中央暦1640年8月2日
第三文明圏フィルアデス大陸の南
新生アルタラス王国 王都ル・ブリアス
『量産型スターファルコン』の宙対地爆撃により、『フィルアデス山』が約2000年振りに大噴火。これに起因して発生した大規模な火砕流が、皇国最後の極大基地『聖都防衛隊陸軍基地』や周辺の小中基地施設、そして繁殖場のすべて焼き尽くした日の午後、王都ル・ブリアスで再建工事中のアテノール城の大広間では、初代女王ルミエスが全世界に向けた緊急記者会見を始めようとしていた。
なおこの放送は、従来の魔導波を用いた魔導映像通信に加え、日本国の影響を色濃く受けているロデニウス大陸や『ムー連邦』のあるムー大陸向けに機械科学方式の無線映像通信も同時配信されている。
ルミエス女王は特設会場の壇上へ登壇すると、ゆっくりと頭を下げて一礼し、凛とした様子で発表を始めた。
「全世界の皆様、こんにちは。新生アルタラス王国女王ルミエスです。突然ですが、日本国とパーパルディア皇国との戦争に関して、重大発表を行います。なお今から行う発表は、日本国から了解を得たものです。」
様々な情報が錯綜している状況下で、ついに公的な機関から正式な発表が行われようとしている。会見場の大広間に集まった各国の記者たちは、ルミエス女王の言葉を一言一句聞き逃さないように耳を傾け、必死にメモを取り始める。
「昨日8月1日、アルタラス島とパーパルディア皇国の皇都エストシラントを結ぶ海域において、日本国とパーパルディア皇国の大規模な海戦が行われました。この海戦に、日本国は海上自衛隊の護衛艦隊約15隻を投入。一方、皇国は主力魔導戦列艦隊や竜母艦隊ら約600隻、そして巨大エビの魔獣を投入しました。」
「結果、日本国の被害はゼロです。一隻の撃沈はおろか、一発の被弾や人的被害すら出すことなく、圧勝しました。一方皇国ですが、ほぼすべての魔導戦列艦隊や竜母が撃沈され、生き残った数隻は敗走しました。また我が旧王国海軍を蹂躙した巨大エビの魔獣も、異形の最新鋭艦によってあっさりと駆除されました。」
40倍前後にも及ぶ戦力比を跳ね除けるだけに飽き足らず、あまりにも一方的な完勝結果に、特設会場が記者たちの驚嘆の声で大きくどよめく。
「また日本国はこの海戦とほぼ同時に、『皇都エストシラント』にある極大サイズ基地と海軍本部施設にも攻撃を行い、両施設を壊滅させています。なおこれら両攻撃ですが、我がアルタラス島に建設された日本国の基地が使用されました。」
「さらに同日夕方には、皇国領土の東端部の沿岸に位置する『工業都市デュロ』へも別動隊による攻撃を実施されています。皇国は切り札と思われる新型の人造魔獣を投入したようですが、日本国もこれに対抗し、巨大な機械の神龍『スーパーメカゴジラⅡ』を投入しました。これにより、極大サイズ基地施設や軍需工場群、そして悍ましい人造魔獣の製造施設は全滅し、この新型魔獣も討ち取られました。」
「そして本日早朝、フィルアデス山岳地帯にあった最後の極大サイズ基地も、日本国の攻撃で壊滅したという速報がありました。また基地周辺にあったワイバーンや地竜の繁殖場ですが、"偶然"大噴火したフィルアデス山の火山災害で周辺の中小規模基地もろとも消滅したという情報も入っています。これに伴い、パーパルディア皇国の主要戦力はほぼ全滅し、さらに皇国の継戦能力も完全に喪失したといえるでしょう。」
ルミエスは日本国から本発表向けに提供された航空写真や衛星画像を交えつつ、フィルアデス大陸の地図で場所を提示しながら説明を続ける。そこにはパーパルディア皇国自慢の軍事施設が瓦礫の山となり、基地施設の跡形すらわからなくなるほど徹底的に破壊し尽された惨状、またはすべてが火砕流に飲み込まれ、灰色一色に染まりあがった地獄のような景色が写されていた。
