特別な彼女の引き立て役Aです   作:大森依織

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玄関に佇む彼女はA

 前世から両親との仲はそこまで良くなかった。

 

 愛器(アキ)という名前を貰った今世も、狼男(人でなし)のボクは『顔も見たくない』と母親から言われるぐらいには嫌われている。

 じゃあ何でこんな名前をつけたのだろう? 親の気持ちって、子供にはわからないね。

 

 とはいえ、衣食住もあるし、生活の保証はされている。不干渉なだけで暴力もなし。

 

 だからこそ、おとなしく家政婦出入り付きでマンションに1人、引っ越したわけだが。

 

 

「まさか、ここまで嫌われているとは」

 

 

 

 ──引っ越した先が凄惨な死体を彷彿とさせる幽霊が佇む『事故物件』だった件について。

 

 

 

 目の光も足もない。その上、腹部から漏れ出た血のせいで顔以外はほぼ全身血塗れ。

 恨まれていたのだろうか、自殺とは思えない幽霊が玄関で座っているのだ。

 

 どこかのモデルか、アイドルをやっててもおかしくない美人だが、いかんせん相手は幽霊。

 大きい怪我をした状態の幽霊は恨みが強く、危ないというのは創作上ではお決まり事。

 家政婦には見えてなかったようだし、ここは見て見ぬ振りを……

 

 

『もしかして、君、見えてるの?』

 

 

 あかーん、バレてもうたぁぁぁ!?

 

 謎の関西人を脳内にインストールしてしまうぐらいに動揺が隠せない。

 呪いか、呪い殺されるのか。それは勘弁してほしいので誰か助けて、へるぷみー。

 

 

「……」

 

 

 そんな内心を隠し、自然を装って視線を前へ。

 これは日和ったわけではない。戦略的撤退であり、こういう時は無視するに限るのだ。

 何より、事故物件の2件目の死亡例として載りたくない。

 

 今世こそは死に方ぐらい選びたいのです。

 

 でも、幽霊はこっちの事情なんてお構いなしに話しかけてくる。

 

 

『皆私に気づいてくれなかったのに、君には見えてるなんて不思議だねー』

 

 

 これでも一応、前世(むかし)は狼男の希望の星、因幡 聡明さんの器になる予定だったエリートですからね!

 って、反応しそう。この幽霊怖い、押しが強い。勢いがとんでもない。

 

 それに、心なしか目に星が宿ってる? 実は幽霊よりももっと恐ろしい何かだったりする?

 

 気のせいじゃないよね、恐怖なんですが。

 危ない見た目してるのに生命力強いなんて怖い、本気で怖い。

 

 

『リュースケ君に刺された時はこうなるって思ってなかったんだけどさ。誰に話しかけても反応なしで、取り残されたみたいに感じちゃって。ひとりぼっちって寂しいね』

 

 

 待って。この幽霊、自宅で男の人に刺し殺されたの?

 

 玄関にいたってことは扉開けた時に仕留められてるよね? 痴情のもつれなの? それかストーカーの恨み?

 

 そうそうお目にかかれない事件を明るく笑う『刺殺された幽霊』とか、この人の精神力どうなってんの?

 幽霊になった感想が『ひとりぼっちさみしい〜』だなんて、相手に恨言を言わぬ精神力オバケ具合が本当に怖い。

 

 

 

 

 

 ……でも、こういう人が『眩しい人』って言うんだろうな。ボクとは違って。

 

 

 

 

 

 

『君はあの子達よりも下の子かな? お母さんかお父さんは? さっきの帰っちゃった人は多分違うよね』

 

 

 家政婦が帰った後も、めげずに話してくる美人な幽霊。

 なんて嬉しくないんだろう。無視してるんだからいい加減、見えてないって判断してください。

 

 

『あ、今目がちょっと動いたね? やっぱり見えてるんだ』

 

 

 嘘で私に勝てないよー、と笑う幽霊はボクが見えているのを確信しているようだ。

 ううむ、かくなる上は最終兵器『頼み込む』しかないか。

 

 すっと正座の体勢に移行して、自然な動作を意識して頭を下げる。

 

 

「すみません、どうしたら成仏してくれますか?」

 

『それがわかったら、ここにいないんだよね。幽霊になるのは予想外だし』

 

 

 いくら警戒しても、幽霊さんは笑みを浮かべているだけ。土下座も無視された。

 

 話しかけても態度を急変させないのなら、外面の良い悪霊でもないのか……?

