中央暦1640年7月17日
グラメウス大陸
エスペラント王国
1999年の『第二次キングギドラ事変』において襲来した『グランドギドラ』を最後に、日本国における特殊生物の出現はぱたりと止み、2015年に異世界への国家転移という未曾有の事態が発生するまでの間、束の間の平和を享受していた。
『二代目ゴジラ』をはじめとした強大な特殊生物の襲撃を受け、それらとの戦いで大きな被害を受けた各都市の復興と併行し、これまで以上に強力な特殊生物に出現に備え、日本国政府はいくつかの対特殊生物対策計画を進めていた。
昨年にこの異世界へ国家転移して以降、『ロウリア事変』やパーパルディア皇国との戦いにおいて八面六臂の活躍を見せている『ごうてん型対特殊生物戦闘護衛艦』も、その成果の一つだ。
これまでに実戦投入された対特殊生物兵器は、メーサー砲などの指向性エネルギー兵器を搭載したメーサー車両群や『スーパーX』など陸上・航空兵器が殆どであり、海洋兵器は従来の護衛艦群や潜水艦群が主流であった。
※ 当時では唯一、海中へ潜行可能な対特殊生物用兵器であった『スーパーX2』も、水中戦闘向けの武装は通常魚雷のみ。
これには1963年の『ムウ事変』において全世界で大きな被害を出した『マンダ』以降、海中で活動可能な強力な特殊生物(水棲怪獣)が、ゴジラ級特殊生物のみであったことが大きく影響していた。
『マンダ』については、『ムウ帝国』とともに初代『轟天号』により撃破されて以降、地球上で他個体は一匹も確認されておらず、また『二代目ゴジラ』に至っては、フィリピン海溝の海底火山から地下マントルの溶岩のなかを泳ぐように移動し、富士山から出現するという離れ業を披露していた。
このように最警戒対象であるゴジラは海以外からも出現する可能性が示されたことで、対特殊生物という枠組みでは、海から離れた内陸部では戦線への投入が不可能な海洋兵器よりも陸上・航空兵器が優先されてしまったのだ。Gフォースによって開発され、実戦投入された大型対G兵器である『スーパーメカゴジラ』や『MOGERA』が、指向性エネルギー兵器やミサイルなど、陸上戦や空中戦を想定した武装ばかり搭載されているのもそういった経緯があった。
1997年の『デスギドラ事変』までは、この対特殊生物ドクトリンは概ね問題なかったが、その翌年に発生した『ダガーラ事変』において、大幅な見直しを迫られることとなる。
沖縄近海に出現した『ダガーラ』は、『マンダ』に匹敵するほどの高い水中運動能力を誇る特殊生物であった。主戦場が海中となったため、これまでに開発されたメーサー砲などは使用できず、通常の護衛艦から対潜ミサイルで攻撃することしか出来なかった。
幸い、三代目モスラことモスラ・レオが水中戦闘に特化した新たな形態『アクアモスラ』へ変身する能力を会得したことで、ダガーラを撃退することに成功する。
しかし、新たな強力な水棲怪獣の出現は、日本国政府や防衛省に大きな衝撃を与え、これまでに対特殊生物の兵器開発で培われた技術やノウハウを結集し、対水棲怪獣護衛艦の開発プロジェクト・・・『新轟天号開発計画』が開始された。
2000年代初頭には、新型原子力機関(レーザー核融合炉)を搭載した試験開発艦として水中戦に特化した新型原子力潜水艦『はくげい』が完成。その後、『メカキングギドラ』の機械化された両翼に搭載されていた反重力浮揚システムを調査・解析し、2000年代半ばにリバースエンジニアリングが完了した重力制御技術をも取り入れることで、より汎用性が高められた『ごうてん型護衛艦』へと繋がっていったのだ。
この『ダガーラ』の影響で開始された『新轟天号開発計画』同様、『デスギドラ』の影響によって開始された極秘プロジェクトも存在していた。
それが『ディメンション・タイド計画』・・・、通称『DT計画』であった。
