特別な彼女の引き立て役Aです   作:大森依織

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Aにも満たない編集スキル

 

side.アキ

 

 

 動画配信者にしてインフルエンサーのMEMちょさんこと、メムさんがアクアさんのスカウトによって、B小町に合流した。

 

 それはとてもめでたいことだし、ルビーさんの『3人ぐらいいてくれた方がいいかも』という希望も叶ったので、悪い所なんてない、と言いたいのだが。

 

 

「うーん、この、音楽だけでゴリ押したというか、どうにかしようとした感じ。控えめに言ってもセンスのない酷い動画だね」

 

 

 動画配信者としてのメムさんから、B小町公式アカウントの評価をしてもらったのだが──出るわ出るわの反省の嵐。

 

 使ってる音源やタイミング、音量は文句なし。そこは他の動画配信者も参考になるレベル。

 ただし、動画の配分や動き、編集が『動画編集そのものができる初心者』みたいだと言われた。

 

 これでも、多分メムさんより長いこと動画配信してるんだけど、この評価って。

 

 

【グハッ……】

 

「アキーッ!? 傷はまだ浅いよっ」

 

 

 オーバーキルを受けたボクはパタリと倒れた。

 そこを見逃さず駆け寄ってきたのはルビーさんだ。

 

 

「え、ちょっ。急に倒れて大丈夫なの!?」

 

「あー、平気よ。いつものことだもの」

 

 

 寸劇初見のメムさんはかなり動揺していたが、有馬さんの答えに安心したらしく、冷静さを取り戻す。

 

 寸劇って言われても、ダメージを受けたのは本当である。

 いくら編集作業を丸投げしてたからって、初心者扱いは流石に堪えてしまった。

 

 

「自己紹介動画は外注してるからそのままでいいとして、他の動画は方向転換しよう。そこと今ガチの人気、後は私のチャンネルにも導線を作れば1万は固いはずだし」

 

【はい、お任せします……】

 

 

 ふふふ、ボクは音楽だけのポンコツ狼なんだ。

 8年配信してきたのに、初心者マークが外れない配信者なんだ、ははは。

 

 

「ほら、アキ、精神崩壊寸前になってないで今後の打ち合わせしなきゃ」

 

【そうですね。そろそろ立ち直りましょうか】

 

 

 ルビーさんに指摘されたので、マイナス思考タイムは終了だ。

 床に倒れていた体を起こして、改めてメムさんの方へと向く。

 

 

「じゃあ、他の未投稿動画は順次編集し直して投稿するからね?」

 

【よろしくお願いします。ボクにセンスがないのはわかったので、動画編集はもうしません。メムさんにお任せします】

 

「待って。もしかしてこの動画作ってるの、アキさん?」

 

 

 メムさんはギギギとブリキ人形かのように、首をルビーさん達へと向ける。

 

 

「うん、私達編集とかできないし、他の人達は忙しそうだし」

 

「ルビーちゃん、それ、マジかな?」

 

「うん、マジだよ」

 

「スゥーッ」

 

 

 ルビーさんの返事を聞いたら、メムさんが息をわざとらしく吸う。

 良かったはずの顔色が血を吸われたかのように真っ白になっていた。

 

 

「ごめんねアキさん、私が知らないばっかりに」

 

【いえ、大丈夫ですよ。素直な評価はありがたいですから。後、ボクの方が年下なので『さん呼び』じゃなくていいです】

 

「あ! じゃあ私もルビーちゃんじゃなくて呼び捨てで。同じユニットの仲間にちゃんって呼ばれるの、ムズムズするし!」

 

「え、うん。二人がそういうならアキ君とルビーって呼ぶことにするね」

 

 

 メムさんは戸惑いがちでありながらも、了承の意を込めて頷く。

 呼び方を変えるついでに意識も逸れたらしい。

 あのゴミと称された動画を誰が作ったかなんて、気にしなくていいのだ。記憶ごと動画を消去してください。

 

 

「ちなみに、PVとか作る予定はないの? もしくはこの前のライブとか」

 

【ライブの方はすぐにでも載せることはできますけど……載せない方向なんです】

 

「えぇー、勿体無い。なんで配信しないの?」

 

【ルビーさんの意向ですよ。3人揃ってないから、メムさんが来た今、嫌なんですって】

 

 

 素直にルビーさんが言っていたことを音声で流せば、メムさんの瞳が涙で潤む。

 光の反射できらりと輝いた瞳を瞬かせ、メムさんはルビーさんに向かって走った。

 

 

「ルビーッ」

 

「MEMちょっ」

 

 

 ひしっ、とメムさんとルビーさんは抱き合う。

 うん。仲良いね、波長が合うのかな。

 

 まるで長年の付き合いだと言わんばかりに馴染んでいるメムさんは、ルビーさんを抱きしめたまま顔を上げる。

 

 

「でも、やっぱり戦略的にも登録者数を増やせる何かが欲しいんだよね。アキ君は楽曲作らないの?」

 

【記念すべき1曲目は特別なものにしたいとのことで、社長から止められてます。2曲目以降はどんどん出せるんですけどね】

 

 

 はい、ボクは特別でも何でもないそうです。

 天才とか他人に言われてても所詮はお世辞、悲しいね。

 

 そうやって悲しんでるところに、メムさんから離れたルビーさんが追い打ちをかけてきた。

 

 

「あぁ、自称狼のアキがしょんぼりチワワに……」

 

【兄妹揃ってチワワと言うの、やめません?】

 

 

 ボクは歴とした狼人間なんですけど。小型犬じゃないんですけど!

