東宝世界線の日本国召喚   作:T1001

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106. 皇国の目的

 

中央暦1640年7月16日

グラメウス大陸

エスペラント王国の北 バグラ山 火口付近

 

 

エスペラント王国の北側には、背の高い山々がそびえ立っている。魔石はもちろん、鉄をはじめとした各種金属を含んだ鉱石、さらには硝石や硫黄なども産出するというエスペラント王国にとって無くてはならない地下資源の宝庫である。

 

これらの山々から北東に数十キロメートル離れた場所に、エスペラント王国の民も知らない休火山・・・、バグラ山が存在していた。

 

このバグラ山の周辺には、魔王ノスグーラが封印されていた魔王城こと魔王城ダレルグーラのあるグーラドロア平野があり、高密度の魔素に満ちていた。魔素の濃度は魔物や魔獣の生息密度にも密接に関係しており、エスペラント王国が存在するグラメウス大陸南部とは比較にならないほどであった。

 

日本国のJAXAや国立極地研究所が発見した黒い『もや』の正体は、この高密度の魔素であり、バグラ山を起点に同心円状に広がっていたのだ。

 

そんな休火山の火口には、土で作られた怪しげな人工物がいくつも乱立しており、その中心には領主や貴族の邸宅のような立派な屋敷が佇んでいた。

 

操られたコブリンやオーク、つまり魔獣たちが土の住居を出入りしているのに対し、この屋敷に出入りしているのは、一見すると人間族に見える男たちであった。ただし、普通の人間族とは異なり、その背中には真っ白な片翼と真っ黒の片翼を生やしていた。

 

「『邪竜アジ・ダハーカ』の封印解除を開始してもう五か月近くになるな・・・。魔王ノスグーラと違って封印解除にここまで時間がかかるとは思わなかった。流石は我が偉大なる祖先、魔法帝国の封印魔法といったところか。」

 

「現在の解除プロセスの状況は98パーセント以上と順調に進行しています。これまでのペースを加味すれば、明日には完遂できるかと思います。」

 

屋敷の大広間では、ワインレッドのジャケットとスラックス姿の優男・・・、ダクシルドが部下たちと進捗状況を共有していた。

 

「やれやれ、『邪竜アジ・ダハーカ』の封印解除が完了するまでに下等種族どもの集落を掃除し、地下に埋まっているビーコンをさっさと回収しておきたかったが、まあ仕方がない。邪竜がこの一帯を更地にした後、ゆっくり掘り起こすとしようか。」

 

この男たちのように背中に白黒の翼を生やした者、有翼人と呼ばれる種族の者たちは、南方世界にアニュンリール皇国という国を建国している。鎖国政策をとった閉塞的な国のため外界との接触は少なく、巨大な国土を有するだけの文明圏外国と見なされているが、それは表向きの姿だ。

 

その正体はかつて全世界を支配した古の魔法帝国、『ラヴァーナル帝国』を建国した光翼人の子孫であった。ラティストア大陸で発動させた時空転移魔法に間に合わず、そのまま取り残されてしまった光翼人たちが、他種族の光翼人狩りから逃れて僻地である南方大陸で密かに建国した国がアニュンリール皇国であった。

 

このダクシルドもアニュンリール皇国の人間であり、魔帝復活管理庁復活支援課支援係という魔帝復活に向けて水面下で暗躍を続けている部署に所属する工作員であった。

 

この部署ではビーコンと呼ばれる魔法帝国の時空間転移センサーを厳重に管理する目的で世界中に工作員を派遣しており、ダクシルドはグラメウス大陸エスペラント王国の地下に眠るビーコンの回収任務に就いていたのだ。

 

ラヴァーナル帝国が数万年のときを経てこの世界に転移する際、時空間に歪みが発生する。その歪みをビーコンが検知すると、この惑星の位置座標と時間座標、そして空間座標を知らせる信号を発する。その信号を基に、ラヴァーナル帝国は元の位置へと帰還出来るようになっていた。

 

したがって時空間転移ビーコンに不具合があれば、正確な帰還が困難になる。最悪の場合、何もない宇宙空間へと出現してしまい、そのままジ・エンドということにも成りかねない。

 

そのためラヴァーナル帝国は、惑星周囲の軌道上を周回する『僕の星』総数35基に搭載されたものに加え、惑星の地表にも多数のビーコンが埋設したううえで未来への時空間転移を行っており、仮に数機のビーコンが不具合を発生しても問題ないようにするなどしっかり準備を整えていた。

 

試算上はラヴァーナル帝国によって造られた魔法版人工衛星『僕の星』に搭載されたビーコンがすべて無事であれば、アニュンリール皇国内に確保されている地表設置型ビーコンと合わせ、安全な復活に必要な最低限の数量は確保出来ていると予測されていた。

 

この世界の下等種族どもの手が絶対に及ばない『宇宙空間』に存在する『僕の星』が被害を受けるとは思えないが、小型隕石の衝突による喪失など万が一の事態を考え、ダクシルドら工作員たちは、世界各地のビーコンを確保するために活動していたのだ。

