特別な彼女の引き立て役Aです   作:大森依織

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Aは双子と遊びたい

 

 

side.アクア

 

 

「わ~、カラオケとかゲーセンとか単体でなら行ったことあるけど、一緒になってるところに行くのは初めてかも!」

 

「おやおや~? ルビーも行ったことないんだ? じゃあ今日はママと一緒に楽しもうね」

 

「うん! 楽しむ!」

 

 

 現在、俺とルビー、そしてアキの体を使っているアイは複合アミューズメント施設に遊びに来ていた。

 

 どうしてこんなところに遊びに来ているかって?

 アイに家族で遊びに行きたいとお願いされた上に、アキにもアイのお願いを聞いてほしいと言われたからだ。

 

 それに、何気に1年以上もあったのにルビーとアイと俺が揃って遊びに行くのは殆どなかった。

 そう考えると断り難く、ルビーと俺の予定を合わせて遊びに行くことにしたのだ。

 

 

「まずはゲーセンでしょ、次にボウリング、スポーツの方に行ってから、最後にカラオケ!」

 

「ルビーの予定はぎゅうぎゅうだね。朝早くから来て正解だったかも」

 

「ゲーセンとかボウリングとかそこまで長くできないだろうな。さっさと回るぞ」

 

 

 ルビーがアイの手を繋いで飛び出して、俺が2人の背中を追いかける。

 

 もしかしたら、アイがあの日、刺されていなければこんな日も当たり前に過ごしていたのだろうか。

 それがどれだけあり得ないことで、幸せであることにも気が付かずに、消費していたのだろうか。

 

 いや、それは今も変わらないか。

 

 この日に感謝しなくちゃいけないのは今も変わらない。

 

 

「それに、疫病神の言うことも気になるしな」

 

 

 アキが全てを終わらせてしまった1年前。

 それからというものの、あの疫病神は俺の前から姿を消していたというのに、つい最近になって奴は突然、現れた。

 

 

 ──今の時間はね、本当はあり得なかった『きちんとしたお別れをする為』の貴重な時間なんだよ。1日1日を大切に、向き合ってあげてね。

 

 

 夕陽と烏を引き連れた少女は言いたいことだけ言って、すぐに消えた。

 何をしたかったのかはわからないが、どうせわかった風にこちらを観察して、嘲笑っているに違いない。

 あんな奴、相手にするだけ疲れるだけだ。

 

 

「お兄ちゃん、ボーっとしていないで早く行こうよ」

 

「そうだよアクア。時間は有限なんだから、今を楽しまなきゃ」

 

「そう、だな。すぐ行く」

 

 

 ボーっとしていたせいでルビーとアイから声をかけられてしまった。

 貴重な時間で、時間は有限で。

 奴が気にならないと言えば嘘になるものの、今を無駄にしてまで考えることではないよな。

 

 

「行くって言いながらも止まらないでよー。ほら、行こ行こ」

 

「じゃあ私が2人の背中を押してあげようかな~」

 

 

 ルビーに手を掴まれて引っ張られて横に並べば、アイが俺とルビーの背中を押してゲームセンターへと押し込んでいく。

 

 今日は変なことを考えずに楽しもうか……って待て。

 

 ルビー、いきなりユーフォ―キャッチャーに千円分の小銭をジャラジャラと入れるな。

 アイも両替機に何枚も一万円札を入れようとするな。そんなに百円玉はいらないから!

 

 

 

 

 

 

……………………………………

 

 

 

 

 

 何とかじゃじゃ馬のような2人を宥めて、欲しい景品を取ってからボウリングに行ったが、そんなに長い間遊べなかった。

 俺やルビーは大苦戦したのだが、アイがとんでもなさ過ぎてちょっと注目が集まってしまったのである。

 

 俺が投げ、ルビーが教えつつ投げる姿をじっと見つめていたアイ。

 観察し終えたアイは「わかっちゃった」と言わんばかりの顔でボールを投げ、全部ストライクの記録で塗りつぶし、パーフェクトを連発した。

 

 アイのセンスと、アキという狼人間の体。

 