 

 

 そして、アイさん。

 誰にも見えないことを利用して、ボクの隣でキツネ(オオカミ)サイン作りながら『わんわん』って言うの、やめてください。

 

 聡明さんがよくやってたサインでそういうことすると、こっちも仕返しとか何か考えますよ?

 

 

「仲が良いのは結構だけど、結局、何するつもりなの? ま、楽曲ができるまで何もできないでしょうけど」

 

 

 ボクらがバカをやっている間に、有馬さんが軌道修正を試みた。

 

 

「甘いよかなちゃん、B小町にはB小町の曲があるってこと、忘れてないよね?」

 

 

 それに乗ったメムさんが有馬さんが望んでいない方向へと舵を取り始める。

 

 

「あっ、そっか! 昔の曲を使ってもいいんだっ」

 

「そそそ。更に、アキ君の曲も過去のものなら使っても怒らないと思うよ〜」

 

 

 ちらりとこちらを見てくるので、ボクも頷く。

 

 

【そうですね、権利とか相手じゃなくてボクにある曲はいくらでも。希望があればアレンジもしますし】

 

「やば〜、MEMちょ天才じゃん!」

 

 

 盛り上がったルビーさんとメムさんが「いぇ〜い」と両手を合わせている。

 その後ろでは有馬さんが隠れて舌打ちをしていたが、見ないフリをしておこう。

 

 

「とはいえ、『今ガチ』効果があるうちに導線を繋ぎたいからね〜。今日から暫くは動画の方に集中するよ。カップル不成立でも7千ぐらいは増えると思うし」

 

「そっか、じゃあ私達はどうしよう。せんぱーい、良かったらB小町の全曲、踊るー?」

 

「うげぇ、全部って何十曲あるのよ……」

 

 

 メムさんが動画編集、ルビーさんと有馬さんが練習へと役割分担が決まったようだが、なんだか無謀なことをしようとしている。

 

 

【はーい、ステイでーす。ルビーさん、流石に無茶苦茶言ってるので絞りますよー】

 

 

 棚にしまっていたB小町の楽曲を全部引っ張ってきたルビーさんから荷物を奪い取り、仕分けていく。

 

 うん、流石に古いから今も通用しそうな曲は絞ることができそうだ。

 

 

【この五曲を練習しましょ】

 

「えぇ〜、急に絞られすぎだよぉ」

 

 

 ルビーさんが口を尖らせるのと対照的に、有馬さんが静かに息を吐いた。

 

 そりゃあそうか。いくらやる気が出たって、有馬さんはアイドルオタクでもなんでもない。

 飛び抜けて好きでもないものを頑張るのは、中々の苦痛だろう。

 

 二人の妥協点を探らなければ、こういうところから亀裂はできてくるのである。それは流石に見逃せない。

 

 

【選択と集中って奴ですよ。今やっても人気出そうな曲を選んでるんです】

 

「そういうの、ハイリスク・ハイリターンがデメリットだって言ってなかった?」

 

【それでも音楽という分野においてはローリスク・ローリターンにできるぐらいには自信あるんですけど?】

 

「本当に?」

 

【そもそも、今の流行りに合わない練習しても喜ぶのは初代小町のファンだけですよ。ボクらのターゲットは新規のファンでしょう。懐古は不要です】

 

 

 シャーデンフロイデを知らないルビーさんに言い返されるとは思ってなかったので、びっくりしてしまった。

 いや、これだとルビーさんをバカにしてるみたいか。ごめんなさい。

 

 ただ、経営者でも何でもない高校生が知ってるとは思っていなかっただけなのだ*1

 

 

【とにかく、今はこの五曲をマスターしてください。話はそれからですよ】

 

「うぅ、わかったよ。行こう、先輩」

 

「はいはい、わかったわよー……助かったわ、ありがとね」

 

 

 少々不満そうなルビーさんに続いて、小声でお礼を言ってくれた有馬さんも部屋を出ていく。

 

 部屋に残ったのはメムさんとボクだけだ。

 

 

「アキ君は行かないの?」

 

【熱心なファンがいるので、そちらに任せようかなと。それに、B小町の動画を一人に任せるのは負担が大きいでしょ?】

 

「いいの? 正直に言うと助かるなぁ」

 

 

 どこかホッとした顔を見せるメムさんに向かって、右手を上げて宣言する。

 

 

【ふふふ。初心者程度の実力ですけど、頑張りますよ】

 

「よろしくね」

 

 

 それに乗ってくれたメムさんは笑いながら右手を上げてくれたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side.アキend

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side.メム

 

 

 

 

 

