特別な彼女の引き立て役Aです   作:大森依織

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Aと闇鍋配信 〜実食〜

 

side.アキ

 

 

【皆様こんばんは。初めまして、ボクが今回の鍋奉行役となりました、アシスタントのAです。素敵な闇鍋を錬成していくお供に、どうぞよろしくお願い致します】

 

 

 いつもとは全く違う幼子のような音声を流してから、頭を下げる。

 

 151センチと低めなアイさんの身長に合わせたボクの体は小柄であり、手足もそれに合わせて小さい。

 ルビーさんから『胸がないのが減点だけど、抱き心地はほぼママ』と言われるぐらいの完成度を誇るこの体。

 

 画面から見るだけの視聴者では正体を見破れるはずもなく、チャット欄は思惑通りの反応をしてくれた。

 

 

 

 

《苺プロは覆面人間の生息地だったのか……》

《え、これ音声だよね? 普通に喋ってるように聞こえるんだけど》

《ボカロっぽさもあるけど、この声のタイプは初耳だわ》

《ボクッ娘キター!》

《小さいおててかわいいね。これは女の子》

《ふむ、成程》

《調教師もびっくりな感情を感じさせる音声だぁ》

《その犬の覆面取ってください!》

《リアルタイム調教? どうやってるのか知りたい》

 

 

 

 

 えーと、誰だろうね。今、狼の覆面を犬呼ばわりした不届き者は。

 視界の悪い覆面越しに犬扱いしてきた悪い子に狙いを定め、後で追跡するために頭の中にメモしておく。

 

 一部のコメントは都合よく無視して、温めていた昆布鍋に材料を入れるため、まずはメムさんの名前が書かれたダンボールを手に持った。

 

 

【今回の闇鍋ですが、マシなものから順番に入れていきますので、その辺りはご了承ください】

 

 

 そう音声を流せば、一部の察しの良い人たちは《あっ……じゃあルビーちゃんの箱が一番端に置かれているのって》とコメントしたりして、未来を予測している。

 

 察しの良い視聴者の皆さんは心の準備をしておいてほしい。前半は何ともなくても、ルビーさん辺りは闇鍋のメインなので。

 

 

【それでは、まずはメムさん持ち込みの3種類から入れていきますよ。どうして3種なのかというと、1種は具材を考慮した結果ですね】

 

 

 ちくわ、ウィンナー、既に焼かれた後のそこそこお高いらしいステーキ肉。

 ここにチーズを入れてしまえば、完成するまでに溶けて消えることは明白なので、視聴者の皆さんも納得してくれた。

 

 かなりまともな具材に《普通だ》とか《MEMちょはネタに走らなかったかー》と残念そうな声が散見される。

 

 

【最後の一人が闇鍋の本番なので、お楽しみに】

 

 

 そんな視聴者達と話していると、カーテンの向こう側からも悲鳴のような声が聞こえてくる。

 

 

「最後の一人って絶対ルビーでしょ。何入れたのか正直に言ってみなさい」

 

「えー、それだと闇鍋の意味ないじゃん。お楽しみにー」

 

「A君が地獄とか言うなんて、よっぽどだよねぇ」

 

 

【では、有馬さんの具材も入れますよー】

 

 

 三人のコメントでチャット欄も加速し、次を催促されるので、有馬さんのフライドチキン、餃子、干し芋、パイナップルも入れていく。

 

 パイナップルで一瞬、視聴者のチャットが騒めくものの、まだルビーさんの箱には手をつけていない。

 遠慮なく、後回しにしていたチーズも投入した。

 

 

【さて、最後はルビーさんの具材ですね。ここからは1つずつじっくりと入れていきましょうか……と、まずはマシなこちらから】

 

 

 ルビーさんの箱に手を突っ込み、1つ目の皿を取り出す。

 

 

 

《き、きんぴらごぼう……?》

《既に完成している料理を鍋に入れるとはたまげたなぁ》

《せっかく料理したなら、そのまま食べて差し上げろ》

 

 

 

【ちなみにこれ、提供したのはアイさん(ボク)なんですけど……まさかこんな形で活用されるとは思ってませんでした】

 

 

 

《Aちゃんはルビーちゃんの通い妻と》

《折角作ったご飯が鍋にされるなんてかわいそう》

《美味しそうなのに何故、鍋に入れようとしたのか》

 

 

 

