131. エモールへの相談
中央暦1640年8月10日
第三文明圏の東 大東洋
日本国 つくば市
『デュロ決戦』において、日本国はごうてん型対特殊生物戦闘護衛艦の2番艦『しんてん』と『スーパーメカゴジラⅡ』に連携により、パーパルディア皇国の切り札である『古の魔法帝国』の遺産・・・、『ガイガンミレース』の撃破に成功した。
日本国自衛隊と国連G対策センターは、撃破した『ガイガンミレース』の残骸回収を最優先事項として対応し、数日後にはつくば市にある特殊生物研究本部へと移送されていた。
「上半身は跡形もなく木っ端微塵に粉砕され、融解・飛散しているか・・・。だが、下半身だけでもこれほどの規模とはな。」
特殊研究本部の職員や国連G対策センターのG研究所から派遣された研究員たちが、大型クレーンで厳重に吊り上げられるガイガンの巨大な脚部を見上げ、冷や汗を流していた。
この世界線の日本は、『二代目ゴジラ』を筆頭に、『スペースゴジラ』や『デストロイア』、さらには『グランドギドラ』といった天災級ともいえる強大な特殊生物の脅威を身を以て知っている。しかし、彼らがこれまでに遭遇してきた特殊生物は、すべて大自然の脅威そのものである『完全な生物』だった。
※ 死の概念を持たないデスギドラは、生物と定義可能な微妙ではあるが・・・。
ゆえに、眼前に吊り上げられた残骸がもたらした衝撃は、これまでの怪獣災害のどれとも異なっていた。
「・・・信じられん。これは『機械』なのか? いや、生身の怪獣の肉体だ。強靭な筋肉や骨格の間に、見たこともない結晶体や、魔力伝導路と思われる謎の金属パイプが、まるで神経系のように強引に埋め込まれている・・・!」
地球の現代科学、あるいは『メカゴジラ』や『MOEGRA』のような最先端ロボット工学の系譜とは、完全に断絶した異質のテクノロジーであった。電子基板もコードも見当たらない。代わりに装甲の裏面や人工関節の継ぎ目には、回路のように緻密な「幾何学模様(魔法陣)」が刻印されていたのだ。
生物の肉体を、魔法の技術で強制的に兵器へと造り替えた、醜悪で冷徹な「サイボーグ怪獣」。初めて目にするその異形の機械化手法に、様々な特殊生物を見慣れた百戦錬磨の研究員たちも背筋に冷たいものを感じずにはいられなかった。
さらに、捕虜となったパーパルディア皇国の高官や魔導技術者への尋問により、その正体が判明する。
「あれは・・・我が皇国が発掘して復活させた、一万年以上前にこの全世界を支配していたという『古の魔法帝国』・・・、『ラヴァーナル帝国』の遺産だ・・・!」
『フェン王国』や『アルタラス王国』の侵攻時に使役され、自衛隊に撃破された『エビラ』・『アンギラス』・『カマキラス』・『メガニューラ』といった怪獣兵器たちも、その遺跡に遺されていた研究施設跡を用いて創り出されたことを皇国関係者は白状した。
日本国政府に、地球にいた頃とは全く質の異なる戦慄が走る。この異世界には、かつて「生きた特殊生物を魔法技術でサイボーグ化し、兵器として使役していた超高度な文明」が存在した。そして、その国はいずれこの世界に「帰還」すると予言されているのだ。
特殊生物を駆逐するのではなく、「サイボーグに造り替えて使役する」という狂気の大帝国。もし彼らが、これと同等、あるいはそれ以上のサイボーグ怪獣を率いて攻めてきたら・・・。
いくら自衛隊の戦力や『ごうてん級護衛艦』、『スーパーメカゴジラⅡ』といった超兵器群があるとはいえ、日本単独での防衛は未知の領域だった。
「魔法文明主体の怪獣兵器・・・。『ラヴァーナル帝国』について、一刻も早く、奴らの実態を掴まねばならんな・・・。」
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特殊研究本部からの緊急報告を受けた外務省は、即座に動いた。