 最早ストライク量産機になってしまったアイはボウリングの景品である缶ジュース(・・・・・)を乱獲して目立ってしまい、俺達は逃げるように最上階へ。

 

 

「いやぁ、ボウリングでも完璧過ぎて困っちゃうな~」

 

「それが周りを混乱させた人間が言うセリフか」

 

「アキ君の体って、本当に思い通りに動くんだもん。これはスポーツでも完璧過ぎて目立っちゃうかもなぁ」

 

「頼むから手加減してくれ」

 

「あはは、お兄ちゃんげっそりしてる~」

 

 

 俺とアイのやり取りに大笑いしているルビーだが、当人である俺からしたら笑い事じゃないんだぞ。

 これが家族の中で男1人だけの辛さなのだろうか。少し辛い。

 

 

「ママ。私、ローラースケートできるようになりたい!」

 

「あぁー。アイドルってローラースケートしてるもんねぇ」

 

 

 なんて馬鹿なことを考えていると、ルビーとアイが走り出した。

 

 女子アイドルでローラースケートなんてしているところ、あったか?

 男子アイドルは前世の頃、テレビで滑ってるところを見たことあるが……

 

 

「どのアイドルの話だよ、それ」

 

 

 考えても出てこない答えに突っ込んでみたものの、ルビーとアイはスケートシューズを履いて滑ることに夢中らしい。

 キャッキャうふふと滑ろうとする2人に、俺の呟きは届いていないようだった。

 

 

「やる気は十分なのは良いが、滑ったことあるのか?」

 

「ないよー。でも、アキ君の体だし大丈夫でしょ」

 

「私も大丈夫だよ、お兄ちゃん。滑ったことないけど!」

 

「おいおい……」

 

 

 なんともまぁ、不安になる返事だ。

 俺も滑れるかどうかと言われるとそこまでうまくはないのだが、放っておけずにシューズを取りに行く。

 

 

「ふーんふんふーん」

 

「わぁ、ママったらもう滑れるようになったんだ。すごーい!」

 

 

 履いてさっきの場所まで戻ってくると、そこにはその場でグルグルと回ってみせたり、キレッキレな滑りを披露するアイがいた。

 

 とても素人には見えない見事な姿。

 というかあれ、俺よりも滑ってないか……?

 

 アイの姿に唖然としていると、俺に気がついたらしいルビーがこちらに近づいてくる。

 

 

「あ、お兄ちゃんだ。こっちこっち! 私に滑り方教えて!」

 

「ま、待てくれ! そんなスピードで来られても受け止めきれ──」

 

 

 猛スピードでこちらに滑り込んでくるルビーに手を広げてみるものの、あんなの受け止めきれるわけがない。

 

 今世では滑ったことなんてないし、前世だって小学生の時に友人と何回か滑った程度。

 勢いよく滑ってくる相手を受け止める包容力なんて存在しないわけで。

 

 

「はいはい。大好きだからって、お兄ちゃんに突撃はダメだよー。怪我したら危ないもんね」

 

 

 衝撃に備えていたら、ルビーの両脇に小さな手がにゅっと生えてきて、くるりと1回転。

 勢いが殺された状態のルビーが胸の中に飛び込んできたので、俺は難なく受け止めることができた。

 

 

「アイ、ありがとう」

 

「いいよ。可愛い我が子が怪我しないように見るのもママのお仕事ですから。じゃ、アクアがルビーに付きっ切りになっている間、私はちょっと滑ってこようかな~」

 

 

 アイドルっぽいウィンクとピースサインをこちらに見せて、アイは颯爽とその場を去っていく。

 腕の中にはギュッと言わんばかりに抱き着いているルビーが見えて、アイに気を遣われたのを察した。

 

 

「お兄ちゃん、いい?」

 

「……俺もそこまで上手くないぞ」

 

 

 滑ったのなんて、何十年前だって話だし、自信はなかった。

 

 しかし、意外と体……いや、この場合は精神か? そういうものが覚えているようで、俺が滑ることもルビーに滑り方を教えるのもギリギリまで時間を使って達成できた。

 

