それなので会話文マシマシ、三人称っぽいナニカの小話集を6夜分です。
こばなしに出せなかったネタもあれば、次の話への繋がりもあるかも?
アキ君とMEMちょしか出てきません。
title.スパルタ狼
『〜♪ って、どう!? 結構上手くなったよね!?』
『【うーん。ディスコードの音質を考慮しても50点ですかね】』
歌い終わって喜ぶMEMちょの声に対して、アキは無常な点数を突きつけた。
納得できなかったようで、アキのイヤホンから抗議の声が聞こえてくる。
『えぇぇっ、どうして!? ヘタウマぐらいのレベルはあるよね!?』
『【下手馬? 急に乗馬の話ですか? それとも競馬?】』
『あ、コレマジで言ってるヤツだぁ……』
『【付き合いでもないのなら、音楽に対してはマジでいきますけど。補正つけます?】』
目の前に立っていたら、有無を言うことすら許さない笑みを浮かべてそうな、圧のある音声がMEMちょの鼓膜を揺らす。
『が』
『【が?】』
『頑張らせて、イタダキマス……』
その後、音声でもチャット欄でも、ボロボロにされた25歳がいたらしい。
☆★☆
title.君の声を聞かせて
『うぅー』
キーボードの叩く音が響く。
『あぅー』
キーボードとマウスの音だけが別のマイクに拾われている。
『ぐぅー……はっ』
キーボードやマウスの音とは別に、机に何かがぶつかる音と、呻き声が聞こえてきた。
それでもなお、キーボードを叩く音は止まらない。
『うぅー、いてててて。ねぇねぇアキ君、何か話してよー。滅茶苦茶寝ちゃいそうな環境音になってるよぉ』
『【え、あ。すみません。集中してました】』
『もぉ! キーボードASMRはユーチューブで間に合ってるんだからね。話してくれないとディスコードの意味ないし』
『【でも毎日話してたらそんなに話の話題とかないんですけど】』
『真新しいことが欲しいよね。例えばぁ、アキ君の
『【生声って、言い方】』
生ビールとかそんな言葉と同列のように語られる自分の声に、アキは苦情のツッコミを入れた。
それを華麗にスルーして、MEMちょは自分が望む方へと話を持っていく。
『それで、アキ君は話してくれるの? くれないの?』
『【もし、ボクの声が出ない場合はどうするんですか】』
『ライブしてた時は声出てたし、ごく稀に声、漏れてるよ?』
『【うぐっ】』
『ダメかな?』
『【ボクには器という拘りがあるんですけど】』
『私には声を聞きたいって拘りがあるよ』
『はぁ』
そんな言い争いをしていたら、メムのイヤホンに中性的なため息が聞こえてくる。
『今! 今聞こえたんだけどもう一回聞かせてくれないかな!?』
『【嫌なんですが】』
『お願い!』
『【嫌です】』
その後、何度も同じやり取りをしたものの、アキは頑なに声を出さず、MEMちょが根負けした。
☆★☆
title.一人暮らし歴
『アキ君って中学生なのに1人で暮らしてるって話だけど、いつからなの?』
『【いつからでしたっけ。10年は超えてなくても、片手の指以上。それぐらいは確実に1人で暮らしてますね】』
『ベテランじゃん!?』
『【世の中、色々とあるんですよ】』
色々、という言葉にそこはかとなく感じる地雷っぽい香り。
しかし、MEMちょとアキは期間が短くとも、比較的普通の友人関係よりは深めの関係である。
これぐらいならいけそうだなと素早く判断したMEMちょは踏み込んでいた。
『ちなみにその色々って何か聞いても?』
『【その、小さい頃は捻くれてる上に、夜は言うことを聞かない奴でして。とにかく馬鹿みたいに手がかかる餓鬼だったんですよね】』
『アキ君が? へぇ、全然見えないけどなぁ。ちょっと意外かも?』
うーん、と唸るMEMちょに対して、アキは実例を用いて話し始める。
『【毎日、夜中になると1人で外出して、夢遊病のように同じ仲間を探してたんですよね。ボク自身も記憶がないぐらいですし、体を縄で括っても逃げ出して外に出て行ってたみたいなんです】』
『それは困るし、怖いよね。叔母さんも大変そう』
『【睡眠時間もガリガリ削られていたと思いますし、実際、大変だったと思います】』
自分の子供でも大変だろうに、他人の子供が毎日真夜中に家を出ていくとかノイローゼになりそうである。
ジャブの話の時点で大変さが伝わってくるのに、MEMちょは怖いもの見たさなのか、更に突っ込む。
