特別な彼女の引き立て役Aです   作:大森依織

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Aなりの嘘

 

side.アキ

 

 

 正直、前回のやらかしもあったので、もう会わないかもしれないなーって思っていた。

 アイさんの『大丈夫だと思うよー?』って言葉も半信半疑だった。

 

 でも、ルビーさんはまた、ライブハウスに来た。

 母親って子供のことをよくわかってるんだなぁと感心したのは内緒である。

 

 

「ギターって難しい」

 

【あはは……そりゃあ一朝一夕でできませんよ】

 

 

 今は一緒にギターの練習をしているが、上手いか下手かを聞かれると、初心者という点を考えるとかなり上手だと思う。

 あぁ、最初はこうだったなーって懐かしくて、少し微笑ましい。

 

 

【別にギターじゃなくても、リズム感を作るだけですし、カスタネットとかでも……】

 

「カスタネットとかダサいよ」

 

 

 とんでもないことをズバッと言うとは、怖いもの知らずかな?

 

 そこんところ、どう思いますかアイさん?

 

 

『いやぁ、私も生前はギターとかしたことなかったし、かっこいいよねー』

 

 

 何とも言い難い回答ありがとうございます。

 聞いたボクが愚か者でした。

 

 

『冗談だよ。アキ君がギターで、私が歌ったライブで憧れてくれたのかもね』

 

 

 なるほど、憧れですか。

 アイさんの知るルビーさんって、純粋で素直な人なんですね。

 

 

『でしょー、自慢の娘なんだ』

 

 

 胸を張って笑うアイさんは誇らしげだ。

 幽霊になっても娘自慢を始めるアイさんご自慢の娘さんはというと──気がつけばギターを天高く持ち上げ、振り回していた。

 

 

「やってられるかこんな練習ーっ」

 

 

 あー、お客様(ルビーさん)、そのギター高いから投げようとしないでぇー!?

 

 

 どうやらルビーさんの我慢の限界に到達したらしい。

 荒ぶる神を宥めるようにルビーさんを落ち着かせると、ボク達はカフェで休憩することにした。

 

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

 

 

 

 ライブハウスAI☆landのカフェスペースにて。

 

 

「はぁ」

 

 

 桜を模したマキアートを飲むルビーさんが、徐ろに溜息をこぼした。

 

 どうやらかなりお悩みのようだ。

 ギターを投げ飛ばそうと(普段ならやらないような事を)したりと薄々勘付いていたが、今日は重症かもしれない。

 

 

【何かありました? 相談できる事なら聞きますけど】

 

「んー、困る」

 

【困りますか】

 

「……うん、夢を叶えるのって難しいなって」

 

 

 また、溜息。

 

 ルビーさんはまだ中学2年生だし、夢破れるのにはまだまだ早いと思うのだが。

 これは身内の人から反対されたとか、そういう線を考えるべきか。

 

 

『反対しそうなのはアクアかな』

 

 

 あぁ、アクアさんか。

 小学生だった時から賢いアクアさんのことだ。きっと『アイさんと同じ轍を踏んでほしくない』とか思ってるのだろう。それなら納得できる。

 

 考えれば考えるほど、想いあってるいい兄妹だ。

 

 

【ルビーさんは才能、あると思いますけどね】

 

「どーだろ。マ……私が憧れてる人は、私ぐらいの歳でもうアイドルだったけど」

 

 

 ぐったりと机に突っ伏すルビーさん。

 その隣で見えてないことを良いことに、アイさんが『私? 私ー?』って大喜びですよ。よかったですね……

 

 

 それにしても、比較対象はアイさんかー。

 

 アイさんの話聞いている感じ、売り込みに有利な作戦を組める軍師を掴める運と、才能、後は行動力があれば、ルビーさんもいけそうな気がするんだけどな。

 

 

『うんうん、佐藤社長がいなきゃ私もあそこまでいけなかったと思うし、アイドルになってないもん』

 

 

 アイさん。その人の名前、たぶん斉藤社長です。

 

 

 

 とまぁ──名前を間違ってるアイさんは置いておいて、だ。

 

 ボクの個人的な感想だし、アイさんが側にいることによるフィルターや贔屓が入ってないとは断言できないけど、ルビーさんにも才能はあると思うし、それを正直に伝えようか。

 

 

【別に、憧れてる人をそのままやらなくてもいいと思いますよ】

 

 

 『女は秘密を着飾って美しくなる』という台詞を、漫画の中で見たことがある。

 それの典型的な例が、アイさんなのだろうとボクは思うのだ。

 

