前話ですが、メカキングギドラもサイボーグ(完全な機械ではない)の旨を失念していたため、内容を修正しています。ご指摘ありがとうございました。
中央暦1640年8月14日
第一文明圏(中央世界)
列強エモール王国 首都ドラグスマキラ
世界第3位の列強国『エモール王国』、その首都ドラグスマキラの北部にあるウィルマンズ城。その最奥にある謁見の間において、国家元首である竜王ワグドラーンは、重々しい沈黙の中で緊急の魔導通信記録を睨みつけていた。
そこに集結していたのは、エモール王国上層部である竜人族たち。彼らの顔は一様に、驚愕と、それを上回る身震いするような戦慄に支配されていた。
通信の主は、日本国に派遣されているモーリス駐日大使だった。つい先日、日本政府との極秘会談を終えた彼から、本国へ向けて文字通り世界を揺るがす報告がもたらされたのだ。
「・・・パーパルディア皇国が対日戦の切り札として繰り出した人工魔獣兵器ですが、魔帝の遺産である『ガイガン』であることが判明しました。日本国は、独自の超科学技術で建造された『スーパーメカゴジラⅡ』と呼ばれる機械の神龍を投入。さらに、空飛ぶ鋼鉄の魔船との見事な連携により、あのガイガンを撃破したようです・・・。」
「驚くべきことに、日本側はかつて彼らのいた世界において『サイボーグ化された多頭の巨龍』を解析した実績があったようです。その知見があるがゆえに、ガイガンが人工魔獣の肉体をベースに、魔導技術で改造された兵器であることをすぐさま見抜きしました。さらに、我々も解明出来ていなかったガイガンの俊敏性の秘訣について、生体組織そのものを一種の『制御回路』として組み込み、魔導生体回路として動かしているという事実まで掴んでいました・・・。」
「なんという、ことだ・・・。」
一人の老竜人が、深く息を吐きながら頭を抱えた。
「我々竜人族は、数万年前の『龍魔戦争』において、ラヴァーナルが創り出したおぞましき人工魔獣の軍勢と戦った。奴らは生命をゼロから人工的に創造し、あろうことかそれをさらに魔法技術で再改造して兵器としていたのだ。あの『ガイガン』のような異形は、我々にとって恐怖の象徴であり、絶対に解き明かせぬ神域の禁忌であったはず。それを・・・日本という国は、恐怖するどころか『技術的に理解している』というのか・・・。」
「それこそが、神々がもたらした光明かもしれないな・・・。」
それまで静かに目を閉じていた竜王ワグドラーンが、ゆっくりと、しかし地鳴りのような威厳に満ちた声で割り込んだ。ワグドラーンが燃えるような瞳を開き、虚空を見つめる。
「彼らは、魔帝の誇る超魔導技術に対し、超科学技術という全く異なるプロセスで真正面から対抗し、粉砕することが可能な力を持っているのだ。だが、それ以上に恐るべきは、彼らの『知の姿勢』だ。」
ワグドラーンは深く息を吸い、玉座の肘掛けを強く握りしめた。
「日本側は、モーリスに対して『共同調査』を提案してきた。彼らがパーパルディアから講和条件で毟り取るデュロの遺産と全データを、我らエモール、そしてミリシアルとも共有し、共に解き明かそうと持ちかけてきたのだ。」
「・・・彼らは、自分たちだけで世界を救おうとはしていない。科学という全く異なるアプローチで魔帝の力を分析・解明し、その知見をこの世界に融合させることで、この世界全体の力を昇華させ、共に迎え撃とうとしているのだ!」
彼の脳裏に、今年の春に国を挙げて執り行われた国家儀式・・・、『空間の占い』の光景が蘇る。
あの時、空間の神々がもたらした啓示。遠くない未来、ラヴァーナル帝国が復活し、世界は再び絶望の闇に包まれる。しかし、その破滅の運命の最中、「東の果ての大東洋に出現した人族が治める島国の転移国家。その国こそが、世界を救う唯一の鍵となる」という、不可解な予言。
