特別な彼女の引き立て役Aです   作:大森依織

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AとAが再会したら

 

 

side.ルビー

 

 

 

 お兄ちゃんとアキを再度引き合わせる。

 

 その為にアキに会いに行ったんだけど、チャンスは向こうから転がり込んできた。

 ライブ共演のお誘いなんて、乗る以外の選択肢はない。

 

 ……最悪、お兄ちゃんが来てくれなくてもママの夢が叶った気分にはなれるし。

 

 

「お兄ちゃん、ちょっと良い?」

 

「何?」

 

 

 今日もまた机で難しそうな本を読んでいるお兄ちゃんに声をかける。

 

 こちらを見て大事な要件だと察したのか、お兄ちゃんは本を閉じて聞く体勢に入った。

 私はすかさず長方形のペラ紙を1枚、手渡した。

 AI☆landの目玉イベントになっているライブのチケットだ。

 

 

「これはどこかのライブチケットか?」

 

「うん。お兄ちゃんに来て欲しいの。そして、会ってほしい人がいるんだ」

 

「AI☆landってことは、アキか」

 

「うん」

 

 

 やっぱりお兄ちゃんはアキを知ってたんだ。

 手で口を隠すような動作をするお兄ちゃんに、私はアキに抱いた印象を話す。

 

 二重人格っぽいとか、合成音声の時は怖く感じた。口で話す時のアキはママっぽい。

 悪口になるかもって頭に過ったけど、全部話してみたのだ。

 

 

「そうか。週末だな、予定を開けておくよ。アイツも何か知ってそうだしな

 

 

 お兄ちゃんは難しい顔をしつつもライブに来てくれるらしい。

 きっとお兄ちゃんならアキのことを見破ってくれるだろう。

 

 私は部屋に戻って早速アキ君に連絡する。

 タイミングがよかったのかすぐに既読がつき、秒もかからずに『了解しました!』っていう狼のスタンプが返ってきた。

 あまりにも早いレスポンス。反射能力でも競ってるのかな?

 

 それにしてもこのデフォルメされた狼シリーズのスタンプ、可愛い。節々から女子力を感じるなー。

 

 ……あっ。

 

 そういえば私、今日のカフェでお会計せずに帰っちゃったよね?

 特にそういう連絡もないけど、黙って払ってくれたってことだよね。

 うわぁ、やっちゃった。会って1年も経ってない年下の男の子にお金払わせちゃったなんて。

 

 ライブ前に、というか明日の放課後、爆速で向かってお金返さなきゃ……

 

 

 

 

 

 

 

side.ルビーend

 

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 

side.アクア

 

 

 

 

 あえてボケるとするならば『ここがあの男の(ライブ)ハウスね』と言えば良いのか。

 

 どうやってアキと再び接触するか迷っていた所にちょうど良く現れたチャンスだ。

 今度こそ頭を混乱させて、何もできないまま帰宅するわけにはいかない。

 

 ライブハウスの中に入ると、女性客が多いカフェにチラチラと男の客がいる姿も見えた。

 

 パッとみただけでも、50人近くはいるんじゃないだろうか。

 これでも一部だというのだから、かなり盛況なライブなのがわかる。

 客層はルビーの言う通り、アイドルのものに近そうだ。

 違いといえば、男女比率が半々という奇跡の割合だろう。男の娘というのがそれだけ特別なのかもしれない。

 

 ルビーの話もあり、アキに関しては警戒するところも多くある。

 

 しかし、ルビーとそっくりさんとはいえアイのライブだ。

 あの映画の撮影の時のことを考えれば、楽しみだと思ってしまう俺がいる。

 

 

「ライブ後に話す時間はあるか」

 

 

 なら、今はこの無粋な気持ちを抑え、できうる限り楽しめるように努力しようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言うと、楽しんでしまった。

 

 小さい箱のバンドのライブなんて、と馬鹿にしていた自分を反省したい。

 大きさなんて関係なく、あの、ズレ(・・)ずにいられない感覚。

 