たった二日間で列強国の主要戦力を全滅させ、継戦能力をも機能停止に追い込むという尋常ではない戦果に、記者たちは開いた口が塞がらなかった。
「主要基地施設の大多数を失った皇国は、丸裸となった『皇都エストシラント』を守護するため、各属領から属領統治軍を緊急で引き上げ始めているという情報を入手しています。」
ルミエスは両手を差し出し、声を張り上げて演説を続ける。
「パーパルディア皇国の統治に苦しんで来た人々よ! 今が動く時です!! 第三文明圏を覆っていた皇国という闇を払う日本国という太陽が、天高く昇っています!! 今こそ力を合わせ、自分たちの安寧や平和、幸せ、そして何よりも誇りに満ちた自分の祖国を取り戻そうではありませんか!!!」
「今、皆が一斉に動けば、満身創痍の皇国にそれを止める術はありません! 今回の戦いの結果だけを見たとしても、パーパルディア皇国よりも日本国の方が強いことは明白です!! そして、彼らは日本には絶対に勝てない!!!」
「いつ動きますか? それは今です!! 今なら勝てる。そして彼らは列強の座から落ちる事となるでしょう。動き、そして戦うべきときは、今なのです!!」
ルミエスがそう言って演説を終えた後、記者たちが次々と質問を開始した。重要な事柄は
曖昧なままにされたが、第三文明圏に興奮や困惑、情勢を伝える緊急放送は終了した。
また日本国からの言伝として、『フィルアデス山』の火山活動が不安定な状況であることを航空機で確認したため、可能な限り、フィルアデス山岳地帯へは近づかないようにと、当事国であるパーパルディア皇国を含めた第三文明圏の各国へ注意が出された。
余談ではあるが、後にこの警告を無視し、『聖都パールネウス』まで侵攻しようとした強欲な某文明国は、再度発生した火砕流に軍勢の大部分を飲み込まれ、大きな被害を出してしまうのであった・・・。
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フィルアデス大陸 列強国 パーパルディア皇国
皇都エストシラント
正確な状況確認のために一時中断されていた緊急帝前会議は、午後から再開されていた。真っ青な顔をし、額から大粒の汗を滝のように流したアルデ最高司令官が登壇し、説明を始める。
「『聖都防衛隊陸軍基地』や繁殖場周辺の小中規模基地に配備していました軍の状況について、『聖都パールネウス』や被害が軽微だった小規模基地などから得られた複数の報告内容を基に、情報を整理しました。順を追ってご説明致します・・・。」
「本日早朝、『聖都防衛隊陸軍基地』に空から隕石のようなものが多数飛来し、基地中心部に着弾しました。基地に配備されていました魔力探知レーダーや飛竜隊による哨戒では敵飛行機械の接近は確認出来なかったようです。憶測にはなりますが、今年の2月に皇都へ侵入した飛行機械同様、こちらの探知不能な高度から接近し、基地に向けて高威力爆弾を投下したものと思われます。またその威力は、爆心地から直径1キロメートルの範囲を壊滅させるほど強力なものだったようです。」
「またこの超高威力爆弾の爆撃に呼応するかのように、『フィルアデス山』で大規模な火山噴火が発生しました。この大噴火によって破壊的な火山災害が発生し、『聖都防衛隊陸軍基地』や周辺の中小規模基地、さらに地竜やワイバーンの繁殖場も全滅しました・・・。」
日本国の攻撃で既に満身創痍なズタボロの皇国だが、追い打ちのように火山災害まで皇国に牙を向くという泣き面に蜂な状況に、出席者たちは葬式のような沈んだ表情へと変わっていく。
