誤字脱字報告など、助かっています。
やっと、16日まで連日投稿できるように予約できましたので、引き続きお楽しみください。
side.アクア
「ねぇ、アクアくん」
「すまん。できれば言ってほしくないんだが」
俺の心からの懇願は、残念ながら黒川には届かなかったらしい。
「かなちゃんに釘を刺されたのに、どうして早速私と2人きりで行動してるの?」
「……アキがどこかに行って都合がつかなくなったんだよ」
慰安旅行1日目。
颯爽と別行動し始めたアキによって、俺の予定は早速音を立てて崩れ去っていた。
「そもそも、どうして私と一緒に行動したいなんて言っちゃったの? ルビーちゃん、絶対にスイッチ入っちゃったよ?」
「言葉選びはもう少しした方が良かったとは反省している。だが、今回の件は俺にも言い分があるんだよ」
俺が宮崎の旅行についてきた理由はルビーが心配であるが8割と、探し物を見つける為というのが2割だった。
頭脳的に探偵のような黒川と、狼男という能力的に探偵のような行動もできるアキ。
2人がいれば探し物もすぐに見つけれて、隠すことぐらいはできると思っていた。
だが、アキが宮崎市に行ってしまったので、俺の他人任せの計画がオジャンになってしまったのである。
「探し物かぁ。私、あくまで女優だからそこまで力になれないかもしれないけど」
「いや、黒川の力は十分助かる。きっと大丈夫だ。そうじゃなきゃ困る」
主に、後々のルビーのことを考えると、思考したくないぐらい困ってしまう。
「それで、ルビーちゃんの地雷を踏んでまで探したい物って?」
「死体」
「したいって……え、それって」
「今なら白骨かな。もしくは遺体といえばいいか」
黒川は暫く、電池の切れた機械のように動きを止めていたものの、やがて口だけは動きを思い出したかのように形を変える。
「アクアくん、もしかして今、山に行ってるのは証拠隠滅する為に……?」
「待て待て待て! 違うから。それはちが、いや、ある意味違わないのか? ……とりあえず話をするから、それから判断してくれ」
今は俺の尊厳や印象よりも、1分1秒が惜しい。
俺は思い切って黒川に最大の情報である『前世』のカードを吐き出した。
「──えぇと。つまり、アクアくんは前世の記憶を持っていて、未だに行方不明扱いされている前世の自分が落下死した場所を見付けたいってこと?」
「その通りだが、意外と驚かないんだな」
何言ってるんだとか、困惑されるか頭の病気とかを疑われてもおかしくないかと思っていたのだが。
「前世を覚えてるっていうの自体、嘘か本当かはわからないけど、テレビで特集される程度には『ある』話なんだよね。アクアくんの場合ははっきりと覚えていて、地続きみたいだから、種類が違うんだろうけど」
どうやら黒川は彼女なりに自分の知識からそれらしい理論を持ってきて、俺の今の状態を理解しようと努めてくれているようだった。
「ありがとう、黒川」
「お礼はまだ早いよ。だって、今からこの広い山から宝探しするんでしょ?」
物騒なワードを『宝』で誤魔化し、黒川は山に向けていた目を細める。
俺を彼女に倣うように山に視線を向けると、自分で言い出したのにも関わらず、うっそりとした気分になってしまった。
あの山から死体を探すとか……自分から言っておいて、本気かよ。
「やっぱり俺1人で探すか?」
「ここまで来て、私1人だけ置いていかれるのも嫌なんだけどなぁ」
獣道を前に黒川が困ったように笑う。
それもそうだ。ここに連れてくる前に決めておくべきだったし、説明するべきだった。
行き当たりばったりな行動をし過ぎだろ、俺。
情けなくて頭を抱えてしまいそうだ。
「犯人が埋めてたりしたら、見つける難易度とか大変そうだよね」
「埋めてる線は考えにくいんだよな」
「そういう証拠って、消されてもおかしくないと思うけど」
「見つからないようにされてるのなら、有難いぐらいなんだよ。最大の問題が──ルビーに見つかることなんだから」
もしもルビーに変化があるとしたら、
いくらアキや俺からの情報でルビーが知っているとはいえ、知識と経験では衝撃が全然違う。
「ルビーが不安定な状態なんだから、俺はあの子の心を守れるように、手を打ちたい」
「親しい人でもそうでない人でも、死を感じるものを見る衝撃は計り知れない……か。わかった、探してみよう」
ただし、2時間までね。
そう言ってピースサインをする黒川に一言礼を告げ、俺達は獣道を進むことにした。
迷わない範囲で遠い昔の記憶を辿って探すものの、やはりそれらしいものは見つからない。
暇になってきたのか、1時間は黙って探していた黒川も話しかけてきた。
「そういえばアクアくんって、最近ルビーちゃんと出かけたの?」
「おいおい、最近まで舞台で忙しかったことは黒川も知ってるだろ」
