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side.アキ
十で神童、十五で才子、二十歳過ぎれば只の人。
なんて言葉があるが、ボクの父親である
日記を見る限り、細胞から心臓などの重要な臓器を作りだしたり、義手や義足が必要な人に新しい手足を生やすような、そんな『奇跡』を実現してしまった大天才。
それがボクの父親だったらしい。
そんな天才も、ある日気が狂って実の息子で化け物を作る実験をしてしまい、今では最悪な犯罪者。
気が狂ってしまって、一人部屋に閉じ込められた彼は今でも毎日、幻覚を見ているのだという。
その彼が言っていた言葉が……烏の少女やヨミの神だ。
幻覚の一部だと判断された、不可思議なナニカに好きだった人を奪われ、望まぬ政略結婚をして、その相手の子供を実験の材料にした。
全ては、ナニカの思い通りに動かない為に。
奴の思惑を潰して、人の人生を狂わせた奴に思い知らせてやる……というのが、意味もない言葉の羅列の中から丁寧に解読して見つけた、父親の意思。
今となっては狂気に囚われてまともに話すことすら難しい、過去の天才。
妄言だと思っていたそれが、実は事実の一部なのだとしたら?
そんな考えに至って、寒くないはずの自室で体をブルリと震わせる。
明日は何もなければメムさんと歌のレッスンをするって話なのに、この調子で気分が復帰できるのだろうか。
一抹の不安を感じながらも、本棚に隠すように置いていた古びた日記帳を取り出し、心配そうにこちらを見ているアイさんへと見せた。
「アイさんはこの日記以外で烏の少女って心当たりあります?」
『アキ君が期待しているような記憶はないと思う。ごめんね』
「……いえ、謝らないでください。ボクもアイさんと同じなので」
今頃になって、今まで全く読めなかった謎の少女の存在がアクアさんから読めたこと。
ルビーさんの情報が妨害されているように読めなくなっていること。
双子から手に入れた逆の出来事を『偶然』や『杞憂』で片付けるには、日記帳や双子の特異性が許してくれそうになかった。
「アイさん、できる限り……ルビーさんのそばにいてもらってもいいですか?」
『おかしなことがあったら、報告すればいいの?』
「ええ。杞憂であることを祈るばかりですが」
神様っぽい存在が急に現れても、調べても情報を読んでも輪郭すら掴めない相手ではどうしようもなく。
目的も何もわからない以上、後手に回るしかない。
今できることといえば、烏の少女に関係のありそうな2人を注意して観察するぐらいだろうか。
まずは、最近読めなくなっているルビーさんを探ってみた方がいいかもしれない。
…………………………………………
『最近のルビーに、おかしいところがないかって?』
ディスコードのアイコンが緑に点滅して、メムさんの声が聞こえてきた。
現在、メムさんと
メムさんはいつもの動画編集作業など、ボクは仕事の修正を対応しつつ、アクアさんに会ってから感じた違和感を得ようとしていた。
【メムさんもルビーさんと長い付き合いじゃないので、難しいって思ってるかもしれませんが……どんな違和感でもいいんです】
『違和感って言われると、やっぱりアクたんとの関係だけど……ルビー、無理してないかって心配になるんだよね』
【そう思ったってことは何かあったのですか?】
『あったー……というか。聞いたー、というか』
ノイズキャンセルで消されてるかのような、歯切れの悪い言葉だ。
キーボードが叩かれる音がイヤホンから聞こえてくるのに、声だけは届かない。
そんな無音のような雑音の時間が過ぎていく中、ボクの機械音にも負けないぐらいノイズの入った唸り声が聞こえてきた。
『あのさ、アキ君は優しさって軽いと思う? それとも重いと思う?』
【随分と哲学っぽい質問ですね。ですが、そうですね……優しさに付随する感情によるのではないでしょうか】
『アキ君はそう思うんだ。でも、ルビーは優しさは軽いって思ってるみたいだよ』
【……それってもしや、優しいお兄ちゃんは軽いんだ、みたいな話でした?】
『まさかだけど、実は話していた場面を盗み見してたりする?』
【いや、してませんけど】
そんな言い方をするということは、そのままその通りと言わんばかりの話をしたのだろう。
烏の少女のことで探りを入れようとしたのに、ルビーさんの精神状態があまりよろしくない可能性に思い至り、ボクは頭を抱えそうになる。
本当ならアクアさんもルビーさんも今すぐ病院に突っ込んだ方が良いんじゃないかと思うぐらい、折り合いのついていない不安定さを持っている。