当時は、魔力の低い人族が治める国が、どうやって世界を救えるのか、ワグドラーンたちにも全く見当がついていなかった。だが、今、すべてのパズルのピースが完璧に噛み合った。
「ラヴァーナル帝国が、最強のサイボーグ怪獣の軍勢を率いて帰還する。ならば、それを迎え撃てるのは、日本国という超科学の『触媒』によって魔法と科学を融合させ、これまでの限界を超えて進化した力だけだ。神が日本国をこの時代、この世界に召喚したのは、我ら泥を這うしかなかった異世界の民に、科学という異なるアプローチによって魔帝を打ち破る英知を分け与え、共に立ち上がらせるためだったのかもしれないな・・・。」
竜王の言葉に謁見の間の誰もが息を呑み、そして深い納得と、これまで感じたことのない巨大な希望と闘志を抱いた。
「これ以上の猶予はない。直ちにモーリスの提案を承認する。我が国最高峰の魔導学者たちをすべて日本国へ向けて出発させよ。日本国の超科学と、我が国の魔導の対話を始めるのだ。それが、ラヴァーナルに立ち向かう力となるだろう!」
「また我が同盟国である『神聖ミリシアル帝国』へ、最高最優先の緊急魔導通信を入れよ。」
竜王の命を受け、エモール王国最高峰の魔導通信陣が動き出す。世界最大の超大国ミリシアル帝国の最高評議会室へと、世界の勢力図を根底から引っくり返す緊急魔導通信が叩き込まれることになるのであった。
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中央暦1640年8月16日
第一文明圏(中央世界)
列強 神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス
神聖ミリシアル帝国の首都ルーン。世界最高峰の魔法文明を誇る超大国の評議会において、居並ぶ大物政治家や外務省の高官たちに対し、帝国情報局の局長アルネウスは淡々と『先進11ヵ国会議への日本国招待』の提案を行っていた。
「・・・以上の理由から、第三文明圏の新覇者となった日本国に対し、国交締結交渉および次回の先進11ヵ国会議への出席要望のための、先遣使節団派遣を提案致します。」
アルネウスが説明を終えると、室内にクスクスと小馬鹿にしたような笑い声が漏れた。
「アルネウス局長。第三文明圏の東の果てに出現した新興国を、我がミリシアルが主催する『先進11ヵ国会議』に招くだと?」
「パーパルディア皇国は元々、恐怖政治によって国内や属国に多くの火種を抱えていた。そこをうまくついて勝手に自滅したのを、日本がすべて蹴散らしたかのように大裟裟に報告されては困るな。」
鼻で笑う政治家たちの態度に、共に出席していたライドルカの拳が怒りで震える。危険な戦場で、自分がどれほど驚異的なものを見てきたか、彼らは何も分かっていない。
アルネウスがさらに反論を試みようとした瞬間、評議会室の重厚な扉が大きな音を立てて開け放たれた。
「報告致します! 同盟国であるエモール王国より、我が帝国に対して『最優先級の緊急魔導通信』が入電しました!」
息を切らせた通信官の叫びに、評議会室の空気が一変する。
「エモールが・・・? 一体何事だ?」
議長が促すと、通信官は震える手で受け取った通信文を読み上げた。その内容は、評議会室にいる全員の魂を凍りつかせるに十分な凶報だった。
「我がエモール王国は今春、国家儀式『空間の占い』を執り行い、古の魔法帝国・・・、『ラヴァーナル帝国』が近い将来にこの世界へ復活・帰還する確定予言を得た。」
「な、何だと・・・!?」
政治家たちの顔から余裕が消え失せる。ミリシアルが最も恐れ、同時にその背中を追い続けてきた絶対的な存在、魔帝ラヴァーナルの復活。しかし、通信官の読み上げはそこでは終わらなかった。真の衝撃は、その先にあった。
