中央暦1640年8月1日
フィルアデス大陸 列強国 パーパルディア皇国
工業都市デュロ
数日前に『日本国本土奇襲作戦艦隊』が出港した後も、『工業都市デュロ』では皇国の切り札である『ガイガン』を主軸においた日本国本土侵攻作戦の準備が進められていた。
フェン王国やアルタラス島の戦いにおいて、皇国軍を完膚なきまで叩き潰した日本国の強さは幹部たちにも周知されているが、日本国本土から距離の近いデュロではなく、アルタラス島を先に奪還したことから、日本国の次の攻撃目標は皇都エストシラントと予想されていた。
実際、今日の昼過ぎの時点でパーパルディア皇国の首都である『皇都エストシラント』において、これを守護する二つの象徴・・・、皇国三大基地の一つである『皇都防衛軍基地』と皇国海軍の総本山である『エストシラント港海軍本部基地』が自衛隊の熾烈な攻撃を受け、数年では回復不可能なレベルの甚大な被害を出していた。
しかし、皇都エストシラントから工業都市デュロの距離が非常に離れているという地理的要因もあり、ストリームデュロ基地総司令官をはじめ、デュロ防衛隊の幹部たちは誰一人としてこの絶望的な状況は、認知していなかった。
そのため、この日も通常通りの警戒態勢が敷かれたままとなっており、周辺海域の警戒飛行もデュロ防衛隊陸軍基地所属のマグネ隊長率いる第11竜騎士団第1飛行隊の第2中隊20騎あまりだけであった。
皇都エストシラントにおいて顕在した『パーパルディア皇国の悪夢』が、間もなくここ工業都市デュロにおいても現実のものになるとも知らずに・・・。
『デュロ防衛隊陸軍基地』内に設置された防空部通信指令室で、最初の悪夢が始まった。突如として耳を塞ぎたくなるような竜騎士の悲鳴が室内に響く。声の主は周辺海域を哨戒中であったマグネ隊長の部下のようで、生々しく凄みと迫力に満ちたものであった。
「つ、着いてくる!? た、助けてくれ~」
その直後、魔力探知レーダーから彼の魔力反応が消失する。彼だけではない、20騎あまりの竜騎士たちが次々とレーダーから消えてゆき、ついにマグネ隊長の反応までロストした。
魔信で詳細を報告する暇もなく、精強な竜騎士たちが撃墜されたであろう点は実に不可解ではあった。しかし、広範囲に分散していた竜騎士隊が極めて短時間で全滅したことから、デュロ司令部は敵・・・、おそらく日本国の大規模侵攻と判断した。
「第一種戦闘配備、繰り返す第一種戦闘配備! 日本国と思われる敵からの一斉攻撃を受けた。デュロ陸軍基地全域、防御態勢へと移行せよ!!」
「『魔帝遺跡研究班』のアルバート主任へ『ガイガン』の緊急出撃を打診しろ! 『ガイガン』が出撃するまで、なんとしても既存戦力だけで持ちこたえるぞ!!」
デュロ上空の警戒任務中であった中隊を含め、すべての第1飛行隊の竜騎士が空へと舞が上がる。また陸上では基地内の兵士たちが忙しく動き回り、対空魔導砲をはじめとした対空防御兵器が稼働を始める。
その中には、皇国で運用されている対空魔導砲よりも洗練された見た目をした列車砲のような対空兵器の姿もあった。中央世界こと第一文明圏の雄にして、自他ともに『世界最強の国家』と国内外から認知されている『神聖ミリシアル帝国』が制式採用している『対空魔光砲』だ。
人工魔獣の製造以外の魔帝技術を持たず、通常魔法技術において大きく後塵を拝している現状を打開するため、数年前に秘密裏に輸入し、ここ工業都市デュロにおいてリバースエンジニアリングが行われていた。残念ながら、内部の魔導術回路があまりに複雑なため、模造兵器の製造はおろか、解析すら遅々として進んでおらず、現時点ではこれ一機しか保有していない大変貴重な代物であった。