 本能的に察した。やはり(ターゲット)はアイと何か関係を持っている、と。

 

 1番はアイが俺達と同じように転生しているっていう線だが、ルビーの話を聞く限りそれはなさそうだ。

 なにより、男を母と呼ぶのには前世持ちの俺では荷が重すぎる。

 

 そんな馬鹿な方へと思考が流れていると、不意に背後から声がかけられる。

 

 

「あらやだ、その何考えてるかわかんない顔。いつぞやのイケメン君じゃない」

 

 

 関係者以外に立ち入り禁止の場所でルビー達を待っていたら、いつぞやのオーナーが「はろはろー」と手を振っていた。

 

 雰囲気がミヤコさんよりも上に見えるのだが、皺が全く無い肌といい年齢が全く読めない。

 ミヤコさんのいい勝負できる年齢不詳さを感じる女性だ。

 前回は気が付かなかったが、彼女も中々厄介そうである。

 

 

「あぁ、オーナーさんですか」

 

「えぇ、オーナーさんよ。で、お目当ては今日のライブの主役よねー? まだ出てくるのに時間がかかるだろうし、こっちで待ってなさいな」

 

 

 オーナーが親指でくいくいと指し示すのは関係者以外立ち入り禁止のゾーン。

 オーナーの職権濫用か? オーナーが良いと言っているのなら入るが、その前に。

 

 

「無警戒に入れてもいいんですか?」

 

「あらやだ、心配してくれるの? 中坊なのに生意気。まるで愛器(アキ)みたいだわ」

 

 

 余裕を感じさせるこの貫禄。流石はこの箱の主なだけあって、オーラが凄まじい。

 

 

「……アイツとはどんな関係で?」

 

「血縁的には叔母。あの子の認識的には家政婦ね」

 

「それはまた、複雑なご家庭のようで」

 

 

 転生者の双子にアイドルの母。

 そして推定殺人者の父親の俺の家庭も大概だが、奴の家も嫌な予感がするな。

 

 

「あなた、愛器(アキ)の友達なんでしょ。何も聞いてないの?」

 

「アイツは秘密主義なんで、聞いても教えてくれませんでした」

 

 

 というのはルビーの証言だが、友人であるかのように振る舞って情報を引き出してみるか。

 

 

「ふぅん、困った子ね。愛器(アキ)に直接聞いたってことは、あの子の事情に興味あるの?」

 

「まぁ、はい」

 

 

 オーナーは腕を組んでじっとこちらを観察していたが、やがて「まぁいいわ」と呟くと、話し始めた。

 

 

「あの子はね、血筋だけならとある名家の子供なのよね。父親は名家の次男坊だけど、息子で人体実験をしたせいで豚箱行き。母親は『こんな化け物の顔なんて顔も見たくない』と名家の当主様に息子を押し付けて蒸発……とまぁ《家系図から抹消したいぐらいヤバい案件の子供》なの」

 

 

 ……うわぁお、予想以上にヤバい血縁事情が出てきたぞ。

 早くも聞いたことを後悔しそうだが、アイの手がかりになるかもしれないのだ。我慢するしか無い。

 

 

「ま、そんなこんなで親にも誰にも愛されなかったせいで、捻くれちゃってねー」

 

「そのせいで二重人格みたいになったんですか?」

 

 

 ここまできたら怖いもの見たさで、本人からは絶対に聞けない話を聞いてみた。

 さて、どんな話をしてくれるんだ……?

 

 

「あなたはあの子のアレを二重人格って思うのね。私はむしろ、悪霊にでも取り憑かれてんじゃないかって思ってるんだけどね」

 

「悪霊?」

 

「あの子が変わったのって、事故物件に引っ越してからだからなのよ。それっぽくないかしら?」

 

 

 また変な情報が出てきたな。どこまで情報を盛れば気が済むんだよ、厄介事のデパートか。

 

 

「ただねぇ。その事故というか、事件が只事じゃ無いから私もこの予想が笑えなくて」

 

「そんなにヤバい物件だったと?」

 

「私も最近調べて知ったんだけどね、愛器(アキ)が今住んでるマンションって──昔は人気だったアイドル……確かアイだったかしら? その子がストーカーに刺殺された場所なんですって」

 

「!?」

 

 

 怖いわよねー、と話すオーナーの声が遠くに聞こえる。

 

 昔、アイと3人で暮らしていたあのマンションに、アキが今住んでいる?