それが前世由来の複合的原因っぽいので、病院の方も「そんな摩訶不思議な患者が来られても困るんだが」となる案件になること間違いなしということもあり、病院に突っ込んでいないのだけど。
『ルビーもあかねもかなちゃんも、みーんなアクたん狙い。これを知ってるのって私とアキ君だけじゃん』
【まぁ、そうですね】
例外として幽霊がいるけれど、網羅しているのはボクとメムさんだけだろう。
ミヤコ社長もルビーさんの秘密の恋愛事情は把握していない。
『アクたん本人にルビーのことを話してみたとして。もし、爆発してやっぱり俺がルビーとなんて~とか言われたら、私がルビーに暗殺されるでしょ?』
──相談できる人がいないのといるのとでは、気持ちが全然違うよねぇ。
そう言って作業に戻るメムさんに聞こえないよう、ミュートにしてから息を吐く。
メムさんもかなり参っていたようだ。
そんな彼女にルビーさんを気にかけてほしいとお願いするのはかなり身勝手な話なのではないだろうか。
やっぱりボクがしっかりした方がいいのかもしれない。そう思っていたのだが、ミュートをしていることに疑問を思ったのか、メムさんの方から声をかけられた。
『くれぐれも、アキ君は1人で抱え込んで爆弾予備軍にならないでね。爆弾をこれ以上発見するのは私が1番困ることだからさ』
……釘を刺されてしまった。
メムさんの勘は狼男も超えるのか、空気読みが超人級なのか、こちらの考えなんてお見通しらしい。
観念したボクはミュートを解除し、音声を流した。
【個人的に動くべきかと思っていましたけど、頼ってもいいですか?】
『もちろん。そもそも、アキ君は善意の協力者なのに頑張り過ぎなんだよ。そ~れ~に、何でもかんでも介入するのが正解ってわけじゃないんだよ?』
【それはそうですけど】
『今は2人が結論を出せるように見守るべき時だと思う。ずっと手を貸してたらそれ以外の方法が取れなくなっちゃうんだから、他の方法も取れるように見守ってあげようよ』
メムさんの言うことはご尤もだった。
それに、烏の少女だってボクが勝手にアクアさんの記憶と父親の日記の妄言を結び付けているだけだ。
気にし過ぎってこともあり得るし、今まで巧妙に情報を隠してきた相手だ。ボクには尻尾を見せない可能性がある。
なら、ボクにできる範囲で、最善を尽くせるようにするのが良い。その為には見守るという選択肢も良い選択な気がしてきた。
既にアイさんにもルビーさんをお願いしているのだ。ボクができることは少ないかもしれない。
──唯一、父親の跡を辿ること以外は。
【ルビーさんの方、お願いしてもいいですか?】
『もちろん。2人で見守り隊、結成だ〜』
【お〜】
父親の跡は叔母さんが1番よく知っている。
ボクが父親が作った自殺用の注射器を見つけたのだって、あの人がいたからだ。
あの人に聞けば、何かわかるかもしれないし、わからなければ『杞憂だった』と忘れられる。
「杞憂であって、ほしいな」
最近のノイズキャンセルは優秀らしく、思わず呟いた言葉は拾われずに虚空に消えていった。
side.アキend
☆★☆
side.かな
「ふん、ふ、ふんふ、ふふふふ〜ん。ふーふふん、ふぅ〜」
頭から離れないB小町代表ソングを鼻歌で奏でながら、私は暗い夜の道を歩く。
いつもなら公共の交通機関を使うのに、今日は上機嫌なので徒歩の気分だった。
演技の仕事を改めて頂いてから、思うのよね。
最初はアイドルになんてって思ってたけど……最近はアイドルって仕事が、ちょっと好きになってるのかもしれないって。
きっかけはアクアに言われてだった。
でも、
ちょっとでもステージで不安になってたら、ルビーが声をかけてくるし。
少し嫌な気分になってたら、アキがさりげなく助けてくれる。
昔の演技を思い出せたのは……腹が立つのだけど、アキの裏人格のおかげだ。
何より──アイドルになってからやった演技はプロとして手を抜けないお仕事なのに、楽しかった。
アクアを振り向かせるぐらいの推しになってやるって目標もできたし、今までが嘘みたいに流れが来ている気がする。
この流れを逃さないようにしなければ、もう2度とチャンスは来ないかもしれない。
指先が真っ白になるぐらい握りしめていると、見知った金髪が視界に入る。
「え、ルビー?」
公園の前を横切ろうとしたら、元気のなさそうな紅玉色の目が虚空を眺めていた。
気分はリストラされたサラリーマン、とでも言うつもりなのかしら。
あれが演技なら百点満点をあげたくなるぐらい、悲壮感があるわね。
……って、そんな冗談を言ってる場合じゃないわ。
なんでルビーが1人でこんなところで黄昏てるのって話よ!