 困惑したり、同情のコメントが多く寄せられている中、まだマシなきんぴらごぼうを投入する。

 

 チャット欄も盛り上がってきたが、これはまだ四天王の中でも最弱だ。

 次は何を入れるべきなのか……どれもひどい絵面になるので迷ってしまう。

 

 いや、まだ傾向として甘味で統一されているのが救いか。

 ここに苦味やら酸味やら辛味も追加されていたら本当の闇の鍋になっていたに違いない。

 

 

【では……次はこれにしましょうか】

 

 

 

《チーズケーキ……だと?》

《しかもこの箱、めちゃくちゃおいしいって言われてる専門店のじゃん》

《もしかしてルビーちゃんの具材、鍋に入れずにそのまま食べろシリーズ?》

《ああ、もったいない》

 

 

 

 もったいないのは完全に同意である。

 

 これ、アイさんも憑依して食べていたが、かなりおいしいと大絶賛していたのだ。

 双子にも食べてほしいからとアクアさんに勧めた筈なのに、まさかこんな形で相まみえることになるとは。

 

 

『また、買いに行こっか。今度は流石に鍋に入れられることはないでしょ』

 

 

 ……そうであることを祈りましょう。

 

 

 心の中でアイさんに返事をしてから、最後の2つをどちらから入れるか迷う。

 

 生チョコの大福とシュークリーム。

 どっちを入れても溶けて鍋を甘味で彩ってくれるのは間違いなくて。

 

 大福を生贄に、シュークリームだけでも比較的マシなように上に乗せようか? まだそっちの方が軽傷かもしれない。

 火を消してから強敵その1を取り出した。

 

 

【次はこれです。8個入りらしいですね】

 

「8個入りって何!?」

 

「うーん、鍋とは思えない甘い匂いがしてきたぞ~……嫌な予感しかしないね」

 

《あーあ、これは》

《鍋に大福は自殺行為過ぎる》

《溶けてチョコまみれ、大福の皮べっちゃりの大惨事確定だなぁ……》

 

 

 有馬さんの悲鳴のような言葉と対照的に、メムさんの感想は悟りを開いた人のように穏やかだった。

 チャット欄もカーテン越しも大盛り上がりだが、ここは心を鬼にしてシュークリームを取り出す。

 

 

【こちらで最後です。これもできればそのまま食べて欲しかったんですけど】

 

 

《ぬ、それは知る人ぞ知ると噂の『ブレシュ』のプチシュー!?》

《自分ならそのまま口に入れたくなるシューだわ》

《飴のザクザクした触感と濃厚なカスタードがマジで旨いんだよね。今から鍋に入って台無しになるけど》

 

 

【さてと。メムさーん、鍋できましたよー】

 

 

 このままだと余熱のせいで大福もシュークリームも溶けてなくなってしまいそうなので、早く食べてもらわなければ。

 はやる気持ちを抑え込み、カーテン越しのメムさんに声をかけると、向こう側から声が聞こえてきた。

 

 

「入れた順番を番号にして、今からルーレットするからもうちょっと待ってね〜」

 

【いいですけど、溶けますよ?】

 

「と、溶けるって何の話!?」

 

 

 そりゃあ、チョコ大福とか、水分を含んだせいでカスタードが今にも漏れそうなシュークリームの話だが。

 

 まさかそんなものが入っているとは思っていなかったのか、メムさんは慌てて3人のお椀に入れる具材をルーレットで振り分ける。

 

 入れた順番はちくわ、ウィンナー、ステーキ肉、フライドチキン、餃子、干し芋、パイナップル、チーズ、きんぴらごぼう、チーズケーキ、生チョコ大福、シュークリームだったか。

 

 入れた順番をメモしてくれていた有能な視聴者さんの内容も同じだったので、間違いなさそうだ。

 

 ……その人は何故か、アシスタントであるボクをずっとA様と呼んでいるボクに匹敵する変な人だが、有能なのは間違いない。

 

 そんなことを考えつつ、メムさん達のルーレットが終わるのを待つ。

 

 早く決めてくれないとチョコ大福あたりが……あ、言ってる間に一つの大福からチョコが漏れてきた。

 試しに箸で一つ摘まんでみると、既に底が無くなっていて、カスタードが鍋の底に向かって溶けていく。

 

