特別な彼女の引き立て役Aです   作:大森依織

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感想配信を手伝うA

 

 

side.アキ

 

 

 JIF翌日の昼。

 ボクはクタクタに疲れているであろうルビーさん、有馬さん、メムさんをイタリアンレストランに呼び出していた。

 

 ちなみにお店のチョイスはルビーさん任せだ。ボクのセンスではない。

 

 

【皆さん、こんにちは。今日は疲れている中、集合してくださりありがとうございます】

 

 

 疲れている中、昼間に呼び出すのは大変申し訳ないと思いつつも、予定通りであった為に軽く頭を下げる程度に留めた。

 

 

「本当よねー。疲れてる中、態々呼び出すなんて何の用なのよ?」

 

 

 頬杖をつく有馬さんは疲れが取れ切っていないのか、気怠げな顔をしている。

 それに対してメムさんは結構元気な様子で、なるほど、とジェスチャーしながら口を開いた。

 

 

「あぁ、そういえばJIF後にラジオ配信するんだっけ。初回限定の感想ラジオって形で」

 

 

 どうやらメムさんだけは覚えてくれていたらしい。

 ルビーさんは口には出していないものの、そんなのあったっけ? と言いたげな顔で首を傾げている。

 

 

【はい、メムさんの言う通り、JIF後にまた別々の仕事が入ったらチャンスが減るので、早い内に三人揃って動画を撮れるようにしようと思いましてね】

 

「うーん。そういえば、お兄ちゃん(ぴえヨンさん)が来ている間にそんな話があったような、なかったようなー?」

 

「ア……いや、ぴえヨンさん、ね」

 

 

 うーんうんうんと、悩ましい声で思い出す努力をしているルビーさんの右隣で、有馬さんは物憂げなため息を溢す。

 

 思い出すのは車の中での出来事。

 アクアさんが黒川さんと会っていたことを知り、空気が氷点下になったあの事件。

 

 付き合ってないと思っていた二人が、普通にカフェに行く程度には仲が良かった。

 その事実を知った瞬間、恋する乙女の有馬さんの機嫌がリーマンショック級の株価並みに大暴落したのだ。

 

 ミヤコ社長が気を利かせて話題を振ったのだけども、ボクとメムさんはアクアさんの恋愛周りを知っているから、気が気でなかった車の中。

 

 その気まずさが今、イタリアンレストランでも再現されそうになっていると思うと、少し胃が痛くなる。

 

 

「ねぇ、とりあえず何か注文しない? 私、お腹すいちゃった〜」

 

 

 ボクと同じ気持ちだったのか、メムさんはメニュー表を指さして早く注文しようと急かしてくる。

 有馬さんは特に希望もないようなので、情報から全員が好きそうなメニューと、自分が食べたいメニューを選んで注文しておいた。

 

 今のうちに話題を軌道修正しよう。

 

 

【とりあえず、ラジオ配信をする予定だったのは共有できたと思いますが、それの打ち合わせをしたかったんですよ】

 

「ちなみに何時からやる予定なの?」

 

【いい質問ですね、ルビーさん。まぁ、初生配信ですし、19時30分を予定してます】

 

「ふぅん、そのぐらいの時間ならまだ良い範囲かな。私も大丈夫だよー」

 

 

 インフルエンサーとしての経験的にも許容範囲内だったようで、メムさんからのゴーサインが出てくる。

 

 事前にメムさんにそれとなく相談していてよかった。

 バズやらインプレッションなど、まだまだ勉強中の身だから、その道のプロから太鼓判を押された気がして安心した。

 

 

【では、このままラジオ配信の打ち合わせを──】

 

「その前に。アキ、一つ聞いてもいい?」

 

【え、はい。どうぞ】

 

 

 神妙な顔を作って手を挙げるルビーさんが珍しく、ボクはすぐに話を促した。

 

 

甘味(ドルチェ)は頼んでいい?」

 

【咎める理由もないですし、好きにしていいですよ】

 

「やった~。この店の甘味、前から気になってたんだよね! できる限り食べるぞ~」

 

 

 ルンルンと鼻歌を奏でながら店員さんを呼びつけると、ルビーさんは4種類ぐらい一気に注文してしまう。

 どれもおいしそうなものを選んでいるが……これ、食べれるのだろうか?