 

 ボクはいつの間にか、聞いてもないのに双子の子供の話をするこの幽霊さんが『悪い存在』だとは思えなくなっていた。

 

 

「じゃあ、成仏できないぐらいの、やり残したこととかないんですか?」

 

『強いて言うならだけど、子供2人が大人になっていく姿を側で見たかったかな。化けて出てくるほどでもないけどね』

 

 

 話を聞く限りここは事件現場であり、幽霊さんは地縛霊。

 成仏させるなら双子を探し出して、ここに呼び出すのが1番早いだろう。

 だが、相手は子供だ。トラウマの現場に呼び出すのは忍びない。

 

 ボクの心と体の安心安全の為にも、なによりも死者が縛られ続けているのは彼女の為にもよくないと思うし……こうなったら方法は一つか。

 

 

 頭を上げたボクは正座のまま、彼女に提案する。

 

 

「ここから出れるように手助けします。そしたら勝手に双子を見て、勝手に成仏してください」

 

 

 

 ──こうして、元アイドル地縛霊、星野 アイさんとの奇妙な共同生活が始まったのだ。

 

 

 

 

 彼女は一言で言うと、変な幽霊だった。

 

 

 

 B小町っていうグループのアイドルだったらしく、幽霊なのに日に日にキラキラとしたオーラを放つようになる不思議体質。

 目フェチという理由だけではあり得ないぐらい惹かれる、星のような輝きを宿す目。

 

 ネットで調べた所、アイというアイドルはとんでもないスターだったらしいし、幽霊になってもその光が霞まないのは当然なのか。それとも幽体の神秘なのか。

 

 

 困ったことに……生命力を少しずつ分け与えて、最低限の接触で成仏してもらうつもりだったのに、ボクはいつの間かアイさんに絆されていた。

 

 

 本来の彼女は秘密を多用する人なのだろう。

 だが、幽霊になったせいなのか、最初の頃は秘密と言いながらも暴露するという矛盾した言動をしていた。

 

 多用する言葉はヒミツとナイショ。のらりくらりと自分のことを隠す幽霊さん。

 だが、幽霊という性質と長時間の孤独は彼女を壊してしまったらしい。

 

 自分の幼少期、社長に出会った時のこと、アイドルの活動、双子を産んでからのことなど、様々。

 

 時間をかけて質問すれば彼女の秘密のベール(じんせい)を暗記しちゃうぐらいには、色んなことを聞けてしまった。

 

 

 

 そして今のボクは外見は女々しい子供であっても、前世を経験済みの秘密警察犬(シークレットドーベルマン)

 

 

 

 秘密警察犬は視覚以外の五感から個人の情報を得ることが得意な存在だ。

 アイさんの証言もあれば、彼女が気にかけている存在の情報を集めるなんて容易である。

 

 問題は、アイさんを殺す手引きをした犯人が面倒臭そうなこと。

 

 そのせいで犯人に復讐しようとしてる健気な息子さんが計画の壁になっていることだろうか。

 

 思ったよりも接触対象が『賢い』のは、ちょっと困る。

 

 下手な出会いや接触をすれば、ボクが息子さんから容疑者か、その関係者扱いされかねない。

 それでも彼らに会わなければ、アイさんは成仏できずにマンションに居続けることになるだろう。

 