「幸いなことに、『聖都パールネウス』はこれら基地施設からも離れた高所にあったため、火山災害の影響は受けておりません。しかし、今朝報告致しました『工業都市デュロ』の全滅と合わせ、我が皇国の継戦能力は完全に喪失しました・・・。」
「また『ガイガン』の日本侵攻に合わせ、先にデュロ海軍基地を出撃した魔導戦列艦隊も消息不明となっております・・・。恐らくは・・・。」
今にも心労で倒れそうな様子のアルデが着席すると、第三外務局のカイオス局長が挙手し、起立して話し出す。
「現在の皇国軍の状況から、日本国は決して侮ってはならない敵であり、脅威であるという認識は、皆様共通かと思います。そこで、問題となりますのが・・・」
カイオス局長は一呼吸置いて、全員が最も口に出しにくい言葉をルディアス皇帝の前で発現した。
「今回の戦争をどう終わらせるか、落としどころをどうするかです!」
カイオス局長は、アルデ最高司令官の方を向いて話し始めた。
「アルデ最高司令官殿にお尋ねする。残存兵力で日本国本土に上陸を行い、皇帝陛下の御指示である日本人の殲滅をなす事は可能ですか?」
「言うまでもなく、陛下の御意志達成のため、全身全霊をかけて取り組む所存だ!」
即答するアルデに対し、カイオス局長はその回答を一刀両断する。
「中身のない精神論など、誰も聞いていない。皇国三大基地が消滅し、頼みの綱であったデュロ工業地帯も壊滅。そのうえ人工魔獣はおろか、皇軍の主力であった地竜や飛竜すら碌に揃えることが出来なくなった現状を顧みて、可能か否かを答えて頂きたい。」
ルディアス皇帝ら皇国上層部の前で公開処刑のような激詰めをされ、アルデは歯ぎしりしながら答える。
「達成するためには、兵士や飛竜の数をもっと揃え、それらを輸送する船を造る必要がある・・・。しかし、デュロの工場地帯やパールネウスの繁殖場が壊滅した今、それは不可能となってしまった・・・。」
ボソボソと俯いたまま答弁するアルデに対し、カイオス局長は吐き捨てるような言葉を投げる。
「仮にそれらが揃えられたとして、『古の魔法帝国』の遺産である『ガイガン』すら屠った日本国の超兵器群に対し、有効な兵器や戦術があるとは思えませんが・・・。それでは、日本国と皇国との戦端を開いた第一外務局へいくつか質問をさせて頂きたい。」
カイオス局長の目は、第一外務局のエルト局長へと向けられる。
「この戦争、どのように収束させるおつもりですか?」
いつものすました顔はどこへやら、エルト局長はルディアスとレミールの顔を伺いながらか細い声で答える。
「国家として、すでに日本殲滅を表明している以上、皇国が意志を変更すれば、他国や属国に示しがつきません。国益を考えたとしても、このまま進むしかないと考えます。」
「先程、アルデ殿が現状では不可能と説明されました。それを踏まえ、外交的に解決することは出来ないのでしょうか?」
年明け早々に第一外務局へ呼び出され、レミール皇女に公然で罵倒されたときの屈辱を思い出しながら、カイオス局長の追及は続く。
「第三外務局が日本国を担当していた頃、かの国について独自に調査を行っていました。監察軍を一方的に撃破可能な実力を有した要注意国家という情報に加え、かの国は平和主義を是としており、自国防衛以外の軍事行動はまず起こさないほど温厚という調査結果も、第一外務局へ確かに引き継ぎました。彼らから、停戦や終戦に向けた何らかの要求はなかったのですか?」
第三外務局から引き継がれた調査資料は、レミールが一読しただけで欺瞞情報と決めつけ、すべて握りつぶしていた。そのためエルト局長からするとほぼ初耳同然であり、完全にとばっちりのような状態であった。
「日本国は・・・フェン王国において、我が国が行った日本人虐殺についての公式謝罪と、賠償、そして首謀者、参考人の身柄の引渡し。またフェン王国に対する謝罪、賠償、物品の補償、人員に対する賠償、これを求めています。」