「えー、でも間とか、時間を見つけて行かないものなの? それとも距離が近いからそんな必要もない?」
「どちらかというと後者かもしれない」
そう答えたら、隣で黄色い声が聞こえてくる。
女子という生き物は本当に恋バナとかそういうのが好きだな。
あぁ、でも、最近でいえば。
「本当につい最近なら、ルビーとアキと1日遊んだな」
「へぇ、アキちゃんとも仲良いんだね」
「まぁな。キーホルダー貰ったし、今度お礼を買おうかなって思ってる」
「良かったら、どんなキーホルダー貰ったか教えてもらっても良い?」
「ん? あぁ、別に良いぞ」
遠慮がちに聞いてくる黒川に家の鍵につけておいた黄色のスイートピーのキーホルダーを見せる。
それを視界に収めた黒川は大きく目を見開き、足を止めた。
「どうした?」
「ねぇ、そのキーホルダーってアクアくんだけ貰ったの?」
「いや、ルビーはピンクで、自分用に赤色のスイートピーのキーホルダーを買ってたはずだが」
「アキちゃんって花言葉とか詳しいのかな? うーん、でも、逆に詳しくないのかもしれない?」
右手を口元に持ってきて、左手は右肘に添えた黒川は考え込んでいるようだ。
思考が持っていかれているのか、足は一歩も前に出ない。
俺も歩くのをやめて、黒川の前に立った。
「スイートピーの花言葉ってそんなに悪いものだったか?」
「ううん。西洋とかなら兎も角、日本だと前向きなことに使われることが多いかな。でも、来年卒業のアキちゃんが貰うんじゃなくて、“あげる”っていうのに違和感があって」
黒川の話によるとだ。
スイートピーは『別離』や『門出』という花言葉があり、卒業祝いや引越し祝いに贈られることが多くあるらしい。
ちなみに西洋とかだと『さよなら』や『私を忘れないで』という意味もあるらしいが、基本的にはお祝い事や卒業式で渡されることが多いんだとか。
だからこそ、来年に卒業するアキが貰うのなら兎も角、アキが俺達に渡すのは違和感がある、と黒川は言う。
「もしかしてアキちゃんと別れる予定があるのかなーって、思っちゃったりしたんだよね。いや、アキちゃんも男の子だし、花言葉とか気にしてないのかもしれないけど!」
慌てて否定している黒川の言葉が、冷や水を浴びせられた俺の頭に響き渡った。
……あのキーホルダーをくれたのは男のアキじゃない。
アキに憑依したアイが、態々途中で抜け出して買ってきたと言っていたものだ。
親子揃ってお揃いのキーホルダーが欲しいっていうのも多分、アイお得意のとびきりの
そろそろ別れると予測したアイが、何か贈りたいと思って俺とルビー、そしてアキに用意したであろうプレゼントなのかもしれない。
スマホを取り出して検索してみると、それぞれの花言葉は簡単に出てくる。
赤がスイートピーは黒川が言っていたもの以外に『優しい思い出』という言葉が。
ピンクには優美、繊細、恋の楽しみ。
黄色には分別、判断力というものがあるらしく、何となく『考えて動け』とアイから言われている気がした。
「とりあえず、探し物を優先しよう。キーホルダーの件はアキが合流してから問い詰めてみる」
「……私の気のせいかもしれないよ?」
「それならそれで良いんだよ」
頭がキーホルダーの件で一杯になりながらも何とか傍へと追いやり、当初の目的を達成しようと、黒川と2人で山を彷徨う。
しかし、残念ながら2時間の捜索も虚しく、何の成果も得られずに俺達はアキの帰りを待つことになった。
side.アクアend
☆★☆
side.アキ
慰安旅行1日目の夜。
【ただいま合流しました〜】
勤めて明るく扉を開けると、アクアさんが今にも殴りかかってきそうな攻撃的な目でこちらを睨んできた。
周囲には困り顔の黒川さん、こちらをぼんやりと眺める有馬さん、ワタワタとその場で慌てるメムさんがいて、ルビーさん以外は勢揃いだ。
【皆さん大体お揃いでどうしたんです?】
「お前に聞きたいことがある」
「で、私達はコイツが馬鹿なことやらないかの見張り役」
アクアさんがボクに用があり、有馬さん達がアクアさんのストッパーらしい。
確かに、今のアクアさんには何かあれば殴りかかってきそうな凄みがある。
アクアさんの聞きたいことも大体わかったし、殴られる覚悟はしようか。
ボクはアクアさんの前に立ち、音声を再生した。
【アクアさんの予想通りですよ。そしてそのことについて、ボクは知っていました】
「──ッ、お前っ! 知ってたのなら何で言ってくれなかったんだ!?」
アクアさんに胸倉を掴まれ、側にいたアイさんが小さな悲鳴をあげる。
憑依しようとするアイさんを手で制し、できる限り意地の悪い笑みを浮かべた。
【言って、何か解決しますか?】
「それは、考えて」
【知って、魂というよくわからないモノをどうにかできますか?】
「それは……」
【皆さんに言って何ができるっていうんです? ボクだってどうにかしたいのに……どうにもできないのに】