『他には?』
『【満月の日には自傷行為するでしょ。後は、叔母さんは普通の人間ですから、血縁関係だと認められなくて『家政婦さん』って思いこんでたし、実際にそう呼んでました】』
『う、うわぁ』
想像よりもとんでもない話に、MEMちょは言葉を失う。
しかし、そんなMEMちょに気が付いていないようで、アキは音声を流した。
『【叔母さんも悩みに悩んで、でも何時か手を出してしまいそうで怖いから。だから1人で暮らしてくれないかしらって、泣きながら言われたのが1人で暮らし始めたきっかけでした】』
『え、でもそれだと夢遊病みたいな症状はどう対応したの?』
『【夜になると部屋の鍵が開かなくなるオートロック式の扉と、トイレが備え付けられた部屋を自室にして、引き篭ってましたね】』
『お、おぅ』
MEMちょ、今夜2度目の絶句である。
どうやらアキの家はかなり改造を施されていたらしい。
よくもまぁ大家から許可を貰えたな、とMEMちょは現実から目を背けるように感心した。
『【その後は夜中の夢遊病や自傷行為はなくなったんですよね】』
『あ、そうなんだ。それは叔母さんも安心したんじゃない?』
『【その代わり、自分の口から言葉を発さなくなるわ、日に日に女の子っぽく……更に死んだアイドルに見た目が近づいていくんですけど】』
『うん、安心できないね。取り消すよ、さっきの言葉』
どうやらアキの叔母はかなり苦労をしてきたらしい。
あの日の女性に向かって、MEMちょは激励を送らずにはいられなかった。
☆★☆
title.受験生だよね?
ピロン、と独特な音が鳴り、チャンネルにMEMちょのアイコンが現れる。
『やっほー、アキ君。今何してるの?』
『【こんばんは。何って勉強ですよ】』
『へぇ、勉強かぁ。そういえばアキ君って中学生だよね。何年生?』
『【中学3年生ですよ。アクアさんやルビーさんの1歳下です】』
『ふーん、中学3年生かぁ……え、中学3年生? 受験シーズンで忙しいあの?』
『【そうですけど】』
MEMちょはアキが勉強している所をそこまで見たことがない。
それなのにアキは中学3年生だという。その年の子といえば受験生であり、机に齧り付く時期ではないか。
『ちょちょちょ、私らの手伝いやら仕事を取るやらそんなことしている場合!? 自分のお受験は!?』
『【アクアさんと同じ学校の普通科に行くので、大丈夫ですよ】』
『いや、でも勉強はしなきゃ落ちるかもよ?』
『【この前の全国模試は1位ですし、面接で馬鹿なことしなければ大丈夫だと思うんですけど……】』
『確かに、全国模試で1位なら大丈夫……って、1位ぃ!? え、アキ君って音楽極振りキャラじゃなかったっけ?!』
『【はは。求められた
『どういうこと?』
『【色々あるってことです】』
MEMちょは訳も分からずに首を傾げていたものの、アキが受験生という心配をしなくてもいいということだけは理解できたのだった。
☆★☆
title.その声の仕組みって?
『アキ君が普段使っている合成音声を再生させてるのってどういう仕組みなの?』
『【これですか? ボクの叔父にあたる人が作ってくれたんですよ】』
『叔父? 叔母さん以外にもいたの?』
『【いますよー。叔父さんは父親のお兄さんに当たる人で、叔母さんは父親の妹になるらしいです】』
アキの父方のご家庭は男2人と女1人、養子が1人の4人兄妹である。
だが、そんなことを知らないMEMちょは驚くような声を出していた。
『へ~。でもアプリとか開発できるのなら、そういうのに強い人なんだね』
『【まぁ……その分野では誰も勝てないんじゃないかって思わされるぐらい、天才だと思いますよ】』
『そこまで言うなんてすごいね。もしかして有名人だったりして~』
からかうようなMEMちょの声に対して、返事として流された音声は真面目そのものだった。
『【MEMちょさんは宝藤院
『そりゃあ知ってるよ~。『日本版ゲイツ』とか『魔法使い』とか色々言われるぐらい凄い天才プログラマーだって言われてるよね。後、すごいお金持ち』
『【その人に作って貰っただけあって、使いやすいんですよね。この合成音声アプリ】』
『まさかアキ君の叔父さんって……?』
『【苗字は違うんですけどね】』
『アキ君、まさかの良いところのお坊ちゃんだったの!?』
MEMちょは思わず叫んでみたものの、思い返せばそれらしいところは多々ある。