 同じ面積の三角形を用意したところで、二等辺三角形と正三角形が同じ形にならないように。

 

 同じアイドルという形になったとしても、アイさんとルビーさんが同じであることはあり得ないわけで。

 

 アイさんにはアイさんだけのアイドル像(せいかい)があって、ルビーさんにもルビーさんだけの正解がある。

 だから、ルビーさんは貴女らしい形で同じ頂点まで登った方が良い。

 

 

『──って、言ってあげたらいいのに。私はよく言った! って思ったけどなー』

 

 

 そうアイさんに言われても、外見を寄せてる上に実の娘や息子よりも長時間、大切な母親を独占しているボクが言えることじゃないんですぅ。

 

 だから絶対に口に出しません。頭を掴まれても吐かないぞ!?

 

 

 

 

 ……そうやってアイさんと静かな攻防を繰り広げていると、ルビーさんが机から顔を上げた。

 

 

「ママみたいにスカウトが来るとは思えないし、こうなったら片っ端から応募するしかないかなー」

 

【あはは……下調べはちゃんとしてくださいね】

 

 

 変なところに引っ掛かったら、ルビーさんの保護者の人とアクアさんが大変そうだ。

 アイさんだって心配するだろうし、その辺りは気をつけてほしいものである。

 

 

「そういえばアキはアイドルにスカウトとかされないの?」

 

【スカウトですか?】

 

「そうそう。マ……いや、そっ……ううん。そのさ、見た目とか可愛いし!」

 

 

 ルビーさん、あなた、ママとそっくりって言いそうになってますよね。

 

 ふとした調子で炎上しそうなぐらい言葉の節々が危なっかしくて、知らぬふりも大変である。

 もしかしてこれもアイドル反対の理由だったりするのだろうか。

 確かにこの危うさは反対したくなる気持ちも理解できてしまう。

 

 

【仮にあったとしても、生徒手帳見せたら退治できますけどね】

 

「えー、そこら辺の女の子に負けないぐらい可愛いのに」

 

【性別の壁はまだまだ大きいんでしょうね】

 

 

 そもそもスカウト自体、来られても困るが。

 

 これでも動画や作詞作曲方面で食べてる歌い手だし、アイドルに近いのは見た目だけだ。

 ボクが女の子だったら調整も楽だし、アイドルとして共演する夢も叶えられたんだけど、無い物ねだりは仕方がない。

 

 って、あぁ、そうだ。共演するで思い出した。

 

 

【ルビーさん、この前の件、考えてくれましたか?】

 

「えっと、ライブに出るって話?」

 

【ですです。一緒に歌うってだけでいいんです】

 

 

 ──いつかなんか上手くいったら、親子共演みたいなさ。楽しそうだよね。

 

 それはアイさんの心残りの一つだ。

 

 一応、表向きは成仏作戦を続行している身としては、出来うる限りアイさんの願いは叶えなければならないオーダー。

 アイドルになるのは難しいかもしれないが、ルビーさんと共演するってところだけはできれば叶えたい。

 

 

「そのライブの日って、お兄ちゃん呼んでも大丈夫?」

 

【アクアさんですか? 別に問題ないですけど】

 

「じゃあ、出れるかも……あっ。ごめん、お兄ちゃんに相談してから後で返事するね! バイバイ!」

 

 

 突然、立ちあがって走っていくルビーさんを前に、ボクは手を振ることしかできない。

 

 カフェのお会計を済ませて外に出ても、ルビーさんの影も形とない。

 本当に帰ってしまったようだ。嵐のような展開である。

 

 帰ってしまったのならば仕方がないか。ギターとかも置きっぱなしなので、取りに帰らなくては。

 

 

 

 

 

 

side.アキend

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 

 

side.アイ

 

 

 

 まさか『突然立ち去る』っていう技を使って少年に奢らせるなんて、私の娘の才能が怖いね。

 

 なんて言ってみたけど、あの子はそんなつもりなかったんだろうな。結果的にそうなっちゃってるけど。

 

 

『ユキ君、ごめんねー。ルビーがご馳走になっちゃって』

 

「アキです。支払いの方は平気ですよ。大した値段じゃないですし」

 

 

 普通の中学生ならラテマネーだって十分大した値段だ。

 社会人だって継続ダメージが大きいというラテマネーを、気にした様子もなく払うのはなかなかできることではない。

 

 アクアもそうだけど、この子もモテるだろうなぁって、四六時中一緒だと思うんだよね。

 

 

『カキ君、結構ルビーと仲良くやってるよね』

 

「アキです。ルビーさんとですか……共演の件もありますし、仲良くしなきゃ実現しないでしょう」

 