しかし、すべてにおいて『ガイガン』の起動を優先するようルディアス皇帝の勅命があったこともあり、密輸した砲身部分を鉄道車両へ乗せ込んだ急造兵器として前線へ投入されようとしていたのだ。
またデュロ海軍基地では、ルトス海軍東部方面司令が第五艦隊を主力とした残存魔導戦列艦隊へ防衛出撃を命じる。
『ガイガン』出撃までの時間を稼ぐため、パーパルディア皇国デュロ防衛隊の全戦力が、戦闘配備へと移行した。
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パーパルディア側の継戦能力を奪い、そして皇国が二度と人工特殊生物たちを生み出せないようにするため、日本国は『古の魔法帝国』の研究施設跡をはじめ、工場群や『デュロ防衛隊陸軍基地』などの『工業都市デュロ』にある工業施設と軍事施設すべてを本作戦の破壊対象としていた。
日本国本土と工業都市デュロは、通常航空戦力でも十分対応可能な程度しか距離が離れていないため、本作戦に参加している日本側の戦力は、航空自衛隊の戦闘機や飛行可能な超兵器群ばかりであった。
具体的には、日本国本土に設置された各自衛隊基地を出撃した『F-2』戦闘機や『F-15J改』といった通常航空戦力に加え、『量産型ガルーダ』の爆装仕様機やごうてん型対特殊生物戦闘護衛艦の2番艦『しんてん』、そして奇襲作戦艦隊を殲滅したことで、合流が遅れている『スーパーメカゴジラⅡ』だ。
余談ではあるが、ごうてん型対特殊生物戦闘護衛艦の1番艦『ごうてん』は、皇都エストシラントの『エストシラント港海軍本部基地』への攻撃が完了し、『アルタラス島』の『アルタラス基地』へ帰投中であり、3番艦『きょうてん』は日本国本土の防衛任務に就いていた。
既にデュロ上空に展開していた竜騎士隊は、『F-2』戦闘機や『F-15J改』がアウトレンジから発射した99式空対空誘導弾(AAM-4)により、壊滅状態となっていた。デュロ上空では絶えずミサイルの着弾による爆発音がこだまし、いくつも黒い花火が咲き乱れている。
またデュロ海軍基地を出撃しようとしていた皇国海軍第五艦隊を主力とした魔導戦列艦隊も、出港直後の密集した状態を『しんてん』の艦首砲『ドリルスパイラル・メーサー砲』でまとめて薙ぎ払われ、その殆どが轟沈、または戦闘不能な状態に陥っていた。
第五艦隊を壊滅させた螺旋状の巨大な衝角を艦首に装備した異形の艦は、そのままデュロ上空へ侵攻。船体に装備された三連装プラズマメーサービーム砲塔から紫色に輝きつつ稲妻状に蛇行する光線を発射し、工場や軍事施設を次々と破壊していく。
陸軍の新兵器研究開発部に所属するハルカス開発主任は、『対空魔光砲』の稼働に向けて、部下とともに急ピッチで魔石接続やエネルギー充填作業を実施していたが、デュロ上空へ我が物顔で侵入してくる敵を険しい表情で睨みつけていた。
「文明圏外国家があのような空飛ぶ魔船を投入してくるとは・・・。しかもあれだけの大きさがありながら、あれほどの高度を易々と飛行出来るとは一体どんな魔法技術なんだ?」
「この兵器であれば、あの高さと速度でも対応可能です。あの巨艦を撃沈し、奴らの度肝を抜いてやりましょう!!」
「エネルギー充填完了! 呪文自動詠唱開始・・・、詠唱完了!! 皇国は蹂躙させぬぞ!!!」
デュロ上空を飛行しながら対地攻撃を実施していた『しんてん』艦左舷へ、地上から発射された光弾が超高速で連続して直撃する。光弾が命中した箇所周辺は派手な爆煙に包まれ、飛行していた異形の巨艦が左へ傾く。
「全弾命中しました! このまま砲撃を継続し、ヤツを地面へ叩き落とします!!」