そもそも幼い頃にユーチューブ運営できる機材や楽器を買い揃えられたり。
事故物件だとしても当時なら良いお値段するであろうマンションをたった1人の子供の為に借りるだけでなく、マンションを改造してしまったり。
思い返せばポンポン出てくる証拠に、MEMちょの声は少し裏返っていた。
『アキ君って正しく玉の輿っ子だったかー』
『【残念ながらボクは家系図に載ってないので、無関係ですよ】』
『そうなの? アキ君の家って複雑だねぇ』
家系図に載ってないってどんな状態なんだろう、なんて考えつつ、MEMちょは努めて明るい声を出す。
『【まぁ、メムさんの2人や3人、叔父さんの力がなくても養えますけどね?】』
『その、それ、どういう意味?』
『【さぁ。どうでしょうか?】』
結局、MEMちょが気になった答えはその日の夜に得られることはなかった。
☆★☆
title.宮崎のおつかい
『そろそろ旅行の時間だぁ、楽しみだなぁ』
『【ウキウキですね、メムさん】』
『宮崎は《神話のふるさと》って言われるぐらいだからねぇ。ご利益ありそうだからあやかりたいよね〜』
『【神話のふるさとですか……嫌な予感しかしない呼称ですね】』
元気なMEMちょの声に対して、アキの声はどことなく暗い。
今までのことを思い出しているのか、アキの呟くような言葉は嫌悪感が滲み出ていた。
『最近はルビーとアクたんのこともあるし、アキ君におつかいを頼んでも良い?』
『【おつかいですか?】』
『そそそ。私達が高千穂で撮影している間、アキ君には宮崎市の日本三大の最強パワースポット《江田神社》に行って欲しいんだよ!』
どうやらMEMちょは縁結びや厄除開運、恋愛成就、災難厄払いとご利益があるらしい江田神社のお守りをルビーとアクアにプレゼントしたいらしい。
自分で行けと言うには高千穂から宮崎市は遠く、別行動できるアキに頼むのは合理的だろう。
『【わかりました。そのおつかい、承りますよ】』
『ありがとう、アキ君。いやぁ、江田神社の御神体的にも、アクたんとルビーにぴったりだと思ったから安心したよ』
『【御神体がピッタリって?】』
『おや、アキ君は知らない? 江田神社の御神体は国産みの神様って言われている『
イザナギとイザナミといえば兄妹の神であり、夫婦の神でもある。
だからこそ双子にピッタリだと笑うMEMちょに、アキは疑問の音声を流した。
『【でも、イザナギとイザナミって別れてませんでした?】』
『イザナミが火の神を産んで、火傷で死んじゃったって話だよね。それでも日本最初の兄妹の夫婦の神だし、ご利益とかありそうでしょ』
『【妹であるイザナミは死んでしまったって、縁起悪そうですけど】』
『でも、神社のご利益の方が多いし、厄祓いに縁があるし、パワースポットとしてお墨付きじゃない?』
『【……ふむ。これは益々行かなきゃいけない気がしてきましたね】』
『おぉ、アキ君も乗り気だねぇ』
アキとMEMちょ、お互いに気持ちは違うものの、目的は変わらない。
(兄妹のカップルの妹を殺したがりな理由は、自分も火傷で死んで兄と別れたから。死者の魂を狙ってくるのは、死んだ後に黄泉の国の神になったから)
アキはミュートにすることなくスマホの画面を指で叩き、頭を回転させる。
(偶然で片付けるには該当し過ぎというか。思い当たる節が多過ぎますね)
アクアとルビーの前世や誕生に何かと縁がある、宮崎。
アキとその父親に因縁のある神が祀られているという、宮崎。
アキはちらりと扉の方を見る。
自室には誰もいないが、扉の向こうで佇んでいるであろう姿を想像して、スマホを叩くのをやめた。
『【旅行。楽しまなきゃ、損ですよね】』
『そうだねぇ。折角なら、楽しみたいよね』
『【メムさん】』
『うん? なぁに?』
『【旅行の日は大変なことになるかもしれないんですけど……協力、してくれますか?】』
『MV撮影の時は遠慮して欲しいけど……うん、私にできることならね』
神なんてわけのわからぬ存在が干渉しているのだ。何が起こるかなんて、アキには予想できない。
『【ありがとうございます、メムさん】』
それでも前に進まなければならず、アキは1人、誰もいないことを良いことに顔を歪めた。
宮崎って土地の親和性がとてもよろしかったので、原作よりファンタジーマシマシになってます。