この世界に国家転移してから約一年半、日本国は第三文明圏を中心に国交締結した国々を増やしつつあったが、その中でこと「ラヴァーナル帝国」に関して、独自の伝承を持つ国があった。
古の魔法帝国こと『ラヴァーナル帝国』に対し、唯一対抗出来たとされる竜神の国『インフィドラグーン』・・・。その末裔である『エモール王国』とは、数か月前、対等な立場で国交を樹立していた。
日本国政府は、駐日エモール王国大使館へと緊急の会談を申し入れた。その数日後、都内の特設会議室。日本外務省職員の荒尾ら数名の外交官、防衛省の黒木特佐やGフォース副司令官の佐々木拓也らの前に、エモール王国のモーリス駐日大使が姿を現した。
余談ではあるが、彼は日本国外務省使節の荒尾と保木を出迎え、国交締結交渉を行った外交担当貴族モーリアウルの親戚である。『空間の占い』で提示された『対魔帝戦において、日本国が鍵』という予言の真相を探るようワグドラーンから国命を受け、日本国大使として赴任していた。
「日本国の代表の方々。本日は、我がエモールにどのような要件かな? 先日発表された貴国の『スーパーメカゴジラⅡ』とやらの力、我が国でも大変な話題になっておるぞ。皇国の人工魔獣兵器を一蹴されたとか・・・。」
エモール側も、日本がパーパルディアの「切り札」を『スーパーメカゴジラⅡ』という機械の神龍が打ち破ったという大まかな戦果は知っていた。しかし、その切り札が「具体的にどういうものであったか」までは、まだ情報が届いていなかったのだ。
荒尾外交官は小さく頷くと、余計な前置きを省き、テーブルの上に「ある写真」を並べた。それは工業都市デュロの戦場で撮影された、上半身を完全に失い、引き千切れた怪獣の生体組織と、魔力回路と思しき結晶パーツを露出させた『ガイガン』の下半身の姿。そして、特殊研究本部で分析された生体部分の細胞組織や、魔法陣が刻まれた外殻の拡大図だった。
「・・・っ!? 伝承の、記述と、一致する・・・!? ま、まさか・・・!!」
写真を見た瞬間、モーリス大使の顔から血の気が引いた。その目は驚愕に見開かれ、浅黒い肌がみるみるうちに青ざめていく。上半身がないとはいえ、その特徴的な三枚の羽や脚部の形状、そして禍々しい魔法装甲の質感だけで、エモールに伝わる「絶対的な禁忌」の姿が脳裏にフラッシュバックしたのだ。
「これ、は・・・まさか、貴国がデュロで戦った相手というのは、この・・・!?」
「モーリス大使。単刀直入に申し上げます。」
荒尾外交官は鋭い視線をモーリスに向け、静かに、しかし断固とした口調で告げた。
「我が国に対し、パーパルディア皇国が切り札として繰り出してきた人工魔獣の残骸です。生物と魔法技術が融合した怪獣兵器であり、彼らはこれを『ガイガン』と呼称していました。我が方の火力により上半身は消滅しましたが、この下半身を回収し、現在分析を進めています。また、彼らはこれを『魔帝の遺産』と呼んでいました。」
一拍置き、荒尾は身を乗り出す。
「我々の世界には、かつて自らのエネルギーが暴走し、世界すら滅ぼしかけた強大な特殊生物の記録はあります。しかし、このように『生物の肉体を人工的に機械化し、兵器として使役する』という歪な技術は存在しませんでした。」
「我々にとっては完全に初見の脅威です。そこで、魔帝の歴史に最も詳しい貴国にお尋ねしたい。この『ガイガン』という存在、そして『古の魔法帝国』・・・、『ラヴァーナル帝国』とは、一体何者なのですか?」
モーリス大使の手が、かすかに震え始める。自分たちの先祖を、人造怪獣兵器とコア魔法で滅ぼした忌まわしきラヴァーナルの影が再び現れたことへの恐怖。
そしてその影を上半身ごと跡形もなく消し飛ばして平然と回収し、あまつえ「初見の脅威だから教えてほしい」と冷静に問いかけてくる日本への底知れない畏怖。