三本の首と巨大な一対の翼という『ギドラ族』の特徴を有した『デスギドラ』だが、厳密にはギドラ族ではない。『モスラ・レオ』と行動を共にしていた小美人の妖精こと『エリアス』によると、その正体はマグマ状の不定形生命体であり、地球という環境に適応するためにかつて宇宙で交戦したキングギドラの能力や姿をコピーしているだけの別種族であった。
それだけであれば、ギドラ族の亜種である宇宙怪獣の一体に過ぎない扱いをされるだけだが、デスギドラは生物としての概念を揺るがしかねない特筆するべき点を有していた。
それは『生命という概念をもたない完全な負の存在』であるがゆえ、『死という概念が存在せず、それ故に滅ぼすことはできない』という異質な特徴をもっていたのだ。『ダガーラ』や『グランド・ギドラ』を完全に撃破したときと異なり、『モスラ・レオ』がデスギドラに対し、再封印という対処をしたのはそのためであった。
生物である以上、死という概念からは避けられない。
それは怪獣王と謳われた『二代目ゴジラ』ですら例外ではなく、完全体へと成長した『デストロイア』との死闘の末、核エネルギーの暴走した体内融合炉が臨界点を突破し、大量の放射能を撒き散らしながら融解して果てる最期を迎えている。
そのため遠い未来、モスラ・レオによって施されたデスギドラの封印が解けてしまった際、それも『デスギドラ事変』のように復活時に存命中のモスラが寿命等の理由で十分に戦えず、再封印という選択肢が取れなかった場合、不死身の存在であるデスギドラをどう対処するか何度も協議された。
最終的には冷凍メーサー以上の強力な冷凍兵器で完全凍結して沈黙させ、南極の永久凍土内に封じ込める作戦がメインの方針として採択されたが、万が一、これで封印しきれなかった場合のバックアッププランも同時併行で準備されることとなった。
そのバックアッププラントは、衛星軌道上で生成した小型の人工ブラックホールを直撃させ、文字通り、地球上から消滅させてしまうという恐るべき計画であった。
超重元素『タナトニウム』を用いた人類史上初の重力兵器『侵蝕弾頭』の開発過程において、タナトニウムの崩壊時、本来であれば観測することすら不可能な余剰次元(高次元)に限定的に干渉可能となる現象が確認されていた。これを利用することで、粒子加速器による粒子衝突程度でも、微小ブラックホールの形成が可能になると理論的に示唆されており、『侵蝕弾頭』の完成後もアメリカ合衆国と共同で極秘に研究が進められていた。
日本国がこの世界へと国家転移する数年前、ようやく試作第一号が完成したが、侵蝕弾頭以上に大量のタナトニウムが必要な点、さらに戦略兵器への転用が可能な点から近隣諸国、特に東アジアの国々からはくげい級原子力潜水艦のとき以上に猛抗議と反対の声が殺到した。そうこともあり、日本国政府とアメリカ合衆国は表向きはデマ扱いとして一蹴し、計画自体を秘密裏に凍結していた。
しかし国家転移後の『魔王事変』において、『魔王ノスグーラ』や『赤竜』といった地球の特殊生物たちに匹敵する危険な生物が多数確認されたこと、地球では希少であった『タナトニウム』がグラメウス大陸で大量に入手できる見通しとなったことから、日本国政府は凍結されていた本計画の再開を決定。
異世界への国家転移により、モスラ・レオのサポートが望めないという状況から凍結されていた試作第一号について、実戦投入に向けた調整が急ピッチで実施された。
この結果、衛星軌道上でマイクロブラックホールの核を生成、搭載された超マイクロ加速器で光線が当たった地点に向けてそれを射出。対象エリアに小型の人工ブラックホールを形成し、直径100メートル範囲を球状にすべて消滅させるという超兵器・・・史上初となる衛星ブラックホール砲『ディメンション・タイド』が完成した。
多種多様な特殊生物を生物兵器として使役するパーパルディア皇国への切り札として、『ニシノミヤコ事変』発生後という早い段階でカグヤより低軌道上へ打ち上げられていたのであった・・・。
