中央暦1640年6月1日
フィルアデス大陸 列強国 パーパルディア皇国
皇都エストシラント 第一外務局
『ムー連邦』のパーパルディア皇国駐在大使ムーゲとの会談に出席していたレミールは、自分の耳を疑っていた。
ムー連邦が日本国に最新鋭の機械科学式兵器を輸出し、かの国が守護神と崇める海竜『マンダ』を連中の援軍として差し向けたであろう件について、ムー連邦がどう言い訳するのか、それとも開き直った態度で宣戦布告するのかと身構えていた。
しかしムーゲ大使の回答は、『日本国が転移国家である』・・・というレミールが思わず拍子抜けするような空想染みたものであったのだ。
ムーゲ大使の『転移国家』というワードには、彼女も見覚えがあった。昨年末に第三外務局のカイオス局長たちが初めて日本国と会談したときに作成された報告書の冒頭で、そのような内容が記載されていたような記憶があった。
また会談時に日本国から渡された資料にも、似たような内容が書かれていたような気がする。しかし彼女は現実主義者であり、そんな空想絵巻のような内容を本気で信じることは出来なかった。
「貴国はそのような戯言を信じているのか?」
「信じます。我が国以外の国では、神話としか思われていないが、我が国もまた転移国家なのです。1万2000年前、当時の歴史書にはっきりと記録されています。」
バカにしたかのようなレミールの問いかけに、ムーゲ大使はきっぱりと即答する。
「日本国について調査した結果、我が国の元いた世界『地球』から転移した国家であり、1万2000年前の異世界での友好国です。当時の友好国『ヤムート』と『ニライカナイ』は、我がムー連邦が国家転移した後に様々に名を変え、現在は統合して日本国となっているようです。」
いまいち信じ切れていないレミールたちの様子をみたムーゲ大使たちは、カバンから写真を出して机の上に並べる。
「レミール殿下が出されたこちらの航空機ですが、我が国ではなく、日本国の政府専用機の写真です。我がムー連邦は、今年の3月に日本国と経済協力協定を締結しました。その一環として、『商業都市マイカル』では港湾整備や空港施設の強化が急ピッチで行われています。」
ムーゲ大使は、数か月前に拡張工事が完了した『商業都市マイカル』の大型滑走路の写真を指差しながら説明する。
「ムー大陸と日本国は2万キロメートルもの距離があるため、港湾施設以上に空港設備の強化を重視していました。我が国と貴国を結ぶ最新鋭旅客機『ラ・カオス』でも、補給のために途中の第一文明圏(中央世界)内の空港に立ち寄っていることはご存じでしょう。日本国の場合は、さらに空港での燃料補給回数が増えるため、片道5日程度もかかってしまいます。」
「ですが、日本国の大型航空機では航続距離が1万キロメートル以上もあるため、2日まで短縮可能なのです。空港施設の拡張工事が完了し、このような大型機の離着陸ができるようになったことを祝う式典に出席するため、日本国の外務大臣が先月我が国を友好来訪しました。そのときに搭乗してきた機体が、こちらの写真の航空機なのです。」
「一方こちらは、日本国の軍隊である『自衛隊』が所有する『スーパーXⅢ改』という名の戦闘機です。我が国の戦闘機『マリン』のようなプロペラがついておらず、先ほどの航空機同様、ジェットエンジンと呼ばれる高度な技術で作られた推進器が使用されています。大きな違いとしては、こちらは戦闘用のため音速以上の速度で飛翔することができ、機械科学式の誘導魔光弾や攻撃対象を瞬間凍結する魔光砲などの超兵器をいくつも搭載しているようです。」
レミールはいまだに疑心暗鬼しているようだが、軍事に詳しい幹部たちの一部は事の深刻さを理解したのか、金魚のように口をパクパクさせ始める。
「航空機だけではなく、艦船も我々の百年以上先をいく超技術で建造されています。こちらは昨年の11月、マイカルへ来訪した日本国の海軍『海上自衛隊』の最新鋭艦である『しんてん』です。ただの軍艦ではなく、水上での運用はもちろん、水中や地中への潜行、さらには空中飛行まで可能な超万能艦らしいです。日本国の旅行中、これほどの大きさの軍艦が、実際に飛行している様子を見かけたときは、流石の私も腰を抜かしそうになりましたよ。」
レミールの隣で涼しい顔をしていたエルト局長の顔が引きつり始め、喉奥から震える声を出す。
「レミール様、この魔写に写されている軍艦・・・。艦首に装備された螺旋状の巨大な衝角をはじめとした特徴的なフォルムは、昨年にアマノキ軍祭の襲撃に失敗したポクトアール提督が供述していたものに瓜二つです。まさか・・・」
エルト局長の話を聞いたムーゲ大使が思い出したかのように付け足す。
「そういえば、同型の三番艦『きょうてん』がアマノキの軍祭に招待され、その際に貴国からの襲撃を受けたと日本国から伺ったことがあります。その情報も皇国内できちんと共有されていなかったのですか?」
あまりに杜撰な皇国の体制に呆れたような声で話すムーゲ大使であったが、レミールはおろか、エルト局長やその他幹部たちも放心しているようで、完全に右耳から左耳へ素通りしているかのようであった。