「それでも、一緒に悩んでやることぐらいはできるだろ。1人で悩んで、苦しんで、そうやったってお前自身が重荷で潰れるだけだろうが」
殴られるだろうと思って言ったのに、アクアさんがやったのはボクの額を人差し指で突くだけだった。
「俺に殴られることで自分を罰しようとしたのか? 残念だったな」
【……】
「今、必要なのは罰じゃない。今わかっている情報とこれからどう動くか? 何かが起きた時に止まらないように、迷わないように、ちゃんと決めることだ」
ふう、と息を吐いてからアクアさんは周囲をぐるりと見渡す。
「なぁ、今までの事、全員に話してもいいか?」
【……良いんですか?】
「もう十分巻き込んでしまっているのに、いつまでも黙っていたら良くないだろ」
それもそうか。神という存在がどのようにルビーさんに干渉してくるかわからない以上、最悪は想定した方が良い。
問題はアイさんも納得してくれるかどうかだが……
『大丈夫だよ。話せるなら話した方が良いっていうのもわかるから』
アイさんも頷いてくれたので、ボクも強く反対する理由はない。
狼人間であることも霊能力者的力だと言った方が話も早いだろうし、1年前のことを言わずに現状の説明に必要なことだけをまとめればいいだろう。
【では、少し話をまとめますね】
というわけで必要そうな話をざっとまとめてみよう。
数年前に星野家双子のお母さんであるアイさんを見つけてしまったボクは、アイさんを成仏させようとずっと動いていた。
その過程で双子に接触したところ、死人の霊をずっと現世に留めていたことと、兄妹というカップルに目を付けた神的存在が妹のルビーさんに干渉し始めてさぁ、大変。
最近、ルビーさんが元気がなくなっていたり、様子がおかしいのも恐らく、神のような存在の干渉によるものだと思われる。
予想が間違いなければ『神話のふるさと』とも呼ばれる宮崎という縁ある地で、神的存在はさらに干渉を強化してくるだろう。
だからこそ、アイさんはここで生まれてしまった因縁を自分の存在を賭けて終わらせようとしており、ボクはそんな彼女を憑依させて、成仏は免れなくても『魂が消滅すること』だけは避けようとしている。
その為、今日は宮崎市の江田神社に向かい、不審な男に接触してまで目的達成に必要そうなアイテムを入手した。
──というのが、ボクが話せるややこしい情報をそぎ落とした話になる……と思う。
「その不審な男にもらったアイテムっていうのが、手に持っているそれか?」
【はい、桃と櫛ですね】
「桃と櫛? 何の役に立つんだよ」
アクアさんが微妙そうな目を堤に向ける中、狼人間にも負けない推理を頭脳のみで発揮してしまう天才、黒川さんが口を開いた。
「古事記とか出てくる、イザナギとイザナミの黄泉の国のお話に出てくるよね、桃と櫛」
「なんだっけ、鶴の恩返しに似た奴でしょ。見ちゃいけないってヤツ」
有馬さんも何となく記憶にあるのか、うろ覚えの知識を口に出している。
2人の言う通り、イザナギがイザナミからの追手から逃げる為に髪飾りや櫛、桃を投げつけて逃げたのだ。
だからこそ、全く関係のない道具だとは言い難いのである。
【櫛の方はアクアさんに渡しておけと言われたので、渡しておきます】
「話し通りなら投げたらいいのか?」
【どうしようもなくなった時に投げろとのことです】
「それは難しい話だな」
じっと櫛を見つめているアクアさんから視線を外し、有馬さん達の方へと目を向ける。
【ボクとアクアさんはルビーさんを守る為に動きます。有馬さんや黒川さん、メムさんは巻き込まれる可能性があるので話しましたが……この旅行でルビーさんと関わらなければ、無関係でいられる可能性が高いです。巻き込まれたくないのなら、ルビーさんと距離を取るのを勧めます】
「……ふーん、そうなの。巻き込まれるか巻き込まれないかは、その場の私が決めることにするわ」
「あ、じゃあ私もそうしようかな」
肝がどっしりと座っているらしい有馬さんと黒川さんはさらりと言ってのけ。
「んー、MV撮影中に来ないと良いねぇ」
メムさんなんて話から少々ズレた心配をして、暗い空気にはしないという気遣いを感じられる。
黒川さんはアクアさんへの恩返し。有馬さんはルビーさんとアクアさんへの好意とそれぞれの感情で気を遣ってくれている。
そこまで話してから──そろそろ日付が変わるような時間であり、明日もMVの撮影があるということで、今夜は解散することになった。
かな「って、ちょっと待って。今、アイドルのアイがアクアとルビーの母親って言わなかった!?」
あかね「うん、他にも衝撃的な情報が多くて、スルーされたけど言ってたね」
めむ「さらりととんでもない情報が流されてて怖いよねぇ。アイの隠し子とか、スクープ過ぎるよ……」
そんな話があったりしたかもしれない。