 ルビーが覚えるのが早い、ということもあったのかもしれない。

 最後に1周分、ぐるりとアイと一緒に回れる時間も取れて良かった。

 

 

 

 

 

 ……これでスポーツ施設も終わりかと思いきや、今度はバッティングマシーンの前に連れてこられていた。

 

 

「何でバッティングマシーンなんだよ」

 

「え、お兄ちゃん野球とか好きなんじゃないの?」

 

「何時好きだって言った?」

 

「先輩とキャッチボールするぐらいだし、好きなのかなって」

 

「……そのネタを擦るのはやめてくれ」

 

 

 有馬とのキャッチボールの件は遠回しだが、未だに責められている気がして嫌なのだ。

 幸いなことに、やめてくれと言えばルビーはそこまで興味がなかったのか、それ以上の追撃はなかったのだが。

 

 バッティングマシーンもアキの体を使ったアイの敵ではないらしく、ホームラン量産作業に飽きたのか、最後の方は見学に回っていた。

 運動系だと今のアイに敵う人間はいないのかもしれない。狼人間の体ってとんでもないんだな。

 

 

 

「よーし、最後は、からあげ(・・・・)だ」

 

「ルビー、行くのはカラオケだから。マイクに粉付けて油で揚げそうなものじゃないから」

 

「そのツッコミは色々とおかしいだろ……」

 

 

 ルビーのボケた発言を皮切りにズレたことを言い始めたアイに、俺の頭がズキズキと痛みを訴えかけてきた。

 マイクを揚げるって、普段どんな生活をしてたらそんな発想が出てくるんだよ。呆れて言葉を失ってしまいそうだ。

 

 安心できるのはアイもルビーも歌が上手い点か。これならば何も問題は起きないだろう。

 

 

「それでは星野アイがトップバッターで歌います! 歌は、えーと、『君が代』と……」

 

「いや、トップバッターでそのチョイスは何だよ」

 

 

 なんて思っていた俺が馬鹿でした。

 

 勢いよく手を挙げて一番最初に歌おうとしたアイが、何故かめちゃくちゃ可愛い声で国家斉唱するのだから、ルビーは大爆笑である。

 

 アイドルの無駄遣いであろう国歌斉唱から、俺達のカラオケは『いかにジャンル違いの歌をアイドルっぽく歌えるのか?』という謎の企画に進化していた。

 

 演歌もロックもしんみりとした曲も全部アイドルらしい曲になるのはもう、なんとも言えない。

 ただ言えることは──魔改造も大概にしろ。ただそれだけである。

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、今日は忘れられない思い出になった?」

 

 

 だから、帰り道にそうアイに聞かれて、疲れた頭は何も考えられずに答えていた。

 

 

「当たり前だろ、あんなの、忘れられそうにない」

 

「私も私も! 楽しかったぁ」

 

 

 ルビーも満面の笑みを浮かべているので、疲れた甲斐はあったのかもしれない。

 

 

「そっか。今日が2人にとって、良い思い出になってればいいな」

 

 

 ──この時、少女の助言をそこまで真剣に受け止めていなかった俺は、この時のアイの言葉が『何気ない日常の一コマ』にしか映らなかった。

 

 もっと真剣に考えてれば、時間は本当に大切なんだと、気がつけたのかもしれないのに。

 

 

 

 

 

 

side.アクアend

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

side.アキ

 

 

 

 家の玄関を開くと、アイさんが憑依をやめたのか、体の主導権が戻ってきた。

 

 

「もういいんですか?」

 

『うん。今日は楽しかったよ』

 

「楽しかったのなら良かったです」

 

 

 ボクの体でかなり大暴れしていたことは把握しているが、折角の親子の過ごす時間だ。

 アイさんが憑依している間のボクは殆ど休眠状態で過ごしていたので、アイさんと記憶は共有していない。

 

 

『アキ君、手に持ってる紙袋はプレゼントだよ』

 

 

 ニコニコと笑っているアイさんに言われるがままに紙袋の中身を取り出すと、赤い花のキーホルダーが入っていた。

 

