30話いく前に解決させたいなー……と思う所存です。
side.アキ
B小町の動画登録者数もメムさんの狙い通り、1万人を超えた。
今まではアイドルユニットの一人であるにも関わらず、動画をメインにしてもらっていたメムさん。
間でボイトレとかできることは見ていたものの、ようやく練習に合流してもらえそうだ。
そうやって安心している中で、ボク達はメムさんからとんでもない話を持って来られていた。
「「ジャパンアイドルフェス!?」」
ルビーさんは子供のように目を輝かせて。
有馬さんはまたとんでもない話が出たぞと驚きで顔を染めながら、声を揃えて言った。
話を聞いている二人はそれぞれ態度が違うものの、声が大きくなるぐらいの衝撃を受けているのに、メムさんはスマホを見ながら平然な顔だ。
「そそそ、『今ガチ』でお世話になったプロデューサーにコネがあって、興味があるなら捩じ込んでくれるって〜」
メムさんは何故かボクの方を見ながらそう言ってくるので、意見の一つぐらいは出しておいた方がいいかな。
【芸能界は『貸し借りの世界』とも言いますからねぇ。恐らくB小町を有望な投資対象として、目をつけたのかと】
「投資って、アキみたいな感じ?」
「こいつのはギャンブルでしょ」
プロデューサーの裏の意図を予測して言っただけなのに、何故かルビーさんの言葉に突っかかるように有馬さんがボクを貶してくる。
……いや、間違いとは言い切れないか。
ボクがやってることって、ある意味個別株に1本集中投資。所謂、
実際はただ、お手伝いをしているだけなのだけど。
「参加するなら
メムさんの問いかけに対し、やはり二人の反応は正反対だった。
「無理無理! 準備できてないし、私達みたいな新参者が──」
「無理って言葉の方が無理! というわけでやろやろ〜!」
有馬さんのマイナス言葉を押し除けて、ルビーさんは両手を広げる。
「JIFに新生B小町が出れるなんて凄いことだもん。3人揃って初ライブがそんな大きなステージなんて、ワクワクするよね!」
「呑気に言ってるけど、コネなんて確実に周りの心証が良くないわよ?」
「こっちはただの新参じゃなくて伝説的アイドルグループ『B小町』の後継者なんだから、大丈夫だよ!」
「それ、アンタの自称でしょうが。そこの自称狼と同レベルよ」
有馬さんがやれやれ、と肩をすくめる。
いや、有馬さんの理屈だとルビーさんの言っている内容が《B小町の後継者(真)》になるけど、わかっているのだろうか?
あっ……そうだ、ボクってルビーさん達双子やアイさん以外にはただの狼好きのイタイ奴だった。
すっかり忘れていた事実に額へと手をのせていると、メムさんが人差し指を立てて有馬さんに物申していた。
「実際の所、やらない手はないと思うよぉ? 他のグループなら喉から手が出るぐらい欲しいチャンス、自分から棒に振るなんて、何の為に活動してるのって話じゃん?」
「……それは、そうね」
認めつつも嫌そうな有馬さんは視線を逸らす。
それに追従するようにルビーさんとメムさんが視界に入りにきた。
右、左とズラしてもついてくる二人に根を上げたのか、有馬さんは観念するように叫んだ。
「あぁもう! わかったわよ! 仕事なんだし、やるって言うならやるわよ。だから、逸らしてる視界に合わせて入ってくんな!」
「やったー」
「ルビーと私の勝ち〜」
有馬さんVSルビーさん&メムさん連合との勝負は連合の勝利だった。
しかし、その連合の命はかなり儚く、脆いものである。
「じゃあ、そろそろB小町のセンターを誰にするか決めよっかぁ」
メムさんの何気ない言葉で、バチっと電気が走ったような緊張感が部屋を支配した。
《アイドルのセンター》
それはアイドルの花形であり、歌って踊れて可愛い子が立つグループの顔なんだ! と熱弁していたのはルビーさんだったか。
一番大事なポジションであり、ルビーさん的にも思い入れのある場所。
今のB小町で興味ないのは有馬さんだけなぐらい、皆が欲しがる花だ。
だからなのだろう。いつもならば本番ぐらいにしか光らないルビーさんの両目の星がギラギラ輝き始めた。
ここがバトル漫画ならば、気迫だけで周囲のモブがバタバタと倒れてしまうであろうオーラを放ち、ルビーさんは笑った。
「ふふ、別に手を上げるつもりはないんだけど……皆がどうしてもって言うなら、やってもいいんだけどなー」
──うわぁ、滅茶苦茶やりたそうなんだけど、この子。
この時、この瞬間だけ、ここにいる3人の心の声は一言一句違わず一緒になった。
一応周囲に気を遣って自分がやる、と言わない理性は残っているらしいが、もう体全体で『私がやるんだよ』と訴えてきている。
というか、やるから賛成しろ、と命令しているようにも聞こえて、誰も反対しそうにない空気を醸し出す。
「や、やっぱり年の功も必要じゃない? 私の人生経験でグループを1つにできる、かも……」
──が! ここで挑戦者が現れた!