敵の超兵器に致命傷を与えたと確認し、ハルカス開発主任ら皇国魔導技術者たちが沸き立つが、爆炎が晴れた先のの漆黒色をした装甲には焼け焦げた痕すらついておらず、全員の顔が驚愕と絶望に覆われる。次の瞬間、三本の紫色の光線が『対空魔光砲』が配備された公園へと降り注いだ。魔導エンジンや燃料タンクの魔石がプラズマメーサービームの直撃で誘爆し、『対空魔光砲』は木端微塵に吹き飛ばされた。
「敵地対空兵器の破壊を確認。本艦への損傷なし、表面装甲で無効化しました。艦の傾斜を復元します。」
『しんてん』は対地攻撃の射撃線を確保するために傾けた船体をもとに戻し、施設への攻撃を再開する。『対空魔光砲』という予想外の反撃はあったものの、攻撃隊は無傷でデュロの工場地帯を殲滅しつつあった。残すは、『デュロ防衛隊陸軍基地』の地上設備と最優先攻撃目標である『古の魔法帝国』の研究施設跡だ。
沿岸の軍事施設や工場地帯を蹂躙した『しんてん』と『量産型ガルーダ』の爆装仕様機が『デュロ防衛隊陸軍基地』上空へ差し掛かろうとしたところ、そのすぐ近くの地面が内側から激しく爆砕し、巨大な何かが飛び出して来た。
爆煙の奥には、不気味に赤く光るゴーグルのような単眼が浮かび上がっており、煙が晴れ始めると、その特徴的なシルエットが徐々に露わとなってくる。鮮やかな緑色の皮膚に覆われたボディ、昆虫や蛇の腹を思わせる黄色の鱗に覆われ、ノコギリのような突起の生えた腹部、そして鎌のような鋭い形状の両腕・・・。皇国の切り札にして『古の魔法帝国』の遺産、『ガイガン』だ。
「全部隊に告ぐ。偵察衛星が捉えた『カギ爪怪獣』が出現した! 通常航空機は、戦闘範囲外へ一時退避せよ。『量産型ガルーダ』も爆装仕様では、満足に戦えまい。一旦戦闘を離脱し、『スーパーメカゴジラⅡ』の合流後に援護してくれ。」
『F-2』戦闘機や『F-15J改』、『量産型ガルーダ』が離脱するなか、『しんてん』は出現した『ガイガン』と相対する。ガイガンの後方には、ワイバーンロードに騎乗したアルバートが怪しげに光る錫杖をもち、様子を伺っていた。
「なるほど、あれが例の日本国の新鋭艦か・・・。『空中戦艦パル・キマイラ』とは大分見た目が違うが、強力な魔光砲に加え、誘導魔光弾まで搭載しているとは・・・。なるほど、アンギラスやエビラが敗れたわけだ。」
「だが、我らの偉大な始祖である『古の魔法帝国』の敵ではない! 『皇国』へ帰る前に、『ミレース』の良い戦闘データが取得出来そうだ・・・。」
ガイガンは地上から飛び立つ勢いのまま、頭部の単眼から赤い魔光弾『ギガリューム・クラスター』を放つ。
「『カギ爪怪獣』、頭部からビームを発射! 発射後に複数に分かれ、拡散してきます!!」
「面舵一杯、緊急回避! 回避行動をとりつつ、プラズマメーサービームで反撃せよ!! 艦対空ミサイル(SAM)発射はじめ!」
拡散する赤い破壊光線が『しんてん』へと襲い掛かかり、何発かが『しんてん』に直撃した。また『しんてん』が回避した光線の一部は『デュロ防衛隊陸軍基地』へと着弾し、建物や施設を瞬く間に倒壊させた。
「なるほど、巨体に反して空中での運動性能もなかなか高いな。散弾では、あの装甲は抜けないか・・・、だったらこれはどうだ!」
ガイガンは上空から『ギガリューム・クラスター』を放ちながら、『しんてん』の動きを牽制しつつ、額のランプから魔導レーザーを放った。拡散する破壊光線とレーザーが『しんてん』を捉えるが、『しんてん』の鉄壁の装甲は表面で火花を散らすのみで、決定的な有効打を与えられない。