『別に嫌なら無理しなくても良いんだよ。器云々とかは私にはわからないけどね』

 

「いえ……どちらにしろ、ルビーさん達には悪いことをしてますから。自己満足の罪滅ぼしってだけですよ」

 

 

 ひらひらと片手を振り、ギターの手入れをする姿は見慣れたものだ。

 

 あの日から年々、自分の写し鏡のような姿へと変わっていく君。

 

 初めて会った時は1年という世界から切り離された孤独感から嬉しかったけど、今となっては本当にこれで良かったのかなって思う気持ちの方が強いかもしれない。

 

 

『ルビーとキキ君は友達みたいだったのに。罪滅ぼしとか、そんな風に思ってたの?』

 

「アキです。どんな理由であれ、人様の親を独占しても良い理由にはならないってことに気がついたんです」

 

『それ、キキ君は悪くないよね』

 

「そんなお猿さんみたいな名前じゃないんですけどね。良い悪い以前に、友人を作る理由もないですし」

 

 

 なんて言ってるけど、まだまだ甘いなぁ。強がってるの、わかるよ。

 

 

『なら、どうしてルビーの練習に付き合ってくれるの? 仲良くなるって理由だけなら、毎日夜遅くまでメニューを考えるほど入れ込む必要はないよね』

 

「……さぁ、どうしてでしょうね」

 

 

 ぴくりと眉を動かして、君はまたギターへと視線を向けるけど、反応してるのがバレバレだよ。

 

 

 

 

 ──こう、長い時間君と一緒に過ごしていると『どっちの方が良かったんだろう』って考えるんだ。

 

 

 

 

 私はあのまま、幽霊のまま君に見つからない方が良かったのかな?

 

 そうしたらきっと、アクアは復讐に囚われるよね。

 見たらわかるよ、あの子はやり遂げるまで何としても走り切りそうだもん。

 色んなものを利用してさ、心を擦り減らして、周りの人を振り払って利用して、最後にはやり遂げちゃうんだろうな。

 

 ルビーも今は大丈夫だけど、何かきっかけがあったら突き進むかもしれない。

 だって、ルビーも凄い気持ちを奥底に隠してそうなの、ちょこちょこ見えてたし。爆発したらどうなるか、ママでもわかんないんだよね。

 アイドルって夢すら利用して、私と同じようになっちゃうのは何というか、違うと思うしね。

 

 

 

 だからって、君の思う通りにしちゃうのが正しいことなのかな?

 

 絶対に違うよね。私は仲良くなった人が犠牲になってまで生きたいなんて思ってないんだよ。

 

 アキ君、私に直接言ってないけど、消えるつもりだよね。

 

 小学生の時にアクアとルビーに出会ってからは特に『実の子供達と一緒にいるはずの時間を、他人である自分が独占してしまった』って罪悪感に苦しんでる。

 

 君が悪いのなら、私なんて最悪だよ。

 

 迂闊だった私が原因で始まっちゃったことなのに、君もアクアもルビーも、誰も私を責めないんだ。

 

 どうして死んじゃったんだって殴っても良いのに。

 どうして幽霊として目の前に現れてくれたんだって、怒れば良いのに。

 

 死人を責めた方が楽なのにね。皆優しいんだもん。

 

 

 だから、皆には幸せになってほしいな。

 幸せに生きてほしい。

 

 だって、あの時言った『愛してる』は絶対に嘘じゃないから。

 

 

 

 アクアの復讐の方はアキ君が動いているだろう。あれは私が狼男の能力を低く見積り過ぎた。

 

 なら、今、私ができることは何?

 

 ママとして、幽霊状態の私はアクアとルビーに何を残せる?

 幽霊な私に夢を見せてくれたあの子をどうすれば助けられる?

 

 

 

 皆、前を向いて歩いて貰うために、考えて、考えて。

 

 ──結局、私にできることは嘘を使うことだった。

 

 




滅茶苦茶どうでもいいことなんですけど、【推しの子】のお墓参りのシーンで『お墓の正面の部分って人でいう顔の部分だから、基本的に『手書きの文字』とか『はっきりとわかる太い文字』が多いし、明朝体で彫刻されることなんてほぼない。星野家の墓って超希少種だぁ……』とか、どうでもいいところに目がいっちゃう。
後ろのお墓とかはお墓で普通に彫刻されてる書体の文字だし、わざと差をつけてるのかな……? それとも漫画媒体の都合……?

って、こんなところに目がいくの、私ぐらいなんでしょうけどね。

5/7:誤字報告ありがとうございます。便利機能ですね、感動しました……
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