思ったことを言ったつもりだったのに、先輩は訝しげな顔をして首を傾げた。
「アンタねぇ。これ、仕事なのよ? そんな気持ちでやってて大丈夫なの?」
「これが仕事っていうのはわかってるよ。でもさ、私達はそれ以前にアイドルだから、誰よりも楽しまなきゃね」
病院にいた時も、家にいた時も。
私が知っていて、見てきた
先なんてなくて、捨てられないようにって思っている中でも、アイドルから夢を貰ったし、ほんの少しの希望ももらった。
裏側は私にはわからないことが多い。知らないことの方がたくさんある。
でも、表側は目を瞑っても再生できるぐらい、見てきた。
裏は秘密でいっぱいだ。
でも、
「お客さんの前で夢みたいなステージを作るのがアイドルなのに、本人が楽しんでなきゃお客さんも楽しめないでしょ。それともあれかな、有馬先輩は私より先輩なのに、ステージに立つのが怖いの?」
ニヤリと態とらしく煽れば、先輩はすぐに乗ってくれる。
「はぁ!? 怖くなんてないわよ。こちとら17年も人様に見られてきたのよ、今更ビビってなんかないし!」
「うん、私も楽しみにしてる。先輩と一緒にステージでキラキラして、B小町一色に塗り替えるんだ〜」
「……はぁ、そう。アンタのそういう能天気そうなところ、羨ましいわ」
気怠げにため息を溢す先輩はゆっくりと立ち上がって、伸びをした。
まだ焚き付け足りない状態みたいだけど、私ではお兄ちゃんのように爆発的な燃焼を与えることはできない。
でも、私は先輩が『輝いているところ』をどうしても見たかった。
第一印象はあまり良くなかったけれど、過去の先輩が演技している時の輝きはアイドルらしいモノだと思った。
芸能界で生き残りたいとやってきた活動や努力は、私には精一杯羽ばたいてやると抗っているように見えた。
そう思ったからこそ私は、そんな輝きを再び取り戻した先輩に真正面から打ち勝ちたい。
──ママと一緒に奏でたバンドのライブの日から、私はどうしようもなく『光』に魅了されているんだ。
アイドルじゃなくても、アキの体でも、どうしようもなく輝いているママの隣に立って、キラキラしているステージを見て。
あの時の輝きが、目に焼き付いて離れない。
私はあの日から今もずっと夢を見ている。今度はママがいなくても一人のアイドルとして、あの時の輝きを求めている。
「B小町の皆さん、そろそろ出番なので準備お願いしまーす」
「はーい! 先輩、行こっ」
「はいはい……ま、頑張りたいって気持ちは伝わったわよ。私もやれるだけやってあげるわ」
「……うん!」
ふふ、と笑いながら前を向く先輩に、私は大袈裟に頷いた。
私はママみたいに輝きたい。
ママが嘘だって言っていても、光を届けていたのは本当だった。少なくとも、私にとってママの嘘は本当の光だった。
だから、先輩にも私の想いが届くといいな。
だって、そっちの方がきっと楽しいと思うし、先輩にもアイドルに光を見出してほしいから。
よーし──今の私の全力を、先輩や観客の人達に光を届けに行くぞー!
side.ルビーend
☆★☆
side.メム
アクたんに手渡されたチケットを元にライブ先を調べた私は、人の多い道を掻き分けて歩く。
目的地は大きなものと比べたら物足りないが、小さな箱と比べたら十分大きいライブハウス。
AKIが普段拠点にしているという《AI☆land》とはまた別の場所だが、確かこっちの方が知名度が高いので、こっちでライブをするのは納得だ。
何よりも今回のライブはB小町とか以前に、ゲームの案件ライブみたいだし。
「あ、アクたーん」
ライブ場所に到着すると、金髪の頭が見えた。
顔面偏差値がその周辺だけ急激に引き上げられている場所にいるのは予想通り、待ち合わせの人物で。
私の声に気がついた彼──
「約束通り、来てくれたのか」
「そりゃあもう。来ない方が勿体無いからね〜」
いつも通り、明るく笑えているのか。今日ばかりは自信がない。
一度断った手前、誘いを受けるのは図々しいのではないか、と頭の冷静な部分が告げてくる。
最近は40歳アイドルなんて存在もいるらしいけど、私は一般的なアイドルの旬を過ぎているから。
だからせめて、このライブで改めて芽生えちゃった夢にお別れを告げたいなぁと、そんな下心でアクたんの誘いに乗ったのだ。
今日もいつも通り笑えていると信じて、私は目の前の少年に声をかける。
「でも、アクたん、本当にライブの途中での入場で良かったの?」
「前半はゲームの説明やら声優のトークだからな。アキやB小町は後半からで良いんだよ」
苺プロに回ってきた仕事だからか、アクたんはかなり内部事情に精通しているようだった。
最低限の確認をしてから、ライブ会場へ。
廊下からでも伝わってくる熱気に背筋から痺れるような感覚に陥るが、それも一瞬の事。
扉を開いた瞬間に晒された音の暴力に、私の思考は何もかも吹き飛ばされてしまった。
「なに、これ……すっご」
ライブに行くなんて初めてでもないのに、つま先から頭まで電気を流されたような音の暴力が鼓膜に叩きつけられる。
耳だけでも幸せになりすぎて辛いのに、視覚も『目の健康に良い』と頭の悪いことを言いそうなぐらいの輝きがそこにあった。
「あれ、もしかして……あの時の女の子?」