 餃子とかって、皮に味が染み込むよね。

 大福とシュークリーム、最低1つぐらいは形が残るように汁に漬からない場所へ避難させておこうかな。

 

 ヒョイヒョイとまだ崩れていない無事な子達を避けていると、いつの間にか配信画面がメムさん達の姿を映していた。

 

 

「よ~し、不安だけど番号決まったぞぉ!」

 

「どうして、どうして私の欄だけ後半の番号が2つも入ってるの……?」

 

「ドンマイ、先輩」

 

「主犯に励まされたくないわっ」

 

 

 どうやらルビーさんが8(チーズ)9(きんぴらごぼう)7(パイナップル)3(ステーキ肉)

 有馬さんが12(シュークリーム)1(ちくわ)5(餃子)10(チーズケーキ)

 メムさんが2(ウィンナー)6(干し芋)11(チョコ大福)4(フライドチキン)だった。

 

 一応、甘味は三人に分かれたらしい。

 ルビーさんが入れた割に、酷い甘味に当たっていないくじ運は彼女が『持っている』証なのか。

 逆の結果になっているように見える有馬さんが不憫だった。

 

 

【はーい、取り分けたので実食の時間ですよー】

 

 

 まだ形が綺麗なものを厳選したお椀をお盆に乗せ、三人に渡す。

 ルビーさんが変わらぬ笑みだったのに対し、メムさんと有馬さんの顔がわかりやすいぐらい引き攣った。

 

 

「ねぇ、私のお椀、茶色くな〜い?」

 

「おい、シュークリームやらチーズケーキを鍋に突っ込んだ奴出てこい。怒らないから」

 

「先輩、声のトーンがガチで怒ってる人になってる」

 

「そりゃあまぁ、配信じゃなければキレてたからねー。怒ってるかもしれないわねー」

 

 

 怒りを声に滲ませている有馬さんもパイナップルをルビーさんに食べさせているけれど、怒りたい気持ちもわかる。

 チーズケーキもシュークリームもそのまま食べた方がおいしいのは確実だし、鍋なんかに入れずに食べたいよね。

 

 

【それではどうぞ、召し上がれ】

 

 

 怒っていてもお椀の中身は減らないので、早速三人には実食してもらう。

 ルビーさんは躊躇いなく口に入れるのに対して、有馬さんは嫌そうに、メムさんは目を瞑って食べ始めた。

 

 

「わ―、なにこれ。折角のステーキが微妙に甘いし、きんぴらごぼうも甘い! 不思議で超絶微妙な味だぁ!」

 

「チーズケーキが肉とかの油を吸ってて気持ち悪くなってるわ……餃子も甘いしニンニクっぽいし滅茶苦茶。まさかのオアシスがシュークリームの中身のカスタードだなんて……」

 

「チキンも芋もベタベタした何かが付いたチョコだねぇ、コレ」

 

 

 女子は甘いものが好きだと言うが、この甘味は耐えられないようだ。

 ルビーさんも「マズーい」と楽しそうに食べていたが、箸は全然進んでなかった。

 

 

「た、食べなきゃ……食べ物企画でお残しなんて炎上案件。許されないから……」

 

 

 お椀一杯分を何とか平らげて、メムさんが二杯目へと手を伸ばす為に力無く呟く。

 有馬さんなんて青い顔を通り越して、「ふふふ」と笑いながら白く燃え尽きているし、これはもう配信で映していい姿じゃないな。

 

 

【お椀の中の具材を食べ切って、皆さん偉いですね】

 

「いや、でも全部食べなきゃいけな──」

 

【なので、ボクの方からお手伝いしようと思います。具体的に言うと、味変(あじへん)です】

 

「──へ?」

 

 

 ポカンと口を開くメムさんから視線を逸らしてスマホを見ると、何が起きるのか期待しているチャット欄が盛り上がっている。

 別に、期待するようなことはないのだけど。

 

 鞄から準備してきた缶の筒を取り出し、鍋の中にゆっくりと投入していく。

 鍋が苦味や酸味で彩られていたら苦戦していただろうが、幸いなことに傾向は甘味ばかりだ。

 

 これならば十分、リカバリーが効く。

 

 

「このスパイシーでお腹が空くような匂い……まさか!?」

 

【はい、特製のカレー鍋です】

 

 

 鼻をクンクン、と動かして良いリアクションをするメムさんに、頷き返す。

 チャット欄も《カレーだぁ!》《リカバリー能力がすごい》《お手並み拝見かなー》と良い反応である。

 