静まり返る会議室で、モーリス大使はついに震える声で重い口を開いた。
「この異形の怪獣兵器・・・。我が国に伝わる神話において、かつて世界を支配した『古の魔法帝国』こと『ラヴァーナル帝国』が、人工的に創り出した怪獣を魔力技術で造り替えた最悪の兵器の一つとして伝わっている。我がエモール王国民の『竜人族』、そして我が祖先である『インフィドラグーン』にとって、永劫に忘れられぬ血の怨嗟の象徴でもあるのだ。」
モーリス大使は、机の上のガイガンの写真を凝視したまま、絞り出すような声で言った。その額には大粒の汗が浮かんでいる。
日本側としては、『クワ・トイネ公国』などの友好国から、かつて全世界を支配した巨大な帝国が存在した」という歴史の概要はすでに聞いていた。
さらに昨年末にトーパ王国で発生した『魔王事変』において、自衛隊によって駆除されたあの『魔王ノスグーラ』。事変後に回収されたオーガたちや『ゴロザウルス』の細胞を分析することによって、あれらが『ラヴァーナル帝国』の創り出した「生物兵器の一種」であろうことも、日本政府は把握していた。
しかし、眼前に横たわる『ガイガン』の残骸は違う。生物の肉体をベースにしながらも、魔法技術による「異形の機械化」を施されたサイボーグ。ラヴァーナル帝国が生物工学だけでなく、未知の魔力機械工学までをも極め、怪獣を「造り替えて使役する」狂気のテクノロジーを有しているという事実は、日本にとって完全に初見の脅威であり、戦慄だった。
モーリス大使は深く息を吐き、自らのルーツに深く刻まれた、一万年以上前の大戦の記憶を・・・、『竜人族革バッグ事件』から始まった『龍魔戦争』、そして巨大隕石から逃れるために魔帝が時空転移魔法で大陸ごと未来へと転移した結末を詳しく語った。
荒尾外交官をはじめとする日本政府関係者、そしてG対策センターの幹部たちは、静かにモーリスの言葉に耳を傾けていた。あまりに自分勝手かつ残虐な理由から、このような凄絶な大戦争を繰り広げていたという古の大帝国の実態が、徐々に輪郭を結んでいく。
「『ラヴァーナル帝国』は、去り際に予言を遺していた。いつの日か、再びこの世界に『帰還』すると。『復活の刻来たりし時、世界は再び我らにひれ伏す』と記された不壊の石版も遺してな・・・。我々エモールは永きにわたり、総力を挙げた国家儀式を執り行うことで魔帝復活の兆候を監視してきたが、ついに恐れていた未来が視えてしまった・・・。」
「国家儀式・・・ですか。」
「我が国に伝わる、遥か未来の星々の配列を読み解き、未来を視通す予言の儀式『空間の占い』。これを今春に執り行った際、空間の神々がもたらした啓示は、我々の魂を凍りつかせた。・・・近々、『ラヴァーナル帝国』が復活する。あの狂気のサイボーグ怪獣たちを率い、わが祖先『インフィドラグーン』を滅ぼしたコア魔法を生み出した悪魔の大帝国が、この世界に再び帰還する未来が視えてしまったのだ・・・。」
会議室に、張り詰めた沈黙が流れる。トーパ王国を襲来した『魔王ノスグーラ』、そしてパーパルディア皇国が掘り起こした『ガイガン』。それらは全て、『ラヴァーナル帝国』が遺した過去の遺物に過ぎなかった。しかし、その遺物を造り出した張本人たちが、そう遠くない未来に「本隊」としてこの世界に攻め寄せてくるのだ。
地球に存在していた頃の日本国は、『二代目ゴジラ』を筆頭としたまさに天災級ともいえる強大な特殊生物の脅威と戦い、そして生き抜いてきた。しかし、モーリス大使の語る『ラヴァーナル帝国』は、『魔王ノスグーラ』のような生物兵器を創り出し、怪獣すらも魔法技術でサイボーグ兵器へと改造し、魔法版の核兵器を平然と運用する、組織化された『意志を持つ侵略者』である。