 

ダクシルドの初期プランでは、『魔王ノスグーラ』を復活させてそのままエスペラント王国を滅し、ビーコンの発掘作業を手伝わせる算段であった。しかし魔王ノスグーラはこちらの指示にまったく従わず、保険で準備しておいたサークレット型魔族制御装置もまったく意味を成さず、コントロール不能であった。

 

一万年以上にも及ぶ封印の間に何らかのバグやエラーが発生していたのか、魔王軍を組織した後は自分を封印したトーパの民たちへの復讐を考え、エスペラント王国をスルーしてそのままトーパ王国へと侵攻。そしてトーパ王国の救援に駆け付けた日本国によって、そのままあっさり討伐されてしまった。

 

やむを得ず、保険プランへと移行する。それは魔王ノスグーラの死亡後に低級魔獣どもをかき集め、同時にグラメウス大陸奥地にある鬼人族の国を襲撃し、魔族制御装置を用いて屈強な鬼人族の戦士たちをそれらの統率役として使役するという計画であった。

 

エスペラント王国を窮地に追い込んでいた魔獣襲撃の正体は、ダクシルドたち有翼人によって操られた鬼人族の戦士たちとその配下の魔獣たちだったのだ。

 

鬼人族の戦士はおろかオークキングなどの上級魔獣に対して、剣や槍を装備した騎士たち、粗雑な魔導マスケット銃を装備した王国兵ではまったく相手にならず、エスペラント王国は次々と鉱山や水源を占領されていた。

 

このように洗脳した鬼人族の働きによってエスペラント王国侵攻が順調に進行していたため、ダクシルドたちは二月末からアルバートから依頼されたアジ・ダハーカの封印解除に専念していた。

 

そのため知る由はないが、約一か月前、航空自衛隊の『C2輸送機』はエスペラント王国南部のスダンパーロ区に墜落し、救助された岡三等陸曹がエスペラント王国に協力し始めたことで風向きが変わり始めていた。

 

エスペラント王国の銃士隊がこれまでの比ではない距離から連続して狙撃可能な新型銃や、接近すればあっという間に火達磨にされる魔導銃を戦線に投入してきたのだ。

 

岡三等陸曹がC2輸送機の残骸から、まだ無事だった89式小銃やメーサーライフルをエスペラント王国の銃士隊へ貸し出し、さらに彼の科学技術的助言をもとに、王宮科学院装備開発室が7.62mm口径のリボルビングライフルの開発、初期量産に成功したことで、戦況が大きく好転し始めていたのだ。

 

今や占領していたエスペラント王国領土の大部分が奪還されたうえ、下僕として使役していた鬼人族もサークレットを破壊されて洗脳を解除される者まで出始めていた。

 

鬼人族たちの洗脳が解け始めているという緊急事態ではあるが、エスペラント王国侵攻を鬼人族たちに丸投げし、アジ・ダハーカの封印解除に専念していたダクシルドたちは、仕事をやり切ったかのように満足気に談笑していた。

 

「二月にアルバートのヤツから邪竜の封印解除を頼まれたときは流石に仰天したが、現在の状況的には正解だったな。定時連絡によれば、デュロの『ガイガン』も今週中には再起動が完了し、来月には戦線投入可能になるようだ。」

 

「入り江に放置しています魔導戦列艦も、まるで『皇国人』が暮らしていたかのように偽装してあります。アジ・ダハーカの討伐で日本国がやってきたとしても、我らの存在が露呈することは、まずありえないでしょう。」

 

「『ガイガン』の件も含め、パーパルディア皇国には感謝しかないな(笑)」

 

「下僕の鬼人族もろとも、エスペラント王国一帯が更地になるまで、我らは皇国本国でゆっくり休暇でも取りましょう。」

 

翌朝、封印解除プロセスが最終段階に入ったことを確認したダクシルドたちは、そそくさとバグラ山を離れ、さらにはグラメウス大陸から急ぎ離脱していった。

 

この一時間後、火口に設置された小さな祠の前で怪しげに光り輝いていた魔法陣がバラバラになって崩れ、厳重に絡み合っていた光の鎖が次々と千切れ始める。

 

光翼人が邪竜をこの地に封じるために施していた封印魔法は完全に解かれ、休火山の冷え固まっていた火口がみるみると熱を帯びる。やがて大地が唸るように振動をはじめ、発生した亀裂からは灼熱の溶岩が噴出し、ダクシルドたちが過ごしていた屋敷や魔獣たちの住処がマグマのなかに飲み込まれていく。

 

灼熱のマグマの中から三つ首の邪竜が・・・、古の魔法帝国でさえ使役することを諦めて封印した『山より来る厄災』、『破壊の権化』などとも呼称される『邪竜アジ・ダハーカ』が、一万数千年の長き時を経て地上に姿を現した。

 

 

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