 有馬さんはまだ顔色が悪いものの、ルビーさんが復活しているし、十分挽回できるだろう。

 

 

【まぁ、食べられなかったらアシスタントが全部食べますので、ご安心を】

 

「……とりあえず一口いってみようか」

 

 

 メムさんが率先して鍋へと箸を伸ばし、恐る恐る口に入れる。

 よく噛んで食べつつも首を傾げるメムさん。ん~? と唸りながらも彼女は口の中の物を飲み込み、お椀を前に呟いた。

 

 

「あれ? 予想以上においしいというか、普通にご飯とかパンと一緒に食べたくなるカレーというか」

 

【カレーに錬成し直したので、当然かと】

 

 

 カレーって悪く言えば主張が激しすぎるんだけど、良く言えば大体カレーの味になるので、カレーが嫌いな人でない限りはおいしく感じるものが作れる、奥の深い料理なのだ。

 更に、今回はおかしな魚介類もなく、味も甘味がキツイだけなので、それを考慮してカレーを調合するだけでよかった。

 

 『これは鍋なのか?』と聞かれると『土鍋で作ったカレーです』としか答えられないが、完食するというルールは破ってはいない。

 

 

「あの嫌に甘い鍋がおいしカレーに変貌してるわ」

 

「これなら全部食べれそう!」

 

「カレーになってなくても戦犯であるアンタは全部食べなさいよね」

 

「先輩も割とパイナップルは戦犯級だと思う」

 

「それは弁解の余地もないわね……」

 

 

 箸が進みだしたルビーさんとは対照的に、有馬さんが元気のない声で力なく笑った。

 

 そんなこんなで鍋の中の具材たちは消えていき、ボクも配信画面に映らないように手伝ったこともあってか、30分かけて鍋の中身を食べきり、無事、配信を乗り越えることができたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 メムさんが鍋を洗いに部屋を出ていくのを見送っていると、有馬さんとルビーさんが部屋を片付けつつも何かを話しているようだった。

 

 

「あ~、今日は酷い目に遭ったわ」

 

「でも、楽しかったよね~」

 

「アンタは好き勝手搔き乱しただけで、MEMちょとアキが頑張っただけでしょ」

 

「MEMちょとアキには迷惑かけちゃったけどさ。私が好き勝手してもどうにかなるって証明もできたし、本当に良かったよ」

 

 

 良くはないでしょ、と有馬さんに突っ込まれることを言いながらも、ルビーさんはどこ吹く風な態度を変えない。

 

 

「今日みたいに、先輩も舞台では自由に表現できたらいいね」

 

「ハッ、素人が生意気言ってんじゃないわよ」

 

「素人でも、先輩が遠慮しなくても大丈夫なぐらい、色が強いメンバーだっていうのはわかるけどねー」

 

 

 有馬さんの方をじっと見て、ルビーさんは楽し気に目を細めた。

 

 

「やっぱり、先輩は役者みたいだから。好きにしたってお兄ちゃんがカバーしてくれると思うし、本番は昔みたいに、好きに演技してきてね」

 

「……うっさいわね。アンタに言われなくても、ちゃんと演技してくるわよ」

 

 

 むすっとした顔を隠さない有馬さんに、ルビーさんが大きく頷いた。

 

 

「うん。まぁ、今日みたいに酷いことはならないでしょ」

 

「そうねぇ。今日よりは大丈夫でしょうね」

 

「だから、遠慮しないで楽しんで来なよ」

 

「うるさいっての」

 

 

 突然の闇鍋企画は、どうやらルビーさんなりの有馬さんへのエールだったらしい。

 

 戯れ合うように言い合う二人を邪魔しないように、ボクも静かに部屋から抜け出した。

 

 

 




基本漫画は単行本派閥の人間なのに、推しの子だけは単行本を買いつつも毎週できるだけ追うようにしているのですが。
公式が最大手にして大正義になりそうで、戦々恐々してます。
こうなったら疫病神様降臨の儀式でこっちも対抗するしかないですよね……!

《あきのこばなし》
ルーレットはちゃんとスマホのルーレットアプリで1つ1つ、くるくるーっと回して決めたので、作為的なモノはなかったつもりなんですけど……
先輩って神様からも愛されてるんですね。流石パイセン。
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