「ついでに言いますと、貴国の水棲魔獣を撃破したのは、これらの『ごうてん型護衛艦』だと思いますよ。日本国が転移する約50年前、元いた惑星『地球』では、取り残されていた我が国の姉妹国が『マンダ』を使役し、世界征服を企てた事件があったようです。そのときに活躍したのが、この艦の前身である『轟天号』という軍艦で、マンダもその軍艦一隻に敗れ去ったのだとか・・・」
「貴国の新型魔獣が我が国の守護神『マンダ』よりも強いのであれば、まだ判断できません。しかしもしそうでないのであれば、そのときから50年後の技術でさらに発展・強化した化け物軍艦が相手です。もう結果は言うまでもないでしょう・・・。」
ムーゲ大使の発言や写真を受け、パーパルディア皇国の面々は顔色がどんどん悪化していく。全員の顔が血の気を失って青白くなっており、まさに死人のようだ。すでに皇国側の残りライフはゼロであるが、ムーゲ大使は容赦なくさらなる追撃を行う。
「これは日本国の首都、東京の写真です。日本国は転移前、災害が多い国だったようです。おまけに転移する約20年前まで、毎年のように神龍のようなまさに天災とも言える巨大生物たちの襲来を受け、それらと存亡をかけた戦いを繰り広げてきたようです。それでいてなお、これほどの高層建築物を生み出し、発展させるほどの国力を有しています。」
「もうお分かりかと思いますが、軍にしても、技術にしても、日本国は我々よりも遥かに強いし、先を進んでいるのです。神聖ミリシアル帝国はおろか、古の魔法帝国と同等レベルと言っても過言ではないでしょう。そんな国にパーパルディア皇国は宣戦を布告し、そして殲滅戦の宣言をしてしまったのですよ。」
「殲滅戦を宣言しているということは、相手から殲滅される可能性も当然あります。特に貴国は、日本国から『特テ国』への指定までされました。先ほどの写真に写っていた飛行機械・・・『量産型ガルーダ』が『スーパーXⅢ改』とともに写っている以上、日本国も本気で貴国を撃滅するつもりなのでしょう。」
ムーゲ大使の話を聞いたエルト局長が、震えながら尋ねる。
「その・・・、先ほどから話されている『特テ国』とは一体・・・?」
「日本国から会談時に聞かされてなかったのですか? 貴国が使役しているような超大型エビや超大型地竜などの生物について、日本国では『特殊生物』と分類しているようです。それらを自国の利益やテロ目的で使役するような行為を国家が主導しており、超危険国家として判断された場合に『特殊生物を用いたテロ主導国家』して指定しているようです。もしそれに指定されれば、今まで私が紹介した兵器より、『もっと強力な超兵器』がそれらの撃滅のために出撃することもあるのだとか・・・。」
(まあこれまでの貴国の立ち振る舞いを加味すれば、遅かれ早かれこうなっていたでしょうけどね)
パーパルディア側の反応の感想を内心で呟きつつ、ムーゲ大使は続ける。
「もし日本国がそのようなものを貴国との戦争で繰り出されれば、皇都エストシラントを含めた皇国全域が灰燼に帰す・・・、いや灰燼すら残らない可能性もあると判断しています。ムー連邦政府は国民を守る義務があり、それゆえパーパルディア皇国からの国外退去命令を出したのです。我々も間もなく引き上げます。」
ムーゲ大使たちはそのまま席を立つ。
「今回貴国、それも皇族であるレミール殿下が仰った内容は、ムー連邦としては非常に遺憾であると言わざるをえないです。碌に調査も行わず、一方的な決めつけで我が国を非難したに飽き足らず、我が国の守護神『マンダ』をモノのように扱われました。さらに、前回の『先進11ヵ国会議』において、我が国が提唱した『医療への攻撃禁止』を否定する発言までされたこと・・・、こちらについてもこの世界を代表する列強国とは思えない振る舞いであると考えています。」
「もし戦後、皇国がまだ残っていたら、私はまた大使として帰ってくるでしょう。ただし、貴国との関係については、今回のことをすべて報告し、本国とよく協議したうえで再考させて頂きます。あなた方とまた会える事を、心よりお祈り致します。それでは・・・」
無言のまま固まってしまったままの皇国連中を無視し、ムーゲ大使たちは退室する。パーパルディア皇国側が沈黙する中、ムーパ会議は終了した。
自国よりも上位列強であるムー連邦大使の言葉は重く、会議室内を沈黙が包み込む。ムーゲ大使の説明がすべて正しかったとすれば、自分たちは超列強国相手に侮り、挑発し、そしてその国の民をいつものように虐殺してしまった。
さらに、最悪な事に国の意思として殲滅戦を宣言したことに加え、相手からも実質的な死刑宣告を受けているようなものである。
自分たちの考えていた答えが、まったくの検討違い・・・何一つ正解していないまさに『0点の答案』であったことにようやく気付いたパーパルディア皇国首脳陣であったが、時すでに遅く、皇国は『滅亡』という未来に向けて全速力で進行しているのであった・・・。