 

 

「ルビー、それ、食べきれるの……?」

 

「一応。厳選したから大丈夫だと思う」

 

 

 メムさんの疑惑の目に対して、ルビーさんは逃げるように目を逸らした。

 

 

「言っとくけど、私は食べないわよー。アンタが頑張りなさいよね」

 

「わ、わかってるもん!」

 

 

 そんな有馬さんとルビーさんのフラグのようなやり取りから予想できてしまったのだが。

 ルビーさんは結局、デザートを少し残してしまい、ボクが食べることになったのはまた別の話にしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 19時30分。動画配信用のカメラをセットし、BGM等も準備もできた。

 

 念のためにボクはいつかのパッチワークな狼の覆面を付けながら作業をしつつ、手でカメラの先にいる三人へと合図を送る。

 

 B小町の代名詞である『サインはB』のバンドアレンジバージョンを流してから数分後、待機していた三人は声を揃えて最初の挨拶をした。

 

 

『ラジオ小町~』

 

「皆さんこんばんはー! B小町のセンターなので、実質リーダー枠! 赤色担当の星野ルビーです!」

 

「皆さんこんばんは~。B小町の最年長なので、実質リーダー枠。黄色担当のMEMちょで~す」

 

「皆さんこんばんは。どんだけ実質リーダーいるのかしらね、このグループ……あぁ、失礼しました。B小町の白色担当、有馬かなです」

 

「この番組は苺プロダクション唯一のアイドルグループであるB小町がお送りする、ラジオ番組でーす。今回から始まる初めてのライブ配信。皆、楽しんでいってねぇ」

 

 

 それぞれが自己紹介後、メムさんがメインパーソナリティーとしてラジオの趣旨を説明し、挨拶だらけだったチャット欄が「きちゃ」やら「きたー!」と喜びを表すような書き込みが増えている。

 

 人数はありがたいことに現在千人を少し超えたほど。

 恐らく殆どがメムさんの客層であろう初回のラジオにて、配信経験者のメムさんが率先して話す。

 

 

「いやぁ、雨が多かった季節だけど、JIFでは見事に晴れていて安心したよねぇ」

 

「水も滴るいい女になるのも(やぶさ)かじゃないけど、晴れた方が気分が上がるし、楽しかったよねー」

 

「そこは素直に晴れて良かったね、でいいでしょうに」

 

 

 最初に台本にない挨拶を追加してきてどうなることやらと思ったものの、意外と上手く回している。

 メムさんが話題を振って、ルビーさんが小さなボケを入れて、有馬さんがやれやれといった様子で突っ込む。

 

 

「B小町公式ライブ放送の定番にしようと思っているこのラジオ、本当ならお便りとか募集してやりたいところだけど……何分、急な話だったし、初回である今回はお便りなしでお送りしようと思っていま~す」

 

「じゃあ何の話をするのかと言われると、ちょうどいいところにあるんだよね。最近あったライブが!」

 

「ジャパンアイドルフェスね。参加していない人も視聴者の中にはいるとは思うけれども、今回のテーマは主にこのJIFになるわね」

 

 

 メムさんがコメント欄に触れて反応を返しつつも、話は宣言通りJIFの方へ。

 

 

「JIF当日は本当に心配だったよねー、主に先輩がさ」

 

「はぁ? 私のどこが心配になったのよ? こっちは芸歴17年目の大先輩よ?」

 

「今はこんな風にツンツンしてるけど、当日は遠足前の子供みたいに寝不足でね。二回目のライブだっていうのに、緊張もしていてかわいかったんだよね~」

 

「そういうアンタは特に緊張した様子もなかったわよね。MEMちょも初ライブだっていうのに緊張してなかったみたいだし」

 

「芸歴よりも人生の先輩の方が、そういう面では上だったのかもねぇ~」

 

 

 けらけらと笑うメムさんに、有馬さんが不満そうな声を漏らしつつも、同じスターステージにいたアイドルの話へと移行する。

 

 隠れて緊張していたメムさんは、どうやら二人の前では平気な顔を作っていたらしい。

 平然と自分のことを隠してしまえる辺り、彼女は大人なんだなと改めて実感した。

 

 

「……と、結構話したし、そろそろ次の話題にいくよー」

 

「次の話題って?」

 

「今回は初回のラジオだし、動画を見てない人も多いだろうから、改めて私達の自己紹介をしようと思います」

 

 

 どんどんパフパフ。

 特徴的な音をメムさんが右手を挙げて宣言するタイミングとほぼ同時に流して、印象を強くする。

 

 更に印象を変えるために不自然にならないように音を混ぜつつ、『サインはB』のアレンジから『自己紹介動画 ~ルビー編~』で使っていた明るくて飛び跳ねてそうなBGMへと切り替えた。

 

 

「それじゃあ、トップバッターはこの私! B小町メンバーの中で一番知名度がない選手権優勝者の星野ルビーです!」

 

「その自己紹介、言ってて悲しくならないの?」

 

「……悲しいよ。だから今日来た人だけでも私の事知ってほしいな。あわよくばルビーちゃんかわいいでツイッターとかでお友達に拡散、布教してね!」

 

「アンタねぇ、堂々と図々しいこと言うんじゃないわよ」

 

「じゃあ、先輩のツンデレかわいいところも拡散してもらう?」

 

「しなくていいわよそんなこと!」

 

「まぁまぁ、落ち着きなよー? 拡散するならB小町で! 仲良く喧嘩するなら、今じゃなくて後にしてねぇ」

 