「生体工学を応用した生物兵器、魔法技術によってサイボーグへと改造された特殊生物、そして魔法版の核兵器・・・か。『ムウ事変』を引き起こした『ムウ帝国』どころの話じゃないな・・・。」
Gフォースの佐々木副司令官が、深刻な顔で手元の資料に目を落とした。『スーパーメカゴジラⅡ』がガイガンの上半身を吹き飛ばして撃破したとはいえ、もしあのレベルのサイボーグ怪獣が数体、あるいは数十体規模で襲来すれば、日本といえど無傷では済まない。
荒尾外交官は静かに写真を片付けると、モーリス大使に向き直り、力強く語りかけた。
「モーリス大使、大変貴重な情報をありがとうございます。我々日本国は、どのような脅威であろうと、国民の平和とこの世界の平穏を脅かす存在を容認するつもりはありません。」
その言葉は、エモール王国への外交的なリップサービスではない。特殊生物の恐ろしさを知る日本としての、本気の防衛決意だった。
「我が国も、『ラヴァーナル帝国』の帰還に備え、さらなる防衛体制の強化と技術分析を急ぎます。ラヴァーナル帝国という未曾有の脅威に対し、我が国もただ手をこまねいて待つ気はありません。現在、我が国はパーパルディア皇国の臨時政府との間で、講和条約の締結に向けた最終調整に入っています。」
荒尾は手元の資料をめくり、一枚の地図をモーリス大使に示した。示された場所は、パーパルディア皇国の『工業都市デュロ』・・・、かつて皇国三大基地の一つである『デュロ防衛隊陸軍基地』が存在していた場所であった。
「我が国が皇国に突きつける講和条件の中には、賠償金や戦争犯罪者の引き渡しだけでなく、極めて重要な項目が含まれています。皇国が『ガイガン』を発掘し、独自の特殊生物を生み出すために悪用していた『ラヴァーナル帝国研究施設跡』全域への調査団の受け入れ、および皇国がこれまでに秘匿・蓄積してきた関連する全魔導技術と詳細データの全面開示です。」
「なっ・・・!? 皇国領土内に、魔帝の施設跡が存在していたのか・・・!?」
モーリス大使は、この日一番の驚愕の声を上げ、思わず椅子から身を乗り出した。古の魔法帝国の遺跡だが、その殆どは中央世界こと第一文明圏のある『ミリシエント大陸』に存在していた。そのため、パーパルディア皇国の領土内に、怪獣工場のような中枢の研究施設跡が眠っていたなどとは、全く預かり知らぬことだったのだ。
「しかし・・・」と、荒尾は少し表情を曇らせ、写真をもう一枚提示した。そこには、跡形もなく消し飛んだ大地と、ガラス化した巨大なクレーター、側壁が崩落した地下施設の無惨な光景が写し出されていた。
「先日の『スーパーメカゴジラⅡ』と『ガイガン』の激戦は、まさにそのデュロの研究施設跡のすぐ近くで行われました。激突の余波により、施設の大部分は物理的に粉砕・崩壊し、壊滅的な被害を受けています。現存している遺構はごく一部であり、現場からの直接的な技術回収は極めて困難な状況です。」
「だからこそ、パーパルディア皇国が事前に施設から引き揚げ、本国に保管していた『紙の資料』や『魔導記録媒体』といった詳細データの全面開示が絶対条件なのです。施設そのものの大部分が失われた以上、彼らの持つバックアップデータこそが、魔帝の技術を解き明かす唯一の鍵となります。」
そこまで一気に語ると、荒尾は苦笑いを浮かべた。
「・・・しかし、これには我が国にとって大きな問題があります。大使もご存知の通り、我が日本国は『魔法』という概念を持たない世界から転移してきました。科学技術の知識はあれど、魔法文明の基礎、ましてやラヴァーナル帝国の超魔導技術を解読するための知識が、致命的なまでに乏しいのです。」
荒尾はモーリスの目を真っ直ぐに見据えた。