と、呟いてから、自分がおかしな話をしているのに思い至った。
だって、今ライブしているのは時間的にAKIであって、動画の話が正しければ彼は男で。
でも、目の前にいるのはあかねちゃんみたいに演技で似せてきたものではなくて、映像から飛び出してきたと思うぐらいアイドルのアイそっくりの女顔。
昔見た映像よりも更に強く、洗練された輝きを身に纏い、その目に、光に、吸い込まれそうになる。
あぁ、これは確かに、ファンが独占したくなるわけだ。
あの輝きを余すことなく受け取って、他人に寄越したいなんて思えないぐらい、頭を焦がされる。
「おい、大丈夫か?」
アクたんに肩を掴まれて、私はフワフワ浮いているような夢から現実へと引き戻された。
「あ、れ」
気がついたら、AKIの出番が終わっていた。
ステージには司会役を受け持った声優さんがお話ししており、会話の内容的に前半の人から入れ替わったらしい。
「B小町はこの後なんだが、いけそうか?」
体調が悪いなら帰った方がいい、と暗に込められた台詞に、私は慌てて首を横に振る。
いつも通りのすまし顔をしたアクたんのおかげで、冷静さが戻ってきた。
──AKIのライブには気をつけろ。あれは何もかも焼き尽くす強い光を、防御もできずに受けに行くようなものだから。
まことしやかに囁かれていた荒唐無稽な話がまさか、本当だったなんて。もう少し覚悟してきたらよかったかも。
「それよりも……アクたん、もしかしてAKIの事、知ってたの?」
「ああ。同じ事務所だし、俺はあいつのことを友人みたいに思っている」
アクたんの言葉とAKIの外見ですぐに納得した。
私みたいなのじゃなければ、AKIはアクたんに近い年齢だもんね。
どこまで仲の良い関係なのは不明だが、友達だって言われてもおかしくはない。
「アクたんが友達ということは、やっぱりAKIってあの見た目で男の子なの?」
「ああ、数多の女の自信を粉砕したりしてきた猛者だ」
あー、わかる。遠目から見てもわかるぐらいかわいいもん。近くで見てたら心が折られるのを通り越して粉砕ぐらいされるよね。
あれ。ということは、苺プロ所属のアイドルになれたら、私も粉砕されるのかな? 何それ、こわぁい……
変な想像をして冷や汗を流している間にも時間は進み、二人の少女の背中を見ながら、司会の声優さんが次の紹介を始める。
『次に登場してもらうのは午前の司会としてもエステレラゲーム内にも登場しているB小町の二人だ~っ』
『フィーカ役の星野ルビーさんとレンシュ役の有馬かなさんはアイドルですからね。どんな歌になるのか気になりますね』
『期待も高まったところで参りましょう。B小町で《Star Gazer》です』
流れてきたのは動画編集の時も好きだなって思った、AKIらしさを感じられる伴奏。
ステージに更に光が重ねられる。赤と白の光が三方向から二人少女を照らすと、彼女達は同時に振り返った。
『~♪』
金髪の子、アクたんの妹だというルビーちゃんは心底楽しいんだと言わんばかりの笑みを浮かべて歌い始める。
それに続くのは赤毛の子、子役からアイドルへと転身したかなちゃんで、緊張しているのか少し顔が硬い。
大丈夫なのかな、と心配に思ったものの、ルビーちゃんが硬い表情のかなちゃんの心をパフォーマンスで引っ張り上げてしまった。
次第に笑顔が増えて、歌声にもそれが乗る。
ほんの僅かに光出すかなちゃんに対して、まだまだいけるだろと言わんばかりにルビーちゃんの輝きが増した。
ああ、これは喧嘩だ。
弟達が仲良く喧嘩しているのを見ているのと同じ気分だ。
競い合うようにパフォーマンスのキレが良くなり、歌の表現の幅が広がり、目が惹かれてしまう。
──でも、アイドルユニットとしては何か違う。
常時フレンドリーファイアしているというか、左と右の数字が上手く足し算も掛け算もできなくて、ぶつかり合っているような激しさ。
太陽のような光を放つ朝と、星のように光り輝く夜が混じり合うのは難しいのだろう。
今の
でも、そんな存在に私がなれるのか?
「なれるのか、じゃなくて……なりたいんだよね、私は」
この胸の高鳴りは、AKIの出演時よりもドキドキと煩い心臓は、強い光を放つ二人に負けそうになりながらも『挑みたい』と叫んでいる。
やってみなくちゃわからないと、夢を叶えられるチケットがあるなら掴めと訴えている。
「ねぇ、アクたん」
「気、変わったのか?」
ステージから目を離さずに問いかけてくるアクたんに、私は頷き返した。
「うん、私、許されるならB小町に、あの子たちと一緒に、輝きたい」
あの子達より明らかに年上で、そんな年齢じゃないってこともわかっているんだけどさ。
二人が良いって言ってくれるなら、一緒に夢見て、輝きたいって思っちゃったんだ。
この後、MEMちょは原作通り年齢の件を弄られました。
この話ではわざとルビーちゃん呼びさせてますが、次回からはメムちゃんの呼び方はルビーちゃんから原作のルビー呼びに変えます。
《あきのこばなし》
狼人間や音楽要素を抜いて得意なことって何? と聞かれると、【タイピングとか、フリック入力です】という返事が必ず返ってきます。
日頃の成果の見せ所ですからね。(ヒント:合成音声)