勇者メムは魔王と化したルビーへと声が震えながら挑んでいるが、中々無謀そうだ。
第三勢力である有馬さんは『こいつ、無茶しやがって』と言わんばかりの顔で、メムさんに憐れみの目を向けている。
ボクも自覚してないだけで、メムさんに有馬さんと同じような目をしているのかもしれない。
というか、今も震えてるし、撤退するべきなんじゃなかろうか。
そういう気持ちも込めてメムさんを見ると、彼女は深く頷きながら口を開く。
「あぁでも、メディア慣れしてて、『ピーマン体操』でオリコン一位を取った経験豊富なかなちゃんもいたっけ」
ここで勇者メムは第三勢力を巻き込みに行ったァ──ッ!
ボクの訴えは全く届いていなかったらしい。それどころか、泥沼を広げて巻き込みに行ってしまった。
まさか巻き込まれると思っていなかった有馬かな、顔面蒼白。
センターになるつもりもないのに、何故か三つ巴にさせられているのだから、本人にしたらたまったものではない。
そんな蚊帳の外で見学していたボクと、有馬さんと目が合う。
目と目が合う……その瞬間に感じる嫌な予感。
笑っていないはずなのに、有馬さんはにっこりと、何かを企むような笑みを浮かべた気がして。
ボクはクラウチングスタートで有馬さんの口を塞ごうと動いたが、有馬さんはそれを予想していたのか、ひらりと避けた。
「私はどちらかというと、ライブの時のアキの方がセンターに相応しいと思うけど?」
くぅ、相手を傷つけないようにと手加減したのが裏目に出てしまった。
大魔王に進化したルビーさんが全く笑っていない目をこちらに向けてくる。
『そりゃあ私の方がセンターに相応しいのは当然かもねぇ。まだまだルビーには負けないし〜』
待って待って待ってくださいアイさん、ここで参戦しないでください、お願いします!
見えてないからと油断して下手なことを言ったら、絶対に良くないことが起きますから!
「アキはそんなふざけたこと、言わないよね?」
ひぃぃ、ほらぁ。貫通しちゃいましたよ、ルビーさんのセンサーに引っ掛かっちゃいましたよぉ!
ルビーさんの顔は笑顔なのに手は大きく開かれていて、震えてしまうぐらい怖い。なのに顔が良い。
頭が混乱しているのか、バカなことを考えていると、ボクの視界を見覚えのあるライトターコイズの布が塞いだ。
「ごめんごめん、冗談だって〜。そんなに怒んないでよ。ルビーがそんなにやりたいなら任せるからさ」
申し訳なさそうにライトターコイズの主は謝罪しつつ、巻き込んだ相手にもお伺いを立てる。
「あ、でも、かなちゃんもセンターやりたいってことはない? 大丈夫?」
「いや、私は最初からやるつもりなかったし……やりたい奴がやれば良いと思うわ」
ライトターコイズ色の布の正体はメムさんが着ていたワンピースだった。
こちらと有馬さんの方をチラリと見たメムさんは、申し訳なさそうにごめんねーっと小声で謝る。
ちょっと茶化すつもりが、ここまで被害が広がるとは思っていなかったらしい。
メムさんもできればなりたいけど、ルビーさんほどセンターに執着していないようで、本当に申し訳ないと声に出さずにジェスチャーで示していた。
「……あ、ごめん。私、暴走してた」
「別にいいよぉ、私が大人げなかったし、センターになりたいって気持ち、わかるもん」
ルビーさんの右目から星が消える。
どうやら冷静さを取り戻したらしい。わたわたとその場で慌て始めたルビーさんは、勢いよく頭を下げた。
「本当にごめんなさい! 最近、ちょっとムカつくことがあって……皆には関係ないのに、当たっちゃってごめん」
『そういえばルビー、最近アクアに避けられてるみたいなんだよね。露骨だし唐突だしで、ルビーも気が立ってたのかも』
ルビーさんの謝罪に合わせるように、アイさんが補足してくれる。
アイさんの話も含めて考えると、ルビーさんのアクアさん攻略作戦は全く上手く行ってないと。
そして、そんな状態でアイドルのセンターも取れなければ、『恋愛』も『夢』も上手くいかないかも、と思えば暴走してしまった……と。
……って、どうしてアクアさんはルビーさんを避けてるんです?