 それはダメだと、長い年月がボクに同情心を抱かせていた。

 

 だからこそ慎重に慎重を重ね、双子が揃っている時にアイさんへお披露目する計画を立てたのである。

 

 

 

 

 ──そうして4年の月日が流れ、アイさんが『血塗れ幽霊』から『キラキラなアイドル幽霊』へとランクアップした頃。

 

 

 

 

「遠くからですよ。本当に遠くから、ちらっと、通り過ぎる通行人Aの如くすれ違いますからね」

 

『うん』

 

「接触するタイミングは1回だけですよ。下手に覚えられたら警戒されますから」

 

『はーい』

 

 

 接触対象が小学生になっているであろう年に、遠目から見て成仏させようとする作戦を決行した。

 

 地縛霊でマンションから動けなかったアイさんも、ボクの側なら動ける程度には回復している。

 

 『大人になっていくのを側で見たい』は叶えられないが、幽霊というのはちょっとしたキッカケで成仏すると創作物に載っていた。

 人間の想像を信じろ。きっと大丈夫だ、問題なく成仏させられる……はず!

 

 

 そんな成仏大作戦内容はとってもシンプル。

 

 

 双子君ちゃん達の通学路を利用し、接触できるぐらいそれとなく接近するだけ。

 アイさんは幽霊なので触れたところで何も問題なし。

 お触りし放題している間に、アイさんに満足して成仏してもらうのだ!

 

 

「ターゲット、接近中。目視できる範囲、と」

 

 

 電柱と家の塀の隙間に隠れていると、豆粒程度に見える金髪が2人が見えた。

 幽霊なアイさんに似ている顔のパーツ。青と赤の目。金髪。間違いなくターゲットだ。

 顔の良いアイさんの子供というだけあり、モテそうな外見である。

 特に息子さんは将来イケメンなのが確定していて羨ましい。ボクも女顔じゃなければよかったのかなぁ。

 

 隣にいるアイさんも目を輝かせてるだろうし──あれ、アイさんがいない……!?

 

 

 不味い、と思った時には体が勝手に駆け出していた。

 

 

 予感は正しかったらしく、ボクの体が勝手に動き出したのだ。

 

 まるで一度、器の先輩である秋吉さんにも頼み込み、聡明さんに体を使ってもらった時のような。

 懐かしくて目標にして、結局、到達できなかったあの感覚。

 

 

 体は演じているのか、まるで『学校から家へと、急いで帰る子供』のように走り出す。

 

 不自然にならない程度に全力で走り、近づいて、そして。

 完璧なタイミングと動作で、双子に向かって抱きしめるようにボクの体は転んだ。

 それも、受け身が取れるように計算され尽くした動きで、ボクの体は倒れたのだ。

 

 

 きっと、ボクの体(カノジョ)は触れたかったのだろう。

 転んでしまった風を装って、抱きしめて。

 ごめんね、怪我はしてないかと聞いて「してない」と束の間の会話を楽しみ。

 ボクの体(カノジョ)は「急いでるから」と取り繕い、その場を立ち去る。

 

 

 

 とんでもない演技を披露したボクの体(カノジョ)はマンションまで勝手に帰宅し、玄関の扉を開いた。

 

 

 出ていくような感覚と共に、主導権が戻ってくる。

 

 

 目の前でアイさんが『ごめんなさい』とか謝っているようだったが、その時のボクの耳には入ってこなかった。

 

 

 

 ──謝罪なんて、とんでもない。

 

 

 

 彼女は、アイ様はあの人と同じ【憑依】する力を持つ選ばれたお方だ。

 

 ボクら秘密警察犬の希望の星である聡明さんと同じ、輝く1番星(カリスマ)

 

 彼女がいればあの日、ボクが示せなかったモノを証明できるかもしれない。

 

 

 

 

 

《器に選ばれなかったお前は失格だ。血肉でデータを取得したとして、処分する》

 

 

 