 どうやらアキ君は作ったことがないから勝手を知らないだけで、センスそのものは溢れているらしい。

 それもそうか。現在の音楽において天才は誰か、と聞かれた時に『AKIだ』と答える人が一定数いるような子だもの。センスがない方がおかしいだろう。

 

 そんなことを考えていると、動画の編集ができたのか、アキ君が画面を見せてくる。

 

 

【メムさん、こんな感じでどうですかね?】

 

「うんうん。エフェクトもいいし、音のタイミングとかセンスは私が教えて欲しいぐらいだね」

 

 

 教えたら自分の中に落とし込んで、すぐにアウトプットする姿は、あのとんでもない動画を作った人物と同じだとは思えない。

 

 彼がどうして素人っぽい動画を作ったのかと考えたけど……多分、今までは動画編集スキルなんてそこまで必要だと思わなかったんだろうな。

 

 AKIの動画は最初の方はほぼ真っ黒か、それっぽいイラスト1枚に歌詞を載せてるだけだった。

 改善されたと思ったら外注していたみたいだし、そんな調子じゃ編集スキルなんて殆ど上がらないだろう。

 

 彼は自分の『音楽』だけで登録者を獲得してきた猛者。

 私達、普通の動画配信者のように、動画というフィールドで様々な小手先を使って閲覧数を稼ぐ間に、1本の刃のみで生き残った。

 

 普通なら折れるところを真っ直ぐ貫いてしまったせいで、こんなアンバランスな存在を生み出したと。

 すごいと思えばいいのか、もっと楽できたのにと哀れめばいいのか。とにかく、とんでもないことをして生き抜いてきたことだけはわかる。

 

 

「いやぁ、でも本当にちょっと教えるだけでモノにしちゃいそうだね」

 

【いえ、メムさんが手取り足取り教えてくれてるから、辛うじて見えてるだけですよ。まだまだ足りません】

 

 

 そう音声を流しつつも、アキ君の視線は動画画面に釘付けだ。

 別にB小町の為に動いてもアキ君にメリットなんて一つもなさそうなのに、彼は真剣に動画を作っている。

 

 わざとじゃないけど、自分が一生懸命に作ったであろう動画を貶した相手に、素直に教えを乞うて実行するなんて普通ならばできることではない。

 

 こういう凄いことができる子だからこそ、天才と呼ばれるのかもしれないね。

 そういうところが眩しく見えて、私は思わず目を細めた。

 

 

「ねぇ、アキ君。これから動画のこととかで連絡したいから、連絡先を教えてくれない?」

 

【連絡先って、ラインでいいですか?】

 

「ラインも欲しいんだけど、ディスコードもやってる?」

 

 

 ラインの友達招待をしつつ問いかけると、アキ君はあぁ、と頷いた。

 

 

【やってますよ。動画配信者ってディスコード使ってること、多いみたいですし】

 

「それは偏見じゃないかなぁ……」

 

 

 と、口に出してみたものの、私もディスコードのことを聞いたので、強ち間違いではないのかもしれない。

 

 でもディスコードのVC(ボイスチャット)が便利なのがいけないんだ。

 待ち合わせ時間を決めて、ぬるって始められるし、しれっと抜けても罪悪感がない。

 

 ライン電話よりも気楽なんだよね。

 約束してなくても、ふとした時にVC(ボイチャ)に入ってたら、相手も合流することもあるし。

 

 

【ふむ。あんまり使わないんですけど、これでボクのこと、探せますか?】

 

「うんうん、大丈夫! フレンドに追加したし、早速サーバーに招待するねー」

 

 

 ぱっと作ったサーバーに案内すると、顔にタトゥーのような模様が入った黒色の狼の編みぐるみの写真をアイコンにしたアカウントが入ってくる。

 

 私のアカウントは『MEMちょ』で、アキ君のアカウント名は『ウルフボーイ』だった。

 ウルフボーイ……オオカミ少年か。アキ君、本当に狼好きだね。

 

 

「これで家でも教えることはある程度できると思うし、動画編集、頑張ろっか」

 

【はい、ご指導ご鞭撻の程、宜しくお願い致します】

 

「そんなに固くなられても困るよ〜」

 

 

 ──この時の私は小町の裏方であるアキ君と連絡が取れた方が便利だろうと言い訳しながら、ほんの少しの下心で提案したつもりだったんだ。

 ほら、若き天才と繋がるって、アイドルとか以前に利点があるからね。人脈って大事だもん。

 

 若くて可愛らしい、夢も希望も欲しいままにできる才能ある存在と、挫折して大人になっても夢を諦めきれなくて、少ない手札で対抗しようとする私。

 

 そんな私と君が、動画とか活動以外にも連絡を取り合う関係になっていくとは、夢にも思っていなかったんだよねー……

 

 

*1
斯く言う自分も中学生なのを棚に上げている




いつかはディスコードのやり取りだけの話とかやってみたい今日この頃。

《あきのこばなし》
アクたん呼びの中、どうしてアキはアキ君なの? と聞いたら、MEMちょは苦笑しながら「戒めだよ」と答えてくれます。
アキたんと呼んだら自分の中で彼が女が男か混乱しそうなので『この子は男の子なんだ』と言い聞かせるために、アキ君と呼ぶことにしたんだとか。
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