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黒木特佐から『ディメンション・タイド』の緊急投入許可を求められ、流石の麻生総理大臣もかなり狼狽したような声で返答する。
「ディメンション・タイドの緊急投入だと・・・。黒木・・・、お前は自分が何を言っているのかわかっているのか!? あれはパーパルディア皇国の工業都市デュロにある怪獣化施設とそこで養成中の特殊生物を一網打尽にする一大作戦の中核を担うものなんだぞ!!」
日本国は4月末に敢行された『アルタラス島奪還作戦』において、アルタラス属領統治機構の長官を務めていたシュサク氏の身柄を拘束し、重要参考人として日本列島へ連行していた。
取り調べの際、日本にいる間の身柄と戦後に皇国へ安全に帰国させることを日本国が保証する代わりに、彼が把握している皇国の実態、特に皇国が使役していた特殊生物たちのことについてすべて日本国へ話すというという司法取引を提案した。
なおこの司法取引には『皇国に帰還後のことは契約範囲外』という穴が存在しているが、皇国とは比較にならない待遇でぬくぬくと過ごせるうえ、安全に帰国できることを知ったシュサクは、自己保身からあっさりとこの司法取引に応じ、知っていることをペラペラと話したのだ。
シュサクの証言から、工業都市デュロの近くには『古の魔法帝国』の研究施設跡があり、皇国がそれを用いて人工特殊生物たちを製造・育成していることを知った日本国政府、および防衛省幹部たちは、ここを最優先破壊対象と認定し、何度もシミュレーションを行い、その作戦内容を吟味した。
今後、皇国が二度と人工特殊生物たちを生み出せないよう、これらを完全に破壊する必要があるが、爆撃のような通常兵器だけでは地下に隠蔽された施設すべての破壊は困難だ。アメリカ軍が運用している地中貫通爆弾(バンカーバスター)を在日米軍から借用するパターンも検討されたが、攻撃目標が人工特殊生物たちの製造拠点ということもあり、爆撃の最中、まだ把握していない強力な怪獣兵器が飛び出してくる可能性もあった。
そこで安全かつ確実な方法として『ディメンション・タイド』を実戦投入し、安全な低軌道上から対象施設もろとも周辺を文字通り完全消滅させてしまう作戦が立案され、準備が進められていた。
しかし6月中旬に発生した大規模な磁気嵐の影響を受け、装置内部の一部で故障が発生していた。現在は対パーパルディア皇国への一大撃滅作戦に向けて修復が行われている最中であり、マイクロブラックホールの発射自体は可能だが、まだ実戦投入するには不十分な状態であった。
このような不完全なコンディションで無理やり使用して想定以上の負荷をかけると、最悪の場合、数か月から年単位で使用不可能となる恐れがあり、そうなると工業都市デュロへの作戦内容も大幅な見直しが必要となる・・・。ディメンション・タイドの投入に、麻生総理が二の足を踏むのも無理のないことであった。
「総理の仰られていることは十二分に理解しています。しかし、今回出現しました『巨大デスギドラ擬き』を撃破可能な兵器はこれしかありません! ヤツがデスギドラと似たような種族であった場合、時間をかけるとこれ以上に成長し、手が付けられなくなる可能性もあります!!」
黒木特佐が状況を端的に、かつ的確に説明する。必死な様子が電話越しに伝わってくる。
「また先程、現地で交戦中の航空支援隊から、近くの入り組んだ入り江内でパーパルディア皇国の国旗が掲げられた魔導戦列艦を発見した旨の連絡もございました。現時点では憶測に過ぎませんが、『巨大デスギドラ擬き』が復活した今回の件も、もしかすると皇国が仕組んだ作戦の可能性があります。どうか、投入許可を・・・」
黒木特佐の必死の説得と予断を許さない状況であることを鑑みて、麻生総理大臣は『巨大デスギドラ擬き』こと邪竜『アジ・ダハーカ』への『ディメンション・タイド』投入を許可。
地球で極秘裏に生み出された奈落の妖星が異世界の宇宙空間でついに起動し、遥か上空の低軌道上から異形の邪竜に向け、深き闇の発射態勢に入った・・・。