エルト局長の回答に、誰が首謀者かと会議室内が騒めく。唯一、当事者であるレミールだけが表情をどんどんと曇らせていく。
カイオス局長がレミールに話を振ろうとしたタイミングで、心労が祟ったレミールがその場で倒れ込んでしまい、同時に大広間に怒声が響いた。
「もうよい!! カイオス、貴様は何が言いたい! 第三文明圏を統べるパーパルディア皇国の長である余とその皇族であるレミールを日本に差し出せというのか!? そのような屈辱的な完全敗北がお前の望みか!!」
激昂したルディアスがカイオスを睨みつけ、大声で怒鳴り散らす。
「いえ、決してそのようなつもりはございません。ただ私は、皇国臣民のためを思い、日本が何を求め、我が国としてどういった対策が出来るのか、目を瞑らずに洗い出し、あらゆる可能性について模索しているのです。私は本当に危機感を感じているのです。このままでは、皇国が滅んでしまうかもしれないと、危惧を抱いているのです。」
一言間違えば自分だけではなく、一族全員の首をも飛びかねない状況下で、カイオスは慎重に言葉を選ぶ。
「皇国にとっての脅威は、日本国だけではないと私は考えているのです。皇国は、文明国5ヵ国と文明圏外国67ヵ国という広大な属領を皇国軍という強大な軍事力によって支配してきました。しかし属領統治軍が撤退した今、万が一、皇国軍がこれほどまでに壊滅したことを周知されれば、・・・。」
カイオス局長が危惧している懸念・・・、恐怖支配を是とする皇国の脆弱性を上申しようとした最中、血相を変えた幹部が音をたてて飛び込んできた。幹部の手には、公共放送用の魔導通信機が握られていた。
「緊急事態です! 属領のクーズ、マルタ、アルークで大規模な反乱が発生しました。属領統治機構の職員たちが対応中ですが、かなりの劣勢とのことです!!」
昨日の帝前会議で説明した通り、属領で反乱がおきた場合の全責任の所存は、パーラス臣民統治機構長官にある。無事に鎮圧出来たとしても、これだけの大反乱を発生させた全責任を取らされることは明白だ。パーラスは、その場で気絶してしまった。
「アルタラス王国のルミエス女王が、皇国の属領に反乱を起こすよう魔信で呼びかけています。また先程、皇国の三大極大基地や海軍戦力のすべてが日本国の攻撃によって消滅し、皇都が丸裸の状態であることまで、このように全世界に向けて報道されています・・・。このままでは他の属領も呼応し、さらに大規模な反乱が発生する可能性が極めて高いと思われます!」
これまでパーパルディア皇国は、強大な軍事力という『恐怖』で他国を支配し、属領や周辺国から富を吸い上げる事で第三文明圏の覇者へと成りあがっていた。
しかし、その恐怖の象徴である皇国軍が・・・、第三文明圏最強と謳われた竜騎士隊や魔導戦列艦隊、そして『古の魔法帝国』の研究施設跡を用いた創られた人造魔獣たちが、日本国によって粉々に砕かれてしまった。
恐怖政治の脆弱性が、最悪のかたちとなって自分たちに返ってきてしまったのだ。
結局この日の会議でも、国家としての明確な方針は定まらず、ルディアス皇帝や皇都エストシラントに住む皇族たちの緊急避難のみが決定された。日本国に加え、属領の反乱という新たな脅威が加わったことにより、まだ『メガニューラ』という貴重な戦力が残されている商業都市イーオンへ向けて明朝出発することとなった。
なお帝前会議で倒れてしまったレミールだが、宮廷医師からしばらく安静にするよう診断されたため、数日遅れて出発することとなった。幸か不幸か、この数日の遅れが彼女の運命を大きく変えることになったのであった・・・。