「崩壊した瓦礫の中からわずかに残った遺物をサルベージし、我が国が掴んだ未知の遺構の情報を精査し、皇国から開示させた難解な魔導データを解析する・・・。これは魔法技術に乏しい我が国が単独で動くべき案件ではありません。魔帝復活までの時間が足りない以上、宝の持ち腐れになりかねない。・・・そこで、モーリス大使。本日の本題です。」
一拍置き、荒尾は深く頭を下げた。
「魔帝の歴史に最も詳しく、かつ高度な魔法文明を持つ貴国に、力を貸して頂きたい。日本国政府は、デュロの崩落現場へ派遣する調査団、およびデータの解析チームに、エモール王国の学者や技術者を共同調査員として受け入れたいと考えています。皇国から開示させた全魔導データを貴国と共有する代わりに、その解析と解読を、我々と共同で行っていただきたいのです。」
「我が国と・・・共同調査をか!?」
モーリスは深く頷き、何かを熟考するように顎に手を当てた後、荒尾に向かって真剣な眼差しを向けた。
「我がエモール王国は、日本国からの共同調査の要請を、二つ返事で歓迎しよう。・・・しかし、その上で私から一つ、さらに踏み込んだ提案をさせて頂きたい。」
「提案、ですか?」
「確かに我がエモール王国は、魔帝の歴史や伝承に詳しい。だが、開示されるであろう古代の超高度な魔導技術そのものを『物理的に解析・再現する』という点においては、我が国よりもさらに適任であり、我らの一大同盟国でもある国を巻き込むべきだと考える。」
モーリスは、その国の名を口にした。
「世界最高峰にして最強の国家『神聖ミリシアル帝国』をな。」
「ミリシアル・・・」
荒尾の目がわずかに細くなる。中央世界に君臨する、この世界最大最強と謳われる魔法帝国。日本とミリシアル帝国は、第三文明圏を巻き込んだ激動の中でも、まだ正式な国交締結には至っていない、いわば未国交の状態だった。
いずれは接触せねばならない超大国だが、お互いに腹を探り合う段階であり、日本側からラヴァーナル帝国の最重要データを手土産に直接アプローチを仕掛けるには、些か政治的なハードルが高い相手でもあった。
「彼らはラヴァーナル帝国の遺産をベースに自国の文明を発展させてきた、いわば魔導技術の専門家集団だ。ラヴァーナルが遺した難解な数式や、サイボーグ怪獣の制御魔力回路のコアなどを解読・理解できるのは、世界で唯一、彼らだけだろう。幸い、ミリシアルと我がエモールは強固な同盟関係にある。」
モーリスは熱を帯びた口調で続けた。
「日本国とミリシアル帝国は、まだ正式な国交を結ばれていないと聞き及んでおる。よろしければ、我らの方からミリシアルのしかるべき知己へ連絡を入れ、このデュロの遺産に関する日・エモール・ミリシアルの『三カ国共同研究』の場をセッティングするのはどうだろうか。これを契機として、貴国とミリシアルの国交の架け橋とされてはいかがかな?」
荒尾は、心の中で小さくガッツポーズをしていた。未国交の超大国ミリシアルへ、エモール側から最高の形で、しかも「魔帝の共同調査」というこれ以上ない大義名分を伴って橋渡しをしてくれるというのだ。さらに、ミリシアルをプロジェクトに巻き込めば、彼らが持つ「世界最先端の魔導データ」も合法的に日本側へ流れ込んでくることになる。
「モーリス大使、願ってもないお申し出です。我が国単独では、ミリシアル帝国への迅速な接触は難しかった。ぜひ、神聖ミリシアル帝国への仲介をお願い致します。世界を脅かす魔帝の帰還に立ち向かうため、英知を結集させましょう!」
モーリスはゆっくりと立ち上がり、荒尾に向かって右手を差し出した。荒尾はその手をしっかりと握り返した。
地球の超科学、エモールの神話の記憶、そして世界最大の魔法帝国の英知。交わるはずのなかった三つの力が、『ラヴァーナル帝国』という最凶最悪の侵略者を迎え撃つために、今ここに結託しようとしていた。パーパルディア皇国との講和の裏で、世界を救うための超国家プロジェクトが、静かにその産声を上げた瞬間だった。