「パーパルディア皇国を下した日本国と会談を実施した結果、皇国が切り札として繰り出し、日本国によって撃破された人工魔獣の正体が、魔帝ラヴァーナル帝国の遺産・・・、サイボーグ怪獣兵器『ガイガン』であったことが判明した。」
「・・・なっ!? が、ガイガンだと!?」
「あの文献にのみ記されていた、魔帝の生体サイボーグ怪獣兵器が実在し・・・、皇国が復活させて投入していたというのか!?」
評議会室に激震が走る。神聖ミリシアル帝国は、過去の断片的な超古代文献から、かつて魔帝が人工魔獣を創り出し、それを再改造したサイボーグ怪獣兵器『ガイガン』を運用していたという「知識」そのものは持ち合わせていた。
しかし、『空中戦艦パル・キマイラ』のような金属で作られた古代の艦船とは異なり、生体組織を有したサイボーグ怪獣は、数万年という歳月の間に完全に腐敗・風化して失われてしまう。
そのため、ミリシアルの最先端技術を以てしても実物の残骸は歴史上ただの一度も発掘されたことがなく、学者たちの間では「失われた幻の兵器」と結論付けられていたのだ。
実際は魔帝の尖兵たる『アニュンリール皇国』の工作員たちにより、神聖ミリシアル帝国に先んじて無事な個体は回収、復旧不可能なほど損傷が進んでいる場合には証拠隠滅のために爆破されてしまっていた。
通信官の読み上げは、茫然とするミリシアルの度肝をさらに抜き去る。
「日本国は独自の超科学技術で建造された『スーパーメカゴジラⅡ』と呼ばれる機械の神龍を投入し、空飛ぶ鋼鉄の魔船との連携により、あのガイガンの撃破に成功。さらに、生体組織が腐敗する前に、独自の高度な保存技術でその下半身の残骸を完璧に確保していいる模様。」
「また日本国はパーパルディア皇国との講和条件において、ガイガンの発掘元である『デュロのラヴァーナル帝国研究施設跡』の全面調査権、および皇国が秘匿していた関連する全魔導技術・詳細データの全面開示を要求。我が国と日本国は、魔帝の力を魔法と科学の両アプローチから分析し、世界全体の力を昇華して共に迎え撃つため、『日本・エモール共同調査プロジェクト』を立ち上げることで合意した。」
評議会室が、今度こそ完全に水を打ったように静まり返る。ミリシアルが「ど田舎の新興国家」と鼻で笑っていた日本国は、自分たちが歴史上ただの一度も拝むことすらできなかった伝説の遺産を撃破しただけでなく、その発掘中枢のデータまでも講和条件で根こそぎ毟り取ったのだ。
通信官は、最後に決定的な一文を読み上げた。
「つきましては、『ラヴァーナル帝国』の超魔導技術の物理的解析において世界最高峰である我が同盟国『神聖ミリシアル帝国』に対し、日本国からの要請も含め、この『魔帝遺産・三カ国共同研究プロジェクト』への正式な参加と、未国交である日本国との迅速な国交樹立の仲介を、エモール王国元首・竜王ワグドラーンの名において強く要請する。」
議長が、政治家たちが、外務省の高官たちが、愕然として言葉を失った。ミリシアルが最も欲する「本物のガイガンの生体残骸とデータ」を外交の武器として、未国交の日本が完全に主導権を握って接触してきたのだ。
アルネウスは、呆然自失となる政治家たちを冷ややかな目で見据えた後、ゆっくりと口を開いた。
「議長。直ちに日本国への先遣使節団の派遣についてご承認を・・・。国交締結交渉、ならびに先進11ヵ国会議への出席要望という当初の名目はそのままに、我々は一刻も早く日本国へ赴き、プロジェクトへの席を乞わねばなりません・・・。」
静まり返る評議会室で、議長は青ざめた顔で、ただ深く頷くしかなかった。後日、神聖ミリシアル帝国は、日本国への使節団派遣を決定。外交官に加え、情報局や軍務省、技術研究開発局など、様々な部署から集められた総勢30名にも及ぶ先遣使節団が派遣されることとなった。