中央暦1640年5月17日
第三文明圏フィルアデス大陸の南
アルタラス島 アルタラス王国
昨年11月の侵攻からアルタラス島を73ヵ国目の属領として実効支配していた列強パーパルディア皇国であったが、日本国から派遣された自衛隊・Gフォースの攻撃によりアルタラス島に駐留していた皇国軍戦力はすべて壊滅。
さらにルミエス女王の宣言した『その刻』に備えていた反皇国地下組織が、各地で一斉に蜂起。呼応した多数の市民たちと共に既に虫の息になっていた皇国施設を襲撃し、各都市の奪還に成功する。
4月21日の正午には、アルタラス島の全域がパーパルディア皇国の圧政から約半年ぶりに解放され、アルタラス人たちは独立を取り戻したのであった。
その後もアルタラス島内に巣食っている皇国残党軍の掃討、シュサク長官が秘密裏に育成していた『メガヌロン』の生き残りの駆除などに手間取ったものの、日本国の支援を受けた新生アルタラス王国政府は、順調にアルタラス島の実効支配力を回復していった。
なお、敵対国家であるパーパルディア皇国の首都『皇都エストシラント』がすぐ近くに位置していることから、支援の一環として『ごうてん型対特殊生物戦闘護衛艦』を含む海上自衛隊の護衛艦隊が交代でアルタラス島防衛の警戒任務に就いていた。
勿論、ただ防衛しているというわけではなく、今年2月に行われたルミエス女王との会談で取り決められた空港施設の拡張工事が、急ピッチで進められていた。
再び王都となった『ル・ブリアス』の北にあるルバイル平野には、かつてムー連邦が簡易的な滑走路を建設していた。それらの空港設備を大型 V/STOL 機の離発着にも耐えられる仕様へと増強し、さらに湾港機能をもった海・空複合型の大型基地施設『ルバイル基地』として運用しようとしているのだ。
またルバイル平野にある小高い丘の周辺でも、大規模な基礎工事が大詰めを迎えていた。巨大な設備や計器類の搬入作業が開始されており、その中には、直径100メートルを超える化け物サイズのパラボラアンテナの姿があった。
2月末の閣議において、アルタラス島への設置が決定された対特殊生物迎撃用超大型メーサー砲台こと『マーカライトファープ』の砲身部分である。
万が一、防衛任務に就いている護衛艦に搭載されているミサイルや砲弾数を超えるほどの圧倒的な物量で皇国軍艦隊が襲来したとしても、『マーカライトファープ』が稼働していれば、水平線の先からまとめて薙ぎ払うことが可能なため、空港施設の増強と合わせ、設置に向けた準備が最優先で対応されているのだ。
※ 日本国が国家転移したこの惑星では水平線が17キロメートルもあり、またマーカライトファープは、この小高い丘の上にレーダー系の施設とともに設置される予定のため、ルバイル基地設置機の有効射程は20キロメートル以上になると想定されている。
実際のところ、フェン王国侵攻時に全海軍戦力の三分の一を消滅させられてしまった皇国軍の現状では再度の侵攻は不可能に近く、またそれほどの大艦隊であれば、湾口施設で出撃準備しているところを偵察衛星で宇宙から即発見されてしまうが・・・。
『アルタラス島奪還作戦』が決行された約三週間後である本日、安全に帰国できる状態になったことから、新生アルタラス王国政府の首長となったルミエス女王は日本国の政府専用機に搭乗し、アルタラス島へ帰国の途に就いていた。
無事『ルバイル空港』へと着陸し、タラップを降りてきたルミエス女王は、新生アルタラス王国と日本国の国旗を持ったアルタラス王国の民から、万雷の喝采と歓声で出迎えられる。
この日、ルミエス女王は新生アルタラス王国の再独立と建国を高らかに宣言。その様子は全世界へと報道され、特に第三文明圏周辺へ大きな影響を及ぼすのであった。
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中央暦1640年6月1日
第三文明圏の東 大東洋
日本国 首都東京 防衛省
この日、麻生内閣総理大臣は、パーパルディア皇国戦に関する今後の作戦概要について、説明を受けていた。
会議室内に設置されたプロジェクタースクリーンには、パーパルディア皇国の首都である『皇都エストシラント』を中心に、北は『聖都パールネウス』、東は『工業都市デュロ』までの皇国勢力圏と、南はアルタラス島北部までの地図が表示されている。
「アルタラス島で建設中の『ルバイル基地』が完成した後にはなりますが、今後の対皇国作戦概要を説明致します。」
防衛省幹部がレーザーポインターで、皇都エストシラント北部を指しながら説明を開始する。
「皇都エストシラントから少し離れたこの位置に、極めて大きな基地施設が存在します。幸いなことに、パーパルディア皇国は街から少し離れた場所に大規模な要塞や基地を作る方針を採っているようです。同サイズの極大基地施設は、皇国勢力圏に三か所・・・フィルアデス大陸の東側にある工業都市デュロと北東にある山岳帯の近くに確認されました。」
