中央暦1640年6月1日
フィルアデス大陸 列強国 パーパルディア皇国
皇都エストシラント 第一外務局
日本国の首都東京にある防衛省の会議室において、『パーパルディア皇国』という名の独裁者を『破滅』という名の処刑台へ導く線路の敷設計画が協議されていた頃、皇都エストシラントの第一外務局では、エルト局長が頭を抱えていた。
属領として支配していたアルタラス島が4月末に奪還され、数日前には皇国からの再独立と新生アルタラス王国の建国を大々的に宣言されてしまった。
パーパルディア皇国の歴史上、一度攻め落として属領や植民地とした地域に再独立、もしくは奪還された事は、たったの一度たりとも無かった。
パーパルディア皇国は、現在72か国に減ってしまった属領を『圧倒的な軍事力』という恐怖で支配し、『暴力』という鎖によって縛り上げている。したがって、『圧倒的な軍事力』という前提が揺らぎ、『暴力』という鎖が緩み始めるとどういったことが起こるだろうか・・・。
考えるまでもなく、皇国によって踏みにじられた自分たちの国や誇りを取り戻そうと決意する者たちが現れ、アルタラス王国に続こうとするだろう。現時点では、『臣民統治機構』の職員や属領統治軍が普段以上に目を光らせ、押さえ込んでいるが、これ以上皇国軍の敗退が続けば、もうお終いである。
皇国軍惨敗の主原因となっている『日本国』について、年始のフェン王国侵攻軍敗退を受け、情報局や外務局が一丸となった調査が続けられており、パーパルディア皇国はある推論を下していた。
『日本国』は、第二文明圏の雄である『ムー連邦』が第三文明圏における影響力を高めるために支援している傀儡国家であると・・・。
2月初頭に行われた日パ会談において、逆上したレミールに拘束されそうになった外交官たちを救出するため、『スーパーX改』が皇都エストシラントへ単騎で殴り込みを敢行したこと、またアルタラス島奪還時において撮影された『日本国が運用していた兵器』の映像を踏まえ、エルト局長たちの考えたこの疑惑はさらに強まっていった。
アルタラス属領統治機構の職員はアルタラス島の皇国軍施設を襲撃した『金属製の大型飛行機械』の撮影に成功し、魔法通信が途絶する直前、ル・ブリアス内に併設された湾港施設『ハイペリオン基地』から皇国本国へ送信していた。
撮影された大型飛行機械こと『スーパーXⅢ改』や『量産型ガルーダ』の姿かたちは、ムー連邦の『商業都市マイカル』近くの空港で確認された最新式飛行機械の特徴に酷似していたのだ。
ダメ押しといわんばかりに、ムー連邦政府はパーパルディア皇国への渡航制限に加え、皇国内にいるムー国民に対して国外退去命令を発令。これにより、皇国幹部たちの抱えていた疑惑は、ついに確信へと変わる。
列強であるパーパルディア皇国と文明圏外の蛮族国の日本国。この2カ国が戦争状態になったところで、列強の本土が脅かされる事は無い。まして、自国民に皇国本土からの退去命令を出すなど、通常であればありえない判断であった。
本件について問いただすため、出国間際であったムー連邦のパーパルディア皇国駐在大使『ムーゲ』を呼び止め、皇国からの召喚に応じて間もなく第一外務局へ出頭してくる予定となっていた。
外れてほしかった推察が当たり、局長室のデスクで落胆していたエルト局長だが、列強 VS 列強という戦争へ突入したことに肝を据え、会談場所である会議室へ向かっていった。
==========================================================================
第一外務局の会議室には第1外務局長エルト、皇族レミール、以下外務局の幹部たちが全員同席していた。国外へ退去するムー国民たちが、港や空港で長蛇の列を作っている光景はレミールたちも見ており、苦々しい気持ちでムーゲ大使の到着を待っていた。
実のところ、ムー連邦以外の他国民、特に日本国と友好関係にあるほぼすべての国々についても、日本国政府からの要請により、皇国領土からの退去命令が出されているのだが、世界第二位の列強国であるムー連邦ほどのインパクトがないためか、特に気にも留められていなかった。
数分後、会議室のドアをノックされた音が小さく響く。重厚な扉を開け、ムー連邦のパーパルディア皇国駐在大使ムーゲと職員3名の計4名が入室する。
緊急召集されて会議室へ到着するまでの間、ムー連邦のムーゲ大使は皇国に呼びつけられた理由について考えていた。
おそらく今回本国から指示された皇国からの退去命令についての説明だろう。もしかすると、今回の会談で皇族であるレミール皇女までもが出席していることも考慮すれば、皇国が日本国に対して殲滅戦を宣言した件について、アルタラス島陥落などを踏まえて調査をやり直し結果、日本国の真の実力にようやく気付いた。そして、講和のための仲裁を慌てて依頼してきた・・・といった感じだろうと予想していた。