二代目ゴジラの青色放射熱線を完全に無効化し、バーニング状態の赤色放射熱線すら耐えきるよう設計された『ごうてん型護衛艦』・・・、超耐熱耐圧合金『NT-2D』と『ブルーダイヤコーティング』が施された超装甲に対し、ガイガンの光線攻撃はまったくといって意味を成していなかった。
「嘘だろ、ミリシアルのミスリル級魔導戦艦の装甲も余裕で貫通可能な魔導レーザーすらまったく効いていないだと!? 装甲の強度は、下手すると『海上要塞パルカオン』をも凌駕しているかもしれないな・・・。」
ガイガンの放つすべての光線攻撃が、日本国の護衛艦に対してまったくの無力な状況に、流石のアルバートも驚きを隠せずにいた。
『しんてん』もすぐさま反撃に移り、四基の三連装プラズマメーサービーム砲塔から紫色のビームが斉射が開始され、ミサイル発射管からはSM-2 (スタンダード・ミサイル2)が次々と発射された。ミサイルは『ギガリューム・クラスター』の散弾で全弾迎撃されるが、数本の紫色のビームがガイガンの脚部や尻尾を正確に射貫き、ガイガンの巨体が空中でのけぞる。
「いまだ、艦首砲照準! 『ドリルスパイラル・メーサー砲』照射!!」
『しんてん』艦首の超大型ドリルの先から、空中で隙をみせたガイガンへ巨大な極太の極彩色に輝く光線が照射された。これでチェック・メイトかと思われたが、ガイガンは素早く体制を立て直し、すんでのところで光線の直撃を回避する。
『しんてん』の照射した『ドリルスパイラル・メーサー砲』は、『デュロ防衛隊陸軍基地』へと直撃し、竜舎や研究棟などの地上施設が跡形もなく吹き飛んだ。
「なんという威力の魔光砲だ・・・。流石のガイガンも、あれの直撃を受ければ、ただでは済まないな・・・。遠距離戦では圧倒的にこちらが不利か・・・、それなら!」
『デュロ防衛隊陸軍基地』の上空において、科学と魔法のエネルギーがぶつかり合う激しい空中戦が繰り広げられていた。しかしガイガンの光線技では『しんてん』の鉄壁の防御を崩せない状況から、アルバートはこのままではジリ貧になると判断した。
キィィィィン という甲高い金属質の咆哮を轟かせ、ガイガンは背中の三対の翼を羽ばたかせた。ビームの撃ち合いを止め、急加速する。超音速のドッグファイトへ戦術を切り替えたのだ。
「『カギ爪怪獣』、本艦に向かって突っ込んできます!」
「艦首超大型ドリル起動! 対空砲火の密度をあげ、そのまま向かい撃て!!」
『しんてん』も艦首超大型ドリルを高速回転させ、正面から突撃してくるガイガンに備えた。しかしスピードと空中での運動性能において、『古の魔法帝国』の遺産は一枚上手だった・・・。
ガイガンは『しんてん』の激しい対空砲火を鋭いバレルロールで回避し、ドリルに肉体を抉りとられる瞬間を紙一重で避け、一気に懐へと潜り込む。死角を取られた『しんてん』は急旋回し、ドリルを向け直そうとするが、一瞬遅く、ガイガンに肉薄された。
旋回の隙を完璧に突いたガイガンは、すれ違いざまに『しんてん』の艦首超大型ドリルの付け根に右腕の巨大な鎌『ハンマー・ハンド』を思い切り叩きつけた。
ズドォォォン!
凄まじい金属音が響き渡り、火花がデュロの空に散る。強烈な一撃が『しんてん』の装甲を直撃し、凄まじい衝撃波が走る。
ハンマーの容赦ない一撃は巨艦のバランスを崩し、姿勢制御を失った『しんてん』は錐揉み状態となって落下し始める。そしてそのまま『デュロ防衛隊陸軍基地』の本部棟へと突っ込み、凄まじい地響きとともに大地へと叩きつけられた。
本部棟の瓦礫に埋まったまま完全に沈黙し、身動きの取れなくなった『しんてん』。その上空では、ゆっくりと舞い降りてくるガイガンが、勝利を確信したように鋭い咆哮をあげ、無防備な艦を見下ろしていた・・・。