「この基地には多数の航空戦力、つまりワイバーンとその改良型の大型種が確認されました。また施設内には、フェン王国戦時に確認された地竜やその巨大種も確認されており、まさにこの基地は首都防衛の要となっているようです。」
「また南方にある軍港にも数百隻の戦列艦や竜母が停泊しており、今も隣接するドックでこれらの建造が進められています。」
規模だけでいえば、19世紀の大英帝国すら凌駕する戦力に、流石の麻生首相も息をのむ。
「この極大基地に対しては、まず『スーパーXⅢ改』と『量産型ガルーダ』を主軸とした戦力で敵ワイバーン部隊や特殊生物群を一掃します。その後、『F-2』戦闘機と『P-3C』対潜哨戒機の爆装仕様機を大量投入し、大規模爆撃でこれらすべてを殲滅します。」
「また同タイミングで『ごうてん型対特殊生物戦闘護衛艦』や『スーパーX2改』を含む海上自衛隊の2個護衛艦群を投入し、軍港やドックなどの基地施設を完膚なきまでに破壊します。」
第一段階である『敵首都の防衛戦力の殲滅』作戦の概要説明が完了し、第二段階へ移行後の説明が開始される。
「続いて第二段階である『敵の継戦能力の無力化』へと移ります。」
「大陸北東にあるフィルアデス山岳地帯に、2つ目の極大基地があります。この中央に位置しているフィルアデス山ですが、ロデニウス大陸のエルフの話によれば、約2000年ほど前に大規模な噴火があったようです。現在は、そのときの大規模噴火によって形成されたカルデラ湖周辺に豊かな自然が形成されており、ワイバーンや地竜の繫殖場となっているようです。」
「前身である『パールネウス共和国』の頃にこの繁殖場を独占し、ワイバーンや地竜の使役に成功したことで、皇国は列強国としてのし上がれたみたいです。そういった経緯もあり、皇国発祥の地として聖都と呼ばれているとか・・・。」
「話が逸れましたが、この繁殖場を守るように、極大基地施設とともに周辺に大小基地施設が多数設置されています。大陸中央部ということもあり、通常航空機では航続距離が足りず、かといってスーパーXⅢ改のような特殊機体だけでは、これらすべての攻撃は不可能です。」
「そこで、皇国軍から反撃される可能性が限りなく少ない、『宇宙』からの攻撃を考えています。『カグヤ』から『量産型スターファルコン』を打ち上げ、宇宙ステーションきぼうで『窒素弾頭』を積み込み、そのまま低軌道上から地表に向けて宙対地爆撃を敢行します。」
「爆撃対象はこの極大基地施設、そしてフィルアデス山の火口部です。このフィルアデス山ですが、死火山や休火山ではなく活火山であることが地表観測衛星や偵察衛星のデータから判明しています。低軌道から落下させることによる衝突エネルギーを利用してカルデラ内の火砕流堆積物層エリアを貫通し、マグマたまり部で窒素弾頭を炸裂させることができれば、約2000年にもわたって蓄えられたマグマのエネルギーが一気に解放され、破壊的大噴火を起こすと想定されています。」
「スーパーコンピューターの京や富岳を用いてシミュレートしました結果、この大噴火は大規模な火砕流を発生させることが判明しています。カルデラ周辺の繁殖場やその周辺の基地施設は発生した火砕流によって焼き尽くされ、そのすべてが消滅、または壊滅的被害を受けることになるでしょう。」
高温の火山ガスや火山灰や軽石などの火山砕屑物が混合された火砕流は、温度は1000℃を超えることもあり、その流下速度は時速100キロメートルにも及ぶ。
ヴェスヴィオ火山噴火による古代ローマの都市ポンペイの埋没、プレー火山噴火によるサンピエール市が全滅した話など、火砕流が引き起こした大災害は、世界各地に伝承として残っている。日本でも1991年の雲仙普賢岳の噴火において、避難勧告を無視したマスコミの無謀な取材により、消防団員たちが巻き込まれてしまった悲惨な火山災害の話が有名だ。
「幸いなことに、聖都パールネウスは軍事機密的な意味合いからか、これら基地施設よりもかなり離れた場所にあり、また標高も高いため、火砕流や噴出したマグマの影響を受けることはないと想定されています。」
「続いて、東にある『工業都市デュロ』への攻略についてです。この都市の西部には、最後の極大基地が建設されており、これらの軍需工場と合わせて攻撃対象となっています。こちらについては、先日の『アルタラス島奪還作戦』において、ヤゴ型特殊生物を育成した容疑で拘束したシュサク氏から重大な話を聞き取れましたため、午後の部でそちらと合わせて説明させていただきます。」
パーパルディア皇国へ、破滅という死神の足音が一歩、また一歩と着実に近づいて来ていた。