もしそうであれば、1月末に行われた皇国との会談時から有耶無耶にされたままになっていた『皇国が日本国との会談において、ムー連邦が提唱した医療への攻撃禁止を否定するかのような発言までしたこと』について、今度は厳しめに追及してやろうとも思っていた。
「それでは、これよりパーパルディア皇国とムー連邦の緊急会談を開始します。」
会談の開始と同時に第一外務局のエルト局長でなく、いきなりレミールが話を切り出す。
「我が国が日本国と戦争状態に突入していることは、既にご存じかと思う。それに関連し、ムー連邦政府の対応について説明をお願いしたい。」
皇国よりも上位列強国の大使が相手のためか、日本国の朝田大使と会談した時のような高圧的な命令口調ではないが、ところどころに苛立ちを含んだ口調でレミールが話す。
「はい、このたびパーパルディア皇国と日本国が戦争状態に突入致しました。今戦争は、日本国が貴国を『特テ国』へ指定したことも踏まえ、激戦となる可能性が高いと判断しました。ムー連邦政府は、ムーの民の安全を確保するため、貴国への渡航制限、ならびに貴国からの避難指示を発令するに至りました。」
「また今回の指示には、大使館の一時引き上げも含みます。この措置は、皇都エストシラントを含む皇国全土に戦火が及ぶとの判断からなされています。」
思っていたような回答ではなかったためか、ムーゲ大使の回答を聞いたレミールは表情を曇らせる。
「いや、上辺は良いのです。調べは付いています。本当のことを話していただけませんか?」
レミールの問いかけにその意図が理解できず、ムーゲ大使は困惑した表情をしたまま職員たちと顔を見合わせる。ムーゲ大使の様子を見たレミールは、さらに強い口調で話しを続ける。
「そのような三文芝居をするとは、ムーもとんだ狸を送り込んで来たものだ・・・。我が国は日本国との戦闘で、飛行機械が使用されているのを何度も目撃した。飛行機械が作れるのは、貴国ムー連邦くらいのものだ。」
棘のある態度へと豹変したレミールは、ムーゲ大使たちの前に2枚の魔写を叩きつける。
「これは一か月ほど前、貴国の『商業都市マイカル』近くの空港で確認された最新式飛行機械の魔写だ。そしてもう一枚は、アルタラス島において、我が軍の基地施設を攻撃していた日本国の飛行機械の魔写だ。色や大きさには違いがあるが、翼の形やこのよくわからない構造の推進器などの特徴は両機とも酷似している。」
「そしてもう一つ。我が皇国が創り出した新型魔獣が、フェン王国に加え、アルタラス島でも日本軍に撃破された。この新型魔獣は、海魔のように水中を自由自在に動き回ることができ、魔導砲などの兵器では攻撃を命中させることすらできないだろう。もう私が何を言いたいかわかるな・・・。」
レミールは、今にも襲い掛かってきそうな表情で問い詰める。
「あなた方ムーは、今まで決して輸出して来なかった機械科学兵器を日本国に輸出した。それもこのような最新鋭の機種をな! そして水中にいる海魔のような魔獣を倒すことができるのは、貴国が守護神と崇める海竜『マンダ』だけだ!! 極め付きに今回の皇都からの自国民の引き上げ、これが何を意味しているのかは、馬鹿でも解るぞ!!」
「何故日本に兵器を輸出し、マンダを奴らの救援に寄越した!! 何故我々の邪魔をするのだ!!!」
ムーゲ大使たちは、魔王ノスグーラですら裸足で逃げ出しそうなレミールの迫力に萎縮していたが、パーパルディア皇国のあまりに的外れな推論に戸惑っていた。またそれと同時に、皇国が敗北の原因を祖国であるムー連邦のせいと一方的に決めつけ、あろうことか守護神として崇めている海竜『マンダ』を、まるで生物兵器であるかのような扱いでなじったことに、酷く憤りを感じていた。
ムーゲ大使は皇国側の誤解を解くため、静かな口調でゆっくり説明し始めた。だが、その顔は愚か者を見るような、冷たく据わった目へと変わっていた。
「あなた方皇国は、重大な勘違いをされている。我々ムー連邦は、日本国はおろか、どの国にも自国の兵器は一切輸出していない。また我が国の守護神である『マンダ』を、まるでモノのように他国へ貸し出すなどということは決してしない!」
「そもそも我々よりも機械科学技術が進んでいる日本国が、我々の兵器を輸入することなどありえない。貴国は・・・、皇国はきちんと日本国について調査したのですか?」
以前に会談した日本国の朝田大使を彷彿とさせるようなムーゲ大使の態度に、レミールはさらに激情して大声で怒鳴る。
「文明圏外の蛮国が、第二文明圏の列強国よりも機械科学文明が進んでいる。そんな与太話が信じられるか!!」
「彼らは・・・、日本国が転移国家という話は、聞いておられないのですか? 日本国は国交締結交渉を行う際、必ず説明している筈だと思いますが。」
パーパルディア皇国にとって、『遅すぎる答え合わせ』が始まった・・・。