 

 子猫の喧嘩のようなやり取りをしているのが、意外とリスナーにもウケがいい様子。

 すかさずメムさんが執りなしているのも、じゃれ合いなんだと安心させる要素になっているのかもしれない。

 

 気がつけば二千人近くの視聴者がこのラジオを見ており、1万人を超えた程度のチャンネルにしては多くの人に見てもらっていた。

 

 自由に振る舞いつつも、何とか台本にあった自己紹介を消化完了したので、また音をゆっくりと流れるように切り替えていく。

 流れるのは透き通るようなピアノの音──次の出番は有馬さんだ。

 

 

「次は私ね。ちょっとしたきっかけから、役者からアイドルに寄り道中、有馬かなよ」

 

「先輩は『重曹を舐める天才子役』って言われるぐらい、すごい子役だったんだよー」

 

「10秒で泣ける天才子役! 先輩だと思ってるならその先輩に重曹を舐めさせんな!」

 

「かなちゃん、元気だねぇ。そんな元気な重曹先輩こと、有馬かなちゃんの重曹案件待ってまーす」

 

「私はアイドルでも心は役者! 勝手に掃除系アイドルにされても困るんだけど!?」

 

 

 ルビーさんのボケにすかさずメムさんもノリに行くのは流石というべきか。

 重曹先輩ってパワーワードが視聴者にも受けているらしく、チャット欄が重曹で真っ白になっている。

 

 有馬さんの売り方ってやっぱり綺麗系よりも、可愛くて自己主張激しめの方向の方がウケそうな気がする。

 本人の意向で綺麗な感じにまとめたBGMとかも使ってるけど、もっと太陽みたいな強い主張を入れた曲の方が、有馬さんには似合っていた。

 

 

 ……と、次はメムさんか。

 明るめの曲調に合わせながら変えて、と。

 

 

「それじゃあ、お待たせー。ラストはこの私、MEMちょだよー」

 

「B小町のお姉ちゃん枠だね。この前はドライヤーで髪を乾かしてもらったし、普段からすっごく周りをよく見てるし」

 

「MEMちょは面倒見がいいのよね。お姉ちゃんしてるというか」

 

「えぇ、なんで私の時だけ二人揃って褒めるの?」

 

 

 台本は結構大雑把に作っており、今の箇所は『自由に話してよし』としか書いていないので、メムさんはびっくりしたらしい。

 前の二人は軽口を言い合っていたし、何を言われるのかと構えていた彼女からすると、予想外の展開だったようだ。

 

 

「だってMEMちょに先輩みたいなところないし」

 

「私にはあるって言いたいのかしら……?」

 

「二人に高評価貰っているのは嬉しいけど、お願いだから私の自己紹介を乗っ取ろうとしないで……」

 

 

 滲み出る苦労人感とフォロー慣れしている所、後はお姉ちゃんという単語から、メムさん目当ての既存ファンも『姉MEMちょだ』と好感触の様子。

 初のライブ配信と考えれば、かなり成功している方なのではないだろうか。

 

 ライブ配信をしたことがない身としては後から三人に感想を聞きたいところだが、今はこの配信を見守ろう。

 

 

「そろそろ、このラジオ小町もエンディングのお時間がやって参りました〜」

 

「えぇー。まだ話し足りないんだけど、延長できないの?」

 

「カラオケじゃないんだからやらないわよ。ラジオ形式配信は今後もやる予定だし、次回を待ちなさい」

 

「ちぇー。MEMちょ、次回の予定は?」

 

「うん、定期企画だから次回から木曜日の19時30分に配信予定だよ。今のところ、毎週予定で、都合によって隔週に変更するかもね」

 

「聞いたかな視聴者の皆! 木曜日まで暫し待てだよ!」

 

 

 ルビーさんが明るく宣言すれば、コメント欄が『待つ~』という言葉で埋め尽くされる。

 次も見たい、と思わせる空気を作り、三人は締めの言葉を紡ぐ。

 

 

「それでは、次回の予定は来週の木曜日、19時30分からです。ここまでのお相手はMEMちょとー」

 

「星野ルビーと」

 

「有馬かなでした。それではまた次回」

 

『ラジオ小町でお会いしましょー!』

 

 

 

 こうして、初ライブ配信、ラジオ小町はまぁまぁ良い手ごたえで終了する。

 

 ただ──この後、何故かツイッターのトレンドに『重曹』という言葉が出てきて。

 何も知らない人達を困惑させたプチ事件があったりしたのは、有馬さんが可哀想だったと思う。

 

 




ちょっとよく見るラジオ配信を参考にしたり、誤魔化したりしてそれっぽくできました……かね。

《あきのこばなし》
割り勘を装いつつ、さりげなく自分が一番多めに払う根回しをする姑息な男子、アキ君。
流石に中学生に奢ってもらうのは、と遠慮する人が多いとこの手を使うことが多いみたいです。
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