 

 もしも本当にオーナーの言う通り、アキにアイの面影を感じる理由が『憑依』だったとしたら。

 普段の人格がアキ本人のものであり、俺やルビーが『アイ』だと認識した時がアイの幽霊が『憑依』した時だったら。

 

 もしかしたら、アイと話すことができるのか?

 アイ本人から話を聞けるのか……?

 

 

「イケメン君、大丈夫? 顔色悪いわよ?」

 

 

 心配そうな顔でこちらをみているオーナーと目が合う。

 

 

「体調悪いのなら帰る?」

 

「……いえ、大丈夫です。妹も心配なので」

 

「そう? 若いからってあんまり無理しちゃダメよ。あぁ、もうこんな時間じゃない! じゃ、愛器と君の妹ちゃんはあの部屋にいるから、後はごゆっくり〜」

 

 

 オーナーはルビー達がいる部屋を指し示すと、そそくさとその場を去っていく。

 彼女が無関心な人で助かった。お人好しだったらややこしいことになっていただろう。

 

 

「限りなく真実に近そうだが、真相はまだ不明だ」

 

 

 復讐は未だ果たせず。

 しかし、先にアイに会えるかもしれないという事実に、胸の高鳴りが止まらない。

 

 震える手でドアノブに手を伸ばし、扉を開いた。

 

 

「あっ、お兄ちゃん。どうだった、私と初ライブ! ……お兄ちゃん?」

 

 

 迎え入れるようなルビーの声が、唖然としたものに変わる。

 

 

「お兄ちゃん、怖い顔してるけど……どうしたの?」

 

「少しな」

 

 

 ルビーを一瞥し、目的の人物の方へ。

 

 今は『アキ』の方なのか、真っ暗闇のような目でじっとコチラを見つめたアキはスマホに何かを入力した。

 

 

【もしかして、ボクの過去の話でも聞いちゃいましたっ? オーナーってばお喋りさんですねー】

 

 

 アイのような顔で能面を作り出しているのに、再生された合成音声は場違いなぐらい明るかった。

 ルビーもギョッとした顔で「あの時と同じだ」と呟いている。

 

 なるほど、あれがルビーの言っていたアキの怖い面か。

 俺が警戒しているのにも気付いているはずなのに、アキは構わずスマホから音声を流した。

 

 

【アクアさん、1つ、尋ねてもいいですか?】

 

「何だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【もしも、1人を犠牲にして大切な人が生き返るとしたら、あなたは生き返ってほしいですか?】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはルビーから聞いていた質問と全く同じだった。

 

 ルビーはわからないと答えたそうだ。

 確かに、この雰囲気だと変な答えをしたら何が起きるかわからない緊張感がある。

 だから、俺も誤魔化さなくてはいけない。そう、頭ではわかっているのに──

 

 

 

 

 

『罪悪感』

 

 

 

 

 

 ──っ!

 

 

「生き返って、欲しい」

 

 

 言った、言ってしまった。

 ただの質問のはずなのに、何か取り返しのつかないようなことをした気がする。

 

 それなのに、質問主の『アキ』は不気味なぐらい、とても嬉しそうだ。

 

 

【あぁ、良かった。これで心残りもなくなります】

 

 

 アキはルビーと俺の間を通り過ぎ、部屋の扉を開く。

 

 

【多分、質問したくてここに来たんですよね? でも、今はきっと不適切でしょう。大丈夫です、また2人きり(・・・・)の時に全部答えますよ。全部ね……】

 

 

 ガチャリ、と閉じられた扉の音が部屋に響く。

 

 やがて沈黙が訪れた部屋には、俺とルビーの2人だけが取り残されたのであった。

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