『恋愛大作戦を自分の手で台無しにしたからだと思うけど。中途半端に動いて、中途半端に止まっちゃったからどうしたら良いのか、アクアもわかんなくなってるんだろうね』
あぁ、思い止まった結果、避ける以外の手段を思いつかなくなったと。
何やってるんだろうか、あの人。そう呆れていると、扉が開く。
「貴方達、JIFのことで話し合いは終わったの?」
入ってきたのはミヤコ社長だった。この時間に入ってるのは珍しいが、どうやら要件があってきたようだ。
ボクらに話す前にメムさんがミヤコ社長に話を通していたらしく、JIFのことを既に知っているような口振りである。
ボクが答えた方がいいのだろうか。少しだけ戸惑っていると、メムさんがピシッと右手を挙げて答えてくれた。
「はーい、ちょうどルビーがセンターやるって決まりましたー」
「そう、良かったわ。ステージまでもう日数もないし、これから追い込みをかけなきゃいけないもの。ダラダラしてる暇なんてないわよ」
両腕を組んだミヤコ社長はいつもと変わらぬ様子でぐるりと三人を見てから告げた。
「今回はダンス方面でサポートしてくれる子を捕まえておいたわ。存分にこき使ってあげてね」
「サポートしてくれる子?」
ルビーさんが首を傾げている間に、ミヤコ社長は開いた扉に向かって手招きする。
有馬さんが期待するような顔で「もしかしたらアクア?」と呟く間に、目的の人物は現れた。
「ヤァ」
変な声と共に現れたのはひよこの覆面をつけた青ジャージの男だった。
「って、アンタかい!」
「えぇっ、ぴえヨンさん!?」
有馬さんとメムさんがそれぞれ大きな声でリアクションし、ルビーさんも控えめに「……お久しぶりです」と頭を下げている。
「あれ、本物だよね?」
「あんな奇天烈な格好をしてるの、そいつしかいないでしょ! ウチの稼ぎ頭なら頼むから普通に働いてよね!」
メムさんと有馬さんが大盛り上がりで話している中、ルビーさんは一瞬だけ目を伏せる。
しかし、盛り上がる二人を見てすぐに笑みを浮かべ、勤めて明るい調子で混ざりに行った。
「そういえばぴえヨンさん
「そうそう! アイドルの振付師の仕事もやってたって動画で言ってたよ〜」
「へぇ、そうなんだ。ちなみに、
ルビーさんはにっこりと微笑んだまま、ひよこの覆面男子に問いかける。
「まぁ、君達レベルならステージに立ってもいいけど……マジのクオリティを求めるなら、もっと追求しなきゃね」
それに高めの声で答える彼は、ぴえヨンさんをよく研究しているのか、なかなかそっくりだった。
──そう、ルビーさんも気づいているように、彼は本物のぴえヨンさんの中の男性ではない。
その正体はアクアさんであり、ルビーさんから全力で逃げていると噂のお兄さんである。
ボクは彼の匂いからすぐにわかったのだが、ルビーさんは好きな人レーダーでも出ているのか、一目で見破ったようだ。
匂いの情報から、心配しているからここに来たアクアさんだが、ルビーさんのことを避けているのは本当のようで。
それすらも察してしまったからこそ、ルビーさんはほんの一瞬だけ、寂しそうな顔をしたのだろう。
ほぼ部外者であるボクが蚊帳の外で見学していると、静観していたアイさんが隣に来て話し出す。
『……うーん、我が子ながら、複雑だね』
そりゃあもう、アイさんが複雑代表ですからね。我が子も複雑になるでしょうよ。
『親的にも似なくていいんじゃないかなーって思うところは、色々とあるんだよ? 名前間違えちゃうところとか』
確かに名前を間違えてしまう所は、似たら困るかもしれませんね。
そんな話をしながら、ボクとアイさんはぴえヨンマスクをしたアクアさんの方へと視線を向ける。
こちらの視線に気がついたアクアさんがメッセージアプリで『喋ったら処す』と送ってきたので、ボクは黙るしかできない。
【……それじゃ、ボクは退散しますねー】
覆面越しでも感じる突き刺すような視線に耐えきれず、ボクは事務所の外に出る。
はぁ、とため息をつくと、目の前に仲の良さそうな親子が通り過ぎた。
どこにでもいる金髪の親子なのに、何故かその時だけは目が惹かれた。
小学生ぐらいの男の子と女の子の片手を掴み、楽しそうに笑う女性の匂いを鼻が拾ってしまい、懐かしさと吐き気が脳を刺激する。
『アキ君、どうしたの?』
咄嗟に口を抑えたボクに、アイさんが心配そうに尋ねてきた。
スマホを片手で操作しつつ、心配はいらないという意味を込めて首を振る。
【いえ、何もありませんよ】
──ただ、針地獄から抜け出したら煉獄が待っていた……それだけのことである。
ぴえヨン(アクア)さんは今作ではルビーと顔を合わせ辛くて覆面です。それを察したルビーちゃんは悲しんでます。
最後、なーんか不穏ですけど、アキ君に10話みたいな暴走はありませんのでご安心を。ちょっと風邪を引く程度の不調です。
というわけで次回は水曜日。メランコリー・ウルフボーイです。
《あきのこばなし》
アキ君は顔はアイさんに似せる前はお母さん似の女顔で、それもあって苦労せずに顔を寄せれました。髪の毛はお父さん遺伝子で黒です。お母さん遺伝子がもっと仕事をしていたら金髪になったので、ルビーちゃん似になってたかもしれませんね。