中央暦1640年7月29日
フィルアデス大陸 列強国 パーパルディア皇国
工業都市デュロ
パーパルディア皇国に致命的な大打撃を与える日本国の一大作戦が開始される数日前の早朝、フィルアデス大陸東端部の沿岸に位置する皇国随一の『工業都市デュロ』で動きがあった。
皇国三大基地の一つである『デュロ防衛隊陸軍基地』とともにデュロを守護するために設置されているデュロ海軍基地において、魔導戦列艦隊が一斉に出撃しようとしていたのだ。
皇国軍の切り札である古の魔法帝国の遺産・・・、『ガイガン』は既に再起動が完了しており、今は戦線投入に向けた最終調整が進められていた。8月上旬には日本国本土侵攻に向けて出撃すると噂されており、艦隊もそれに合わせて出撃すると予想されていた。
水兵たちが魔導戦列艦内や湾口施設で作業を進めていると、警報とは異なる軽い報知音が鳴り響く。一斉放送の合図を知らせる魔導サイレンの音だ。
「諸君、本艦隊司令のサクシードだ。我々の艦隊は、準備ができ次第出港し、皇国の切り札である『ガイガン』の出撃に合わせ、日本国本土への攻撃を行う。諸君のなかには既に見聞きしている者もいるかもしれないが、『ガイガン』の飛翔速度は、皇国の誇る『ワイバーンオーバーロード』をも遥かに凌いでいる。そのため、我々は『ガイガン』よりも数日早く出撃する。」
「出港後、『フェン王国』と『ガハラ神国』を迂回し、日本国本土を目指す。目標は本州とかいう地方の西端にある地区・・・、日本国海軍の基地がある下関を強襲し、ここを火の海とする。ちょうど同じ頃、『ガイガン』は西にある九州という地区を破壊し尽くしているだろうから、日本国の目はそちらに釘付けとなっている筈だ。我々は、その隙をつくというわけだ!」
『ムー連邦』との会談後、皇国情報部は第三国の商人(後の調査でリーム王国と判明)から日本国の地図を裏ルートで入手していた。なお、フェン王国とアルタラス島の皇軍惨敗から足元を見られ、日本円換算で購入価格の1万倍以上というぼったくり価格を提示されたらしい。
デュロ防衛の任務についていた第五艦隊の半数に加え、占領後を加味して監察軍の旧式戦列艦の合流した混成艦隊約100隻は、勇ましく出港していった。
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中央暦1640年8月1日
旧日本海海域
皇都エストシラントを守護する二つの象徴・・・、『皇都防衛軍基地』と『エストシラント海軍本部』が日本国の熾烈な攻撃を受け、甚大な被害を受ける直前、工業都市デュロを出港した混成艦隊は、『ガハラ神国』の沖合を通過し、間もなく日本国の排他的経済水域(EEZ)へ差し掛かろうとしていた。工業都市デュロの陸軍基地や海軍基地への連絡は、日本国に魔信を傍受され、奇襲を察知される可能性を加味し、数日前から魔信封鎖が徹底されていた。
旧日本海にあたるこの海域は、冬になるとシベリア大陸から強烈な寒気(季節風)が流れ込むことにより、雪雲の積乱雲を次々と発生させ、海面を激しく波立たすほどの大気の乱れと強風を引き起こすほど荒れることで有名だ。
一方今の時期、つまり夏場は太平洋高気圧に覆われることで晴れて穏やかな日が多く、風が弱いため波が立ちにくいことが特徴であった。しかし今日の天候は、まるで今後の彼らの運命を暗示するかのように、分厚い積乱雲で覆われており、そのためか風が強く、冬場のように波もしけっていた・・・。
100門級魔導戦列艦の旗艦『ムーライト』の艦橋では、本混合艦隊司令であるサクシード艦長が、副長と話しながら艦隊の前方を眺めていた。
「敵は『ムー連邦』の機械科学式兵器を運用しているらしいが・・・、副長、君はどう考える? もし会敵したとして、この兵力で勝てるか?」
「仮に『ムー連邦』の兵器を輸入していたとしても、兵の練度はそう簡単にはあがりません。そのうえ今回は、魔信封鎖を徹底したうえでの奇襲です。奴らもまさか前線を想定している九州ではなく、本州の方を直接攻撃してくるとは思わないでしょう。本作戦は成功しますよ。」
現場の叩き上げで今の地位までのしあがってきた副長は、これまで文明圏外国家を相手に圧勝したことしかない偏った経験則を根拠に、自身たっぷりの様子で返答する。それもそうかと納得したサクシード艦長は副長から目を離し、傲然と笑いながら再び艦隊の前方を眺める。彼らの視界の先、灰色の分厚い雲が立ち込める水平線の先に、凄まじい威圧感を放つ120メートルもの巨大な『機械の神龍』が接近中であることも気づかずに・・・。