「ルビー!」
「え、あぁ。先輩? こんなところでどうしたの?」
「それはこっちのセリフよ! アンタこそ──いや、いいわ。隣、座るわよ」
どうしたのよ、という言葉は口の中で溶けて消えた。
どうにかなってるから此処にいる人間に、問いかけるのはさすがの私でも、できなかったから。
何かしなくちゃいけない。でも、どうしたらいいのかわからなくて、ルビーの隣に座る。
全く……アクアもMEMちょもアキも、全員何やってんのよ。どうして誰もこんな状態になったルビーを発見できないわけ?
一度、私の拳から火を吹かせた方がいいのかしら。私がいないからって弛んでたらぶっ飛ばさなきゃ。
「先輩、本当にどうしたの? 私はちょっと大事な所に行ってて、その帰り道……というか、寄り道の途中なんだけど」
話しかけてきたルビーはいつもの明るい笑みを浮かべていた。
誰もが元気になるぐらい明るくて、天真爛漫がピッタリな笑顔。
……あぁ、そういうことか。
こんな時ぐらい、無理しなくてもいいのに。
「別に。私も寄り道中なだけよ」
「そうなんだ。寄り道仲間だね」
「そーね」
ちらりとルビーがいる場所を盗み見る。やはり、見つけた時のようなどんよりとしたルビーはそこにいない。
まるで私の中に渦巻くこれが、ただの杞憂だと言わんばかりにいい笑顔で笑っちゃって。本当にもう。
あぁでも……劇団の人に押し付けてやろうかと思っていたこれ、今が使い時じゃないかしら。
「アンタ、明日は暇なの?」
「え、うん。特に大きな予定はないけど」
「じゃあ明日、予定空けなさい。遊園地に連れて行ってあげる。チケットは2枚あるし、1枚で2人。4人連れていけるからアクアとか──」
「っ」
──は、嫌そうね。
もしかして原因はアクアなのかしら。アイツ、秘密主義だしねぇ。妹を不安にさせてるのかもしれないわね。
とはいえ、ルビーと2人っきりで遊園地はレベルが高いから、断らなさそうな人選を選びましょ。
「アクアは忙しいみたいだし、MEMちょとアキでも連れていきましょ。私、本気なんだから……予定空けときなさいよ?」
念の為にラインで確認してみたけれど、MEMちょとアキも、ルビーの話に触れたら示し合わせたように同行する返信が来た。
よしよし、今のところ順調ね。
「MEMちょ達にも予定があると思うけど」
「平気よ。今、許可取ってきたから。明日9時に事務所付近の駅前に集合して、そこから遊園地行くから。今日はもう帰るわよ。送っていくわ」
ルビーの返事も聞かずに、私は彼女の右手を掴んで立ち上がらせ、そのまま歩いていく。
こういう時は無理矢理連れ出した方が安心するのだ。どうせ、思考の泥か何かで足が固められて、動けなくなっているだろうから。
「せんぱい」
「明日は遅刻しないでよね。何なら迎えに行ってあげた方が良い?」
「先輩、その」
「何よ」
「……ありがとう」
「そ」
へらりと笑うルビーを視界の端に収めて、できる限りそっけなく返事した。
やっぱりルビーは能天気な顔が似合っているわよね。絶対にコイツ本人に言うつもりはないけど。
この小説の重曹先輩はこういうパイセンも見たかったという、妄想からできております。
次回は遊園地で遊ぼうなお話。
《少女のこばなし》
──あの子の命は、
それが兄妹の関係なんだってさ。悍ましい話だよね。
ある意味、これもまた神様の一面なのだろうけど……気に入らないよね。