 

『家の鍵用のキーホルダーとかあった方が良いかなーって思ってさ』

 

「これ、何の花なんです?」

 

『スイートピーだって。蝶々みたいで可愛い花だよね』

 

「へぇ。これ、態々買ってくれたのですか?」

 

『ううん。ボウリングの景品。アクアには黄色で、ルビーにはピンク色をあげたの』

 

「あ、はい……ありがとうございます」

 

 

 素直にお礼を言いにくい返答をされて、素直にお礼を言えなかった自分が情けない。

 何にしてもアイさんからのプレゼントなのに、どうして素直に受け取れないのか。ボクのバカ。

 

 

『ちなみにそのプレゼントね、何で渡したと思う?』

 

「景品ならお土産って感じがしますけど……何でしょうか?」

 

 

 素直に問いかけると、アイさんはクスクスと笑う。

 

 

『流石にわかんないか。それね、アキ君の卒業プレゼントなんだ』

 

「……確かに来年卒業ですけど、早過ぎません?」

 

『中学卒業って意味もあるけど、メインはそこじゃないよ』

 

「いや、いいです。聞きたくないので──」

 

 

 耳を塞ぎながら玄関から逃げようと思ったら、体が動かなくなった。

 どういうことだとアイさんの方を見ると、彼女の手がボクの体に沈んでいる。

 

 どうやら部分的に憑依することで一時的に体を動かさないようにしているらしい。

 いつの間にそんな器用なことができるようになったのか。

 

 驚いて目を瞬かせていると、押さえられない耳に聞きたくない声が届いてしまった。

 

 

『そろそろお互い、この関係を卒業しなきゃいけないからね。アキ君もわかってるでしょ?』

 

「留年できるならしたいんですけどね」

 

『ダメだよ〜? だってもう、アキ君は叔母さんと仲直りしたし、私以外にも秘密を知る人、沢山できたじゃん』

 

 

 手をボクの体から出したアイさんは、メッと人差し指をボクの鼻へと向ける。

 

 

『私はもう十分、死んでるのに生きてるような素敵な時間を過ごせたよ。アキ君から声も体も全部借りたままだから、そろそろ返さなきゃ』

 

「だからって、ここまで来たのに消滅するのは許せません」

 

『私、死んでるのに……十分楽しませてもらったから。消えても文句は言えないよ』

 

 

 元々、死後の世界とか死んだ後のことなんて考えておらず、今のアイさんはボーナスステージにいる状態だ。

 それでも、そう言われても──

 

 

「ボクは、狼人間でアイさんの器です』

 

『違う、アキ君は私とあの子達の恩人なんだよ』

 

「恩人と器は両立できるし、これがアイさんにできる最後かもしれないから」

 

 

 近所の迷惑なんて考えず、ボクは壁を叩いた。

 

 

「アイさんの決意は固いのかもしれない。でも、ボクは自分のできることは全部したいんです」

 

 

 普段から口を動かしていないツケなのか、噛みそうになりながらも、伝わるように祈りながら言葉を紡ぐ。

 

 

「お願いですから、最後の最後までアイさんを送らせてください」

 

『アキ君……ごめんね、ありがとう』

 

 

 何がごめんで、何がありがとうなのか。

 アイさんは答えてくれなかったものの、ボクの言葉に拒否は示さなかった。

 

 なら、後は彼女の為にどれだけ賭けれるかの問題だ。

 

 1年前、アイさんはボクを死なせないように助けてくれたのだから、今度はボクの番だ。

 ボクの全てを賭けることになっても、アイさんの消滅だけは防いでみせる。

 

 

 

 今、卒業だとか言わないで、最後の最期までアイさんの器として在り続けさせてください。

 そうすればボクも、アイさんの望む通り前に進めるから。

 




ちなみに、本来のボウリングの景品であるジュースは3本あったので、仲良く分けました。
石言葉とか、花言葉とか好きなんですけど、花は種類だけでなく色毎にも違うので面白いですよね。

次の話は小話集です。
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