 

 

 

 銃声と共に処分された日の言葉を、否定できるかもしれないのだ。

 

 

 弥太郎が器? 優しいあの人ならそうするだろうから、恨んでないつもりだった。

 でも、ボクの方があの人の器に相応しかったはずだ。

 処分される程、出来損ないではないはずなんだ。

 だってボクは、生まれた時から『(そう)であれ』って言われて、育てられてきたのだから。

 

 

 

 そして、とても喜ばしいことに、アイ様は死んでしまって肉体がなく、双子と接触した今も成仏できなかった。

 

 

 

 そんなアイ様の器となり、肉となり骨となり、彼女を復活させたら、今度こそボクは証明できる。

 

 

 

 ボクの都合に彼女を巻き込むな?

 

 勝手に言ってればいいさ。だってアイ様は『二人の側にいたい』と言っていたじゃないか。

 ならば体は必要不可欠だし、器として願いを叶えるのは何も間違ってはいない。

 

 彼女が1日中ボクに憑依できるように体を調節し、出来うる限り生前の彼女に近い体と外見に調整する。

 幸いなことにボクの今世の体はアイ様に近いので、時間をかければそこまで苦労することなく実現可能。

 後は彼女の悪縁を精算して、最後に──ボクの意識が消えれば。

 

 

 

 彼女が、星野アイが完全復活する。

 

 

 

 そうすれば、ボクは器失格なんかじゃなかったんだって!

 

 聡明さんに選ばれた弥太郎よりも上で、両親(アイツら)の判断は間違っていたと証明できるんだ……!

 

 

 

 

 

『……シキ君、大丈夫? ボーッとしてるけど、疲れちゃった? 本当にごめんね。乗っ取るつもりなんて全くなかったのに』

 

「え? いや、アキですけど……大丈夫ですよ。それより、成仏できませんでしたね」

 

『うん、できると思ったんだけどな。ごめんね、頑張ってもらっていたのに』

 

 

 あぁ、ボクは今、この感情を隠せているだろうか。

 

 

「いえ、それなら『他の方法』もありますし、気にしないでください」

 

 

 狼は嘘つきだ。

 童話に出てくる狼はあらゆる手段で騙して、相手を食べてしまう。

 

 

「ボクの体に憑依できるとわかればまた別の作戦が使えます。そっちでいきましょう」

 

 

 でも、それはお互い様ということで許してくれるよね?

 ボクはあなたを食べるつもりはないのだから。

 

 

 

 

 ──そうやって、騙していると思っているボクは有頂天で気が付かなかったけれど。

 

 

 

 

 

 

 

『あー、やっちゃったかな。これは』

 

 

 

 

 目の前の彼女はその道のプロで、騙す前に見抜かれていたらしいってことに、間抜けなボクは気が付いてなかったのである。

 

 

 




アキ
前世に囚われた狼男くん。この時はまだアイに似てないし寄せてない短髪。
方針は『最高の器であることを証明します』

アイ
色々言いたいことがあるものの「聡明(おじ)さんと同じ扱いなのはちょっと……」というのが感想。
方針は『欲張ってこそ(アイドル)だよね!』

【キューティクル探偵因幡知らない人用のざっくりとした人物メモ】
《聡明さん》
秘密警察犬のカリスマリーダーにして、組織のボス。諸事情で肉体ではなく幽体で過ごしている。
《秋吉さん》
前代の聡明さんの器。アキくんの憧れ。
《弥太郎》
今の聡明さんの器。この小説の設定ではアキ君の代わりに選ばれた子。
キューティクル探偵の原作では彼が器に選ばれることで、命が救われた。
本小説では彼の命が救われたが、器候補だったアキ君が殺されてしまった。

・『器』とは
幽体の聡明さんの肉体を貸し与える役目の人。
ここではアキ君が幽霊のアイさんに肉体を貸し与えることで、自分をアイの器と称している。
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