「目標、捕捉! ターゲット ロックオン。」
いぶし銀をした巨大な頭部が・・・、地球の人間が見れば『二代目ゴジラ』を模したと即答するであろう角ばった金属の頭部が、前方に傾いた飛行形態のまま侵攻する艦隊の咆哮へ向けられる。静かに開けられた大きな顎の奥口には凄まじいエネルギーの奔流が渦巻き、極彩色の光が爆発的に膨れ上がる。
「メガ・バスター、発射!」
次の瞬間、ドゴォォォンという空間を震わせる重低音とともに、渦巻く曇天のただ一点から極彩色の超高出力ビームが放たれた。挨拶代わりに放たれたその強烈な一撃は、超音速で海面を薙ぎ払い、皇国艦隊の真っ直ぐに一文字に引き裂いた。
『二代目ゴジラ』の青色放射熱線とも拮抗可能な威力を誇る光線は、直撃を受けた前衛の魔導戦列艦数隻を木造の船体ごと瞬時に消し飛ばす。背後にいた数隻もバターのように真っ二つに両断され、大爆発を起こした。高エネルギービームが照射された海水は瞬時に水蒸気と化し、発生した水蒸気爆発の衝撃波が海面を文字通り抉り取り、巨大な水壁が巻き上がる。
「な、今のは一体なんだ!? 前衛艦隊が一瞬で消滅したぞ! 神竜のブレスか! それとも隕石でも落ちてきたのか!?」
残された魔導戦列艦の水兵や幹部たちはパニックに陥り、狂ったように叫ぶ。だが、彼らの絶望は、これが始まりに過ぎなかった。
混乱の渦中にある皇国艦隊の前方で、分厚い雲が生き物のように激しく蠢き出す。灰色の帳の向こうから、凄まじい質量感を持った巨大な何かが、無数の光の尾と今まで聞いたことのない轟音を引き連れ、徐々に姿を見せ始める。
脚部と背中に備え付けられたターボジェットエンジンのジェット噴流、そして両翼のローターから発生する凄まじい風圧が周囲の雲を吹き飛ばし、120メートルの巨大な『機械の神龍』が降臨する。
「今ので三割近くやったか・・・。先に敵工業都市攻撃へ向かった『しんてん』たちのためにも、あまり時間をかけるわけにはいかない。一気に制圧する!」
『スーパーメカゴジラⅡ』は、飛行形態からホバリングモードへ体制をかえ、残存艦隊への攻撃を開始する。キィィィンという甲高い駆動音とともに、両目から鋭い黄色い『プラズマレーザーキャノン』が連続して照射される。同時に両腕の指先に装備された『四連装プラズマメーサービーム砲』からは、紫色に輝きつつ稲妻状に蛇行する光線が放たれる。
上空を高速でホバリング移動しながら絶え間ない攻撃を繰り出す『スーパーメカゴジラⅡ』は、皇国残存艦隊に回避行動する隙すら与えずに殲滅していく。プラズマレーザーキャノンが魔導戦列艦の甲板を正確に次々と焼き貫き、プラズマレーザーキャノンは戦列艦の船体を一瞬で炭化・発火させて海上に次々と巨大な火柱の花を咲かせていく。さらに両肩のハッチと両足の指先からは、次々とミサイルが発射され、前述の指向性エネルギー兵器たちが撃ち漏らした残存艦を確実に、そして的確に沈めていく。
どかどかと容赦なく降り注ぐ圧倒的な破壊の嵐により、わずか数分前まで『無敵』と『勝利』を確信していた約100隻の皇国魔導戦列艦隊は、すでにまともな形を留めている船が僅か数隻という壊滅状態に陥っていた。
生き残ったわずかな艦船が必死に反撃の魔導砲を空に向かって放つが、『スーパーメカゴジラⅡ』を捉えられず筈もなく、すべての砲弾がむなしく海面へと落ちていく。
列強国たるパーパルディア皇国の魔導戦列艦隊が、赤子の手をひねるかのように一方的に蹂躙される悪夢に、御伽噺で語り継がれる史上最強・最悪の大帝国・・・古の魔法帝国が復活したと発狂し、魔導戦列艦から海へ飛び込んで逃げ出す水兵までも出始めていた。
メガ・バスターの最初の一撃から、わずか5分。パーパルディア皇国の日本国本土奇襲作戦艦隊は、日本本土の街の灯りを見ることも、海上自衛隊の護衛艦と交戦することすら叶わず、曇天の日本海の底へと完全に消滅したのであった。
分厚い雲の切れ間から、わずかに差し込む光。その中心で、一滴の海水すら寄せ付けずに飛行形態で飛び立っていく『スーパーメカゴジラⅡ』の巨体だけが、静かに、そして圧倒的な威容で佇んでいた。